2025年のプレスリリース一覧
2025.10.31
香芝警察署と施設使用に関する協定を締結しました
畿央大学はこのたび、香芝警察署と「警察署使用不能時における施設使用に関する協定」を締結しました。 この協定は、今後発生する可能性のある巨大地震などの大規模災害で警察署の庁舎が使えなくなった場合に、本学の施設を代わりに利用してもらうことで、警察の災害警備活動を継続できるようにするものです。 署長からは「大学のご協力により、災害時にも警察の力を維持できる体制が整いました」とのお言葉をいただきました。今後は、実際に警察署の災害警備本部を移す訓練も予定されています。 畿央大学では、地域の安全・安心にも貢献できるよう、これからも地元の警察や自治体と連携を図ってまいります。
2025.10.23
【本学2度目の快挙】築330年 興善寺本堂の屋根葺き替え修理で「グッドデザイン賞」を受賞!
人間環境デザイン学科の吉永規夫講師が、大阪府岬町にある『興善寺本堂』にて、屋根の葺き替え修理※1を手掛け、見事『2025年度のグッドデザイン賞』を受賞しました。本学としては、今回2度目のグッドデザイン賞受賞となります。(過去の受賞作品はこちら) ※1 葺き替え(ふきかえ)修理とは…古い屋根材を取り除き、新しい屋根材を張る工事のこと。 ▼興善寺本堂の外観 興善寺本堂 興善寺本堂は、仁寿二年(852年)第五十五代文徳天皇(在位850~858年)の勅願により、慈覚大師円仁によって創建されました。元亀天正(1570年頃)に兵火(へいか)により建物は焼失しましたが、元禄3年(1690年)に再建され、現在に至ります。本堂内陣には、本尊 大日如来(胎蔵界)、脇佛 薬師如来、脇佛 釈迦如来が奉安されおり、3如来とも平安末期作で、現在は国の重要文化財(旧国宝)に指定されています。 受賞のコメント(吉永講師) 大阪府岬町に建つ興善寺の重要文化財の仏像の修理に合わせて、本堂の屋根の葺き替え工事の設計・監理を2021年から継続して、2025年に修理が完了し、2025年度グッドデザイン賞をいただくことができました。興善寺さま檀家の皆さま、文化庁、各行政の皆さま、工事関係の皆さま、関係者の皆さまに心より感謝申し上げます。暑い日も寒い日も1枚1枚瓦を手作業で作業頂きました職人さんの皆さまの技術には特に感謝いたします。 江戸時代中期の元禄3年(1690年)に再建された本堂を大切な仏像を風雨から守り続ける必要がありました。また、地元・谷川は古くから瓦の一大産地で、本堂の屋根はこの地元瓦が使われ、330年間大規模な葺き替えが行われることなく、今回の修理が初めての葺き替えになります。 ▼本堂屋根部分 工事では、職人さんたちが1枚1枚手作業で瓦を屋根から取り外し、手洗いし、打音検査を行なって、再度屋根に葺き直しました。 今回の修理では、 ①地元の谷川瓦を可能な限り再用する ②竣工当時から残る屋根下地も保存する ③限られたコストの中、素屋根をかけずに屋根を葺き替える施工方法を開発 をテーマに掲げています。 ▼葺き替え修理の様子 瓦の再用に関しては、結果的に総数約22,822枚の瓦を全数打音検査を行い、約73%もの谷川瓦を保存することができました。また、屋根瓦だけでなく、当時の屋根下地である野地に関しても江戸時代中期に施工された技術が残るものとして、今回合板下地※2と最新技術のルーフィング※3を用いることで温存することに成功しています。大屋根の葺き替えでコストもかかる素屋根を施工することが一般的ですが、野地合板の施工やルーフィングの活用、施工職人さんたちの技術も相まって、素屋根をかけないローコストの仮設計画で文化的価値のある建築物の修理を実践しました。今回の施工報告は、昨年の学内での研究授業でも学生向けにレクチャーを行なっています。古い建築物を次世代に大切に受け継いでいくことが求められている時代に、屋根瓦の修理プロジェクトで今後100年以上建物を守っていく修理を行いました。330年以上前に建てられた建築物が、現在のグッドデザイン賞として受賞したことを大変嬉しく思います。 ※2 合板下地…屋根の下地材。強度と耐久性を高め、屋根材の荷重を均等に分散させる。 ※3 ルーフィング…防水シートを合板の上に敷設し、雨水の侵入を防ぐ。 