2018年の健康科学専攻(修士課程)の新着情報一覧
2018.10.05
大学院生が第19回認知神経リハビリテーション学会で最優秀賞を受賞!~健康科学研究科
平成30年9月29・30日に門真市民文化会館ルミエールホールにおいて第19回認知神経リハビリテーション学会学術集会が開催されました。大学院生の高村優作さん(博士後期課程)、舞田大輔さん(修士課程)、そして私(寺田萌 修士課程)が参加・発表してきましたので報告させて頂きます。 本学会は「病態を深化する」というテーマで行われました。台風が近付く中での開催でしたが、リハビリテーションに携わる多数の職種の方々が参加され、特別講演、教育講演、シンポジウム、一般演題発表において、脳卒中後片麻痺や高次脳機能障害、神経難病など多岐に渡る領域における、行為の異常の背景にある症例固有の病態理解を深めるための様々な検証作業の提案があり、活発な議論がなされました。 今回私は、「慢性期失行症例におけるジェスチャー観察時の視覚探索特性 ~模倣障害の回復過程における一考察~」という演題で発表を行い、一般演題発表のなかで最優秀賞に選んで頂きました。この発表は、模倣障害を呈した患者様に対して従来の行動面の観察・評価に加えて視線の動きを計測・分析したもので、模倣障害の回復過程における代償戦略を示唆するデータを報告しました。多くの演題の中から最優秀賞に選んで頂けたことは、日頃の取り組みが認めてもらえたことと大変嬉しく思っております。 認知神経リハビリテーションでは、個々の症例の認知過程への介入を基本としており、内省や内観を治療の重要なポイントとして用います。これに併せて、種々の評価結果を客観的データとして把握するために研究的手法を用いることは、正確な病態解釈やより良い介入手段の立案の一助となると感じました。今後も継続する努力を怠らず、リハビリテーションの対象者、さらには社会に貢献することができるように、ますます精進していきたいと思います。 このような経験ができたのは森岡教授をはじめとする多くの方のご指導と畿央大学の支援があってのものです。この場を借りて深く感謝申し上げます。 発表演題 【指定シンポジウム】 ・高村優作「前頭機能や空間性注意の停滞を併発する感覚性失調症例の病態解釈と介入経験」 【ポスター発表】 ・舞田大輔「視覚入力を用いた自己運動錯覚の定量化の試み~Bimanual circle line coordination taskを用いて~」 ・寺田萌「慢性期失行症例におけるジェスチャー観察時の視覚探索特性~模倣障害の回復過程における一考察~」 健康科学研究科 修士課程2年 寺田萌 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターホームページ
2018.10.01
大学院生6名が日本リハビリテーション学会学術大会で発表!
平成30年9月22日(土)・23日(日)に九州大学医学部 百年講堂で第23回ペインリハビリテーション学会学術大会が開催されました。 本学会は「新たなステージへの挑戦 –慢性痛の予防戦略−」というテーマで行われ、これからの慢性疼痛に対する予防策について、産業や地域、病院などの様々な観点から議論がなされました。慢性疼痛に対する心理・情動面の重要性は周知の通りですが、リハビリテーション専門職にしかできない身体機能評価を再考し、確立させていくことの必要性を感じました。 我々の演題名は以下の通りで、いずれも活発な議論がなされました。 【口述発表】 佐藤剛介「経頭蓋直流電気刺激と有酸素運動の併用介入が圧痛閾値および安静時脳波活動に及ぼす影響」 重藤隼人「中枢性感作を有する疼痛患者における疼痛関連因子の特徴」 【ポスター発表】 西 祐樹「慢性腰痛患者における運動学的な姿勢評価システムの構築 –自宅生活と外来での運動の乖離−」 田中陽一「疼痛の日内律動性と内因性要因の関連 –疾患・疼痛病態の異なる3症例での検討−」 藤井 廉「労働者の重量物持ち上げ動作時の運動恐怖と運動学的因子の関連性 −三次元動作解析装置を用いて−」 長倉侑祐「Neglect-like symptomsを呈した手指術後症例における両手協調運動の低下に対する一考察」&「骨折後急性・亜急性期患者における内受容感覚の精度と認知・情動との関連性について」 本学会を通して、慢性疼痛の病態やメカニズムが明らかとなってきている中で、今後はより具体的にどのように介入していくかを検証するとともに、有効な介入方法をスタンダードとして社会にどのように発信していくかが重要な課題であるように感じました。 今後も研究室の痛み研究メンバーと一丸となって、課題解決の糸口を見出すよう、更なる研究活動に取り組んでまいります。 このような貴重な経験ができたのは森岡教授をはじめとする多くの方のご指導と畿央大学の支援があってのものです。この場を借りて深く感謝申し上げます。 畿央大学大学院健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室 修士課程2年 藤井 廉
2018.09.29
大学院生が国際疼痛学会(IASP 2018)でポスター発表!
国際疼痛学会が9月12日〜16日にボストンで開催されました。 世界中から集まった研究者が痛みという一つの症状を様々な視点で研究し、いたるところでディスカッションが行われていました。博士課程の片山脩さんと私(西 祐樹)もポスター発表を通して様々な意見交換を行い、有意義な時間を過ごすことができました。 また、マサチューセッツ工科大学博物館にて「The Beautiful Brain」というテーマで展示会が催されていたので行かせていただきました。ニューロン説を唱え神経科学・神経解剖学の基礎を築きあげたSantiago Ramon Cajalがスケッチした神経細胞の原画3000点以上の中から80点が展示されていました。未知の事象を当然の知識に昇華させる背景にはたゆまぬ努力と発見があることを肌身に感じ、襟を正す思いになりました。 このような貴重な経験ができましたのも森岡教授、大住助教をはじめとする研究室の方々の日頃のご指導と、畿央大学の手厚いご支援の賜物であり、ここに深く感謝致します。 畿央大学大学院博士後期課程 西 祐樹
2018.09.27
「第1回リハビリテーションのための姿勢運動制御研究会」を開催!~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
平成30年9月15日(土)、畿央大学にて「第1回リハビリテーションのための姿勢運動制御研究会」が開催され、総勢122名の参加者による活発なディスカッションが行われました。 本研究会は、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター公募研究会制度の承認と支援を受けて初めて開催されたものであり、会の目的として「リハビリテーションにおける姿勢運動制御分野の若手研究者と療法士を対象としたオープンな研究会を開催し、臨床で示される現象に対する解釈や検証を、科学的態度をもって議論できるプラットフォーム構築、および今後の研究コミュニティの構築を目指す」ことを掲げています。そのため、研究会運営幹事は若手の研究者かつ理学療法士ら(代表:植田 耕造・畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター客員研究員)で構成されており、会の企画・運営についても若手が高い自由度をもって主体的に行いました。 研究会の内容は、特別講演として首都大学東京の樋口貴広 教授に「知覚運動制御の最先端とリハビリテーションへの示唆」、そして、本研究会の世話人でもある畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの岡田洋平 准教授からは「パーキンソン病の歩行運動制御とリハビリテーション Up To Date」と題した講演を頂きました。どちらの講演も、現在進行形で取り組んでおられる未発表の研究データや試行錯誤段階にある実験データを含むものであり、一方向的な講演として終わることなく、フロアの参加者との質疑やディスカッションが活発に交わされました。 その後は、若手講演として運営幹事ら4名より現在取り組んでいる最新の研究内容を紹介させて頂きました。 ① Lateropulsionに対する直流前庭電気刺激の影響(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター、星ヶ丘医療センター:植田耕造) ② 脳卒中患者の前庭動眼反射と姿勢制御機能(佐賀大学,白石共立病院:光武翼) ③ 片脚立位姿勢制御の発達 -体重心と足圧中心を用いた分析-(北海道大学大学院:萬井太規) ④ 歩行学習の効果的な臨床応用に向けて ‐学習効果と神経生理学的視点からの考案‐(京都大学大学院、関西リハビリテーション病院:北谷亮輔) いずれの研究もリハビリテーションの臨床を強く意識したものであり、そして、姿勢運動制御を共通のキーワードとしつつも、多岐に渡る研究内容となっていました。各研究で掲げられている臨床課題にアプローチするための科学的な手続きまでも紹介され、得られた最新の知見とともに参加者全体で共有できたかと思います。 最後には、本研究会のメインプログラムであるポスターセッションが行われました。ここでは若手講演の内容をポスター掲示し、忌憚ない密なディスカッションを交わすとともに、25演題もの多くの一般演題が発表されました。