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プレスリリース一覧

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2025.02.14

脳卒中後の特異な空間認知障害を報告-描画時に左側を過剰に表現する症例-~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中後、多くの患者さんに見られる半側空間無視は、日常生活動作に支障をきたし、リハビリテーションの大きな課題となっています。この症状が改善した後も残る空間認知の障害は、患者さんの生活の質に影響を与える可能性があります。畿央大学大学院健康科学研究科の吉川里彩氏、大住倫弘准教授、森岡周教授らの研究グループは、右視床出血後の症例を詳細に分析し、半側空間無視が改善した後も、描画時に左側の要素を過剰に表現する「Hyperschematia(空間の過剰表象)」が継続することを発見しました。さらに、詳細な画像解析により、この症状が脳の腹側視覚経路の損傷と関連している可能性を明らかにしました。この研究成果は国際学術誌Cureus(Persistent Hyperschematia With Over-Generation Following Recovery From Unilateral Spatial Neglect: A Case Report)に掲載されています。   研究概要 脳卒中後の空間認知障害の一つである半側空間無視は、脳の右側が損傷を受けた際に起こる症状です。この症状により、患者さんは左側の空間を認識することが困難となり、日常生活に大きな支障をきたします。これまでの研究から、半側空間無視には様々な特徴があることが分かっていますが、回復過程での変化については、まだ十分に解明されていない点が多く残されています。 畿央大学大学院健康科学研究科の吉川里彩氏(西大和リハビリテーション病院言語聴覚士)、南川勇二氏、大住倫弘准教授、森岡周教授らは、右視床出血後の症例を縦断的に詳細に分析しました。その結果、半側空間無視が改善した後も、描画時に左側の要素を過剰に表現する「Hyperschematia(空間の過剰表象)」という特異な症状が継続することを発見しました。例えば、星の左部分を拡大して表現したり、時計の文字盤を描く際に必要以上の数字を書いたり、花の絵を描く際に左側に余分な花びらを加えたりする現象が観察されました。 本研究の新しい発見は以下の2点です。第一に、これまで半側空間無視や身体失認に付随すると考えられていた「Hyperschematia」が、必ずしも半側空間無視の症状と同時に改善するとは限らないことを示しました。第二に、詳細な画像解析技術を用いて、この症状が脳の腹側視覚経路の損傷と関連している可能性を明らかにしました。 この成果は、脳卒中後の空間認知障害の理解を深め、より効果的なリハビリテーション方法の開発につながる重要な知見を提供しています。空間認知の障害に対して、より詳細な評価と個別化された対応の重要性を示唆する発見といえます。   本研究のポイント 右視床出血後の症例において、半側空間無視が改善した後も、描画時に左側の要素を過剰に表現する「Hyperschematia」が継続することを見出しました。  画像解析により、この症状が下前頭後頭束(IFOF)および中縦束(MdLF)という腹側視覚経路の損傷と関連している可能性を明らかにしました。 研究内容 本研究の目的は、脳卒中後の半側空間無視の回復過程における空間認知の変化を明らかにすることでした。研究では、右視床出血後の症例について、約6ヶ月間の詳細な観察を行い、従来の評価に加えて最新の脳画像解析を実施しました。     研究グループは、最新の画像解析技術を用いて脳の神経回路を詳細に分析しました。その結果、本症例では、下前頭後頭束(IFOF)および中縦束(MdLF)という腹側視覚経路に90%以上の重度な損傷があることが判明しました。 行動評価では、特徴的な「Hyperschematia」が半側空間無視の改善後も持続することが明らかになりました。下図に示すように、星の左部分を拡大して表現したり、時計描画では文字盤に必要以上の数字を書き加える、花の絵では左側に余分な要素を追加するなどの現象が観察されました。これらの症状は観察期間を通じて持続しました。   このような詳細な観察と画像解析の結果から、研究グループは以下の重要な結論に達しました: 「Hyperschematia」は、半側空間無視の改善後も残存する可能性がある。 この症状は、腹側視覚経路の損傷と関連している可能性が高い。 これらの知見は、脳卒中後の空間認知障害の評価において、従来の半側空間無視の評価に加えて、より包括的な空間認知機能の評価が必要であることを示唆しています。 このように、神経回路の損傷パターンと行動症状を詳細に対応づけた本研究は、脳卒中後の空間認知障害の理解を深め、より効果的なリハビリテーション方法の確立に向けた重要な一歩となりました。   本研究の臨床的意義および今後の展開 この症例研究では、半側空間無視の改善後も「Hyperschematia」が持続する可能性と、その症状が脳の特定の神経経路の損傷と関連している可能性を示しました。これは空間認知障害の評価において新たな視点を提供するものです。 論文情報 Yoshikawa R, Minamikawa Y, Osumi M, Morioka S. Persistent Hyperschematia With Over-Generation Following Recovery From Unilateral Spatial Neglect: A Case Report. Cureus. 2025 Jan 25;17(1):e77951.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2025.02.04

脳卒中者の歩行非対称性の特徴-障害と代償戦略の特定-~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中後、多くの人が体験する歩行の左右非対称性は、転倒リスクを高め、リハビリ期間を長引かせることがあります。この現象は「歩行非対称性」と呼ばれ、日常生活の質に大きな影響を与えます。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 の 水田直道さん(日本福祉大学健康科学部 助教 )、教授 森岡 周 らを中心とする研究グループは、リズム聴覚刺激を用いた歩行実験を通じて、歩行非対称性の原因が「純粋な障害」と「補償戦略」の2つに分類できることを明らかにしました。さらに、被験者の歩行パターンを詳細に分析することで、歩行非対称性が4つの特徴的なグループに分類できることを明らかにしました。この研究成果はScientific Reports誌 (Identifying impairments and compensatory strategies for temporal gait asymmetry in post-stroke persons)に掲載されています。 研究概要 脳卒中者の歩行の特徴として、歩行時の左右の動きが異なる「歩行非対称性(Temporal Gait Asymmetry, TGA)」があります。この状態は転倒リスクを高め、日常生活の質を低下させるだけでなく、リハビリ期間の延長にもつながります。TGAは、運動麻痺や痙縮などの身体的な要因だけでなく、患者が安全を優先して取る歩行戦略も影響していると考えられていました。しかし、快適歩行条件(CWS)における非対称性は、純粋な障害と代償戦略が混在しており、これらの要因をどのように区別できるかは明らかにされていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 の 水田直道さん(日本福祉大学健康科学部 助教 )、教授 森岡 周 らを中心とする研究グループは、リズム聴覚刺激を用いた歩行実験を通じて、歩行非対称性の原因が「純粋な障害」と「補償戦略」の2つに分類できることを明らかにしました。   クラスター1:過剰な代償戦略 メトロノームの音に合わせて歩行する条件(RAC)では左右対称に歩くことができるにも関わらず、CWSでは非対称的であるクラスター。 身体機能は他のクラスターと差はないが、歩行への自己効力感(modified Gait Efficacy Scale)が低く、「代償戦略」が優位になっていると考えられます。   クラスター2:純粋な障害 CWS・RACともに非対称的な歩行となるクラスター。 運動麻痺や痙縮、体幹機能等が重症であり、「純粋な障害」が優位になっていると考えられます。 本研究は、これまで区別が困難であったTGAの要因を「純粋な障害」と「代償戦略」に分類した点にあります。この成果は、個々の脳卒中者に合わせた、テーラーメイドリハビリテーションの構築に役立つことが期待されます。   本研究のポイント • CWSとRACを用いた2つの条件下で、歩行中の時間的対称性(SI)を評価した。 •「純粋な障害」を特徴とするクラスターは、運動麻痺や痙縮、体幹機能低下などの神経学的要因により歩行が非対称的である特徴がありました。 •「代償戦略」を特徴とするクラスターは、身体機能は他のクラスターと差がないが、歩行への自己効力感が低い特徴がありました。   研究内容 本研究では脳卒中後の患者39名を対象に、Fugl-Meyer Assessment(FMA)、Modified Ashworth Scale(MAS)、Trunk Impairment Scale、modified Gait Efficacy Scale(mGES)を用いて臨床評価を行い、参加者の身体機能や歩行の自己効力感を評価しました。参加者は、快適歩行条件(CWS)とメトロノームの音に合わせて歩行する条件(RAC)の2つの異なる条件下で10m歩行を行いました。RAC条件では、CWS条件で計測されたケイデンスに基づきメトロノームのテンポを設定し、参加者はメトロノームの音に下肢の接地タイミングを合わせて歩行しました。慣性センサーのデータから両下肢の接地・離地のタイミングを同定し、単脚支持時間の対称性指数(SI)を算出しました。CWS条件とRAC条件における単脚支持時間のSIを用いて、混合ガウスモデルに基づくクラスター分析を行い、参加者を4つのクラスターに分類しました。   図1.対称性指数に基づくクラスタリングの結果.© 2025 Naomichi Mizuta   CWSおよびRAC条件における歩行中の単脚支持時間の対称性指数の分布をクラスターごとに示す。黒色のラインプロットは全データの回帰直線を示す。上図と右図は、各条件における平均値、95%信頼区間、各データポイントを示している。 対称性指数が負であるほど、非麻痺側の単脚支持時間が麻痺側と比較して長いことを示す。 CWS条件とRAC条件における単脚支持時間のSIは有意な相関関係が見られませんでした。クラスター分析の結果、4つのクラスターが抽出され、本研究の目的に合致したクラスターは下記の2つです。   クラスター1:過剰な代償戦略 RACでは左右対称に歩けるが、CWSでは非対称的であるクラスター。 身体機能は他のクラスターと差はないが、歩行への自己効力感(modified Gait Efficacy Scale)が低く、「代償戦略」が優位になっていると考えられます。   クラスター2:純粋な障害 CWS・RACともに非対称的な歩行となるクラスター。 運動麻痺や痙縮、体幹機能等が重症であり、「純粋な障害」が優位になっていると考えられます。   本研究の臨床的意義および今後の展開 これまで区別されていなかった快適歩行時のTGAの要因を、「純粋な障害」と「代償戦略」に分類できたことは、個々の脳卒中者に応じた、より効果的なリハビリテーションの立案に役立つと期待されます。今後は、個々の特徴に合わせたリハビリテーション介入の効果を検証する予定です。 論文情報 Naomichi Mizuta, Naruhito Hasui, Yasutaka Higa, Ayaka Matsunaga, Sora Ohnishi, Yuki Sato, Tomoki Nakatani, Junji Taguchi, Shu Morioka. Identifying impairments and compensatory strategies for temporal gait asymmetry in post-stroke persons. Scientific Reports, 2025.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 水田直道 教授    森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2025.01.24

顕著な前屈姿勢を示すパーキンソン病患者の歩行不安定性と代償戦略の解明~ニューロリハビリテーション研究センター

パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)患者は、顕著な前屈姿勢(Camptocormia)を示すことがあります。しかし、そのような前屈姿勢が歩行不安定性にどのような影響を与えるのか、またそれをどのように代償しているのかについて客観的に十分明らかにされていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程の浦上英之氏と岡田洋平准教授らは、三次元動作解析装置を用いて実験的検証を行うことにより、顕著な前屈姿勢を示す患者は、歩行中の垂直方向の不安定性が高く転倒リスクが高いこと、また重心位置を後方に位置させ、側方への重心移動を増加させる代償戦略をとることを初めて明らかにしました。本研究の知見は、前屈姿勢を示すパーキンソン病患者の歩行安定性を最適化するためのリハビリテーションにおける介入戦略を検討する上で有益な知見となることが期待されます。この研究成果は、Journal of Movement Disorders誌(Gait instability and compensatory mechanisms in Parkinson's disease with camptocormia: An exploratory study)に掲載されています。 研究概要 畿央大学大学院博士後期課程の浦上英之氏と岡田洋平准教授らは、三次元動作解析装置を用いて実験的検証を行うことにより、顕著な前屈姿勢を示すパーキンソン病患者は、歩行中の垂直方向の不安定性が高く、転倒リスクが高いこと、また重心位置を後方に位置させ、側方への重心移動を増加させる代償戦略をとることを初めて明らかにしました。   本研究のポイント ・顕著な前屈姿勢(camptocormia)を示すパーキンソン病患者と顕著な姿勢異常を示さない患者の歩行の不安定性とそれを代償するための戦略について、三次元動作解析装置を用いて実験的に検証した。 ・ 顕著な前屈姿勢を示す患者は、歩行中の垂直方向の不安定性が高く、転倒リスクが高いことと、重心位置を後方に位置させ、側方重心移動を増加させながら歩く代償戦略をとっていることを明らかにした。 ・ また、パーキンソン病患者は前屈姿勢が強くなるにつれて、これらの歩行不安定性と代償戦略が強くなることも示した。   研究内容 本研究では、顕著な前屈姿勢であるCamptocormiaを示すPD患者10名、CamptocormiaがないPD患者30名および健常高齢者27名を対象に、三次元動作解析を用いて歩行不安定性の検証を行いました。対象者には快適歩行速度で5mの歩行路を歩行してもらい、歩行安定性指標(図1)と時空間歩行指標、運動学的指標を計測しました。実験環境における歩行安定性と代償戦略は、個人の特性や心理状況によって異なる可能性があります。したがって、健常高齢者群と比較して顕著に異なる歩行不安定性の傾向を有する患者を確認したうえで、その者を除外し、3群間比較を実施しました。また、PD患者全体で前屈角度と各歩行指標との関連を検討しました。 図1.歩行安定性指標 前方・側方・垂直方向の歩行安定性指標の算出方法を示す。いずれも歩行中の踵接地時に算出した。速度が考慮されたCOMであるXCOMが支持基底面内に位置する場合はMOS>0、支持基底面から逸脱し物理的に不安定な状態はMOS<0となる。 CamptocormiaがあるPD患者のうち1名は、顕著な前方への歩行不安定性を示しました。異質であったこの1例を除き、解析を行った結果、CamptocormiaがあるPD患者はCamptocormiaがないPD患者と比較して、COMが低位であり、垂直方向の歩行不安定性が高いことが示されました。また、CamptocormiaがあるPD患者は、歩行中のCOMを後方に位置させ、矢状面上の下肢関節運動範囲が減少し、COM側方速度、骨盤側方傾斜の運動範囲、歩隔が増加することが示されました(図2)。   図2.Camptocormiaがあるパーキンソン病患者の歩行の特徴   Camptocormiaがあるパーキンソン病患者はCamptocormiaがないパーキンソン患者と比較して、COM位置は低かった。また、歩行時にCOMを後方に位置させ、矢状面上の運動範囲を減少し、前額面の運動やCOM移動を増加させることも示された。 顕著な前方への歩行不安定性を示した1名は、CamptocormiaがあるPD患者群の特徴であったCOM後位や矢状面上の関節運動範囲の減少、歩隔の拡大を認めませんでした。また、この症例は頻回な前方への転倒歴を認め、転倒恐怖心が乏しく、歩行時の安全性を優先しない発言や行動を認めました。 これらの結果は、Camptocormiaを示すPD患者はCamptocormiaがないPD患者と比較して、垂直方向の歩行不安定性が高く、前屈角度の増加に伴い転倒リスクが高まることを示しています。一方で、Camptocormiaを示すPD患者は、前方への歩行不安定性が生じないように後方重心姿勢をとり、矢状面上での関節運動を減少させ、側方の関節運動を増加させることで、体幹屈曲の慣性モーメントを減少させる代償戦略をとっていると考えられます。   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究の知見により、顕著な前屈姿勢を示すパーキンソン病患者は、垂直方向の歩行不安定性による転倒リスク増加と歩行不安定性の代償戦略について、初めて客観的に解明しました。また、一部の前屈姿勢を示す患者は、実験環境下でも顕著な前方への歩行不安定性を示すことが確認されました。本研究の知見は、前屈姿勢を示すパーキンソン病患者の歩行安定性を最適化するためのリハビリテーションにおける介入戦略を検討する上で有益な知見となることが期待されます。今後は、実際の日常生活場面の歩行不安定性の検証や個人の代償戦略の適用に及ぼす要因についても検証する予定です。   論文情報 Urakami Hideyuki, Nikaido Yasutaka, Okuda Yuta, Kikuchi Yutaka, Saura Ryuichi, Okada Yohei. Gait instability and compensatory mechanisms in Parkinson’s disease with camptocormia: An exploratory study. Journal of Movement Disorders, 2025.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 准教授 岡田洋平(オカダヨウヘイ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp

2025.01.06

脳卒中患者への定量的上肢活動量評価を用いた行動変容介入の効果~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中患者は、中枢神経系の損傷により上肢機能障害を呈し、麻痺側上肢の使用頻度が低下することで社会参加が妨げられ、生活の質に不利益をもたらします。麻痺側上肢の使用頻度には、性格特性や脳卒中後に生じる心理的要因(自己効力感や結果期待)も影響することが分かっています。しかし、心理面や性格特性による麻痺側上肢活動の低下に着目した長期的な支援を実施した報告は散見されません。畿央大学大学院博士後期課程の南川勇二氏と森岡周教授らは、心理的要因によって麻痺側上肢の上肢活動量が低下している脳卒中患者1例に対し、上肢活動量の長期的なモニタリングに基づいた行動変容介入を行いました。その結果、上肢機能に加えて、日常生活の上肢活動量が改善しました。さらに、自己効力感が先行して改善し上肢活動量が改善することも明らかにしました。この研究成果は学術誌『作業療法』(心理的要因による脳卒中後麻痺側上肢使用に対する定量的上肢活動量評価を用いた行動変容介入の効果-症例報告-)に掲載されています。   研究概要 脳卒中患者は、中枢神経系の損傷により上肢機能障害を呈し、性格特性や心理的側面(手に対する自己効力感や結果期待)への影響から日常生活で麻痺側の上肢を使用することが困難になることがあります。これは、日常生活活動や社会参加を妨げ、生活の質の低下にもつながります。そのため、リハビリテーション専門家にとって、脳卒中患者の性格や心理的側面を考慮した上肢活動に対する包括的なアプローチが重要です。しかしながら、上肢機能に加え、心理面や性格特性による麻痺側上肢活動の低下に着目して長期的な支援した報告は散見されません。畿央大学大学院博士後期課程の南川勇二氏および森岡周教授らの研究チームは、脳卒中患者1症例に対し、入院中から退院後まで長期的にリストバンド型の加速度計を用いて日常生活にける上肢活動を分析、可視化することで麻痺側上肢の使用状況をモニタリングしました。加えて、上肢活動量の経過や症例の性格、心理面を考慮した行動変容介入を行いました。その結果、上肢機能や心理機能だけでなく、上肢活動量が改善し、日常生活活動や趣味活動の再獲得に繋がりました。また、脳卒中患者の長期的な心理的側面が先行して改善し、上肢活動量が改善することも明らかにしました。本症例報告は、入院中から退院後まで上肢活動を長期的にモニタリングして支援した報告であり、1症例ながら重要な知見といえます。   本研究のポイント ・心理的要因によって麻痺側上肢使用頻度が低下していた脳卒中患者に対し入院中から退院後まで長期的に支援した。 ・上肢使用のモニタリングにリストバンド型加速度計を用いた定量的上肢活動量評価を用いた行動変容介入を試みた結果、上肢活動量の長期的な改善を認めた。 ・1症例の介入効果を時系列分析することで、麻痺側上肢に対する主観的な認識の改善が後の上肢活動量改善に寄与した可能性が示唆された。   研究内容 本研究では、脳卒中患者1症例に対して入院中からリストバンド型の3軸加速度計を用い、日常生活にける上肢活動量を分析するとともに性格や心理面を考慮した行動変容介入を行いました。 上肢活動量は活動時間を表す各上肢の活動時間やその左右比からなる両側の使用率と、活動強度(加速度の大きさ)を表す両上肢活動強度の和、両側活動強度比を算出し、可視化することで(図1)麻痺側上肢の使用状況をモニタリングと症例へフィードバックを行いました。入院中から上肢機能と心理的側面に加えて、日常生活の上肢活動量をモニタリングしながら支援し、退院後には訪問リハビリテーションスタッフと連携することで、発症後約1年6ヶ月まで長期的な支援を行いました。その結果、Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目やAction Research Arm Test、Motor Activity Logといった上肢機能評価や自己効力感や結果期待などの心理評価に加え、上肢活動量が長期的に改善し(図2)、日常生活活動や趣味活動の再獲得に繋がりました。加えて、本症例の上肢活動量と各上肢関連評価の時系列的関係を検証するために相互相関分析を実施しました。その結果、両上肢活動強度の和は1時点前のMALと自己効力感、両側の使用率は1時点前のARAT、自己効力感、結果期待と相関関係を認めました。つまり、脳卒中患者の長期的な上肢活動量の改善には上肢活動に対する主観的な認識や心理的側面が先行して改善することを明らかにしました。 本症例報告は、麻痺側上肢活動の向上には、心理評価と加速度計による定量的な上肢活動量のモニタリング結果による適切なフィードバック介入が重要であったことを示唆しています。一方、本報告は1事例を対象とした後方視的な検討であり、心理機能と上肢活動量評価との因果関係を明確に示す結果ではなく、解釈には注意が必要です。   図1.症例へのフィードバックに用いた図示化された上肢活動量評価と各指標の算出方法   横軸が両手動作時の麻痺側および非麻痺側の活動強度比率を表した両側活動強度比、縦軸が麻痺側と非麻痺側の活動強度を合計した両上肢活動強度の和を示し、それぞれの指標の関係が1秒毎にプロットされた症例の1日の上肢活動量を図示化したものである。プロット数が多く重なると、寒色から暖色へとプロットの色が変化する。縦軸は両上肢の活動強度を合計した値の大きさを示す。横軸は正の値(右側)にプロットされると麻痺側上肢の活動が優位であることを示し、負の値(左側)にプロットされると非麻痺側上肢の活動が有意であることを示す。横軸上の「7」と「−7」のバーは片側の加速度のみが反応した単肢での活動量を示す。縦に記載された黒線は両側活動強度比がプロットされた中心の位置を示す。   図2.上肢活動量長期的な変化 両側活動強度比:0に近付くほど左右上肢の活動強度が均等であることを示す。 両上肢活動強度の和:数値が高くなるほどより大きな両側上肢活動を行っていることを示す。   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、1症例ながら、上肢活動量の向上に時間前後関係として自己効力感が先行して改善していたことは1症例ながら重要な知見であると考えます。この報告は、リハビリテーション専門家が脳卒中患者の日常生活における麻痺側上肢使用の行動変容を考える際に着目すべき点として心理的側面が重要であることを示しています。今後は、その他の要素を含めた脳卒中患者内における上肢活動量の特徴を横断的に調査していくことや、心理的要因と上肢活動量の関係を縦断的に調査する必要があります。   論文情報 南川 勇二、西 祐樹、生野 公貴、森岡 周 心理的要因による脳卒中後麻痺側上肢使用の低下に対する定量的上肢活動量評価を用いた行動変容介入の効果-症例報告- 作業療法, 2024   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2024.12.20

パーキンソン病患者の移動支援に新たな可能性—足こぎ車椅子の有効性を確認~ニューロリハビリテーション研究センター

畿央大学の岡田洋平准教授らの研究グループは、すくみ足のあるパーキンソン病患者に足こぎ車椅子を導入し、従来の手動車椅子に比べてスムーズかつ十分な速度で駆動できることを明らかにしました。この研究成果は、Movement Disorders Clinical Practice誌に掲載されました(The Cycling Wheelchair as a New Mobility Aid for Individuals with Parkinson's Disease)。 研究概要 パーキンソン病患者は、疾患の初期段階から歩行能力が低下し、進行に伴いその傾向が顕著になります。その結果、日常生活で車椅子が必要となることがあります。しかし、手動車椅子を使用する際にも駆動能力が制限される場合が多いことが課題です。一方で、パーキンソン病患者は自転車のペダル操作能力が比較的保たれていることが知られています。本研究では、ペダル操作で駆動する足こぎ車椅子に着目し、その有効性を手動車椅子と比較しました。その結果、手動車椅子の駆動能力が著しく低下している患者でも、足こぎ車椅子ではスムーズかつ十分な速度で移動可能であることを確認しました。 本研究のポイント ・パーキンソン病患者に足こぎ車椅子を導入し、駆動能力を比較検証した。 ・手動車椅子の駆動が困難な患者でも、足こぎ車椅子でスムーズかつ十分な速度での移動が可能であることを実証した。   研究内容 本研究では、すくみ足を有するパーキンソン病患者2名を対象に、足こぎ車椅子(図1)と手動車椅子による10m直進路の駆動能力を比較しました。 症例1では、手動車椅子の約6倍の速度で足こぎ車椅子を駆動できました。   図1 足こぎ車椅子(COGGY,TESS) 症例2は強い前屈姿勢があり手動車椅子では途中で停止しましたが、足こぎ車椅子では十分な速度で完走可能でした。   図2 主な結果:車いすの駆動速度の比較(手動車椅子 vs 足こぎ車椅子)   これらの結果から、足こぎ車椅子は移動能力が低下したパーキンソン病患者にとって新しいモビリティエイドとしての可能性を示しています。   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究の結果、パーキンソン病患者の足こぎ車椅子の駆動能力は、従来の手動車椅子と比較して非常に高いことが明らかにされました。パーキンソン病患者にとって、日常生活で自由に動けることの意義は大変大きく、生活の質の向上への寄与が期待されます。今後は、方向転換や狭いスペースでの操作性など、より実用的な検証を進め、施設環境などでの有効性も調査できればと考えています。   論文情報 Okada Y, Narita M, Okamoto M, Osumi M, Morioka S. The Cycling Wheelchair as a New Mobility Aid for Individuals with Parkinson’s Disease. Mov Disord Clin Pract. 2024 Dec 5.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 准教授 岡田 洋平(オカダ ヨウヘイ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp

2024.11.29

脳卒中後の運動主体感:定量化と上肢使用量への影響~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中後の運動障害は、「自分が自分の運動を制御している」という感覚である運動主体感を奪う可能性があります。しかし、運動障害は麻痺肢の重たさやぎこちなさといった不快感も招くため、運動主体感それ自体が患者の行動変容にどのような影響を及ぼしているのかは明らかではありませんでした。国立研究開発法人産業技術総合研究所の宮脇裕氏と本学の森岡周教授らは、脳卒中後運動障害が招く様々な不快感から運動主体感を分離し評価した上で、運動主体感が上肢使用量に影響することを明らかにしました。この研究成果は、Cortex誌(Diminished sense of agency inhibits paretic upper-limb use in patients with post-stroke motor deficits)に掲載されています。   研究概要 脳卒中後運動障害は身体運動の制御を困難にし、「自分が自分の運動を制御している」という感覚、すなわち運動主体感(Sense of Agency)を奪う可能性があります。運動主体感は、運動制御だけでなく、行為の動機付けや注意分配に関与し、この感覚が伴わない行為は実行されにくくなることが示唆されています。これらの知見に基づけば、運動主体感の低下は行為頻度の減少を招き、身体活動量、特に上肢の使用量を減少させる可能性が考えられます。しかし、運動障害は麻痺肢の重たさやぎこちなさなどの不快感も招くため、運動主体感それ自体が上肢使用量に影響するのかは明らかではありません。この検証のためには、不快感から運動主体感を分離し、運動主体感それ自体を定量化する必要があります。 そこで、国立研究開発法人産業技術総合研究所の宮脇裕氏(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター客員研究員)と森岡 周 教授らは、不快感と運動主体感の分離を実現する質問紙を独自に開発し、患者の運動主体感を縦断的に評価することで、運動障害が招く運動主体感の低下が上肢使用量に及ぼす影響を精査しました。その結果、不快感ではなく運動主体感の低下が上肢使用量の減少に関連することが示され、運動障害が運動主体感を阻害することで、上肢使用量が減少するという運動主体感の媒介効果が明らかになりました。さらに、運動主体感が低下していた場合、これが向上することで、上肢使用量の改善が大きくなることが示されました。   本研究のポイント ・脳卒中後の運動障害が招く様々な不快感から運動主体感を分離し評価する質問紙を開発した。 ・運動障害が重度なほど、運動主体感が低下することを示した。 ・不快感ではなく運動主体感の低下が、上肢使用量の減少に関連することを示した。 ・運動主体感の向上が、上肢使用量の改善と関連することを示した。   研究内容 独自に開発した質問紙と、Fugl-Meyer Assessmentなどの臨床評価尺度を用いて、脳卒中後患者156名の運動主体感と、感覚運動機能および認知機能を縦断的に評価しました。質問紙には、運動主体感の関連・非関連項目を含み、因子分析後の因子パターンに基づき項目が選定されました。その後、適合度指標に基づき、運動主体感と不快感を分離した2因子モデルと分離しない1因子モデルを比較しました。これらを経て抽出した因子を用いて、構造方程式モデリング(SEM)により臨床アウトカムとの関連を分析し、voxel-based lesion-symptom mapping(VLSM)により損傷部位との関連を分析しました。さらに、縦断的変化を反映する回帰直線の傾きを推定した上で、多母集団同時分析により運動主体感の向上が上肢使用量の改善に関連するかを精査しました。 その結果、適合度指標から2因子モデルが支持され、運動主体感と不快感が因子として分離・抽出されました。SEMおよびVLSMの結果、運動主体感は認知機能や損傷部位ではなく、上肢運動障害の重症度に応じて有意に低下することが示されました(図1)。   図1:運動障害が不快感および運動主体感に及ぼす影響   興味深いことに、上肢使用量は不快感ではなく、運動主体感に有意に関連することが明らかになりました(図2左)。そして、運動障害が運動主体感の低下を介して上肢使用量を減少させるという運動主体感の有意な媒介効果を認めました(図2右)。   図2:運動主体感が上肢使用量に及ぼす影響   さらに、多母集団同時分析の結果、中等度から重度の運動障害を有する患者では、低下していた運動主体感が向上した場合に、上肢使用量の改善が有意に大きくなることが示されました(図3)。   図3:運動主体感の向上が上肢使用量の改善に及ぼす影響   本研究の臨床的意義および今後の展開 これまでの臨床現場では、運動主体感は単一の質問項目によりスクリーニング的に評価されることが多く、不快感などのバイアス混入が懸念されてきました。これに対し本研究は、不快感から運動主体感を分離するための質問紙を開発し、運動主体感それ自体が上肢使用量に影響することを明らかにしました。本成果は、運動主体感という臨床において新たに評価すべき指標を提案するとともに、その評価ツールの臨床実装に向けた基礎的知見を提供します。今後、本質問紙の臨床実装に向けて、その妥当性の検証をさらに進めていく予定です。   論文情報 Yu Miyawaki, Takeshi Otani, Masaki Yamamoto, Shu Morioka, Akihiko Murai Diminished sense of agency inhibits paretic upper-limb use in patients with post-stroke motor deficits Cortex, 2024   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) 客員研究員 宮脇 裕(ミヤワキ ユウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2024.11.25

横断性脊髄炎1症例の異常感覚および上肢運動に対するしびれ同調経皮的電気神経刺激の効果~ニューロリハビリテーション研究センター

脊髄炎は3例/10万人の稀な炎症性神経障害であり、脊髄炎由来の疼痛や異常感覚は治療抵抗性があることが知られています。脊髄炎による神経障害性疼痛・異常感覚に対するリハビリテーションの効果は、希少疾患ゆえに十分に検証されず、症例報告の蓄積は臨床的意義があります。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターおよび長崎大学生命医科学域(保健学系)の西祐樹らは、横断性脊髄炎1症例に対してしびれ同調経皮的電気神経刺激を行うことで異常感覚および上肢活動量が改善したことを明らかにしました。この研究成果はFrontiers in Human Neuroscience誌(Case report: A novel transcutaneous electrical nerve stimulation improves dysesthesias and motor behaviors after transverse myelitis)に掲載されています。   研究概要 脊髄炎は3例/10万人の稀な炎症性神経障害であり、予後は一定せず、60%以上の患者に軽度から重度の後遺症がみられます。また、脊髄炎由来の疼痛や異常感覚は治療抵抗性があることが知られています。しびれ感に対して我々はしびれ感と一致したパラメーターの電気刺激を行うしびれ同調経皮的電気神経刺激(TENS)を開発し、その有効性を報告しています(Nishi et al., 2022)。脊髄炎による神経障害性疼痛・異常感覚に対するリハビリテーションの効果は、希少疾患ゆえに十分に検証されず、症例報告の蓄積は臨床的意義があります。そこで、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターおよび長崎大学生命医科学域(保健学系)の西祐樹らは、しびれ感およびアロディニアによりADLが阻害されている横断性脊髄炎1症例に対して、しびれ同調TENSを行いました。その結果、しびれ感、アロディニア、上肢活動量が即時的に改善しました。また、しびれ感での長期効果を示しましたが、アロディニアでは観察されませんでした。上肢活動量や上肢ADLにおいては持続効果を認め、しびれ同調TENSはしびれ感やアロディニアのみならず、ADLの改善に寄与する可能性を示しました。   本研究のポイント ・しびれ感やアロディニアを呈する横断性脊髄炎1症例に対するしびれ同調TENSの効果を検証した。 ・しびれ同調TENSによりしびれ感やアロディニアが改善したが、アロディニアに対する持ち越し効果がみられなかった。 ・主観的および客観的な上肢使用は持ち越し効果が確認された。   研究内容 本研究では、しびれ感およびアロディニアによりADLが阻害されている横断性脊髄炎1症例に対して、しびれ同調TENSを行い、その効果を検証しました。 症例はC4からTh2領域の横断性脊髄炎を診断され、左C8領域にしびれ感とアロディニアを呈していました。常に左手に手袋を着用し、左手の使用に恐怖心があり使用を避けていました。そのため、家事や仕事であるタイピングが左手で十分に行えないことに苦悩していました。介入は、A-B-A-B-Aデザインを使用し、各期は1週間としました。A期はTENS行わず、B期ではしびれ同調TENSを実施しました。しびれ同調TENSは1時間/回を2回/日行いました。症例は週2回の外来理学療法でストレッチや有酸素運動、疼痛教育を各期共通して行いました。評価項目として、しびれ感やアロディニアのNumerical rating scale(NRS)、主観的な上肢使用としてMotor Activity Log(MAL)、客観的な上肢使用として両手関節部に慣性センサを装着し、上肢活動量の左右比を算出しました。 その結果、Tau-Uおよびベイジアン未知変化点モデルにより、しびれ同調TENSのしびれ感やアロディニアへの即時効果およびしびれ感の持ち越し効果が明らかとなりました。一方、アロディニアの持ち越し効果はみられませんでしたが、主観的および客観的な左手の上肢使用は改善し、家事や仕事での左手の使用頻度が向上しました。難渋していたしびれ感やアロディニアがしびれ同調TENSによりコントロールできるようになったことが、ADLの向上に寄与したと考えられます。   図1.しびれ感やアロディニア、上肢活動量の経過 A期はTENSなし、B期はしびれ同調TENSを行った期間を示す。介入前、介入後、介入後1時間はB期のおける評価を示し、A期では同一時刻のNRSを評価した。   本研究の臨床的意義および今後の展開 しびれ同調TENSは服薬治療への抵抗性が高い異常感覚においても効果を示す可能性があり、新たな治療選択の一つとなる可能性があります。今後は、他の疾患におけるしびれ感やアロディニアに対する効果のみならず、ADL等への波及効果を検証していく予定です。 論文情報 Yuki Nishi, Koki Ikuno, Yuji Minamikawa, Michihiro Osumi, Shu Morioka Case report: A novel transcutaneous electrical nerve stimulation improves dysesthesias and motor behaviors after transverse myelitis. Frontiers in Human Neuroscience, 2024   関連論文 Nishi Y, Ikuno K, Minamikawa Y, Igawa Y, Osumi M, Morioka S. A novel form of transcutaneous electrical nerve stimulation for the reduction of dysesthesias caused by spinal nerve dysfunction: A case series. Front Hum Neurosci, 2022. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) 客員研究員 西 祐樹 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2024.11.13

地域在住フレイル高齢者の運動系社会参加を促進する地域要因の検討~健康科学研究科

フレイルは、健康から障害に至る前段階の状態と位置づけられ、転倒や骨折、要介護、死亡リスクを高めることが明らかになっています。近年のフレイル対策として、社会的側面からのアプローチが注目され、特に運動を主体とする社会参加(運動系社会参加)は、フレイルからの脱却や要介護・死亡リスクを軽減することが報告されてきています。一方で、フレイルであることは社会参加の阻害要因になります。実際に、運動系社会活動の参加者は移動能力が自立した人に限られてしまっているという報告もあり、フレイル高齢者は十分に運動系社会参加ができていない可能性があります。 また、地方自治体が効果的なフレイル対策を講じるためには、同一自治体内の地域内格差の実態を把握し、それぞれの課題に応じた対策が求められています。しかし、同一自治体内での運動系社会参加の地域内格差を調査した報告も少ないのが現状です。 そこで、本学大学院健康科学研究科 客員研究員の中北 智士氏、健康科学研究科の松本 大輔准教授、高取 克彦教授は、地域在住高齢者を対象にした調査を行い、同一自治体内であっても、地区によってフレイル高齢者の運動系社会参加には格差があり、フレイル高齢者の運動系社会参加の推進のためには、近所づきあいのような地域のつながりが重要であることを明らかにしました。 この研究成果は、総合リハビリテーションに掲載されています。フレイル高齢者の運動系社会参加を促進するための一助になることが期待されます。   研究概要 A市在住の要介護認定を受けていない65~80歳の高齢者を対象に、2022年に基本チェックリスト*および社会活動についての郵送調査を行い、6,532名のフレイル高齢者の運動系社会参加に関する地域要因を検討しました。 *基本チェックリスト:二次予防事業対象者の選定のために厚生労働省が作成した。全25項目のうち8項目以上該当するとフレイルと判定される。   本研究のポイント • 運動系社会参加の割合は同一自治体内でも最大1.5倍の地域内格差があることが明らかとなりました。さらに、運動系社会参加者に占めるフレイル高齢者の割合においても、最小地区の6.7%から最大地区の16.5%と地域内格差を認めました。   図1:運動系社会参加者に占めるフレイル高齢者の割合(*p<0.01)   また、フレイル高齢者の運動系社会参加が最も多かったE地区では、共変量を調整しても他の地区とは異なり運動系社会参加の促進要因としてフレイルであること(オッズ比2.2, 95%信頼区間1.17~4.12)、近所づきあいが良好であること(オッズ比2.9, 95%信頼区間1.51~5.47)が採択され、フレイル高齢者が運動系社会参加に参加しやすい地域では、近所づきあいのような地域のつながりが重要である可能性が示唆されました。   図2:E地区における運動系社会参加に対するロジスティック回帰分析   本研究の意義および今後の展開 本研究はフレイル高齢者の運動系社会参加に関する要因を調査した数少ない研究です。一般的にフレイルは社会参加の阻害要因でありますが、E地区においては、フレイル高齢者の運動系社会参加が多い地域は、近所づきあいのような地域のつながりが高いことが明らかとなりました。フレイル高齢者の社会参加は、要介護リスクを軽減することが分かっており、積極的にフレイル高齢者の社会参加を推進することが必要です。通いの場による介護予防推進のためには、フレイル高齢者が地域とのつながりを保つことができるような地域密着型の取り組みが重要であると考えられます。今後は、フレイル高齢者が社会参加できるような地域づくりに加え、本研究の対象者を縦断的に追跡し介護予防効果を検証していきたいと考えています。   謝辞 研究にご協力いただきました住民の皆様、役場の方々に感謝申し上げます。   論文情報 中北智士、松本大輔、高取克彦. 地域在住フレイル高齢者の運動系社会参加を促進する地域要因の検討. 総合リハビリテーション.52巻 11号 1213-1222. 公開日2024/11/10.   問合せ先 畿央大学大学院健康科学研究科 客員研究員 中北智士 准教授 松本大輔 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: d.matsumoto@kio.ac.jp

2024.10.17

河合町ならびに株式会社森本組と連携協定の調印式を行いました。

畿央大学は2024年10月11日(金)、河合町役場において「歴史的建造物旧豆山荘の持続可能な利活用に関する協定」を取り交わす調印式を行いました。     この調印式には河合町から森川喜之町長、疋田俊文議長、佐藤壮浩副町長、上村欣也教育長、上村卓也総務部長、森本組から具足貴史大阪支店支店長、原田美治総務部長、本学から冬木正彦学長、三井田康記人間環境デザイン学科 学科長、地域連携センター長に出席いただきました。協定の趣旨について説明された後、森川町長、具足大阪支店支店長、冬木学長が協定書に署名いたしました。     文化的価値のある河合町の歴史的建造物・旧豆山荘の保存方法や活用方法を産官学で協力しながら検討することを主眼として河合町、株式会社森本組、畿央大学の三者連携協定を締結しました。 今後は河合町・森本組と畿央大学相互協力をし、河合町において安らぎの場を提供するなど若い学生が関わることにより新たな事業を展開できるよう継続して努めてまいります。   関連リンク 河合町と包括連携協定の調印式を行いました 旧豆山荘(旧河合町役場)の保存再生デザイン報告会〜人間環境デザイン学科前川ゼミ 【プロジェクトゼミって何するの?③】建物の歴史的価値を活かして保存再生へ~人間環境デザイン学科 前川ゼミ 【プロジェクトゼミって何するの?⑤】旧豆山荘 保存再生プロジェクト~人間環境デザイン学科 前川ゼミvol.2 【プロジェクトゼミって何するの?⑥】旧豆山荘 保存再生プロジェクト~人間環境デザイン学科 前川ゼミvol.3 【プロジェクトゼミって何するの?⑮】旧豆山荘 保存再生プロジェクト~人間環境デザイン学科 前川ゼミvol.4

2024.10.07

パーキンソン病患者の診療環境と日常生活環境における歩行速度の調節能~ニューロリハビリテーション研究センター

歩行速度は環境の多様な文脈に応じて歩幅やケイデンス等の歩行パラメーターが変化することで調節されます。パーキンソン病患者は環境適応への困難さが指摘されておりますが、診療環境と日常生活環境の歩行制御の差異は十分に明らかになっていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターおよび長崎大学生命医科学域(保健学系)の 西 祐樹氏らは、慣性センサーを用いて診療環境と日常生活環境の歩行を計測することで、診療環境と日常生活環境では歩行速度に応じた歩行パラメーターが異なることを明らかにしました。この研究成果はJournal of Movement Disorders誌(Adjustability of gait speed in clinics and free-living environments in people with Parkinson‘s disease)に掲載されています。 研究概要 パーキンソン病(PD)患者における歩行速度の低下や歩幅の短縮は、活動範囲、転倒リスク、生活の質、社会参加に影響を与える重大な歩行障害です。歩行速度は主にケイデンスと歩幅に影響を受けますが、PD患者においては、ケイデンスが歩行速度を主に決定付けます。これまでの先行研究では、参加者に快適あるいは最大歩行速度を求め、平均値や中央値による代表値によって歩行速度を解釈してきました。一方、日常生活環境における歩行速度の分布は二峰性ガウス分布を示しており、これは2つの好ましい速度が存在することが近年明らかになっています。比較的低い速度は、認知負荷が高い状況や狭い空間での歩行に該当し、比較的高い速度は、特定の目的地に到達する際やより広い空間での歩行に対応しており、環境や文脈に適応した歩行速度の調節能を反映していると考えられています。PD患者は環境適応性が低下していることが知られており、リハビリテーションが行われている診療環境と、日常生活環境では歩行が乖離している可能性があります。そのため、環境の違いによる歩行速度の調節能を明らかにすることは、PD患者の歩行適応性を理解するために臨床的に重要であるといえます。 そこで、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターおよび長崎大学生命医科学域(保健学系)の 西 祐樹 ら は、PD患者の診療環境および日常生活環境の歩行を計測し、比較しました。その結果、歩行速度に応じた歩行制御が診療環境と日常生活環境では異なるとともに、パーキンソン病の重症度、転倒回数、生活の質に関連していることを明らかにしました。   本研究のポイント ・パーキンソン病患者を対象に、診療環境と日常生活環境における速度に応じた歩行制御を比較した。 ・日常生活環境では、診療環境と比較して、歩行速度の調節能の低下、速度の低下、歩幅の狭小化、左右非対称性の増大がみられた。 ・日常生活環境における歩行の調節能はパーキンソン病の重症度、転倒回数、生活の質に関連した。 研究内容 本研究の目的は、PD患者の診療環境および日常生活環境における歩行速度に応じた歩行パラメーターを比較することです。また、歩行パラメーター、環境要因、PD特有の評価との関連性を調査しました。 PD患者を対象に、腰に装着した加速度計を用いて診療環境および日常生活環境で計測しました。抽出した歩行速度分布に二峰性ガウスモデルを適合させることで、歩行速度を低速と高速に分類するとともに、歩行速度の調節能(Ashman’D)を算出しました。歩幅やケイデンス、左右非対称性等の歩行の時空間パラメーターを、環境(診療環境/日常生活環境)×速度(低速/高速)の2×2反復測定分散分析を用いて比較しました。また、パーキンソン病の症状と歩行パラメーターとの関連性をベイジアン・ピアソン相関係数を用いて評価しました。   図1.診療環境と自由生活環境における歩行パラメーターの相関係数を示すヒートマップ 濃いピクセルはより高い相関係数を示し(赤色は正の相関、緑色は負の相関を表す)、各相関がBayes factor (BF10) ≥ 1であったピクセルにのみ、BF10値と95%信頼区間が示されている。*:BF10 ≥3は実質的な証拠、**:BF10 ≥30は非常に強い証拠、***:BF10 ≥100は決定的な証拠を意味する。 その結果、日常生活環境では、診療環境と比較して、歩行速度の調節能の低下、速度の低下、歩幅の狭小化、左右非対称性の増大がみられましたが、ケイデンスは変わらないことが明らかになりました。また、速度の低下によって歩幅やケイデンスは低下しますが、左右非対称性には有意差がありませんでした。また、日常生活環境における歩行速度の調節能とパーキンソン病の重症度(MDS-UPDRS-III)、転倒回数、生活の質(PDQ-39)に有意な相関が認められました。さらに、近隣環境の歩きやすさは(Walk score)、日常生活環境における歩行速度の調節能との相関関係はありませんでしたが、相対的に高い速度の割合との有意な相関関係が明らかになりました。これらの結果は、パーキンソン病患者の歩行制御が環境の影響を受けることを示唆しています。 本研究の臨床的意義および今後の展開 環境の違いによる歩行速度の調節能を明らかにすることは、PD患者の歩行適応性を理解するために臨床的に重要な示唆を与えます。今後は環境や文脈の要因を詳細に評価することで、PD患者における環境適応の病態をさらに明らかにする予定です。 論文情報 Yuki Nishi, Shintaro Fujii, Koki Ikuno, Yuta Terasawa, Shu Morioka. Adjustability of gait speed in clinics and free-living environments in people with Parkinson’s disease. Journal of Movement Disorders, 2024. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

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