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健康科学専攻(博士後期課程)の新着情報一覧

2022年の健康科学専攻(博士後期課程)の新着情報一覧

2022.08.12

生駒市の地域リハビリテーション活動支援事業に向けて卒業生が集結!~地域リハビリテーション研究室with TASK

奈良県生駒市は全国的にも介護予防の先進地として全国から視察が訪れるほど有名な自治体です。また国のモデル事業を通して、リハビリテーション専門職の積極的関わりによる効果を示したことでも知られています。 地域リハビリテーション研究室では約10年前から生駒市の地域リハビリテーション活動支援事業(住民主体の通いの場支援)に協力しています。Covid-19の影響により中断しておりましたが、今年度から状況をみながら再開することになりました。生駒市役所と連携を取りながら高取教授と松本准教授の指揮のもと、現役理学療法士チームで住民主体の通いの場90ヶ所を巡回します。     ▼会議に参加したメンバー(撮影時のみマスクを外しています) ※写真の○が私、仲村渠です   参加する理学療法士を募ったところ、研究室の院生を含む7期生から15期生の21名の畿央卒業生が集まりました。そのほとんどが健康支援学生チーム「TASK(Think, Action, Support for Health by Kio University)」のOB・OGたち。多くが急性期病院に務めており、普段は地域の介護予防事業に関わることが少ない現状ですが、学生時代から地域に出て学んできたことの経験と団結力が今回の集結に繋がったと思います。学生時代のTASKでの経験にプラスして理学療法士としての経験を踏まえて、地域のリハビリテーション活動支援事業に貢献していきます。会議に参加できなかったメンバーも多かったですが、連携がとりやすいのが畿央卒メンバーで構成された大きな強みだと感じています。   活動制限による人との繋がりの希薄化が地域在住高齢者の方々に与えた影響は非常に大きく、介護予防だけでなく生活の質を改善するために地域リハビリテーション研究室の役割も大きくなっています。同じく活動が思うようにできない現役TASKメンバーに先輩としての姿を見せられる良い機会になれば幸いです。     ▼TASK創立3年目の集合写真(今回の参加メンバーの学生時代です) ※写真内の○が私、仲村渠です     今回は事業の関係上で理学療法士のみの集まりとなりましたが、設立9年目となるTASKには現場で活躍している全ての学部・学科の卒業生がいます。創立3年目(私が4回生)の時は100人以上の全学科で構成された畿央で最も大きい学生団体でした。畿央生の健康診断以外にも、奈良県や大阪府の幼稚園児から高齢者までの幅広い方を対象に健康支援活動を行っており、それに向けた勉強会を毎月学生主体で実施していました。勿論、畿央大学には他学科で交流できる部活動は数多くあります。しかし、普段の学習を学生レベルで学部・学科を超えて共有し、実践で活かし、そこから新たに学ぶことはTASKの強みであったと改めて感じます。   もう少し今の状況が落ち着けば、卒業生と学生との交流もできればと思います!それぞれの特性を活かし、学部・学科を超えた活動や学びに興味がある方は是非TASKに入っていただきたいです。学生団体から始まった活動が地域の支援に繋がっている現状を踏まえ、今後の地域支援の為にも学生さんの参加を心からお願い致します。   淀川キリスト教病院 畿央大学大学院 地域リハビリテーション研究室 客員研究員 TASK初代代表 仲村渠 亮     【関連リンク】 地域リハビリテーション研究室 理学療法学科 大学院 健康科学研究科   【関連記事】 第64回日本老年医学会学術集会で教員が発表!~健康科学研究科 香芝市市政施行30周年記念事業の一環として本学教員監修の「フレイル予防体操」がリリースされました〜理学療法学科 第8回日本予防理学療法学会学術大会で大学院生と客員研究員が発表!~健康科学研究科 TASK(健康支援学生チーム)活動レポート 第2回「次世代リーダー育成セミナー」を開催!~理学療法学科 第1回「次世代リーダー育成セミナー」を開催!~理学療法学科

