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健康科学専攻(修士課程)の新着情報一覧

2025年の健康科学専攻(修士課程)の新着情報一覧

2025.05.28

第65回日本呼吸器学会学術講演会で『トラベルアワード』を受賞 ~ 健康科学研究科

畿央大学大学院 健康科学研究科 博士後期課程3年の守川恵助です。2025年4月11日から13日にかけて東京国際フォーラムで開催された「第65回 日本呼吸器学会学術講演会(JRS2025)」において、「慢性閉塞性肺疾患患者の体重あたりの安静時エネルギー消費量の関連因子とその特徴」というテーマで発表を行い、『トラベルアワード』を受賞しました。この賞は、コメディカル分野における優れた演題発表に対して授与されるものです。 発表の概要 慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者は低栄養のリスクが高く、正確な安静時エネルギー消費量(REE)の算出を含む栄養評価が重要となります。REEは間接熱量測定によって正確に算出されますが、高価な機器が必要であり、実際に測定できる施設は限られています。そのため、臨床現場では簡易式(体重あたりの必要エネルギー量)が用いられることが多いのが現状です。本研究では、COPD患者の体重あたりの安静時エネルギー消費量に関連する因子を検討し、BMI値によって体重あたりのREEが異なることを示唆する結果を得ました。この成果は、COPD患者のエネルギー代謝の理解を深め、今後の栄養療法の指針となることが期待されます。     今後は、本研究の成果を論文化し、より多くの専門家に情報を発信できるよう努めてまいります。また、臨床現場での栄養管理の質向上に貢献できるよう、さらなる研究を進めていく所存です。   本研究は、健康科学研究科の田平一行教授のご指導のもとで進められました。この場を借りて、深く感謝申し上げます。     畿央大学大学院 健康科学研究科 博士後期課程3年 守川 恵助 関連記事 第40回日本栄養治療学会学術集会でYoung Investigator Award 2025を受賞 ~ 健康科学研究科|KIO Smile Blog 変形性関節症に関する世界最大級の国際会議「OARSI 2025」参加レポート!~健康科学研究科瓜谷研究室 第11回日本地域理学療法学会学術集会で大学院生と修了生(客員研究員)が発表~健康科学研究科 日本小児理学療法学会学術大会で大会長賞を受賞!~健康科学研究科 第22回日本神経理学療法学会学術大会へ参加しました!

2025.05.27

精神科看護師の心理傾向と共感力の関係を解明 ― 自己批判・反芻・省察・自己への思いやりに着目したクラスター分析

精神科看護においては、患者の苦痛や混乱に寄り添い、関係性を築くための「対人援助能力」が重要視されています。その中でも、他者の感情を自らのことのように感じ取り理解する「情動的共感」は、精神科看護実践に不可欠な能力です。 本学 健康科学部 看護医療学科(大学院健康科学研究科)の紅林佑介准教授は、精神科看護師の内面的傾向が情動的共感にどのように関連するかを明らかにするため、大規模な調査研究を行いました。その結果、自己への態度や思考様式に基づく群分けと、それに伴う情動的共感の違いがあったことが、国際誌である「perspectives in psychiatric care」誌に掲載されました。 研究背景と目的 これまで、自己批判や反芻といった自己に向けた否定的思考は、看護師自身のストレスや抑うつと関連するネガティブな要素とされてきました。しかし一方で、こうした自己への態度が、自己理解や他者理解にどう影響するかについては十分に検討されていませんでした。 本研究では、精神科看護師が持つ「自己への思いやり(自己のいたわり)」「自己批判」、そして「反芻(ネガティブな反復思考)」と「省察(建設的な自己振り返り)」という4つの内面的特徴に着目し、それらが情動的共感とどのように関係するかを検討しました。 研究方法 対象は、全国7か所の精神科病院に勤務する572名の看護師です。次の心理尺度を用いてデータを収集しました: ① セルフ・コンパッション尺度(SCS) 自己への優しさ(思いやり)と自己批判を測定 ② 反芻‐省察尺度(RRQ) ネガティブな思考の繰り返し(反芻)と内省的な思考(省察)を評価 ③ 情動的共感尺度(EES) 他者の感情への温かさや感受性を測定 本研究では、特に「反芻」「省察」「自己への思いやり」「自己批判」の得点に注目し、これらの心理的特性に基づいて看護師を分類するためにクラスター分析を実施しました。 なぜこの4つを用いたか? これらはすべて「自己に向かう態度」や「思考のスタイル」を反映する指標であり、個人の内面的な成熟度や、他者に対する共感力に深く関わると考えられるためです。 特に精神科看護では、自己への適切な態度(例:過度な自己否定を避けつつ、自己理解を深める)が、対人援助能力に大きな影響を与えると考えられています。 主な結果 クラスター分析の結果、次の2つのグループが抽出されました: クラスター1:自己批判・反芻・省察すべてが高い群(自己注目・内省傾向の強い群) クラスター2:これらの傾向が比較的低い群(自己注目の低い群) 次に、この2群間で情動的共感の得点を比較したところ、クラスター1の方が情動的共感の得点が有意に高いことが明らかになりました。 つまり、自己に対して厳しく、繰り返し内省する傾向を持つ看護師ほど、患者の感情に対して敏感かつ温かく反応できる力が高い傾向がみられたのです。   研究の意義 この結果は、従来の「自己批判や反芻=ネガティブ」とする単純な理解に再考を促すものです。 自己への厳しい視点や内面的な葛藤も、それを省察に変換できる力があれば、むしろ対人援助に必要な情動的共感を育む重要な資源となり得ることが示唆されました。 精神科看護教育においては、単に自己批判や反芻を抑制するだけでなく、それらを建設的な内省へと導く支援が、共感的な看護師の育成につながる可能性があります。   研究の限界と今後の展開 本研究は日本の精神科看護師を対象としたため、文化的要素が影響している可能性があります。今後は国際比較研究や、縦断的研究による心理傾向と共感力の発達過程の検証が望まれます。 論文情報 Kurebayashi, Y. The hidden side of self-criticism: A cross-sectional cluster analysis of self-compassion, self-focus, and emotional empathy. Perspectives in Psychiatric Care doi.org/10.1155/ppc/3340560 問い合わせ先 畿央大学 健康科学部看護医療学科 大学院 健康科学研究科 准教授 紅林佑介 〒635-0832 奈良県北葛城郡広陵町馬見中4-2-2 y.kurebayashi@kio.ac.jp

2025.05.16

脳卒中後疼痛の病態特性-サブタイプ別の包括的分析-~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中では、発症から遅れて感覚障害を伴った痛みや肩を動かした際の痛みが生じる時があります。この症状は、単一の症状のみならず複数の症状が組み合わさり、生活の質に不利益をもたらします。畿央大学健康科学研究科博士後期課程の井川祐樹 氏と大住倫弘 准教授らは、多施設および大阪大学大学院医学系研究科 細見晃一医師らと共同で、簡易的定量的感覚検査、質問紙検査、脳画像解析を実施し、神経障害性疼痛と侵害性疼痛を有する脳卒中患者の臨床症状の特性と異常感覚および痛みに関連した脳損傷部位を明らかにしました。この研究成果はBrain communications誌(Pathological features of post-stroke pain: a comprehensive analysis for subtypes)に掲載されています。   本研究のポイント 脳卒中後疼痛の特徴を、痛みの質問紙、簡易的定量的感覚検査、画像解析で詳細かつ包括的に分析した。 中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)は、体性感覚・痛覚系に関わる脳領域およびネットワークの破綻によって異常感覚を伴うことが関係する。 侵害性疼痛(non-CPSP)の場合は筋骨格系疼痛(関節を動かした際に生じる痛み)の要因が関係する。   研究概要 脳卒中患者では、脳卒中発症直後あるいは発症数カ月後に「触れられると痛い」、「電気が走るような痛みがある」といった感覚障害を伴う神経障害性疼痛の痛みと「動かした時に痛みがある」といった筋骨格系の痛み(侵害性疼痛)の症状を有することがあります。これらの痛みは、臨床上において多くの場合、複数の症状が重なり合って現れるため、適切な治療が困難です。このように、様々なタイプが存在する脳卒中後疼痛の症状は、さまざまな側面の評価(感覚機能評価、画像評価)を詳細かつ包括的に調べる必要があります。これまでにも脳卒中後の痛みに関する研究は行われてきましたが、神経障害性疼痛と侵害性疼痛の違いに注目し、二つの痛みのタイプを対比させ、感覚評価や画像解析などを含めた包括的な調査を行った研究はほとんどありませんでした。そこで、畿央大学大学院健康科学研究科博士課程 井川祐樹 氏、大住倫弘 准教授らの研究グループは、大阪大学大学院医学系研究科 細見晃一医師らの研究グループと共同で、脳卒中後疼痛患者を対象に、サブタイプごとの痛みの病態特性について、痛みの質問紙、簡易的定量的感覚検査、脳画像分析により詳細かつ包括的に調査を行いました。その結果、中枢性脳卒中後疼痛(Central Post-Stroke Pain: CPSP)の患者は、冷覚刺激に対して感覚が鈍いにもかかわらず痛みが誘発されやすく、安静時でも強い痛みが持続するという特徴があり、その症状は脳の皮質および皮質下の損傷部位、連絡線維の破綻に依存していることがわかりました。一方、侵害性疼痛(non-CPSP)の患者は、主に関節を動かしたときに一時的な痛みが生じることが特徴であることが明らかとなりました。   研究内容 本研究では、中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)グループ、非中枢性脳卒中後疼痛(non-CPSP)グループ、痛みなしグループの3群に分け、痛みの質問紙、簡易的定量的感覚検査、脳画像所見をもとに、これらのグループにおける臨床特性を調査しました。 その結果、CPSPグループの患者は、冷覚刺激に対して感覚鈍麻あるいは痛覚過敏を伴い、神経障害性疼痛における誘発・自発痛の項目におけるスコアが高いことが特徴として示されました(図)。さらに、このような冷覚刺激に対する痛みは、体性感覚系、痛覚系に関わる神経経路に隣接した脳皮質下の被殻後部、島皮質、内包レンズ後部などの部位が関係し、それだけでなく帯状回と海馬を結ぶ連絡線維の断絶も関係することが明らかとなりました。一方、non-CPSPグループでは、異常感覚は認めず、関節を動かした際に一時的な痛みがあるのみで、筋骨格系の問題が直接的に関係することが示唆されました。     本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、脳卒中後疼痛におけるサブタイプ別の特徴を指標とした意思決定を促し、適切かつ正確な治療へ繋げられる可能性があります。今後は中枢性脳卒中後疼痛の縦断的な観察をする予定です。   論文情報 Yuki Igawa, Michihiro Osumi, Yusaku Takamura, Hidekazu Uchisawa, Shinya Iki, Takeshi Fuchigami, Shinji Uragami, Yuki Nishi, Nobuhiko Mori, Koichi Hosomi, Shu Morioka Pathological features of post-stroke pain: a comprehensive analysis for subtypes. Brain Communication, 2025.   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 井川 祐樹 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 准教授 大住 倫弘 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: m.ohsumi@kio.ac.jp

2025.05.14

日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 3rd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター

2025年4月25日に、フランス・リヨンで日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 3rd Meetingが開催されました。   ▼ 前回の様子はこちら ▼ 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 2nd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター     CREST:国立研究開発法人科学技術振興機構による戦略的創造研究推進事業 ANR:The French National Research Agency (ANR) NARRABODY:Narrative embodiment: neurocognitive mechanisms and its application to VR intervention techniques (ナラティブ・エンボディメントの機序解明とVR介入技術への応用)   CRESTは国内の競争的科学研究費としてはトップに位置するもので、本学森岡周教授らの日仏合同研究チームが2.74億円(5年6ヵ月/3研究室合同)の研究費を取得しています。   【プレスリリース】森岡周教授らの共同研究が2023年度 CRESTに採択されました。 スケジュール <Research Progress Reports> □Eric Chabanat: Introduction □Osumi Michihiro: Rehabilitation for phantom limb pain □Yvan Sonjon: Social influences on chronic pain: investigating cognitive mechanisms of pain perception □Yuki Nishi: Quantifying real-world upper limb activity using accelerometers □Anaëlle LEBATTEUX: Presentation of  self-efficacy questionnaire in pain management     Online Session (Shotaro Tachibana, Chair) □ Discussion on Interview Reports □ General Discussion   Extra Session □Yuki Nishi: How to measure real-world upper limb activity using accelerometers     日本側は森岡 周 教授(畿央大学)、大住 倫弘 准教授(畿央大学)、大松 聡子 客員准教授(畿央大学)、西 祐樹(長崎大学)が現地参加し、嶋田 総太郎 教授(明治大学)、田中 彰吾 教授(東海大学)がWebで参加されました。フランス側からはJean-Michel Roy 教授(ENS-Lyon)、Eric CHABANA 助教授(リヨン神経科学研究センター,INSERM)、Shotaro Tachibana 研究員(リヨン大学病院)、Hugo ARDAILLON(リヨン神経科学研究センター)をはじめ、多くの共同研究者、大学院生らが参加されました。   今回のミーティングでは、疼痛分野におけるナラティブ・エンボディメントの枠組みで、自己効力感や脳波のネットワーク解析、上肢運動など、各研究に関する進捗報告が行われました。方法論に関する助言や革新的なアイデアの提案がなされ、活発な議論が交わされました。また、議論の中で国際共同研究が創発され、貴重な機会となりました。   フランス側の研究者のおもてなしや心配りに感銘を受けるともに、信頼関係を深める契機にもなりました。本ミーティングは国際的かつ学際的な研究展開にとって、極めて意義深く、今後の研究の深化と連携の発展に向けた確かな基盤が築かれたといえます。   関連記事 森岡周教授らの共同研究が2023年度 CRESTに採択されました。  日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 1st Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 2nd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター  

2025.05.01

脳卒中患者の不整地歩行の特徴 -高機能者と低機能者による違い-~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中患者は不整地を含む屋外での歩行が困難になりやすく、結果として社会参加を妨げ、生活の質に不利益をもたらします。しかし、脳卒中患者が有する歩行能力によって不整地での歩行戦略に違いがある可能性があります。畿央大学大学院博士後期課程の乾 康浩 氏と森岡 周 教授らは、屋内平地歩行速度0.8m/s未満の低機能脳卒中患者と0.8m/s以上の高機能脳卒中患者の不整地歩行の特徴の違いを検証しました。低機能脳卒中患者は不整地歩行中に、歩行速度が低下するが安定性を維持し、高機能脳卒中患者は遊脚期の膝関節屈曲増大、立脚期の大腿部の共収縮低下を示すことを明らかにしました。この研究成果はTopics in stroke rehabilitation誌(Differences in Uneven-Surface Walking Characteristics: High-Functioning vs Low-Functioning People with Stroke)に掲載されています。   本研究のポイント 屋内平地歩行速度0.8m/s未満の低機能患者と0.8m/s以上の高機能患者の脳卒中患者の不整地歩行の特徴の違いを自作の不整地路を用いて評価した。 低機能患者は不整地で歩行速度が低下するが安定性を維持し、高機能脳卒中患者は遊脚期の膝関節屈曲増大、および立脚期における大腿部の共収縮低下を示すことが明らかとなった。   研究概要 脳卒中患者は、中枢神経系の損傷により歩行障害を有し、不整地を含めた屋外での歩行が困難になります。これは、社会参加を妨げ、生活の質の低下にもつながります。また、脳卒中患者の歩行能力には違いがあり、その能力の違いによって予測困難な摂動が生じる不整地での歩行の戦略が異なる可能性があります。畿央大学大学院 博士後期課程 乾 康浩 氏、森岡 周 教授らの研究チームは、自作の予測困難な摂動が生じる不整地路を用いて、脳卒中患者の不整地歩行中の歩行速度、体幹の加速度、麻痺側の関節運動、および下肢筋共収縮を計測し、平地歩行速度0.8m/s未満の低機能脳卒中患者と0.8m/s以上の高機能脳卒中患者で特徴の違いを分析しました。その結果、低機能脳卒中患者は、 不整地歩行中に歩行速度は低下するものの歩行安定性は維持し、高機能脳卒中患者は遊脚期の膝関節屈曲増大、立脚期の大腿部の共収縮低下を示すことを明らかにしました。本研究は、歩行能力の違いによる脳卒中患者の予測困難な摂動が生じる不整地歩行中の特徴の違いを明らかにした初めての研究です。   研究内容 リハビリテーション専門家にとって、脳卒中患者の歩行能力の違いによる不整地歩行時の戦略の違いを捉えることは必要です。本研究では、予測困難な摂動が生じる不整地での脳卒中患者の歩行戦略の特徴を平地歩行速度0.8m/s未満(低機能脳卒中患者)と0.8m/s以上(高機能脳卒中患者)の2グループで比較することを目的とし、自作の不整地路(図1)を用いて検証しました。     実験で得られたデータから、歩行速度、歩行安定性を評価するための立脚期と遊脚期に分けた3軸の体幹の加速度のRoot Mean Square、麻痺側下肢の最大関節角度、麻痺側下肢の立脚期と遊脚期に分けた共収縮指数を算出しました(図2)。     その結果、平地と比較した不整地での変化として、低機能脳卒中患者では歩行速度は低下するものの安定性は維持し、高機能脳卒中患者では遊脚期の膝関節屈曲増大(図3)、立脚期における大腿部の共収縮指数低下がみられました。     研究グループは、この結果のうち、低機能脳卒中患者の歩行速度低下と歩行安定性の維持に関しては、不整地歩行中の保守的な戦略と考えています。一方で、高機能脳卒中患者の遊脚期膝関節屈曲増大と立脚期における大腿部共収縮指数の低下は適応的な戦略の結果と考察しています。   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、平地での歩行速度が異なる脳卒中患者において、予測困難な摂動が生じる不整地での適応の違いを明らかにしており、リハビリテーション専門家が脳卒中患者の屋外歩行の問題を考える際に着目すべき点を示しています。今後は、非麻痺側を含めた戦略の特徴や縦断的な経過を調査する必要があります。   論文情報 Yasuhiro Inui, Naomichi Mizuta, Shintaro Fujii, Yuta Terasawa, Tomoya Tanaka, Naruhito Hasui, Kazuki Hayashida, Yuki Nishi, Shu Morioka Differences in uneven-surface walking characteristics: high-functioning vs low-functioning people with stroke. Topics in stroke rehabilitation, 2025.   関連する先行研究 Inui Y, Mizuta N, Hayashida K, Nishi Y, Yamaguchi Y, Morioka S. Characteristics of uneven surface walking in stroke patients: Modification in biomechanical parameters and muscle activity. Gait Posture. 2023 Jun;103:203-209.     問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 乾 康浩 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2025.05.01

自立歩行が困難な脳卒中者の歩行回復の特徴 -歩行中の内側広筋の筋内コヒーレンスとの関連-~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中後、下肢の運動麻痺によって体重支持が困難となり、自立歩行の再獲得に大きな影響を与えます。本邦では、そのような状態からの回復を目的に、長下肢装具を用いた歩行トレーニングを推奨しています。畿央大学大学院 博士後期課程 蓮井 成仁氏と森岡 周 教授らを中心とする研究グループは、監視歩行獲得に関連する要因を明らかにしました。さらに、1ヶ月間の歩行トレーニング後に、監視歩行が獲得できた/できなかった群に分けて分析することで、長下肢装具を用いた歩行トレーニングの「適応」と「限界」を明らかにしました。 この研究成果は、Neurological Sciences誌(Association of gait recovery with intramuscular coherence of the Vastus medialis muscle during assisted gait in subacute stroke)に掲載されています。   本研究のポイント 監視歩行が可能となるまでの日数と麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンス値は有意な負の相関関係にありました。 「監視歩行獲得群」は、1ヶ月間の歩行トレーニングによって、運動麻痺の改善と、麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンスと理学療法中の歩数が増える特徴がありました。 「監視歩行未獲得群」は、1ヶ月間の歩行トレーニングによって、運動麻痺の改善が特徴としてありました。   研究概要 脳卒中者に対するリハビリテーションとして、下肢の運動麻痺によって体重支持が困難な者には長下肢装具(KAFO)を用いた歩行トレーニングが推奨されています。しかしながら、回復期病棟を退院する際に、介助なく歩行が可能となる症例とそうではない症例が混在しており、歩行回復に関連する要因はこれまで明らかになっていませんでした。畿央大学大学院 博士後期課程 蓮井 成仁氏と森岡 周 教授らを中心とする研究グループは、監視歩行獲得に関連する要因を調査しました。その結果、歩行トレーニング前における歩行中の麻痺側内側広筋への下降性神経出力の強さと監視歩行が可能となるまでの日数が有意に関係することを明らかにしました。さらに、監視歩行が獲得できた/できなかった症例に分類して、長下肢装具を用いた1ヶ月間の歩行トレーニング効果を確認すると、監視歩行獲得群では運動麻痺や体幹機能、バランス機能の改善と、麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンスと理学療法中の歩数が増えており、介助歩行トレーニングの利得があることが示唆されました。本研究の成果は、監視歩行獲得群への更なるリハビリテーション効果の促進と、監視歩行未獲得群へのリハビリテーション戦略の開発を進めていくために役立つことが期待されます。   研究内容 本研究は、脳卒中患者20名を対象に、身体機能評価に加えて理学療法中の歩数を評価しました。対象者は、KAFOを装着し、後方より理学療法士1名に支えられた条件下(介助歩行)で10m歩行を行いました。その際、筋電図より麻痺側内側広筋および外側ハムストリングの近位部・遠位部から筋内ならびに筋間コヒーレンス(β帯域;下降性神経出力を反映)、下肢屈曲・伸展角度を算出しました。歩行自立度の評価であるFACを用いて、FAC 3(15m監視歩行が可能)に至るまでの日数を歩行回復の指標としました。 監視歩行が可能となるまでの日数(または監視歩行が獲得できなかった対象者は退院までの日数)と麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンス値は有意な負の相関関係にありました。これは、介助歩行開始早期に内側広筋への下降性神経出力が強い症例ほど監視歩行へ到達しやすいことが考えられます。 さらに、監視歩行の獲得の有無に分けて1ヶ月間の介助歩行トレーニングの影響を下記に示します。 監視歩行獲得群:運動麻痺や体幹機能、バランス機能の改善と、麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンスと理学療法中の歩数が増えており、介助歩行トレーニングの利得があることを示しています。 監視歩行未獲得群:運動麻痺のみが改善しましたが、その他の身体機能および歩行中の神経出力の強化、歩行量が停滞しており、介助歩行トレーニングの利得が得られにくいことを示しています。     本研究の臨床的意義および今後の展開 これまでに明らかにされていなかったKAFOを用いた歩行トレーニングによる歩行回復の実態を調査できたことで、症例の応答性に合わせた効果的なリハビリテーションの立案に役立つことが期待されます。今後は、監視歩行獲得群への更なるリハビリテーション効果の促進と、監視歩行未獲得群へのリハビリテーション戦略の開発を進めていく予定です。   論文情報 Naruhito Hasui, Naomichi Mizuta, Ayaka Matsunaga, Yasutaka Higa, Masahiro Sato, Tomoki Nakatani, Junji Taguchi, Shu Morioka Association of gait recovery with intramuscular coherence of the Vastus medialis muscle during assisted gait in subacute stroke. Neurological Sciences, 2025.   問い合わせ先 畿央大学 大学院 健康科学研究科 博士後期課程 蓮井 成人 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2025.04.28

変形性関節症に関する世界最大級の国際会議「OARSI 2025」参加レポート!~健康科学研究科瓜谷研究室

2025年4月23日(水)から26日(土)まで、韓国・仁川で開催されたOARSI 2025(Osteoarthritis Research Society International)に参加してきました!     この学会は、変形性関節症(OA)に関する世界最大級の国際会議の一つであり、日頃から私が研究の参考にしている論文の著者や、よく引用させていただく著名な研究者たちが、直接最新の知見を発表される場です。実際にそうした研究者たちの講演を間近で聞くことができ、とても刺激的な時間となりました。     今回、私は 「Patients with knee osteoarthritis exhibit a reduced autonomic response to task performance compared to healthy older adults」 というテーマでポスター発表も行いました。   発表中には、さまざまな国の研究者から多角的な視点で質問やアドバイスをいただき、今後の研究をさらに深めるための多くのヒントを得ることができました。     特に印象に残ったのは、**「OA Management and Epidemiology in Asia」**というセッションです。アジア各国における変形性関節症の管理や疫学的課題について議論され、日本とは異なる医療システムや社会背景の中での取り組みを知ることができました。   自分の研究を国際的な文脈で位置付けて考えるきっかけにもなり、大変貴重な学びとなりました。     また、学会場では海外の研究者とも交流し、研究以外にも韓国ならではの美味しい食事や街並みに触れることができ、異文化を体感する楽しさも味わいました。   こうした機会を通じて、 「最先端の“本物”の研究に直接触れること」 「異国の文化を知り、自分自身の立ち位置を再認識すること」 の大切さを改めて実感しました。     この貴重な経験を糧に、今後も社会に有益な研究を推進できるよう努力していきます!   健康科学研究科 瓜谷研究室 山野 宏章 関連記事 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 2nd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 11回日本地域理学療法学会学術集会で大学院生と修了生(客員研究員)が発表~健康科学研究科 日本小児理学療法学会学術大会で大会長賞を受賞!~健康科学研究科 第22回日本神経理学療法学会学術大会へ参加しました!  

2025.04.15

大阪市西成区における地域在住高齢者の銭湯利用と個人レベルのソーシャル・キャピタルとの関係:介護予防に資する通いの場としての役割の検討~健康科学研究科~

地域在住高齢者の健康に関連する指標としてソーシャル・キャピタル(社会関係資本、以下SCと する)が注目されています。SCは、「人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることができる、『信頼』『規範』『ネットワーク』といった社会組織の特徴」と定義されており、地域在住高齢者の介護予防に資する通いの場においても重要視されています。 しかし、様々な問題から通いの場に参加できない地域在住高齢者も多い現状にあります。そこで本研究は地域に古くから存在し、浴室の家庭化が進む現代までは情報共有の場として社会的機能を担っていたとされる「銭湯」に着目しました。日常的に使用する銭湯が介護予防に資する地域在住高齢者の交流の場の一端を担い、地域在住高齢者における個人レベルのSC強度と関連するかを、本学大学院健康科学研究科客員研究員の仲村渠亮、健康科学研究科の高取克彦教授・松本大輔准教授らは、社会的理由から「銭湯」と繋がりの多い西成区を対象に調査をしました。その結果、日常的に銭湯を多く利用することがSCの構成要素である地域への信頼の高さ、近隣住民との交流の多さと独立して関連していることが明らかとなりました。これらのことから、高齢者サロンなどへの社会参加活動が難しい高齢者に対しては、銭湯が介護予防に資する通いの場となる可能性があることが示唆され、その内容が日本地域理学療法学雑誌に掲載されました。 研究概要 大阪市西成区における高齢者の健康行動と地域資源の活用実態に着目し、特に地域コミュニティの場としての銭湯利用が高齢者の健康維持・増進に関係するSCと関係するかを明らかにすることを目的とした。対面式調査(インタビュー)および定量的調査(体組成測定等)を組み合わせた混合研究法を用いて、銭湯利用者の健康状態、生活行動、社会的交流の特徴を分析した。 研究のポイント 高齢化率・要介護認定率が大阪市内でも最も高い西成区を対象地域として選定。 銭湯利用高齢者を対象に、入浴頻度・利用目的・SC(交流状況等)に関する対面式インタビューを実施。 銭湯は単なる入浴施設としてだけでなく、社会的交流や地域コミュニティ形成の場として機能している実態を確認。 銭湯利用が高齢者の心理的ウェルビーイングや地域参加意識の向上に寄与している可能性を示唆。   本研究の臨床的意義及び今後の展開 地域在住高齢者の健康支援においては、個別的な医療的介入のみならず、日常生活に根差した地域資源の活用が重要な戦略となります。本研究は、銭湯という地域固有の生活資源が、高齢者のSCの維持に寄与しうる可能性を示しました。今後は、他地域への適用可能性の検討や、銭湯をはじめとする地域資源を介した介護予防プログラムの開発、地域包括ケアシステムとの連携強化を視野に入れた実装研究が求められると思います。 謝辞 研究にご協力いただきました対象者の皆様、共同研究者の方々に感謝申し上げます。 論文情報 仲村渠亮,高取克彦,松本大輔:大阪市西成区における地域在住高齢者の銭湯利用と個人レベルのソーシャル・キャピタルとの関係:介護予防に資する通いの場としての役割の検討. 地域理学療法学2024;4(2):79-87.   問合せ先 畿央大学大学院健康科学研究科 客員研究員 仲村渠 亮 教授 高取 克彦 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: k.takatori@kio.ac.jp

2025.04.11

令和7年度入学式を行いました。

2025(令和6)年4月2日(水)、健康科学部314名、教育学部178名、健康科学研究科33名(修士課程19名、博士後期課程12名)、教育学研究科修士課程2名、助産学専攻科10名、臨床細胞学別科8名、あわせて555名の新しい畿央生が誕生しました。 学部は午前10時から、大学院・専攻科・別科は午後3時からと2部にわけて入学式を行いました。     午前の学部生入学式は冬木記念ホールに全5学科の新入生が集まり、保護者の皆様はその様子を中継会場から視聴・参加する形で行われました。               冬木正彦学長が学科ごとに入学許可を行い、つづく学長式辞では、”建学の精神である「徳をのばす」「知をみがく」「美をつくる」を大切にしながら充実した4年間を過ごしてほしい”という激励のメッセージがありました。         新入学生代表として現代教育学科1回生 高橋愛未さんから入学生宣誓が、在学生代表として健康栄養学科3回生有馬実優さんから歓迎のことばがありました。       続いて畿央大学の学歌をアカペラ部「#ADVANCE」の学生が紹介し、閉式となりました。       式典後は、冬木記念ホールで新入生へオリエンテーションを、また保護者に対しては、各教室にて各学科の教員から挨拶をさせていただきました。     当日は桜も開花し、晴天に恵まれ、あたたかい一日となりました。オリエンテーション後は、恒例の記念撮影、続いてクラブ・サークル紹介ブースに多くの新入生と保護者が訪れていました。                         午後3時からは大学院健康科学研究科、教育学研究科、助産学専攻科および臨床細胞学別科の入学式が冬木記念ホールにて行なわれました。入学許可の後、学長、研究科長・専攻科長・別科長から祝辞をいただきました。     新入生の皆さん、入学おめでとうございます! 畿央大学で充実した時間が過ごせるよう、教職員一同全力でサポートしていきます。

2025.04.07

急性期整形外科疾患患者における超音波エコーを用いたサルコペニアが歩行自立度に与える影響:2つの診断基準の比較~健康科学研究科

サルコペニアは、加齢に伴う骨格筋量および筋力低下と定義され、整形外科疾患患者の術後の死亡率が高く、機能回復の阻害要因になることが明らかにされています。 Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)によるサルコペニアの診断基準(AWGS2019)における骨格筋量の評価として、生体電気インピーダンス法(BIA法)がよく用いられます。しかし、BIA法は、急性期の整形外科疾患患者によくみられる外傷および手術の侵襲に伴う浮腫やインプラントなどの体内金属により骨格筋量を過大評価してしまうことが指摘されています。一方、国際リハビリテーション医学会のサルコペニア専門部会(Sarcopenia Special Interest Group of the International Society of Physical and Rehabilitation Medicin:ISarcoPRM)の診断基準では、上述したBIA法の欠点が少ない超音波画像診断装置(超音波エコー)を用いた骨格筋量評価が採用されています。ISarcoPRMを用いたサルコペニアと高齢の急性期整形外科疾患患者のリハビリテーションにおいて重要なアウトカムとなる歩行自立度との関連性を縦断的に検討した研究はなく、いまだ明らかにされておりません。 本学大学院健康科学研究科の博士後期課程 池本大輝、徳田光紀 客員准教授、松本大輔 准教授らは、AWGS2019を用いたサルコペニアは、退院時の歩行自立度の悪化とは関連しない一方、ISarcoPRMを用いたサルコペニアは歩行自立度の悪化と有意な関連を認めたことを明らかにしました。その研究成果はJournal of Rehabilitation Medicine誌(Impact of sarcopenia on gait independence in older orthopaedic patients: a comparison of 2 diagnostic algorithms.)に掲載されました。   研究概要 急性期病院へ入院された65歳以上の整形外科疾患患者153名を対象に、入院あるいは術後3日以内にAWGS2019とISarcoPRMの2つのサルコペニア診断基準を用いてサルコペニアをそれぞれ判定しました。サルコペニアは、各診断基準の骨格筋量低下と握力に基づく筋力低下の両方に該当した場合に判定しました。退院時にFunctional Ambulation Category(FAC)で評価した歩行自立度が入院前より悪化したかどうか、と各診断基準のサルコペニアとの関連を比較しました。   本研究のポイント ・AWGS2019を用いたサルコペニアの有病率は36.6%、ISarcoPRMを用いたサルコペニアの有病率は56.2%でした。 ・AWGS2019を使用して評価されたサルコペニアと退院時の歩行自立度の悪化との間には、有意な関連を認めませんでしたが、ISarcoPRMを使用して評価されたサルコペニアと退院時の歩行自立度の悪化との間には、有意な関連を認めることが明らかとなりました(図1、2)。   図1.退院時の歩行自立度悪化とサルコペニアの関連(ロジスティック回帰分析:AWGS2019モデル)     図2.退院時の歩行自立度悪化とサルコペニアの関連(ロジスティック回帰分析:ISarcoPRMモデル)   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、ISarcoPRMの診断基準で評価したサルコペニアが、AWGS2019の診断基準で評価したサルコペニアよりも、自立歩行との関連が強いことを示す初の縦断的研究です。本研究の結果より、高齢の急性期整形外科疾患患者では、超音波エコーで骨格筋量を評価するISarcoPRMを用いてサルコペニアを判定することで、退院時の歩行自立度悪化の予後予測の一助になると考えられます。近年、注目されている超音波エコーを用いた骨格筋評価の有用性を示唆する重要な知見であると考えられます。今後も超音波エコーを用いた骨格筋評価およびISarcoPRMを用いたサルコペニアに関するエビデンスの蓄積に貢献できる研究を継続していく所存です。 謝辞 研究にご協力いただきました対象者の皆様、共同研究者の方々に感謝申し上げます。 論文情報 Ikemoto T, Tokuda M, Morikawa Y, Kuroda K, Nakayama N, Terada N, Niina M, Matsumoto D. Impact of sarcopenia on gait independence in older orthopaedic patients: a comparison of 2 diagnostic algorithms. J Rehabil Med. 2025 Mar 28;57:jrm42051. doi: 10.2340/jrm.v57.42051. PMID: 40151090.   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 池本大輝 准教授 松本大輔 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: d.matsumoto@kio.ac.jp 地域リハビリテーション研究室ホームページ