2つのポスター会場で約1時間半もの間、非常に活発なディスカッションが繰り広げられ、参加者からは「時間がもっと欲しい」という声が出るほど有意義なものでした。 本研究会は、企画当初は40~50名の参加人数で考えておりましたが、その予想を大きく上回り、総勢122名の参加者、29のポスターディスカッション(一般演題25,若手講演のポスター掲示4)という盛会とすることが出来ました。参加者および演者の皆様に心より感謝申し上げます。今後もこのような参加者間のディスカッションやコミュニティ構築を主たる目的とした機会を設けることができればと考えておりますので、どうぞ宜しくお願いいたします。また、当初の予想を大きく上回る申込み状況から早期に受付を締め切るという事態になってしまい、ご迷惑をおかけしましたこと改めてお詫び申し上げます。 最後になりましたが、ご講演を賜りました樋口先生、岡田先生、そして参加者、演者の皆様、畿央大学および畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターのご支援に深く感謝申し上げます。 リハビリテーションのための姿勢運動制御研究会 石垣 智也(畿央大学大学院 客員講師) 【関連リンク】 9/15(土)第1回リハビリテーションのための姿勢運動制御研究会のご案内 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
2018.09.18
11/25(日)理学療法特別講演会「心疾患併存患者の理学療法におけるリスク管理」を開催します。
畿央大学卒業生向けのリカレント教育(卒後教育)を兼ねて行われている「理学療法特別講演会」。今年は独立行政法人国立病院機構 姫路医療センターの鈴木裕二先生(本学理学療法学科3期生)に、心疾患併存患者の理学療法におけるリスク管理についてお話し頂きます。なお、本講演は受講料1000円にて卒業生以外の医療関係者にも公開させて頂きます。 ▲昨年の様子 日 時 2018(平成30)年11月25日(日)10:30~12:00 (10:00~受付) 会 場 畿央大学 L棟1階 L103講義室 講 演 心疾患併存患者の理学療法におけるリスク管理 講 師 鈴木 裕二 氏 /理学療法学科3期生 独立行政法人国立病院機構 姫路医療センター勤務 受講料 無料(卒業生以外は1000円) 懇親会 (卒業生のみ) 12:30~14:00 講演会終了後、懇親会を予定しています。軽食・ソフトドリンクを用意しています(無料) 申込方法 下記①~⑥を明記の上、E-mail、ハガキ、FAXのいずれかでお申し込みください。受講証の発行は致しません。当日、直接受付にお越しください。 ①氏名(ふりがな) ②卒業年度 ③住所(郵便番号から) ④電話番号 ⑤メールアドレス(お持ちの方) ⑥所属先(団体名、病院名等) 申込締切 2018年11月20日(火)必着 申込先 〒635-0832 奈良県北葛城郡広陵町馬見中4-2-2 畿央大学 広報センター 理学療法特別講演会係 FAX : 0745-54-1600 E-mail:dousoukai@kio.ac.jp (件名に「理学療法特別講演会」と明記) 問合せ先 TEL:0745-54-1603(担当:畿央大学広報センター増田、鈴木、伊藤) ※公共交通機関を利用してご参加ください。
2018.09.14
第4回畿央大学シニア講座「肩こり・腰痛を運動でやわらげる」を開催しました。
平成30年9月12日(水)、畿央大学では地域のシニア世代の方々を対象に、「健康」と「教育」について学びを深めるための「畿央大学シニア講座」を開催しました。恒例となったこの講座は、今回で4回目の開催となります。 今回は「肩こり・腰痛を運動でやわらげる」と題して、昨年に引き続き、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘先生が講師となっていただき、参加者32名の皆さまに最近の知見を学んでいただきました。 まず、講義形式で配布資料を確認しながら「腰痛のメカニズム」や「痛み」について学びました。参加者の皆さんは日々生活する中で、体の痛みと付き合いながら生活をされているためか、講義内容に熱心に耳を傾けておられました。 少し休憩をはさんだ後、実際に参加者の方々と一緒に、腰痛の方でもできる簡単な運動・ストレッチを行いました。また大住先生から、『毎日少しだけでも簡単な運動(ストレッチ)をしていただくことが大切なこと、またストレッチすることで痛くなるのであれば無理をする必要はありません』、とアドバイスもありました。ストレッチする前とした後での身体の反り具合の違いに感動される方や、「体がスッキリした」とご満足頂く参加者の方が多く見受けられました。 講座終了後も、ストレッチの具体的な方法や、また自分自身が腰痛に効果があると思い実践していることは本当に効果があるのか、正しい方法なのか等、熱心に質問されている様子も見られました。 参加者の方からは、「痛みの原因を正しく把握することが大切、ということを認識できた」「今までは腰痛がひどくて運動はやってはいけないと思っていたが、今日お話をお聞きして運動が良いことが分かりました」「軽い運動で改善が期待出来ます」などの声を数多くいただき、第4回シニア講座はご好評のうちに終了しました。 畿央大学では今後も地域社会と連携し、様々な形で地域貢献、社会貢献に取り組んでまいります。 【関連記事】 第3回畿央大学シニア講座 第2回畿央大学シニア講座 第1回畿央大学シニア講座
2018.09.11
大学院生の発表演題が「視覚科学フォーラム2018」で優秀発表賞に選出!
2018年9月5日(水)から2日間、立命館大学大阪いばらきキャンパスにて視覚科学フォーラム2018第22回研究会に参加してきました。この研究会は前健康科学研究科長である金子章道先生(畿央大学栄誉・名誉教授)が立ち上げに関わられた研究会で、網膜生理学研究の討論の場として、生理学研究所の研究会として発足されました。現在では日本全国の視覚研究者が参加・議論する場として発展されています。 今回私は、「異なる構成要素からなる動画提示時の半側空間無視の視線特性」という演題で口述発表を行い、優秀発表賞に選んでいただきました。この発表では、動画提示時の視線分析により半側空間無視の症状特性を知るために、Graph-Based Visual Saliency(Harel et al., 2006)を用いて注視点をスクリーン画像の顕著性(サリエンシー)の分布と併せて解析しました。動的顕著性にどの程度影響を受けているかを分析した結果、無視症例は右空間の顕著性に視線が惹きつけられやすいことを報告しました。 視覚研究のエキスパートの方々に選んで頂けたこと、大変うれしく思っております。 さらに、なんと受賞後には以下のようなコメントを金子先生から頂くことができました…! 『畿央大学で森岡先生や河島先生ご指導の研究成果がその領域の人たちに認められたことは、畿央大学に関係した一人としてとても嬉しく思いました。これからも優れた研究を発表されることを期待しておりますし、また学位も取れますよう祈っております。一言お祝いまで。』 金子先生の授業で、ご自身の網膜に関する研究について目をキラキラと輝かせながら楽しそうにお話しされていたことがとても印象に残っており、年齢を重ねてもいつまでも知的好奇心に溢れて楽しまれている先生の姿にとても感銘を受けたことを覚えています。そのような金子先生にも喜んで頂き、またこのようなお祝いのお言葉を頂けて、これまでにない幸せを感じております。 この場をお借りして、金子先生、森岡周教授、現職の上司である河島室長に心から感謝申し上げます。今後も精進し、これからも多くの方々に支えられながら、無視症状に悩まされる当事者の方々に少しでも還元できるような研究に取り組んでいきたいと思います。 博士後期課程 大松聡子
2018.09.10
第9回呼吸・循環リハビリテーション研究大会レポート
田平研究室(大学院)健康科学研究科修士課程の酒井です。 2018年8月25日(土)・26日(日)の2日間で「第9回呼吸・循環リハビリテーション研究大会」を奈良県奈良市の平城宮温泉かんぽの宿奈良で開催いたしました。 本研究大会は毎年、田平教授をはじめとした研究室の在学生と卒業生で行なっており、今回は計14名の参加で開催しました。 参加者は現在進めている研究についての進捗状況や今後の研究テーマについての発表などを行いました。また、修士課程・博士課程に在籍している私を含める5名は修士論文や博士論文の研究テーマについて発表を行い、研究についての今後の進め方、発表の仕方、まとめ方などについてご指導していただけました。臨床とは違い、研究での学術的な発表はデータをふまえてどのように構成するかでインパクトが変わり、分かりやすくなるので、今回のご指摘を今後の中間報告会や修士論文作成に繋げていけるようにしたいと考えています。大学や大学院の卒業生も様々な研究テーマで基礎研究から臨床研究などの発表があり、すごく有意義な研修となりました。普段私の勤務している病院では外科手術は少なく、高齢者肺炎や心不全といった疾患の患者様を診ることが多く、肺切除術や肺移植などの研究報告などでは切除範囲や薬物療法などによってリハの効果が変わるのではないかとの指摘や肺移植での知見を知る事ができ、新しい刺激を受けた研修となりました。 夜は懇親会を行いました。研究での悩みだけでなく、普段の臨床での疑問点や状況など聞くことも出来ました。それぞれの病院・施設などの現状を聞けるのは、それだけで価値のある時間と感じました。今後、診療報酬や病院機能も目まぐるしく変化する中で、情報交換ができる場があるというのは非常に喜ばしい事であり、また視野が広がるのではないかと感じました。 今後も臨床から疑問を持ち、医療・介護の動きに目を向けながら、臨床家でありながら研究者としても取り組んでいけるようにしたいと思います。次回も開催されますので、是非たくさんの参加をお待ちしております。 畿央大学大学院 修士課程 健康科学研究科 酒井 直樹
2018.09.03
教育学部教員による書評~森岡周教授著「コミュニケーションを学ぶーひとと共生の生物学ー」
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター長の森岡周教授が執筆した「コミュニケーションを学ぶ -ひとの共生の生物学-」について、森岡教授が担当する教育学部3年次後期配当「発達障害教育特論」で対談形式の授業を行っている教育学部現代教育学科大久保賢一准教授より書評が届きました。 本書の目的は「人間」を理解することである。人と人との間で繰り広げられるコミュニケーションを主題としながら、社会の成り立ちや有り様を描き、「人間らしさ」とは何かということに迫る。著者は、様々なレベルにおける「相互作用」にフォーカスし、重要な先行研究を引用しつつ、巧みにそれらの知見について解説していく。 まずフォーカスされるのは、神経細胞間の相互作用である。細胞同士がシナプスによって結ばれることによって神経システムが形成され、様々な神経伝達物質や電気信号のやり取りが絶えず行われ、それが感覚や運動の基盤となっていることを理解することができる。つまり、「細胞間のコミュニケーション」が我々のあらゆる活動の土台となっているのである。専門外の読者には、一見取っ付きにくい内容に思えるかもしれないが、美しいイラストや様々な具体例が用いられ、わかりやすく解説されている。本書は、優れた生物学、あるいは生理学のテキストとしての側面を持つといえる。 次にフォーカスされるのは、人と人との相互作用である。本書においては、その基盤となる言語、メタ認知、記憶、共同注意、心の理論、共感、アフォーダンスといった重要な事項について、様々なトピックの中で、その基盤となるメカニズムについて解説されている。本書は、基礎的な心理学のテキストとしての側面を持つといえる。 フォーカスの対象は「集団」へと拡げられる。それは個人と集団の相互作用、集団内における個人間の相互作用、あるいは集団間の相互作用である。著者はアリを例にあげ、捕食されるリスクと餓死リスクを同時に最小化するために社会的分業を生み出した超個体(super organism)としての組織プロセスについて解説している。集団内において個体同士が相互作用し、連携・連動・分業を行いながらある目的を共有して組織として機能している様子は、個体内における神経システムのそれによく似ていると感じられる。本書は、先駆的な社会学のテキストとしての側面を持つといえるであろう。 皮膚の内側、対人関係、そして社会や組織といった様々な次元における「コミュニケーション」について分析し、「わたし」という自己に対する意識、「あなた」という他者の理解、そして人間社会の有り様を描き出し、さらにそれぞれが相互作用をしているというダイナミズムを体感することができる。さらに本書においては、より発展的なコミュニケーション論として、ゴシップ、文学、儀式、芸術、SNS、拡張現実、AI、機械学習などにも触れられており、現代的なトピックについても「コミュニケーション」という切り口から分析されている。 さらに本書の特徴としてあげられるのは、一見「コミュニケーション」という主題との関連性が見えづらい「身体」の役割について重点的に取り上げられている点である。これは著者の理学療法士としての経歴が影響しているのかもしれない。例えば「共感」といわれるプロセスにおいて、表情、姿勢、動きの同調が影響しており、乳幼児期における手さしや指さしといった身体の動きが、共同注意(joint attention)において重要な役割を果たしていることが指摘されている。 友人、家族、恋人など様々な対象において、あるいは学校や職場など様々な状況において「コミュニケーション」は重要な役割を果たしており、また同時にそれは我々の重大な悩みの種でもある。本書はそのようなコミュニケーションに関わる悩みに対して具体的に指南をしてくれるようないわゆる「ハウツー本」ではない。本書は「自然現象」としてのコミュニケーションを科学的に解説したものである。それは「なぜ人々がそのように行動するのか?」を知るための材料となり、様々な問題を抱える者の困難性を科学的に理解し、効果的に支援するための材料となるだろう。 現代教育学科 准教授 大久保賢一 【関連記事】 脳科学×特別支援教育で教員特別対談!~現代教育学科「発達障害教育特論」(2017年) 「発達障害教育特論」で理学療法学科と現代教育学科の教員が特別対談!~現代教育学科(2016年)
2018.08.27
脳卒中後に運動ができなくなる仕組みに新たな発見~ニューロリハビリテーション研究センター
麻痺がないのにできない?「失行症」のメカニズム解明に貢献 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター教授 森岡周と同助教 信迫悟志らは、共同研究病院(村田病院,摂南総合病院,共に大阪府)、および明治大学理工学部の嶋田総太郎教授らと共同して、脳卒中後の高次脳機能障害の一つである「失行症(※)」の病態メカニズム解明をめざす研究を実施しました。この研究は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「脳内身体表現の変容機構の理解と制御」の支援を受けて実施されています。 ※失行症:麻痺などの運動障害やその他の認知障害(失語症や失認症)がないにも関わらず、習熟していたはずの行為が遂行できなくなる高次脳機能障害の一つ この度、失行症を有する脳卒中患者では、自分が行った運動とその結果を比較し、誤りに気付き、運動を修正するという脳機能が低下していることを、世界で初めて明らかにしました。 この研究成果は、失行症の病態解明に貢献するだけでなく、失行症からの回復に向けたリハビリテーション技術開発の基礎的知見になるものと期待されます。具体的には、今回の研究で失行症を有する脳卒中患者で低下していることが明らかになった「自分が行った運動とその結果を比較し、間違いがあれば修正するという脳機能」を改善するリハビリテーション技術の開発をめざします。 この研究成果は、Frontiers in Neurology誌 (Distortion of Visuo-Motor Temporal Integration in Apraxia: Evidence From Delayed Visual Feedback Detection Tasks and Voxel-Based Lesion-Symptom Mapping)に掲載されています。 研究概要 失行(Limb-Apraxia)は、麻痺がないにも関わらず、使い慣れたはずの道具を操作したり、普段使用しているコミュニケーション・ジェスチャーを表出したり、他者の動作を模倣することが困難になるという、失語・失認と並ぶ代表的な高次脳機能障害の一つです。 失行の神経学的メカニズムとしては、“道具やジェスチャーを生後から繰り返し使用することで脳内に貯蔵された手続き記憶が障害されたために生じる”とする貯蔵された運動表象障害仮説(Buxbaum、 2017)や“使用したことのない道具であっても創造的に推論することによって使用方法を創発する能力が障害されたために生じる”とする技術的推論能力障害仮説(Osiurak and Badets、 2017)などが有力視されていますが、決定的な解明はなされていません。 しかしながら、運動表象障害仮説であっても技術的推論障害仮説であっても、感覚情報を統合し、意図的な行為を計画する(意図的運動結果の予測情報を形成する)ことに困難があることに共通点があります。実際、失行を有する患者では、運動イメージやインテンショナルバインディングに問題があることが明らかになっていました。また失行には運動結果の予測情報と実際の感覚フィードバックが時空間的に統合することによって生起する運動主体感(運動した際に、“この運動は自らが引き起こした運動である”という主観的意識)が障害されている可能性が示唆されていますが、それを実証した研究は存在しません。 そこで森岡周教授らの研究グループは、様々な感覚情報間(運動情報を含む)の統合を定量的・客観的に測定することで、こうした失行の病態を明確に浮き彫りにできないかと考え、失行を有する左半球脳卒中患者と失行を有さない左半球脳卒中患者との間で、感覚-感覚(視覚-触覚、視覚-固有受容覚)統合機能、感覚-運動(視覚-運動)統合機能が異なるか否かについて調べました。さらに病巣減算分析およびVoxel-based lesion symptom mapping(VLSM)を実施することで、失行と感覚-感覚/感覚-運動統合障害に共通する病巣を解析しました。その結果、失行を有する患者では、感覚-感覚(視覚-触覚、視覚-固有受容覚)統合機能は保たれているものの、感覚-運動(視覚-運動)統合機能に顕著な低下があることが示されました。感覚-運動統合に困難があるものの、感覚-感覚統合は保たれているという本研究結果は、失行には行為の結果を予測することに困難があることを強く示唆しました。また失行の重症度と感覚-運動統合障害の程度には相関関係があることも示されました。そして、失行と感覚-運動統合障害は、共通して左下前頭回と左下頭頂小葉を結ぶ左腹側-背側運動ネットワーク上の病巣に起因することが明らかになりました。 本研究のポイント ■ 失行を有する左半球脳卒中患者には、運動結果の予測情報と感覚フィードバックを統合する機能に低下がある。 ■ 失行の重症度と感覚-運動統合障害には相関関係がある。 ■ 左下前頭回と左下頭頂小葉を主領域とした左腹側-背側運動ネットワークの損傷は、運動結果の予測を障害し、失行と感覚-運動統合障害の発生を導く。 研究内容 本研究には、失行を有する左半球脳卒中患者(失行群)7名、失行と診断されるレベルではないが失行評価においてエラーが認められた左半球脳卒中患者(偽失行群)6名、失行を有さない左半球脳卒中患者(非失行群)9名が参加しました。 感覚-感覚/感覚-運動統合機能の測定には、共同研究者の嶋田総太郎教授(明治大学理工学部)が開発した視覚フィードバック遅延検出課題が使用され、この課題で抽出される遅延検出閾値と遅延検出確率曲線の勾配が統合機能を反映する指標となりました。遅延検出閾値の延長と勾配の低下は、統合機能が低いことを表します。 図1。 本研究で使用した3種類の視覚フィードバック遅延検出課題 患者は、触覚刺激・受動運動(固有受容覚刺激)・能動運動に対して、その映像(視覚フィードバック)が同期しているか非同期しているかを回答した。 左図は、触覚刺激に対する視覚フィードバックの遅延を検出する課題。 中央図は、受動運動(他者に動かされる)に対する視覚フィードバックの遅延を検出する課題。 右図は、能動運動(自分で動かす)に対する視覚フィードバックの遅延を検出する課題。 図2。 3種類の視覚フィードバック遅延検出課題の結果 検出確率曲線(赤・黄・青線)が、左方に変位し、勾配(傾き)が強いほど、統合機能が高いことを表す。 左図は、3群(赤線:失行群、黄線:偽失行群、青線:非失行群)の視覚-触覚統合課題の成績。中央図は、3群の視覚-固有受容覚統合課題の成績、右図は3群の視覚-運動統合課題の成績。 感覚-感覚(視覚-触覚、視覚-固有受容覚)統合では、3群に差が認められなかったが、視覚-運動統合において、失行群(赤線)は、偽・非失行群(黄線、青線)と比較して、著明な低下(遅延検出閾値の延長、勾配の低下)を示した。 結果、感覚-運動統合課題においてのみ、失行群は、偽・非失行群と比較して、遅延検出閾値が延長し、勾配は低下しました(図2)。このことは、失行群が、視覚-運動統合機能の歪みを有することを意味し、感覚-感覚統合には違いがなかったことから、失行では自己運動の結果を予測することが障害されている可能性が強く示唆されました。