グッドデザイン賞 審査委員の方のコメント それにしても、本葺替保存修理まで330年間屋根の葺替が行われてこなかったとは、瓦葺き屋根は斯くも耐久性のあるものなのか、と感嘆した。とはいえ、この屋根を将来に引き継いでいくためには葺替保存修理は不可欠であり、新たな技術を取り入れつつ330年前の屋根下地を温存した本構法によって、7割以上の瓦を再利用できたことは高く評価できる。瓦は地域ごとに色や風合いが異なるため、瓦葺き屋根のまちなみは地域らしい景観を形成する重要な要素である。勇気と創造性のある保存修理によって、オリジナルの瓦葺きの景観を地域で維持し続ける取り組みに拍手を送りたい。 グッドデザイン賞 1957年に創設された日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みです。デザインを通じて産業や生活文化を高める運動として、国内外の多くの企業やデザイナーが参加しています。受賞のシンボルである「Gマーク」は、良いデザインを示すシンボルマークとして広く親しまれています。 問い合わせ先 人間環境デザイン学科 講師 吉永 規夫 Email:n.yoshinaga@kio.ac.jp 関連記事 グッドデザイン賞ホームページ(興善寺本堂屋根葺替保存修理) 日本初の乳がん術後女性のための使い捨て入浴着が「グッドデザイン賞」を受賞! 6大学建築合同ゼミ合宿2025が三重県で開催されました!~人間環境デザイン学科 前川ゼミ・吉永ゼミ 人間環境デザイン学科
2025.10.14
近鉄大阪線五位堂駅の副駅名に 「畿央大学前」が付与されました
畿央大学では2025年10月9日(木)より、本学の最寄り駅である近鉄大阪線五位堂駅に「畿央大学前」の副駅名が付与されました。副駅名は上下線ホームに設置されている駅名標16箇所に記載されています。 五位堂駅にお立ち寄りの際は、ぜひご覧ください。
2025.10.07
株式会社中尾組と産学連携協定の調印式を行いました。
畿央大学は2025年10月1日(水)、株式会社中尾組と畿央大学健康科学部人間環境デザイン学科による産学連携に係る協定の締結調印式が開催されました。 (左から)人間環境デザイン学科 東実千代学科長、冬木正彦 畿央大学学長、株式会社中尾組 中尾隆成社長 奈良県内で創業110年を迎える総合建設会社である株式会社中尾組とは開学以来、企業インターンシップや卒業生の就職など多方面で交流を深めてきました。今回の協定は、奈良県産材を活用した木造建築や桜井市のまちづくり、建築分野の実証実験、インターンシップ・現場見学会などの体験学習、地域振興・社会活性化、教育・人材育成、SDGsへの取り組みなど、多岐にわたる分野での連携をさらに前に進めることを目的としています。 中尾社長、冬木学長、東学科長からそれぞれ挨拶があり、これまでの連携実績を振り返りつつ、Win-Winの関係で人材育成と地域に根差した活動の進展に対する期待が述べられました。双方が協力し合うことで、地域社会や産業の発展、人材育成への新たな一歩を踏み出すことへの強い意欲を確認する機会となりました。 協定書の締結後は記念撮影が行われ、和やかな雰囲気の中で式が進行しました。 両者の懸け橋となっている人間環境デザイン学科4期生の鈴木理人さんにも駆けつけていただきました。今回の協定を機に、相互協力しながら地域社会の総合的な発展と大学の教育・研究・社会貢献のさらなる深化を進めていく予定です。 関連リンク 自治体等との協定
2025.10.07
歩行中の予測誤差検出-視覚遅延フィードバックを用いた感覚運動不一致-~ニューロリハビリテーション研究センター
運動をより良くするためには、いかに予測誤差を検出できるかが重要となりますが、これまでの研究では上肢運動課題に特化したものがほとんどでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの林田一輝 客員研究員らは、健常成人を対象とした歩行中の予測誤差検出実験により、歩行パラメータや身体の重量感、不一致検出率が遅延時間とともに増加し、これらのデータは観察の視点に依存しないことを明らかにしました。この成果は、Psychological research誌(Sensorimotor incongruence during walking using delayed visual feedback)に掲載されています。 本研究のポイント ■「歩行中」の予測誤差検出能力の評価について視覚遅延フィードバック課題を用いて行いました。 ■歩行パラメータ(ステップ時間・ストライド時間)、身体の重量感、不一致検出率は遅延時間の増加に伴い上昇しました。 ■また、これらのパラメーターは観察する視点に依存しないことが明らかになりました。 研究概要 脳損傷後のリハビリテーションでは、動こうとしたときに脳が予測する感覚と、実際の感覚とのわずかなずれ(誤差)を認識できる能力がとても重要です。これまでの研究では、腕や指の動きを使ってこの能力が調べられてきましたが、実際に患者にとって最も必要とされる「歩行中」での仕組みはよく分かっていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの林田一輝 客員研究員らの研究チームは、歩行中の誤差を認識する能力について実験を行いました。健常な人がトレッドミル上を歩くときに、その歩いている自身の映像の動きを段階的に遅延させ、その「わずかな遅れ」に気づけるかどうかの実験を行いました。その結果、歩くリズムや自分の体の重さの感じ方、そして遅れに気づく割合は、映像の遅延が大きくなるほど高まることが分かりました。さらに、自身の映像を横から見ても後ろから見ても結果は同じで、観察する視点に左右されないことも確認されました。これらの成果は、歩行リハビリにおいて「感覚と運動を統合する力」を新たに評価する方法の開発につながる可能性が示されました。 研究内容 本研究の目的は、健常者を対象としたトレッドミル歩行中の視覚フィードバック遅延実験において、歩行パラメータ、身体の重量感、遅延誤差検出率の影響を臨床でも応用可能な形で調査することでした。また、リハビリ場面で一般的に用いられる歩行中の矢状面(左側)または前額面(後方)による視覚フィードバックが誤差検出課題に与える影響も不明でした。したがって、もう一つの目的として、異なる観察視点によって影響されるかどうかも調査しました(図1)。 図1.実験手続き 参加者は、トレッドミル歩行中の姿をカメラで撮影され、リアルタイムに前方のモニターに映し出された。このフィードバックには遅延が設けられ、その遅延に気づいたかどうかの判断が求められた。遅延判断と同時に身体重量感も聴取された。歩行パラメータは加速度計にて計測された。 実験の結果、歩行パラメータ(ステップ時間・ストライド時間)、身体の重量感、不一致検出率は遅延時間の増加とともに上昇し、これらのデータは観察視点に依存しないことが判明しました。本研究は、歩行中の患者の感覚運動統合機能を評価する手法開発に向けた重要な示唆を提供すると考えられます(図2)。 図2.実験の結果 左:不一致(遅延)検出確率曲線を表す。遅延時間の増加に伴い、遅延判断(Yes)の回答確率が上昇していることがわかる。右上:遅延時間増加に伴う身体重量感の変化を表す(7段階評価)。右下:遅延時間増加に伴うステップ時間の変化を表す。 *p<0.05 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、歩行中の患者の感覚運動統合機能を評価する方法を開発するための重要な手がかりになる可能性が考えられます。今後は脳卒中などの神経疾患患者への応用を行う予定です。 論文情報 Hayashida K, Nishi Y, Inui Y, Morioka S. Sensorimotor incongruence during walking using delayed visual feedback. Psychol Res. 2025 Sep 8;89(5):139. doi: 10.1007/s00426-025-02170-9. 関連する論文情報 Hayashida K, Nishi Y, Matsukawa T, Nagase Y, Morioka S. I am not the cause of this pain: An experimental study of the cognitive processes underlying causal attribution in the unpredictable situation whether negative outcomes. Conscious Cogn. 2024 Jan;117:103622. doi: 10.1016/j.concog.2023.103622. Epub 2023 Dec 14. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 林田 一輝 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2025.10.01
学生考案「彩り野菜弁当」が近畿地区のイオン89店舗で販売!~ヘルスチーム菜良
奈良県内の管理栄養士養成課程(畿央大学、近畿大学、帝塚山大学、奈良女子大学)の学生で構成された食育ボランティアサークル「ヘルスチーム菜良(なら)」に所属する本学健康栄養学科の学生が、イオンリテール株式会社と協同で「彩り野菜弁当」を開発しました。この取り組みは、奈良県の「やさしおベジ増し」プロジェクトの一環として、本学を含めた4大学が「野菜を120g以上」使用し、「主食・主菜・副菜がそろった」お弁当を各大学1種類ずつ、合計4種類開発したものです。 販売期間は、10月15日(水)から28日(火)までの2週間、近畿地区2府4県のイオン89店舗で販売されます。また、イオン大和郡山店にて10月18日(土)に大和郡山フェア内で実施するお披露目イベントでは、11時と14時から試食を予定しています。 販売日時 2025年10月15日(水)~28日(火) 販売店舗 近畿地区のイオン・イオンスタイル 計89店舗(一覧はこちら) 販売価格 1個598円(税込646円) 販売内容 秋の彩り野菜弁当 ~秋のうまみギュッと!旬の野菜が詰まった彩り弁当~ ・枝豆としらすの茶飯 ・焼きサーモンのポン酢がけ ・ベーコンと小松菜和え ・鶏肉とさつまいものカレー炒め ・ほうれん草入り卵焼き ・さつまいもとかぼちゃの大学いも お弁当の詳細はこちら 生活習慣病の発症予防のために目標とする野菜摂取量は一人1日あたり350g以上で、1食あたり120gが目安です。ところが、奈良県県民一人1日あたりの野菜摂取量は約270gとなっていて、1日の目標量に達していない現状があります。そこで、管理栄養士をめざす学生で構成された食育ボランティアサークルである4大学(畿央大学、近畿大学、帝塚山大学、奈良女子大学)ヘルスチーム菜良が考案した1日の必要量の1/3にあたる「野菜120g以上を使用」し、バランスの良い食事として定義されている「主食・主菜・副菜がそろった」お弁当を販売することで、奈良県民の健康的な食生活の実践継続を目指しています。 本学お弁当の品数は全部で6品。昨年も好評だった、魚、大豆、鶏肉のヘルシーメインとちょっとしたご褒美の「健康スイーツ」にこだわりました。 問い合わせ先 畿央大学 健康科学部 健康栄養学科 野原 潤子 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: j.nohara@kio.ac.jp
2025.09.12
新校舎の建設が始まります!
畿央大学では、教育研究環境のさらなる充実を目指し、新校舎の建設を進めています。 その工事の着工に先立ち、2025年9月2日(火)、「地鎮祭」を執り行いました。 まだまだ厳しい暑さが残るなか、神主をお招きし、学園、設計者、施工者の三者がそろって、工事が安全に、そして無事に完成するよう祈願しました。 新校舎には、教育研究活動の成果発表や地域交流イベントなどで幅広く活用できる2層吹き抜けのプレゼンテーションホールを設けます。畿央大学の持つ「知」のリソースを地域へ発信し、繋がりを育む拠点となることをめざしています。 新しい校舎の完成に、どうぞご期待ください!
2025.09.02
2025年9月から香芝SAで健康栄養学科の学生が考案した「ヤマトポークを使った丼」が販売開始!
本学と株式会社家族亭の連携事業である「メニュー開発プロジェクト」の第1弾として、香芝サービスエリア『新メニュー開発コンテスト』を実施しました。 7/12(土)のコンテストでグランプリ・準グランプリを受賞した丼メニューがこの度9/1(月)より期間限定で販売されることとなりました。 食欲の秋にふさわしい、奈良県の魅力をたっぷり盛り込んだ新メニューを学生が考案してくれました、この機会にぜひお楽しみください! 販売概要 販売期間 2025年9月1日(月)~11月中旬 販売場所 西名阪自動車道香芝サービスエリア上下線フードコート「とくとく」 販売商品 ヤマトポークと根菜の彩り丼セット(うどん・そば) 1,100円(税込) ヤマトポークと根菜の彩り丼 単品(味噌汁付) 900円(税込) ご飯泥棒!ヤマトポークのジューシー角煮風丼セット(うどん・そば) 1,260円(税込) ご飯泥棒!ヤマトポークのジューシー角煮風丼 単品(味噌汁付)1,060円(税込) ※販売予定数を完売次第終了します。 ※1日の販売数に限りがあります。 ※仕入状況により販売を中断・中止、または販売終了時期が店舗により前後する場合があります。 関連リンク 「新メニュー開発コンテスト」の様子|畿央大学HP
2025.09.02
子どもの“書きにくさ”を特性ごとに解明―DCD・ADHD・ASDの違いをタブレットで可視化~ニューロリハビリテーション研究センター
学校生活において運筆・書字スキルは学習の基盤ですが、神経発達症のある子どもたちの多くが書く行為に困難を抱えています。発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder:DCD)、注意欠如多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)、そして自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)と運筆・書字困難との関連はすでに指摘されていますが、先行研究結果は必ずしも一致しておらず、客観的な指標に基づいた各特性と書く能力との詳細な関連は不明でした。畿央大学大学院博士後期課程の片岡新 氏と信迫悟志 教授らは、診断名で分けるのではなく、各特性の強さに着目する「Dimensional approach(次元的アプローチ)」で解析を行い、デジタル機器で運筆スキルを定量的に評価し、堅牢な書字評価バッテリーで書字スキルを評価することで、特性ごとの運筆および書字運動プロファイルの違いを明らかにすることを目的としました。この研究成果は、Human Movement Science誌(Kinematic and kinetic characteristics of graphomotor skills in children with neurodevelopmental disorders: The impact of DCD, ADHD, and ASD traits)に掲載されています。 本研究のポイント DCD特性が強い子どもほど、描線の正確性(逸脱量)、速度、加速度、ジャーク(動作の滑らかさ)など、多くの運筆指標が悪化することが明らかになった。 ADHD特性が強い場合には、筆圧が強くなり、描線速度も速くなる傾向が認められた。特に曲線や三角波といった複雑な描線条件で顕著であり、一方で直線条件では能力低下との関連は見られなかった。 ASD特性は二面性を示した。すなわち、「注意を細部に向ける特性」が強いと直線課題で速度、加速度、ジャークが悪化する一方、「注意の切り替え能力」が高いと書字スキル(書字流暢性)が向上するという、他の発達特性とは異なる特徴的な結果が得られた。 研究概要 本研究は、DCD、ADHD、ASDと診断された神経発達症の子ども17名(6〜11歳)を対象に、書字スキルおよび運筆スキルと神経発達特性との関連を調べた探索的研究です。書字スキルは Understanding Reading and Writing Skills of Schoolchildren II(URAWSS-II) を用いて「書字流暢性」を測定しました。運筆スキルは TraceCoder®を使用し、直線・正弦波・三角波の3条件(図1)で描線をトレースさせ、基準線からの逸脱量、筆圧、速度、加速度、ジャーク(動作の滑らかさ)、描線面積 の6指標を定量的に測定しました。さらに、神経発達症特性の評価として Developmental Coordination Disorder Questionnaire(DCDQ)、ADHD Rating Scale IV(ADHD-RS)、Autism Spectrum Quotient(AQ) を使用しました。その他の測定項目には、年齢、学年、全検査IQ(FSIQ)、レーヴン色彩マトリシス検査(RCPM)、感覚プロファイル(SSP) を含めました。 図1. Trace coder®を使用した運筆評価 研究内容 本研究では、6~11歳の神経発達症(DCD、ADHD、ASD)の診断を有する児17名を対象に、神経発達症特性と運筆・書字スキルとの関連を検討しました。運筆スキルは、各条件(直線、正弦波、三角波)における基準線からの逸脱量、筆圧、速度、加速度、ジャーク(動作の滑らかさ)、描線面積といった運動学的・運動力学的指標をTraceCoder®により測定し、書字スキルは URAWSS-II によって書字流暢性を評価しました。さらに、知的機能(FSIQ、RCPM)や感覚特性(SSP)も測定項目に含め、相関分析を行いました。 その結果、DCD特性が強い子どもほど、直線・正弦波・三角波といったいずれの描線課題においても、基準線からの逸脱が大きく、速度や加速度、ジャークの安定性が低下するなど、運筆の正確性や滑らかさが一貫して悪化することが示されました(図2、図3)。 一方、ADHD特性が強い場合には、筆圧が強く、描線速度が上がる傾向が認められ、特に複雑な正弦波や三角波課題でその特徴が顕著に現れました(図2,図3)。また、ASD特性については二つの異なる関係が見られました.すなわち,「注意を細部に向ける傾向」が強いと、直線課題における速度や加速度,ジャークが悪化しましたが,「注意の切り替え能力」が高い場合には、逆に書字流暢性(短時間で正確に多くの文字を書ける能力)が向上するというポジティブな効果も確認されました(図2,図3)。 図2.相関ヒートマップ 縦軸に運筆スキル(運筆における運動学的・運動力学的指標)と書字スキル(書字流暢性)を示し、横軸に神経発達症特性(DCD、ADHD、ASD)を示す。 SLC:直線条件、SWC:正弦波条件、TWC:三角波条件 図3. 各神経発達症児の代表的な運筆波形 これらの知見は、書字運動の特性が単なる診断名ではなく、DCD・ADHD・ASDといった発達特性ごとに異なる形で現れることを示しており、子どもの「書きにくさ」に対して、より特性に応じた個別的な評価・支援が重要であることを強調しています。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、子どもの「書きにくさ」の背景にある多様なメカニズムを解明し、診断カテゴリーではなく特性に応じた評価と支援の必要性を示しました。特に、タブレット端末による定量的評価と URAWSS-II の標準化された書字評価を組み合わせることで、臨床や教育現場において、子どもの課題点を客観的かつ効率的に把握できる方法を提示しました。 さらに、ASD特性に見られた「注意の切り替え能力」と書字流暢性とのポジティブな関連は、書字困難を単なる弱点としてではなく、特性に応じた強みを生かす視点の重要性を示しています。 今後は、より大規模な調査や縦断的研究を通じて、発達に応じた書字スキルの変化や介入効果を検証し、特性に応じた支援プログラムの開発につなげていくことが期待されます。 論文情報 Kataoka S, Nakai A, Nobusako S. Kinematic and kinetic characteristics of graphomotor skills in children with neurodevelopmental disorders: The impact of DCD, ADHD, and ASD traits. Human Movement Science. 2025 Aug 18;103:103388. doi: 10.1016/j.humov.2025.103388. Epub ahead of print. PMID: 40829511. 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 片岡 新 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp
2025.08.04
日常生活に不可欠な“両手を同時に独立して動かす能力”の発達変化~ニューロリハビリテーション研究センター
一方の手で定規を押さえながら、他方の手で線を引く。一方の手で紙を持ちながら、他方の手でハサミで切る。あるいは、一方の手でお皿を保持しながら、他方の手でスプーンで食べ物をすくう。このように、両手を同時に異なる動きで使う“両手同時独立制御能力(Simultaneous Independent Bimanual Coordination)”は、日常生活において不可欠な動作スキルであり、その発達には運動制御や注意機能など多様な神経基盤が関与しています。しかしこの能力が、子どもにおいてどのように発達するのかについては、これまで十分に解明されていませんでした。畿央大学大学院健康科学研究科の信迫悟志 教授らの研究チームは、5〜13歳の定型発達児150名を対象に、両手で同時に異なる描画を行う「両手結合課題(bimanual circles–lines coupling task)」を用いて、この能力の発達過程を詳細に検討しました。その結果、年齢の増加とともに“両手を同時に独立して動かす能力”が徐々に向上することが明らかになりました。また、この課題で得られた指標は、標準化された微細運動技能テストによって測定された“両手協調運動技能”の得点とも有意に関連していることが示されました。 この研究成果は、Frontiers in Human Neuroscience誌(Developmental Changes in Independent Bimanual Coordination: Evidence from the Circles–Lines Coupling Task in Children Aged 5–13 Years)に掲載されています。 本研究のポイント 両手を同時に別々に動かす「両手同時独立制御能力」は、5〜13歳の間に徐々に向上することが示された。 「両手同時独立制御能力」は、両手を協調させて目的を達成する両手協調運動技能と有意に関連していた。 両手結合課題(BC課題)は、特別な設備を必要とせず短時間で実施可能であり、発達期における両手協調運動技能の評価ツールとして有用である。 研究概要 本研究では、5〜13歳の定型発達児150名を対象に、両手を同時に異なる動きで使う「両手同時独立制御能力(Simultaneous Independent Bimanual Coordination)」の発達変化を調査するため、両手結合(bimanual circles–lines coupling task: BC)課題を実施しました。この課題では、以下の2条件を設定しました(図1) 片手条件:利き手でタブレット上に垂直線を繰り返し描く(図1_左) 両手条件:同様に利き手で垂直線を描きながら、同時に非利き手で紙の上に円を反復描画する(図1_右) 図1. BC課題 本研究に参加した8歳の右利き女児の例。通常、図の両手条件にあるように、利き手で描いた垂直線は、非利き手の円運動の影響を受けて、楕円形に歪んでしまう。したがって、両手条件でこの歪みの程度が少ないことは、両手を同時に別々に動かす能力が高いことを表す。 通常、両手条件においては、非利き手による円運動のプログラムからの干渉(影響)により、利き手で描かれた直線が楕円状に歪む現象が見られます。本研究では、この線の歪みの程度を楕円化指数(Ovalization Index: OI)として算出しました。OIは、0に近いほど直線性が保たれ、100に近いほど正円に近づくことを意味します。さらに、両条件間のOIの差分を両手干渉効果(Bimanual Coupling Effect: BCE)として定量化しました。BCEの値が小さいほど、両手を同時に独立して動かす能力が高いことを示します。さらに、協調運動技能の標準化検査の手先の器用さテストを実施し、BCEとの関連も検討しました。 研究内容 本研究では、5〜13歳の定型発達児150名を対象に、両手で異なる運動を同時に行う能力を評価するためのBC課題(図1)および微細運動技能検査(利き手スキル、非利き手スキル、両手スキル、利き手の運筆スキル、総合)を実施しました。BC課題(片手条件、両手条件)で測定された利き手の運動軌跡の歪みをOIとして算出し、両条件間のOIの差をBCEとして定量化し、年齢との関係性および微細運動技能との関連性を検討しました。その結果、全ての年齢群において両手条件のOIは片手条件よりも有意に高く、BCEの存在が確認されました。そして、片手条件および両手条件のOIは年齢とともに有意に低下し、運動軌跡の直線性が向上していくことが示されました(図2)。また、BCEも年齢と有意な負の相関を示し、年齢の増加に伴い干渉効果が弱まり、両手を同時に独立して制御する能力が徐々に発達することが示唆されました(図3)。 図2. 年齢群間比較結果 図3. 年齢とBC課題変数との相関関係 さらに、年齢を統制したうえでの偏相関分析では、BCEおよび両手条件でのOIが、両手協調運動技能と有意に関連していることが明らかとなりました(図4)。 図4. 年齢を制御したBCEと両手協調運動技能との偏相関関係 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究では、両手で異なる運動を同時に行う「両手同時独立制御能力」が、5歳から13歳にかけて徐々に発達することが、行動レベルで明らかになりました。またこの能力は、左右の手を協調させてひとつの目的を達成する「両手協調運動技能」とも有意に関連していることが示されました。 この「両手同時独立制御能力」の発達には、前頭−頭頂ネットワーク、前頭前野(実行機能・注意制御)、脳梁を介した左右の大脳半球間の情報伝達・抑制機構、という3つの神経的成熟が関与すると考えられており、本研究結果は、これらの神経基盤の発達過程を行動的に捉えたものと位置づけることができます。 さらに、既存の標準化された協調運動技能検査では、年齢に応じて異なる課題や道具を用意する必要がありますが、BC課題はタブレットと紙、ペンのみで実施可能であり、年齢にかかわらず同一の手順で短時間に評価が可能です。こうした特徴から、BC課題は発達期における両手協調能力の発達段階を簡便かつ定量的に評価できる実用的な手法として有用である可能性が示されました。今後は、この課題を特別な支援を必要とする子どもたちにも応用することで、運動機能のより的確な評価や、リハビリテーション、運動学習支援への実践的な活用が期待されます。 論文情報 Nobusako S, Hashizoe K and Nakai A (2025) Developmental changes in independent bimanual coordination: evidence from the circles–lines coupling task in children aged 5–13 years. Front. Hum. Neurosci. 19:1620941. doi: 10.3389/fnhum.2025.1620941 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp


