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2025年のプレスリリース一覧

2025.12.16

自分を優しく思いやる心(セルフ・コンパッション)が「不眠」と「孤独感」を解消する仕組みを解明:本学看護学科による国際共同研究 —

本研究のポイント 「自分への優しさ(セルフ・コンパッション)」が高い人ほど、眠りの悩み(不眠症状)や孤立感(孤独感)が低いことが確認されました。 この良い影響は、私たちが持つ心の土台となる「3つの基本的な欲求」の充足(自分で決めたい・できると感じたい・誰かと繋がっていたい)を経由して起こることを明らかにしました。 特に不眠の改善については、セルフ・コンパッションが心の欲求を満たすことを通じて、ほぼ全て説明できる(完全媒介)という強力な結果が得られました。 本研究は、本学看護学科紅林佑介准教授と新潟医療福祉大学杉本洋教授、インドネシアのハサヌディン大学Andi Djaya氏が参画した国際共同研究の成果です。 1.研究の背景と目的 近年、精神医学の世界では、薬物療法だけでなく、日々の生活習慣(睡眠、食事、運動、社会とのつながりなど)の改善を心の健康を支える土台と捉える「ライフスタイル精神医学」が注目されています。しかし、心の調子が悪いとき、健康的な習慣を続けるのは難しいものです。 そこで、困難な状況で自分を責めずに優しく接する「セルフ・コンパッション(自己への思いやり)」が、精神的な健康をサポートし、健康的な行動を促す「心の力」として注目されています。 また、人間には「自分で決めたい(自律性)」「自分にはできると感じたい(有能性)」「誰かと繋がっていたい(関係性)」という3つの基本的な心理的欲求があり、これらが満たされると、人は最適な心の状態になり、健康的な行動を取りやすくなることが知られています(自己決定理論)。 そこで、日本人成人400名を対象にし、この「セルフ・コンパッション」と「基本的な心理的欲求の充足」が、具体的な生活習慣(不眠や孤独感)にどのように影響するのかを検証した結果を、本学看護学科の紅林佑介准教授が中心を務めた国際共同研究チームが、国際学術誌である「Archives of Psychiatric Nursing」誌に公表しました。 2.研究の概要と結果 本研究では、日本人成人400名(20〜59歳)を対象にオンライン調査を行い、自己への思いやり、基本的な心理的欲求の充足度、不眠症状、孤独感を測定し、それらの関係性を詳細に分析しました。分析の結果、以下の2つの重要な経路が明らかになりました。   (1) 不眠症状(眠りの悩み)の改善に対する影響(完全媒介) セルフ・コンパッションが高い人は、自律性、有能性、関係性という3つの基本的な心理的欲求が満たされることを通じて、不眠の症状が有意に低いことが確認されました。 セルフ・コンパッションが不眠を改善する効果は、この「心の欲求の充足」によって完全に説明されるという結果が得られました。 これは、自分に優しくすることで「心の欲求」が満たされ、その結果として安心して眠れるようになる、というメカニズムを強く示唆しています。     (2) 孤独感(孤立感)の軽減に対する影響(部分媒介) セルフ・コンパッションは、基本的な心理的欲求を満たすという間接的な経路に加えて、孤独感そのものに対して直接的にもプラスの影響を与えていることが確認されました。 これは、セルフ・コンパッションが、心の欲求を満たすだけでなく、自分を過度に批判する気持ちを減らしたり、他人に対して心を開きやすくなったりといった別の心理的メカニズムを通じて、直接的に孤独感を和らげている可能性を示唆しています。     3.本研究の意義とライフスタイル精神医学への貢献 本研究は、セルフ・コンパッションという内面的な心理的資源が、具体的な生活習慣や社会とのつながり(不眠と孤独感)を改善するための動機づけ経路を、自己決定理論という科学的な視点から明確にしました。また、この知見は、ライフスタイル精神医学における介入戦略に、特に以下の点で貢献します。 (1)「行動変容」の動機づけの強化 ライフスタイル精神医学の中心は「行動を変えること」ですが、本研究は、セルフ・コンパッションが「自分で決めたい」「できる」という基本的な欲求を満たすことで、健康的な行動を継続させる内発的な動機づけを高める「モチベーションのロードマップ」を提供しました。   (2)個別化された介入戦略の提示 不眠(睡眠の改善)は、主に欲求の充足を介して効果的に促進されるのに対し、孤独感の緩和には、欲求充足に加えて、自己批判を直接的に修正するような追加の心理的戦略が特に必要であることを示しました。これにより、患者が抱える問題に応じて、介入の焦点をより正確に定めることが可能になります。   (3)内面的資源の活用 セルフ・コンパッションという、誰もが内面に持っている「心理的資源」を活用することで、回復を促し、生活習慣の変化を推進するアプローチの実行可能性を強調しています。 これらの発見は、精神科看護の臨床実践においても重要であり、患者さんの自律性や関係性をサポートする戦略と、セルフ・コンパッションを育む技法(例:自分を思いやるイメージ法)を組み合わせることで、睡眠の質の向上や社会的な孤立の解消において、より大きな効果が期待されます。   4.論文情報 論文名 From inner care to healthy living: Cross-sectional evidence that self-compassion fulfills basic psychological needs and relates to lower insomnia and loneliness 著者 Yusuke Kurebayashi (畿央大学), Hiroshi Sugimoto (新潟医療福祉大学), Andi Muhammad Fiqri Muslih Djaya (ハサヌディン大学) 掲載誌 Archives of Psychiatric Nursing (Volume 60) DOI https://doi.org/10.1016/j.apnu.2025.152021 URL https://authors.elsevier.com/a/1mApu_K6JVG8ZW   問い合わせ先 畿央大学 健康科学部看護医療学科 大学院 健康科学研究科 准教授 紅林佑介 〒635-0832 奈良県北葛城郡広陵町馬見中4-2-2 y.kurebayashi@kio.ac.jp

2025.12.05

「重り×速度」が脳による歩行修正を促進-重り負荷は「速く歩く」ことで中枢神経系の適応を引き出す-~ニューロリハビリテーション研究センター

歩行には、脚の重さや速さの変化による誤差を感知し、徐々に動きを修正・適応・学習する機能があります。畿央大学大学院健康科学研究科(修了生/現 トヨタ記念病院)の本川剛志氏と森岡周教授(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター・センター長)らは、健常成人を対象に「片脚への重り」と「歩行速度」の組み合わせが、この学習効果に与える影響を検証しました。その結果、単に重りをつけるだけでなく、「重い×速い」という高強度の条件下でのみ、歩幅や関節運動に顕著な学習(遅延適応)と、重りを外した後も効果が続く現象(残効)が確認されました。これは、リハビリテーションにおいて歩行の修正を促すには、負荷と速度を組み合わせた強度の設計が重要であることを示唆する成果です。この研究成果はHuman Movement Science誌(Effects of Unilateral Leg Weight Perturbation Intensity on Spatiotemporal Gait Parameter Symmetry and Lower Limb Muscle Activity: An Exploratory Laboratory Study in Healthy Adults)に掲載されています。   本研究のポイント 「重い×速い」高強度条件のみで、歩幅や関節角度などの空間的指標に学習効果(遅延適応・後効果)が認められました。 一方、スイング時間などの時間的指標には学習効果が生じず、脳による学習よりも即時的な調整に依存することが示唆されました。 負荷と速度の条件により筋活動パターンが異なることから、リハビリにおける適切な「処方設計(重さ・速さ)」の重要性が示されました。   研究概要 私たちの脳には、歩行中に脚の重さや環境が変化しても、その誤差を感知して少しずつ動きを修正し、最適なパターンを学習する能力(適応)が備わっています。この学習効果は、重りなどの刺激を外した後もしばらく残ることがあり、これを「残効(aftereffects)」と呼びます。 リハビリテーションの現場では、脳卒中などによる歩行の左右非対称性を改善するために、片脚に重りをつけて歩く手法が用いられます。しかし、どのような「重さ」と「歩行速度」の組み合わせが、脳(中枢神経系)による効果的な運動学習を引き出すのかについては、これまで十分に分かっていませんでした。 畿央大学大学院 健康科学研究科(修了生/現所属:トヨタ記念病院)の本川剛志氏、同大学 ニューロリハビリテーション研究センターの森岡周教授らの研究チームは、健常成人15名を対象に、片脚に重りを装着してトレッドミルで歩く実験を行いました。実験では、負荷の強度を変えるために「①軽い×速い」「②重い×遅い」「③重い×速い」という3つの条件を設定し、歩幅(ステップ長)の対称性や関節の角度、筋肉の活動パターンがどのように変化するかを詳細に解析しました。 その結果、最も負荷が高い「③重い×速い」条件においてのみ、歩行中に徐々に対称性が改善していく「遅延適応」という学習プロセスが明確に観察されました。さらに、重りを外した後も強い「残効」が現れ、歩幅や膝・股関節の動きに学習効果が定着しやすいことが示されました。 一方、他の2条件(軽い×速い/重い×遅い)では、重りを外した後の「残効」は見られましたが、歩行中の明確な「遅延適応」は生じませんでした。これは、負荷が不十分な場合、脳が積極的に動きを予測して修正する(フィードフォワード制御)までには至らない可能性を示唆しています。また、歩行のリズム(時間的指標)は空間的な動き(歩幅など)とは異なり、学習効果が残りにくいことも明らかになりました。 本研究の新規性は、歩行の左右差を修正するためには、単に重りをつけるだけでなく、「速く歩く」ことを組み合わせた高い強度の負荷設定が、脳の学習機能を最大限に引き出す鍵であることを体系的に示した点にあります。 この知見は、「どの脚に、どれだけの重さをつけ、どのくらいの速さで歩けばよいか」という、効果的なリハビリテーションプログラムを設計するための科学的な根拠となります。今後は、実際に歩行障害を持つ患者さんへの応用が期待されます。   研究内容 歩行中に脚の重さなどの環境が変化すると、私たちはその誤差を感知して動きを修正し、徐々に新しいパターンを学習します(遅延適応)。この学習効果は、環境が元に戻っても一時的に残存すること(後効果)が知られています。本研究では、リハビリテーションへの応用を見据え、「重さ(負荷量)」と「歩行速度」の組み合わせが、この学習プロセスにどのような影響を与えるかを検証することを目的としました。 健常成人15名を対象に、片脚に重りを装着してトレッドミル歩行を行う実験を実施しました(図1)。条件は、負荷(体重の3%または5%)と速度(3.5 km/hまたは5.0 km/h)を組み合わせた「①軽い×速い」「②重い×遅い」「③重い×速い」の3パターンとし、別日にランダムな順序で測定しました。 各条件のプロトコルは、ベースライン(5分)→ 重りありの適応期(10分)→ 重りなしの脱適応期(5分)とし、ステップ長(歩幅)とスイング時間(脚を振る時間)の対称性、下肢屈伸角度、筋活動を計測しました。   図1.実験環境および条件とプロトコルの概略 データ解析では、各時期(ベースライン:BL、適応期:EA/LA、脱適応期:EP/LP)から10歩ずつを抽出し、統計的に比較しました。 実験の結果、最も高強度である「重い×速い」条件においてのみ、ステップ長の対称性と下肢屈伸角度の両方で、明瞭な遅延適応(徐々に対称性が改善する現象)と、強い後効果が確認されました(図2、3)。 一方、「軽い×速い」や「重い×遅い」条件では、ステップ長には後効果が見られましたが、関節角度の変化に顕著な後効果は認められませんでした。また、時間的な指標である「スイング時間の対称性」は、どの条件でも後効果を示しませんでした。   図2.ステップ長(歩幅)とスイング時間(脚を振る時間)の対称性の変化 ※各時期の定義 ・BL(Baseline):ベースライン期終盤の10歩 ・EA(Early Adaptation):適応期開始直後の10歩 ・LA(Late Adaptation):適応期終了直前の10歩 ・EP(Early Post-adaptation):重り除去後(脱適応期)開始直後の10歩 ・LP(Late Post-adaptation):重り除去後(脱適応期)終了直前の10歩   図3.下肢の関節角度(屈伸)における遅延適応と後効果 歩行周期全体を通した関節角度の変化(SPM1D解析)。 上段の**「低重量/高速度」条件では、重り側(摂動側)の振り出し動作において、初期(EA)から後期(LA)にかけて元の動きに戻る遅延適応が見られた(上部赤矢印)。 下段の「高重量/高速度」条件では、重りをつけていない側(非摂動側)において遅延適応**(下部赤矢印)が生じ、重りを外した後には両脚の蹴り出し動作(立脚後半)に強い後効果が出現した(右側赤枠)。これらの結果は、条件によって学習の現れ方が異なることを示している。 これらの結果から、重い負荷と速い歩行の組み合わせは、感覚的な誤差信号と筋肉への出力要求を高め、その場しのぎの修正(フィードバック制御)だけでなく、脳による予測的な制御(フィードフォワード制御)を強く動員させると考えられます。これにより、空間的な運動パターン(歩幅や関節角度)の学習が促進されたと解釈されます。対照的に、時間的なリズム調整は即時的な反応に依存しやすく、学習効果が残りにくい特性があることが示唆されました。 本研究は、歩行のリハビリテーションにおいて、「どの脚に・どれだけの重さを・どの速さで」**という処方設計が、再学習の効果を決定づける重要な要素であることを示しています。   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、「重さ×速さ」の強度が歩行学習の効果を左右し、特に「高負荷×高速度」条件が空間的パターンの学習を強く促進することを実証しました 。これは、リハビリテーションにおける「どの脚に・どれだけの重さを・どの速さで」という科学的な処方設計の基盤となります 。今後は、脳卒中後の歩行障害に対する安全性を検証しつつ、個々の歩行特性に合わせた負荷設定や、日常歩行への波及効果を含めた臨床ガイドラインの構築を目指します。   論文情報 Motokawa T, Terasawa Y, Nagamori Y, Onishi S, Morioka S. Effects of unilateral leg weight perturbation intensity on spatiotemporal gait parameter symmetry and lower limb muscle activity: An exploratory laboratory study in healthy adults. Hum Mov Sci. 2025 Nov 4;104:103426.   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 修士課程修了生(現所属:トヨタ記念病院) 本川剛志 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2025.11.25

脳卒中患者の「二重課題歩行」の安定性、普段の歩行パターンから予測可能に~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中後、歩行中に同時に他の作業を行うとバランスを崩しやすくなることがあります。畿央大学健康科学研究科の北郷龍也氏、日本福祉大学健康科学部の水田直道助教、畿央大学健康科学研究科の蓮井成仁氏、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡周教授らの研究グループは、通常歩行時の体幹の揺れや筋活動のパターンが、二重課題(歩行中に計算などを行う課題)歩行時の安定性に関係していることを明らかにしました。本研究の新規性は、二重課題歩行中の不安定さを、通常歩行中の特徴から予測できることを実証した点にあります。この成果は、転倒予防や脳卒中患者における歩行リハビリテーションの個別化に貢献するもので、今後の効果的な治療プログラム開発につながると期待されます。この研究成果はJournal of Electromyography and Kinesiology誌(Factors Influencing Instability during Dual-Task Walking in Stroke Patients)に掲載されています。   本研究のポイント 単一課題歩行中の歩行速度、体幹加速度(RMS)、体幹動揺の規則性(サンプルエントロピー)を用いて、二重課題歩行時における不安定性の程度が予測可能であることを明らかにしました。 二重課題歩行時には、単一課題歩行時に比べて体幹の揺れや筋の共収縮が増加し、これらの変化が歩行速度の低下と関連していることが示されました。 本研究では、二重課題歩行中の不安定性を単一課題歩行の特性から予測可能であり、転倒リスク評価や個別化されたリハビリテーション介入の根拠に資する基盤が示されました。   研究概要 脳卒中を経験した多くの方々は、歩く際にバランスを崩しやすくなったり、転びやすくなったりすることがあります。さらに、日常生活では「歩きながら会話する」「考え事をしながら移動する」など、複数のことを同時に行う場面が頻繁にあります。しかし、脳卒中の後遺症を持つ方は、このような“二つのことを同時にこなす”状況、つまり「二重課題」に特に弱く、バランスを崩しやすくなることが知られています。 このような背景のもと、畿央大学健康科学研究科の北郷龍也、日本福祉大学健康科学部の水田直道 助教、畿央大学健康科学研究科の蓮井成仁、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡周 教授らの研究グループは、二重課題歩行時の不安定さを、単一課題歩行時の特性から予測できるかを検証しました。研究には30名の脳卒中患者が参加し、通常歩行(単一課題)と、計算などの課題を同時に行う二重課題歩行を比較。その際の歩行速度や体幹の揺れ、体幹の動きの複雑さなどを計測・分析しました。 その結果、単一課題歩行時の「歩行速度が遅い」「体幹の動きが大きい」「体幹の動きのリズムが不規則」といった特性が、二重課題歩行時の不安定さと強く関係していることが明らかになりました。つまり、複雑なタスクをしながらの歩行に不安がある人は、通常の歩行時にもすでに特有の不安定な動きが表れているということです。 この研究の新規性は、これまで感覚的・経験的に語られがちだった「二重課題に弱い」という問題を、具体的な身体データによってその特徴を定量的に示した点にあります。これにより、転倒リスクの早期発見や、認知と運動を組み合わせた個別リハビリテーション計画の立案が、より科学的な根拠をもって進められる可能性が広がります。   研究内容 脳卒中を経験した多くの方々は、歩く際にバランスを崩しやすくなったり、転びやすくなったりすることが知られています。さらに、歩きながら別の作業(例えば、計算や会話など)を同時に行う二重課題歩行では、よりバランスを失いやすくなります。しかし、脳卒中後の患者がなぜ、このような不安定さを感じやすいのか、通常の歩行との関連性については十分に解明されていませんでした。 本研究では、脳卒中後の患者30名を対象に、単一課題歩行(通常の歩行)と二重課題歩行(歩行中に引き算を行う)の両方において、慣性センサーと筋電図を用いて体幹の動きや筋活動を測定しました。その結果、二重課題歩行時には通常歩行時に比べて歩行速度が低下し、体幹の揺れ(RMS)や体幹動揺の規則性(サンプルエントロピー)、下肢筋の共収縮が増加することが明らかになりました(図1)。 また、単一課題歩行から二重課題歩行における歩行速度低下率は臨床評価と有意な相関を示しませんでしたが、同時収縮指数、サンプルエントロピー、RMSにおいては有意な負の相関を示しました(図2)。 さらに、通常歩行時の歩行速度、体幹の揺れ、体幹動揺の規則性が、二重課題歩行時の不安定性を予測する因子であることを統計的に示しました。   図1.単一課題および二重課題条件下での体幹加速度、下肢筋活動、および歩行評価   左および中央パネル:単一課題歩行時(a)および二重課題歩行時(b)における体幹の前後方向、側方方向、垂直方向の加速度;単一課題歩行時(c)および二重課題歩行時(d)における前脛骨筋およびヒラメ筋の筋活動。右パネル:条件間における単脚支持時間対称性指数(e);RMS(f);サンプルエントロピー(g);同時収縮指数(h)の箱ひげ図。   図2.歩行速度低下率と臨床評価および歩行評価との関連性   この研究の新規性は、これまで歩行中の認知課題が与える影響だけに着目されていた「二重課題における問題」を、通常時の歩行特性データによって予測できる可能性を示した点にあります。これにより、脳卒中リハビリテーションの新戦略や、歩行の個別化治療の設計に貢献できる可能性があります。 本研究の臨床的意義および今後の展開 脳卒中後における歩行不安定性が、単一課題歩行時の特性から予測可能であることを示し、二重課題歩行時の転倒リスク評価に新たな視点を提供しました。今後は、単一課題歩行の指標を活用した新規リハビリテーションの効果検証と、認知機能負荷に対応したトレーニングプログラムの開発を行う予定です。   論文情報 Ryuya Kitago, Naomichi Mizuta, Naruhito Hasui, Shu Morioka Factors Influencing Instability during Dual-Task Walking in Stroke Patients J Electromyogr Kinesiol. 2025 Oct 26;85:103077   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 北郷 龍也 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2025.10.31

香芝警察署と施設使用に関する協定を締結しました

畿央大学はこのたび、香芝警察署と「警察署使用不能時における施設使用に関する協定」を締結しました。     この協定は、今後発生する可能性のある巨大地震などの大規模災害で警察署の庁舎が使えなくなった場合に、本学の施設を代わりに利用してもらうことで、警察の災害警備活動を継続できるようにするものです。   署長からは「大学のご協力により、災害時にも警察の力を維持できる体制が整いました」とのお言葉をいただきました。今後は、実際に警察署の災害警備本部を移す訓練も予定されています。   畿央大学では、地域の安全・安心にも貢献できるよう、これからも地元の警察や自治体と連携を図ってまいります。

2025.10.23

【本学2度目の快挙】築330年 興善寺本堂の屋根葺き替え修理で「グッドデザイン賞」を受賞!

人間環境デザイン学科の吉永規夫講師が、大阪府岬町にある『興善寺本堂』にて、屋根の葺き替え修理※1を手掛け、見事『2025年度のグッドデザイン賞』を受賞しました。本学としては、今回2度目のグッドデザイン賞受賞となります。(過去の受賞作品はこちら) ※1 葺き替え(ふきかえ)修理とは…古い屋根材を取り除き、新しい屋根材を張る工事のこと。   ▼興善寺本堂の外観   興善寺本堂 興善寺本堂は、仁寿二年(852年)第五十五代文徳天皇(在位850~858年)の勅願により、慈覚大師円仁によって創建されました。元亀天正(1570年頃)に兵火(へいか)により建物は焼失しましたが、元禄3年(1690年)に再建され、現在に至ります。本堂内陣には、本尊 大日如来(胎蔵界)、脇佛 薬師如来、脇佛 釈迦如来が奉安されおり、3如来とも平安末期作で、現在は国の重要文化財(旧国宝)に指定されています。   受賞のコメント(吉永講師) 大阪府岬町に建つ興善寺の重要文化財の仏像の修理に合わせて、本堂の屋根の葺き替え工事の設計・監理を2021年から継続して、2025年に修理が完了し、2025年度グッドデザイン賞をいただくことができました。興善寺さま檀家の皆さま、文化庁、各行政の皆さま、工事関係の皆さま、関係者の皆さまに心より感謝申し上げます。暑い日も寒い日も1枚1枚瓦を手作業で作業頂きました職人さんの皆さまの技術には特に感謝いたします。 江戸時代中期の元禄3年(1690年)に再建された本堂を大切な仏像を風雨から守り続ける必要がありました。また、地元・谷川は古くから瓦の一大産地で、本堂の屋根はこの地元瓦が使われ、330年間大規模な葺き替えが行われることなく、今回の修理が初めての葺き替えになります。   ▼本堂屋根部分   工事では、職人さんたちが1枚1枚手作業で瓦を屋根から取り外し、手洗いし、打音検査を行なって、再度屋根に葺き直しました。 今回の修理では、 ①地元の谷川瓦を可能な限り再用する ②竣工当時から残る屋根下地も保存する ③限られたコストの中、素屋根をかけずに屋根を葺き替える施工方法を開発 をテーマに掲げています。   ▼葺き替え修理の様子   瓦の再用に関しては、結果的に総数約22,822枚の瓦を全数打音検査を行い、約73%もの谷川瓦を保存することができました。また、屋根瓦だけでなく、当時の屋根下地である野地に関しても江戸時代中期に施工された技術が残るものとして、今回合板下地※2と最新技術のルーフィング※3を用いることで温存することに成功しています。大屋根の葺き替えでコストもかかる素屋根を施工することが一般的ですが、野地合板の施工やルーフィングの活用、施工職人さんたちの技術も相まって、素屋根をかけないローコストの仮設計画で文化的価値のある建築物の修理を実践しました。今回の施工報告は、昨年の学内での研究授業でも学生向けにレクチャーを行なっています。古い建築物を次世代に大切に受け継いでいくことが求められている時代に、屋根瓦の修理プロジェクトで今後100年以上建物を守っていく修理を行いました。330年以上前に建てられた建築物が、現在のグッドデザイン賞として受賞したことを大変嬉しく思います。 ※2 合板下地…屋根の下地材。強度と耐久性を高め、屋根材の荷重を均等に分散させる。 ※3 ルーフィング…防水シートを合板の上に敷設し、雨水の侵入を防ぐ。   グッドデザイン賞 審査委員の方のコメント それにしても、本葺替保存修理まで330年間屋根の葺替が行われてこなかったとは、瓦葺き屋根は斯くも耐久性のあるものなのか、と感嘆した。とはいえ、この屋根を将来に引き継いでいくためには葺替保存修理は不可欠であり、新たな技術を取り入れつつ330年前の屋根下地を温存した本構法によって、7割以上の瓦を再利用できたことは高く評価できる。瓦は地域ごとに色や風合いが異なるため、瓦葺き屋根のまちなみは地域らしい景観を形成する重要な要素である。勇気と創造性のある保存修理によって、オリジナルの瓦葺きの景観を地域で維持し続ける取り組みに拍手を送りたい。   グッドデザイン賞 1957年に創設された日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みです。デザインを通じて産業や生活文化を高める運動として、国内外の多くの企業やデザイナーが参加しています。受賞のシンボルである「Gマーク」は、良いデザインを示すシンボルマークとして広く親しまれています。 問い合わせ先 人間環境デザイン学科 講師 吉永 規夫 Email:n.yoshinaga@kio.ac.jp 関連記事 グッドデザイン賞ホームページ(興善寺本堂屋根葺替保存修理) 日本初の乳がん術後女性のための使い捨て入浴着が「グッドデザイン賞」を受賞! 6大学建築合同ゼミ合宿2025が三重県で開催されました!~人間環境デザイン学科 前川ゼミ・吉永ゼミ 人間環境デザイン学科

2025.10.14

近鉄大阪線五位堂駅の副駅名に 「畿央大学前」が付与されました

畿央大学では2025年10月9日(木)より、本学の最寄り駅である近鉄大阪線五位堂駅に「畿央大学前」の副駅名が付与されました。副駅名は上下線ホームに設置されている駅名標16箇所に記載されています。 五位堂駅にお立ち寄りの際は、ぜひご覧ください。    

2025.10.07

株式会社中尾組と産学連携協定の調印式を行いました。

畿央大学は2025年10月1日(水)、株式会社中尾組と畿央大学健康科学部人間環境デザイン学科による産学連携に係る協定の締結調印式が開催されました。   (左から)人間環境デザイン学科 東実千代学科長、冬木正彦 畿央大学学長、株式会社中尾組 中尾隆成社長   奈良県内で創業110年を迎える総合建設会社である株式会社中尾組とは開学以来、企業インターンシップや卒業生の就職など多方面で交流を深めてきました。今回の協定は、奈良県産材を活用した木造建築や桜井市のまちづくり、建築分野の実証実験、インターンシップ・現場見学会などの体験学習、地域振興・社会活性化、教育・人材育成、SDGsへの取り組みなど、多岐にわたる分野での連携をさらに前に進めることを目的としています。     中尾社長、冬木学長、東学科長からそれぞれ挨拶があり、これまでの連携実績を振り返りつつ、Win-Winの関係で人材育成と地域に根差した活動の進展に対する期待が述べられました。双方が協力し合うことで、地域社会や産業の発展、人材育成への新たな一歩を踏み出すことへの強い意欲を確認する機会となりました。 協定書の締結後は記念撮影が行われ、和やかな雰囲気の中で式が進行しました。     両者の懸け橋となっている人間環境デザイン学科4期生の鈴木理人さんにも駆けつけていただきました。今回の協定を機に、相互協力しながら地域社会の総合的な発展と大学の教育・研究・社会貢献のさらなる深化を進めていく予定です。   関連リンク 自治体等との協定

2025.10.07

歩行中の予測誤差検出-視覚遅延フィードバックを用いた感覚運動不一致-~ニューロリハビリテーション研究センター

運動をより良くするためには、いかに予測誤差を検出できるかが重要となりますが、これまでの研究では上肢運動課題に特化したものがほとんどでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの林田一輝 客員研究員らは、健常成人を対象とした歩行中の予測誤差検出実験により、歩行パラメータや身体の重量感、不一致検出率が遅延時間とともに増加し、これらのデータは観察の視点に依存しないことを明らかにしました。この成果は、Psychological research誌(Sensorimotor incongruence during walking using delayed visual feedback)に掲載されています。   本研究のポイント ■「歩行中」の予測誤差検出能力の評価について視覚遅延フィードバック課題を用いて行いました。 ■歩行パラメータ(ステップ時間・ストライド時間)、身体の重量感、不一致検出率は遅延時間の増加に伴い上昇しました。 ■また、これらのパラメーターは観察する視点に依存しないことが明らかになりました。   研究概要 脳損傷後のリハビリテーションでは、動こうとしたときに脳が予測する感覚と、実際の感覚とのわずかなずれ(誤差)を認識できる能力がとても重要です。これまでの研究では、腕や指の動きを使ってこの能力が調べられてきましたが、実際に患者にとって最も必要とされる「歩行中」での仕組みはよく分かっていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの林田一輝 客員研究員らの研究チームは、歩行中の誤差を認識する能力について実験を行いました。健常な人がトレッドミル上を歩くときに、その歩いている自身の映像の動きを段階的に遅延させ、その「わずかな遅れ」に気づけるかどうかの実験を行いました。その結果、歩くリズムや自分の体の重さの感じ方、そして遅れに気づく割合は、映像の遅延が大きくなるほど高まることが分かりました。さらに、自身の映像を横から見ても後ろから見ても結果は同じで、観察する視点に左右されないことも確認されました。これらの成果は、歩行リハビリにおいて「感覚と運動を統合する力」を新たに評価する方法の開発につながる可能性が示されました。   研究内容 本研究の目的は、健常者を対象としたトレッドミル歩行中の視覚フィードバック遅延実験において、歩行パラメータ、身体の重量感、遅延誤差検出率の影響を臨床でも応用可能な形で調査することでした。また、リハビリ場面で一般的に用いられる歩行中の矢状面(左側)または前額面(後方)による視覚フィードバックが誤差検出課題に与える影響も不明でした。したがって、もう一つの目的として、異なる観察視点によって影響されるかどうかも調査しました(図1)。   図1.実験手続き   参加者は、トレッドミル歩行中の姿をカメラで撮影され、リアルタイムに前方のモニターに映し出された。このフィードバックには遅延が設けられ、その遅延に気づいたかどうかの判断が求められた。遅延判断と同時に身体重量感も聴取された。歩行パラメータは加速度計にて計測された。 実験の結果、歩行パラメータ(ステップ時間・ストライド時間)、身体の重量感、不一致検出率は遅延時間の増加とともに上昇し、これらのデータは観察視点に依存しないことが判明しました。本研究は、歩行中の患者の感覚運動統合機能を評価する手法開発に向けた重要な示唆を提供すると考えられます(図2)。   図2.実験の結果   左:不一致(遅延)検出確率曲線を表す。遅延時間の増加に伴い、遅延判断(Yes)の回答確率が上昇していることがわかる。右上:遅延時間増加に伴う身体重量感の変化を表す(7段階評価)。右下:遅延時間増加に伴うステップ時間の変化を表す。 *p<0.05   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、歩行中の患者の感覚運動統合機能を評価する方法を開発するための重要な手がかりになる可能性が考えられます。今後は脳卒中などの神経疾患患者への応用を行う予定です。   論文情報 Hayashida K, Nishi Y, Inui Y, Morioka S. Sensorimotor incongruence during walking using delayed visual feedback. Psychol Res. 2025 Sep 8;89(5):139. doi: 10.1007/s00426-025-02170-9.   関連する論文情報 Hayashida K, Nishi Y, Matsukawa T, Nagase Y, Morioka S. I am not the cause of this pain: An experimental study of the cognitive processes underlying causal attribution in the unpredictable situation whether negative outcomes. Conscious Cogn. 2024 Jan;117:103622. doi: 10.1016/j.concog.2023.103622. Epub 2023 Dec 14.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 林田 一輝   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2025.10.01

「認知症の人と家族の支援を考えよう!」 ~看護実践研究センター認知症ケア部門研修会

2025.10.01

学生考案「彩り野菜弁当」が近畿地区のイオン89店舗で販売!~ヘルスチーム菜良

奈良県内の管理栄養士養成課程(畿央大学、近畿大学、帝塚山大学、奈良女子大学)の学生で構成された食育ボランティアサークル「ヘルスチーム菜良(なら)」に所属する本学健康栄養学科の学生が、イオンリテール株式会社と協同で「彩り野菜弁当」を開発しました。この取り組みは、奈良県の「やさしおベジ増し」プロジェクトの一環として、本学を含めた4大学が「野菜を120g以上」使用し、「主食・主菜・副菜がそろった」お弁当を各大学1種類ずつ、合計4種類開発したものです。 販売期間は、10月15日(水)から28日(火)までの2週間、近畿地区2府4県のイオン89店舗で販売されます。また、イオン大和郡山店にて10月18日(土)に大和郡山フェア内で実施するお披露目イベントでは、11時と14時から試食を予定しています。   販売日時 2025年10月15日(水)~28日(火) 販売店舗 近畿地区のイオン・イオンスタイル 計89店舗(一覧はこちら) 販売価格 1個598円(税込646円) 販売内容 秋の彩り野菜弁当 ~秋のうまみギュッと!旬の野菜が詰まった彩り弁当~   ・枝豆としらすの茶飯 ・焼きサーモンのポン酢がけ ・ベーコンと小松菜和え ・鶏肉とさつまいものカレー炒め ・ほうれん草入り卵焼き ・さつまいもとかぼちゃの大学いも お弁当の詳細はこちら   生活習慣病の発症予防のために目標とする野菜摂取量は一人1日あたり350g以上で、1食あたり120gが目安です。ところが、奈良県県民一人1日あたりの野菜摂取量は約270gとなっていて、1日の目標量に達していない現状があります。そこで、管理栄養士をめざす学生で構成された食育ボランティアサークルである4大学(畿央大学、近畿大学、帝塚山大学、奈良女子大学)ヘルスチーム菜良が考案した1日の必要量の1/3にあたる「野菜120g以上を使用」し、バランスの良い食事として定義されている「主食・主菜・副菜がそろった」お弁当を販売することで、奈良県民の健康的な食生活の実践継続を目指しています。 本学お弁当の品数は全部で6品。昨年も好評だった、魚、大豆、鶏肉のヘルシーメインとちょっとしたご褒美の「健康スイーツ」にこだわりました。   問い合わせ先 畿央大学 健康科学部 健康栄養学科 野原  潤子 Tel: 0745-54-1601   Fax: 0745-54-1600 E-mail: j.nohara@kio.ac.jp

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