また失行の重症度と視覚-運動統合障害の程度は相関関係にありました(図3)。 図3。 失行の重症度と視覚フィードバック遅延検出課題の成績との関係 視覚フィードバック遅延検出課題で得られる遅延検出閾値が延長するほど、そして検出確率曲線の勾配が低下するほど、統合機能が低いことを表す。 左図は、失行の重症度と3課題の遅延検出閾値との相関関係を表す。視覚-運動統合課題における遅延検出閾値(赤□)が延長するほど、失行の重症度が重度となる相関関係を認めた。 右図は、失行の重症度と3課題の検出確率曲線の勾配との相関関係を表す。視覚-運動統合課題における検出確率曲線の勾配(赤□)が低下するほど、失行の重症度が重度となる相関関係を認めた。 本研究では、さらに病巣減算分析とVLSMを実施することで、失行と感覚-感覚/感覚-運動統合障害に関連する病巣解析を行いました。その結果、失行の発症と感覚-運動統合障害の発生が、左腹側-背側運動ネットワーク上の左下前頭回と左下頭頂小葉の損傷に起因することが示されました(図4)。本研究は、左下前頭回と左下頭頂小葉を主領域とした左腹側-背側運動ネットワークの損傷が、運動結果の予測を妨げ、失行と感覚-運動統合障害を導くことを明らかにしました(図5)。 図4。 病巣減算分析とVoxel-based lesion symptom mapping(VLSM)の結果 病巣減算分析とVLSMの結果は、失行と視覚-運動統合障害が共通して、左下前頭回と左下頭頂小葉を中心とした左腹側の前頭-頭頂ネットワーク上の病巣によって生じることを示した。 図5。 要約図 左腹側の前頭-頭頂ネットワークの損傷は、運動結果の予測を妨げ、失行と視覚-運動統合障害を引き起こす。 本研究の臨床的意義および今後の課題 本研究は、視覚フィードバック遅延検出課題を使用することにより、定量的かつ客観的に、失行の感覚-感覚/感覚-運動統合機能を調べました。そのことにより、失行は感覚-感覚統合機能には問題がないものの、感覚-運動統合機能に問題を生じていることを明確に示しました。そして左大脳半球の腹側の前頭-頭頂ネットワークの損傷が、失行と感覚-運動統合障害の共通した病巣であることを明らかにしました。本研究結果は、失行の病態解明に貢献するだけでなく、運動結果の予測の形成を促し、感覚-運動統合を促進する介入が、失行の改善に寄与する可能性を強く示唆しました。 しかしながら、失行は様々な形態(模倣障害、ジェスチャー障害、道具使用障害、系列動作障害など)と多様な誤反応(錯行為、保続、拙劣、誤使用、省略など)を有する複雑な症候です。今後、今回明らかにした感覚-運動統合障害と関連する失行の形態・誤反応とは何かについての横断的研究、失行と感覚-運動統合障害の回復に関する縦断的研究、そして運動結果の予測の形成を促し、感覚-運動統合を促進し、失行からの改善に導くニューロリハビリテーション開発研究を力強く推進していく必要があります。 なお本研究は、新学術領域研究『脳内身体表現の変容機構の理解と制御』のサポートを受けて実施されました。 論文情報 Nobusako S, Ishibashi R, Takamura Y, Oda E, Tanigashira Y, Kouno M, Tominaga T, Ishibashi Y, Okuno H, Nobusako K, Zama T, Osumi M, Shimada S, and Morioka S. Distortion of Visuo-Motor Temporal Integration in Apraxia: Evidence From Delayed Visual Feedback Detection Tasks and Voxel-Based Lesion-Symptom Mapping. Frontiers in Neurology. 2018. 問合せ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 助教 信迫 悟志(ノブサコ サトシ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授/センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp