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健康科学専攻(修士課程)の新着情報一覧

2025年の健康科学専攻(修士課程)の新着情報一覧

2025.06.25

地域リハビリテーション研究室主催 OPENLABOセミナー「地域共生社会におけるリハビリテーション専門職の役割~地域包括ケアから地域共生社会へ~」

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2025.06.25

脳卒中後失行症における感覚−運動統合の障害と保持された明示的行為主体感の乖離~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中後にみられる四肢失行は、運動麻痺や感覚障害がないにもかかわらず、意図的な行為が困難になる高次脳機能障害の一つです。この障害の背景の一部には、運動と感覚の統合の不具合、すなわち「感覚−運動統合」の破綻があるとされていますが、それがどのように「自分が自分の行為を引き起こしている」という感覚(=行為主体感、Sense of Agency: SoA)に影響するかは不明でした。畿央大学大学院の信迫悟志 教授、森岡周 教授らは、嶋田総太郎 教授(明治大学)、前田貴記 講師(慶應義塾大学)らと共同で、左半球脳卒中患者を対象に、「感覚−感覚統合」および「感覚−運動統合」の時間的な処理幅(=時間窓)と、明示的なSoAの時間窓を比較する実験を実施しました。その結果、失行を有する患者では「感覚−運動統合」の時間窓が著しく歪んでいる(=遅延検出が困難)一方で、明示的なSoAの時間窓は保持されていることが示されました。この研究成果は、Frontiers in Human Neuroscience誌(Distorted time window for sensorimotor integration and preserved time window for sense of agency in patients with post-stroke limb apraxia)に掲載されています。   本研究のポイント 失行症を有する患者では、「自己運動」と「視覚フィードバック」との時間的一致/不一致を検出する能力(=感覚−運動統合の時間窓)が著しく歪んでいた。 一方で、「受動運動」と「視覚フィードバック」との時間的一致/不一致を検出する能力(=感覚−感覚統合の時間窓)と「自分の行為によってその結果が生じた」と明示的に感じられる時間幅(=明示的SoAの時間窓)は保持されていた。 感覚−運動統合の時間窓の歪みは失行の重症度と有意に相関していたが、感覚−感覚統合の時間窓や明示的SoAの時間窓にはそのような相関は認められなかった。 感覚−運動統合の破綻とSoAの保持という乖離は、失行患者において高次の認知的補償機構(メタ認知や概念的推論)が働いている可能性を示唆する。   研究概要 脳卒中後にみられる失行症は、運動麻痺や感覚障害がないにもかかわらず、日常生活上の様々な意図的な動作(ジェスチャー、パントマイム、模倣、道具使用)が困難となる高次脳機能障害です。その背景には、自己の運動と感覚的な結果との統合(感覚−運動統合)の障害があるとされますが、それが「自分の行為によって結果が生じた」と感じる意識経験(SoA)にどのような影響を及ぼすかは明らかではありませんでした。 本研究では、左半球脳卒中後の患者を対象に、感覚−感覚統合、感覚−運動統合、および明示的なSoAの時間窓を定量的に測定する2つの心理物理課題を実施し、その関連性を検討しました。その結果、感覚−運動統合にのみ障害がみられた一方で、SoAの時間窓は保たれており、SoAにおける高次認知的補償機構の存在が示唆されました。   研究内容 本研究では、左半球脳卒中患者20名(失行群9名、非失行群11名)を対象に、2つの心理物理課題を用いて、感覚-感覚/感覚-運動統合と明示的SoAの時間窓を比較検討しました。失行の有無はApraxia screen of TULIA (AST)により評価されました。 遅延検出課題: この課題では、参加者には、左示指の受動運動および能動運動に対するその映像フィードバックの遅延を検出してもらいました。映像遅延は0〜600msまでの7段階(100ms刻み)で設定され、各条件下で遅延の有無を強制選択で回答してもらいました(図1)。 その結果、失行群では能動運動に対する視覚フィードバックの遅延を検出する感覚−運動統合の時間窓(能動-DDT)が有意に延長しており(遅延検出が困難),その判断の明瞭さ(能動-steepness)も緩やかであることが示されました。一方で、受動運動に対する視覚フィードバックの遅延を検出する感覚−感覚統合の時間窓(受動-DDT)とその判断の明瞭さ(受動-steepness)には群間差が認められませんでした(図3、図4)。   図1. 遅延検出課題   明示的SoA課題: この課題では、参加者のボタン押しによって、画面上の正方形の図形(□)がジャンプします。ただし、実際にはボタンを押してから□がジャンプするまでに、0〜1000ミリ秒の間で設定された11(100ms刻み)遅延がランダムに挿入されます。各試行の後、参加者は「自分のボタン押しによって□がジャンプしたと感じたかどうか」について、“はい/いいえ”で主観的に回答します。この回答をもとに、どの程度の時間的遅延まで「自分のボタン押しが□ジャンプの原因である」と感じられるか、すなわちSoAが保たれる時間幅(=SoAの時間窓)を定量的に評価しました(図2)。 その結果、失行群と非失行群の間で、SoAの時間窓(PSE)や判断の明瞭さ(SoA-steepness)に有意差は認められず、明示的なSoAは保持されていることが示されました(図3、図4)。   図2. 明示的SoA課題 ※Keio Method: Maeda T. Method and device for diagnosing schizophrenia. International Application No.PCT/JP2016/087182. Japanese Patent No.6560765, 2019.   図3. 遅延検出確率曲線と明示的SoA判断曲線   図4. 群内・群間比較結果   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、脳卒中後失行症を呈した患者において、感覚−運動統合に明らかな障害がある一方で、明示的なSoAは保持されているという乖離を、初めて実証的に示しました。この結果は、SoAが単一の過程ではなく、低次の感覚−運動レベル(予測誤差の検出など)から高次の認知的判断レベル(自己帰属の判断)までの階層的なプロセスで構成されているという近年の理論枠組みを支持するものです。とりわけ、低次レベルに障害があっても高次の判断が保持されうるという点は、SoAの可塑性や補償のあり方を理解するうえで重要な示唆を与えます。本研究は、失行という病態を通じて、ヒトにおけるSoAの生成メカニズムをより深く理解するための貴重な手がかりを提供するものです。   論文情報 Nobusako S, Ishibashi R, Maeda T, Shimada S and Morioka S. Distorted time window for sensorimotor integration and preserved time window for sense of agency in patients with post-stroke limb apraxia. Front. Hum. Neurosci. 2025.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

2025.06.24

日本リハビリテーション医学会学術集会に参加しました! ~ 健康科学研究科 瓜谷研究室

2025年6月13日(金)~14日(土)、国立京都国際会館で開催された第62回日本リハビリテーション医学会学術集会にて、ポスター発表を行いました。 今回の発表テーマは「変形性膝関節症患者の自律神経機能と痛み関連症状との関連性の検討」です。       本研究では、変形性膝関節症(OA)患者における心拍変動(HRV)を指標とした自律神経機能と、痛みに対する認知や機能障害との関連を明らかにすることを目的としました。   臨床の現場でも関心の高い「痛みのとらえ方」や「自律神経の状態」が、どのように影響し合っているかを探る内容であり、多くの先生方に関心を持っていただきました。   ポスター発表では、リハビリテーション科医師、理学療法士、作業療法士、研究者など様々な分野の方々からご意見・ご質問をいただき、非常に実りあるディスカッションをすることができました。中でも、自律神経機能と痛み認知の評価・介入について、現場での応用の可能性について多くのヒントを得ることができました。     また、昨年横浜で開催された学会でお食事をご一緒させていただいた三上教授(今大会の大会長)とも再会でき、とても有意義な時間を過ごすことができました。   ▼ 大会長の三上教授と指導教員の瓜谷教授と共に   今後も、臨床と研究をつなぐ活動を継続し、患者さんの生活の質(QOL)の向上に貢献できるよう努めてまいります。   健康科学研究科  博士後期課程 瓜谷研究室 山野 宏章   関連記事 畿央大学 運動器リハビリテーション学分野 瓜谷研究室 神経リハビリテーション学研究室の学生・教員が World Physiotherapy Congress 2025 で発表 ~ 健康科学研究科 地域リハビリテーション研究室の学生・教員が World Physiotherapy Congress 2025 で発表 ~ 健康科学研究科 第65回日本呼吸器学会学術講演会で『トラベルアワード』を受賞 ~ 健康科学研究科 変形性関節症に関する世界最大級の国際会議「OARSI 2025」参加レポート!~健康科学研究科瓜谷研究室

2025.06.19

パーキンソン病の起立動作能力低下に関連する臨床症状および生体力学的特性の解明~ニューロリハビリテーション研究センター

パーキンソン病(PD)患者の起立動作(Sit-to-Stand: STS)障害は、上肢補助なしで評価することにより、時間延長、起立失敗、離臀(りでん)失敗へと段階的に進行しますが、それぞれの段階に特異的な臨床症状および生体力学的要因は明らかにされていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程の岩井將修氏と岡田洋平教授らは、PD患者と健常者を対象に、上肢補助なしでのSTS動作を床反力計により評価しました。その結果、STS動作の段階的な進行には、体重移動能力の段階的な低下が関連することを示しました。また、STS動作の遅延は、臀部加速などの生体力学的異常と関連し、起立失敗は下肢寡動や足部の早期減速と、また離臀失敗は、姿勢制御機能の低下が強く関連することも示しました。本研究により、PD患者のSTSの障害の早期の進行に伴い、主たる関連要因が変化することが初めて明らかになりました。これらの知見は、動作障害の段階に応じた評価と予防的介入の基盤となるため、臨床的意義が極めて高いものです。本研究成果はMovement Disorders Clinical Practice誌(Clinical and Biomechanical Factors in the Sit-to-Stand Decline in Parkinson’s Disease)(IF: 4.0)に掲載されました。   本研究のポイント パーキンソン病患者の上肢補助なしの起立動作(Sit-to-Stand: STS)を、成功群・起立失敗群・離臀失敗群に分類し、床反力計による生体力学的要因の評価と臨床評価により各段階の特徴を検討した。 STS能力の段階的な低下に伴い、体重移動能力も段階的に低下することが示された。 各段階には特異的な生体力学的要因や臨床症状が関与しており、時間延長には臀部加速の低下、起立失敗には下肢寡動と足部早期減速、離臀失敗ではバランス機能の低下が特に関与することが示された。   研究概要 パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)患者の起立(Sit-to-Stand: STS)動作の障害は、早期から段階的に進行することが知られていますが、各段階における臨床症状や生体力学的特性の違いは十分に解明されていませんでした。PD患者のSTS動作の障害の進行を予防するためには、早期の異常を的確に捉え、その関連要因について理解することは極めて重要です。 畿央大学大学院博士後期課程の岩井將修氏と岡田洋平教授らは、PD患者と健常高齢者を対象に、上肢補助なしのSTS動作を床反力計で解析しました。その結果、PD患者ではSTS動作能力が段階的に低下し、時間延長、起立失敗、離臀失敗へと進行すること、および各段階で異なる主因子が関与することを初めて明らかにしました。具体的には、STS動作の遅延には体重移動能力の低下や臀部加速の異常が、起立失敗には下肢寡動と足部早期減速が、離臀失敗にはバランス機能の低下が関連していました。本研究は、PD患者のSTS障害の進行様式とそれに関与する要因を体系的に明示した初の研究であり、段階別の個別介入設計に資する重要な知見です。   研究内容 本研究では、パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)患者における起立動作(Sit-to-Stand: STS)の障害が、上肢補助なしの動作では、時間延長・起立失敗・離臀失敗と段階的に進行することに着目し、それぞれの段階に関連する臨床症状および生体力学的因子を明らかにすることを目的としました。本研究では、健常高齢者とPD患者を対象に上肢補助なしSTS動作の評価を床反力計上で実施し、健常高齢者群、STS動作成功群、起立失敗群、離臀失敗群の4群に分けました(図1)。     生体力学的指標としては、体重移動能力や加速、減速力やその発揮のタイミング、反復動作の頻度などを計測しました(図2)。また、臨床評価として、各運動症状(Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale part 3:MDS-UPDRS part3)、バランス能力(Mini-Balance Evaluation Systems Test: Mini-BESTest)、下肢筋力の評価を実施しました。     その結果、STS動作の段階的な進行には、体重移動能力の段階的な低下が関連することを示しました。また、STS動作の遅延は、臀部加速などの生体力学的異常とも関連し、起立失敗は下肢寡動や足部の早期減速と、また離臀失敗は、姿勢制御機能の低下が強く関連することも示しました(図3)。     これらの結果から、STS動作の早期の障害の段階的な進行には、臀部から足部への体重移動能力の低下が一貫して関与することが示されたが、各段階において、特異的に関連する運動力学的要因や臨床症状が存在する可能性が示唆されました。本研究結果は、PDのSTS障害の早期の異常を捉え、有効な予防介入戦略を検討する上で基盤となる重要な知見となると考えられます。   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究結果は、PD患者のSTSの早期の障害とその変化、そして関連する臨床症状や生体力学的特性に関する理解を促す基礎的な知見となり、障害の進行を予防するための介入戦略を検討する上で極めて重要な知見である。今後は、本研究結果を踏まえたPDのSTS障害に対する介入の効果検証や着座動作の障害に対する検討も進めていく予定である。   論文情報 Masanobu Iwai, Shigeo Tanabe, Soichiro Koyama, Kazuya Takeda, Yuichi Hirakawa, Ikuo Motoya, Yuta Okuda, Yutaka Kikuchi, Hiroaki Sakurai, Yoshikiyo Kanada, Mami Kawamura, Nobutoshi Kawamura, Yohei Okada. Clinical and Biomechanical Factors in the Sit-to-Stand Decline in Parkinson’s Disease Movement Disorders Clinical Practice, 2025   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 岩井 將修 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 岡田 洋平 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp

2025.06.06

人工膝関節置換術術後患者における術後QOLに関連する複合的因子を調査~運動器リハビリテーション学分野 瓜谷研究室~

近年、人工膝関節置換術術後患者の術後Quality of Life(QOL)に関連する術前要因として性別、Body Mass Index(BMI)、学歴、膝関節の痛み、合併症の数、心理社会的問題が報告されています。また、システマティックレビューでは女性、合併症が少ない事、高いBMIが人工膝関節置換術術後QOL低下の要因として挙げられていますが、術後QOLへの影響度は弱いことが報告されています。関連が弱い要因でも組み合わさることで、術後QOLへの影響が変化する可能性が考えられますが、これらの関係については十分に明らかになっていませんでした。 畿央大学大学院客員研究員の山藤滉己氏、山野宏章氏(宝塚医療大学)、重藤隼人氏(京都橘大学)、鳥澤幸太郎氏(山内ホスピタル)、高﨑博司氏(埼玉県立大学)、瓜谷大輔教授らは、アメリカの変形性膝関節症データベース(Osteoarthritis Initiative;OAI)を用いて、人工膝関節置換術術後患者を対象に術後QOLに関する研究を行いました。その結果、単独で術後QOLに影響を与える弱い術前因子は、他の関連因子と複合的に組み合わさることで単独因子の影響よりも強くなるという関連性をアソシエーションルール分析で明らかにしました。この研究成果は、PLoS One誌(Exploration of combined factors related to quality of life after knee replacement surgery)に掲載されています。   研究概要 変形性膝関節症は、膝のこわばり・不安定性・疼痛を主訴とする代表的な変性疾患です。60歳以上では、画像上80%以上に変形性変化がみられ、約40%が症状を訴え、約10%が日常生活に支障を来すと報告されています。変形性膝関節症に伴う痛みと機能障害は QOLの低下と強く関連します。痛みや機能を改善する治療として人工膝関節置換術が広く行われ、術後QOLの改善が期待されますが、約30%では術後1年経過しても十分なQOL回復が得られません。 近年、人工膝関節置換術術後患者の術後 QOLを左右する術前要因として、性別、Body Mass Index(BMI)、学歴、膝痛の強さ、合併症の数、心理社会的問題などが報告されています。しかし、これら要因はいずれも単独ではQOLへの影響度が弱いとされ、システマティックレビューでも一貫した結論は得られていません。実際には「単独で弱い要因」同士が複合的に組み合わさることで、術後QOLに強い影響を及ぼす可能性が示唆されますが、その組み合わせや影響度の変化は明らかになっていません。本研究の結果、単独で術後QOLに影響を与える弱い術前因子は、他の関連因子と複合的に組み合わさる事で単独因子の影響よりも強くなるという関連性をアソシエーションルール分析で明らかにしました。   本研究のポイント 人工膝関節置換術術後患者の術後QOLに関わる術前因子の複合的な関連性をアソシエーションルール分析で検討した。 単独因子として、術前の合併症の存在が術後2年の身体的側面のQOLに最も関連する因子として抽出された。 複合的な関連性として、術前の身体的側面のQOLが低値、術前の疼痛高値、術前の身体機能低下、立ち上がり能力低下、高齢は他要因と組み合わさる事で単独因子よりも術後QOLへの影響度が高くなりました。   研究内容 本研究の対象は米国のKOA患者のデータベースであるOAIに登録されている4796人の内、KR術前から術後2年間追跡可能であった44名を解析対象者としました。 使用した評価項目は、性別、年齢、BMI、立ち上がりテスト、人工膝関節置換術が片側・両側の情報、合併症(Charlson Comorbidity Index;CCI)、抑うつ症状(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale;CES-D)、関節症状(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index version LK 3.1;WOMAC)の疼痛、こわばり、身体機能、QOL尺度(Short Form12;SF12)の身体的側面(Physical Component Score;PCS)および精神的側面(Mental Component Score;MCS)を使用しました。 各変数は等頻度区間法で「高値」・「低値」の2群に分類し、アソシエーションルール分析を用いて、術前因子と術後QOLに対する影響度および術前因子が組み合わさると術後QOLに対する影響度が変化するかといった複合的な関連性を検証しました。アソシエーションルール分析では信頼度:ルールの正確性、支持度:ルールの出現率、リフト値:ルールの有用性、の3つの指標に基づいてルールを抽出しました。複合的な関連ルールの抽出は、ルールの正確性の指標である信頼度が80%以上、リフト値1.1以上であることを条件に抽出しました。 アソシエーションルール分析の抽出条件を満たしたルールについては、ルールの条件に該当した群を「該当群」、該当しない群を非該当群として分類し、条件変数の該当群と非該当群の比率が統計学的に有意であるかを判断する為に、Fisherの正確確率検定またはχ²検定を実施しました。複合的ルールでは、単独ルールで設定した抽出条件を満たし、分割表の検定で関連を認めた要因が別の要因と組み合わさる事で単独ルールと比較して信頼度、リフト値が高値を示すのかを検討しました。   単独ルール 抽出されたルールは合併症(1つ以上)、術前 WOMAC身体機能高値、術前 WOMAC疼痛高値、術前PCS低値、術前立ち上がり動作不良、高齢、術前 WOMACこわばり高値がリフト値の降順に抽出されました(表1)。分割表の検定において条件変数の該当群と非該当群の比率に有意差を認めた項目は合併症、術前WOMAC身体機能低下、術前WOMAC疼痛高値、術前PCS低値、立ち上がり能力低下、高齢であった。信頼度とリフト値が最上位かつ分割表の検定結果において有意差を認めたルールは合併症(信頼度100%、リフト値1。38)でした。一方、術後1年と2年MCS低値の単独ルール、術後1年PCS低値の単独ルールは抽出されませんでした。     複合的ルール 後2年PCS低値単独ルールで関連を認めたルールが含まれているルールを(表2)と(表3)に示しています。術前PCS低値、術前WOMAC疼痛高値、術前WOMAC身体機能低下、立ち上がり能力低下、高齢は他要因と組み合わさる事で信頼度・リフト値が単独ルールよりも高値を示しました。これらのルールは分割表の検定において条件変数の該当群と非該当群の比率に有意差を認めました。       本研究の臨床定義および今後の展開 本研究の結果は人工膝関節置換術術後患者の術後QOLを評価する際には、術前の単独因子のみを考慮するだけでなく、影響を与える要因は組み合わせによって影響度が変化することを示唆する結果です。本研究は後ろ向き研究であり、他の関連因子(心理社会的側面の問題や社会的因子)を考慮できていません。今後は、日本人を対象に前向き研究を実施し、他の交絡因子を含めた場合の影響について調査研究を進めていく予定です。   論文情報 Santoh K, Shigetoh H, Yamano H, Torizawa K, Takasaki H, Uritani D. Exploration of combined factors related to quality of life after knee replacement surgery. PLoS One.  2025 May 7;20(5):e0323007. doi: 10. 1371/journal. pone. 0323007.  PMID: 40333812; PMCID: PMC12057852.   問い合わせ先 社会医療法人杏嶺会 一宮西病院 リハビリテーション技術部 畿央大学 大学院 健康科学研究科 客員研究員 山藤 滉己 E-mail:k.santo725725@gmail.com 畿央大学 健康科学部 理学療法学科/大学院 健康科学研究科 教授瓜谷 大輔 E-mail:d.uritani@kio.ac.jp

2025.06.06

神経リハビリテーション学研究室の学生・教員が World Physiotherapy Congress 2025 で発表 ~ 健康科学研究科

2025年5月29日(木)~31日(土)に東京国際フォーラムで開催されたWorld Physiotherapy Congress 2025に、神経リハビリテーション学研究室(森岡周研究室)から、博士後期課程2年の三枝 信吾、博士後期課程1年の田上 友希が参加し、それぞれ発表をしてきました。   今回の学会は、規模・熱量ともに圧巻で、世界中から理学療法士や研究者が集まり、会場全体に活気が溢れていました。各国の参加者が一堂に会し、それぞれの臨床や研究の実践を語り合う光景に、理学療法という専門分野が持つ広がりと深みを実感しました。 演題名(発表形式)のご紹介 三枝 信吾氏(東海大学文明研究所、森岡周研究室) 演題名:The meaning of independence in walking for patients with subacute stroke: An interpretative phenomenological analysis (Printed Poster) 田上 友希氏(徳島赤十字病院、森岡周研究室) 演題名:Exploratory study of Functional Factors from Multiple Trunk Function Assessments in Early-Stage Stroke patients (Printed Poster)   両名ともにポスターセッションで研究発表を行いました。英語での発表ということもあり、研究内容をうまく伝えられたかどうか自信はありませんが、それでも少しずつでも自分の考えが相手に伝わったと感じられた瞬間は、大きな励みとなりました。   また、今回の学会で自分が取り組んでいる研究や臨床の意味を、改めて問い直す機会を得ました。そして、何よりも、多くの人が支え合い、繋がりながら専門性を深めているという実感を得たことが最大の収穫です。   今後は、自分の実践や研究をより国際的な視点から捉え直し、世界の理学療法の潮流の中で、自分が何を発信できるのかを模索していきたいと感じています。   最後になりますが、この貴重な機会を得るにあたり、日々の研究を支えてくださった神経リハビリテーション学研究室の皆さま、そして発表に向けて親身にご指導くださった森岡 周教授に、心より感謝申し上げます。   畿央大学大学院 健康科学研究科 博士後期課程2年 三枝 信吾 関連記事 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 地域リハビリテーション研究室の学生・教員が World Physiotherapy Congress 2025 で発表 ~ 健康科学研究科 人工膝関節置換術術後患者における術後QOLに関連する複合的因子を調査 ~ 畿央大学運動器リハビリテーション学分野 瓜谷研究室 ~ 第65回日本呼吸器学会学術講演会で『トラベルアワード』を受賞 ~ 健康科学研究科|KIO Smile Blog 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 3rd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 変形性関節症に関する世界最大級の国際会議「OARSI 2025」参加レポート!~健康科学研究科瓜谷研究室 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 2nd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 第40回日本栄養治療学会学術集会でYoung Investigator Award 2025を受賞 ~ 健康科学研究科

2025.06.04

地域リハビリテーション研究室の学生・教員が World Physiotherapy Congress 2025 で発表 ~ 健康科学研究科

2025年5月29日(木)~31日(土)に東京国際フォーラムで開催されたWorld Physiotherapy Congress 2025に、地域リハビリテーション研究室から高取 克彦教授、松本 大輔准教授、そして私 健康科学研究科 博士課程1年の池本 大輝が参加し、それぞれ発表をしてきました。   World Physiotherapy Congressが日本で開催されるのは1999年の横浜以来で、4半世紀ぶりの世界学会でした。日本で開催されることを知ってから、絶対に行きたいと思っていたので、参加することができて貴重な財産となりました。     今回の学会には5,000人以上の参加者、演題応募が3,355件、メインセッション145件、ePoster 700件近く、印刷ポスター1,400件以上と、今まで参加した学会よりも大規模で圧倒される学会でした。 演題名(発表形式)のご紹介 高取 克彦 教授 Impact of having higher-level life function on “youthful mind” in community-dwelling older adults: A cross-lagged and synchronous effects model(Printed Poster)     松本 大輔 准教授(2演題) Association Among Neighborhood Walkability, Social Participation, and Disability Incidence in Community-Dwelling Older Adults: A 3-Year Prospective Cohort of KAGUYA Study(ePoster)→ Outstanding ePoster Award   Association Between Fatigue and Intrinsic Capacity Among People Aged 20 to Over 100 Years Old from the INSPIRE-T Cohort(ePoster:フランスでの研究)     池本 大輝(博士課程1年) Impact of sarcopenia on gait independence in musculoskeletal disorders: A comparison of two diagnostic algorithms(ePoster)     私は、目標の一つであった国際学会に初めて参加して発表することができました。当日は、楽しみな気持ちがありつつも、不安や緊張といった様々な感情を持ちつつ参加しました。特に、発表は人生で最も緊張したといっても過言ではないぐらいに緊張し、朝食がのどを通りませんでした。いざ発表する時には松本准教授、高取教授、瀧口助教、職場の先輩が見守ってくださっていたので、無事発表することができました。   発表を終えて、研究活動を実施していくには自分一人では限界があり、周りの方々に支えられて実施できていることを改めて実感しました。   ePoster形式の発表は、座長により様々なスタイルであり、私のセッションでは5分間にプレゼンテーションと質疑応答が含まれておりました。発表時間がぎりぎりになってしまいましたが、セッション終了後に海外の方からご質問をいただきました。その際にも松本准教授にフォローをしてもらいながらの対応になってしまいましたが、海外の理学療法士にも興味を持っていただき、今後の研究を進めるモチベーションとなりました。   私の関心領域における発表は、今回は、南米の理学療法士に多く、複数の方々に質問をさせていただきました。苦手な英語でしっかりと質問できているかもわからない中、丁寧に回答していただける海外の理学療法士の優しさに感動したと同時に、自分の伝えたい内容を英語で伝えられるようになりたいと強く感じました。   シンポジウムやレクチャーでは、各国で異なる医療・介護システムで理学療法が提供されていることから、日本とは異なる問題点があり、様々な視点から理学療法を考えることができました。これは国際学会ならではの視点だと思います。同じ理学療法士として理学療法を発展していくためには国際学会へ参加し、刺激をもらうことでよりよい研究を行い、臨床実践していくことが重要だと感じました。   また指導教員である松本准教授は、Outstanding ePoster Awardを受賞され、Closing sessionで海外の理学療法士とともに壇上で表彰される姿はとてもかっこよく、素晴らしい先生にご指導いただけていることを再認識しました。私も将来、このような舞台で表彰されるような発表ができるように博士課程での学習と研究に励みたいと思います。       最後に、今回の国際学会参加・発表にあたり、多大なるご指導をいただいた松本准教授をはじめ、地域リハビリテーション研究室の皆さま、そして日々支えてくださっている職場の皆さまに心より感謝申し上げます。   畿央大学大学院 健康科学研究科 博士課程1年 池本 大輝 関連記事 畿央大学 地域リハビリテーション研究室 人工膝関節置換術術後患者における術後QOLに関連する複合的因子を調査 ~ 畿央大学運動器リハビリテーション学分野 瓜谷研究室 ~ 第65回日本呼吸器学会学術講演会で『トラベルアワード』を受賞 ~ 健康科学研究科|KIO Smile Blog 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 3rd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 変形性関節症に関する世界最大級の国際会議「OARSI 2025」参加レポート!~健康科学研究科瓜谷研究室 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 2nd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 第40回日本栄養治療学会学術集会でYoung Investigator Award 2025を受賞 ~ 健康科学研究科

