2021年の健康科学専攻(修士課程)の新着情報一覧
2021.08.06
東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#4~福本先生編
2020東京オリンピック・パラリンピックの理学療法サービス部門で「TOKYO2020MEDスタッフ」として奈良県から参加する4名はすべて本学理学療法学科の教員・卒業生・修了生で、選手村や競技場の救護室に配置されてアスリート支援を行っています。東京に出発する前に福本准教授に東京五輪への想いや意気込みを語っていただきました! 福本 貴彦先生 畿央大学理学療法学科/健康科学研究科 准教授 理学療法士(運動器専門理学療法士) オリンピック・パラリンピック:選手村総合診療所(伊豆分村、河口湖分村) ▼福本准教授(右から2番目) <福本准教授の社会活動> 奈良県理学療法士協会 スポーツメディカルサポート委員会 委員長 奈良県理学療法士協会 学校保健・特別支援担当委員会 委員長 奈良県教育委員会学校保健課題解決ワーキング会議構成員 講師 ー学校における運動器検診について実施要領などを選定 奈良県教育委員会運動部活動指導の工夫・改善支援事業 コンディショニング担当 ー依頼のあった学校の運動部でコンディショニング指導 ー自治体教育委員会からの依頼でスポーツテスト 斑鳩町教育委員会(中学生) 田原本町教育委員会(小学生・幼稚園児) 宇陀市教育委員会(幼稚園児) 三宅町教育委員会(幼稚園児) NPO奈良スポーツ育成選手を守る会 理事 ー奈良県下のスポーツ検診を実施 <メディカルサポート> 全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園大会) センバツ高等学校野球大会(春の甲子園大会) 奈良県高等学校野球連盟主催大会(春季・秋季近畿大会予選、夏大会予選) 奈良マラソン 鳥人間コンテスト(京都大学ShootingStars)パイロット指導 セレッソ大阪、ギラヴァンツ北九州、奈良クラブ、ポルベニル飛鳥、バンビシャス奈良などのサポートなど ▶(五輪前に)今思うことは? 本番を前にして、とにかく「感謝」の気持ちであふれています。 【感謝1】教育学部のムース先生へ 救命措置を含む応急処置、コンディショニング、テーピングなどの治療技術も多くの研修を受けてきましたが、やはり重要となるのは英会話でした。 組織委員会が準備してくれた英語教材を教育学部のムース先生に確認いただいたところ、ネイティブの表現と違うところを指摘していただきました。英語教材を作成したのが理学療法士なので、どうしても専門用語が入ってしまっているようです。私たちが臨床する際に、カルテ情報と患者様へ伝える言葉は変えて、患者様へはなるべく医学用語を使わず、伝わりやすいように話をするよう心がけています。これが英語となると大変です。 そこで、 〇組織委員会が用意してくれた教材 〇私どもが事前研修で得た情報をもとに作成した仮想台本(臨床編)(事務手続き編) トータルA4で20枚ほどの資料について、英訳→音声ファイル化をムース先生にしていただきました。 また、台本を元に実技を交えた英会話レッスンを90分×4コマ+α実施していただきました。 ムース先生にお力添えいただいたことを十分に発揮できるようしっかりと復習をして大会に臨んで行こうと思います。 感謝2:大学教職員の皆さんへ つい先日、人権教育のパンフレットを学生に配布するとともに、少しだけ学生に話をさせていただきました。コロナ差別に対し、法務省が動き始めるなど新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する誤解や偏見に基づく不当な差別が社会問題となっています。 TOKYO2020組織委員会もボランティア向けコピーで『東京をブルーに染めましょう!』というのがありました。スタッフユニフォームがブルーなので、家を出るときからユニフォームを来て会場入りしてください!と義務付けられていました。しかし、大会スタッフがユニフォームを着ていることであらぬ差別を受けているということが起こり、結局は会場まで私服で移動し、会場内でユニフォームに着替えることになりました。 このような状況のなか、大学内で多くの教職員の方から温かいお声掛けをいただきます。『頑張って』『大変だけど負けるな』『まず自分自身の体調に気を付けて』などなどなど…本当にありがとうございます。学内では誤解や偏見に基づく不当な差別はみじんも感じません。素晴らしい畿央スピリッツだと思います! ▼理学療法学科教員陣 【感謝3】勤務調整について 今大会は1年延期からの緊急事態宣言下での実施など、組織委員会もバタバタした中での準備でした。実際、私たちのシフト決定や入管証明の発行などは選手村開村後も行われているようです。そのような状況下で、学科長をはじめ学科内教職員、総務部の方など、シフト決定が遅れていることに関し、ご配慮いただいています。急に『来週から3週間東京に行ってきます!』なんて、普通に考えるとおかしいですよね…『いつから行くの?』『まだ組織委員会から確定シフト届いてないんです』という会話を多くの方としてきました。 現在はオリンピック期間のシフトは確定しました。パラリンピック期間はざっくり確定し、追加シフトの確定を待っている状況です。 (このブログを書いている)選手村開村から6日、開会式を4日後に控えた7月19日現在、まだシフト確定していないという状況であることをお認めいただき、温かく送り出していただける環境に感謝申し上げます! 東京での経験は、10月13日(水)に開催される理学療法特別講演会「2020東京五輪の活動報告」(在学生・卒業生対象)でお伝えします。 アスリート支援に興味がある畿央大学の皆さん、気軽にご参加ください! 【関連記事】 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#2~唄さん編 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#1~加納さん編 東京五輪に理学療法士として本学教員・卒業生4名が参加します。
2021.07.27
地域在住後期高齢者における新規要介護発生の地域内格差:4年間の前向きコホート研究 ~理学療法学科
要介護状態のリスクに1.7倍も地域内格差がある可能性 ~5000名を4年間追跡した調査結果から~ わが国において、健康日本21(第2次)では、健康寿命の延伸に加え、健康格差*の縮小も目標として掲げられています。健康寿命の延伸とは、つまり要介護状態にならないように予防することで、今までに要介護状態になるリスクに関連する要因についての研究は多く行われてきました。一方、健康格差について、都市部・農村部での比較や都道府県・市町村間での結果は示されてきましたが、格差の縮小のためにはそれぞれの市町村でより小地域での検討が必要であると考えられます。理学療法学科の松本大輔 准教授、高取克彦 教授は、要介護状態になるリスクが特に高い後期高齢者を対象に4年間の前向き調査を行い、新規要介護認定について小地域間(小学校区)で格差の存在を我が国で初めて明らかにし、IJERPH 誌(IF:3.39)に発表しました。 *健康格差:地域や社会経済状況の違いによる集団間の健康状態の差 研究概要 A市在住の後期高齢者約5000名を4年間追跡調査し、新規要介護認定に関連する要因について調査しました。 小地域間(小学校区)での4年間での新規要介護発生割合と、新規要介護認定に関連する要因について調整してもなお、小地域格差があるかを分析しました。 本研究のポイント 後期高齢者に対する大規模調査によって、関連要因を調整しても、新規要介護認定に地域内格差があること明らかになりました。 小学校区ごとの新規要介護発生割合は8.1-14.6%と約1.8倍の地域内格差が認められました(図1)。 関連する要因として年齢、性別、病気、フレイルを調整しても、特定の小学校区では要介護状態になるリスクが約1.7倍も高いことがわかりました。さらに、複数の種類の社会参加はリスクを約30%下げることも明らかになりました(図2)。 調査1年後以降から、地域AとKの間に新規要介護発生率の差が見られています。 本研究の意義および今後の展開 本研究は後期高齢者の新規要介護発生における地域内格差を示した大規模かつ前向きに調査した数少ない研究です。今回の結果から、より生活に密着した小地域の実態を把握・分析することで、介護予防の解決の糸口につながる可能性があると考えます。今後は、社会経済的要因や環境要因(Walkability:歩きやすさ)などの視点を加え、地域内格差の原因の解明に向けて研究を続けていきます。 謝辞 研究にご協力いただきました住民の皆様、市役所の方々に感謝申し上げます。 論文情報 D. Matsumoto, K. Takatori. Regional Differences Incidence Among Japanese Adults Aged 75 Years and Older: A 4-Year Prospective Cohort Study. Int. J. Environ. Res. Public Health 2021, 18(13), 6791; 問い合わせ先 畿央大学 理学療法学科 准教授 松本 大輔(マツモト ダイスケ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: d.matsumoto@kio.ac.jp
2021.07.27
東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#3~楠元さん編
2020東京オリンピック・パラリンピックの理学療法サービス部門で「TOKYO2020MEDスタッフ」として奈良県から参加する4名はすべて本学理学療法学科の教員・卒業生・修了生で、選手村や競技場の救護室に配置されてアスリート支援を行う予定です。そのうちの一人、楠元さんに東京五輪への想いや意気込みを語っていただきました! 楠元 史さん 理学療法学科2011年卒業/健康科学研究科修士課程2017年修了 理学療法士(運動器認定理学療法士) 社会福祉法人恩賜財団 済生会奈良病院 リハビリテーション部 NPO法人ポルベニルカシハラスポーツクラブ/ポルベニル飛鳥 ▶そもそもどうして理学療法士に? 理学療法士という職業と出会ったのは、高校2年生で部活(サッカー)をしていた時に大事な試合前に怪我をした時。そこでお世話になった病院に理学療法士がいたことがきっかけです。高校卒業時に実業団への道と理学療法士の道を迷いましたが、理学療法士をめざすことを決めました。高校は部活ばかりの生活でなかなか勉強をしてこなかった私ですが、運よく合格できたのが畿央大学です。 大学を卒業後はスポーツの患者さんも受け入れているような病院に入職しましたが、これまでずっと主には一般の患者さんを担当してきました。 現在は一般の病院とクラブチームのトレーナーを兼務しています(兼務に至る経緯はのちほど…)。 ▼高校時代の楠元さん ▶なぜ五輪に? 日本でオリンピックが開かれると決まってからも、正直、自分がその大会に参加することは想像していませんでした。入職してからずっと一般の患者さんしか担当しておらず、ましてやスポーツ現場の経験もなかったので。でも「いつかスポーツの現場で働いてみたい」という気持ちや、高校時代には夢は大きくオリンピックの舞台をめざしていたので、心のどこかで「オリンピックに関わってみたい」という思いはあったのだと思います。 そんな時に日本理学療法士協会から東京2020大会の理学療法士スタッフの募集案内が来ました。スポーツ現場の経験もほぼなく、スポーツについての資格も、研修会もあまり参加してこなかった私にとって、すごく難しいだろうなと思いました。諦めきれずにダメ元で書類だけでも…と送ってみたところ、書類選考を通過し面接も見事に通過して、オリンピック・パラリンピックに参加する権利を得ることができました。 ▼大学院健康科学研究科修士課程在籍時代の楠元さん(右から2番目)お世話になった森岡教授(中央)と ▶大会参加が決まってから まずはやはり英語の不安がのしかかってきました。英語の歌をダウンロードして聞いたり、英会話の本を買って口ずさんでみたり、単語の復習をしてみたりと、自分に出来ることから始めてみました。また、スポーツの最高峰の舞台に行くのに、スポーツの現場のことを知らなさすぎると思い、小学生の頃にお世話になっていたチームの代表に連絡し、クラブチームのチームトレーナーの勉強をさせてほしいと相談したところ、快諾していただき、スポーツ現場での活動を始めることとなりました。そのチームがポルベニル飛鳥という、現在、JFLをめざして関西リーグを戦っているチームです。 はじめはトレーナーの見学といったところから始めるはずだったのですが、運悪くと言いますか、運よくと言いますか、先に所属していたトレーナーが辞めることになり、急遽すべてのトレーナー業務を私がすることに!現在の一般病院の勤務とトレーナーを兼務する形に至りました。 ▼ポルベニルでのサポート風景 ▶大会では何を? 主にはパラリンピック期間、河口湖の選手村(分村)のクリニックで、アスリートのケアやコンディショニングの対応をする予定となっています。数日だけ東京の選手村(本村)でも活動する予定となっています。 ▶本番に向けて 戦っている舞台の大きさやレベルは違えど、アスリートに接するようになり、勝負の一瞬、それが1秒でも1分でも90分でも、その一瞬のために多くの時間を使い、努力を積み重ねなければその舞台には立てないことを、身を持って学ばせてもらっている毎日です。アスリートだけでなく、2013年にこのTOKYO大会が決まってから調整に調整を重ねてきたにも関わらず、だれもが予想しなかったこの感染症が流行ってしまった中でも、大会を開催できるように調整していただいている大会の組織委員会のスタッフ、他のボランティアスタッフ、アスリートを支える家族やチームスタッフなど、それぞれの方々の想いが詰まった大会に参加できることを光栄に思い、私も最高のパフォーマンスを発揮できるように最後まで良い準備をしていきたいと思います。 また、大会参加にあたり快く送り出してくださった職場やクラブチーム、派遣を後押ししていただいた奈良県理学療法士協会、普段のクラブチームの測定などからお世話になっている畿央大学の福本先生や英語の教材を提供していただきましたムース先生、このような記事をとりまとめていただいている広報センター職員の皆さんなど、私の周りの支えて下さっているすべての方に感謝を申し上げます。 この感謝と理学療法士である誇りをもって、最高の舞台を楽しんできたいと思います! ▼奈良マラソンでのサポートの様子(左:福本准教授) 【関連記事】 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#2~唄さん編 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#1~加納さん編 東京五輪に理学療法士として本学教員・卒業生4名が参加します。
2021.07.21
東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#2~唄さん編
2020東京オリンピック・パラリンピックの理学療法サービス部門で「TOKYO2020MEDスタッフ」として奈良県から参加する4名はすべて本学理学療法学科の教員・卒業生・修了生で、選手村や競技場の救護室に配置されてアスリート支援を行う予定です。そのうちの一人、唄さんに東京五輪への想いや意気込みを語っていただきました! 唄大輔さん 理学療法学科2008年卒業/健康科学研究科2015年修了 理学療法士(運動器専門理学療法士) 社会医療法人平成記念会 平成記念病院 リハビリテーション課 主任 畿央大学大学院健康科学研究科 客員研究員 オリンピック・パラリンピック:選手村総合診療所(東京:晴海) パラリンピック:選手村総合診療所(静岡:河口湖) ▶なぜ東京五輪に? 理学療法士として自分の人生のレガシーのため! ▶準備してきたこと まず英語力の向上です。理学療法士協会が主催の研修会でも英語研修はありましたが、その復習はもちろん、中学、高校での単語帳や教科書を用いて勉強していました。さらにリスニングをきたえるためにYoutubeのスポーツ理学療法に関する動画を何度も繰り返し視聴しました。 ▶東京五輪では具体的に何を? 東京の選手村(本村)のポリクリニックにてケアが必要なアスリートの治療を実施予定です。もちろん、英語で(笑) ▼畿桜会(同窓会)会長として卒業式に出席した唄さん ▼同窓会役員会での一枚(2020年2月撮影) ▶意気込みや目標は? オリンピック・パラリンピックというアスリートにとっての人生をかけた大舞台に、メディカル部門として関われることは人生で何度もあることではないと思います。今までの臨床経験を活かして適切な理学療法サービスができるか正直不安ですが、精一杯楽しんできたいと思います。失敗を恐れず、トップレベルのアスリートとしっかり「会話」をしてきます! ▶伝えたいことは? アスリートはもちろん、組織委員会をはじめとしたすべてのスタッフは、この東京2020大会に向けて人生をかけるほど大変な準備をしてきました。私たちも簡単にメディカルスタッフになったわけではありません。書類審査や英語面接などのテストも受けました。私たちのようなメディアで公表されない、東京2020大会に関わるすべての人の思いも知ってほしいし、伝えていきたいと考えています。 最後になりましたが、東京2020大会で活動するにあたって、多くの方に感謝を申し上げます。まずは、約1か月の休みをいただくにも関わらず、快く送り出してくれる職場に感謝申し上げます。また、奈良県理学療法士協会においては奈良県の代表と認めてくださり感謝申し上げます。そして、畿央大学の福本先生は学生時代からはもちろんですが、今大会にあたっても多大なるご配慮をいただき感謝申し上げます。畿央大学のムース先生もお忙しい中、お休みのところ、我々の英語力向上のためにご指導いただき、感謝申し上げます。そしてそして、自分の家族にも感謝しています。自分だけではなく、家族や周りの皆様の支えがあって参加、活動できることを再認識し、最後まで精一杯がんばってきます! 【関連記事】 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#3~楠元さん編 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#1~加納さん編 東京五輪に理学療法士として本学教員・卒業生4名が参加します。
2021.07.20
すくみ足があるパーキンソン病患者における歩行中の前方不安定性~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
歩行時に足が地面にくっついたようになって前に進めなくなる症状を「すくみ足」といいます。すくみ足があるパーキンソン病患者は前方に転倒しやすいことが知られていますが、歩行中に前方へ不安定となっているかについては客観的に明らかにされていませんでした。畿央大学大学院修士課程の浦上英之氏と岡田洋平准教授らは、三次元動作解析装置を用いて、すくみ足があるパーキンソン病患者は、すくみ足がないパーキンソン病患者よりも歩行中に前方へ不安定となっていることし、また、その前方不安定性はすくみ足に関連する歩幅の低下や歩行リズムの上昇と関連することを実験的検証により初めて明らかにしました。この研究成果は、Neuroscience Research誌(Forward gait instability in patients with Parkinson's disease with freezing of gait)に掲載されています。 研究概要 パーキンソン病患者の歩行中の前方不安定性は、すくみ足によるものと、前屈姿勢によるものの2つの表現型があるとされてきました。すくみ足は、パーキンソン病患者でみられる特徴的な歩行障害であり、すくみ足が出現する直前には歩幅の低下や歩行率の上昇がみられることが知られています。近年、すくみ足があるパーキンソン病患者は前方への転倒頻度が高いことが報告されていましたが、歩行中の前方不安定性については、客観的な検証が行われていませんでした。 歩行中の前方不安定性の客観的指標には、踵接地時における身体質量中心(COM)と支持基底面(BOS)までの距離(COM-BOS距離)や、Margin of Stability(MOS)が用いられています。COM-BOS距離は前方へ転倒するリスクの程度を示し、MOSはCOMの位置と速度の両方を考慮した動的安定性を示します。 畿央大学大学院修士課程の浦上英之氏と岡田洋平准教授らは、すくみ足があるパーキンソン病患者11名、すくみ足がないパーキンソン病患者9名および高齢者13名を対象に三次元動作解析装置を用いて歩行解析を行い、前方不安定性について検討しました。その結果、①すくみ足があるパーキンソン病患者は、すくみ足がないパーキンソン病患者と比較して、歩行中に前方へ平衡を失うリスクが高く、動的に不安定となっていることと、②その前方不安定性はすくみ足に関連する歩行指標(歩幅減少と歩行率上昇)と関連することが示されました。 本研究のポイント ■ すくみ足があるパーキンソン病患者の歩行時の前方不安定性について三次元動作解析装置を用いてを客観的に検証した。 ■ すくみ足があるパーキンソン病患者はすくみ足がないパーキンソン病患者と比較して、歩行時に前方に平衡を失うリスクが高く、前方への動的不安定性が高いことが明らかになった。 ■ すくみ足があるパーキンソン病患者の歩行中の前方不安定性は、歩幅の低下や歩行リズムの上昇と関連があることが明らかにされた。 研究内容 本研究では、すくみ足があるパーキンソン病患者11名、すくみ足がないパーキンソン病患者9名および高齢者13名を対象に三次元動作解析を用いて歩行解析を行い、前方不安定性について検証しました。対象者は、40点の赤外線反射マーカーを貼付した状態で、快適歩行速度で5mの歩行路を歩行し、赤外線カメラにて取得したマーカーの三次元座標情報から時空間歩行指標(歩幅、歩行率)と運動学的指標(体幹前傾角度、後続肢の股関節伸展角度)、さらに前方不安定性指標(COM-BOS距離、MOS)を算出しました(図1)。 図1:歩行の前方不安定性指標 右踵接地時におけるCOM-BOS距離、MOSの算出方法を示す。いずれの指標も、低値であれば前方へ不安定であると解釈される。 その結果、すくみ足があるパーキンソン病患者のCOM-BOS距離は低い値を示しました。また、疾患重症度を調整した群間比較において、すくみ足があるパーキンソン病患者はすくみ足がないパーキンソン病患者よりもMOSが低い値を示しました(図2)。 図2:歩行の前方不安定性指標の群間比較 (*p<0.05) PD+FOG:すくみ足があるパーキンソン病患者群、PD-FOG:すくみ足がないパーキンソン病患者群、Control:健常高齢者 *有意な群間差あり(ANOVA, p<0.05) †有意な群間差あり(ANCOVA 疾患重症度で調整, p<0.05) また、すくみ足があるパーキンソン病患者群において、COM-BOS距離は歩幅と正の相関を示し、MOSは歩行率と負の相関を示しました(図3)。 図3:各群における歩行中の前方不安定性指標とすくみ足関連指標の散布図 ●すくみ足のあるパーキンソン病患者 〇すくみ足のないパーキンソン病患者 △健常高齢者 この結果は、すくみ足があるパーキンソン病患者において、歩幅の減少はCOM-BOS距離の減少と関連し、前方への転倒リスクが高まること、また歩行率の上昇は、MOSの減少と関連し、動的安定性が低下することを示しています。これは、すくみ足のあるパーキンソン病患者における歩行時の前方不安定性があること、すくみ足に関連する歩幅の低下や歩行率の上昇は前方不安定性と関連することを実験的検証により初めて示したことになります。これらの結果から、すくみ足と関連する歩幅の減少や歩行率の上昇を、投薬治療やリハビリテーションにより改善することが、すくみ足があるパーキンソン病患者の歩行中の前方不安定性の軽減につながることが期待されます。 本研究の臨床的意義および今後の展開 パーキンソン病患者の歩行中の前方不安定性は、すくみ足によるものと、前屈姿勢によるものの2つの表現型があるとされてきましたが、本研究では、すくみ足があるパーキンソン病患者の前方不安定性を実験的検証により初めて明らかにしました。今後は、もう1つの表現型である前屈姿勢のあるパーキンソン病患者の前方不安定性について検証する予定です。 論文情報 Hideyuki Urakami, Yasutaka Nikaido, Kenji Kuroda, Hiroshi Ohno, Ryuichi Saura, Yohei Okada Forward gait instability in patients with Parkinson’s disease with freezing of gait. Neuroscience Research, 2021 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 岡田洋平(オカダヨウヘイ) E-mail: y.okada@kio.ac.jp Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
2021.07.20
東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#1~加納さん編
2020東京オリンピック・パラリンピックの理学療法サービス部門で「TOKYO2020MEDスタッフ」として奈良県から参加する4名はすべて本学理学療法学科の教員・卒業生・修了生で、選手村や競技場の救護室に配置されてアスリート支援を行う予定です。そのうちの一人、加納さんに東京五輪への想いや意気込みを語っていただきました! 加納希和子さん 理学療法学科2012年卒業/大学院健康科学研究科2019年修了 理学療法士(スポーツ認定理学療法士、中級障がい者スポーツ指導員) 医療法人 勝井整形外科 畿央大学大学院健康科学研究科 客員研究員 ▶なぜ東京五輪に? 2013年に東京五輪の招致が決まった瞬間(有名な「TOKYO」のカードが掲げられたシーン)、「世界最大のスポーツの祭典であるオリンピック・パラリンピックで理学療法士として貢献したい!」と決意しました。そして畿央大学大学院の恩師である福本先生にできることがないか相談したところから、私の東京五輪への道がはじまりました。 ▶決心してから まもなく、奈良県理学療法士協会から東京五輪に派遣されるスタッフ募集の連絡がありました。最低条件である臨床経験5年以上はクリアしているものの、留学経験もなく英語を喋ることができなかった私は、すぐに英会話学校に通うことに。選考には日本語と英語の面接が課せられたのですが、早くから準備を進めてきたことが選考通過につながったと考えています。 また整形外科で理学療法士として勤務しながら卒業した高校バスケ部のメディカルサポートに入ったり、福本先生と一緒に高校野球や奈良マラソンのサポートをするなどスポーツリハにできるだけ関わってきました。 ▶東京五輪では具体的に何を? 私が配属になったのは「パラサイクリング」の競技会場です。選手村と違って競技会場は急性期(まさにケガや事故が起こった時)の対応が求められ、時には理学療法士として持つ知識・スキル以上のことが求められます。自転車競技での転倒事故は、後続や周囲の選手を巻き込む大きな事故が発展してしまう可能性もあり、一瞬も気を抜くことができません。万一の事故にもしっかり対応できるように準備をしていきたいと思います! ▼TOKYO2020MEDスタッフの公式ユニフォーム全身フル装備した1枚 ▶本番に向けて コロナ禍に突入して対面形式での研修がオンラインになったり、その研修も延期になったり、東京五輪自体も延期になったり…とスケジュール調整も大変でしたが、開会式直前にしてようやく東京五輪に行けると実感がわいてきたところです。 英語については教育学部のムース先生に無理をお願いしていろいろと教えてもらったり、福本先生にもわからないことを指導していただいたり…と学部をこえた畿央大学のサポートに感謝しています。奈良県から参加する4名の派遣先はバラバラですが、何かあれば相談できる仲間がいることも心強く感じています。 もともと中高とバスケットボール部でマネージャーをしていたことがきっかけで理学療法士に興味を持った私にとって、トップアスリートのサポートができることは原点回帰であり、一つの集大成かもしれません。ドキドキワクワクしながら、理学療法士として貢献したいと思います! ▼恩師の福本先生とともに 【関連リンク】 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#2~唄さん編 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#3~楠元さん編 東京五輪に理学療法士として本学教員・卒業生4名が参加します。
2021.07.20
東京五輪に理学療法士として本学教員・卒業生4名が参加します。
「TOKYO2020MEDスタッフ」として東京五輪へ! 2020東京オリンピック・パラリンピックの理学療法サービス部門で「TOKYO2020MEDスタッフ」として奈良県から参加する4名はすべて本学理学療法学科の教員・卒業生・修了生で、選手村や競技場の救護室に配置されてアスリート支援を行う予定です。各国のオリンピアンがベストパフォーマンスを発揮できるよう、チームKIOで頑張っていただきたいと思います! 【左から】唄大輔さん、楠元史さん、加納希和子さん、福本貴彦准教授 オリンピック・パラリンピックを目前に控えた今の率直な気持ちを寄稿していただきました。 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#1~加納さん編 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#2~唄さん編 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#3~楠元さん編 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#4~福本先生編 参加後のレポートはこちらから。 福本先生による東京五輪参加レポート 番外編 畿央生が見た東京五輪#1~安浦さん編 プロフィール 福本 貴彦 准教授 畿央大学理学療法学科/健康科学研究科 准教授 理学療法士(運動器専門理学療法士) ■東京2020大会 活動内容 オリンピック・パラリンピック:選手村総合診療所(伊豆分村、河口湖分村) ■社会活動 奈良県理学療法士協会 スポーツメディカルサポート委員会 委員長 奈良県理学療法士協会 学校保健・特別支援担当委員会 委員長 奈良県教育委員会学校保健課題解決ワーキング会議構成員 講師 ・学校における運動器検診について実施要領などを選定 奈良県教育委員会運動部活動指導の工夫・改善支援事業 コンディショニング担当 ・依頼のあった学校の運動部でコンディショニング指導 ・自治体教育委員会からの依頼でスポーツテスト 斑鳩町教育委員会(中学生) 田原本町教育委員会(小学生・幼稚園児) 宇陀市教育委員会(幼稚園児) 三宅町教育委員会(幼稚園児) NPO奈良スポーツ育成選手を守る会 理事 ・奈良県下のスポーツ検診を実施 ■メディカルサポート 全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園大会) センバツ高等学校野球大会(春の甲子園大会) 奈良県高等学校野球連盟主催大会(春季・秋季近畿大会予選、夏大会予選) 奈良マラソン 鳥人間コンテスト(京都大学ShootingStars)パイロット指導 セレッソ大阪、ギラヴァンツ北九州、奈良クラブ、ポルベニル飛鳥、バンビシャス奈良などのサポート 唄 大輔さん 理学療法学科2008年卒業/健康科学研究科2015年修了 理学療法士(運動器専門理学療法士) 社会医療法人 平成記念会 平成記念病院 リハビリテーション課 主任 畿央大学大学院 健康科学研究科 客員研究員 ■東京2020大会 活動内容 オリンピック・パラリンピック:選手村総合診療所(東京:晴海) パラリンピック:選手村総合診療所(静岡:河口湖) 楠元 史さん 理学療法学科2011年卒業/健康科学研究科修士課程2017年修了 理学療法士(運動器認定理学療法士)社会福祉法人 恩賜財団 済生会奈良病院 リハビリテーション部NPO法人ポルベニルカシハラスポーツクラブ/ポルベニル飛鳥 ■東京2020大会 活動内容 パラリンピック:選手村総合診療所(東京:晴海本村)パラリンピック:選手村総合診療所(静岡:河口湖分村) ■メディカルサポートポルベニル飛鳥チームトレーナー奈良マラソン 加納 希和子さん 理学療法学科2012年卒業/健康科学研究科修士課程2019年修了 理学療法士(スポーツ認定理学療法士、中級障がい者スポーツ指導員) 医療法人 勝井整形外科 畿央大学大学院 健康科学研究科 客員研究員 ■東京2020大会 活動内容 オリンピック・パラリンピック:自転車競技(トラック、ロード)の競技会場@静岡:伊豆ベロドローム、富士スピードウェイ 在学生・卒業生の皆さんにお知らせ 在学生・卒業生限定で福本先生をはじめとするTOKYO2020MEDスタッフによるオンラインセミナーを開催します。 10/13(水)第14回理学療法特別講演会「2020東京五輪の活動報告」 学科は不問ですので、アスリート支援に興味がある方は気軽にご参加ください。
2021.07.09
トルコからの留学生Burcu Dilekさんの研究成果が国際雑誌「Clinical EEG and Neuroscience」に掲載!~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
2019年5月~8月に畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター(以下、ニューロリハ研究センター)へ短期留学していたBurcu Dilekさんとの共同研究が国際雑誌Clinical EEG and Neuroscienceに掲載されました。 この研究は、ヒトが痛みを怖がっている時の脳波活動を記録・解析したもので、痛みを怖がると運動プログラムが破綻することが明らかになりました。この研究は、留学中に計画・実施したものであり、その成果がこのように公表されることを嬉しく思います。 ちなみにBurcu Dilekさんは畿央大学へ留学する前にトルコで「運動をイメージするリハビリテーション」の研究をしており、痛みを有する患者さんに運動をイメージさせると痛みが低減することを明らかにしていました。 【参考】Dilek B, Ayhan C, Yagci G, Yakut Y. Effectiveness of the graded motor imagery to improve hand function in patients with distal radius fracture: A randomized controlled trial. J Hand Ther. 2018 Jan-Mar;31(1):2-9.e1.) 2019年の留学では、そんな彼女自身の研究経緯と、畿央大学のアイディア・研究設備が見事に相互作用して、良い研究成果が生まれたのだと思います。とはいえ、Burcu Dilekさん自身は脳活動の計測は初めてのことだったようで、非常に苦労しました。実際には、畿央大学で計測したデータをトルコで解析して、解析して、そして解析して....の繰り返しでしたが、持ち前の好奇心、行動力でそれらを乗り越えてくれました。留学から2年間が経ちますが、ここまで継続した努力に敬意を表したいです。彼女の今後の活躍を楽しみにしています。 【留学時の様子】 畿央大学に短期留学中のトルコ人研究者にインタビュー!後編~ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学に短期留学中のトルコ人研究者にインタビュー!~ニューロリハビリテーション研究センター トルコ人研究者に日本や理学療法のあれこれを聞いてみた!~Burcu Dilekさんロングインタビュー ちなみに、現在は、トルコのトラキア大学(Trakya University)のHealth Science Faculty Occupational Therapy Departmentに助教として勤務しているようです。そんな彼女のコメントと現在の写真が届いていますので、紹介させていただきます。 【Burcu Dilekさん コメント】 When I first visited the laboratory, which was established under Prof. Morioka's leadership, I was very excited and also motivated that I should work with the team. His team's research areas were very unique to me. All of them were talented and well-equipped scientists in their fields. Dr. Osumi helped to design the study in line with his experiences. Dr. Nobusako supported me in other technical and hardware aspects. Other employees of Kio University always had a smiling face and always found a solution when I had any problems. I quite adopted the study subject proposed to me and in the following periods, I want to continue working in this research area with Prof. Morioka's team. I am very happy that all our efforts have paid off. I want to thank all the staff of Kio University, especially Prof Morioka, Dr. Osumi and Dr. Nobusako. 森岡教授のリーダーシップのもと設立されたニューロリハ研究センターを初めて訪問した時、とても興奮して「このチームと一緒に働くべきだ」と意欲を掻き立てられました。研究分野は私にとって非常にユニークで、全員が各分野で才能にあふれ、かつ専門的な知識をそなえた研究者した。大住准教授はご自身の経験に沿って研究のデザインを手伝ってくださいました。信迫准教授はその他の技術的・ハード的な面で私をサポートしてくださいました。畿央大学の他の教職員もいつも笑顔で、問題に直面した時には必ず解決策を見つけてくれました。提案された研究テーマをかなり採用しましたし、今後も森岡教授のチームと研究を続けていきたいと思っています。私たちの努力が報われてとても嬉しく思っています。畿央大学のすべてのスタッフ、特に森岡教授、大住准教授、信迫准教授に感謝いたします。 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 健康科学研究科 准教授 大住 倫弘 【論文情報】 Dilek B, Osumi M, Nobusako S, Erdoğan SB, Morioka S. Effect of Painful Electrical Stimuli on Readiness Potential in the Human Brain. Clin EEG Neurosci. 2021 Jul 2:15500594211030137.
2021.07.09
慢性疼痛患者における疼痛律動性のタイプ分類~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
近年、日内で疼痛強度が変動する「疼痛律動性」の存在が注目されています。こうした疼痛律動性を把握することは慢性疼痛への治療戦略を考えるうえで有用であり、様々な疾患で律動性の調査が行われています。しかし、これまでの研究では疾患横断的に調査されたものはなく、律動性が疾患由来で生じるのか?神経障害性や心理状態といった個人の要因で生じるのか?といった点が明らかになっていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程 田中 陽一 氏と森岡 周 教授 らは、慢性疼痛患者56名を対象にクラスター分析を用い、疼痛律動性の類似性から群分けを行い、リズムタイプの異なる3タイプの存在を明らかにしました。また、神経障害性疼痛の重症度がこれらの群間で異なっていることを報告しました。 この研究成果は、Medicine誌 (Classification of circadian pain rhythms and pain characteristics in chronic pain patients:An observational study)に掲載されています。 研究概要 これまで疾患別に疼痛律動性の存在が多数報告されてきました。しかし、疼痛律動性が生じる原因について論じられたものはなく、律動性が疾患由来で生じているのか、個人因子の影響が強いのかといった点が明らかになっておりませんでした。そこで、畿央大学大学院博士後期課程 田中 陽一 氏 と 森岡 周 教授 らは、慢性疼痛患者56名の疼痛律動性を疾患横断的に調査しました。 その結果、リズムタイプの異なる3タイプの律動性の存在を明らかにし、更に神経障害性疼痛の重症度に群間差があることがわかりました。こうした疼痛律動性の把握は、時間帯を考慮した生活活動の導入や身体活動の管理などの介入に有用であると考えられます。また、3群間で疾患に有意差を認めなかったことから、疾患では疼痛律動性を把握することは困難であり、本研究で群間差が見られた神経障害性の要素などの個別的な評価が必要であることが示唆されました。 本研究のポイント ■ 慢性疼痛患者を対象に疼痛律動性を調査した。 ■ 律動性の異なる3タイプの存在が明らかになった。 ■ 群間で神経障害性疼痛の重症度に有意差があったことから、こうした疼痛のリズムには疼痛の性質が影響していることが示唆された。 研究内容 慢性疼痛患者56名を対象に、疼痛律動性は1日6時点(起床時・9時・12時・15時・18時・21時)を7日間評価しました。6時点の7日間平均に標準化処理(Zスコア)を行った6変数でクラスター分析を行い、律動性の類似性から分類を行いました。 クラスター分析の結果、起床時に最も疼痛強度が高く、時間経過とともに疼痛が減少していくタイプ、起床時に疼痛強度が高いが日中に低下し、夕方から夜間にかけて疼痛が再度増悪していくタイプ、これらのタイプとは逆に起床時に最も疼痛強度が低く、時間経過とともに疼痛が増強していくタイプの3タイプの律動性を明らかにしました(図1)。 図1.疼痛律動性のリズム分類 クラスター分析により、異なる特徴を持つ3つのクラスターが抽出された。CL1では、起床時の痛みスコアが最も高かったが、時間の経過とともに痛みスコアは低下する傾向にあった。CL2では、起床時に痛みスコアが高く、日中は減少したが、15時以降は徐々に増加した。CL3では、時間の経過とともに痛みスコアが徐々に上昇する傾向が見られた。 また、3群間の比較において疾患や疼痛罹患期間、服薬の有無には有意差は見られませんでしたが、神経障害性疼痛の重症度に群間差を認めました(図2)。CL1・2とCL3の間で有意差が見られたことから神経障害疼痛の重症度が起床時の高い疼痛強度に関与していることが考えられます。本研究の結果から、疼痛律動性は疾患由来ではなく、神経障害性などの疼痛性質に強く影響を受けていることが示唆されました。 図2.3群間の比較 CL1とCL2は、CL3よりも神経障害性の重症度の総得点が高かった。また、誘発痛については、CL1がCL3よりも高いスコアを示した。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、疼痛律動性が疾患由来ではなく疼痛性質によって生じていることを示唆し、個別的な評価によって律動性を評価する必要性が示されました。今後は、疼痛律動性を踏まえた、治療介入の効果と限界について研究される予定です。 論文情報 Yoichi Tanaka, Hayato Shigetoh, Gosuke Sato, Ren Fujii, Ryota Imai, Michihiro Osumi, Shu Morioka Classification of circadian pain rhythms and pain characteristics in chronic pain patients: An observational study. Medicine, 2021 関連する論文 ■ Tanaka Y, Sato G, Imai R, Osumi M, Shigetoh H, Fujii R, Morioka S. Effectiveness of patient education focusing on circadian pain rhythms: A case report and review of literature. World J Clin Cases 2021; 9(17): 4441-4452 ■ 田中 陽一, 大住 倫弘, 佐藤 剛介, 森岡 周. 日中の活動が慢性疼痛の日内変動に及ぼす影響─右腕神経叢損傷後疼痛を有する1症例での検討─. 作業療法 2019; 38: 117-122, 2019 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 田中 陽一(タナカ ヨウイチ) 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 森岡 周(モリオカ シュウ) E-mail: s.morioka@kio.ac.jp Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
2021.07.05
パーキンソン病患者、高齢者の方向転換時の移動軌跡、足接地位置の特性~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
方向転換を円滑に行うには、移動軌跡や足の接地位置を適切に制御することが重要であると考えられます。畿央大学の岡田洋平 准教授、福本貴彦 准教授、慶應義塾大学の高橋正樹 教授、同大学院 萬礼応(現筑波大学 助教)、京都大学の青山朋樹 教授らの研究グループは、レーザーレンジセンサー(慶応義塾大学 高橋正樹 教授、萬礼応ら 開発)を用いた高精度歩行計測システムにより、パーキンソン病患者と高齢者がTimed up and go test(TUG)で方向転換を行う際の移動軌跡と足接地位置の特性について調査しました。その結果、パーキンソン病患者は、TUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し、その傾向が強い人ほど方向転換時の歩幅が低下することを明らかにしました。一方、高齢者はTUGにおいて歩隔(足の横幅)を広くして、マーカーのより奥の空間に足を接地して方向転換することが示されました。 この研究結果はGait & Posture誌(Footsteps and walking trajectories during the Timed Up and Go test in young, older, and Parkinson’s disease subjects)に掲載されています。 研究概要 方向転換は、加齢やパーキンソン病により障害されます。高齢者は方向転換時の歩数が増加し、速度が低下し、転倒リスクの増加につながります。パーキンソン病患者は、方向転換の速度がより低下し、歩幅も低下することなどが示されています。円滑な方向転換には、移動軌跡や足の接地位置を適切に制御することが重要であると考えられますが、これまで高齢者やパーキンソン病患者が、方向転換時にどのように移動軌跡や足接地位置をとる傾向にあるのか、またその傾向は方向転換時の歩幅などにどのように関連するかについては明らかにされていませんでした。畿央大学の岡田洋平准教授、福本貴彦准教授、慶應義塾大学の高橋正樹教授、同大学院 萬礼応(現筑波大学助教)、京都大学の青山朋樹教授らの研究グループは、レーザーレンジセンサー(慶応義塾大学 高橋正樹 教授、萬礼応ら 開発)を用いた高精度歩行計測システムにより、高齢者やパーキンソン病患者がTimed up and go test(TUG)で方向転換を行う際の移動軌跡と足接地位置の特性について検討しました。 その結果、パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し、その傾向が強い人ほど方向転換時の歩幅が低下することを明らかにしました。また、高齢者はTUGにおいて歩隔(足の横幅)を広くして、マーカーのより奥の空間に足を接地して方向転換することが示されました。 本研究のポイント ■ パーキンソン病患者と高齢者の方向転換時の移動軌跡と足接地位置を、レーザーレンジセンサーを用いた高精度歩行計測システムにより評価した。 ■ パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し、その傾向が強いほど方向転換時の歩幅が低下することが明らかになった。 ■ 高齢者は、方向転換において歩隔(足の横幅)を広くして、マーカーのより奥の空間に足を接地して方向転換することが示された。 研究内容 パーキンソン病患者、健常高齢者、健常若年者を対象に、レーザーレンジセンサー(LRS)を用いた高精度歩行計測システム(図1)により、TUGを行う際の脚移動軌跡と足接地位置について比較検証しました。従来のTUGは、椅子から立ち上がり、3m歩いて、180度方向転換し、戻ってきて、椅子に座るまでの所要時間を計測するのみでした。しかし、今回我々はLRSを用いた計測システムを利用することにより、肢移動軌跡や足接地位置に関する指標(マーカーと足接地位置の最短距離、スタート地点と足接地位置の最大前方距離、足接地位置の最大横幅など)や歩行の時空間指標(歩幅、歩隔、歩行率)もマーカーレスで計測可能でした。 図1 レーザーレンジセンサー(LRS)を用いた計測システム その結果、パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し、その傾向が強いほど、方向転換時の歩幅が低下することが明らかになりました。この結果は、パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地してより鋭い角度で方向転換しようとすることにより、方向転換時の歩幅の低下の程度が大きくなる可能性を示唆しています。一方、高齢者はTUGにおいて歩隔が広く、方向転換時のスタート地点と足接地位置の最大前方距離が大きいことが示されました。この結果は、高齢者が方向転換時に歩隔を広くして、側方への動的不安定性を減少させるための代償戦略をとっていることを表している可能性があります。 図2 結果 a. 3群のTUGにおける移動軌跡および足接地位置の代表例 b. マーカーと足接地位置の最短距離の群間比較 *<0.05 c. マーカーと足接地位置の最短距離と方向転換時の歩幅の関連(パーキンソン病患者) 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究の結果、パーキンソン病患者と高齢者の方向転換時の足接地位置や移動軌跡の特性が初めて示されました。今回得られた知見は、パーキンソン病患者の方向転換時の歩幅の低下の助長を防ぐため、あるいは高齢者の動的不安定性を軽減するための運動療法や動作指導を行う上で有用であると考えられます。今後は、パーキンソン病患者や高齢者の方向転換時の足接地位置や移動軌跡に関連する要因や他疾患における傾向についても検証していきたいと考えています。 論文情報 Okada Y, Yorozu A, Fukumoto T, Morioka S, Shomoto K, Aoyama T, Takahashi M. Footsteps and walking trajectories during the Timed Up and Go test in young, older, and Parkinson’s disease subjects. Gait & Posture, 2021. 問い合わせ先 畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター 岡田 洋平(オカダ ヨウヘイ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp