健康科学専攻(博士後期課程)の新着情報一覧
2021.04.06
大学院生の論文がnature系「Scientific Reports」の神経科学分野のダウンロードTOP100に選出!
大学院博士後期課程に在籍している水田直道さんが筆頭著者の論文「脳卒中患者における運動まひの重症度と歩行速度の関係性」が、nature系の雑誌「Scientific Reports」の神経科学分野のトップ100(ダウンロード)に選ばれました。2020年に3,000回以上もダウンロードされており、1750以上ある論文のうち80位にランクインしています。水田さんの研究成果が世界中でダウンロードされ、多くのセラピストや研究者に注目されていることになります。 研究の詳細については、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターのプレスリリースをご覧ください。 脳卒中患者における運動まひの重症度と歩行速度の関係性
2021.04.05
令和3年度入学式を行いました。
2021(令和3)年4月2日(金)、畿央大学健康科学部331名、教育学部193名、健康科学研究科35名(修士課程27名、博士後期課程8名)、教育学研究科修士課程4名、助産学専攻科10名、臨床細胞学別科7名、あわせて580名の新しい畿央生が誕生しました。学部は午前10時、大学院・専攻科・別科は午後3時からと2部にわけて入学式を行いました。 昨年度は新型コロナウイルス感染拡大予防のため一同に会しての式典形式を見合わせ、学科にわかれての開催となりました。今年度については冬木記念ホールで式典を開催し、その様子を中継して各会場から視聴・参加しました。 学部の入学式では、冬木正彦学長が学科ごとに新入生への入学許可を行いました。 つづく学長式辞では、”建学の精神である「徳をのばす」「知をみがく」「美をつくる」を大切にしながら充実した4年間を過ごしてほしい”と力強いメッセージがありました。 新入生代表として健康栄養学科1回生見杉遼さんから入学生宣誓、在学生代表として現代教育学科3回生荒井斗子さんから歓迎のことばがあり、閉式となりました。 閉式後は、学科別に入学生ガイダンスが行われました。各会場でも手指消毒、換気などの感染予防策を徹底したうえで、1回生担任紹介や学生生活に関してのオリエンテーションが行われました。 当日はこれ以上ない晴天に恵まれ、あたたかい一日となりました。卒業式でも好評だったフォトスポットや入学式の看板の前で撮影する初々しい新入生の姿が見られました。 ※写真については撮影直前のみマスクを外し、声を出さないようにして撮影しています。 午後3時からは大学院健康科学研究科、教育学研究科、助産学専攻科および臨床細胞学別科の入学式が冬木記念ホールにて行なわれました。入学を許可された後、学長、それぞれの研究科長・専攻科長・別科長から祝辞をいただきました。 新入生の皆様、入学おめでとうございます!皆様のこれからの学生生活が実りのあるものになるよう教職員一同全力でサポートしていきます。
2021.04.02
小児の運動の不器用さに対する確率共鳴現象の効果~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
学校生活・日常生活やスポーツ活動における様々な運動スキルに不器用さが現れることを特徴とする発達障害として発達性協調運動障害があります。発達性協調運動障害を有する児では、単に運動の不器用さに止まらず、自己肯定感・自尊心の低下や不安障害・抑うつの増加といった心理面への影響も懸念されています。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らは、中井昭夫 教授(武庫川女子大学)、嶋田総太郎 教授(明治大学)、前田貴記 講師(慶應義塾大学)らと共同で、コンパクトな確率共鳴装置を手首に装着することで、発達性協調運動障害を有する児の手先の器用さが改善することを明らかにしました。この研究成果はFrontiers in Neurology誌(Influence of stochastic resonance on manual dexterity in children with developmental coordination disorder: A double-blind interventional study)に掲載されています。 研究概要 発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder:DCD)とは、麻痺はないにも関わらず、協調運動技能の獲得や遂行に著しい低下がみられる神経発達障害の一類型です。その症状は、字が綺麗に書けない、ボタンが留められないといった手の微細運動困難から、歩行中に物や人にぶつかる、上手く走れない、縄跳びができないといった粗大運動困難、片脚立ちができない、平均台の上を歩けないといったバランス障害まで多岐に渡ります。DCDの頻度は学童期小児の5-6%と非常に多く、またDCDと診断された児の過半数が青年期・成人期にも協調運動困難が残存するとされており、DCDに対する有効なハビリテーション技術の開発は、ニューロリハビリテーション研究における喫緊の課題の一つとされています。 一方で、古くから身体への微弱な機械的ランダムノイズ刺激は、感覚および運動機能を改善することが知られています。この改善は、確率共鳴(Stochastic Resonance:SR)現象と呼ばれ、例えば、感知できない程度の機械的ランダムノイズ刺激であっても、触覚感度が改善することやバランス、歩行、手指の運動といった運動機能が改善することなどが報告されています。また、このような改善は健常者だけでなく、脳卒中後片麻痺患者、パーキンソン病患者、脳性麻痺児でも観察されています。しかしながら、DCDを有する児に対するSR現象を用いた介入の報告は極めて少なく、その有効性は明確ではありませんでした。そこで畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らの研究グループは、二重盲検介入研究を行い、SR現象がDCDを有する児の手先の器用さに及ぼす影響を調査しました。その結果、SR装置によってSR現象を付与している際に、DCDを有する児の手先の器用さが有意に向上することが示されました。 本研究のポイント ■ DCDを有する児の手先の器用さに対するSRの影響を調査した。 ■ DCDを有する児の手先の器用さは、SRを付与している際に向上した。 ■ SRによる手先の器用さの改善効果は、SRの提供を止めると消失した。 研究内容 6~11歳までのDCDを有する児30名(平均年齢9.3歳、男児27名、右利き25名)が本研究に参加しました。参加児たちは、はじめにベースラインデータとして、DCDの国際標準評価法であるM-ABC2のテストを受けました。SRは子どもたちの両手首に装着された振動触覚デバイス(SRデバイス)による感覚閾値の60%の強度の振動触覚ランダムノイズ刺激によって提供されました。条件には、SRを提供するSRオン条件と、SRを提供しないSRオフ条件が設けられ、15名はSRオン⇒オフ⇒オン⇒オフの順で、残り15名はSRオフ⇒オン⇒オフ⇒オンの順で、手先の器用さテスト(微細運動機能テスト)を実施しました(図1)。 図1. 実施風景 その結果、手先の器用さテストの成績は、SRオン条件において、ベースラインデータおよびSRオフ条件と比較して、有意に向上しました(図2)。 図2. 結果 **:p<0.001,n.s.:有意差なし 本研究の意義および今後の展開 本研究結果は、SRの提供によってDCDを有する児の手先の器用さが即時的に改善することを示しました。 しかしながら一方で、SRによる改善効果は、その直後のSRオフ条件に持ち越されませんでした。したがって、今後はどのくらい長い時間装置を装着すれば、持ち越し効果が観察されるのか?さらにSR装置を装着している間、どのような運動を行えば、持ち越し効果が観察されるのか?といった持ち越し効果に関する研究が必要です。 関連する論文 ■ Nobusako S, Osumi M, Matsuo A, Fukuchi T, Nakai A, Zama T, Shimada S, Morioka S. Stochastic resonance improves visuomotor temporal integration in healthy young adults. PLoS One. 2018 Dec 14;13(12):e0209382. doi: 10.1371/journal.pone.0209382. ■ Nobusako S, Osumi M, Matsuo A, Furukawa E, Maeda T, Shimada S, Nakai A, Morioka S. Subthreshold Vibrotactile Noise Stimulation Immediately Improves Manual Dexterity in a Child With Developmental Coordination Disorder: A Single-Case Study. Front Neurol. 2019 Jul 2;10:717. doi: 10.3389/fneur.2019.00717. 論文情報 Satoshi Nobusako, Michihiro Osumi, Atsushi Matsuo, Emi Furukawa, Takaki Maeda, Sotaro Shimada, Akio Nakai, Shu Morioka Influence of Stochastic Resonance on Manual Dexterity in Children With Developmental Coordination Disorder: A Double-Blind Interventional Study Frontiers in Neurology. 2021. doi: 10.3389/fneur.2021.626608 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 准教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp
2021.03.31
大学院生の半側空間無視に関する原著論文が「iScience」に掲載されました~健康科学研究科
半側空間無視の病態解明に貢献 大学院健康科学研究科博士後期課程に在籍している高村優作さんの筆頭著者の原著論文「Pathological structure of visuospatial neglect: A comprehensive multivariate analysis of spatial and non-spatial aspects」がiScienceに2021年3月17日(水)にオンライン掲載されました。 iScienceはCell Pressが発行する大変インパクトの高い雑誌で、理学療法士が行った臨床研究がCNS※系の雑誌に掲載されるのは極めて稀なことであり、快挙です。 https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(21)00284-4 ※Cell、Nature、Science - 生物医学分野で有名な科学雑誌3誌の総称 本研究は同じく本学博士後期課程に在籍している藤井慎太郎さん、本学博士後期課程修了し、現在国立障害者リハビリテーションセンター病院で勤務している大松聡子さん、本学 森岡周教授、本学客員教授で国立障害者リハビリテーションセンター研究所神経筋機能障害研究室長の河島則天さんとの共同研究です。 本研究は、脳卒中後に出現する半側空間無視の病態解明に貢献すると共に、リハビリテーション医療における有効な検査法の確立につながる内容です。 なお詳細は、高村さんが現在研究員として所属している国立障害者リハビリテーションセンター研究所のプレスリリースをご覧ください。 脳卒中後に生じる高次脳機能障害『半側空間無視』の病態解明につながる新しい発見 理学療法学科で関西で唯一となる6年連続100%を達成するなど「資格・就職に強い」と評価されている畿央大学ですが、研究活動においても卓越した実績を残しています。 【関連記事】 大学院生の研究成果が神経学領域で最も権威ある雑誌「Brain」に掲載されました~健康科学研究科
2021.03.08
神経リハビリテーション学研究室、京都大学との研究交流会を開催!~健康科学研究科
第3回 畿央大学大学院 神経リハビリテーション学研究室・ 京都大学大学院大畑研究室 合同研究会 2021年3月6日(土)、オンライン上にて、畿央大学大学院 神経リハビリテーション学研究室と京都大学大学院大畑研究室の研究交流会が開催されました。プログラムとしては、大畑光司先生による開会のあいさつ後、大畑研究室の大学院生より現在取り組まれている研究についてご紹介していただきました。その後、畿央大学大学院から乾さん、赤口さん、宮脇さんから研究の紹介を行い、双方の研究内容に関して意見交換を行いました。最後に、森岡教授による閉会のあいさつが行われました。 大畑研究室からは、神尾さんが「ステップ位置の調節における中枢内制御」、Jeffreyさんが「脳性麻痺の歩行時の筋電図解析」、鈴木さんが「歩行時の下肢の大域的運動」について話題提供していただきました。現在進行形で取り組まれている研究内容について実験手続きや解析方法など試行錯誤されており、私としても共感できる部分が多く、大変興味深く聴講することができました。森岡教授からも各発表に対して意見やアドバイスを発しておられ、活発なディスカッションとなりました。 畿央大学大学院からは、乾さんが「脳卒中患者の不整地歩行」、赤口さんが「慢性期脳卒中患者の把持力調節」、宮脇さんが「脳卒中患者の自他帰属戦略」について話題提供しました。各研究に対して、大畑研究室の大学院生と研究員、そして大畑先生より的確なご意見とご指摘をいただけました。最終的には終了予定時間を超過するほど互いに議論し、日頃のゼミとは異なる視点の意見を伺うことができ充実した合同研究会となりました。 ▲延べ18名:畿央大学大学院 11名、京都大学大学院 7名が参加 (画面上は17名) 大畑研究室との合同研究会は今回で3回目となり、私自身は初めての参加となりましたが、今回は運動・歩行制御に関する研究内容であり、方向性は同じでありつつもお互いの研究室の「色」を感じることができました。そのため、異なる研究室間の意見交換は研究室の得意とする分野の知識および技術を提供することができ、研究を進めていく上で非常に有益な場であると感じました。森岡教授の閉会の挨拶では、将来的には双方に共同して神経理学療法学の発展を担っていく必要性についても述べられており、私も貢献できるよう改めて襟を正されました。 第1回は畿央大学で、第2回は京都大学で開催された本合同研究会は、COVID-19の影響でオンライン開催となりました。感染状況のより早い収束を願い、次回は社会性の面からも直接的にお互い顔を合わせ意見交換ができることを願っております。 最後になりましたが、大変お忙しい中、快くご対応いただいた大畑先生ならびに、大畑研究室の皆様、本会の調節役を担ってくださった研究員の川崎さんと当研究室の水田さん、そして、このような機会を与えてくださった森岡教授には心より感謝申し上げます。 畿央大学大学院 健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室 修士課程1年 田中智哉 【関連記事】 令和元年度 畿央大学神経リハビリテーション研究大会 平成30年度 畿央大学神経リハビリテーション研究大会 平成29年度 畿央大学神経リハビリテーション研究大会 平成28年度 畿央大学神経リハビリテーション研究大会 平成27年度 畿央大学神経リハビリテーション研究大会 平成26年度 畿央大学神経リハビリテーション研究大会 平成25年度 畿央大学神経リハビリテーション研究大会 平成24年度 畿央大学神経リハビリテーション研究大会 平成23年度 畿央大学神経リハビリテーション研究大会 平成21年度 畿央大学神経リハビリテーション研究大会 平成20年度 畿央大学神経リハビリテーション研究大会
2021.02.12
他者との目的共有が行為主体感と運動精度を変調する~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
他者との協力動作において、自己と他者の行動が適切に調整されることで作業が円滑に行われます。しかしながら、どのようなメカニズムで他者と相互作用するのかは明らかではありませんでした。近年の理論研究において、"目的共有"が協力動作に重要であることが提案されていますが、その実際は明らかではありませんでした。この可能性を畿央大学大学院博士後期課程 林田一輝 氏と森岡 周 教授 は 行為主体感の観点から実験的に検証しました。この研究成果は、PLOS ONE誌(Goal sharing with others modulates the sense of agency and motor accuracy in social contexts)に掲載されています。 研究概要 人間社会を円滑にするためには、他者との協力動作は不可欠です。しかしながら、どのようなメカニズムで他者と相互作用し運動の精度を向上させているのかは不明でした。近年の予測的共同行為モデルという理論研究において、”目的共有”が自己の生成行為と他者の行為観察に基づく予測プロセスに影響し、協力動作を円滑にする可能性が提案されていますが、その実際は明らかではありませんでした。本研究では、この可能性を行為主体感の観点から検証しました。 行為主体感とは、ある行為やそれに伴う結果を自己に帰属する感覚のことであり、協力動作を含む日常生活の基礎を構成する可能性があるとされています。行為主体感の惹起には、予測プロセスが強く影響することが明らかであり、目的共有が行為主体感を変調する可能性があります。本研究は、目的共有が行為主体感に影響を与え、運動精度を向上させるのかを検証することを目的としました。参加者は2人1組のペアとなった協力群(目標共有)13ペアと独立群(非目標共有)13ペアにランダムに分けられました。実験参加者は、PC画面上を反復して水平移動する円形オブジェクトがターゲットの中心に到達したときにキーを押して、円形オブジェクトを停止することが求められました。そのキー押しから数100ミリ秒後に音が鳴り、参加者はその時間間隔を推定することが求められました。この時間間隔が短く推定される程、行為主体感が増幅していることを示します(binding効果)。参加者は、自己生成行為時と他者行為観察時それぞれの時間間隔を推定しました。協力群はペアで一緒に運動課題の精度を向上するように指示されましたが、独立群はペアがそれぞれ個別に課題を実行しました。本結果は、目的共有が目的非共有と比較して、運動の精度を改善させ、行為主体感を増幅させたことを示しました。 本研究のポイント ■ 目的共有が目的非共有と比較して、運動の精度を改善させ、行為主体感を増幅させる。 研究内容 参加者は2人1組の同性ペアとなり、目的共有する協力群13ペアと目的共有しない独立群13ペアにランダムに分けられました。PCディスプレイ上にblack crossが1秒間提示された後、水平方向に3,294 px/s (画面を1秒間に1.5往復)の速さで反復運動する円形オブジェクトをできるだけ画面中央のターゲットで、キー押しによって止めるように指示されました。オブジェクトの中心と画面中央のターゲットの誤差(px)を算出し、運動精度の指標としました。この値が低い程運動精度が高いことを示しています。「オブジェクトを止める」ためのキー押し後、数100ms後にbeep音が鳴り、参加者は遅延した時間間隔の推定をしました(自己生成行為のbinding効果)。その際、観察しているもう一方の参加者も時間間隔を推定しました(他者行為観察のbinding効果)。この時間間隔が短く推定される程、行為主体感が増幅していることを示します。協力群では先攻のオブジェクトの開始位置はPC画面上でランダムとしました。横方向に反復運動するオブジェクトを先攻はキー押しによって止め、「その止められた位置」から再び縦方向にオブジェクトが動き始めました。そして後攻もオブジェクトを画面中央でキー押しによって止めた。協力群は後攻が止めたオブジェクトの位置をペアの結果として画面に提示されました(図1)。つまり、2名それぞれの参加者の頑張りが1つのチームとしての成績として提示されます。 図1:協力群における実験課題 P=participant(参加者)、つまりP1は参加者の1人で、P2はもう1人の参加者を表す。 一方、独立群は、先攻・後攻ともオブジェクトの開始位置はPC画面上でランダムとし、先攻の結果が後攻に影響しない課題としました(図2)。オブジェクトと画面中央との誤差が0の時を100点(画面中央位置)とし、1試行毎に運動精度の結果を各々提示しました。協力群はペアで協力して運動精度を向上させるよう教示され、独立群はそれぞれが100点を目指すよう求められた。本課題は10block(18試行/block)で構成されました。つまり、相手の成績は自分とは全く関係ないものとして扱われました。 図2:独立群における実験課題 P=participant(参加者)、つまりP1は参加者の1人で、P2はもう1人の参加者を表す。 結果は、独立群と比較して協力群の方が自己生成行為のbinding効果と他者行為観察のbinding効果が増幅していました(二要因分散分析、目的共有(有vs無)×行為(自己生成vs他者観察)にて目的共有に主効果)。さらに協力群の方が運動精度が高いことを示しました(図3)。このことは、目的共有が、運動の精度と行為主体感を増幅させたことを示します。 図3:Binding効果と運動精度 Binding効果が高いほど(値が低くなるほど)行為主体感がつよいことを表す。 協力群では行為主体感が高まっているのが分かる。 平均±標準誤差 黄色プロット: 協力群 青色プロット: 独立群 **p < 0.01,*p < 0.05 本研究の意義および今後の展開 本研究は他者との目的共有が行為主体感を変調させる可能性を示唆しました.協力動作の円滑化のカニズムはまだまだ不明なことが多く、本研究結果は社会的な行為結果の帰属変容プロセス解明の一助になることが期待されます。 関連する論文 Hayashida K, Nishi Y, Masuike A and Morioka S. Intentional Binding Effects in the Experience of Noticing the Regularity of a Perceptual-Motor Task. Brain Sci. 2020 22;10(9):659. Hayashida K, Miyawaki Yu, Nishi Y and Morioka S. Changes of Causal Attribution by a Co-Actor in Situations of Obvious Causality. Front Psychol. 2020 11: 588089. 論文情報 Hayashida K, Nishi Y, Osumi M, Nobusako S and Morioka S. Goal sharing with others modulates the sense of agency and motor accuracy in social contexts. PLoS ONE. 2021 16(2): e0246561. 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 博士後期課程 林田 一輝(ハヤシダ カズキ) センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2021.02.10
抗重力姿勢時に前庭脊髄路興奮性は増大する~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
ヒトは地球上で重力に抗して座位や立位のような姿勢を保っています。このような抗重力姿勢を保つ上で、前庭脊髄路という神経経路を介した抗重力筋の制御が重要な役割を果たすと考えられています。しかしながら、ヒトにおいて、抗重力姿勢を保つ際に非抗重力姿勢と比較して前庭脊髄路興奮性が増大するかどうかについてこれまで十分に明らかにされていませんでした。畿央大学大学院修士課程の田中宏明氏と岡田洋平准教授は、ヒトにおいて抗重力姿勢時に前庭脊髄路興奮性が増大するかどうかについて、直流前庭電気刺激(Galvanic Vestibular Stimulation: GVS)やH反射という神経生理学的手法を用いて検証しました。この研究成果は、Experimental Brain Research誌(Posture influences on vestibulospinal tract excitability)に掲載されています。 研究概要 前庭脊髄路は抗重力姿勢を保持する上での抗重力筋の制御に重要な役割を果たすと考えられています。しかしながら、ヒトにおいては抗重力姿勢時に前庭脊髄路興奮性が増大するかについては明らかにされていませんでした。ヒトにおいて非侵襲的に前庭脊髄路興奮性を評価する方法として、ヒラメ筋H反射を誘発する脛骨神経刺激の100ms前に直流前庭電気刺激(galvanic vestibular stimulation (GVS))を条件刺激として与えることによるヒラメ筋H反射の促通率を評価するという神経生理学的方法があります。この方法は、耳後部に電極を貼付し直流電流で経皮的に前庭系を刺激し、前庭神経、前庭神経核、前庭脊髄路を介して、脊髄の抗重力筋の運動ニューロン群の興奮性の変化を評価していると考えられています。畿央大学大学院修士課程 田中 宏明 氏 と 岡田 洋平 准教授らの研究チームは、まず実験①において本手法を用いて、抗重力姿勢である座位において、抗重力姿勢ではない腹臥位、背臥位と比較して前庭脊髄路興奮性が高いことを示しました。しかしながら、GVSは乳様突起で電極を貼付し、経皮的に電気刺激する方法であるため、GVSによるH反射の促通が前庭刺激によるものでなく、単なる皮膚刺激によるものである可能性も棄却できていませんでした。そのため、同研究チームは実験②において、背臥位と座位においてGVSと皮膚刺激によるH反射促通の差異について検証し、GVSによるH反射の促通の程度は皮膚刺激による促通の程度よりも大きいことを示しました。 本研究のポイント ■ 座位のGVSによるH反射(最大H波)促通の程度は腹臥位、背臥位より大きかった。 ■ GVSによるH反射(最大H波)促通の程度は皮膚刺激による促通の程度と比較して、背臥位では同程度であったにも関わらず、座位では大きかった。 研究内容 実験①では、14名の健常者が研究に参加しました。対象者は、腹臥位、背臥位、座位の3つの姿勢において両耳後部の乳様突起に電極(右陰極、左陽極)を貼付し、GVSすることによる右ヒラメ筋H反射の変化率について検証しました。その結果、座位におけるGVSによるH反射(最大H波)促通の程度は、腹臥位や背臥位と比較して大きいことが示されました(図1、2、3)。 図1:GVSによるH反射の変化の測定と各姿勢条件 図2:各肢位におけるH反射(最大H波)の波形(GVSあり、GVSなし)(実験1) 図3:GVSによるH反射(最大H波)の姿勢間比較(N = 14)(実験1) 実験②では、実験①の座位におけるGVSによるH反射促通の程度が大きい結果が、GVSによる前庭刺激によるものなのか、単なる皮膚刺激によるものなのかについて明らかにするため、10名の健常者を対象に、背臥位と座位においてGVSと皮膚刺激によるH反射促通の差異について検証しました。GVSは実験①と同様に実施し、皮膚刺激は前庭系を刺激することなく、できる限りGVS時と近い部位を刺激するため、刺激電極を耳介後部と耳垂に貼ってGVS時と同じ方法で直流電流刺激を実施しました。その結果、背臥位、座位ともにGVSだけでなく皮膚刺激によってもH反射(最大H波)が促通されましたが、GVSによるH反射(最大H波)促通の程度は、座位においてのみ皮膚刺激によるH反射(最大H波)促通の程度よりも大きいことが示されました(図4)。 図4:各姿勢におけるGVSおよび皮膚刺激によるH反射(最大H波)の変化率 (実験2) これらの結果は抗重力姿勢である座位では腹臥位や背臥位と比較して前庭脊髄路が増大することを意味しています。実験②を追加実験として行うことにより、座位におけるGVSによるH反射促通効果の増大は、単なる皮膚刺激によるものではなく、前庭刺激によるものであることが示され、抗重力位である座位において前庭脊髄路興奮性がより増大するという結果の解釈はより強く支持されました。 本研究の意義および今後の展開 本研究は、抗重力姿勢である座位において腹臥位、背臥位よりも前庭脊髄路興奮性が増大することをヒトで初めて明らかにしました。このことは、ヒトにおいて前庭脊髄路が抗重力姿勢の制御に重要であるという従来の説をより支持するものです。今後は、抗重力姿勢において前庭脊髄路興奮静性が増大する神経機序について非侵襲的脳刺激などを用いて検証する必要があります。また、脳卒中やパーキンソン病、前庭疾患などの姿勢制御に異常のある患者を対象にGVSを用いた前庭脊髄路興奮性の評価を行い、臨床において遭遇する姿勢制御の異常と前庭脊髄路機能の関連性について検証し、その病態の理解を深め、介入可能性を模索していきたいと考えています。 関連する論文 Okada Y, Shiozaki T, Nakamura J, Azumi Y, Inazato M, Ono M, Kondo H, Sugitani M, Matsugi A. Influence of the intensity of galvanic vestibular stimulation and cutaneous stimulation on the soleus H-reflex in healthy individuals. Neuroreport. 2018 Sep 5;29(13):1135-1139. 論文情報 Tanaka H, Nakamura J, Siozaki T, Ueta K, Morioka S, Shomoto K, Okada Y. Posture influences on vestibulospinal tract excitability. Exp Brain Res. 2021 Jan 21. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 修士課程 田中宏明 准教授 岡田洋平 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp
2021.02.08
経頭蓋直流電気刺激(tDCS)と有酸素運動の組み合わせが鎮痛効果を早める~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
ヒトには、痛みの感受性を低下させる疼痛抑制メカニズムが備わっており、その働きは有酸素運動によって促進されます。この“有酸素運動による鎮痛効果”を得るためには、中等度以上の運動強度(軽いジョギングくらいの運動強度)で10~30分間が必要とされていますが、一部の患者では逆に痛みが増幅してしまうことが指摘されています。そこで、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 佐藤 剛介 客員研究員、森岡 周 教授らは、非侵襲的脳刺激法の一つである経頭蓋直流電気刺激(Transcranial direct current stimulation:tDCS)を有酸素運動と併用すれば、身体の負担を最小限にした鎮痛効果が得られるのではないかと仮説を立て、それを検証しました。この研究成果は、Pain Medicine誌(The effects of transcranial direct current stimulation combined with aerobic exercise on pain thresholds and electroencephalography in healthy adults.)に掲載されています。 研究概要 慢性疼痛は、生活の質や動作能力の低下を引き起こすことが知られており、治療も難しいことから社会的な問題となっています。慢性疼痛の治療には様々な方法があり、その治療法の一つに有酸素運動があります。有酸素運動は、疼痛抑制メカニズムを作動させることにより鎮痛効果を得られる(Sato et al. J Rehabil Med, 2017)ことが知られていますが、中等度の運動強度(軽いジョギングくらいの運動強度)で10~30分間の運動を必要とし、線維筋痛症や慢性疲労を伴う症例では逆に痛みを増強させることが指摘されています。そのため、鎮痛を企図した有酸素運動の適応範囲を拡大する方法を検討していくことは、慢性疼痛の治療にとって重要であります。 近年、非侵襲的脳刺激法の一つであるtDCSが注目されています。tDCSは、頭皮の上から脳に微弱な電流で刺激することにより脳活動を修飾することができる機器であり、一次運動野にtDCSの陽極刺激を行うことで鎮痛効果を得られることが報告されています。さらに、先行研究ではtDCSを単独で使用する場合よりも、他の介入法と併用することでより高い鎮痛効果を得られることが明らかにされています。また、これまでのtDCSによる鎮痛効果を調べた研究では、運動前後での比較に限られており、鎮痛効果の経時的変化を調べた研究はありませんでした。本研究では、健常者を対象に実験的疼痛を用いて、tDCSと有酸素運動の併用による鎮痛効果の時間依存的変化を検証しました。加えて、本研究では鎮痛メカニズムを検証するために、安静時脳波活動を指標として測定しました。 本研究のポイント ■ tDCSと有酸素運動を併用することでより早期かつ大きな鎮痛効果が得られた。 ■ 安静時脳波活動は、後頭領域においてPeak alpha frequency(PAF)の高周波域へのシフトが確認された。 研究内容 健常成人10名が本研究に参加し,以下の3つの条件で運動を実施しました. ① tDCSを単独で行う条件(tDCS条件) ② 偽tDCSと有酸素運動(Aerobic exercise: AE)を併用した条件(Sham tDCS/AE条件) ③ tDCSと有酸素運動を併用した条件(tDCS/AE条件) tDCSの電極は、陽極を左側の一次運動野、陰極を右側眼窩上部に配置して、2mAで20分間の陽極刺激を行いました。有酸素運動はウォーミングアップの後に20分間実施しました。疼痛閾値は、右側中指の爪で圧痛閾値(Pressure Pain threshold:PPT)を運動開始前と開始から5分毎、運動終了から15分経過時点で測定しました(図1)。 図1:tDCSおよび実験設定と圧痛閾値の測定 図(左)は、電極の位置とtDCS刺激装置を示した。陽極は左側一次運動野、陰極は右側眼窩上部に配置した。図(中)は運動実行中の状況を示す。運動は自転車エルゴメーター上で行い、tDCSによる刺激およびペダリング運動による有酸素運動を行った。図(右)には PPT の測定方法を示した。測定部位は右側中指の爪とし、固定具を用いて圧痛計を垂直に当て測定した。 PPTは、運動開始前と各時点での変化率を求め、PPT変化率の増加は痛みへの感受性が低下していることを示し、鎮痛効果の指標としました。安静時脳波は32チャンネルで測定し、各実験参加者のα帯域でのピークパワーを示す周波数であるPeak alpha frequency(PAF)を前頭領域、中心領域、頭頂領域、後頭領域で算出しました。PAFは、視床―大脳皮質間の神経回路の活動を反映しているとされており、高周波域へシフトしている場合は痛みを感じにくい状態を意味しています。 図2:各時点での圧痛閾値 (PPT)変化率の比較 tDCS条件:tDCSを単独で行う条件 Sham tDCS/AE条件:tDCSと有酸素運動を併用した条件 tDCS/AE条件:偽tDCSと有酸素運動(Aerobic exercise: AE)を併用した条件 図は各時点(5分、10分、15分、20分、運動終了後15分)における圧痛閾値 (PPT)変化率を示す。5-10分後のtDCS/AE条件では、tDCSおよびSham/AE条件と比較して圧痛閾値 (PPT) 変化率が有意に増加した。Sham tDCS/AEおよびtDCS/AE条件の圧痛閾値 (PPT) 変化率は、15~20分でtDCS条件と比較して有意に増加し、tDCS/AE条件はSham tDCS/AE条件よりも有意に高かった。運動終了後15分では、tDCS/AE条件の圧痛閾値 (PPT)変化率はtDCS条件よりも有意に高い状態を維持していた。 結果として、tDCS/AE条件は運動開始5分の時点から他の条件と比較してPPT変化率が有意に増加し、20分経過した時点では83.4%の増加を認めました(*PPTが増加するほど痛みを感じにくくなったことを意味します)。つまり、tDCSを有酸素運動と併用することによって鎮痛効果が早期に認められました。さらに、tDCS/AE条件は、運動終了後15分経過時点でもtDCS条件と比較して有意に高い鎮痛効果を示しました。20分経過時点における他の条件のPPT変化率については、tDCS条件で40.7%、Sham tDCS/AE条件では51.5%となっていました。一方、Sham tDCS/AE条件においては、運動開始より15分と20分経過時点でtDCS条件より有意に高い鎮痛効果を示しました(図2)。 なお、安静時脳波活動については、Sham tDCS/AE条件とtDCS/AE条件において、後頭領域で有意なPAFの高周波域へのシフトが認められました。有酸素運動を行った両条件で有意な変化を認めたことから有酸素運動によるPAFの変化を反映したものと考えられ、tDCS併用による特異的な変化を発見するには至りませんでした。 本研究の意義および今後の展開 本研究は、tDCSと有酸素運動を併用することで、より早期かつ大きな鎮痛効果が得られることを初めて明らかにしました。これは、tDCSによる一次運動野への陽極刺激を併用することで、有酸素運動による鎮痛効果を促進できることを示唆しています。本研究の知見は、有酸素運動により疼痛が増強されてしまうような症例や体力が不十分な症例に対して、tDCSと有酸素運動の併用による介入が有用である可能性を示しています。 関連する論文 Sato G, Osumi M, Morioka S. Effects of wheelchair propulsion on neuropathic pain and resting electroencephalography after spinal cord injury. J Rehabil Med. 2017 Jan 31;49(2):136-143. 論文情報 Sato G, Osumi M, Nobusako S, Morioka S. The effects of transcranial direct current stimulation combined with aerobic exercise on pain thresholds and electroencephalography in healthy adults. Pain Medicine. 2021 in press. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 佐藤剛介 E-mail: gpamjl@live.jp 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2021.01.27
第6回畿央大学シニア講座「なぜ腰痛を治すために運動が必要なのか、どのように運動をすればいいのか」をオンライン開催しました。
令和3(2021)年1月23日(土)、畿央大学では地域のシニア世代の方々を対象に、「健康」と「教育」について学びを深めるための「畿央大学シニア講座」を開催いたしました。 今回で6回目の開催となりますが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、例年実施していた対面式での講座を実施することが困難となり、今年は初の試みとしてZoomアプリを用いて「オンライン」での開催となりました。 「なぜ腰痛を治すために運動が必要なのか、どのように運動をすればいいのか」をテーマに、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの大住倫弘准教授が、運動不足になりがちなコロナ禍だからこそ正しく腰痛を理解していただくべく、オンライン参加者22名の皆さまに最新の知見を学んでいただきました。 まず、画面上で資料を見ていただきながら、「腰痛のメカニズム」や「痛み」についての講義を行いました。痛みが出たときや痛みが長引くときにどう対処することが良いのか、自身の腰痛の状態についてどのように把握すれば良いのかなど、参加者の方にもわかるよう専門の知識を丁寧にお伝えしました。 また講義だけではなく、腰痛に効果的なストレッチもレクチャーしました。参加者の皆さまが画面越しにストレッチを実践し、動画の中では大住准教授が実際にストレッチのデモンストレーションをしたり、実践のための時間を取ったりして、ただ動画を視聴していただくだけでなく実際に身体を動かす場を設けて参加者の方を退屈させないような工夫も行いました。 ▼腰痛に効果的な体操をレクチャー すべての講義が終了した後はZoomアプリのQ&A機能を使い、質疑応答の時間を設けました。「1日にどれくらいストレッチをしたら良いでしょうか」「寝方が悪いのですが、それも腰痛の原因でしょうか」等の多くの質問があり、その一つ一つを大住准教授が口頭で回答していきました。 講座終了後、参加者の方からは、「理論的な説明、具体的に運動の仕方を教えていただき、ありがたかった。」「痛みの原因、骨格と筋肉図での解説でわかりやすかった。」といった内容についての感想や、「大学に行かなくても有意義な講座を受講することができました。今後もオンライン講座を開催していただけると気軽に参加しやすいです。」「自宅からも気軽に参加できるので、今後もオンライン枠を残してほしい。」といった、オンライン講座に対しての好評なご感想・ご要望も数多くいただきました。 オンラインでの初開催となりましたが、このような形での情報発信、地域貢献も大変有効だということを実感することができました。引き続き、畿央大学では今後も社会情勢に寄り添いながら、様々な形で地域貢献ならびに社会貢献に取り組んでまいります。 【関連記事】 第5回畿央大学シニア講座 第4回畿央大学シニア講座 第3回畿央大学シニア講座 第2回畿央大学シニア講座 第1回畿央大学シニア講座
2021.01.08
因果関係が明らかな状況下での他者の存在による因果帰属の変化~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
「責任転嫁」は行為結果の原因が曖昧な状況によって起こる社会的問題であることはよく知られています。しかしながら、因果関係が明らかな状況においても責任転嫁が生じるかどうかは不明でした。この潜在的な責任転嫁の可能性を畿央大学大学院博士後期課程の林田一輝 氏と森岡 周 教授はtemporal bindingという手法を用いて検証しました。この研究成果は、Frontiers in Psychology誌(Changes of Causal Attribution by a Co-Actor in Situations of Obvious Causality)に掲載されています。 研究概要 責任転嫁はよく知られた社会現象であり、医療現場においては人命に関わる問題を引き起こします。これまでの研究では、他者の存在によって結果の原因が曖昧になることで、責任帰属が低下していました。しかしながら、自己と他者の両方が結果の原因であることが「明白」な状況であっても、責任転嫁をもたらすかどうかは不明でした。この潜在的な責任転嫁の可能性を知覚的な因果帰属の指標であるtemporal binding(TB)という手法を用いて検証しました。TB効果が低い場合には、責任転嫁が増加していることを示します。因果帰属に及ぼす他者の存在の影響を調べるために、参加者はALONE条件(参加者のみ)またはTOGETHER条件(参加者と他者)の2つの実験条件を実施しました。これらの条件間では「行動が共有されているかどうか」という点だけが異なっており、両条件とも結果の原因が参加者であることは明白な状況でした。参加者の行為結果に対して責任感を感じさせるために、他者に大きな金銭的損失を与えるHigh harm条件と小さな金銭的損失を与えるLow harm条件、金銭的損失を与えないBaseline条件の設定をし、参加者に罪悪感を惹起させる手続きを行いました。実験の結果、他者に大きな金銭的損失を生じさせてしまう条件(High harm条件をTOGETHER条件で実施した場合)では、TB効果が低い値を示しました。つまり、自分のせいで他者に損害が生じた場面にもかかわらず、「他者の損失は自分のせいではない」という責任転嫁が生じました。本研究では、結果の原因が明らかであっても、他者と行動を共にすることによって知覚的な因果帰属が変化することが示唆されました。このことは、非人道的な状況における責任転嫁のメカニズムを理解する上で重要であると考えられます。 本研究のポイント ■ 因果関係が明らかな状況下でも他者との行為の共有は知覚的な因果帰属を変調させる可能性がある。 研究内容 画面上にクロスが1秒間表示された後、1秒ごとに数字をカウントし、数字が3を表示したら、参加者はキーを押すように指示されました。そのキー押しから少しの時間遅延があり、音が鳴りました。ここの時間遅延は、ランダムに200、500、700msが設定されましたが、参加者は1~1000msまでのランダムな時間遅延であると伝えられていました。 図1:実験タスク 参加者はどれだけの時間遅延であったかを推定し、キーボードを用いてその値を回答しました。この時間遅延が短く感じる程、行為(キー押し)と結果(音)の因果帰属が高いことを示します。音の周波数は300Hz、1000Hz、3000Hzのいずれかであり、それぞれの周波数に金銭的損失額が関連付けられていました。金銭的損失額は、損失なしのBaseline条件、1円損失のLow harm条件、200円損失のHigh harm条件の3つの条件で構成されました。ここで提示される周波数(金銭的損失額)の順序は予測不可能でした。Low harm条件またはHigh harm条件の音が鳴ったとき、参加者は時間遅延を推定した後に、実験者が実際に金額を減らす手順を確認しました。参加者は、他者が元々いくら持っていて、いくらお金が減るかについては知らされていませんでした。参加者は、ALONE条件とTOGETHER条件でそれぞれ81回の試行を行いました。10回の練習試行では、周波数と金銭的損失額の関連づけを十分に理解していることが確認されました。実際には、TOGETHER条件では実験者が使用したキーが反応せず、金銭的損失もありませんでした。これらの事実は、すべての実験終了後に参加者に知らされました。(図1)。 この実験の結果、High harm条件を他者と一緒に実施すると(High harm条件×TOGETHER条件)、推定遅延時間が有意に延長しました(図2)。この推定遅延時間が短いほど、自分がボタンを押したという責任を感じていることを表していることから、High harm条件×TOGETHER条件で推定遅延時間が延長することは、他者の損害を自分のせいではないという責任転嫁が生じていることを表しています。つまり、因果関係が明らかな状況においても責任転嫁が生じたということになります。 図2:ALONE 条件とTOGETHER条件の各金銭的損失条件の関係。推定遅延時間が小さい程、因果帰属(自分がボタンを押して音が鳴るという因果帰属)の増幅を示す。High harm条件において、ALONE条件よりもTOGETHER条件で推定遅延時間の有意な延長を認めた。***p < 0.001,**p < 0.01 本研究の意義および今後の展開 本研究は他者との行為共有が知覚的な因果帰属を変調させる可能性を示唆しました。責任転嫁のメカニズムはまだまだ不明なことが多く、本研究結果は社会的な行為結果の因果帰属変容プロセス解明の一助になることが期待されます。 関連する先行研究 Hayashida K, Nishi Y, Masuike A, Morioka S. Intentional Binding Effects in the Experience of Noticing the Regularity of a Perceptual-Motor Task. Brain Sci. 2020 Sep 22;10(9):659. 論文情報 Hayashida K, Miyawaki Yu, Nishi Y and Morioka S. Changes of Causal Attribution by a Co-Actor in Situations of Obvious Causality. Front Psychol. 2021 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 林田 一輝(ハヤシダ カズキ) E-mail: kazuki_aka_linda@yahoo.co.jp 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp