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理学療法学科の新着情報一覧

理学療法学科の新着情報一覧

2020.12.02

令和2年度 理学療法学科卒業研究発表会を開催!~教員レポート

今年度の理学療法学科の卒業研究発表会は2020年11月6日(金)に開催され、計31演題の発表が行われました。 研究テーマは脳科学や、呼吸器系、物理療法、動物実験による基礎研究、コミュニケーション、高齢者、児童、ウィメンズヘルス、統計など様々です。     理学療法学科では3年次に各教員のゼミへ配属されると、そこから4年次の11月に行われる「卒業研究発表会」に向けて、先行研究を調べたり教員と相談をしたりしながら研究計画を立てていきます。病院での臨床実習の都合で本格的なスタートは8月からになることが多いのですが、今年度はCOVID-19の影響で総合臨床実習3期が8月下旬まで実施された関係で開始が遅くなり、例年よりも限られた時間の中での卒業研究となりました。 本来なら学生同士、時には患者さんに協力して頂いてデータを取るような研究も多いのですが、データ収集時に三密の状況を生みやすいことから、今年度は感染対策として実習前から準備を重ねてきた研究を断念し、急遽内容を変更せざるを得なかった学生も多くいたことかと思います。   なかなか対面でのゼミ活動が難しい時期もありましたが、Teamsなどを活用した遠隔でのゼミ活動を重ね、今年度はシステマティックレビューなどの文献的考察や以前の研究データを追加解析したもの、webアンケート、パンフレットや動画を用いた運動介入など最近の状況に合わせた研究が見られました。   一時は例年通り発表会を開催できるのか、準備に携わりながら不安もあったのですが、冬木記念ホールという大きなホールに立って発表できたということは、学生たちにとって貴重な経験になったのではないでしょうか。7分間というのは準備の前には長く思えますが、実際に発表する段階になると伝えたいことがたくさん出てきてしまい、案外短く感じたりするものです。3分間の質疑応答が足りなくなるくらい、学生同士の質疑が活発だったのも印象的でした。     今回の発表が満足のいくものだった学生もいれば、心残りがある学生もいるかもしれません。しかし、卒業研究を立案、実施していく中で分からないことを深く探求したこと、コロナ禍の中で今出来る範囲で最大限のことをしようと臨機応変に対処できたことは、きっと臨床に出た時に患者さんにより良い医療、より良い理学療法を提供する力になると思います。     卒業研究は終わりましたが、すぐに国家試験の対策が待ち受けています。 今年も合格100%をめざして頑張りましょう!!   理学療法学科 助教 梶原由布 准教授 松本大輔   【関連記事】 令和2年度 理学療法学科卒業研究発表会を開催!~学生レポート

2020.11.24

道具に対する視線探索における道具の新奇性と行為意図の影響~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

道具使用場面において、道具や対象物の物理的な特徴から使用方法を類推する技術推論作業が重要であることが報告されています。技術推論の程度は、道具の機能部分をどれだけ見るかということで定量化されますが、道具を使用する意図の有無による視線探索の違いは明らかになっていませんでした。畿央大学大学院健康科学研究科修士課程修了生(現:医療法人社団仁生会甲南病院)の玉木義規 氏と森岡 周 教授らは、被験者に馴染みのある道具と馴染みのない道具を提示し、自由観察した時、持ち上げを意図した時、使用を意図した時の視線探索の違いを調査しました。この研究成果は、Frontiers in Psychology 誌(Effects of tool novelty and action demands on gaze searching during tool observation)に掲載されています。   研究概要 技術的推論とは、物理的な特徴から道具の使い方を推論することです。技術的推論の程度は、道具の機能的な部分への累積注視時間によって示されます。本研究では、健常成人に対して、3つの条件(自由観察、持ち上げ意図、使用意図)で馴染みのある道具と馴染みのない道具を提示した時の視線探索を調べました。その結果、使用意図なく自由観察した場合でも使用を意図した場合と同様に道具の機能部分へ視線が偏向することが明らかになりました。この結果から、単に道具を見た場合でも道具使用のための技術推論作業が自動的に出現していることが示唆されました。しかし、自由観察時の技術的推論は使用意図時ほど強くはありませんでした。このような自由観察時と使用意図時における技術的推論の違いは、自動的な技術的推論と意図的な技術的推論の違いを示している可能性があります。   本研究のポイント 持ち上げることを意図した時に比べて、使用を意図した時だけでなく、使用意図を持たずに道具を自由観察した時にも道具の機能部分への累積注視時間が長くなることを示した。また、使用意図時(意図的な技術推論)と自由観察時(自動的な技術推論)における視線探索に異なる特徴があることを示した。   研究内容 右利きの健常成人14名が実験に参加しました。被験者は3つの条件でモニター上に6つの馴染みのある道具と6つの馴染みのない道具がランダムに呈示された際の視線移動をアイトラッカー(Tobii Pro X2-60)を用いて調べられました。条件1は画面を注視するだけの自由観察条件で、条件2は持ち上げるようなパントマイムを行う持ち上げ条件、条件3は使用するようなパントマイムを行う使用条件としました。2つのパントマイム条件では、モニターの前に実際に道具があることを想定して手をモニター手前まで到達させてから、指示に応じたパントマイムを行いました(図1)。   図1:(A)実験プロトコル (B)実験風景   道具の機能的な部分への累積注視時間は、技術的推論の程度の定量的な指標としました。 道具種別(馴染みの有無)と条件についての二元分散分析を行ったところ、累積注視時間は持ち上げ条件と比較して自由観察条件および使用条件で有意に増加しました。また、馴染みのない道具における累積注視時間は、自由観察条件と比較して、持ち上げ条件では有意に減少し、使用条件では有意に増加しました(図2)。   図2(左):注視点の可視化 (A)注視点ヒートマップ (B)累積注視位置のヒストグラム 図2(右):機能部分への累積注視時間   本研究の意義および今後の展開 本研究では、馴染みの度合いの異なる道具観察課題において、使用意図時と自由観察時の視線探索の比較によって技術推論の程度が判別できる可能性を示唆しました。今後、道具使用障害を呈する患者に対して同様の課題を実施し、道具使用障害の病態メカニズムの探求につなげていくことが重要です。   論文情報 Tamaki Y, Nobusako S, Takamura Y, Miyawaki Y, Terada M, and Morioka S Effects of tool novelty and action demands on gaze searching during tool observation. Frontiers in Psychology. 2020; 11: 587270.   問い合わせ先 医療法人社団仁生会 甲南病院 リハビリテーション部 筆頭主任・作業療法士 玉木 義規(タマキ ヨシノリ) E-mail: ot44tama@gmail.com     畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp  

2020.11.20

1/23(土)「畿央大学シニア講座」と「畿央大学公開講座」をオンライン開催します。

今年のテーマはコロナ禍における「腰痛」と「感染症」!     本学では、地域の方々に生涯教育の場を提供することで、地域社会に貢献することを目的とした公開講座と、シニア世代の方を対象に「健康」と「教育」について学びを深めていただくシニア講座を毎年実施しています。今年度は、コロナウイルス感染症の影響に鑑み、直接ではなくオンライン(Zoomウェビナー)で講座を開催することといたしました。インターネットに接続できる環境があれば、パソコン・スマートフォンからご視聴いただくことが可能です。同日の開催になりますので、両講座とも受けていただくことも可能となっています。多くの皆さまのご参加をお待ちしております。   開催日時 2021年1月23日(土) 11:00~12:00 畿央大学シニア講座 13:00~14:00 畿央大学公開講座 開催方法 オンライン(Zoomウェビナー) ※視聴用のURLは後日お知らせします。 定員 各回100名(先着順) ※2020年12月1日(火)から申込を開始します。 参加費 無料 第6回 畿央大学 シニア講座        11:00~12:00 なぜ腰痛を治すために運動が必要なのか、どのような運動をすればいいのか ~運動不足になりがちなコロナ禍だからこそ正しく腰痛を理解しよう~     畿央大学 ニューロリハビリテーション 研究 センター 准教授 大住 倫弘 「腰痛のメカニズム」や「痛み」を正しく理解するところからはじめ、痛みが出たとき、あるいは痛みが長引くときにどう対処することがよいのか一緒に学びましょう。そして、コロナ禍だからこそ家庭内でも簡単にできる運動やストレッチをオンライン上で動きを確認しながら、ご自身でも実際に試してください。 第19回 畿央大学 公開講座 13:00~14:00 「感染症について知ろう」~新型コロナウイルスとこれからの生活~     畿央大学 健康栄養学科 教授 根津 智子 感染症に関する基本的なことを参加者の皆さんに知っていただき、一般的な感染症の考え方や対策を学んでいただきます。そして、新型コロナウイルスの特徴や現状、ウイルスに対する各種対策の意義などを紹介し、これからの生活の中でどのような心掛けをしてくことがよいのか、皆さんと一緒に考えていきます。   申込方法 【以下のいずれかの方法でお申し込みください。12/1(火)~受付開始】 E-mailでお申込みの場合 ① 氏名(フリガナ)、② 年齢、③ 住所、④ 電話番号(FAX番号)、⑤参加を希望する講座をご明記の上、info@kio.ac.jpまでお申し込みください。 ※⑤の参加希望講座は、どちらか一方の講座を希望される場合は「講座名」を、両方を希望される場合は「両方希望」と明記ください。 専用フォームによるお申し込みの場合 申込フォーム(下記QRコード) からお申込みください(メールアドレス必須)。 開催前に参加用URLを申込メールアドレス宛に送信します。   【QRコード】   お申し込み・受講にあたっての注意事項 ・本講座は、Zoom(アプリケーション)を利用したZoomウェビナーです。インターネット環境があればパソコン・スマートフォン・タブレットから受講することが可能です。 ・Zoomアプリは必ず最新版にアップデートの上ご覧ください。 ・受講者は顔や名前が他の受講者に表示されることはありません。 ・講座当日までに、お申し込みいただいたE-mailへ受講のためのURLをお送りします。 ・講座の映像・音声等を許可なくスクリーンショットや写真・動画・音声で記録すること、またそれらを第三者に共有・公開することを固くお断りいたします。 ・講座を受講するために必要なURL・パスワードを第三者に共有・公開することを固くお断りいたします。 ・お預かりした個人情報は、本講座に関わる業務にのみ使用します。また、予め本人の同意を得ることなく第三者に提供することはいたしません。   問い合わせ先 畿央大学教育推進部 公開講座係 E-mail:info@kio.ac.jp  TEL:0745-54-1601 FAX:0745-54-1600   ▼ポスターPDF(画像をクリックすると、PDFデータがご覧いただけます。)     【過去のシニア講座の開催レポート】 第5回畿央大学シニア講座 第4回畿央大学シニア講座 第3回畿央大学シニア講座 第2回畿央大学シニア講座 第1回畿央大学シニア講座   【過去の公開講座の開催レポート】 第18回畿央大学公開講座 第17回畿央大学公開講座 第16回畿央大学公開講座 第15回畿央大学公開講座B・C 第15回畿央大学公開講座A 第14回畿央大学公開講座 第13回畿央大学公開講座 第12回畿央大学公開講座

2020.11.11

痛みが予測通りに回復しない症例の特徴~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

「痛み」という症状は、ひとによって回復度合いにバラつきがあり、症状が悪化する場合もあることが報告されています。畿央大学大学院博士後期課程の重藤 隼人氏と森岡 周教授らは、病院やクリニックに通われている筋骨格系の痛みを有する患者を対象に“痛み回復予測モデル”を作成し、「中枢性感作症候群の改善度」が痛みのリハビリテーション予後を悪くすることを明らかにしました。この研究成果は、Pain Research and Management誌(Central Sensitivity Is Associated with Poor Recovery of Pain: Prediction, Cluster, and Decision Tree Analyses)に掲載されています。   研究概要 中枢性感作は、心理的因子とともに痛みを修飾する1つの因子であることが報告されています。しかし、心理的因子と痛みとの関係に中枢性感作が媒介して関与するかどうかは明らかにされていませんでした。本研究では、痛み回復予測モデルを作成し、痛み回復予測値と実測値に基づいた階層的クラスター分析を用いて、①痛みが悪化するグループ、②痛みが予測よりも回復しないグループ、③痛みが予測よりも回復するグループに分類しました。そして、多重比較および決定木分析を用いて、痛みの回復予測に適合する症例と適合しない症例に影響する要因を検証しました。その結果、痛みが予測通りに回復しないグループの特徴として、「中枢性感作症候群の改善度」が抽出されました。   本研究のポイント ■ 痛み回復予測値と実測値に基づいたクラスター分析から、①痛みが悪化するグループ、②痛みが予測よりも回復しないグループ、③痛みが予測よりも回復するグループに分類されました。 ■ 痛みが予測通りに回復しないグループの特徴として、中枢性感作症候群の改善度が抽出されました。   研究内容 入院・外来受診患者を対象に、中枢性感作の評価としてCentral Sensitization Inventory (CSI-9)、疼痛評価としてShort-form McGill Pain Questionnaire-2 (SFMPQ-2)、認知情動因子としてPain Catastrophizing Scale-4 (PCS-4:破局的思考)、Hospital Anxiety and Depression Scale (HADS不安、抑うつ)を評価しました。1-2カ月後の再評価が可能であった患者の結果を用いて、段階的な統計解析を行いました。   <段階的な解析手順>  1.痛みの改善がみられた対象者を抽出する。 2.痛みの改善がみられた対象者のスコアに基づいて、回帰式を作成する(痛み回復モデル)。   痛みの変化量 = −0.52×痛みの初期スコア − 3.34  3.痛み回復モデルから痛み回復の予測値と実測値を算出する。 4.痛み回復の予測値と実測値に基づいた階層的クラスター分析を実施する(図1) 5.クラスター分析で分類したサブグループについて、各変数の多重比較を行う。 6.各変数の変化量の関連性に着目して、相関分析を行う。 7.痛み回復モデルに適合するグループと適合しないグループの特徴を抽出するために決定木分析を行う。       図1:従属変数をクラスター番号,独立変数を痛み関連因子とした決定木分析 クラスター 1:痛みが悪化するクラスター クラスター 2:痛みが予測より回復しないクラスター クラスター 3:痛みが予測より大きく回復するクラスター   決定木分析の結果、各クラスターに分類に関する予測変数として、中枢性感作症候群初期スコアと中枢性感作症候群スコア変化量が抽出されました。特に、中枢性感作症候群スコア変化量は、全てのクラスター分類に関する予測変数として抽出されました。つまり、痛みが予測通りに回復するかどうかに中枢性感作症候群の変化が関連することが示唆されました。   本研究の意義および今後の展開 本研究成果は、従来の研究で報告されていた初期の認知・情動因子および中枢性感作症候群の状態のみならず、中枢性感作症候群の変化が痛みの回復に影響することを示唆するものです。そのため、今後は中枢性感作症候群をはじめとした、痛み関連因子の変化量と合わせて痛みの変化も検討していくことで、サブタイプ分類を行いサブタイプに応じたハイブリッドアプローチを提唱する臨床研究を進めていく予定です。   論文情報 Shigetoh H, Koga M, Tanaka Y, Morioka S Central Sensitivity Is Associated with Poor Recovery of Pain: Prediction, Cluster, and Decision Tree Analyses Pain Research and Management 2020   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科  博士後期課程 重藤隼人 E-mail: hayato.pt1121@gmail.com   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2020.10.28

教員紹介「峯松先生」編~新入生応援!やさしさを「チカラ」に変えるプロジェクトvol.59

1回生の皆さんを応援する”新入生応援!やさしさを「チカラ」に変える”プロジェクト”。後期からは1回生クラス担任以外の先生方もご紹介します。今回は理学療法学科の峯松先生です!     【1】氏名および研究分野・担当科目 峯松 亮(みねまつ あきら) 理学療法学科 教授   研究分野:骨粗鬆症をテーマに研究をしています。骨は体を支え、臓器を守る役割に加え、血中のミネラル分(特にCa)の恒常性に関与しています。また、日々古い骨を壊し、新しい骨に作り変えています。このように、骨は動的な臓器であり、多くの内分泌機能にも関わっています。このバランスが崩れると骨量が減少し、骨が脆くなります。その結果、骨折のリスクが増します。このように、何らかの原因(加齢や疾患、生活習慣など)で骨が脆弱性をきたす現象に対して、運動、栄養などを中心に、その予防策について研究しています。   担当科目: 「解剖学I・II」「解剖学実習」 …医療系学生の必須科目の一つです。解剖学I・IIで知識を学び、解剖学実習でその知識を再確認し、理解度を深めます。知識と言っても広範囲に及びます。 「臨床解剖学演習」 …体表解剖学を中心に実施します。骨や筋を触知し、学んできた知識と実際の人体とのギャップを埋めるのも目標の一つです。 「科学英語論文講読法」 …健康科学分野に関わる英語論文の検索から講読までの一連の流れを学びます。卒業研究では多くの文献(和文、英文に関わらず)を読むことになると思いますので、ここでしっかりと基礎を学んでください。 「チーム医療ふれあい実習」「ベーシックセミナー」 …1回生の皆さんは既に履修済みなのでご存知かと思います。   【2】モットーや好きな言葉、大切にしていること  理想かもしれませんが、日々、何事につけても「あせらず、たゆまず、おこたらず」を念頭に取り組んでいきたいと思っています。ただ、これを実行するには「言うは易し、行うは難し」ですが・・・。   【3】趣味・特技など 釣り:ルアーによるシーバス、団子などによるチヌ・グレの釣りが主に好きです。ルアーにヒットした瞬間、浮きが沈んだ瞬間の感覚が病みつきになります。また、細いラインで大物を引き上げる時の緊張感も楽しさの一つです。何より一人でも複数人でも一緒に楽しめます。 寺院、仏像:寺院に行くと厳かな気分になりますし、仏像を見ると心が安らぎます。作者や時代により建築様式や仏像の構図・表情にも特徴があります。古刹の穴場は、静かで落ち着きます。 趣味に関しては広く浅くの部分もあります。他の人と少しでも趣味に共通点があれば、会話も進みます。   【4】先生から見た畿央大学(または所属学科)や畿央生の印象は?  多くの畿央生は将来の目標(まずは理学療法士になる)をしっかりと持って、まじめに学習に取り組んでいると感じます。また、その良い影響が同輩や後輩たちにも広がり、引き継がれているなと思います。「先輩の背中を見て育つ」というのは畿央生の特徴ではないかと思います。これは、学習面だけでなく、課外活動などにも言えることだと思います。よく学び、よく遊んでください。楽しいことも必要です。   【5】1回生(畿央生)にメッセージを!  後期になり、ようやく大学生活がスタートしたと感じている人がほとんどでしょう。新しい友人もでき、これからも色々な人達と出会うことと思います。「隣の芝生は青い」という諺がありますが、まずは自分の芝生を青くすることを考えましょう。隣の芝生の青さはその人の努力の結果かもしれません。「自分は自分、他人は他人」です。他人がどうこうということではなく、自分はどうなのか、何をすべきかを考えてみましょう。まずは「自分のやりたいこと」から始めてみてはいかがでしょう。   教員実績

2020.10.23

教員紹介「信迫先生」編~新入生応援!やさしさを「チカラ」に変えるプロジェクトvol.58

1回生の皆さんを応援する”新入生応援!やさしさを「チカラ」に変える”プロジェクト”。後期からは1回生クラス担任以外の先生方もご紹介します。今回は健康科学研究科・ニューロリハビリテーション研究センターの信迫先生です!     【1】氏名および研究分野・担当科目 信迫 悟志(のぶさこ さとし) ニューロリハビリテーション研究センター准教授   僕が今最も取り組んでいる研究分野は「発達障害のハビリテーション」です。 「ハビリテーション(habilitation)」には、「適応する」という意味があります。通常はそれに「Re(再び)」を加えて、「リハビリテーション(Rehabilitation)再び適応する」と言いますが、発達障害など先天性や幼少時の障害からの発達を促す取り組みはハビリテーションと言います。発達障害など「障害」という言葉は、個人に診断されるものですので、もちろん「障害」は個人が持つものと捉えられますが、本当は「障害」は個人の中にあるわけではなくて、個人と社会(人や物、環境)が相互作用する接点に、結果的に生じてくるものです。その証拠に、例えば欧米の特別支援教育の対象児には、障害を持つ子どもだけでなく、超能力のような特殊な能力を有する子どもたちも含みます。 例えば、通常は人の手腕は2本ありますが、もし3本ある人がいたらどうでしょうか。手腕が3本あれば、日常生活をより豊かに過ごせるかもしれません。しかしながら、2本しかない方から見れば、それは卑怯だということになるのではないでしょうか。結局、圧倒的大多数(2本)の中では、特殊能力(3本)も障害となるわけです。なので、「障害」というより、「個性(特性)」と捉える方が適切なのかもしれません。 そうした個性(特性)を持つ子どもたちの発達を促すハビリテーションとは何か、そしてどのような取り組みが、個性(特性)を持つ子どもたちと社会(人や物、環境)との間の関係を良好にしていけるのかを研究しています。     サークル【子どもの発達と教育を考える研究会(DS&E)】の顧問をさせてもらい、畿央大学の学園祭【畿央祭】では、子どもたちを対象にしたイベントも実施していますので、子どもに興味がある・子どもが好きという方は、是非お声がけください!!   【2】モットーや好きな言葉、大切にしていること  座右の銘「人事を尽くして天命を待つ」 基本的に成功しなくても良いと思っています(笑)人の人生に「完成」なんてないので、その時々を自分の持てる力を精一杯出して走り抜けようと思っています。   【3】趣味・特技など ベタですが、映画です。といっても今は、全く観れてませんが、中高生時代は年間300本以上の洋画を鑑賞し、1コマ試写すれば、誰が撮った映画か分かるぐらいマニアックでした。なので、小中高時代の将来の夢は映画監督でした。要するに中高生時代は勉強していなかったわけですが、おかげで外国の方の名前を覚えるのは今でも得意です。恐らく日本の方の名前より多い外国の方の名前を憶えています。英会話はできませんが…。 それから映画は先端技術の結晶でもあるので、今こうして研究する時のアイデアにも生かされているのかもしれません。昔は洋画と邦画・アジア映画では規模が違い過ぎましたが、今は素晴らしい邦画やアニメ作品がたくさん作られていますね。時間ができたら、また映画の旅に出たいと思っています。映画好きという方がおられましたら、一緒に映画談義しましょう!!   【4】先生から見た畿央大学(または所属学科)や畿央生の印象は?  僕自身は、大学院は畿央大学でお世話になりましたが、専門学校出身で大学生活(キャンパスライフ)というのを送ったことがありません。なので完全に印象でしかありませんが、先生方も職員の方々も、とても情熱的でフレンドリーだと思います。学生の方々も明らかに勉強熱心だと思います。毎年、国家試験や卒業試験のシーズンになると、ニューロリハビリテーション研究センター内でも、連日朝早くから夜遅くまで、机に向かって頑張る学生達の姿を沢山見ます。上に書いたように、僕は勉強より映画だったので、畿央生のその姿に本当に感心しています。でも、くれぐれも無理のないように。   【5】1回生(畿央生)にメッセージを! 僕が障害を持つ子どもたちに関わる時に、最も大事にしているのが、「好き」という心です。つまり、その子の興味・関心ですね。先程、僕が外国の方の名前を覚えるのが得意と言いましたが、それは努力して勉強したからではありません。単純に映画が大好きだったからです。そのように「好き」という心は、険しい人生を歩む上での大きな原動力になります。なので、皆さんには、何でも良いので、自分の心で沸き起こった「好き」という感情を大切にしてもらえればと思います。 今、僕たちは歴史上稀にみる危機的状況に遭遇しています。学校へ行って、勉強するのは常識。カラオケ行って皆ではしゃぐのも常識。人と人が交流するのは常識。この普段の生活の当たり前だと思っていたことが、当たり前ではなくなり、人と人とが直接交流しないのが常識となりました。これは一見、負のパラダイム・シフトのように見えますが、実はそんなことはありません。人類は危機的状況に遭遇するたびに、それを乗り越え、未来を創造し、切り開いてきました。そして、その正のパラダイム・シフトを展開できる力を持っているのが皆さんのような若い世代です。どういう方向であれ、これからの時代を作っていくのは、僕のような中年層でも今の経済を支えている中高年層でもなく、皆さんです。メディアなどでは若い世代の行動が揶揄・批判されることが多いですが、皆さんならきっと正のパラダイム・シフトを創造し実行できると信じています。皆さんの未来が明るいことを心から願っています!!   教員実績

2020.10.23

教員紹介「大住先生」編~新入生応援!やさしさを「チカラ」に変えるプロジェクトvol.57

1回生の皆さんを応援する”新入生応援!やさしさを「チカラ」に変える”プロジェクト”。後期からは1回生クラス担任以外の先生方もご紹介します。今回は健康科学研究科・ニューロリハビリテーション研究センターの大住先生です!     【1】氏名および研究分野・担当科目 大住 倫弘(おおすみ みちひろ) ニューロリハビリテーション研究センター准教授 担当科目:学部では看護医療学科1年次配当「脳科学入門」・教育学部3年次配当「発達脳科学」を担当   研究分野は「幻肢痛のリハビリテーション」です。「それなんなん?」ってなると思いますので、簡単に説明すると、事故などで手が切断された後でも “まだ手が残っている感覚があって、その幻の手が痛い” ことがありまして、その幻の痛みを緩和させるためのリハビリテーションを研究しています。目には見えない幻の手を扱っているので、研究として色んな難しさはありますが、それを見える化して、リハビリテーションをしていく研究にとってもやりがいを感じています!     そんな研究をしている中で、『身体の不思議さ』に夢中になってしまい、今では身体の錯覚を研究もしています。そして、その錯覚を “経験” した後に、そのヒトが身体をどのように感じるのかについて深く掘り下げようとしています。例えばですね、写真のような傷ついたオモチャの手(偽物ですよ!)をつかって、「(この傷ついた手は)自分の手だ」という錯覚を経験させると、本当に自分の手が痛みだすような面白い現象があります。他にも、写真のような色んな手(偽物ですよ!)で錯覚研究をしていますので、ご興味ある方は是非お声掛け下さい。   ▲ P棟1Fニューロリハビリテーションにて撮影   【2】モットーや好きな言葉、大切にしていること  ひとを育てるのは「人、本、旅」 最近、ライフネット生命創業者の出口治明さんの本を読んで、「まさに!」と思った言葉です。もともと、本は好きなほうですが、自分には圧倒的に人・旅が足りていないので、コロナ禍が落ち着けば、色んなところへ出かけて、色んな人と交流したいと思います。   【3】趣味・特技など おいしいコーヒーを淹れるために日々研究を重ねています(温度・蒸らす時間・お湯を注ぐ速度 etc…)最近は、写真のようなモノを買って、それに頼るようになってしまいましたが・・・自分好みの味で淹れることができるようになってきました。   ▲行きつけのコーヒー屋さんで撮影。ここではコーヒーの知識がたくさん得られます。   【4】先生から見た畿央大学(または所属学科)や畿央生の印象は?  実は、僕自身が理学療法学科の3期生なのですが、面白い教員とフレンドリーな職員が多いところは、当時から全く変わらないと思いますし、何と言っても、学生に手厚く多くの時間を割いてくれるというのは他の大学にはないトコと思います。逆に、たくさん勉強をしないといけないかも・・・いずれにしても、多くのことを学べる環境であることは間違いないです!   【5】1回生(畿央生)にメッセージを!  僕が畿央大学へ入学した時には、「え!?大学生ってこんなに勉強しなアカンの!!?? え!?またレポート課題を出すの!?」って率直に思いました。でも、その手厚い教育のおかげで今の自分があると思っていますので、卒業後の自分を想像しながら、コツコツ頑張って下さい!! このような状況なので、まだまだ畿央大学を体感しきれていないとは思いますが、たくさんの友人をつくって、たまには羽目を外して、息抜きしながら、厳しい学びを乗り越えていきましょう!   教員実績

2020.10.22

発達性協調運動障害を有する児の改変された運動主体感~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

予測された感覚フィードバックが実際の感覚フィードバックと時間的に一致する時、その行動は自己によって引き起こされたと経験されます。このように私が自分の行動のイニシエーターでありコントローラーであるという経験のことを運動主体感と呼びます。運動主体感は、ヒトの意欲的な行動に強く関連する重要な経験であり、この経験の重要性は、多くの神経障害・精神障害(脳卒中後病態失認、統合失調症、不安障害、抑うつ、脳性麻痺、自閉症スペクトラム障害)で強調されています。しかしながら、発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder: DCD)を有する児における運動主体感については、明かになっていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らは、中井昭夫 教授(武庫川女子大学)、前田貴記 講師(慶應義塾大学)らと共同で、DCDを有する児の運動主体感について調べる初めての研究を実施しました。 この研究成果は、Research in Developmental Disabilities誌(Altered sense of agency in children with developmental coordination disorder)に掲載されています。   研究概要 DCDとは、協調運動技能の獲得や遂行に著しい低下がみられる神経発達障害の一類型であり、その症状は、字が綺麗に書けない、靴紐が結べないといった微細運動困難から、歩行中に物や人にぶつかる、縄跳びができない、自転車に乗れないといった粗大運動困難、片脚立ちができない、平均台の上を歩けないといったバランス障害まで多岐に渡ります。DCDの頻度は学童期小児の5-6%と非常に多く、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害、学習障害などの他の発達障害とも頻繁に併存することが報告されています。またDCDと診断された児の50-70%が青年期・成人期にも協調運動困難が残存し、頻繁に精神心理的症状(抑うつ症状、不安障害)に発展することも明らかになっています。 DCDのメカニズムとしては、運動学習や運動制御において重要な脳の内部モデルに障害があるのではないかとする内部モデル障害説が有力視されており、それを裏付ける多くの研究報告があります。一方で、内部モデルは「その行動を引き起こしたのは自分だ」という運動主体感の生成に関与していることが分かっています。すなわち内部モデルにおいて、自分の「行動の結果の予測」と「実際の結果」との間の時間誤差が少なくなると、その行動は自分が引き起こしたものだと感じられ、時間誤差が大きくなると、その行動は自分が引き起こしたものではないと感じられます。したがって、 DCDを有する児では、内部モデル障害のために、この運動主体感が変質している可能性がありますが、それを調査した研究は存在しませんでした。 そこで畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らの研究チームは、定型発達児(Typically developing: TD群)とDCDを有する児(DCD群)に参加して頂き、運動主体感の時間窓を調査しました。その結果、TD群とDCD群の両者ともに、運動とその結果との間の時間誤差が大きくなるのに伴って、運動主体感は減少していきました。しかしながら、その時間窓は、TD群よりもDCD群の方が延長していたのです。このことは、DCDを有する児では、行動とその結果の間に大きな時間誤差があったとしても、結果の原因を誤って自己帰属(誤帰属)したことを意味しました。加えて、TD群では、運動主体感の時間窓と微細運動機能との間に相関関係が認められたのに対して、DCD群では、運動主体感の時間窓と抑うつ症状との間に相関関係が認められました。 この研究は、DCDを有する児の運動主体感が変質していることを定量的に明らかにし、その運動主体感の変質と内部モデル障害、および精神心理的症状との間には、双方向性の関係がある可能性を示唆しました。   本研究のポイント ■ DCDを有する児の運動主体感の時間窓は、TD児よりも延長していた。 =DCDを有する児では、行動とその結果の間に大きな時間誤差があったとしても、結果の原因を誤って自己帰属(誤帰属)した。 ■ DCDを有する児の運動主体感の時間窓は、抑うつ症状と相関していた。 =誤った自己帰属(誤帰属)が大きくなるほど、抑うつ症状が重度化していた。 ■ DCDを有する児において、内部モデル障害、精神心理的症状、および運動主体感との間には双方向性の関係があるかもしれない。   研究内容 8~11歳までのDCDを有する児15名とTD児46名が本研究に参加し、Agency attribution task*(Keio method: Maeda et al。 2012、 2013、 2019)を実施してもらいました(図1)。この課題は、参加児のボタン押しによって画面上の■がジャンプするようにプログラムされています。そして、ボタン押しと■ジャンプの間に時間的遅延を挿入することができ、この遅延時間として100、 200、 300、 400、 500、 600、 700、 800、 900、 1000ミリ秒の10条件を設定しました。そして、参加児には“自分が■をジャンプさせた感じがするかどうか”を回答するように求められ、参加児がどのくらいの遅延時間まで運動主体感が維持されるのか(運動主体感の時間窓)を定量化しました。さらに参加児はDCD国際標準評価バッテリー(M-ABC-2)や小児用抑うつ評価(DSRS-C)などの評価も受けました。     図1:Agency attribution task(Keio method: Maeda et al。 2012、 2013、 2019) *Keio Method: Maeda T。 Method and device for diagnosing schizophrenia。 International Application No。PCT/JP2016/087182。 Japanese Patent No。6560765、 2019。   結果として、DCD群の運動主体感の時間窓は、TD群と比較して、有意に延長しました(図2)。このことは、DCDを有する児では、行動とその結果の間に大きな時間誤差があったとしても、結果の原因を誤って自己帰属(誤帰属)したことを意味しました。この結果には2つの理由が考えられました。一つは、以前の研究(Nobusako et al。 Front Neurol、 2018)から、DCDを有する児では、TD児と比較して、内部モデルにおける感覚-運動統合機能が低下しているためであると考えられました。もう一つは、DCDを有する児では、意図した動きと実際の動きが完全に一致しない状況(すなわち運動の失敗)を頻繁に経験するためであると考えられました。   図2:DCDを有する児とTD児における運動主体感の時間窓の違い   加えて、TD児の運動主体感の時間窓と微細運動機能との間には、有意な相関関係がありました。このことは、内部モデルが、学童期児童の運動主体感の生成に比較的大きな貢献をしていることを示した以前の研究(Nobusako et al。 Cogn Dev、 2020)と一致していました。 一方、重要なことに、DCDを有する児における運動主体感の時間窓と抑うつ症状との間には、有意な相関関係があり、このことは誤った自己帰属(誤帰属)が大きくなるほど、抑うつ症状が重度化したことを意味しました(図3)。     図3:DCDを有する児における運動主体感の時間窓と抑うつ症状との相関関係   本研究の意義および今後の展開 本研究は、DCDを有する児では、運動主体感が変質している(時間窓が延長している)ことを定量的に初めて明らかにし、この運動主体感の変質と内部モデル障害、そして精神心理的症状との間には双方向性の関係があることを強く示唆しました。 今後、本研究で提起されたいくつかの限界点を考慮して、DCDを有する児における改変された運動主体感が、運動の不器用さ、そして精神心理的問題の発生に、どのように関与しているのかを調べるさらなる研究が必要です。   関連する先行研究 ■ Nobusako S, Sakai A, Tsujimoto T, Shuto T, Nishi Y, Asano D, Furukawa E, Zama T, Osumi M, Shimada S, Morioka S, Nakai A. Deficits in Visuo-Motor Temporal Integration Impacts Manual Dexterity in Probable Developmental Coordination Disorder. Frontiers in Neurology. 2018 Mar 5; 9: 114. ■ Nobusako S, Tsujimoto T, Sakai A, Shuto T, Hashimoto Y, Furukawa E, Osumi M, Nakai A, Maeda T, Morioka S. The time window for sense of agency in school-age children is different from that in young adults. Cognitive Development. 2020 Apr–Jun; 54: 100891.   論文情報 Nobusako S,Osumi M, Hayashida K, Furukawa E, Nakai A, Maeda T, Morioka S. Altered sense of agency in children with developmental coordination disorder. Research in Developmental Disabilities. 2020; 107: 103794.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 准教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

2020.09.29

ルールへの気づきが行為主体感を増幅させる~ニューロリハビリテーション研究センター

自身の行為を制御している感覚を行為主体感といいます。畿央大学大学院博士後期課程の林田一輝 氏と森岡 周 教授はルールへの気づきが行為主体感を増幅させるのかどうかについて検証しました。この研究成果は、Brain Sciences誌(Intentional Binding Effects in the Experience of Noticing the Regularity of a Perceptual-Motor Task)に掲載されています。   研究概要 運動制御は、予測と結果を比較照合する繰り返しによって精緻になります。このモデルは、行為主体感の生成でも同じことが考えられています。行為主体感とは、自身の行為を制御している感覚のことであり、予測と結果の誤差が小さいと「この行為は自分で起こしたものである」という経験をすることができます。我々は過去の研究で、知覚運動能力が高いと行為主体感が増幅することを報告しました(Morioka et al. 2018)。しかしながら、どのような要素が行為主体感に影響したのかは不明でした。本研究では、運動課題中の気づき経験が行為主体感へ与える影響を調査することを目的としました。参加者は、暗黙的なルールを含む知覚運動課題とintentional binding課題(行為主体感を定量的に測定できる方法)を同時に実行しました。実験終了後にルールに気づいたかどうかを聴取することで「気づきあり群」と「気づき無し群」に分けることができました。実験の結果、「気づき無し群」と比較して「気づきあり群」は、intentional binding効果が徐々に増幅しました.つまり,法則性(ルール)への気づきが行為主体感を増幅させることが明らかになりました。   本研究のポイント ■ 気づき経験が行為主体感に影響する可能性がある.   研究内容 29名の健常人が実験に参加しました。参加者は水平方向に反復運動する円形オブジェクトをキー押しによって画面の中央で止める知覚運動課題を行いました。キーを押すとすぐに円形オブジェクトが止まり、そのキー押しから数100ms遅延して音が鳴りました.参加者は,キーを押してから音が聞こえるまでの時間間隔を推定しました。この時間間隔を短く感じるほど行為主体感が増幅していることを示します(intentional binding効果)。知覚運動課題のルールへの気づき経験を与えるために、円形オブジェクトの移動速度を暗黙的なルールに基づいて変更しました。移動速度は5段階(速度1:7.09度/秒,速度2:14.13度/秒、速度3:21.06度/秒,速度4:27.84度/秒,速度5:34.43度/秒)であり、速度は1秒ごとに速度1から速度5に徐々に変更されました。速度5の後,速度は再び速度1に設定されました。このループは、参加者がキーを押すまで繰り返されました。すべての試行終了後、参加者は暗黙の規則性に気づいたかどうか聴取されました。本実験は1ブロック18試行、全10ブロックで構成され、3つの段階(初期、中期、後期)に分けることで運動課題とbinding効果の時系列的な変化を調査しました(図1)。   図1:知覚運動課題とintentional binding課題(行為主体感を定量的に測定できる方法)   「気づきあり群」17名、「気づき無し群」12名に分けられました。「気づきあり群」における高い知覚順応効果は参加者がルールに気づいていた結果であることを示しています(図2a).さらに、「気づきあり群」は徐々にbinding効果が増幅したのに対して,「気づき無し群」は徐々にbinding効果が減少していました(図2b)。   図2a.知覚運動課題の成績:気づきあり群はタスク数を重ねるほど成績が高まっています 図2b.Binding効果(=行為主体感の数値):気づきあり群はタスク数を重ねるほど行為主体感は高まっていきます*緑バーが低くなるほど行為主体感が高くなっていることを意味します   本研究の意義および今後の展開 本研究は,気づきが行為主体感に影響を及ぼす可能性を示唆しました.本研究結果は行為主体感の変容プロセス解明の一助になることが期待されます.   関連する先行研究 Morioka S, Hayashida K, Nishi Y, Negi S, Nishi Y, Osumi M and Nobusako S. Changes in intentional binding effect during a novel perceptual-motor task. PeerJ 2018, 6, e6066.   論文情報 Hayashida K, Nishi Y, Masuike A and Morioka S. Intentional Binding Effects in the Experience of Noticing the Regularity of a Perceptual-Motor Task. Brain Sci. 2020   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 林田 一輝(ハヤシダ カズキ) E-mail: kazuki_aka_linda@yahoo.co.jp Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600

2020.09.23

利用できる手がかりに応じて変化する運動制御時の自他帰属戦略~ニューロリハビリテーション研究センター

動作の中で得られる感覚を自己帰属したとき(自分で自分の運動を制御していると思えるとき)、我々はその感覚に基づいて運動を制御しようとします。この自己帰属は、内的予測や感覚フィードバックといった感覚運動手がかりや、知識や思考といった認知的手がかりなどに基づいて決定されることが報告されています。畿央大学大学院博士後期課程・日本学術振興会特別研究員の宮脇 裕 氏と森岡 周 教授は,運動制御時にこれらの手がかりがどのような関係性で利用され自他帰属が達成されるのかについて検証しました。この研究成果は、Attention, Perception, & Psychophysics誌(Confusion within feedback control between cognitive and sensorimotor agency cues in self-other attribution)に掲載されています.   研究概要 自他帰属(Self-other Attribution)とは、自己由来感覚と外界由来感覚を区別することを指します。この区別が上手くいかなくなると、「自分で自分の運動を制御している」という運動主体感の変容を招いたり、不必要な感覚に基づいて運動を遂行してしまったりすることが明らかにされています。この自他帰属には、運動の内的予測や感覚フィードバックといった「感覚運動手がかり」や、自分の持つ知識や思考といった「認知的手がかり」が関与することが報告されています。そしてこれらの手がかり間の関係性について、最適手がかり統合(Optimal Cue Integration)と呼ばれる仮説が提唱されています。本仮説によると、脳は状況に応じた手がかりの信頼性を計算し、その信頼性に基づいて自他帰属にどの手がかりを利用するか決定すると考えられています。しかしながら、運動に直接関与しない認知的手がかりが運動制御時の自他帰属に影響しうるのかは依然明らかになっていません。 宮脇 裕 氏(畿央大学大学院博士後期課程,日本学術振興会特別研究員,慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)と森岡 周 教授は、フィードバック制御課題を用いて、自他帰属における認知的手がかりの効果について,感覚運動手がかりの情報量を操作した3つの実験により検証しました。その結果、感覚運動手がかりが十分に利用できる状況では(実験1)、,認知的手がかりは自他帰属に利用されませんでしたが、感覚運動手がかりの情報量が少ない状況では(実験2)、認知的手がかりも自他帰属に利用されることが示されました。そして興味深いことに、感覚運動手がかりが十分利用できないような状況では(実験3)認知的手がかりの効果は認めず、これらの実験から、運動制御では認知的手がかりの効果は特定の状況に限定される可能性が示されました。   本研究のポイント ■ 運動制御時の自他帰属は感覚運動手がかりに基づく。 ■ 運動制御では認知的手がかりは特定の状況においてのみ自他帰属に影響しうる。 ■ 認知的手がかりの効果は利用できる感覚運動手がかりの情報量に依存する可能性がある.   研究内容 参加者(健常大学生)は,モニタ上に表示されたターゲットラインをなぞるようにペンタブレット上で上肢の正弦曲線運動を遂行しました(図1; Asai, 2015)。この際,視覚フィードバックとしてカーソルが表示されました。感覚運動手がかりとして、カーソルの動きには、自分のリアルタイムの運動が反映される条件(自己運動条件)と、事前に記録した運動が反映される条件(フェイク運動条件)がありました。参加者は、自分の実際の運動とカーソル運動の時空間的な一致性に基づき、カーソルが自己運動を反映していると判断できる場合にそのカーソルを操作しターゲットラインをなぞることを求められました。     図1:実験セットアップ    ターゲットラインの前半(Cycle 1と2)では、カーソルの形を動きに対応付け、形に基づき自他帰属させることで形を認知的手がかりとして与えました(図2)。具体的には、前半では●の形のカーソルは自分のリアルタイムの運動(自己運動)を反映し、※のカーソルは事前に記録した運動(フェイク運動)を反映していたため、参加者に形の情報から自他帰属することを求めました。特に、形を基にカーソルを制御する条件を設け、形をプライミングしました。ターゲットラインの後半(Cycle 4と5)まで運動を進めると、この対応関係が変化することがあり、この際に参加者が動きと形どちらの手がかりを用いて自他帰属するかを検証しました。課題中にターゲットラインとペン座標の距離を運動エラーとして測定し、この運動エラーから手がかりの利用度を算出しました。     図2:実験デザイン   実験2と3では、それぞれカーソルを8 Hzと4 Hzで点滅させることで、カーソルの動きの情報量を減少させました。この際,動きの情報量減少により認知的手がかりの効果が変動するかを検証しました。 結果として、実験1の感覚運動手がかり(カーソルの動き)が十分に利用できる状況では、自他帰属において認知的手がかり(カーソルの形)の効果は認めませんでしたが(図3)、実験2の感覚運動手がかりの情報量が少ない状況では、認知的手がかりも自他帰属に利用されるようになりました(図4)。そして実験3の感覚運動手がかりがほとんど利用できない状況では,認知的手がかりの効果は認めませんでした(図5)。     図3:実験1における運動エラー   運動エラーについては、各条件とベースライン条件(視覚フィードバックなし)間の差分を算出しています。また,サイクル3で各条件の運動エラーの値がゼロになるようにロックしています。自己運動条件(青線)とフェイク運動条件(緑線)間の運動エラーにおける差は,参加者が後半にカーソルの動きに基づいて自他帰属を為したことを示します。●条件(実線)と※条件(点線)間の差は、参加者が後半にカーソルの形に基づいて自他帰属を為したことを示します。エラーバーは標準誤差を示します。   図4:実験2における運動エラー   実験2では、カーソルを8 Hzで点滅させることで、実験1に比べて自他帰属に利用できる感覚運動手がかりの情報量を減少させました。   図5:実験3における運動エラー   実験3では、カーソルを4 Hzで点滅させることで、実験2からさらに感覚運動手がかりの情報量を減少させました.   本研究の意義および今後の展開 本研究は、運動制御時の自他帰属が感覚運動手がかりを基になされており、その手がかりを利用できてかつ情報量が少ない状況では認知的手がかりで代償しうるという、健常者における運動制御時の自他帰属戦略を示唆しました。今後は、感覚運動手がかりの利用に問題をきたす可能性がある脳卒中後遺症を有する方々を対象に、その自他帰属戦略について健常者との相違を検証していく予定です。これらの検証による研究の発展は,脳卒中後遺症の病態と運動主体感の関係性を解明する一助となることが期待されます。   関連する先行研究 Asai T. Feedback control of one’s own action: Self-other sensory attribution in motor control. Conscious Cogn. 2015;38:118-129.   論文情報 Miyawaki Y, Morioka S. Confusion within feedback control between cognitive and sensorimotor agency cues in self-other attribution. Atten Percept Psychophys. 2020   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 宮脇 裕(ミヤワキ ユウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: yu.miyawaki.reha1@gmail.com 

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