健康科学専攻(修士課程)の新着情報一覧
2017.10.16
大学院生が第41回日本神経心理学会学術集会で発表!~健康科学研究科
平成29年10月12日(木)、13日(金)に東京で開催された第41回日本神経心理学会学術集会に参加・発表してきましたので、私(健康科学研究科 修士課程 林田一輝)から報告させていただきます。本大会は医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理学者など多岐にわたる分野の臨床家・研究者が参加しており、非常に活発な議論がなされていました。 症例報告では、どの先生方も臨床症状について深く考察されており、臨床に対する熱心な態度が伺え、私自身襟を正されました。シンポジウムでは「高次脳機能障害の治療戦略」や「認知モデルと方法論」といったテーマが取り上げられ、神経心理学の方向性が治療、リハビリテーションの実践にあることが示されていました。 また、河村満先生(昭和大学病院附属東病院)から「神経心理学を学ぶ人のために」という題で特別講演が行われました。ブロードマンの脳地図が死後100年経っても残っているように、臨床・研究をわかりやすく表現していく努力が必要であるというメッセージを頂きました。 私は「他者との目的共有が運動主体感と運動学習に及ぼす影響」という演題で発表致しました。本研究は運動主体感を増幅させる手立てを他者関係の視点から探るとともに、運動主体感が運動学習効果に与える影響を調査したものです。フロアから運動主体感・運動学習に関する的確な質問、意見をいただき自身の研究を見直す良いきっかけとなりました。また、自己意識に関する発表に質問・ディスカッションすることで考えや問題点を共有することができ、私にとって今回の学会参加は成功体験となりました。今回頂戴した意見を参考にさらに精度を上げた研究に取り組んでいきたいと思います。 このような貴重な経験ができたのは森岡教授をはじめとする多くの方のご指導と畿央大学の支援があってのものです。この場をお借りして深く感謝申し上げます。今後は研究成果を国際雑誌に投稿し、少しでも還元できるよう努力致します。 健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室 修士課程 2年 林田一輝 ●畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターHP ●畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターFacebook 【関連記事】 ・大学院生が第22回日本ペインリハビリテーション学会学術大会で優秀賞をW受賞!~健康科学研究科 ・大学院生が第10回欧州疼痛学会でポスター発表!~健康科学研究科
2017.09.27
運動‐知覚の不協和が主観的知覚と筋活動に及ぼす影響~ニューロリハビリテーション研究センター
運動-知覚の不協和が運動麻痺の回復を遅らせる重要な要因であることを明らかに 脳卒中後に運動麻痺が生じると“自分の手が思い通りに動かない”、いわゆる運動の意図と実際の感覚フィードバックが解離した状態になります。このことは「運動‐知覚の不協和 (Sensorimotor incongruence)」と呼ばれており、さまざまな問題を引き起こす要因として考えられてきました。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡周教授と大住倫弘特任助教らは、明治大学理工学部の嶋田総太郎教授らと共同で、仮想的に“自分の手が思い通りに動かない”という実験環境を用いて、運動‐知覚の不協和が身体の違和感だけでなく、実際の運動をも変容させてしまうことを実験的に明らかにしました。この研究成果はHuman Movement Science誌(Sensorimotor incongruence alters limb perception and movement)に掲載されています。 本研究は明治大学理工学部 嶋田総太郎教授らと共同で行われたものです。また、文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「脳内身体表現の変容機構の理解と制御」の支援(研究課題番号15H01671)を受けて実施されています。 研究概要 脳卒中によって生じる運動麻痺によって“自分の手が思い通りに動かない”という訴えは臨床現場で非常に多く聴かれます。これは「動かそう」という意図に反して、「実際には動かない」という感覚フィードバックに直面した結果としての訴えであり、「運動‐知覚の不協和」と呼ばれたりします。