2022.08.04

歩行速度が遅いと「まるで人間ではないみたい」と感じてしまう~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中患者は、歩行中の自身のことを「まるでロボットみたい」「人間ではないみたい」と訴えることがあります。しかしながら、どのような要因がそのような経験をしているのかは明らかにされていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの 林田 一輝 客員研究員 と 森岡 周 教授らは、歩行速度が主観的な人間らしさと関係していることを明らかにしました。この研究成果はRehabilitation Process and Outcome誌(Association Between Self-Perceived General Human-Likeness During Walking and Walking Speed in Stroke Patients: A Preliminary Study)に掲載されています。 研究概要 多くの脳卒中患者において、社会生活で自立した生活を送るために、歩行能力の回復を優先していることがわかっており、特に歩行速度が日常生活に重要な要因となることが多くの先行研究で明らかとなっています。しかし、たとえ歩行を再獲得することができたとしても運動麻痺などの影響で、健常人と同じような速度で歩くことが難しいことも事実です。他方、脳卒中患者は、歩行中の自身について「まるでロボットみたい」「人間ではないみたい」といった悲観的な感情について頻繁に訴えることがあります。このような悲観的な感情は、身体に障害を患った自分自身と健康的な人たちとを比べてしまうことで湧き上がってしまうと考えられ、他者との交流が必須である社会参加を妨げてしまう可能性があります。しかしながら、どのような要因が脳卒中患者の歩行中の「人間らしさ」に関わっているのか、これまでの研究では全く検討がなされていませんでした。 そこで、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの 林田 一輝 客員研究員ら の研究チームは、歩行中の主観的人間らしさには、歩行速度が関連すると仮説を立て、脳卒中患者を対象とした横断調査を行いました。その結果、脳卒中患者の歩行中の主観的人間らしさと歩行速度に正の相関関係があることを示しました。 本研究のポイント ・脳卒中患者の歩行中の人間らしさの主観的側面を評価した。 ・主観的な人間らしさは速く歩く能力が高い人ほど感じられる。 研究内容 32名の脳卒中患者を対象にして、10m歩行テストを快適歩行速度と最大歩行速度の2条件で測定し、歩行直後に人間らしさについて、7段階のリッカート尺度にて評価しました。臨床的評価では、運動麻痺の指標であるFugl-Meyer assessment、自身に対する主観に影響しうる抑うつSelf-Rating Depression ScaleとアパシーApathy Scaleについて評価しました。 その結果、快適歩行速度および最大歩行速度において、主観的な人間らしさとそれぞれ正の相関関係があることが示されました(図1)。つまり、歩行速度が遅い程、人間らしさを感じにくい傾向があることが示されました。一方で、抑うつやアパシーといった心理バッテリーと人間らしさには相関関係を認めませんでした。先行研究での報告では、健康な高齢者の快適歩行速度と最大歩行速度の差は約0.45m/sですが、本研究で確認された脳卒中患者の快適歩行速度と最大歩行速度の差は0.23m/sでした。このように、快適歩行速度と最大歩行速度との幅が狭いことは、歩行速度を自由に選択できないことを示しており、今回の対象者は人間らしい歩行に対する主観的な認識を低下させている可能性が示唆されます。 上田ら(2003)は、ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health, 国際生活機能分類)の観点において患者の主観的体験を理解することの重要性が強調されている。本研究では、歩行時の人間らしさに対する認識が、ICFにおける活動制限の主観的側面と関連する可能性を示唆しています。歩行時のネガティブな主観的体験による参加制限の可能性を理解することは、患者の地域活動への参加を促す上で有用な情報となり得る、と主張されています。 図1:歩行中の人間らしさと歩行速度との関係 脳卒中患者における歩行中の人間らしさと歩行速度に正の相関関係があることを示す。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、歩行中の人間らしさについて調査した初めての研究です。このような主観的側面は、社会参加を妨げる一つの要因となる可能性があり、今後は、このような主観的側面と社会参加との関連性について研究される予定です。 論文情報 Kazuki Hayashida, Ryota Nakazono, Nami Yamamichi, Masa Narita, Koichiro Onishi and Shu Morioka Association Between Self-Perceived General Human-Likeness During Walking and Walking Speed in Stroke Patients: A Preliminary Study Rehabilitation Process and Outcome, 2022 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 林田一輝 センター長 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 Mail: s.morioka@kio.ac.jp

