理学療法学科の新着情報一覧
2019.01.10
感覚運動の空間的不一致による異常知覚と運動制御に関わる神経活動~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
脳卒中や慢性疼痛患者における身体性変容の要因の1つとして、感覚情報の予測と実際に入力される感覚情報との間の不一致(感覚運動の時間的および空間的不一致)が考えられています。健常者においても、感覚運動の“時間的”不一致を生じさせると、四肢の重さの知覚変容、しびれ、奇妙さや嫌悪感の惹起に加えて、運動の正確性も低下することが明らかにされています(Katayama and Morioka et al 2018)。しかしながら、感覚運動の“空間的”不一致による異常知覚と運動制御に関わる神経活動は明らかになっていませんでした。 畿央大学大学院博士後期課程の片山脩氏と森岡周教授らは、健常者を対象に感覚運動の空間的不一致課題を実施し、感覚運動の空間的不一致による異常知覚と運動制御異常には、前補足運動野および帯状皮質運動野におけるベータ波帯域の神経活動性の低下が関わっていることを脳波の三次元画像解析(eLORETA)を用いて明らかにしました。この知見は、脳卒中や慢性疼痛患者の病態解明に貢献し、新たなニューロリハビリテーション技術開発に向けた基礎的知見になるものと期待されます。この研究成果は、Neuroscience Letters誌(Neural activities behind the influence of sensorimotor incongruence on dysesthesia and motor control)に掲載されています。 研究概要 脳卒中、慢性疼痛患者では患肢に対する知覚変容や運動制御の低下が生じます。この要因の1つとして、運動指令に基づいて脳内で生成される感覚情報の予測と、運動により実際に入力される感覚情報との間に生じる不一致(感覚運動の時間的および空間的不一致)が考えられています。実験的に感覚運動の時間的不一致を生じさせると、健常人であっても知覚変容や運動の正確性が低下することが明らかにされていました(Katayama and Morioka et al 2018)。しかしながら、感覚運動の空間的不一致による異常知覚と運動制御に関わる神経活動は明らかになっていませんでした。今回、健常者を対象に実験的に感覚運動の空間的不一致を生じさせ、異常知覚と運動制御に関わる神経活動を検討しました。その結果、感覚運動の空間的不一致により様々な異常知覚が惹起され、その中で奇妙さが有意に強く惹起されました。さらに、運動制御においては運動の正確性が低下することを確認しました。これらの異常知覚と運動制御には、前補足運動野と帯状皮質運動野のベータ波帯域の神経活動性の低下が関わっていることを脳波の三次元画像解析により明らかにしました。 本研究のポイント ■ 感覚運動の空間的不一致により、奇妙さをはじめとした異常知覚が惹起される。 ■ 感覚運動の空間的不一致により、運動の正確性が低下する。 ■ 異常知覚と運動制御に前補足運動野と帯状皮質運動野のベータ波帯域の神経活動性の低下が関わる。 研究内容 健常成人を対象に、片面がホワイトボードでもう片面が鏡となったボードを両上肢の間に設置し両手関節の掌背屈運動を実施させます(図1)。一側の手関節を背屈した際にもう一側を掌屈させる条件(図1D)では、鏡の後ろに隠された手関節の運動方向と、鏡に映る鏡像の運動方向が空間的に不一致した状態となります。この条件設定によって、ヒトの感覚運動ループを実験的に錯乱させることができ、“患肢の知覚変容”という状況を設定することができます。 図1:実験の条件設定 実際の実験では、A:ホワイトボード一致条件、B:ホワイトボード不一致条件、C:鏡一致条件、D:鏡不一致条件(感覚運動の空間的不一致条件)の4条件で手関節の反復運動を被験者に実施してもらいました。運動中の手関節の運動を電子角度計で計測し、身体に対する異常知覚についてアンケートで定性的に評価しました。 実験の結果、感覚運動の空間的不一致条件で、奇妙さが他の条件と比較して強く惹起され、多数の異常知覚が惹起されました(図2)。さらに、手関節における運動の正確性の低下が確認されました。 図2:惹起した異常知覚とその数の比較および運動の正確性の比較 脳波活動は、感覚運動の空間的不一致条件では、前補足運動野と帯状皮質運動野のベータ波帯域の神経活動性の低下を認めました(図3)。 図3:感覚運動の空間的不一致条件の神経活動領域 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、脳卒中や慢性疼痛患者の異常知覚や運動制御の低下に前補足運動野と帯状皮質運動野の神経活動性が関わっていることを示唆するものです。そのため、理学療法や作業療法の際には、感覚運動の空間的不一致を最小限にしながら臨床介入を進めることの重要性を提唱する基礎研究となります。今後は、実際に患肢の知覚変容や運動制御の低下が生じている症例を対象に神経活動性の検証をしていく予定です。 論文情報 Katayama O, Nishi Y, Osumi M, Takamura Y, Kodama T, Morioka S. Neural activities behind the influence of sensorimotor incongruence on dysesthesia and motor control. Neuroscience Letters 2019 問合せ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 片山 脩(カタヤマ オサム) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: b6725634@kio.ac.jp 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2019.01.08
同窓会レポート~理学療法学科瓜谷ゼミ
畿桜会(畿央大学・畿央大学短期大学部・桜井女子短期大学同窓会)では、卒業後の同窓生のつながりを活性化することを目的に、一定数以上集まる同窓会の開催を補助しています。 ▶同窓会開催にかかわる補助について(大学ホームページ) 今回は、理学療法学科を卒業した瓜谷先生のゼミ生による同窓会兼ラボ勉強会のレポートをお届けします! 昨年瓜谷先生が研究員として行っておられたオーストラリアのメルボルンより帰国され、再始動しました瓜谷ゼミです。2018年12月23日、今年も瓜谷ゼミ・裏瓜谷ゼミ同窓会兼ラボ勉強会を開催いたしました。現在3回生の学部生から社会人まで参加し、今回は総勢20名以上の会となりました。 この会は例年、メンバーや瓜谷先生自身が発表し意見を出し合う形式で実施しています。今年の発表者および内容は、学部生による卒業研究の計画、卒業生の今井亮太さんによる運動器疼痛について、佐々木将人さんによるこれまでの職場経験についてでした。3つの発表はどれも全く異なる分野のものでしたが、毎回メンバーから質問や意見の交換が行われ、とても有意義な場となりました。その後は忘年会を兼ねた飲み会も実施しました。 今年も現職者、学生、先生と縦・横のつながりを感じられる会となりました。2019年もパワーアップされた瓜谷先生とともに、メンバーみんなでさらにゼミを盛り上げていければと思います! 理学療法学科7期生 坂東峰鳴
2018.12.26
理学療法学科教員がBest Basic Science Abstract Awardを受賞!~第5回International Fascia Research Congress
2018年11月14日(水)~15日(木)にドイツのベルリンにて第5回 International Fascia Research Congress が開催されました。初めて参加する学会で、今回はポスター発表で申し込んでいたのですが、口述発表に変更され、国際学会では初めてのOral Presentationとなりました。 Fasciaとは、身体中の組織を包み込んでいる膜構造の線維性結合組織で、内臓や骨格筋の相対的な位置を保持し、身体内部の枠組みを構成しています。 そのFasciaが近年、大きく注目されてきており、本学会はそこに焦点をあてた学術集会です。 ▲会場前に設置されたFasciaをイメージしたモニュメント 参加者は、理学療法士だけでなく、解剖学者、生理学者、臨床医師、作業療法士、鍼灸師、柔道整復師など、世界中から医療関係者が集まっており、その中でOral Presentationが55演題、Poster Presentationが70演題ほどありました。学会の雰囲気は非常に活発で、どこの会場でも発表のあとにディスカッションが行われ、講演などではスタンディングオベーションが起こり、参加しているだけで楽しくなる学会でした。私は、基礎研究として、下腿前面を切開し、その後縫合し、治癒後4週間での瘢痕形成過程とその組織形成が皮下組織や骨格筋にどのような影響を与えるかを、組織学的に調べたものを発表しました。なぜか会場はほぼ満席で、かなり緊張しましたが、いくつか質問もいただき、よい経験が出来ました。 この経験だけで十分だったのですが、実はこの学会でAwardもいただきました!! この学会には、『Best Basic Science Abstract Award』と『First, second, and third place for the Best Posters』というAwardが準備されており、そのうちの『Best Basic Science Abstract Award』を受賞しました。初めて参加する国際学会で、かつ非会員だったのですが、このような素晴らしいAwardをいただき、大変光栄に思っております。 Influence of adhesion-related fascial gliding restrictions on dermal and articular movement Hidetaka Imagita, Taiko Sukezane さらには、受賞したことを受けて、日本の関連学会である整形内科学研究会でも表彰されました。 身の引き締まる想いですが、今後、Fascia に関する研究を精力的に進めていく決心にもなりました。FasciaやMyofasciaに関して興味をお持ちの方、お気軽にお声かけください。是非一緒に研究していきましょう!! 理学療法学科教授 今北英高 【関連記事】 日本理学療法士学会の平成29年度表彰で、本学関係者が受賞ラッシュ! 第23回日本基礎理学療法学会学術大会で大学院生が発表&修了生が奨励賞を受賞! 第5回日本地域理学療法学会学術大会で本学教員・客員講師が表彰されました!~理学療法学科 今北ゼミと福本ゼミが合同で同門会を開催!~理学療法学科・健康科学研究科
2018.12.25
就活レポート~就職活動の現場から~No.524(病院)
就職活動を終了したばかりの学生のリアルな声を紹介する「就活レポート」、第524弾! 理学療法学科13期生(19卒) R.Wさん 病院(理学療法士) 勤務 【その病院・施設に決めた理由】 総合臨床実習のⅠ期に、この病院の回復期病棟で二ヵ月間実習させていただいた際、リハ室の明るくにぎやかな雰囲気や、どの職種のスタッフの皆様も、患者様やそのご家族の方々に対して、親身になっておられる姿に好感を持ちました。また、患者様が笑顔で退院される姿を見て、自分もこの病院のスタッフとして患者様の笑顔に貢献したい、退院支援に携わりたいと思い、受験しました。 【就職活動を振り返って】 実習中に「来年からこの病院で働きたい!」と思い、受験しようと決めていたため、学内の病院合同説明会で説明を聞いた以外、就職活動は特に何もしていません(笑)。とにかく実習を頑張りました! 【就職活動でPRしたポイント】 履歴書には、SAPSの代表をしていたことや、実習中に感じた病院の印象について書きました。面接は、実習の際に指導してくださった先生が面接官だったため、とても和やかな雰囲気を作ってくださいました。人事部の方に、私の性格や実習中のことなどを話してくださったので、自分からPRしたことは特にありません(笑)。実習先に就職を考える場合は、実習中の印象が大事かな?と思います。 【キャリアセンターと就職サポートについて】 竹本さんが、履歴書の添削や面接練習など、手厚いサポートをしてくださったので、心強かったです。また、過去に受験した先輩方の情報などを教えてくださったので、面接の対策もできました。 【後輩へのアドバイス・メッセージ】 たくさんの病院があるので、見学に行って迷うのもいいと思います。でも、もし実習中に、実習地の病院に就職したいなと思ったら、患者様のためになにができるかを考えながら、とにかく実習を頑張って、就職のお声がけをしていただけると、少しだけ安心して受験できると思います!実習頑張ってください!!!
2018.12.25
日本理学療法学生協会(JPTSA)畿央大学主催 関西支部大会2018活動報告!
こんにちは!日本理学療法学生協会(JPTSA) 畿央大学運営委員広報部、理学療法学科1回生の川端一穂です。 先日、2018年12月15日(日)に畿央大学で行われた日本理学療法学生協会 畿央大学主催 関西支部大会について報告させていただきます。よろしくお願いします。 ※日本理学療法学生協会についてはこちらをご参照下さい。 今回のテーマは「産業理学療法 ~理学の力で産業革命~」です! 今年も関東、中部、関西、中国、九州の各大学から理学療法士をめざす学生が畿央大学に足を運んでくれました! まず講演の前に「大学生の健康について」という題で学生発表を行いました。この学生発表は畿央生約250人にとったアンケートを元に作られました。 次に、2名の先生方にご講演をしていただきました。 講演①「産業×理学療法」蒲田和芳先生 広島国際大学総合リハビリテーション学部教授で開発にもかかわっている蒲田先生に産業への理学療法の介入について「リアライン・コンセプト」(ご自身が発案された治療理論)や商品開発などの観点から講演していただきました。 講演②「本邦における産業理学療法の可能性」高野賢一郎先生 治療就労両立支援センター主任で産業理学療法研究会の会長である高野賢一郎先生に産業の分野に理学療法士が関わる意義や目的、海外の産業理学療法、日本のこれからの産業理学療法について講演をしていただきました。 講演の後は午前と午後の二回に分かれて各テーマについてディスカッションを行いました。午前のディスカッションでは理学療法士が病院以外の職場でどのように活躍できるか、またそこでの介入方法などについて話し合いました。午後のディスカッションは様々な職場で働いている様子の画像をみて、身体にどのような影響が出るか、改善方法などについて実際に体験し学びました。各グループもレベルの高いディスカッションをしていてお互い良い刺激となりました。 すべてのプログラムが終わった後は、食堂で懇親会を行いました。「シンパシーゲーム」というゲームをグループ対抗で行い、参加者全員が横や縦のつながりができてよい懇親会になりました。 今回畿央大学の運営委員として初めて支部大会に参加したことで、僕自身も他大学の多くの新しい友達や先輩と出会い、とても充実した一日となりました。これからも他大学の支部大会に参加し、そこでもっと他大学の友達、先輩、後輩との交流を深めていきたいと思います。そのつながりが将来理学療法士になる上で、勉強になる話が聞けたり情報を共有したりできる仲間たちでありたいと強く思いました。 来年も畿央大学にて支部大会を開催する予定です。来年もより良い支部大会になるために運営委員全員が協力し、参加してくださった皆様が楽しんでいただけるようにしていきたいと思います! 最後になりましたが、開催にあたり協力してくださった方々、参加してくださった皆様、本当にありがとうございました! 日本理学療法学生協会 畿央大学運営委員広報部 理学療法学科1回生 川端一穂 【関連記事】 12/15(土)日本理学療法学生協会(JPTSA)畿央大学主催関西支部大会のご案内 日本理学療法学生協会(JPTSA)「畿央大学主催 関西支部大会」2017 活動報告! 12/10(日)日本理学療法学生協会(JPTSA)畿央大学主催関西支部大会のご案内! 日本理学療法学生協会(JPTSA)が開催したJapan Study Tourに参加!~理学療法学科 日本理学療法学生協会「畿央大学主催 関西支部大会」2016 活動報告!
2018.12.25
第23回日本基礎理学療法学会学術大会で大学院生が発表&修了生が奨励賞を受賞!
平成30年12月15日(土)・16日(日)に京都で開催された第23回日本基礎理学療法学会学術大会で宮脇裕さん(博士後期課程)と私(林田一輝 博士後期課程)が演題発表をしてきましたのでここに報告させていただきます。 本大会は分科学会が独立して行う最初の開催であり、テーマは「身体運動学を極める」とされ、基礎理学療法学会が研究領域とする領域のうち特に身体運動学に焦点を当てられて講演が企画されていました。大会長の市橋教授からは「筋の運動学-筋の機能とトレーニング-」と題されたテーマで話題提供があり、臨床におけるトレーニングにおいて非常に示唆に富むものであり、興味深く拝聴しました。 私は「運動課題に伴う予測が運動主体感および運動パフォーマンスに与える効果」という題で身体性に関する発表をさせていただきました。私自身、理学療法学会での口述発表は数年ぶりで、口述発表において方法論を伝えることの難しさを改めて痛感しました。また、会場からはいくつか的確な質問をしていただきました。頂戴した意見も含めて、今回発表した内容を早く論文化していきたいと思います。 また、本研究室の修了生である西勇樹さんが第52回日本理学療法学術大会において発表した内容が奨励賞を受賞しました。今年度、本研究室からは神経分野、地域分野、基礎分野の3つの分科学会で受賞することになります。同研究室のメンバーが受賞されることは非常に嬉しく励みにもなっています。私自身、後に続けるよう努力していきたいと思います。 奨励賞 西 勇樹(修了生) 「慢性疼痛患者における交感神経変動と内受容感覚の関係性」 宮脇 裕(博士後期課程) 「感覚の自他区別が運動制御に及ぼす影響-自他区別課題開発のための予備的研究-」 林田一輝(博士後期課程) 「運動課題に伴う予測が運動主体感および運動パフォーマンスに与える効果」 健康科学研究科 博士後期課程 林田一輝 【関連記事】 教員・大学院生が2nd International symposium on EmboSSで発表!~ニューロリハビリテーション研究センター 大学院生が第42回日本高次脳機能障害学会学術総会で発表! 第11回日本運動器疼痛学会で大学院生が発表! 第16回日本神経理学療法学会学術集会で教員・大学院生など5名が発表!~健康科学研究科 平成30年度運動器リハビリテーションセミナー「臨床実践編 (膝関節)」を開講しました。 大学院生が第19回認知神経リハビリテーション学会で最優秀賞を受賞!~健康科学研究科 大学院生6名が日本リハビリテーション学会学術大会で発表!
2018.12.19
最適難易度での知覚運動学習中には運動主体感が増幅が明らかに~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
身体性の科学において、この運動を実現しているのは、自分自身であるという主体の意識を運動主体感(sense of agency)と呼びます。この運動主体感は主観の意識であるため定量的評価が難しいと考えられていたものの、近年、intentional binding(IB)課題が開発され、運動主体感を測定する試みがされはじめています。IB課題とは、被験者がキーを押した後、音が鳴るように設定された実験手続きにおいて、キー押し後、音が鳴るまでの時間を主観的に被験者に回答させ、実際の時間とそれの差分をみるものです。先行研究では自らの意志によって随意的にキーを押した場合は、音が鳴るまでの時間を実際よりも短く感じることが明らかになっています。つまり、時間知覚の短縮は「自分がキーを押したから音が鳴った」という運動主体感の強さを反映していると考えられています。この時間短縮をみることで運動主体感の程度をみることができるわけです。畿央大学の森岡 周 教授らの研究グループは、林田一輝さん(博士後期課程)のアイディアをもとに知覚運動学習型のintentional binding課題を新たに開発し、知覚運動学習の程度と運動主体感の関係性を調べました。その結果、知覚運動学習が徐々に進むグループでは運動主体感が増幅することがわかりました。その一方で、知覚運動学習が停滞(天井効果)するグループでは運動主体感が増幅しないことがわかりました。つまり、学習効果と運動主体感の間には密接な関係性があることが示されました。この結果は、知覚運動学習課題における誤差修正過程において、徐々に学習効果が起こっていることを潜在的に捉えている時期においては、運動主体感が高まっていることをあらわしています。この結果は、学習プロセスおいて課題の難易度が重要であることを示唆しています。この研究成果はPeer J誌(Changes in intentional binding effect during a novel perceptual-motor task)に掲載されています。 本研究のポイント ■ 知覚運動学習の進行と運動主体感の程度には関係がある。 ■ 知覚運動学習課題の難易度が運動主体感に影響を与える。 研究内容 大学生を対象に、今回新たに独自に開発した知覚運動学習型intentional binding課題(図1)を用いて実験が行われました。課題は、左右に動く円形の赤い球をPC画面中心のターゲット内にあわすようにタイミング良くキーを押すといった時間的精度を学習させる知覚運動学習課題です。この際、ターゲットと赤い球の間に発生する空間的な誤差値(pixel)を知覚運動パフォーマンス効果の指標としました。一方、キー押し後、ランダムな時間遅延(200、500、700ms)後に音が鳴り、キー押しから音が鳴るまでの時間を被験者に主観的に回答させました(被験者は200、500、700msであることは知りません)。実際の時間と主観的に感じる心理的時間の差をintentional binding効果(ms)とし、運動主体感の指標としました。 図1:知覚運動学習型intentional binding課題 練習課題、コントロール課題(個人の時間感覚の違いを是正する目的)を経て、実験課題が行われました。実験課題は18試行を1セットとし、計10セット行われました。1セットと10セットの誤差値を用いてクラスター分析を行ったところ、2つの説明可能なクラスターに分けることができました。クラスター2はクラスター1と比べ知覚運動学習が有意に起こっていました。10セットを2セット毎の5ブロックに統合して、知覚運動学習の変化を観察したところ、クラスター1は5ブロックを通じてわずかな誤差値の減少にとどまり、ほぼ天井効果を示した(図2水色)のに対して、クラスター2は1ブロック目の誤差値が大きく、その後ブロックを重ねるごとに誤差値が大きく減少することが確認されました(図2オレンジ)。 図2:知覚運動学習型intentional binding課題 一方、intentional binding効果の結果に関しては図3に示しました。時間(縦軸)がマイナスにいけばいくほど、時間短縮をあらわしておりintentional binding効果が増幅した、すなわち運動主体感が高まったことを示しています。クラスター2(図3オレンジ)において2ブロックから徐々にintentional binding効果が高まっていることがわかります(2ブロックと5ブロックの間に有意差)。すなわち、知覚運動学習効果が明確にみられたクラスター2のみ運動主体感が増幅したことが確認されました。一方、クラスター1(図3水色)は著明な変化が見られませんでした。 図3:ブロック毎のintentional binding効果の比較(運動主体感の指標) 本研究の臨床的意義および今後の課題 本研究によって知覚運動学習の進行と運動主体感の程度の間には関係があることがわかりました。運動主体感の増幅には目標設定のみならず、目標が徐々に達成されていくプロセスが重要であることを本研究は示しており、学習者あるいはリハビリテーション対象者に対する知覚運動学習課題において、その難易度の設定・調整が重要であることを本研究は示す結果になりました。今後はこれに関係するメカニズム(例:報酬、注意)を明らかにすることや、実際のリハビリテーション対象者の課題中の時間短縮を記録する必要があります。 論文情報 Morioka S, Hayashida K, Nishi Y, Negi S, Nishi Y, Osumi M, Nobusako S. Changes in intentional binding effect during a novel perceptual-motor task. Peer J 2018 問合せ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授/センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2018.12.19
確率共鳴(Stochastic Resonance: SR)現象による視覚-運動統合の向上~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
感覚-運動統合は、運動学習や運動制御において欠かせない脳機能です。発達性協調運動障害や視覚性運動失調、そして失行は、その病態に感覚-運動統合の困難さを有しています。したがって、感覚-運動統合を促進する効果的な介入手段の開発が求められています。確率共鳴(Stochastic Resonance: SR)とは、感覚閾値下の機械的あるいは電気的ノイズを生体に印加すると、感覚入力シグナルが増幅し、運動反応が向上する現象です。SR現象は、健常成人のみならず、健常高齢者、脳卒中後片麻痺、糖尿病性神経障害、パーキンソン病などでも観察されています。しかしながら、SR現象の提供によって、感覚-運動統合が促進されるか否かについては明確になっていませんでした。そこで畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志助教らの研究グループは、SRが視覚-運動統合に与える影響を調査し、SRが若年健常成人の視覚-運動統合を向上することを明らかにしました。このSR現象の提供は、感覚-運動統合障害を有する疾患に対する介入手段として期待されます。この研究成果は、PLOS ONE誌(Stochastic resonance improves visuomotor temporal integration in healthy young adults)に掲載されています。 研究概要 視覚-運動統合の時間的側面、すなわち視覚-運動時間的統合機能は、遅延視覚フィードバック検出課題によって客観的・定量的に測定することができます。一方で、遅延視覚フィードバック下での運動課題は、視覚-運動統合を阻害し、運動に拙劣さを与えることができます(仮想的な視覚-運動統合障害)。 そして感覚閾値下の振動触覚ランダムノイズ刺激は、SR現象を引き起こすことが可能です。 そこで信迫助教らの研究グループは、若年健常成人を対象に、SRが遅延視覚フィードバック検出課題と遅延視覚フィードバック下での運動課題に与える影響を調べました。その結果、SRが遅延視覚フィードバック検出課題で測定される視覚-運動時間的統合機能を向上することを明らかにしました。しかしながら、SRは遅延視覚フィードバック下での運動課題の成績に影響しませんでした。 本研究のポイント SRの提供によって若年健常成人の視覚-運動時間的統合機能が向上した。したがって、SRデバイスは、感覚-運動統合障害を有する疾患の症状改善に効果的で有り得る。しかしながら、SRの提供は、267ミリ秒の遅延視覚フィードバック下での運動に正の効果を与えなかった。したがって、感覚-運動統合障害が重度である場合には、SRは有効でない可能性がある。 研究内容 本研究には、若年健常成人30名が参加しました。SRは手首に取り付けた振動触覚デバイスによる感覚閾値の60%の強度の振動触覚ランダムノイズ刺激によって提供されました。参加者は、SRあり条件とSRなし条件において、遅延視覚フィードバック検出課題と遅延視覚フィードバック下運動課題を実施しました。遅延視覚フィードバック検出課題は、自己運動に対するその視覚フィードバックに33-500ミリ秒までの15遅延条件が設定され、参加者は視覚フィードバックが遅れているか否かについて回答しました。遅延視覚フィードバック検出課題で抽出される検出閾値と検出確率曲線の勾配が、視覚-運動時間的統合機能を反映する定量的指標でした。検出閾値の短縮と勾配の増加は、視覚-運動時間的統合機能が高いことを表します。遅延視覚フィードバック下運動課題における遅延時間は267ミリ秒に設定しました。参加者は267ミリ秒の遅延視覚フィードバック下で、Box and Block Test(BBT)とNine Hole Peg Test(NHPT)の2つの手運動課題を実施しました。BBTにおいては得点が高いほど、NHPTにおいては実施時間が短縮するほど、手運動課題の成績が高いことを表します。SRあり条件・なし条件は、振動触覚デバイスの電源をオンまたはオフにすることにより調整しました。感覚閾値未満の振動触覚ランダムノイズ刺激であったため、参加者はSRについて盲検化されました。 図1. 実験課題 左:遅延視覚フィードバック検出課題 右:遅延視覚フィードバック下での運動課題 図2. 結果 SR(+)、SRあり条件;SR(-)、SRなし条件;**、p<0.01;N.S.、有意差なし 上:視覚-運動時間的統合機能を反映する検出閾値(左)と勾配(右)の比較結果 下:遅延視覚フィードバック下運動課題(左、BBT;右、NHPT)の比較結果 結果、SRあり条件の検出閾値は、SRなし条件と比較して、有意に短縮しました(図2)。このことは、SRの付与が、視覚-運動時間的統合を促進することを意味しました。しかしながら、遅延視覚フィードバック下運動課題の成績には有意差はありませんでした(図2)。SRあり条件における視覚-運動時間的統合の向上効果は、平均検出閾値で約20ミリ秒の短縮でした。したがって、遅延視覚フィードバック下運動課題で設定した267ミリ秒の外乱効果が上回ったものと考えられました。このことは、視覚-運動時間的統合障害が重度な場合には、SRによる効果がない可能性を示唆しました。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究結果は、SRの提供が感覚-運動統合障害を有する疾患に対して有効である可能性を示唆しました。介入研究を実施することで、SRの有効性を検証する必要があります。 論文情報 Nobusako S, Osumi M, Matsuo A, Fukuchi T, Nakai A, Zama T, Shimada S, Morioka S. Stochastic resonance improves visuomotor temporal integration in healthy young adults. PLoS One 13(12): e0209382. 問合せ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 助教 信迫 悟志(ノブサコ サトシ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp
2018.12.18
理学療法学科×現代教育学科の教員特別対談!~現代教育学科「発達障害教育特論」
森岡 周 先生 × 大久保 賢一 先生 ―1コマだけの特別な対談― 今年も教育学部の授業【発達障害教育特論】で、教育学部の大久保先生と理学療法学科・ニューロリハビリテーション研究センターの森岡先生との対談がありました。その模様をお届けします。 過去のテーマは、脳トレの効果やいじめなどがありました。そのテーマについて森岡先生の脳科学的な視点と大久保先生の心理学・教育的な視点から論争を繰り広げてきました。 今回のテーマは3つありましたが、その中でも私が興味深かったテーマは、 「『物事の現象を見る』『現象学的に物事を見る』とは、具体的にどういう意味か?」でした。 うん??? なんだ?!!? 聞いたことのない難しい単語がたくさん並びましたが、聞いていくと納得! 学びになることがたくさんありました。 そもそもこのテーマになっている言葉は森岡先生の著書の中に書かれています。この本を読んだ大久保先生の疑問から出てきたテーマでした。 「物事の現象を見る」とは、知識によってレッテルを張って判断することです。例えば、こだわりのあるAさんだと、周りの人が【こだわりがあるから自閉症】というようにレッテルを張って、そのレッテルがバイアス(偏見)になって、判断してしまうことです。 一方、「現象学的に物事を見る」とは、ある知識にとらわれず、そのこと(人やモノ、行動)の特性や本質を細かく、素朴に見ていくことです。 例えば、こだわりのあるAさんの場合だと、自閉症についての知識にとらわれずに、こだわりを細かく見ていき、こだわりの強さや原因などAさんの行動をありのままに見ていくことです。 レッテルやバイアスにとらわれずに「物事の現象を見ること」によって、Aさんの本質、行動の原因、適切な関わり、必要な支援の仕方などを知ることができます。 この対談を受けて… バイアスにとらわれずに判断することは、教育的な関わりでも、日常的に人と関わるときでも大事にしたいことだと思いました。また、知識があればあるほどバイアスにとらわれてしまうので、知識をうまく活用しつつ、物事の本質をとらえられるようにしていきたいと思いました。 現代教育学科3回生 熊谷 綾乃・吉村 茜 【関連記事】 「発達障害教育特論」で理学療法学科と現代教育学科の教員が特別対談!~現代教育学科(2016年) 脳科学×特別支援教育で教員特別対談!~現代教育学科「発達障害教育特論」(2017年)
2018.12.14
同窓会レポート~理学療法学科10期生同窓会!
畿桜会(畿央大学・畿央大学短期大学部・桜井女子短期大学同窓会)では、卒業後の同窓生のつながりを活性化することを目的に、一定数以上集まる同窓会の開催を補助しています。 ▶同窓会開催にかかわる補助について(大学ホームページ) 今回は、理学療法学科10期生の同窓会レポートをお届けします! 毎年恒例の理学療法学科10期生同窓会を、12/1(土)に開催しました。 今年は25人が集まり、東京や福井など遠方から駆けつけてくれる子もいて、久しぶりの再会を楽しみました(^O^) 仕事の話やプライベートの近況報告など、あれこれ話し出すと尽きません。 働く環境や専門分野は違いますが、 みんなそれぞれの場所で頑張っているんだなぁ、と良い刺激になりました。 そして、去年に引き続きおめでたい報告もちらほら聞いていたので、みんなでお祝いしました♪ 自分のことのように祝福できるのが、私たち仲間の良いところです!! 社会人3年目になり、今までよりも大きい仕事を任されたり、学生の時とは違う責任感を感じたり、医療職である上での大変さも感じています。 学生時代に共に励ましあって頑張った仲間と集まることで、初心を思い出すことができました。 楽しい時間はあっという間に終わってしまったので、また来年も引き続き開催していきたいと考えています! 理学療法学科10期生 石川奈穂