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡周教授と大住倫弘特任助教らは、明治大学理工学部の嶋田総太郎教授らと共同で、映像遅延システムを用いて仮想的な運動‐知覚の不協和を起こすことによって “手が自分のもののように感じない” “手が重だるくなってきた”という主観的な異常感覚を惹起させるだけでなく、実際の筋活動量も減少させてしまうことを明らかにしました。この研究成果は、運動‐知覚の不協和そのものが運動単位の動員を妨げることを明らかにしたとともに、運動‐知覚の不協和が起こることによって、運動麻痺の回復を遅延させてしまう重要な要因を示したものです。 本研究のポイント 映像遅延システムを用いた実験によって、運動‐知覚の不協和が主観的な異常感覚だけでなく、運動実行までも変容させてしまうことを明らかにした。 研究内容 健常大学生を対象に、映像遅延システム(図1)の中で手首の曲げ伸ばしを反復させます。映像遅延システムでは、被験者の手の鏡像をビデオカメラで捉えて、そのカメラ映像を「映像遅延装置」経由でモニターへ出力させます。出力されたモニター映像を鏡越しに見ることによって自分の手を見ることができるものの、映像遅延装置によって作為的に映像出力が時間的に遅らされるため、被験者は“あれ?自分の手が遅れて見えるんだけど” “うぅ…自分の手が思い通りに動いてくれない”という状況に陥ることになります。 図1:映像遅延システムを用いた実験自分で動かした手が時間的に遅れて映し出される細工がされている。こうすることによって、ヒトの運動‐知覚ループを実験的に錯乱させることができ、“思い通りに動かない”という状況を仮想的に設定することができる。(技術提供:明治大学 理工学部 嶋田総太郎 教授) 実際の実験では、① 0ミリ秒遅延、② 150ミリ秒遅延、③ 250ミリ秒遅延、④ 350ミリ秒遅延、⑤ 600ミリ秒遅延の5条件で手首の反復運動を被験者に実施してもらいました。運動中の筋活動は無線筋電計で計測し、「身体所有感」と「手の重だるさ」はアンケートで定性的に評価しました。 実験の結果、動かした手の映像を250ミリ秒以上遅らせて視覚的にフィードバックさせると、“自分の手のように感じない”や“手が重だるくなってきた”という変化が生まれました。遅延時間をさらに長くするとそれらの異常知覚が増大することも確認されました(図2)。 図2:運動-知覚の不協和による主観的異常知覚の惹起 一方で、反復運動中の筋活動量と運動リズムは、動いている手の映像を150 ミリ秒遅らせただけで変容することが確認されました(図3)。 以上のことから、“手が思ったように動かない” 状況は異常知覚だけでなく、運動実行までをも変容させてしまうということが明らかにされました。 図3:筋活動量と反復運動のペースは,動いている手の映像を150 ミリ秒遅らせただけで変化が生じる. 本研究の意義および今後の展開 本研究成果は、運動‐知覚の不協和が運動麻痺の回復を遅らせてしまう重要な要因の1つであることを示唆するものです。そのため、理学療法士や作業療法士による運動アシストによって運動‐知覚の不協和を最小限にしながらリハビリテーションを進める、あるいは錯覚技術を駆使して“思い通りに動かすことができる”経験を積むことの重要性を提唱する基礎研究となります。今後は、運動‐知覚の不協和を最小限にするリハビリテーションを開発する予定です。 関連する先行研究 Shimada S et al. Rubber hand illusion under delayed visual feedback. PLoS One. 2009 Jul 9;4(7):e6185. 論文情報 Osumi M, Nobusako S, Zama T, Taniguchi M, Shimada S, Morioka S. Sensorimotor incongruence alters limb perception and movement. Human Movement Science 2017. 問合せ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターセンター長 森岡 周(モリオカ シュウ)Tel: 0745-54-1601Fax: 0745-54-1600E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2017.09.14
大学院生が第10回欧州疼痛学会でポスター発表!~健康科学研究科
平成29年9月6日(水)から9日(土)にかけてデンマークのコペンハーゲンで開催された第10回欧州疼痛学会(The 10th Congress of the European Pain Federation EFIC®)に、健康科学研究科の森岡周教授と、同研究室に所属する博士後期課程の今井亮太さん、私(片山脩)で発表をしてきました。 ▼長崎大学および日本福祉大学の研究室メンバー(写真中央は森岡教授) この学会は、2年に1度ヨーロッパで開催される疼痛に関する国際学会です。世界中から疼痛の研究者が一同に会す学会となっており、内容は講演、シンポジウム、口述発表、ポスター発表に分かれています。我々はポスター発表にて大学院での研究成果を発表してきました。ポスター発表では60分間の討論時間が設けられており、我々の発表に対しても多くの方々が興味を示して頂き、質問や建設的なご意見を多く頂くことができました。 ▼ポスター前でディスカッションする今井さん(左)と私(右) 私の発表内容は、運動と感覚情報の不一致による主観の変化(痛み、しびれ、奇妙さ、嫌悪感などの異常知覚)、身体運動の変化(電子角度計による運動の協調性測定)、脳活動の変化(脳波測定による周波数解析)を同時に検討したものでした。 質問内容としては、実験の細かな条件設定や、主観-身体運動-脳活動の結果の関係性についてなどでした。今回発表させて頂いた内容は現在論文としてまとめている段階にあり、今回頂いたご意見をもとにさらに精度の高い結果を報告できるように進めていきたいと思います。 現地では、疼痛研究を日本で行われている長崎大学および日本福祉大学の研究室の先生方とも意見交換をする機会がありました。今後も他の研究室との交流を通して切磋琢磨できる関係性を築いていければと思います。 最後になりましたが、このような貴重な機会をくださった森岡教授、畿央大学に感謝申し上げます. 健康科学研究科 博士後期課程2年 片山脩 【関連リンク】 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターWebサイト 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターfacebook
2017.09.13
ソーシャルスキルと痛みの関係に関する大学院生の論文がJournal of Pain Research誌に掲載!~健康科学研究科
社会の中で“上手くやっていく”能力は「ソーシャルスキル」と呼ばれており、このスキルは自身の心理状態を良好に保つためにも必要だと考えられています。畿央大学大学院健康科学研究科修了生の田中陽一らは「ソーシャルスキルと痛みとの間には密接な関係が存在するのではないか?」という仮説を立てて、共分散構造モデリングによって検証しました。この研究成果は、Journal of Pain Research誌(Uncovering the influence of social skills and psychosociological factors on pain sensitivity using structural equation modeling)に掲載されています。 研究概要 痛みには多面性があり、同一環境・刺激でも痛みの感じ方は個人によって異なります。痛みに対する複合的な治療概念として生物心理社会モデルが提唱されており、生物学的な要因に加えて、心理的側面、社会的側面を統合した臨床対応が求められています。今回の研究では社会的要因の1つであるソーシャルスキルに焦点を当てています。先行研究では、ソーシャルスキルが低い者はネガティブな心理状態に陥りやすく、ソーシャルスキルに優れている者は社会的支援(ソーシャルサポート)を受けやすくなるとともに生活の質が高くなり、抑うつに陥りにくいとされています。このように、ソーシャルスキルは個人の心理社会的要因の形成・構築に重要な影響を与えていることが明らかとなっていますが、痛みの感じ方との関係を検討した研究は報告されていませんでした。 そこで研究グループは、ソーシャルスキルが痛み感受性および心理社会的要因へ与える影響について共分散構造分析(structural equation modeling:以下SEM)を用いて検討しました。SEMの結果、ソーシャルスキルの下位項目である「関係開始」スキル(集団のなかでうまくやっていく第一歩として重要なソーシャルスキル)と痛みの感受性との間に正の関係性があることが認められました。 本研究のポイント SEMでは「関係開始」スキルが心理要因やソーシャルサポートと有意な関係性を有しているだけでなく、痛み感受性とも有意な関係性にあることが認められた。 研究内容 社会的要因として、ソーシャルスキル、ソーシャルサポート、心理要因として抑うつ、孤独感をそれぞれ質問紙にて評価しました。痛みの感受性は、痛みを惹起する画像を使用し内的な痛み体験を通して評価しました(図1)。 図1:使用した痛み画像 ソーシャルスキルと痛みの感受性の相関分析では、ソーシャルスキルの合計値と下位項目の「関係開始」スキルが痛み感受性と正の相関関係を有していました。SEMでは、ソーシャルスキル下位項目である「関係開始」を扱ったモデルで「関係開始」スキルが心理要因と負の関係性、ソーシャルサポートと正の関係性を有し、痛み感受性と正の関係性にあることが認められました(図2)。これらのことから、ソーシャルスキルの1つである「関係開始」スキルが「痛みの感受性」と密接な関係を持つことだけでなく,痛みの慢性化を助長させるような「抑うつ」「孤独感」とも関係していることが明らかになりました. 図2:共分散構造分析の結果 *p < 0.05. **p < 0.01. ***p < 0.001. 本研究の意義および今後の展開 研究成果は、痛みの臨床対応においても、良好な心理状態や社会関係性の構築に必要な個人のソーシャルスキルを意識・評価して介入することの重要性を示唆すると考えられます。今後は、身体的な痛み刺激を用いた検討や、臨床場面でのデータを蓄積していく必要があります. 論文情報 Yoichi Tanaka, Yuki Nishi, Yuki Nishi, Michihiro Osumi, Shu Morioka. Uncovering the influence of social skills and psychosociological factors on pain sensitivity using structural equation modeling. Journal of Pain Research. 2017. 10 2223–2231. 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 修了生 田中 陽一(タナカ ヨウイチ) E-mail: kempt_24am@yahoo.co.jp 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2017.08.09
平成29年度 運動器リハビリテーションセミナー「臨床編」を開講しました。
7月30日(日)、平成29年度「畿央大学運動器リハビリテーションセミナー(臨床編)」が開催されました。運動器リハビリテーションセミナーは、卒後のリカレント教育(再教育)の機会や最新知見を提供することで、運動器リハビリテーションに必要な知識を基礎から実践まで系統的に学べるプログラムとなっています。 前年度までのプログラムを改変し、今年度は、明日の運動器リハに使える『エビデンス編』、部位ごとに基礎から臨床応用まで学べる『臨床編』、臨床現場での日々の疑問を客観的に解決する手法を学ぶことで、未来の運動器リハビリテーションを創造する『臨床研究編(導入)』『臨床研究編(実践)』の4つで構成されています。 そして、今回は『臨床編』として、臨床で多く経験する運動器疾患を中心に、各関節の関節構造・運動学・疾患に対する治療戦略を多くの研究論文から考察した内容になっていました。 まず、1講座目は「肩関節のリハビリテーションと最新の知見」というテーマで、運動器リハビリテーションセミナーの代表である福本准教授による講義を開始しました。解剖学・運動学の振り返りから、ガイドラインや最新のエビデンスを用いて、どのように臨床現場で診ていくかについてご紹介いただきました。 2講座目、「肘・手関節および体幹の最新知見とリハビリテーション」については、健康科学研究科修了生で他機関にて活躍されている梅山和也先生、粕渕賢志先生からお話いただきました。梅山先生からは近年、高齢者だけでなく、勤労者でも問題となっている腰痛を中心に、粕渕先生からは肘・手関節についてアプリケーションを用い、実際の関節の動きを確認しながらご説明いただきました。また、粕渕先生の研究テーマである「ダーツスローモーション」については整形外科の教科書でも取り上げられるようになっており、まさにホットトピックになりつつあるとのことでした。 【写真上;梅山先生】 【写真下;粕渕先生】 3講座目は、「変形性膝関節症とその人工関節の最新知見とリハビリテーション」として、健康科学研究科修了生の平川善之先生から、運動器疾患で最も多く経験する変形性膝関節症および人工関節置換術後の治療戦略について、実際に身体を動かしたデモンストレーションを入れながら、経験の浅い受講者の方にもわかりやすくご説明いただきました。 4講座目は、「フレイル・サルコペニア・ロコモーティブシンドロームの予防」について、松本から、老年学のトピックであるフレイル・サルコペニア・ロコモーティブシンドロームについて現場で落とし込めるように整理し、説明させていただきました。 全体を通して、4講座ともかなりの情報量でしたが、参加者の方々は熱心に聴講され、個別で質問もされていました。なかなか自分だけでは、それぞれの分野の最新の知見を調べて理解するのは難しいと思いますが、それぞれの講座でまとめていただき、臨床に戻ってから、しっかり考えるための素材がつまっていたのではないかと思います。 最後に、今回の運動器セミナーを受講して頂いた皆様、ありがとうございました。次回は今年新たに臨床研究編を二つに分けたプログラムを開始しますので、楽しみしておいてください。 臨床研究編(導入) 平成29年10月8日(日) 詳細 臨床研究編(実践) 平成30年1月28日(日) 詳細 お申し込みはコチラから! 理学療法学科 助教 松本 大輔 【関連記事】 平成28年度「臨床研究編」レポート 平成28年度「下肢編」レポート 平成28年度「上肢・体幹編」レポート 平成28年度「エビデンス編」レポート
2017.07.21
書評~庄本康治教授執筆「エビデンスから身につける物理療法」
理学療法学科の庄本康治学科長が羊土社より「エビデンスから身につける物理療法」を発行されました。庄本先生をはじめとする執筆者15名のうち11名(教員3名、大学院修了生7名、卒業生1名)が大学院・学部関係者で構成されています。 執筆者の一人であり客員研究員でもある小嶌康介先生から書評が届きました。 ▼理学療法学科長の庄本教授(研究室にて) 庄本教授が編集された物理療法書籍「エビデンスから身につける物理療法」をご紹介させていただきます。庄本先生をはじめ急性期や回復期のリハビリテーション現場で物理療法を実践し、研究成果を発表している若手の先生が多数共同執筆されています。 主な読者対象は理学療法士の学生ということで私自身、学生に戻った気持ちで読ませていただきました。まず感じたことは最新のエビデンスが多く含まれており、知識的な学びという点だけでも内容が非常に充実している点です。また具体的な実践方法について写真と動画が多く掲載され、細かい解説がなされているので分かりやすく臨場感があります。この点では臨床のセラピストの技術力向上にも大いに活用出来る書籍だと思います。 疼痛や関節可動域制限などの機能障害、また様々な物理刺激について生理学、病理学、物理学など関連学際領域の解説がしっかりと書かれています。これにより、病態と治療効果を十分理解した上で物理療法を正しく選択し、効果的に用いる能力が身につく、まさに書名通りの内容となっています。 国家試験に関連した領域にはマーキングがなされており、試験対策にも当然活用できるでしょう。ただし、ここまでも述べた通り本書の最大の魅力はエビデンスの理解とともに臨床での実践能力を養うことができる点であると思います。臨床実習に臨む学生にも是非本書を熟読した上で物理療法の実践体験をしてほしいと願います。 庄本先生が序論で書かれていますが、本邦では物理療法はまだまだ積極的に実践されていません。本書にはこの問題を根底から解決するための答え、すなわち学生時代における物理療法への興味と理解を深め、使用経験を促していくための魅力が詰まっています。本書の読者が患者を治療する上で物理療法を「当たり前に存在するオプションの一つ」と考えて実践していくことで、物理療法は更なる発展が期待できます。職種や分野を問わず、臨床現場での実践を通して物理療法が研究課題となり、学術成果として発展し、「クライエントに良い影響」をもたらすという庄本先生の祈念に強く共感を感じています。 西大和リハビリテーション病院 畿央大学大学院健康科学研究科 客員研究員 理学療法士 小嶌 康介
2017.05.20
第52回日本理学療法学術大会で約30演題を発表!~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
2017年5月12日(金)〜14日(日)に幕張メッセで開催された第52回日本理学療法学術大会に参加・発表してきましたので、私(水田直道 健康科学研究科 修士課程)がレポートさせて頂きます。 本大会は理学療法士学会・各分科学科が合同で開催される最後の大会であり、参加者は約6500人と非常に多くの先生方が参加されました。本大会のテーマは『理学療法士の学術活動推進』と題され、講演では研究デザインや研究意義、質の高い理学療法研究の進め方、理学療法教育など学術活動に即した内容が充実していました。3日間の会期中には、ニューロリハビリテーション研究センターから約30演題の研究成果が報告されました。 (演題一覧は2017年度研究業績(国内学会)をご参照下さい) 中でも、今回は森岡周センター長から『脳卒中片麻痺上肢における運動イメージ能力と運動機能ならびに身体使用頻度との関係』のタイトルで、運動イメージ能力が片麻痺上肢の運動機能や麻痺肢の使用頻度に関係するかという視点で研究成果の紹介が行われました。発表セッションの構成から発表時間、質疑時間とも10分間と他の発表演題と比較して与えられた時間が豊富であり、非常に充実したディスカッションの場であったように感じました。 ニューロリハビリテーション研究センター特任助教の大住倫弘先生が日本運動器理学療法学会学術集会 学術集会長賞を受賞されました。大住倫弘先生は運動器疼痛疾患のリハビリテーションに関する臨床研究を中心に行っており、このような内容が学会で認められたことは、本学のニューロリハビリテーション研究を推し進めていくうえで、非常に大きな原動力になるものと感じます。また基礎理学療法学会が企画する『若手研究者(U39)による最先端研究紹介』でシンポジストとしても登壇され、幻肢痛や複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Symdrome:CRPS)に出現する運動異常の解析結果を報告されました。 ちなみに私は、神経理学療法学会で『脳卒中患者における歩行のTrailing Limb Angleの構成因子-予備的研究-』というタイトルで発表させて頂きました。神経理学療法学会では脳卒中症例の歩行改善に向けた取り組みが多く発表され、近年急速に普及しているロボットリハビリテーションや装具療法に関する発表も散見されました。この分野は介入研究による科学性の追求に加え、歩行の病態特性に応じたサブタイプに分類を通してそれぞれの特性に応じた介入戦略を検証していく必要があり、ロボットリハビリテーションに代表される『練習量』に焦点を当てた戦略に加えて歩容や歩行パターンなど『質』まで包含した検証を取り組んでいく必要があると強く感じました。本学会を通して多くを学ぶことができましたが、特に同じ領域の研究をされている方々と未来志向的にディスカッションできたことが一番の収穫でした。今後は自身の研究の質をさらに高め、リハビリテーションという文脈の中で社会的に意義のある研究に挑戦していきたいと思います。 最後になりましたが、このような貴重な経験ができたのは、畿央大学の研究活動に対する手厚い支援と森岡周教授をはじめとする多くの方々のご指導やご協力があってのものです。このような環境で学ばせて頂いたことに深く感謝致します。ありがとうございました。 畿央大学大学院健康科学研究科修士課程 水田直道
2017.05.20
経頭蓋直流電流刺激によって社会的認知機能が向上することを明らかに~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
経頭蓋直流電流刺激により社会的認知機能が向上することを明らかに 自閉症スペクトラムに関連する社会性の神経メカニズムを説明する基礎的知見へ 「自他区別」、すなわち自分の思いや考えと他者の思いや考えは異なることがあると理解した上で、他者の考えや意見を参考にしつつ、自身の考えや意見をより良いものにしていく能力は、社会生活において重要です。一方で、「視点取得」すなわち他者の視点に立って物事を考える能力は、他者の意図や感情といった心的状態を適切に理解する上で重要です。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志らは,経頭蓋直流電気刺激(transcranial Direct Current Stimulation:以下,tDCS)を用いて、右頭頂-側頭接合部および右下前頭皮質の神経活動を促進すると、「自他区別」や「視点取得」といった社会的認知機能が向上することを明らかにしました。これは、社会性の神経基盤を説明する基礎的知見になるものと期待されます。この研究成果は、Frontiers in Behavioral Neuroscience誌(Transcranial direct current stimulation of the temporoparietal junction and inferior frontal cortex improves imitation-inhibition and perspective-taking with no effect on the Autism-Spectrum Quotient score)に掲載されています. 研究概要 自閉症スペクトラムは、主に社会性に困難を認める発達障害です。自閉症スペクトラムの神経科学的な説明として、右頭頂-側頭接合部(Temporo-Parietal Junction:以下、TPJ)や右下前頭皮質(Inferior Frontal Cortex:以下、IFC)の機能不全が指摘されています。TPJは他者の心的状態を見出したり推論したりする能力(メンタライジング)の中核領域とされています。IFCは、模倣や共感の神経基盤とされるミラーシステムの主要領域です。 「自他区別」や「視点取得」のような社会的認知能力を客観的かつ定量的に測定するのには、困難が伴います。そんな中、自他区別能力を反映する課題として、模倣抑制課題(図1)があります。この課題は、画面上に表示された数字に従って、人差し指か中指を持ち上げる課題です(①なら人差し指、②なら中指)。その際、指示と動画が一致している条件と異なっている条件があります。通常、ヒトは目前の他者の運動を真似ることよりも、他者の運動と異なる運動をすることの方が難しくなります。これは模倣や共感を担うミラーシステムの自動的活性化によるためとされています。したがって、ミラーシステムの働きによって、一致条件の反応時間や正答率は促進され、逆に不一致条件では他者運動に干渉を受けて、反応時間が遅くなったり、正答率が低下します。つまり他者の運動につられてしまうわけです。この影響を「模倣干渉効果」と呼び、それが小さくなるほど自他区別がしっかりできていることの一指標となります。 図1:模倣抑制課題 また視点取得課題(図2)では、素早く他者の視点に立って物事を見る能力を定量的に測定することができます。図2の視点取得条件をご覧ください。あなたはラックの手前に立っています。ラックの向こう側では、男性があなたに向かって「1番大きなコップに触れてください」と指示を出しています。実際、1番大きなコップは青丸で囲んだコップですが、この条件では指示を出している男性からはそのコップが見えていないことに気が付く必要があります。そして、男性が言っている1番大きなコップとは、赤丸で囲んだコップだと認識する必要があります。 図2:視点取得課題 信迫らの研究グループは、DCSという脳活動を修飾することできるニューロモデュレーション技術を用いて、自閉症スペクトラムにおいて機能不全が指摘されているTPJとIFCの脳活動を一時的に促進させた際の模倣抑制、視点取得、そして自閉症スペクトラム指数(Autism spectrum Quotient:以下,AQ)に与える影響について検討を行いました。AQとは、個人の自閉症傾向を測定するスクリーニング検査です。その結果、TPJ刺激とIFC刺激の両方において模倣抑制と視点取得が促進されることが示されました。一方で、AQには影響を及ぼさないことも示されました。 本研究のポイント tDCSによるニューロモデュレーション技術によって、自他区別や視点取得に関係する大脳皮質領域を明らかにした。 研究内容 本研究ではtDCSを用いて、TPJとIFCの神経活動を一時的に促進する手続きを加えることで示される模倣抑制や視点取得、AQへの影響を検討しました。実験では、右TPJを刺激する群と右IFCを刺激する群の二群を設定し、それぞれプラセボ刺激(脳活動に影響を及ぼさない刺激)を加え、模倣抑制課題と視点取得課題の正答率、反応時間およびAQを測定しました。その結果、TPJ刺激とIFC刺激の両方の群において、AQに対しては影響を及ぼさないものの、模倣抑制と視点取得の反応時間を促進することが示されました(図3,4). 図3:模倣抑制課題の結果 図4:視点取得課題の結果 模倣抑制は、眼前の他者運動を抑制して指示に従う必要があるため、他者を抑制し、自己を促進する課題とも言えます。一方で、視点取得は自分の見えを抑制して他者の視点に立つ必要があるため、自己を抑制し、他者を促進する課題とも言えます。このように一見すると対照的な課題ですが、本研究ではTPJとIFCの両方が両課題に関与していることが示されました。この研究結果に対して研究グループは、IFC(ミラーシステム)とTPJ(メンタライジング)は社会的認知において競合するシステムではなく、所与の行動的状況において適切な社会的相互作用を確実にするために、お互い相乗的・相補的に働くシステムであると考察しています。 本研究の意義および今後の展開 本研究成果は、自閉症スペクトラムに関連する社会性の神経メカニズムを説明する基礎的知見のひとつになるものと期待されます。本研究により、TPJとIFCの両方が自他区別と視点取得に貢献していることが明らかになりましたが、自閉症スペクトラム傾向を反映するAQとの関連については未だ明らかになっておらず、この点に対する更なる研究が望まれます。また、本研究成果は、模倣抑制や視点取得といった運動・行動課題による訓練が社会性の向上につながる可能性も示唆しており、今後は社会性向上を目指したニューロリハビリテーションに関する研究も望まれています。 論文情報 Satoshi Nobusako, Yuki Nishi, Yuki Nishi, Takashi Shuto, Daiki Asano, Michihiro Osumi, Shu Morioka. Transcranial direct current stimulation of the temporoparietal junction and inferior frontal cortex improves imitation-inhibition and perspective-taking with no effect on the Autism-Spectrum Quotient score. Frontiers in Behavioral Neuroscience. 2017 問合せ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 特任助教 信迫 悟志(ノブサコ サトシ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp
2017.04.28
平成29年度 理学療法特別講演会「地域を支える理学療法士を目指して」(卒業生対象)
特別講演会は毎年、畿央大学卒業生に向けてリカレント教育(卒業後も幅広い知識を養う)を兼ねて行っています。地域での認知症予防・フレイル予防に従事しておられる鹿児島大学医学部保健学科の牧迫飛雄馬先生に、今後の理学療法士の動向についてお話し頂きます。 なお本講演は、受講料1000円にて卒業生以外の医療関係者にも公開させて頂きます。 日 時 2017(平成29)年11月26日(日)10:30~12:00 (10:00~受付) 会 場 畿央大学 L棟1階 L103講義室 講 演 地域を支える理学療法士を目指して ー今後理学療法士にどのような動きが求められるかー 講 師 牧迫 飛雄馬 先生 / 鹿児島大学医学部保健学科 受講料 無料(卒業生以外は1000円) 懇親会 12:30~14:00 講演会終了後、懇親会を予定しています。軽食・ソフトドリンクを用意しています(無料) 申込方法 下記①~⑥を明記の上、E-mail、ハガキ、FAXのいずれかでお申し込みください。受講証の発行は致しません。当日、直接受付にお越しください。 ①氏名(ふりがな) ②卒業年度 ③住所(郵便番号から) ④電話番号 ⑤メールアドレス(お持ちの方) ⑥所属先(団体名、病院名等) 申込み締め切り 2017年11月20日(月)必着 ※定員に若干の余裕があるため引き続き申し込みは受け付けますが、資料準備のため事前申込にご協力をお願いいたします。 郵送先 〒635-0832 奈良県北葛城郡広陵町馬見中4-2-2畿央大学 広報センター 理学療法特別講演会係 FAX : 0745-54-1600 E-mail:dousoukai@kio.ac.jp (件名に「理学療法特別講演会」と明記) お問合せ TEL:0745-54-1603(担当:増田、伊藤、鈴木) ※公共交通機関を利用してご参加ください。
2017.04.05
平成29年度入学式を行いました。
607名の新たな畿央生が誕生! 2017(平成29)年4月4日(火)、畿央大学健康科学部346名、教育学部220名、健康科学研究科28名(修士課程22名、博士後期課程6名)、教育学研究科(修士課程)4名、助産学専攻科9名あわせて607名の新しい畿央生が誕生しました。学部は午前10時、大学院と助産学専攻科は午後3時から入学式を行いました。 門出を祝うように雲ひとつない快晴のもと、新入生と保護者の方々でキャンパスは華やぎました。学科長から一人ひとり呼名され、初々しい面持ちで新入生が起立、冬木正彦学長による入学許可の言葉をしっかりと受け止めていました。学長式辞では、「冬木学園の一員として建学の精神を身につけ、能動的に学んでいただきたい。」と述べられました。 続いてご来賓の山村吉由広陵町長、香芝市の廣瀬教育長、清水隆平後援会長からも新入生へのエールの言葉をいただきました。 新入生代表健康栄養学科1回生の家崎明日佳さんから宣誓、在学生代表松岡紗夜さんから歓迎の言葉があり、閉式となりました。その後、教職員の紹介、学歌の紹介、学生による歓迎行事と続き、ジャグリング部とチアリーディング部が華を添えました。 また午後3時からは、大学院 健康科学研究科・教育学研究科および助産学専攻科の入学式が行なわれました。 大学院および専攻科の入学生、全員の名前が読み上げられ入学を許可された後、それぞれの研究科長、専攻科長から祝辞をいただきました。より高度な学びと研究活動に向けての決意を固める、緊張した中にも和やかな入学式となりました。 入学式の様子は、大学公式facebookページでもご覧になれます。