2025.06.03

6-7歳児における運動イメージの使用は未熟:2つの運動イメージ課題からの証拠~ニューロリハビリテーション研究センター

運動イメージ(motor imagery: MI)とは、実際に身体を動かすことなく、頭の中でその運動を想像する動的な認知プロセスです。MIは「運動の計画と実行に関わる行為表象」とされており、意図形成、運動の計画、運動プログラムの構築という点で、実際の身体運動と機能的に同等であると考えられています。このMIの使用は、成人では十分に発達していることが知られていますが、小児における発達過程は十分に明らかにされていませんでした。畿央大学大学院健康科学研究科の信迫悟志 教授らの研究チームは、6〜13歳の定型発達児を対象に、2種類のMI課題(手の左右識別課題と両手結合課題)を用いて、年齢によるMI能力の発達変化を詳細に検討しました。この研究成果は、Human Movement Science誌(The use of motor imagery in 6–7-year-old children is not robust: Evidence from two motor imagery tasks)に掲載されています。   研究概要 本研究では、6〜13歳の定型発達児50名を対象に、子どもたちがどれだけ正確に手のMIを想起できるかを評価するため、2種類のMI課題を実施しました。1つ目は最も代表的なMI課題である手の左右識別(hand laterality recognition: HLR)課題(図1)で、モニター上に提示されるさまざまな角度・向きの手の画像を見て、それが左手か右手かをMIを用いて判断するものです。この課題では、正答率や正反応時間(RT)に加えて、生体力学的制約(身体の動きにくさ)効果や手の姿勢の効果の有無を指標とし、子どもたちのMIの使用の程度を測定しました。2つ目はニッチなMI課題である両手結合(bimanual coupling: BC)課題(図2)で、次の3条件が含まれます。片手条件:利き手でまっすぐな線を繰り返し描く。両手条件:利き手でまっすぐな線を描きながら、他方の手で同時に円を描く。MI条件:利き手でまっすぐな線を描きながら、非利き手で円を描いているのを頭の中でイメージする(実際には動かさない)。BC課題では、利き手で描いた反復直線を計測し、各条件で描かれた線の歪みの程度を楕円化指数(ovalization index: OI)として算出し、特にMI条件のOIから片手条件のOIを減算した値(イメージ干渉効果: Imagery Coupling Effect: ICE)は、MIが適切に想起できていることの定量指標となります。さらに、微細運動技能も測定し、MIとの関連性も検討しました。     本研究のポイント 6〜7歳児では、どちらの課題においてもMI使用の証拠が明確には見られなかった。 HLR課題では、年齢が上がるにつれてRTの短縮と正答率の向上が認められ、MI能力が発達的に向上することが示された。 一方で、BC課題では、6〜13歳の間でICEに明確な年齢差は見られず、年齢とICEとの間の相関関係も示されなかった。 どちらのMI能力も微細運動技能と有意に関連していた。   研究内容 HLR課題 6〜13歳の子ども50名を対象に、HLR課題とBC課題、および微細運動技能検査を実施しました。得られたデータは、年齢群(6–7歳、8–9歳、10–11歳、12–13歳)間の比較および相関分析を通じて、MIの発達的変化と、MIと微細運動技能との関連を検討するために用いられました。6〜7歳児では、生体力学的制約効果(身体で取りやすい姿勢の手画像でRTが短くなる効果)が見られず、MIの使用が不十分である可能性が示されました(図3)。一方、8歳以上の群では生体力学的制約効果が明確に観察され、年齢に伴ってMI能力が向上することが示されました(図3)。また、正答率やRTにおいても、年齢とともに有意な改善が確認されました(図4)。       BC課題 ICE(片手で線を描きながら他方の手の円描きをイメージすることで線が歪む効果)は、8歳以上では見られたものの、6〜7歳児では観察されませんでした(図5)。ただしICEは、全体的に年齢差が小さく、HLR課題ほど明確な発達的変化は観察されませんでした(図6)。     これらの結果から、子どものMIの発達変化を捉える上で、HLR課題の方がBC課題よりも感度が高い可能性が示唆されました。実際、HLR課題によって測定されたMI指標は、年齢の増加に伴って指数関数的に向上していました。一方でBC課題は、実際の運動遂行に加えて、実行機能やワーキングメモリといった高次認知機能も求められる二重課題です。そのため、年齢とともにMI能力が向上する一方で、運動機能や認知機能の発達により干渉効果が弱まることで、両者がトレードオフの関係となり、結果として年齢による変化が見えにくくなっていた可能性があります。 さらに、微細運動技能とHLR課題におけるRT、およびBC課題のMI条件におけるOIとの間に有意な相関が見られ、MI能力と微細運動技能が関連していることも明らかになりました(図7、図8)。     本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、MI能力が6〜7歳児においてはまだ十分に発達しておらず、年齢とともにその能力が向上することを、2種類のMI課題を用いて明らかにしました。特に、HLR課題は、MIの発達的変化を鋭敏に捉えることができる評価手法であり、MI能力の成熟過程を把握するうえで有用であると考えられます。一方で、BC課題もMIと実際の運動や認知機能との統合的な発達を評価できる手法として有用です。特に、干渉効果の変化は、運動制御や実行機能の成熟を反映する指標となり得ます。MI能力単体の評価にはHLR課題が適していますが、BC課題は、より複合的な認知−運動機能の発達過程を捉えるのに適した課題といえます。 また、MI能力は微細運動技能とも関連していることが示されており、MI評価は運動技能の発達指標としても臨床的意義があることが示唆されました。今後、発達性協調運動障害(DCD)や自閉スペクトラム症(ASD)など、神経発達症の子どもたちに対してMI課題を応用することで、運動障害の特性理解や介入効果の評価、さらにはリハビリテーションや運動学習支援への応用が期待されます。   論文情報 Nobusako S, Tsujimoto T, Sakai A, Yokomoto T, Nagakura Y, Sakagami N, Fukunishi T, Takata E, Mouri H, Osumi M, Nakai A, Morioka S. The use of motor imagery in 6–7-year-old children is not robust: Evidence from two motor imagery tasks Hum Mov Sci. 2025;101: 103362.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

2025.06.03

パーキンソン病患者のベッド動作の自立度低下に関連する要因~ニューロリハビリテーション研究センター

パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)患者は、進行とともにベッド動作(寝返り・起き上がり・寝転がり)の自立度が低下しますが、その関連要因については十分に明らかにされていませんでした。 畿央大学大学院博士後期課程の成田雅氏と岡田洋平教授らは、109名のPD患者を対象に、日中のベッド上動作の自立群/非自立群に分類し、上肢の筋強剛と体軸症状が、すべてのベッド動作の非自立と関連していることを初めて実証しました。また、寝返りの非自立には体幹伸展筋力の低下が関連することも示しました。本研究は、従来明確でなかった各ベッド上動作の自立度低下に関連する要因について包括的に解析し、明らかにした点で新規性があり、ベッド動作の自立度低下を予防、改善するための有効な介入戦略の発展に寄与することが期待されます。この研究成果は、Journal of Movement Disorders誌(Factors associated with the decline ofin daytime bed- mobility independence in patients with Parkinson’s disease: A cross-sectional study)(IF: 2.5)に掲載されています。   本研究のポイント パーキンソン病患者109名を対象に、日中のベッド動作(寝返り・起き上がり・寝転がり)の自立と関連する要因について包括的に検証した結果、上肢の筋強剛と体軸症状が全動作に共通する非自立の要因であることが示されました。 各動作には特異的な要因も存在し、寝返りには体幹伸展筋力が関与し、進行期の起き上がり・寝転がりには認知機能が関与することが示唆されました。 これらの関連要因の理解に基づく介入戦略が、PD患者のベッド動作の自立度低下の予防、改善、介護負担の軽減に寄与することが期待される。 研究概要 パーキンソン病(PD)は、進行に伴ってベッド上での寝返りや起き上がり、寝転がりといった動作が困難になり、自立度が低下していきます。畿央大学大学院の成田雅氏と岡田洋平教授らの研究チームは、日中におけるベッド上動作の自立度に着目し、Hoehn and Yahr stage 2〜4のPD患者109名を対象とした横断的観察研究を実施しました。本研究では、「寝返り」「起き上がり」「寝転がり」の3つの動作について、運動症状(筋強剛、寡動、振戦、体軸症状)、頸部・体幹・股関節筋力、認知機能との関連を包括的に評価しました。 その結果、上肢の筋強剛と体軸症状は、寝返り・起き上がり・寝転がりの全動作に共通して非自立と強く関連する主要因子であることが明らかになりました。さらに寝返りの非自立には体幹伸展筋力の低下も関与していました。Hoehn and Yahr stage 4の患者群に限定した分析では、起き上がりや寝転がりの非自立群において、**Mini-Mental State Examination(簡易認知機能検査)のスコア低値およびTrail Making Test Part A(注意機能検査)**の時間延長がみられ認知機能と注意機能の低下が関連することも示されました。 これらの結果から、上肢の筋強剛や体軸症状に対する介入に加え、個別化した認知機能への支援を含む早期介入が、ベッド動作の自立度維持に寄与する可能性が示唆されました。今後は、これらの関連要因の理解に基づく介入戦略が、PD患者のベッド動作の自立度低下の予防、改善、介護負担の軽減に寄与することが期待されます。   研究内容 本研究は、パーキンソン病(PD)患者における日中のベッド動作の自立度低下に関連する臨床的因子を明らかにすることを目的とした横断的観察研究です。Hoehn and Yahr stage 2〜4のPD患者109名を対象に、寝返り、起き上がり、寝転がりの3つの動作について、左右両方向に3回ずつ実施し、全て自力で完遂できた場合を「自立」、補助(介助やベッド柵利用)を要した場合を「非自立」と判定しました。自立・非自立の判定はビデオ記録に基づき、理学療法士2名が独立に評価し、全例で一致しました。 同時に、運動症状(筋強剛、寡動、振戦、体軸症状)、頸部・体幹・股関節の筋力、認知機能(MMSE、TMT)を評価し、各動作の自立・非自立との関連性を包括的に解析しました。 その結果、すべてのベッド動作において上肢の筋強剛と体軸症状が非自立と有意に関連しており、さらに寝返りでは体幹伸展筋力の低下も関与していることが明らかになりました。     さらに、ロジスティック回帰分析により各動作の非自立を予測する多変量モデルを構築し、寝返り(AUC=0.84)、起き上がり(AUC=0.78)、寝転がり(AUC=0.92)において良好な識別性能が示されました。     また、Hoehn and Yahr stage 4の患者に限定したサブ解析では、起き上がり・寝転がりの非自立群において認知機能が有意に低下しており、Mini-Mental State Examinationスコアの低値およびTrail Making Test Part Aの所要時間延長が、注意・実行機能の低下との関連を示しました。 以上より、PD患者における日中のベッド動作の自立度低下には、上肢の筋強剛や体軸症状に加えて、進行期には注意・認知機能の関与も重要であることが示唆され、今後の有効な介入戦略の構築に向けた科学的基盤となることが期待されます。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、パーキンソン病(PD)患者における日中のベッド上動作の自立度に影響する臨床的因子を、動作ごとに詳細に解析した初の横断的観察研究であり、上肢の姿勢保持および体幹起こしがすべての動作に共通する重要な要因であることを明らかにしました。Hoehn and Yahr stage 4に限定したサブ解析では、起き上がり・寝転がりの両動作においては、認知機能の低下が影響することが示されました。これにより、進行期PDでは姿勢制御機能に加えて認知機能要因が動作自立に大きく影響することが示唆されました。 本研究の臨床的意義としては、患者のベッド上動作の自立の難易度を的確に把握し、動作ごとの課題に基づく介入戦略策定や、自立度低下の予防、改善、介護負担の軽減につなげることが期待されます。 今後は、ベッド上動作の自立に関連する要因を経時的に評価する縦断的調査や、初期・OFF期での動作評価、さらに介入効果の検証にも取り組んでいく予定です。 論文情報 Masaru Narita, Kosuke Sakano, Yuichi Nakashiro, Fumio Moriwaka, Shinsuke Hamada, Yohei Okada Factors associated with the decline in daytime bed mobility independence in patients with Parkinson’s disease: A cross-sectional study Journal of Movement Disorders, 2025   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 成田 雅 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 岡田 洋平 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp

2025.06.03

行為主体感(Sense of Agency)の時間的許容幅は若年成人期に最大となる~ニューロリハビリテーション研究センター

人は自分の行動とその結果を結びつけ、「自分が動かした」「自分が行なった」という感覚――すなわち行為主体感(Sense of Agency: SoA)を日常的に経験しています。このSoAは、実際の動作とその結果の間にどの程度の時間的ズレがあっても「自分の行為の結果」と感じられるかという「時間的許容幅」によって支えられており、この幅が広いほど柔軟で適応的な行動が可能になると考えられます。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授と慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の前田貴記 専任講師らの研究チームは、6歳から83歳までの189名を対象に、このSoAの時間的許容幅が生涯発達の中でどのように変化するかを明らかにしました。その結果、若年成人(20〜25歳)において最も時間的許容幅が広がることが示され、この時期がSoAの発達における重要な転換点である可能性が示唆されました。この研究成果は、Cognitive Development誌(Developmental changes in the time window for the explicit sense of agency experienced across the lifespan)に掲載されています。   本研究のポイント ■若年成人(20〜25歳)では、SoAの時間的許容幅(PSE)が他の年齢群(学齢期児童、青年期、成人、高齢者)よりも有意に長かった。 ■PSEは非線形的な発達パターンを示し、若年成人期にピークを迎える「逆U字型」の軌跡を描くことが示唆された。 ■SoA判断の「明確さ」(傾き)は、高齢者群において若年成人よりも有意に低下しており、加齢に伴う判断精度の低下も確認された。   研究概要 SoAとは「自分がこの行動を起こし、その結果を生んだ」という主観的な感覚を指し、人の自己認識や運動制御において基盤的な役割を果たします。SoAの発生には、行為と結果の時間的・空間的一致や予測とのズレの有無が重要であり、これまでの研究では発達や老化にともなって変化することが示唆されていましたが、SoAの「時間的許容幅(time window)」の生涯発達的な変化を詳細に検討した研究はありませんでした。本研究では、行為と結果の間に導入された時間遅延に対して「自分が動かした」と感じるかどうかを尋ねるエージェンシー判断課題(agency attribution task)を用いて、SoAの時間的許容幅(PSE)を測定し、各年齢群間で比較しました。   研究内容 6歳から83歳までの189名を対象に、SoAの時間的許容幅を測定するためのエージェンシー判断課題(agency attribution task)(図1)を実施しました。この課題では、参加者がビープ音に合わせてボタンを押すと、画面上の四角い図形が一定の遅延時間の後に跳ね上がる視覚刺激が提示され、「自分の操作によって図形が跳ねた」と感じるかを「はい/いいえ」で回答します。遅延時間は0~1000 msまで11段階で設定されており、行為と結果の間に導入された時間的ずれに対する感受性が評価されます。この「自己の行為によって結果が生じた」と感じられる時間の幅(PSE: Point of Subjective Equality)をSoAの時間的許容幅として定量化しました。     その結果、若年成人(20〜25歳)においてPSEが最も長く、他の年齢群と比較して有意に広い時間的許容幅を示したことが明らかになりました(図2)。また年齢とPSEの関係を非線形回帰モデルで解析した結果、SoAの時間的許容幅は加齢に伴って増加したのち再び短縮し、さらに高齢期にかけて再び緩やかに上昇するという逆U字型の発達パターンを描くことが示されました。この結果から、若年成人期がSoAの柔軟性・適応性の発達における転換点である可能性が示唆されました。     本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、SoAの時間的許容幅が発達により変化することを実証的に示した初めての研究であり、特に若年成人期がSoAの柔軟性や適応性の発達において重要な時期である可能性を示しています。この背景には、前頭頭頂ネットワークの神経成熟、自律性の発達、および遂行機能の向上といった要因が関与していると考えられます。今後は、SoAの時間的許容幅と脳の構造的成熟、自律性の発達、実行機能との関係を縦断的に検討し、より包括的な理解を深めていくことが期待されます。また、SoAの障害がみられる発達障害や高齢期の認知症などにおける早期発見・介入指標としての応用可能性も視野に入れた研究展開が望まれます。   論文情報 Nobusako S, Takamura Y, Koge K, Osumi M, Maeda T, Morioka S. Developmental changes in the time window for the explicit sense of agency experienced across the lifespan. Cognitive Development. 2024 October–December 72, 101503.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp