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健康科学専攻(修士課程)の新着情報一覧

健康科学専攻(修士課程)の新着情報一覧

2025.05.01

脳卒中患者の不整地歩行の特徴 -高機能者と低機能者による違い-~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中患者は不整地を含む屋外での歩行が困難になりやすく、結果として社会参加を妨げ、生活の質に不利益をもたらします。しかし、脳卒中患者が有する歩行能力によって不整地での歩行戦略に違いがある可能性があります。畿央大学大学院博士後期課程の乾 康浩 氏と森岡 周 教授らは、屋内平地歩行速度0.8m/s未満の低機能脳卒中患者と0.8m/s以上の高機能脳卒中患者の不整地歩行の特徴の違いを検証しました。低機能脳卒中患者は不整地歩行中に、歩行速度が低下するが安定性を維持し、高機能脳卒中患者は遊脚期の膝関節屈曲増大、立脚期の大腿部の共収縮低下を示すことを明らかにしました。この研究成果はTopics in stroke rehabilitation誌(Differences in Uneven-Surface Walking Characteristics: High-Functioning vs Low-Functioning People with Stroke)に掲載されています。   本研究のポイント 屋内平地歩行速度0.8m/s未満の低機能患者と0.8m/s以上の高機能患者の脳卒中患者の不整地歩行の特徴の違いを自作の不整地路を用いて評価した。 低機能患者は不整地で歩行速度が低下するが安定性を維持し、高機能脳卒中患者は遊脚期の膝関節屈曲増大、および立脚期における大腿部の共収縮低下を示すことが明らかとなった。   研究概要 脳卒中患者は、中枢神経系の損傷により歩行障害を有し、不整地を含めた屋外での歩行が困難になります。これは、社会参加を妨げ、生活の質の低下にもつながります。また、脳卒中患者の歩行能力には違いがあり、その能力の違いによって予測困難な摂動が生じる不整地での歩行の戦略が異なる可能性があります。畿央大学大学院 博士後期課程 乾 康浩 氏、森岡 周 教授らの研究チームは、自作の予測困難な摂動が生じる不整地路を用いて、脳卒中患者の不整地歩行中の歩行速度、体幹の加速度、麻痺側の関節運動、および下肢筋共収縮を計測し、平地歩行速度0.8m/s未満の低機能脳卒中患者と0.8m/s以上の高機能脳卒中患者で特徴の違いを分析しました。その結果、低機能脳卒中患者は、 不整地歩行中に歩行速度は低下するものの歩行安定性は維持し、高機能脳卒中患者は遊脚期の膝関節屈曲増大、立脚期の大腿部の共収縮低下を示すことを明らかにしました。本研究は、歩行能力の違いによる脳卒中患者の予測困難な摂動が生じる不整地歩行中の特徴の違いを明らかにした初めての研究です。   研究内容 リハビリテーション専門家にとって、脳卒中患者の歩行能力の違いによる不整地歩行時の戦略の違いを捉えることは必要です。本研究では、予測困難な摂動が生じる不整地での脳卒中患者の歩行戦略の特徴を平地歩行速度0.8m/s未満(低機能脳卒中患者)と0.8m/s以上(高機能脳卒中患者)の2グループで比較することを目的とし、自作の不整地路(図1)を用いて検証しました。     実験で得られたデータから、歩行速度、歩行安定性を評価するための立脚期と遊脚期に分けた3軸の体幹の加速度のRoot Mean Square、麻痺側下肢の最大関節角度、麻痺側下肢の立脚期と遊脚期に分けた共収縮指数を算出しました(図2)。     その結果、平地と比較した不整地での変化として、低機能脳卒中患者では歩行速度は低下するものの安定性は維持し、高機能脳卒中患者では遊脚期の膝関節屈曲増大(図3)、立脚期における大腿部の共収縮指数低下がみられました。     研究グループは、この結果のうち、低機能脳卒中患者の歩行速度低下と歩行安定性の維持に関しては、不整地歩行中の保守的な戦略と考えています。一方で、高機能脳卒中患者の遊脚期膝関節屈曲増大と立脚期における大腿部共収縮指数の低下は適応的な戦略の結果と考察しています。   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、平地での歩行速度が異なる脳卒中患者において、予測困難な摂動が生じる不整地での適応の違いを明らかにしており、リハビリテーション専門家が脳卒中患者の屋外歩行の問題を考える際に着目すべき点を示しています。今後は、非麻痺側を含めた戦略の特徴や縦断的な経過を調査する必要があります。   論文情報 Yasuhiro Inui, Naomichi Mizuta, Shintaro Fujii, Yuta Terasawa, Tomoya Tanaka, Naruhito Hasui, Kazuki Hayashida, Yuki Nishi, Shu Morioka Differences in uneven-surface walking characteristics: high-functioning vs low-functioning people with stroke. Topics in stroke rehabilitation, 2025.   関連する先行研究 Inui Y, Mizuta N, Hayashida K, Nishi Y, Yamaguchi Y, Morioka S. Characteristics of uneven surface walking in stroke patients: Modification in biomechanical parameters and muscle activity. Gait Posture. 2023 Jun;103:203-209.     問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 乾 康浩 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2025.05.01

自立歩行が困難な脳卒中者の歩行回復の特徴 -歩行中の内側広筋の筋内コヒーレンスとの関連-~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中後、下肢の運動麻痺によって体重支持が困難となり、自立歩行の再獲得に大きな影響を与えます。本邦では、そのような状態からの回復を目的に、長下肢装具を用いた歩行トレーニングを推奨しています。畿央大学大学院 博士後期課程 蓮井 成仁氏と森岡 周 教授らを中心とする研究グループは、監視歩行獲得に関連する要因を明らかにしました。さらに、1ヶ月間の歩行トレーニング後に、監視歩行が獲得できた/できなかった群に分けて分析することで、長下肢装具を用いた歩行トレーニングの「適応」と「限界」を明らかにしました。 この研究成果は、Neurological Sciences誌(Association of gait recovery with intramuscular coherence of the Vastus medialis muscle during assisted gait in subacute stroke)に掲載されています。   本研究のポイント 監視歩行が可能となるまでの日数と麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンス値は有意な負の相関関係にありました。 「監視歩行獲得群」は、1ヶ月間の歩行トレーニングによって、運動麻痺の改善と、麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンスと理学療法中の歩数が増える特徴がありました。 「監視歩行未獲得群」は、1ヶ月間の歩行トレーニングによって、運動麻痺の改善が特徴としてありました。   研究概要 脳卒中者に対するリハビリテーションとして、下肢の運動麻痺によって体重支持が困難な者には長下肢装具(KAFO)を用いた歩行トレーニングが推奨されています。しかしながら、回復期病棟を退院する際に、介助なく歩行が可能となる症例とそうではない症例が混在しており、歩行回復に関連する要因はこれまで明らかになっていませんでした。畿央大学大学院 博士後期課程 蓮井 成仁氏と森岡 周 教授らを中心とする研究グループは、監視歩行獲得に関連する要因を調査しました。その結果、歩行トレーニング前における歩行中の麻痺側内側広筋への下降性神経出力の強さと監視歩行が可能となるまでの日数が有意に関係することを明らかにしました。さらに、監視歩行が獲得できた/できなかった症例に分類して、長下肢装具を用いた1ヶ月間の歩行トレーニング効果を確認すると、監視歩行獲得群では運動麻痺や体幹機能、バランス機能の改善と、麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンスと理学療法中の歩数が増えており、介助歩行トレーニングの利得があることが示唆されました。本研究の成果は、監視歩行獲得群への更なるリハビリテーション効果の促進と、監視歩行未獲得群へのリハビリテーション戦略の開発を進めていくために役立つことが期待されます。   研究内容 本研究は、脳卒中患者20名を対象に、身体機能評価に加えて理学療法中の歩数を評価しました。対象者は、KAFOを装着し、後方より理学療法士1名に支えられた条件下(介助歩行)で10m歩行を行いました。その際、筋電図より麻痺側内側広筋および外側ハムストリングの近位部・遠位部から筋内ならびに筋間コヒーレンス(β帯域;下降性神経出力を反映)、下肢屈曲・伸展角度を算出しました。歩行自立度の評価であるFACを用いて、FAC 3(15m監視歩行が可能)に至るまでの日数を歩行回復の指標としました。 監視歩行が可能となるまでの日数(または監視歩行が獲得できなかった対象者は退院までの日数)と麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンス値は有意な負の相関関係にありました。これは、介助歩行開始早期に内側広筋への下降性神経出力が強い症例ほど監視歩行へ到達しやすいことが考えられます。 さらに、監視歩行の獲得の有無に分けて1ヶ月間の介助歩行トレーニングの影響を下記に示します。 監視歩行獲得群:運動麻痺や体幹機能、バランス機能の改善と、麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンスと理学療法中の歩数が増えており、介助歩行トレーニングの利得があることを示しています。 監視歩行未獲得群:運動麻痺のみが改善しましたが、その他の身体機能および歩行中の神経出力の強化、歩行量が停滞しており、介助歩行トレーニングの利得が得られにくいことを示しています。     本研究の臨床的意義および今後の展開 これまでに明らかにされていなかったKAFOを用いた歩行トレーニングによる歩行回復の実態を調査できたことで、症例の応答性に合わせた効果的なリハビリテーションの立案に役立つことが期待されます。今後は、監視歩行獲得群への更なるリハビリテーション効果の促進と、監視歩行未獲得群へのリハビリテーション戦略の開発を進めていく予定です。   論文情報 Naruhito Hasui, Naomichi Mizuta, Ayaka Matsunaga, Yasutaka Higa, Masahiro Sato, Tomoki Nakatani, Junji Taguchi, Shu Morioka Association of gait recovery with intramuscular coherence of the Vastus medialis muscle during assisted gait in subacute stroke. Neurological Sciences, 2025.   問い合わせ先 畿央大学 大学院 健康科学研究科 博士後期課程 蓮井 成人 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2025.04.28

変形性関節症に関する世界最大級の国際会議「OARSI 2025」参加レポート!~健康科学研究科瓜谷研究室

2025年4月23日(水)から26日(土)まで、韓国・仁川で開催されたOARSI 2025(Osteoarthritis Research Society International)に参加してきました!     この学会は、変形性関節症(OA)に関する世界最大級の国際会議の一つであり、日頃から私が研究の参考にしている論文の著者や、よく引用させていただく著名な研究者たちが、直接最新の知見を発表される場です。実際にそうした研究者たちの講演を間近で聞くことができ、とても刺激的な時間となりました。     今回、私は 「Patients with knee osteoarthritis exhibit a reduced autonomic response to task performance compared to healthy older adults」 というテーマでポスター発表も行いました。   発表中には、さまざまな国の研究者から多角的な視点で質問やアドバイスをいただき、今後の研究をさらに深めるための多くのヒントを得ることができました。     特に印象に残ったのは、**「OA Management and Epidemiology in Asia」**というセッションです。アジア各国における変形性関節症の管理や疫学的課題について議論され、日本とは異なる医療システムや社会背景の中での取り組みを知ることができました。   自分の研究を国際的な文脈で位置付けて考えるきっかけにもなり、大変貴重な学びとなりました。     また、学会場では海外の研究者とも交流し、研究以外にも韓国ならではの美味しい食事や街並みに触れることができ、異文化を体感する楽しさも味わいました。   こうした機会を通じて、 「最先端の“本物”の研究に直接触れること」 「異国の文化を知り、自分自身の立ち位置を再認識すること」 の大切さを改めて実感しました。     この貴重な経験を糧に、今後も社会に有益な研究を推進できるよう努力していきます!   健康科学研究科 瓜谷研究室 山野 宏章 関連記事 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 2nd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 11回日本地域理学療法学会学術集会で大学院生と修了生(客員研究員)が発表~健康科学研究科 日本小児理学療法学会学術大会で大会長賞を受賞!~健康科学研究科 第22回日本神経理学療法学会学術大会へ参加しました!  

2025.04.15

大阪市西成区における地域在住高齢者の銭湯利用と個人レベルのソーシャル・キャピタルとの関係:介護予防に資する通いの場としての役割の検討~健康科学研究科~

地域在住高齢者の健康に関連する指標としてソーシャル・キャピタル(社会関係資本、以下SCと する)が注目されています。SCは、「人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることができる、『信頼』『規範』『ネットワーク』といった社会組織の特徴」と定義されており、地域在住高齢者の介護予防に資する通いの場においても重要視されています。 しかし、様々な問題から通いの場に参加できない地域在住高齢者も多い現状にあります。そこで本研究は地域に古くから存在し、浴室の家庭化が進む現代までは情報共有の場として社会的機能を担っていたとされる「銭湯」に着目しました。日常的に使用する銭湯が介護予防に資する地域在住高齢者の交流の場の一端を担い、地域在住高齢者における個人レベルのSC強度と関連するかを、本学大学院健康科学研究科客員研究員の仲村渠亮、健康科学研究科の高取克彦教授・松本大輔准教授らは、社会的理由から「銭湯」と繋がりの多い西成区を対象に調査をしました。その結果、日常的に銭湯を多く利用することがSCの構成要素である地域への信頼の高さ、近隣住民との交流の多さと独立して関連していることが明らかとなりました。これらのことから、高齢者サロンなどへの社会参加活動が難しい高齢者に対しては、銭湯が介護予防に資する通いの場となる可能性があることが示唆され、その内容が日本地域理学療法学雑誌に掲載されました。 研究概要 大阪市西成区における高齢者の健康行動と地域資源の活用実態に着目し、特に地域コミュニティの場としての銭湯利用が高齢者の健康維持・増進に関係するSCと関係するかを明らかにすることを目的とした。対面式調査(インタビュー)および定量的調査(体組成測定等)を組み合わせた混合研究法を用いて、銭湯利用者の健康状態、生活行動、社会的交流の特徴を分析した。 研究のポイント 高齢化率・要介護認定率が大阪市内でも最も高い西成区を対象地域として選定。 銭湯利用高齢者を対象に、入浴頻度・利用目的・SC(交流状況等)に関する対面式インタビューを実施。 銭湯は単なる入浴施設としてだけでなく、社会的交流や地域コミュニティ形成の場として機能している実態を確認。 銭湯利用が高齢者の心理的ウェルビーイングや地域参加意識の向上に寄与している可能性を示唆。   本研究の臨床的意義及び今後の展開 地域在住高齢者の健康支援においては、個別的な医療的介入のみならず、日常生活に根差した地域資源の活用が重要な戦略となります。本研究は、銭湯という地域固有の生活資源が、高齢者のSCの維持に寄与しうる可能性を示しました。今後は、他地域への適用可能性の検討や、銭湯をはじめとする地域資源を介した介護予防プログラムの開発、地域包括ケアシステムとの連携強化を視野に入れた実装研究が求められると思います。 謝辞 研究にご協力いただきました対象者の皆様、共同研究者の方々に感謝申し上げます。 論文情報 仲村渠亮,高取克彦,松本大輔:大阪市西成区における地域在住高齢者の銭湯利用と個人レベルのソーシャル・キャピタルとの関係:介護予防に資する通いの場としての役割の検討. 地域理学療法学2024;4(2):79-87.   問合せ先 畿央大学大学院健康科学研究科 客員研究員 仲村渠 亮 教授 高取 克彦 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: k.takatori@kio.ac.jp

2025.04.11

令和7年度入学式を行いました。

2025(令和6)年4月2日(水)、健康科学部314名、教育学部178名、健康科学研究科33名(修士課程19名、博士後期課程12名)、教育学研究科修士課程2名、助産学専攻科10名、臨床細胞学別科8名、あわせて555名の新しい畿央生が誕生しました。 学部は午前10時から、大学院・専攻科・別科は午後3時からと2部にわけて入学式を行いました。     午前の学部生入学式は冬木記念ホールに全5学科の新入生が集まり、保護者の皆様はその様子を中継会場から視聴・参加する形で行われました。               冬木正彦学長が学科ごとに入学許可を行い、つづく学長式辞では、”建学の精神である「徳をのばす」「知をみがく」「美をつくる」を大切にしながら充実した4年間を過ごしてほしい”という激励のメッセージがありました。         新入学生代表として現代教育学科1回生 高橋愛未さんから入学生宣誓が、在学生代表として健康栄養学科3回生有馬実優さんから歓迎のことばがありました。       続いて畿央大学の学歌をアカペラ部「#ADVANCE」の学生が紹介し、閉式となりました。       式典後は、冬木記念ホールで新入生へオリエンテーションを、また保護者に対しては、各教室にて各学科の教員から挨拶をさせていただきました。     当日は桜も開花し、晴天に恵まれ、あたたかい一日となりました。オリエンテーション後は、恒例の記念撮影、続いてクラブ・サークル紹介ブースに多くの新入生と保護者が訪れていました。                         午後3時からは大学院健康科学研究科、教育学研究科、助産学専攻科および臨床細胞学別科の入学式が冬木記念ホールにて行なわれました。入学許可の後、学長、研究科長・専攻科長・別科長から祝辞をいただきました。     新入生の皆さん、入学おめでとうございます! 畿央大学で充実した時間が過ごせるよう、教職員一同全力でサポートしていきます。

2025.04.07

急性期整形外科疾患患者における超音波エコーを用いたサルコペニアが歩行自立度に与える影響:2つの診断基準の比較~健康科学研究科

サルコペニアは、加齢に伴う骨格筋量および筋力低下と定義され、整形外科疾患患者の術後の死亡率が高く、機能回復の阻害要因になることが明らかにされています。 Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)によるサルコペニアの診断基準(AWGS2019)における骨格筋量の評価として、生体電気インピーダンス法(BIA法)がよく用いられます。しかし、BIA法は、急性期の整形外科疾患患者によくみられる外傷および手術の侵襲に伴う浮腫やインプラントなどの体内金属により骨格筋量を過大評価してしまうことが指摘されています。一方、国際リハビリテーション医学会のサルコペニア専門部会(Sarcopenia Special Interest Group of the International Society of Physical and Rehabilitation Medicin:ISarcoPRM)の診断基準では、上述したBIA法の欠点が少ない超音波画像診断装置(超音波エコー)を用いた骨格筋量評価が採用されています。ISarcoPRMを用いたサルコペニアと高齢の急性期整形外科疾患患者のリハビリテーションにおいて重要なアウトカムとなる歩行自立度との関連性を縦断的に検討した研究はなく、いまだ明らかにされておりません。 本学大学院健康科学研究科の博士後期課程 池本大輝、徳田光紀 客員准教授、松本大輔 准教授らは、AWGS2019を用いたサルコペニアは、退院時の歩行自立度の悪化とは関連しない一方、ISarcoPRMを用いたサルコペニアは歩行自立度の悪化と有意な関連を認めたことを明らかにしました。その研究成果はJournal of Rehabilitation Medicine誌(Impact of sarcopenia on gait independence in older orthopaedic patients: a comparison of 2 diagnostic algorithms.)に掲載されました。   研究概要 急性期病院へ入院された65歳以上の整形外科疾患患者153名を対象に、入院あるいは術後3日以内にAWGS2019とISarcoPRMの2つのサルコペニア診断基準を用いてサルコペニアをそれぞれ判定しました。サルコペニアは、各診断基準の骨格筋量低下と握力に基づく筋力低下の両方に該当した場合に判定しました。退院時にFunctional Ambulation Category(FAC)で評価した歩行自立度が入院前より悪化したかどうか、と各診断基準のサルコペニアとの関連を比較しました。   本研究のポイント ・AWGS2019を用いたサルコペニアの有病率は36.6%、ISarcoPRMを用いたサルコペニアの有病率は56.2%でした。 ・AWGS2019を使用して評価されたサルコペニアと退院時の歩行自立度の悪化との間には、有意な関連を認めませんでしたが、ISarcoPRMを使用して評価されたサルコペニアと退院時の歩行自立度の悪化との間には、有意な関連を認めることが明らかとなりました(図1、2)。   図1.退院時の歩行自立度悪化とサルコペニアの関連(ロジスティック回帰分析:AWGS2019モデル)     図2.退院時の歩行自立度悪化とサルコペニアの関連(ロジスティック回帰分析:ISarcoPRMモデル)   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、ISarcoPRMの診断基準で評価したサルコペニアが、AWGS2019の診断基準で評価したサルコペニアよりも、自立歩行との関連が強いことを示す初の縦断的研究です。本研究の結果より、高齢の急性期整形外科疾患患者では、超音波エコーで骨格筋量を評価するISarcoPRMを用いてサルコペニアを判定することで、退院時の歩行自立度悪化の予後予測の一助になると考えられます。近年、注目されている超音波エコーを用いた骨格筋評価の有用性を示唆する重要な知見であると考えられます。今後も超音波エコーを用いた骨格筋評価およびISarcoPRMを用いたサルコペニアに関するエビデンスの蓄積に貢献できる研究を継続していく所存です。 謝辞 研究にご協力いただきました対象者の皆様、共同研究者の方々に感謝申し上げます。 論文情報 Ikemoto T, Tokuda M, Morikawa Y, Kuroda K, Nakayama N, Terada N, Niina M, Matsumoto D. Impact of sarcopenia on gait independence in older orthopaedic patients: a comparison of 2 diagnostic algorithms. J Rehabil Med. 2025 Mar 28;57:jrm42051. doi: 10.2340/jrm.v57.42051. PMID: 40151090.   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 池本大輝 准教授 松本大輔 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: d.matsumoto@kio.ac.jp 地域リハビリテーション研究室ホームページ

2025.03.31

令和6年度卒業証書・学位記・修了証書授与式を行いました。

2025年3月13日(木)、春の陽気を感じる温かさのなか「令和6年度卒業証書・学位記・修了証書授与式」が冬木記念ホールで挙行されました。   健康科学部308名(理学療法学科68名・看護医療学科92名・健康栄養学科91名、人間環境デザイン学科57名)、教育学部現代教育学科188名、大学院30名(健康科学研究科修士課程30名、健康科学研究科博士後期課程2名、教育学研究科修士課程3名)、助産学専攻科9名、臨床細胞学別科8名の合計543名が門出の日を迎えました。     冬木記念ホールにて卒業生・修了生全員が一堂に会し、保護者の皆さまには別会場より中継を通じて授与式の様子を見守っていただきました。キャンパスには華やかな袴姿や笑顔があふれ、共に学び高め合った学友たちと手を取り合い写真撮影する様子が見られました。             午前10時に開式し、国歌斉唱、学歌斉唱の後、壇上で学科・大学院・専攻科・別科ごとの代表者に卒業証書・学位記・修了証書が授与されました。引き続いての学長表彰では、特に優秀な成績を修めた各学科学生1名が表彰を受けました。             冬木正彦学長による式辞、広陵町副町長 松井 宏之様、畿央大学後援会長 中永 和美様、畿桜会(同窓会)副会長 川口 忠輝様より祝辞をいただきました。         その後、在校生を代表して健康栄養学科3回生の有馬 実優さんが送辞を、卒業生を代表して現代教育学科4回生の岡 未知さんが答辞を述べ、厳かな雰囲気でおこなわれた式典は、幕を閉じました。         式典終了後は学科・院・別科・専攻科ごとにわかれ、卒業生・修了生一人ひとりに卒業証書・修了証書が手渡され、時間をともに過ごしてきた教員陣から祝辞として今後の社会での活躍に向けてエールが送られました。                                     午後からは帝国ホテルに会場を移し、学科をこえて教員・卒業生・修了生が卒業パーティーに参加。全員で集まる最後の時間を惜しみながら、4年間を振り返り、交流を深めました。     卒業生・修了生の皆さん、本当におめでとうございます。これからそれぞれの場所に進み、更に成長した姿を見せに母校に戻ってきてくださることを心待ちにしています。 皆さんの新天地でのご活躍を教職員一同、心から祈っています。   【関連記事】 令和5年度卒業証書・学位記・修了証書授与式を行いました。

2025.03.25

日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 2nd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター

2025年3月16~19日に、奈良で日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 2nd Meetingが開催されました。   ▼ 昨年度の様子はこちら ▼ 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 1st Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター   CREST:国立研究開発法人科学技術振興機構による戦略的創造研究推進事業 ANR:The French National Research Agency (ANR) NARRABODY:Narrative embodiment: neurocognitive mechanisms and its application to VR intervention techniques (ナラティブ・エンボディメントの機序解明とVR介入技術への応用)   CRESTは国内の競争的科学研究費としてはトップに位置するもので、本学森岡周教授らの日仏合同研究チームが2.74億円(5年6ヵ月/3研究室合同)の研究費を取得しています。   【プレスリリース】森岡周教授らの共同研究が2023年度 CRESTに採択されました。 1日目:3月16日(日) □Information Exchange Meeting 2日目:3月17日(月) Morning Session (Shogo TANAKA, Chair) □Opening (Sotaro Shiomada) □Jean-Michel ROY: The Narrabody project and the minimal/narrative self distinction   <Interview Reports> □Shingo MITSUE: What is the experience of improvement in walking ability in a hospitalized person with stroke?-A descriptive phenomenological case report- □Shogo TANAKA: Interview Analysis of Patient B (a case of movement disorder in the left upper limb) □Eric CHABANAT, Shotaro TACHIBANA: (TBA)   Afternoon Session (Shu MORIOKA, Chair)   <Research Progress Reports> □Hugo ARDAILLON: Temporal Dissociations in the Recovery of Anosognosia: Evidence from a Longitudinal Study of Two Cases □Sébastien MATEO: Updates about the FLY study □Yuki NISHI: State transition model for freezing of gait in Parkinson’s disease □Kazuki HAYASHIDA: Embodiment during walking   ▼2日目はホテル日航奈良の百合の間でミーティングが実施されました。 3日目:3月18日(火) Hospital Visit □Nishiyamato Rehabilitation Hospital   Afternoon Session (Sotaro Shimada, Chair)   <Research Progress Reports> □Eric CHABANAT: Self-efficacy in rehabilitation among brain-injured patients □Shotaro TACHIBANA: Cross Cultural Adaptation Method to establish the Japanese version of Self-efficacy questionnaire □Yuanliang ZHU: Prism exposure and self efficacy of upper limbs (experiment updates) □Katsuki HIGO: Distinct roles of the premotor and occipitotemporal cortices in the full-body illusion □Yoshiki FUKASAKU: Influence of VR Avatar Operation on Fine Motor Function: Investigating the Mechanism with a Focus on Character Change □Miyuki AZUMA: Integrative Measurement of the Rubber Hand Illusion: A Phenomenological Interview and Brain Connectivity Approach   Online Session (Shotaro Tachibana, Chair) □Sotaro SHIMADA: Conceptual Framework for Narrative Embodiement □Discussion on Interview Reports □General Discussion   ▼ 3日目は奈良春日野国際フォーラムの会議室でミーティングが実施されました。 4日目:3月19日(水) Extra Session □Discussion □Closing   ▼ 奈良公園で記念撮影をしました。   NARRA BODYプロジェクトの一環として、第2回NARRABODYミーティングが開催されました。本ミーティングには、日本側から嶋田総太郎教授(明治大学)、森岡周教授(畿央大学)、田中彰吾教授(東海大学)をはじめ、多くの共同研究者や大学院生が参加しました。フランス側からは、Jean-Michel ROY教授(ENS-Lyon)、Eric CHABANA助教授(リヨン大学)、Sébastien MATEO准教授(リヨン大学)をはじめ、Shotaro TACHIBANA研究員(リヨン大学病院)など、多くの研究者および大学院生が参加し、学際的な議論が展開されました。   今回のミーティングでは、本研究課題の核となるナラティブ・エンボディメントの概念的枠組みを筆頭に、基礎研究、パイロットスタディ、ケーススタディの報告、研究計画の共有など、それぞれの研究の詳細について活発な議論が交わされました。そして各研究には共通点も多く見出され、合同研究への発展に向けた新たな視点や洞察が得られました。これにより、日仏双方が取り組む課題の方向性がより明確になり、今後の研究の発展に向けた具体的なアプローチが再形成される重要な契機となりました。   また、西大和リハビリテーション病院における臨床見学や患者インタビューを通じて、日仏の医療制度や文化的・社会的背景について理解を深める機会が提供されました。この経験を基に、現象学的グループの主要課題であるナラティブデータを通じた患者のナラティブ遷移モデル構築に向けて、適合除外基準や測定期間の再調整に関する議論が活性化されました。特に、インタビューを用いた研究は、リハビリテーション現場への直接的な還元のみならず、「自己」や「ナラティブ」といった哲学的な探求をさらに深化させる可能性を秘めています。   さらに、フランス側の研究者たちは、科学的な議論において卓越した知見を提供してくれただけでなく、ミーティング期間中には細やかな配慮をしてくださいました。彼らの温かい人柄と深い思いやりに触れたことで、研究交流を通じた人的ネットワークの重要性を再認識する貴重な機会となりました。   本ミーティングは、NARRABODYを通じた認知神経科学、哲学(現象学)、ニューロリハビリテーションの今後の発展において、極めて重要なステップとなりました。学際的な連携をさらに強化し、今後の研究の深化と発展に向けた礎を築くことができたといえます。   ▼ Online Session時に集合写真の撮影をしました。 関連記事 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 1st Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 森岡周教授らの共同研究が2023年度 CRESTに採択されました。 

2025.03.04

求心路遮断性疼痛へのミラーセラピーが脳筋コヒーレンスを増大させる-Proof of concept study-~ニューロリハビリテーション研究センター

不慮のバイク事故などで腕神経叢を損傷してしまうと、上肢の感覚・運動機能が麻痺するだけでなく、激しい痛みが生じることがあります。この痛みは求心路遮断性疼痛と総称されており、これは生活の質に大きな影響を与えます。畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 瀬川 栞 氏、大住 倫弘 准教授の研究グループは、求心路遮断性疼痛を有する腕神経叢引き抜き損傷者を対象に、ミラーセラピー実施中の筋電図・脳波を計測し、ミラーセラピーによって痛みが緩和している時には脳-筋コヒーレンスが増大していることを報告しました。この研究成果は国際学術誌 Frontiers in Human Neuroscience(Case report Exploring cortico-muscular coherence during Mirror visual feedback for deafferentation pain a proof-of-concept study)に掲載されています。 研究概要 不慮のバイク事故などで腕神経叢を損傷してしまい、上肢の感覚・運動麻痺が生じるだけでなく、激しい痛みをともなうことがあります。この痛みは求心路遮断性疼痛と総称されており、これは生活の質に大きな影響を与えます。そして、この求心路遮断性疼痛は脳の誤った活動によって増悪すると考えられています。この誤った脳の活動を是正するためのリハビリテーションツールとして “ミラーセラピー” が有名です。これは健常な手を鏡に映しながら運動をすることで惹起される「あたかも麻痺している手が動いているような」錯覚を利用したもので、脳の活動を正常に戻すようなリハビリテーションツールとして知られています。これまでの研究でも、ミラーセラピーを活用したリハビリテーションによって求心路遮断性疼痛が緩和したという報告はいくつかありますが、その脳のメカニズムは明らかにはなっていません。そこで、畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 瀬川 栞 氏、大住 倫弘 准教授 の研究グループは、求心路遮断性を有する腕神経叢引き抜き損傷者を対象に、ミラーセラピー実施中の筋電図・脳波を計測し、ミラーセラピーによって痛みが緩和している時には感覚運動領域の脳-筋コヒーレンスが増大することを報告しました。つまり、ミラーセラピーによって求心路遮断性疼痛が緩和する背景には、脳の感覚運動領域における活動と麻痺した筋の活動の同期、これが適正化するというメカニズムがあるということです。     本研究のポイント 求心路遮断性疼痛を有する腕神経叢引き抜き損傷者を対象に、ミラーセラピーを実施中の脳波および筋電図を計測した。 ミラーセラピーによって痛みが緩和すると同時に、感覚運動領域の脳-筋コヒーレンスが増大した。   研究内容 求心路遮断性疼痛を有する腕神経叢引き抜き損傷者2名にご協力頂き、ミラーセラピーをしている時の脳波および筋電図を計測しました。どちらの症例も不全麻痺ながら感覚・運動麻痺があり、求心路遮断性疼痛を有していました。ミラーセラピー実施中には「あたかも麻痺している手が動いているような感覚」が得られ、その時には不十分ながら痛みは緩和しました。そして、ミラーセラピー実施中に筋が収縮している区間の筋電データおよび脳波データ(32ch)を抽出して、それらの同期性(コヒーレンス)を計算しました。その結果、どちらの腕神経叢引き抜き損傷者ともミラーセラピー実施中には対側感覚運動領域の脳-筋コヒーレンスが増大していました。これらは、「感覚運動領域の適正化が求心路遮断性疼痛を緩和する」ことを示唆する結果となります。ちなみに、脳波-筋コヒーレンスは皮質脊髄路の興奮性を間接的に表す指標として知られており、分かりやすく言うと、これが増大するということは脳からの運動指令が麻痺した筋肉へうまく伝わるようになった状態だと考えられます。   本研究の臨床的意義および今後の展開 リハビリテーション現場でも活用されているミラーセラピー、これによる痛みの緩和メカニズム解明の一助になったことは意義があると思います。ただし、今回は症例報告ですので、今後もこのような研究を継続して痛みの緩和をもたらすリハビリテーションのメカニズムを解明していく所存です。   論文情報 Segawa S, Osumi M. Case report Exploring cortico-muscular coherence during Mirror visual feedback for deafferentation pain a proof-of-concept study. Front Hum Neurosci, 2025.   謝辞 西大和リハビリテーション病院 リハビリテーション部 技師長 畿央大学大学院健康科学研究科 客員准教授 生野 公貴   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 瀬川 栞 准教授 大住 倫弘 Tel 0745-54-1601 Fax 0745-54-1600 E-mail m.ohsumi@kio.ac.jp

2025.02.22

急性期運動器疾患患者におけるAWGS2019とISarcoPRMによるサルコペニア該当率の比較~健康科学研究科

高齢化の進行に伴い、サルコペニア*が注目されており、世界的にも数多くの研究が実施されています。我が国では、Asian Working Group for Sarcopenia 2019(AWGS2019)に従ってサルコペニアを診断することが推奨されています。しかし、国際リハビリテーション医学会が提唱した新しいサルコペニアの診断基準としてISarcoPRMがあります。両基準の違いとして、サルコペニアの診断に必須となる骨格筋量の評価方法が異なるという点が挙げられます。AWGS2019では、骨格筋量の評価に生体電気インピーダンス法(Bioelectrical Impedance Analysis:BIA)が主に使用されており、四肢の骨格筋量から身長(m2)で除したSkeletal Muscle Index(SMI)がサルコペニアの骨格筋量評価として用いられております。しかし、急性期運動器疾患患者を対象とした場合、BIAでは手術に伴う浮腫や体内の金属インプラントの影響で、SMIが過大評価されることが問題となります。一方で、ISarcoPRMでは、近年注目されている超音波画像診断装置(エコー)で測定した大腿四頭筋の筋厚をBody Mass Index(BMI)で除したSonographic Thigh Adjustment Ratio(STAR)が骨格筋量評価として用いられます。エコーで評価した筋厚は、浮腫の影響を比較的少なく測定できることがわかっており、BIAの欠点を補える可能性があります。そのため、急性期運動器疾患患者におけるサルコペニア診療においてISarcoPRMの有用性を明らかにすることは重要であると考えられます。 そこで、本学大学院健康科学研究科修士課程の池本大輝、健康科学研究科の松本大輔准教授らは、急性期病院に入院された運動器疾患患者を対象に、AWGS2019とISarcoPRMの両基準を用いてサルコペニアの該当率を調査し、各基準で判定されるサルコペニアの特徴を比較しました。その結果、AWGS2019(40.2%)よりもISarcoPRM(59.1%)の方が、サルコペニアの該当率が有意に高く、AWGS2019では低体重群(BMIが18.5kg/m2未満)での該当率が高く(86.7%)、肥満者(BMIが25kg/m2以上)での該当率が低かったが(7.3%)、ISarcoPRMでは、肥満度に関係なくサルコペニアを判定できることが明らかとなりました。その内容が総合リハビリテーションに掲載されました。 *サルコペニア:加齢に伴う進行性の骨格筋量および筋力低下と定義されており、転倒、骨折、入院、死亡のリスクが高い疾患である。   研究概要 急性期病院へ入院された65歳以上の運動器疾患患者164名を対象に、AWGS2019とISarcoPRMを用いてそれぞれでサルコペニアを判定しました。サルコペニアは、SMIあるいはSTARに基づく骨格筋量低下と握力に基づく筋力低下の両方に該当した場合に判定しました。各サルコペニアの判定項目(骨格筋量、握力)とサルコペニアの該当率を各基準で比較しました。さらに、性別と肥満度別でも各サルコペニアの判定項目の該当率を比較しました。   本研究のポイント AWGS2019よりもISarcoPRMの方がサルコペニアの該当率が高いことが明らかとなりました。 また、AWGS2019では、低体重者の該当率が高く、肥満者の該当率が低く、肥満度に影響される結果でしたが、ISarcoPRMでは肥満度に関係なくサルコペニアと判定できることが明らかとなりました。 近年注目されているサルコペニア肥満*を見逃さずに評価できる可能性が示唆されました。 *サルコペニア肥満:サルコペニアに肥満が合併した病態であり、身体機能障害を伴うだけではなく、代謝障害や動脈硬化が進展しており、心血管リスクが高いと考えられている。   表1.各サルコペニアの判定項目の該当率の比較   表2.肥満度(BMI)別の各サルコペニアの判定項目の該当率の比較   本研究の臨床的意義及び今後の展開 本研究は、我が国で初めてISarcoPRMを用いてサルコペニアの該当率を報告した研究です。本研究の結果より、肥満者では、ISarcoPRMを補完的に用いることでAWGS2019では、見逃されやすいサルコペニア肥満を診断できる可能性があります。これらの知見により、サルコペニア診断におけるエコーの有用性を示唆する研究であると考えられます。今後は、ISarcoPRMにおけるサルコペニアと臨床的な機能予後などとの関連について更なる検討を行い、対象者の皆様に還元できる研究を進めてまいりたいと思っております。 謝辞 研究にご協力いただきました対象者の皆様、共同研究者の方々に感謝申し上げます。   論文情報 池本大輝,松本大輔・他:急性期運動器疾患患者におけるAWGS2019とISarcoPRMによるサルコペニア該当率の比較.総合リハビリテーション 2025; 53(2): 197-205.   問合せ先 畿央大学大学院健康科学研究科 修士課程 池本大輝 准教授 松本大輔 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: d.matsumoto@kio.ac.jp

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