2022.07.29

大学病院で働くということ~理学療法学科 第2回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」を開催

最前線で活躍する卒業生が隔月で講演! 第2回テーマは「大学病院」「小児リハ」 理学療法学科では今年度から新たに「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」を開催しています。 リーダーシップをもった次世代の理学療法士育成を目的にし、臨床現場はもちろん、スポーツ現場や地域リハ、教育機関など幅広い分野の第一線で活躍する卒業生がその魅力や想いを後輩のためだけに語ります。在学生にとっては入学後早期から職業理解を深め、自らのキャリアを考えることやモチベーション向上へとつなげる絶好の機会になります。 他大学に先駆けて理学療法学科を開設した畿央大学にしかできない先進的な取り組みです。 第1回の徳田‎光紀さん(1期生/平成記念病院リハビリテーション科主任)に続いての登場は、4期生で滋賀医科大学医学部附属病院で理学療法部門主任を務める飛田良さん。 テーマはズバリ、「大学病院の理学療法士とは?」です。飛田さんは入職後5年間は主に心臓リハビリテーションを中心とした内部障害理学療法に携わり、その後「病院初の小児科専属セラピスト」となりました。現在は主に小児がん、新生児を中心に日々診療に当たっています。     大学病院で働く理学療法士は全体の2%に過ぎないことや、特殊な雇用形態を含む大学病院勤務のメリット・デメリット、常勤をめざす場合の意識すべきポイントやアドバイスなどを、ご自身の体験をふまえて惜しみなく披露していただきました。 大学病院を進路として視野に入れている在学生には、大変貴重な情報収集の機会になったのではないでしょうか?     また小児がん患者に対するリハビリテーションの現状についても詳しくご紹介いただきました。 1万人に1人の確率で発症し、5年生存率は一部病型では9割に迫るものの、小児の死因第1位であること、半年以上の入院を強いられることから発生する体力低下や心理社会的なストレスの対応、リハの必要性がまだ十分に認知されていないことなど、厳しい現実も垣間見ながら、チーム医療の中で理学療法士だからできることをご提示いただきました。       飛田さんから後輩の皆さんへのメッセージ ▼大学案内2014に登場した際の飛田さん   この度は、第2回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」に講師としてお招きをいただき、誠にありがとうございました。また、テスト期間中の忙しい時期にも関わらず、多数の在学生にお集まりいただいたことを重ねてお礼申し上げます。   今回は、「大学病院の理学療法士とは?」をテーマに、冒頭部分は超高齢化社会に置かれた日本の現状や未来予測の観点から、厚生労働省や理学療法士協会が「今、何に着目しているのか?」、「何が問題となっており、どんな対策を講じようとしているのか?」を紹介しました。高齢化が進む=リハビリの需要が高まるといった安易な考えは適切ではなく、今後ますます理学療法士数の需要と供給のバランスが崩れる可能性があります。在学されている内から、みなさんそれぞれが卒業された後に、”いかに理学療法士としてのアイデンティティを形成できるか?”について考えるいい機会になっていれば幸いです。   大学病院は、地域の中核施設として、教科書に載っていないような難病や障害、それに対するさまざまな治療を受けた患者さんが多く入院されています。また、大学病院の責務として、臨床・教育・研究の三本柱があり、目の前におられる患者さんの診療活動だけでなく、院内外への教育活動や臨床研究にも取り組まなければなりません。それには、それ相応の自己管理能力や覚悟が必要となります。卒業して10数年が経ちますが、「今だから言えること」、「今のうちからできること」を自身の大学時代を振り返りながら在学生に向けてアドバイスをさせていただきました。   理学療法士は、患者さんが直面するさまざまな困難に立ち向かう“チカラ”を与える存在だと思います。治療の過程で、喜びや悲しみを分かち合い、ともに目標に向かって歩んでいく存在であり、医療者の中で最も患者さんに近い存在だと私は思います。医療者には老若男女問わず、さまざまな立場や価値観をもつ患者さんに対し平等に接する必要があります。 今はコロナ禍で人と人との関わりが制限されていますが、ぜひみなさんも在学中から自分とは異なる立場や価値観をもつ方たちとたくさん接してください。そして、自分と関わってくれているすべての方々に感謝の気持ちを持ってください。そういった小さな積み重ねが、みなさんの後の人生にきっと役に立つはずです。 最後に、当院における”小児がん”の理学療法について紹介しました。小児がんの治療成績は、医療全体からみてもサクセスストーリーの一つとして取り上げられるほどに劇的な改善を得ていますが、その一方で治療入院期間は半年以上にわたり、その間で体力の低下だけでなく、心理社会的なストレスから、自己肯定感が低下するとされています。トータルケアの一環として、よりよいケアやQOLの向上に向けた関わりが求められています。 小児がんに限らず、今や理学療法士の職域は医療だけでなく、予防や健康増進の分野にも波及しており、みなさんも卒業後はそれぞれの分野で理学療法士との専門性を活かし、次世代のリーダーとして活躍されることを期待しています。   ▼庄本学科長と同じく卒業生でもある瀧口先生と       次回は9月16日(金)、尾川達也さん(3期生/西大和リハビリテーション病院勤務)を講師に迎え「チーム医療と理学療法士」をテーマに講演いただきます。在学生しか聞けない内容を盛りだくさんでお届けしますので、ぜひご参加ください!       【関連リンク】 理学療法学科 大学院健康科学研究科 第1回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」を開催!~理学療法学科 理学療法学科初の卒業生教員!瀧口先生ってどんな人?Part1~「学生時代」編 理学療法学科初の卒業生教員!瀧口先生ってどんな人?Part2~「臨床現場・大学院」編 理学療法学科初の卒業生教員!瀧口先生ってどんな人?Part3~「教員」編    

2022.07.10

地域在住障害高齢者におけるバディスタイル介入が身体活動に与える効果:ランダム化比較試験の24週間追跡調査~健康科学研究科

障害のある高齢者でも身体活動には多くの利点があるにも関わらず、身体活動レベルの持続的な改善は報告されていません。そのため、身体活動を継続できるような取り組みが必要となります。   モニタリングやフィードバック、ソーシャルサポート等の行動変容介入は身体活動レベルの改善に有効である可能性があるとされています。また、これらの行動変容技法が含まれる取り組みとしてバディスタイル(二人一組でペアを組む)を用いる方法の有効性も報告されています。しかし、先行研究で報告されているバディスタイル介入は医療専門職の直接的な介入やバディになるボランティアの育成が必要でした。   そこで地域リハビリテーション研究室では、障害高齢者同士のバディスタイル介入が在宅運動プログラムの実施頻度を向上させるかどうかを検証し、その有効性を報告しました(https://doi.org/10.1177/02692155211041104)。しかし、運動の実施時間や介入終了後の持続効果については明らかになっていませんでした。   そこで畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 武田広道 氏と高取克彦 教授 らは、障害高齢者同士のバディスタイル介入研究の追跡調査として、運動の実施時間と介入終了後の持続効果について明らかにすることを目的に本研究を行いました。 この研究成果はClinical Rehabilitation に掲載されています。 研究概要 通所介護事業所を利用している障害高齢者65名に12週間の在宅運動プログラムを実施してもらいました。その際、無作為にバディスタイル介入群と対照群に分けて実施し、バディスタイル介入を追加することで在宅運動の実施時間が向上するかとその効果が持続するかどうかを分析しました。 本研究のポイント 障害高齢者同士のバディスタイル介入は12週間の在宅運動プログラムにおける運動実施時間が向上し、介入終了12週間後まで効果が持続することが分かりました。 研究内容 データ解析の結果、バディスタイル介入群は対照群と比較して12週間後の屋外歩行時間が増加し、その効果は介入後12週間経過した時点でも持続していました。   本研究の意義および今後の展開 今回の研究はバディスタイル介入が身体活動に与える持続効果を検討したものです。障害高齢者同士でバディを組み12週間の在宅運動プログラムを実施することで、介入終了後も効果が持続することを示唆しました。今後も地域高齢者の健康に資する研究をしていきたいと思います。 論文情報 Hiromichi Takeda, Katsuhiko Takatori https://doi.org/10.1177/02692155221111924 Clinical Rehabilitation, 2022. 地域リハビリテーション研究室HP: https://kio-community-rehab.studio.site/

2022.06.21

脳卒中後運動障害は予測誤差と運動主体感の関係性を変容させる~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

「自分が自分の運動を制御している」という感覚である運動主体感は、運動の感覚フィードバックとその内的な予測の比較照合から得られる予測誤差に基づくことが報告されています。畿央大学大学院博士後期課程 修了生の宮脇裕氏(現・国立研究開発法人産業技術総合研究所人間拡張研究センター)と森岡周教授は、仁寿会石川病院リハビリテーション部の大谷武史室長と共同し、2名の脳卒中患者を対象に、脳卒中後の運動障害が予測誤差と運動主体感の関係性に及ぼす影響を検証しました。この研究成果は、Journal of Clinical Medicine誌(Impaired Relationship between Sense of Agency and Prediction Error Due to Post-Stroke Sensorimotor Deficits)に掲載されています。 研究概要 自己由来感覚と外界由来感覚を区別することは自他帰属と呼ばれ、感覚結果を自己帰属したときに「自分が自分の運動を制御している」という運動主体感が生じます。運動主体感は、運動の感覚フィードバックとその内的な予測の比較照合から得られる予測誤差に基づき、この誤差が小さい場合に生じることが報告されています。しかし、脳卒中後患者では、感覚運動障害を通した比較照合システムの破綻により、予測誤差と運動主体感の関係性が変容している可能性が提唱されています。 この可能性を精査するために、宮脇裕氏と森岡周教授は、大谷武史室長(仁寿会石川病院リハビリテーション部)と共同し、2名の脳卒中後患者および3名の健常成人を対象に、脳卒中後運動障害が予測誤差と運動主体感の相関関係に及ぼす影響を予備的に検証しました。その結果、運動障害がごく軽度の患者や健常者に比べて、強い運動障害を有する患者では、自他帰属のエラーが大きく、自他帰属と予測誤差間の相関が低いことが示されました。 本研究のポイント ■運動障害が軽度の患者に比べ、より強い運動障害を有する患者では、自他帰属に大きなエラーを認めた。 ■この患者では自他帰属に対する予測誤差の許容範囲が拡大しており、脳卒中後運動障害が自他帰属と予測誤差の関係性を変容させることが示唆された。 研究内容 中等度の運動障害を有する患者Aと運動障害がごく軽度の患者B、および3名の健常成人が実験に参加しました。本研究では、運動障害の影響を検証するために、高次脳機能障害を招きうる皮質損傷を有さない患者を対象としました(図1)。麻痺肢の運動機能については、上肢の脳卒中後運動障害の包括的評価法であるFugl-Meyer Assessment of upper extremityやAction Research Arm Testなどを用いて評価しました。   図1:患者A・Bの脳損傷部位   参加者は、モニタ上に表示されたターゲットラインをなぞるようにペンタブレット上で正弦曲線運動を遂行しました(図2)。この際、視覚フィードバックとしてカーソルが表示されました。カーソルの動きに、自分のリアルタイムの運動が反映されている場合(SELF条件)と、事前に記録した運動が反映されている場合(FAKE条件)がありました。参加者は、自分の実際のペン運動とカーソル運動の時空間的な一致性に基づいて、カーソルを自分が制御していると感じるかを「1(他者)~9(自己)」のスケールで主観的に判断することを求められました。この課題中に、参加者のペン位置とカーソル位置間の距離を予測誤差の指標として測定し、自他判断スコアとの相関係数を算出しました。   図2:実験セットアップ   結果として、患者Bや健常者に比べて患者Aでは、FAKE条件において自他判断のエラー(誤帰属)が大きく(図3)、予測誤差の指標であるペン-カーソル間距離と自他判断スコアの相関係数が低いことが示されました(図4)。一方で、SELF条件では、参加者間で自他判断のエラーに著明な差を認めませんでした。   図3:SELF条件とFAKE条件における誤帰属   図4:FAKE条件におけるペン-カーソル間距離(予測誤差)と自他判断スコアの相関関係   本研究の臨床的意義および今後の展開 これらの結果は、運動障害を有する患者では自他帰属に対する予測誤差の許容範囲が拡大している可能性を示し、脳卒中後運動障害が予測誤差と運動主体感の関係性を変容させることを示唆しています。さらなる研究により、運動障害を有する患者がどのように自他帰属をなしているのか、またその変容が身体機能などにどのような影響を及ぼすのかを明らかにする必要があると考えられます。 論文情報 Miyawaki Y, Otani T, Morioka S Impaired Relationship between Sense of Agency and Prediction Error Due to Post-Stroke Sensorimotor Deficits. Journal of Clinical Medicine, 2022 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 宮脇 裕 センター長 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 Mail: s.morioka@kio.ac.jp

2022.06.16

第26回日本ペインリハビリテーション学会学術大会で客員研究員が奨励賞を受賞!~健康科学研究科

2022年6月11日~12日に開催されました第26回日本ペインリハビリテーション学会学術大会(神戸)で、森岡周教授、大住倫弘准教授、客員研究員および大学院生が講演・発表して参りました。       本学術大会では、理学療法士、作業療法士といったリハビリテーション職種を中心に、医師、看護師、臨床心理士など多職種が一同に会して様々なトピックスの講演・演題発表があり、多くの意見交換がなされ、痛みには多職種の連携が重要であり、まさに本学会テーマである「疼痛医療の未来を拓く~Interprofessional workのさらなる展開~」を体現した学会内容であったと感じました。   特に、痛み以外にも関連する慢性炎症やフレイルといった様々な病態のメカニズムを理解しつつ、病態メカニズムに基づいた臨床マネジメントをどのように行うべきかといった、現状で明らかにされていることと今後明らかにする必要があることを議論して、どのように現場での対象者の方に還元していく必要があるのかあらためて考えさせられた学術大会でした。         今回の学術大会では、森岡周教授が学会前日のリフレッシャーコースで「慢性疼痛に対する神経リハビリテーション」、大住准教授がミニレクチャー「痛みのニューロリハビリテーション-適応と禁忌―」、共済シンポジウム 疼痛治療up to date「運動療法最前線」、平川善之客員准教授がリフレッシャーコース「ペインリハビリテーションにおける患者教育」、私(重藤隼人:客員研究員)がミニレクチャー「痛みの徒手療法」の講演を行いました。   また客員研究員および大学院生から多くの一般演題発表が行われ、私の一般演題「Neglect-like symptomsは 慢性腰痛患者の特異的運動制御に関連する -ランダムフォレスト後の一般化線形モデル分析-」が奨励賞に選出されました。   本学会には、森岡周教授が大会長を務めた第19回日本ペインリハビリテーション学会学術大会 から参加させていただき、学会後には森岡周教授の研究室を見学させていただきました。私の大学院生活および今日に至るまでの研究が始まり、思い入れがある学会で奨励賞を受賞できたことを嬉しく思います。   最後になりましたが、このような貴重な機会をいただき、いつもご指導をいただいています森岡周教授、畿央大学に感謝申し上げます。     畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 京都橘大学 健康科学部理学療法学科 重藤隼人   【関連記事】 第25回日本ペインリハビリテーション学会学術大会でダブル受賞!!~健康科学研究科 第24回日本ペインリハビリテーション学会学術大会で院生6名が発表!~健康科学研究科 第21回日本ペインリハビリテーション学会学術大会で大学院生が優秀賞に選出!      

2022.06.08

第64回日本老年医学会学術集会で教員が発表!~健康科学研究科

2022年6月2日(木)~4日(土)にかけて第64回日本老年医学会学術集会が大阪国際会議場にて対面とwebのハイブリッド形式で開催されました。一般演題は一部リモートも取り入れながらも基本的には対面で実施されました。     私(高取)は今回、一般演題口述演題で「後期高齢者におけるフレイルステージ変化に及ぼす社会・心理的要因-4年間の前向きコホート研究-」というタイトルで発表させて頂きました。     2年以上ぶりの対面発表で少し緊張しましたが、フロアーからの質問も多く頂き、活発なディスカッションができました。また思いがけず、セッションでの優秀演題に選んで頂くという嬉しい出来事もありました(QUOカードを賞品として頂きました)。     ▼一緒に参加した松本准教授と博士後期課程の武田氏と記念撮影     発表させて頂いた研究は奈良県生駒市での後期高齢者コホートを2016年から追跡調査しているもので、現在も継続中の大規模調査研究です。今回は、現在トピックになっている高齢者の虚弱状態「フレイル」の悪化や改善に係る要因を分析したもので、健常(ロバスト)からフレイルの悪化要因には地域での地縁活動(自治会,老人会など)の減少が関連しており、フレイルからの改善には体操など運動系社会参加の増加や自身の健康感の改善が重要であることを示した内容になっています。         一昨年、同学会で発表させて頂いたときは完全リモートだったこともあり、充実感が少なかったですが、今回は様々なセッションに参加し、質問も積極的に行いつつ、空き時間にはポスター演題を見て周るなど、充実した学会参加ができました。やはり学会は対面が良いと改めて平時の良さを感じました。         本学会は「幸福長寿実現のための老年医学」というテーマで開催されました。フレイル、サルコペニアといったテーマを扱った研究が多い中で、今回はCOVID-19の流行が高齢者の心理機能や社会活動に与えた影響などを題材にしているものも多く、健康状態に対する非対面交流と対面交流の有効性の比較、オンライン運動介入、オンライン認知機能評価などコロナ禍の時代を反映する発表が目を引いていました。個人的には幸福感(well-being)に関する研究、レジリエンス、高齢者の就業と介護予防、社会的孤立と疾患との関係性などは自身でも分析していきたいテーマでもあり非常に興味深い内容でした。     老年医学会は老年内科医をはじめとしてリハビリテーション専門職、栄養士、看護師など多職種の方々が参加されているため、様々な視点から意見交換がなされます。これからも新たな知見に触れ、地域貢献活動にも活かせるようにしていきたいと思います。     理学療法学科 高取克彦 地域リハビリテーション研究室ホームページ       【関連記事】 第63回日本老年医学会学術集会で大学院生と教員が発表! 第62回日本老年医学会学術集会で大学院生と教員2名が発表! 第4回日本産業理学療法研究会学術大会で大学院生が優秀賞を受賞! 第8回日本予防理学療法学会学術大会で大学院生と客員研究員が発表! 香芝市市政施行30周年記念事業の一環として本学教員監修の「フレイル予防体操」がリリースされました  

2022.06.03

第1回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」を開催!~理学療法学科

理学療法士のリーダーになるために! 最前線で活躍する卒業生が隔月で講演   理学療法学科では今年度から新たに「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」を開催しています。 リーダーシップをもった次世代の理学療法士育成を目的にし、臨床現場はもちろん、スポーツ現場や地域リハ、教育機関など幅広い分野の第一線で活躍する卒業生がその魅力や想いを後輩のためだけに語ります。在学生にとっては入学後早期から職業理解を深め、自らのキャリアを考えることやモチベーション向上へとつなげる絶好の機会になります。他大学に先駆けて理学療法学科を開設した畿央大学にしかできない先進的な取り組みです。   記念すべき第1回は、理学療法学科1期生で大学院健康科学研究科博士後期課程修了生でもある徳田‎光紀さん(平成記念病院リハビリテーション科主任)を講師に迎えて、「理学療法士の光と影」というタイトルでご講演いただきました。         長期の臨床実習に出ている4回生を除く、188名が冬木記念ホールに集結。なんと1~3回生の約8割が参加するほどの高い関心が寄せられました。講演は理学療法士の魅力はもちろん、給与や昇給、人生設計、選挙、キャリアパス、社会人基礎力、自分の身を置く環境や習慣化の大切さなど、多岐にわたりました。在学生にとっては予想外なものや、刺激が強い内容も多くあったのではないでしょうか? データも交えながら理路整然と、押し付けるでもなくやさしく話しかける徳田さんの話を真剣に聴講している姿が印象的でした。             最後の質疑応答では、「大学院に行くメリットは何ですか?」「やり直せるとしたら、もう一度理学療法士になりたいですか?」など、なかなか普段では聞けないような同窓生ならではの質問を3回生が積極的に投げかけていました。そういう積極性もまさにリーダーシップにつながり、それを見た後輩たちにも良い勉強になったのではないでしょうか?講演終了後に、個別に質問に駆けつける1回生の姿も見られました。   またセミナー後の学生アンケートでは、理学療法士国家試験の取得にとどまらず、「なんらかの武器を持たなくてはいけない」という感想が多く見られました。特に、 ・高いコミュニケーション能力 ・他人への思いやり ・高い専門性 ・英語力 ・チームワーク力 といったキーワードが多く出ていました。           徳田さんから後輩の皆さんへのメッセージ この度は記念すべき第一回の講師として登壇させていただき、誠にありがとうございました。 理学療法士の光として、コメディカルの中で実質的に「治療介入ができる」のは理学療法士(セラピスト)だけであり、そこにやりがいや醍醐味が詰まっていることと、幅広いフィールドで活躍の場があり選択肢は無限大であることを中心にお伝えしました。一方で、理学療法士の影として、理学療法士の需給は飽和状態で、平均給与だけを見ると医療職の中では高い方ではないという側面をお伝えしました。   今後「人生100年時代」を生き抜くためには、スキルアップやキャリアアップが必須です。また医療人である前に、まずは社会人としてのスキルが非常に重要です。今の学生生活も含めて、自分だけの枠組みに捉われずに、幅広い交流を持つことや、苦手な分野にも向き合うように心がけてください。また、理学療法士として自分だけの刀を研ぎ澄まし、必要とされる人材になれるように、日々の環境や習慣を大事にしてもらいたいと思います。   理学療法業界の中でも学力的に上位に位置する畿央大学に入学できた皆さんは、すでに「頑張り方」を知っているはずです。今まで通りに「頑張る」を習慣化して、その積み重ねがあれば着実に成長できるでしょう。私は卒業してから、畿央大学の先生方が各分野のスペシャリストの中でもそれぞれがトップランナーであることに気づきました。今となっては、私が学生の皆さんの代わりに講義を受けたいくらいです(笑)畿央大学の学生であるという特権を活かして、日々の講義や先生方との交流も大切にしてください。   理学療法士は楽しいです。しんどいことでも楽しいから頑張れます。しんどいことでも苦と思わず頑張れる職業を「天職」といいます。皆さんが理学療法士を天職と思えるようになることを、心から願っています。     ▼学部でも大学院でもお世話になった恩師・庄本学科長と       次回は7月22日(金)、小児リハビリテーションを専門とする飛田良さん(2期生/滋賀医科大学医学部附属病院リハビリテーション部主任)に来学いただく予定です。次回も在学生限定ですので、ご期待ください!         【関連リンク】 理学療法学科 大学院健康科学研究科 理学療法学科初の卒業生教員!瀧口先生ってどんな人?Part1~「学生時代」編 理学療法学科初の卒業生教員!瀧口先生ってどんな人?Part2~「臨床現場・大学院」編 理学療法学科初の卒業生教員!瀧口先生ってどんな人?Part3~「教員」編    

2022.05.30

慢性腰痛患者の筋活動分布には痛みの性質と疼痛部位が影響する~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

痛みは筋活動を変化させますが、慢性腰痛患者では屈曲位から体幹を伸展させる(おじぎをした状態から体を起こす)時に、痛みにより腰の筋肉の活動が増強もしくは減弱することが報告されています。しかしながら、痛みの強さと部位が筋活動にどのように影響するかは明らかにされていませんでした。 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター客員研究員 重藤 隼人らは、慢性腰痛症例を対象に、痛みの性質に着目して痛みの強さ・部位と筋活動分布の関連性を調査し、痛み強度が増すにつれて、痛みを感じている部位周囲の筋活動を抑制する運動適応が痛みの性質に依存することを明らかにしました。 この研究成果は、Pain Research and Management誌 (The pain intensity/quality and pain site associate with muscle activity and muscle activity distribution in patients with chronic low back pain: Using a generalized linear mixed model analysis)に掲載されています。 研究概要 慢性腰痛患者の筋活動の特徴として、立位で体幹を屈曲した時に、屈曲位から体幹を伸展させる時に背筋群の筋活動が増強もしくは減弱することが報告されています。また、痛みによって筋活動分布を変化させることも報告されています。しかし、疼痛強度と部位が筋活動にどのように影響するかは明らかにされておらず、そして疼痛の性質による筋活動への影響も検証されておらず、疼痛強度・部位および疼痛の性質と筋活動分布の関連性は明らかにされていませんでした。 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター客員研究員の重藤隼人らの研究チームは、疼痛の性質・強度・部位と筋活動分布の評価を行い、一般化線形混合モデル分析を用いて、疼痛の性質に着目して疼痛強度と部位がどのように筋活動分布に影響するかといった関連性を検証しました。 その結果、神経障害性疼痛の強度が増すと体幹屈曲位から伸展する時の背筋群の筋活動は抑制されることが明らかになりました。また、持続痛・間欠痛・神経障害性疼痛・感情表現に該当する疼痛の性質に依存して疼痛強度が増すにつれて、疼痛部位周囲の筋活動を抑制する運動適応が存在することを明らかにしました。 本研究のポイント ■ 疼痛の性質に着目して、疼痛強度・部位と筋活動分布の関係を調査した。 ■ 神経障害性疼痛の強度が増すと、屈曲位から伸展する時の背筋群の筋活動が抑制されることが明らかにされた。 ■ 疼痛強度が増すにつれて、疼痛部位周囲の筋活動を抑制する運動適応が痛みの性質に依存することが明らかにされた。 研究内容 慢性腰痛患者を対象に、疼痛部位・性質の評価と筋活動の評価を行いました。痛みの性質はSFMPQ-2を用いて評価しました。筋活動は表面筋電図を用いて、立位体前屈課題時(図1)の脊柱起立筋の筋活動を測定し、主動作筋の筋活動として体幹屈曲位から伸展させる時の筋活動と筋活動分布の重心を算出しました。また、疼痛部位と筋活動分布の重心との間の距離を算出しました。   図1.立位体前屈課題 © 2022 Hayato Shigetoh   一般化線形混合モデル分析という解析方法を用いて、疼痛強度・性質、疼痛部位および筋活動の関係を検証しました。筋活動に対する疼痛強度・性質の影響を検証した結果、「神経障害性疼痛」・「軽く触れるだけで生じる痛み」の疼痛強度が増すと背筋群の筋活動が抑制される関係が認められました。疼痛部位と筋活動分布の重心との間の距離に対する疼痛強度・性質の影響を検証した結果、「間欠痛」・「ずきんずきんする痛み」・「割れるような痛み」・「拷問のように苦しい」・「軽く触れるだけで生じる痛み」の疼痛強度が増すと距離が増大する関係が認められました。筋活動分布の重心は筋活動が高い部位を示していることから、疼痛強度が増大すると疼痛部位に近い部位の筋活動が抑制される反応が、疼痛性質に依存しているということを示しています(図2)。   図2.疼痛強度・部位と筋活動の相互作用を説明したモデル © 2022 Hayato Shigetoh   特定の疼痛性質の強度が増大すると、主動作筋の筋活動が抑制された。疼痛部位と筋活動分布の関係性に着目すると、特定の疼痛性質の強度が増大することによって疼痛部位近くの主動作筋の筋活動が抑制された。 研究グループは、この結果について、疼痛による主動作筋の筋活動の抑制を示す疼痛適応モデル(pain adaptation model)のメカニズムが反映された結果であり、疼痛性質に依存した筋活動の変化は、腰痛関連組織に由来した疼痛性質が筋活動に影響した結果であると考察しています。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、疼痛の性質によって疼痛強度・部位による筋活動分布の変化が異なることが示され、痛みの性質に着目して痛みと運動制御の関連性を捉える重要性が示されました。今後は慢性腰痛患者の運動制御のメカニズムについて研究される予定です。 論文情報 Shigetoh H, Nishi Y, Osumi M, Morioka S The pain intensity/quality and pain site associate with muscle activity and muscle activity distribution in patients with chronic low back pain: Using a generalized linear mixed model analysis Pain Research and Management, 2022 関連する先行研究 1. Shigetoh H, Nishi Y, Osumi M, Morioka S. Combined abnormal muscle activity and pain-related factors affect disability in patients with chronic low back pain: An association rule analysis. PLoS One. 2020 Dec 17;15(12):e0244111. 2. Shigetoh H, Nishi Y, Osumi M, Morioka S. Temporal associations between pain-related factors and abnormal muscle activities in a patient with chronic low back pain: A cross-Lag correlation analysis of a single case. J Pain Res. 2020 Dec 3;13:3247-3256. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 重藤 隼人 センター長 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 Mail: s.morioka@kio.ac.jp

2022.05.16

手先の不器用な子供は物体把持における空間的安定性が低下している~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

発達性協調運動障害(DCD)は「運動の不器用さ」を特徴とし、字を書くことやボールを使うスポーツ等、協調的な把持制御が要求される日常生活動作に障害をきたします。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター客員研究員の西祐樹らは、手先が不器用な子どもは、物体を持ち上げ、保持する際に把持位置のずれや物体の傾き、指の滑り・転がりといった空間的安定性が低下することを明らかにしました。この研究成果はBrain Sciences誌の特集号(New Insights in Developmental Coordination Disorder (DCD))Spatial Instability during Precision Grip–Lift in Children with Poor Manual Dexterityに掲載されています。 研究概要 発達性協調運動障害(DCD)は「運動の不器用さ」を特徴とし、字を書くことやボールを使うスポーツ等、協調的な把持制御が要求される日常生活動作に障害をきたします。このような把持制御障害は思春期から成人期まで続くため、臨床的問題となっています。一般的に物体を持ち上げ保持する場合、物体の傾きを最小限にするために、物体の中心近くを把持し、物体が滑らないように十分な把持力を発揮する必要があります。また、物体の重さによって把持力を調整する必要があります。このような複雑な把持制御は内部モデルにおける感覚―運動統合が基盤となっています。DCDでは内部モデルが障害されていることが知られており、物体把持における把持力の変動が大きくなることが報告されています。しかしながら、把持制御の重要な構成要素である空間的安定性については明らかになっていませんでした。 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 西 祐樹ら の研究チームは、手先が器用あるいは不器用な子どもにおける物体を持ち上げ、保持する際の把持制御を調査しました。その結果、手先が不器用な子どもは、把持位置のずれや物体の傾き、指の滑り・転がりといった空間的安定性が低下していることが明らかになりました。 加えて、不器用な子どもは物体の重さの違いによって、柔軟に把持力を調整していましたが、空間的安定性は適応できないことも明らかになりました。 本研究のポイント ■ 手先が器用あるいは不器用な子どもを対象に物体把持課題における空間的安定性を評価した。 ■ 手先が不器用な子どもは把持位置のずれや物体の傾き、指の滑りといった空間的安定性が低下していた。 ■ 手先が不器用な子どもは重量の違いによっても空間的安定性は変化した。 研究内容 6-12歳の子どもたちは、M-ABC2のよって手先が器用・不器用な群に分けられ、物体(不透明の箱を取り付けた特注の6分力フォースプレート)を持ち上げ、保持する課題を行いました(図1)。箱の中に重錘を入れることができ、重量条件(計800g)および軽量条件(計300g)をそれぞれ10試行行いました。計測されたデータから、平均把持力、変動性、圧中心(COP)の軌跡(指の滑り、転がりを反映)、把持位置、物体の傾きを算出しました。   図1.本研究における計測データ (A)計測機器.(B)物体把持課題中の把持力、負荷力、物体の傾きの経時的データ。(C)物体把持課題中のCOPデータ     その結果、手先が不器用な子どもは把持力の変動性に加え、把持位置のずれや物体の傾き、指の滑り・転がりといった空間的安定性が低下しました。 また、不器用な子どもは物体の重さの違いによって、柔軟に把持力を調整していましたが、軽量条件ではCOPの軌跡が延長しました。また、平均把持力とCOPの軌跡は有意な負の相関関係を、物体の傾きと把持位置は有意な負の相関関係を示しました。内部モデルにおいて運動予測(握力など)と実際の感覚フィードバック(重さ、摩擦、トルクなどの触覚情報、物体の滑りや転がりなどの視覚情報)の不一致により誤差信号が発生し、把持制御をリアルタイムで修正しています。一方、手先が不器用な子どもは内部モデルにおけるフィードバック情報と運動指令の統合が損なわれており、触覚情報を効果的に運動に利用する能力が低下していることが知られています。したがって、本研究の結果において、手先が不器用な子どもは感覚―運動統合の欠損によるオンライン運動制御の障害によって、空間的安定性が低下している可能性があります。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、手先の不器用さに関して、空間的不安定性の観点から明らかにした点で臨床的意義があります。今後は、触覚の感度が向上し感覚―運動統合を改善させる介入研究を行う予定です。 論文情報 Nishi Y, Nobusako S, Tsujimoto T, Sakai A, Nakai A, Morioka S Spatial Instability during Precision Grip–Lift in Children with Poor Manual Dexterity Brain Sciences 2022 関連する先行研究 1. Nobusako, S.; Sakai, A.; Tsujimoto, T.; Shuto, T.; Nishi, Y.; Asano, D.; Furukawa, E.; Zama, T.; Osumi, M.; Shimada, S.; et al. Deficits in visuo-motor temporal integration impacts manual dexterity in probable developmental coordination disorder. Front. Neurol. 2018, 9, 114. 2. Nobusako, S.; Sakai, A.; Tsujimoto, T.; Shuto, T.; Nishi, Y.; Asano, D.; Furukawa, E.; Zama, T.; Osumi, M.; Shimada, S.; et al. Manual Dexterity is a strong predictor of visuo-motor temporal integration in children. Front. Psychol. 2018, 9, 948. 3. Nobusako, S.; Osumi, M.; Matsuo, A.; Furukawa, E.; Maeda, T.; Shimada, S.; Nakai, A.; Morioka, S. Subthreshold vibrotactile noise stimulation immediately improves manual dexterity in a child with developmental coordination disorder: A single-case study. Front. Neurol. 2019, 10, 717. 4. Nobusako, S.; Osumi, M.; Matsuo, A.; Furukawa, E.; Maeda, T.; Shimada, S.; Nakai, A.; Morioka, S. Influence of Stochastic Resonance on Manual Dexterity in Children with Developmental Coordination Disorder: A Double-Blind Interventional Study. Front. Neurol. 2021, 12, 626608. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 西 祐樹 畿央大学大学院健康科学研究科 准教授 信迫 悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp