健康科学専攻(博士後期課程)の新着情報一覧
2021.07.09
トルコからの留学生Burcu Dilekさんの研究成果が国際雑誌「Clinical EEG and Neuroscience」に掲載!~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
2019年5月~8月に畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター(以下、ニューロリハ研究センター)へ短期留学していたBurcu Dilekさんとの共同研究が国際雑誌Clinical EEG and Neuroscienceに掲載されました。 この研究は、ヒトが痛みを怖がっている時の脳波活動を記録・解析したもので、痛みを怖がると運動プログラムが破綻することが明らかになりました。この研究は、留学中に計画・実施したものであり、その成果がこのように公表されることを嬉しく思います。 ちなみにBurcu Dilekさんは畿央大学へ留学する前にトルコで「運動をイメージするリハビリテーション」の研究をしており、痛みを有する患者さんに運動をイメージさせると痛みが低減することを明らかにしていました。 【参考】Dilek B, Ayhan C, Yagci G, Yakut Y. Effectiveness of the graded motor imagery to improve hand function in patients with distal radius fracture: A randomized controlled trial. J Hand Ther. 2018 Jan-Mar;31(1):2-9.e1.) 2019年の留学では、そんな彼女自身の研究経緯と、畿央大学のアイディア・研究設備が見事に相互作用して、良い研究成果が生まれたのだと思います。とはいえ、Burcu Dilekさん自身は脳活動の計測は初めてのことだったようで、非常に苦労しました。実際には、畿央大学で計測したデータをトルコで解析して、解析して、そして解析して....の繰り返しでしたが、持ち前の好奇心、行動力でそれらを乗り越えてくれました。留学から2年間が経ちますが、ここまで継続した努力に敬意を表したいです。彼女の今後の活躍を楽しみにしています。 【留学時の様子】 畿央大学に短期留学中のトルコ人研究者にインタビュー!後編~ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学に短期留学中のトルコ人研究者にインタビュー!~ニューロリハビリテーション研究センター トルコ人研究者に日本や理学療法のあれこれを聞いてみた!~Burcu Dilekさんロングインタビュー ちなみに、現在は、トルコのトラキア大学(Trakya University)のHealth Science Faculty Occupational Therapy Departmentに助教として勤務しているようです。そんな彼女のコメントと現在の写真が届いていますので、紹介させていただきます。 【Burcu Dilekさん コメント】 When I first visited the laboratory, which was established under Prof. Morioka's leadership, I was very excited and also motivated that I should work with the team. His team's research areas were very unique to me. All of them were talented and well-equipped scientists in their fields. Dr. Osumi helped to design the study in line with his experiences. Dr. Nobusako supported me in other technical and hardware aspects. Other employees of Kio University always had a smiling face and always found a solution when I had any problems. I quite adopted the study subject proposed to me and in the following periods, I want to continue working in this research area with Prof. Morioka's team. I am very happy that all our efforts have paid off. I want to thank all the staff of Kio University, especially Prof Morioka, Dr. Osumi and Dr. Nobusako. 森岡教授のリーダーシップのもと設立されたニューロリハ研究センターを初めて訪問した時、とても興奮して「このチームと一緒に働くべきだ」と意欲を掻き立てられました。研究分野は私にとって非常にユニークで、全員が各分野で才能にあふれ、かつ専門的な知識をそなえた研究者した。大住准教授はご自身の経験に沿って研究のデザインを手伝ってくださいました。信迫准教授はその他の技術的・ハード的な面で私をサポートしてくださいました。畿央大学の他の教職員もいつも笑顔で、問題に直面した時には必ず解決策を見つけてくれました。提案された研究テーマをかなり採用しましたし、今後も森岡教授のチームと研究を続けていきたいと思っています。私たちの努力が報われてとても嬉しく思っています。畿央大学のすべてのスタッフ、特に森岡教授、大住准教授、信迫准教授に感謝いたします。 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 健康科学研究科 准教授 大住 倫弘 【論文情報】 Dilek B, Osumi M, Nobusako S, Erdoğan SB, Morioka S. Effect of Painful Electrical Stimuli on Readiness Potential in the Human Brain. Clin EEG Neurosci. 2021 Jul 2:15500594211030137.
2021.07.09
慢性疼痛患者における疼痛律動性のタイプ分類~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
近年、日内で疼痛強度が変動する「疼痛律動性」の存在が注目されています。こうした疼痛律動性を把握することは慢性疼痛への治療戦略を考えるうえで有用であり、様々な疾患で律動性の調査が行われています。しかし、これまでの研究では疾患横断的に調査されたものはなく、律動性が疾患由来で生じるのか?神経障害性や心理状態といった個人の要因で生じるのか?といった点が明らかになっていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程 田中 陽一 氏と森岡 周 教授 らは、慢性疼痛患者56名を対象にクラスター分析を用い、疼痛律動性の類似性から群分けを行い、リズムタイプの異なる3タイプの存在を明らかにしました。また、神経障害性疼痛の重症度がこれらの群間で異なっていることを報告しました。 この研究成果は、Medicine誌 (Classification of circadian pain rhythms and pain characteristics in chronic pain patients:An observational study)に掲載されています。 研究概要 これまで疾患別に疼痛律動性の存在が多数報告されてきました。しかし、疼痛律動性が生じる原因について論じられたものはなく、律動性が疾患由来で生じているのか、個人因子の影響が強いのかといった点が明らかになっておりませんでした。そこで、畿央大学大学院博士後期課程 田中 陽一 氏 と 森岡 周 教授 らは、慢性疼痛患者56名の疼痛律動性を疾患横断的に調査しました。 その結果、リズムタイプの異なる3タイプの律動性の存在を明らかにし、更に神経障害性疼痛の重症度に群間差があることがわかりました。こうした疼痛律動性の把握は、時間帯を考慮した生活活動の導入や身体活動の管理などの介入に有用であると考えられます。また、3群間で疾患に有意差を認めなかったことから、疾患では疼痛律動性を把握することは困難であり、本研究で群間差が見られた神経障害性の要素などの個別的な評価が必要であることが示唆されました。 本研究のポイント ■ 慢性疼痛患者を対象に疼痛律動性を調査した。 ■ 律動性の異なる3タイプの存在が明らかになった。 ■ 群間で神経障害性疼痛の重症度に有意差があったことから、こうした疼痛のリズムには疼痛の性質が影響していることが示唆された。 研究内容 慢性疼痛患者56名を対象に、疼痛律動性は1日6時点(起床時・9時・12時・15時・18時・21時)を7日間評価しました。6時点の7日間平均に標準化処理(Zスコア)を行った6変数でクラスター分析を行い、律動性の類似性から分類を行いました。 クラスター分析の結果、起床時に最も疼痛強度が高く、時間経過とともに疼痛が減少していくタイプ、起床時に疼痛強度が高いが日中に低下し、夕方から夜間にかけて疼痛が再度増悪していくタイプ、これらのタイプとは逆に起床時に最も疼痛強度が低く、時間経過とともに疼痛が増強していくタイプの3タイプの律動性を明らかにしました(図1)。 図1.疼痛律動性のリズム分類 クラスター分析により、異なる特徴を持つ3つのクラスターが抽出された。CL1では、起床時の痛みスコアが最も高かったが、時間の経過とともに痛みスコアは低下する傾向にあった。CL2では、起床時に痛みスコアが高く、日中は減少したが、15時以降は徐々に増加した。CL3では、時間の経過とともに痛みスコアが徐々に上昇する傾向が見られた。 また、3群間の比較において疾患や疼痛罹患期間、服薬の有無には有意差は見られませんでしたが、神経障害性疼痛の重症度に群間差を認めました(図2)。CL1・2とCL3の間で有意差が見られたことから神経障害疼痛の重症度が起床時の高い疼痛強度に関与していることが考えられます。本研究の結果から、疼痛律動性は疾患由来ではなく、神経障害性などの疼痛性質に強く影響を受けていることが示唆されました。 図2.3群間の比較 CL1とCL2は、CL3よりも神経障害性の重症度の総得点が高かった。また、誘発痛については、CL1がCL3よりも高いスコアを示した。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、疼痛律動性が疾患由来ではなく疼痛性質によって生じていることを示唆し、個別的な評価によって律動性を評価する必要性が示されました。今後は、疼痛律動性を踏まえた、治療介入の効果と限界について研究される予定です。 論文情報 Yoichi Tanaka, Hayato Shigetoh, Gosuke Sato, Ren Fujii, Ryota Imai, Michihiro Osumi, Shu Morioka Classification of circadian pain rhythms and pain characteristics in chronic pain patients: An observational study. Medicine, 2021 関連する論文 ■ Tanaka Y, Sato G, Imai R, Osumi M, Shigetoh H, Fujii R, Morioka S. Effectiveness of patient education focusing on circadian pain rhythms: A case report and review of literature. World J Clin Cases 2021; 9(17): 4441-4452 ■ 田中 陽一, 大住 倫弘, 佐藤 剛介, 森岡 周. 日中の活動が慢性疼痛の日内変動に及ぼす影響─右腕神経叢損傷後疼痛を有する1症例での検討─. 作業療法 2019; 38: 117-122, 2019 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 田中 陽一(タナカ ヨウイチ) 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 森岡 周(モリオカ シュウ) E-mail: s.morioka@kio.ac.jp Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
2021.07.05
パーキンソン病患者、高齢者の方向転換時の移動軌跡、足接地位置の特性~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
方向転換を円滑に行うには、移動軌跡や足の接地位置を適切に制御することが重要であると考えられます。畿央大学の岡田洋平 准教授、福本貴彦 准教授、慶應義塾大学の高橋正樹 教授、同大学院 萬礼応(現筑波大学 助教)、京都大学の青山朋樹 教授らの研究グループは、レーザーレンジセンサー(慶応義塾大学 高橋正樹 教授、萬礼応ら 開発)を用いた高精度歩行計測システムにより、パーキンソン病患者と高齢者がTimed up and go test(TUG)で方向転換を行う際の移動軌跡と足接地位置の特性について調査しました。その結果、パーキンソン病患者は、TUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し、その傾向が強い人ほど方向転換時の歩幅が低下することを明らかにしました。一方、高齢者はTUGにおいて歩隔(足の横幅)を広くして、マーカーのより奥の空間に足を接地して方向転換することが示されました。 この研究結果はGait & Posture誌(Footsteps and walking trajectories during the Timed Up and Go test in young, older, and Parkinson’s disease subjects)に掲載されています。 研究概要 方向転換は、加齢やパーキンソン病により障害されます。高齢者は方向転換時の歩数が増加し、速度が低下し、転倒リスクの増加につながります。パーキンソン病患者は、方向転換の速度がより低下し、歩幅も低下することなどが示されています。円滑な方向転換には、移動軌跡や足の接地位置を適切に制御することが重要であると考えられますが、これまで高齢者やパーキンソン病患者が、方向転換時にどのように移動軌跡や足接地位置をとる傾向にあるのか、またその傾向は方向転換時の歩幅などにどのように関連するかについては明らかにされていませんでした。畿央大学の岡田洋平准教授、福本貴彦准教授、慶應義塾大学の高橋正樹教授、同大学院 萬礼応(現筑波大学助教)、京都大学の青山朋樹教授らの研究グループは、レーザーレンジセンサー(慶応義塾大学 高橋正樹 教授、萬礼応ら 開発)を用いた高精度歩行計測システムにより、高齢者やパーキンソン病患者がTimed up and go test(TUG)で方向転換を行う際の移動軌跡と足接地位置の特性について検討しました。 その結果、パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し、その傾向が強い人ほど方向転換時の歩幅が低下することを明らかにしました。また、高齢者はTUGにおいて歩隔(足の横幅)を広くして、マーカーのより奥の空間に足を接地して方向転換することが示されました。 本研究のポイント ■ パーキンソン病患者と高齢者の方向転換時の移動軌跡と足接地位置を、レーザーレンジセンサーを用いた高精度歩行計測システムにより評価した。 ■ パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し、その傾向が強いほど方向転換時の歩幅が低下することが明らかになった。 ■ 高齢者は、方向転換において歩隔(足の横幅)を広くして、マーカーのより奥の空間に足を接地して方向転換することが示された。 研究内容 パーキンソン病患者、健常高齢者、健常若年者を対象に、レーザーレンジセンサー(LRS)を用いた高精度歩行計測システム(図1)により、TUGを行う際の脚移動軌跡と足接地位置について比較検証しました。従来のTUGは、椅子から立ち上がり、3m歩いて、180度方向転換し、戻ってきて、椅子に座るまでの所要時間を計測するのみでした。しかし、今回我々はLRSを用いた計測システムを利用することにより、肢移動軌跡や足接地位置に関する指標(マーカーと足接地位置の最短距離、スタート地点と足接地位置の最大前方距離、足接地位置の最大横幅など)や歩行の時空間指標(歩幅、歩隔、歩行率)もマーカーレスで計測可能でした。 図1 レーザーレンジセンサー(LRS)を用いた計測システム その結果、パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し、その傾向が強いほど、方向転換時の歩幅が低下することが明らかになりました。この結果は、パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地してより鋭い角度で方向転換しようとすることにより、方向転換時の歩幅の低下の程度が大きくなる可能性を示唆しています。一方、高齢者はTUGにおいて歩隔が広く、方向転換時のスタート地点と足接地位置の最大前方距離が大きいことが示されました。この結果は、高齢者が方向転換時に歩隔を広くして、側方への動的不安定性を減少させるための代償戦略をとっていることを表している可能性があります。 図2 結果 a. 3群のTUGにおける移動軌跡および足接地位置の代表例 b. マーカーと足接地位置の最短距離の群間比較 *<0.05 c. マーカーと足接地位置の最短距離と方向転換時の歩幅の関連(パーキンソン病患者) 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究の結果、パーキンソン病患者と高齢者の方向転換時の足接地位置や移動軌跡の特性が初めて示されました。今回得られた知見は、パーキンソン病患者の方向転換時の歩幅の低下の助長を防ぐため、あるいは高齢者の動的不安定性を軽減するための運動療法や動作指導を行う上で有用であると考えられます。今後は、パーキンソン病患者や高齢者の方向転換時の足接地位置や移動軌跡に関連する要因や他疾患における傾向についても検証していきたいと考えています。 論文情報 Okada Y, Yorozu A, Fukumoto T, Morioka S, Shomoto K, Aoyama T, Takahashi M. Footsteps and walking trajectories during the Timed Up and Go test in young, older, and Parkinson’s disease subjects. Gait & Posture, 2021. 問い合わせ先 畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター 岡田 洋平(オカダ ヨウヘイ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp
2021.06.28
第63回日本老年医学会学術集会で大学院生と教員が発表!~理学療法学科・健康科学研究科
2021年6月11日(金)~27日(日)にかけて第63回日本老年医学会学術集会がweb開催されました。昨年に引き続き、コロナウイルス感染症の影響により、シンポジウム、特別講演などは現地からのライブ配信、一般演題は事前に録画した発表資料を登録するという形で行われました。 畿央大学からは一般演題で、高取研究室の武田広道さん(博士後期課程3年)と私(松本)が発表を行いました。 <健康科学研究科 武田広道> 「要支援・要介護高齢者の身体活動量と身体機能・精神心理機能の関係」 本研究は、通所介護事業所を利用している要支援・要介護高齢者を対象に、身体活動量と身体機能、精神心理機能の関連について検討したものです。その結果、歩行速度とアパシー(意欲や、やる気の著しい低下)が身体活動量と関連していることが明らかになりました。良好な身体活動量を得るためには、身体機能、精神心理機能の両面に着目して関わる必要があると考えられます。 <理学療法学科 松本大輔> 「地域在住高齢者におけるWalkabilityと身体活動・社会参加との関連性:KAGUYAプロジェクト」 広陵町と共同で行われたKAGUYAプロジェクトの一環で行われた地域在住高齢者を対象とした調査結果から、社会参加・身体活動とWalkability(歩きやすさ)の関連を分析しました。その結果、Walkabilityの違いによる健康格差が存在し、特に、Walkabilityが低い地域(徒歩圏内に出かけるところが少ない)に住んでいる女性は社会参加や身体活動が少ないということが明らかになりました。Walkabilityが低い地域に特化した社会参加・身体活動への支援を含むまちづくりが必要であると考えられます。 本学会は「高齢化最先進国の医療の在り方―老年医学からの超高齢社会への提言―」というテーマで開催されました。例年の対面型では興味のある講演や演題が同じ時間帯で視聴できず、残念な思いをしていましたが、今回はオンデマンド配信があり、今までよりも多く視聴することができました。内容は昨年同様、フレイル、サルコペニアに関連するものが中心でしたが、今年はやはりコロナ禍での高齢者対策などの企画セッションも複数見られました。 このコロナ禍で、高齢者の方への体力測定を伴う対面式の調査がほとんどできておりませんが、他のグループでは電話やオンラインなどでフォローされているのが印象的でした。 老年医学会は理学療法の関連学会よりも歴史があり、多職種の方々が参加されています。学会に引き続き参加し、偏った知識、考えにならないように情報をアップデートしていきたいと思います。 理学療法学科 准教授 松本大輔 【関連記事】 第62回日本老年医学会学術集会で大学院生と教員2名が発表!~健康科学研究科 第30回日本老年学会・第59回日本老年医学会の合同総会でプロジェクト研究の成果を発表!~健康科学研究所
2021.06.23
【快挙】大学院生の半側空間無視に関する原著論文が権威ある雑誌「Cortex」に掲載!~健康科学研究科
大学院健康科学研究科博士後期課程に在籍している高村優作さんと藤井慎太郎さんの筆頭著者(equal contribution)の原著論文「Interaction between spatial neglect and attention deficit in patients with right hemisphere damage」がCortexに2021年6月12日に掲載されました。 Cortexは神経科学系では権威ある雑誌で、理学療法士が行った臨床研究が掲載されるのは極めて稀なことであり、快挙です。 本研究は本学博士後期課程修了し、現在国立障害者リハビリテーションセンター病院で勤務している大松聡子さん、本学 森岡周教授、本学客員教授で国立障害者リハビリテーションセンター研究所神経筋機能障害研究室長の河島則天さんらとの共同研究です。 本研究は、脳卒中後に生じる高次脳機能障害『半側空間無視』の新しい臨床評価手法の確立のために極めて重要な成果となりました。なお詳細は、高村さんが現在研究員として所属している国立障害者リハビリテーションセンター研究所のプレスリリースをご覧ください。 【国立障害者リハビリテーションセンター研究所プレスリリース】 http://www.rehab.go.jp/hodo/japanese/news_2021/news2021-01.pdf
2021.06.23
慢性腰痛患者における歩行時の体幹運動制御は環境に依存する~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
慢性腰痛における物の持ち上げ動作時の体幹の運動学は既に明らかにされていますが、歩行時の体幹制御や、それが環境によって変化するのかは明らかにされていませんでした。畿央大学大学院神経リハビリテーション研究室 西 祐樹 氏(博士後期課程)、森岡 周 教授らは、慢性腰痛患者では歩行時の体幹の変動性や安定性が異常になり、それは日常生活環境でより顕著になることを明らかにしました。また、これらの制御異常は、痛みや恐怖、QOLと関連していることを示しました。この研究成果はJournal of Pain Research 誌(Changes in Trunk Variability and Stability of Gait in Patients with Chronic Low Back Pain: Impact of Laboratory versus Daily-Living Environments)に掲載されています。 研究概要 慢性腰痛患者では、立位や持ち上げ動作中に体幹の変動性や安定性が異常になることは既に明らかにされています。一方で、歩行中での体幹運動制御異常は明らかにされていませんでした。加えて、腰痛の運動制御の研究は、整えられた実験環境のみで調査されており、実際に腰痛が発生する日常生活環境では計測されてきませんでした。畿央大学大学院神経リハビリテーション学研究室 西 祐樹 氏(博士後期課程)、森岡 周 教授らの研究チームは、無線加速度計を用いて、慢性腰痛患者における『外来リハビリ環境』および『日常生活環境』に応じた歩行制御の変化を調査しました。その結果、慢性腰痛患者では歩行時における体幹の変動性や安定性が異常になっていることが明らかになり、それは日常生活環境でより顕著になることが分かりました。また、これらの日常生活環境での歩行制御の変化は、痛みや恐怖、QOLと関連していることも明らかになりました。 本研究のポイント ■ 慢性腰痛患者における外来リハビリ環境と日常生活環境での歩行時の体幹制御を評価した。 ■ 慢性腰痛患者では、歩行時の体幹の変動性や安定性が異常となっており、それは日常生活環境でより顕著になった。 ■ これらの制御異常は、痛みや恐怖、QOLと関連していることが明らかになった。 研究内容 健常者と慢性腰痛患者を対象に、腰部に加速度計を装着し、『外来リハビリ環境』と、3日間の『日常生活環境』にて計測しました。加速度データから前後軸、左右軸それぞれにおいて、変動性の変数としてストライド間のSDおよびマルチスケールエントロピー、安定性の変数として最大リヤプノフ指数を算出しました。その結果、慢性腰痛患者における左右軸のばらつき、前後軸の不安定性が増加しており、それは日常生活環境でより顕著になりました。これらの歩行制御の変容は、日常生活環境においてのみ、痛みや恐怖、QOLと正の相関関係が認められました。このことから、外来リハビリ環境だけでは慢性腰痛患者の運動制御に関する病態を把握しきれていない可能性が考えられます。また、左右軸は痛みや恐怖に基づいた代償的なばらつきの変化により、安定性を保持している一方で、前後軸は代償戦略が機能せずに不安定性が高くなっており、QOL の低下にまで波及していると考えられます。以上のことから、本研究は、腰痛の増悪予防や病態把握における日常生活環境での歩行の質的評価の重要性を示唆しました。 図1.歩行時の体幹制御の指標(© 2021 Yuki Nishi) 歩行時の加速度の前後軸、左右軸からストライド間のSD、安定性の指標として最大リヤプノフ指数、変動性の指標としてマルチスケールエントロピーを算出。 本研究の臨床的意義および今後の展開 腰痛の増悪予防や病態把握における日常生活環境での歩行の質的評価の重要性を示唆しました。今後はケースシリーズや縦断研究で運動制御と腰痛の因果関係を明らかにしていく予定です。 論文情報 Yuki Nishi, Hayato Shigetoh, Ren Fujii, Michihiro Osumi, Shu Morioka Changes in Trunk Variability and Stability of Gait in Patients with Chronic Low Back Pain: Impact of Laboratory versus Daily-Living Environments Journal of pain research, 2021 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 西 祐樹(ニシ ユウキ) 教授 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2021.06.16
【研究成果】要支援・要介護高齢者の身体活動量とアパシーとの関連を明らかに~健康科学研究科
定期的な身体活動が早期死亡や慢性疾患、心身機能低下の予防に効果があることはこれまでに多く報告されています。しかし、本邦では運動習慣者や日常生活上の歩数を増加させる取り組みが行われているにも関わらず、長年改善に至っていない現状があります。 これまでの身体活動量に関連する要因についての研究では、一般高齢者を対象にしたものが多く、要支援・要介護高齢者の身体活動量に影響を及ぼす要因について明らかとなっていません。畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 武田広道 氏と高取克彦 教授 らは介入研究のベースライン評価のデータを使用し、要支援・要介護高齢者の身体活動量とアパシー(意欲ややる気の著しい低下)、身体機能、心理機能の関連について明らかにすることを目的に本研究を行いました。 この研究成果は(公社)日本理学療法士協会の協会誌「理学療法学」に掲載されています。 研究概要 通所介護事業所を利用している要支援・要介護高齢者65名に対して身体活動量、身体機能、精神心理機能の評価を行い、身体活動量と関連している要因についての分析を行いました。 本研究のポイント ■要支援・要介護高齢者の身体活動量に関連している要因が明らかになった。 ■身体活動量に関連しているのは年齢や性別に関わらず、アパシー(意欲ややる気の著しい低下)と歩行速度が関連していることが分かった。 研究内容 データ解析の結果、身体活動量が高い高齢者と比較し、身体活動量が低い高齢者は、通常歩行速度、意欲低下や無関心を示す指標であるアパシー、健康統制感(Health locus of control: HLC)が有意に悪い値を示していました。 ※HLCとは社会的学習理論に基づくLocus of control(統制の所在)の考えを保健行動の領域に適用したものです.内的統制の者は健康を自分自身の努力によって得られると信じ,外的統制の者は医療従事者や運によって得られると信じる傾向があるとされています。 また、身体活動量に影響を及ぼす要因についての分析では、対象者の年齢と性別を調整した後で、アパシーと通常歩行速度が重要な因子であることが分かりました。 本研究の意義および今後の展開 今回の研究は要支援・要介護高齢者の身体活動量に影響を及ぼす要因について検討したものです。現在は本研究の対象者に12週間の在宅運動プログラムを実施してもらい、要支援・要介護高齢者同士で運動状況のモニタリング、フィードバック、情緒的サポートの介入を行うことの運動継続効果についての分析が済んでいます。また、介入を終了してさらに12週間経過した時点で、介入効果が維持できているかも追跡調査をしています。今後は高齢者の運動継続や身体活動量向上に効果がある取り組みについて、明らかにしたいと考えています。 論文情報 武田広道・高取克彦 要支援・要介護高齢者の身体活動量とアパシーの関連 理学療法学(J-STAGEでの早期公開日:2021年6月9日) 問い合わせ先 畿央大学 理学療法学科 教授 高取 克彦(タカトリ カツヒコ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: k.takatori@kio.ac.jp
2021.06.16
患者教育プログラムは変形性膝関節症患者さんの自己効力感の向上に有効か?~理学療法学科教員
研究成果が、筋骨格系の疾患や障害に関する国際学術誌に掲載されました! ~変形性膝関節症におけるセルフマネージメント教育プログラムの自己効力感に対する効果~ 変形性膝関節症(膝OA)の患者さんに対する患者教育プログラムは患者さんの自己効力感を高めることが出来るのか?という疑問についてシステマティックレビューという手法を用いて調査した研究成果が、筋骨格系の疾患や障害に関する国際学術誌「BMC Musculoskeletal Disorders」に掲載されました。 論文のタイトルは「Effects of self-management education programmes on self-efficacy for osteoarthritis of the knee: a systematic review of randomised controlled trials」(変形性膝関節症におけるセルフマネージメント教育プログラムの自己効力感に対する効果:無作為化比較試験のシステマティックレビュー)です。 膝OAの患者さんに対する理学療法の効果はこれまでに多くの研究で報告されています。例えば運動は膝OA患者さんにとって最も重要で有効な介入手段の一つであることが明らかにされています。しかし同時に運動を継続して行うことが難しいことも多く報告されています。運動が続かない原因については様々な要因が考えられますが、我々はその一つとである“自己効力感”に注目しました。自己効力感とは、“自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できるという、自分の可能性についての認知や自信”のことを言います。 我々の先行研究では自己効力感が高い膝OA患者さんほど日々の身体活動量が多い傾向があることを報告しています。 今回の研究は既に公表されている無作為化比較試験(RCT)など複数の臨床研究を、一定の基準と一定の方法に基づいて集めて、系統的にまとめる、システマティックレビューという方法を用いて行いました。今回は対面で行われる医療専門家による教室形式の患者教育プログラムを対象に研究を行いました。その結果、患者教育プログラムは膝OAの痛みやその他の症状に対する自己効力感を高める可能性が示唆されました。 一方で集められた研究の数が少なく、また研究のデザインがまちまちであったため、研究の疑問に対してはっきりと結論付けることができる結果は得られませんでした。 日本では膝OA患者さん向けの系統立った共通の患者教育プログラムはみられませんが、今後は日本人向けの患者教育プログラムの構築も必要であると考えています。 Uritani D, Koda H, Sugita S. Effects of self-management education programmes on self-efficacy for osteoarthritis of the knee: a systematic review of randomised controlled trials. BMC Musculoskeletal Disorders. 22. 515. 2021. (無料で閲覧、ダウンロードが可能です) 健康科学研究科准教授 健康科学部理学療法学科准教授 瓜谷 大輔 【関連記事】 「変形性膝関節症」に関する共同研究が論文として公表されました!~理学療法学科教員 変形性膝関節症に関する研究の途中経過が学会誌に掲載されました~理学療法学科教員 理学療法学科卒業生の卒業研究が国際学術雑誌に掲載!~理学療法学科 「足趾握力」に関する論文が国際誌に掲載!~理学療法学科教員
2021.06.16
痛みへの恐怖は運動のプログラム中枢を変容させる~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
ヒトは痛みを怖がるとうまく身体を動かせなくなりますが、その脳メカニズムは明らかになってはいませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘 准教授、森岡 周 教授らは、東京大学医学部付属病院緩和ケア診療部 住谷昌彦 准教授らと共同で、痛みを怖がりながら運動を継続していく時の脳活動を調べ、身体を動かそうと意識をすると運動プログラム中枢の活動に異常が生じることを明らかにしました。この研究成果は、Behavioural Brain Research誌(Fear of movement-related pain disturbs cortical preparatory activity after becoming aware of motor intention)に掲載されています。 研究概要 痛みを怖がると身体をうまく動かせなくなることは多くの研究で明らかにされてきており、これは運動をプログラムしている “脳” の活動異常によるものだと考えられてきました。しかしながら、具体的に脳にどのような活動異常が生じるのかは明らかにされていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘 准教授らは、健常成人18名を対象に、ボタンを押したら痛みが与えられる実験状況を設定して、ボタンを押すことを怖がっている時(ボタンを押す直前)の脳波活動を計測しました(図1)。 その結果、痛みを怖がりながらボタンを押す条件では、ボタンを押す直前に出現する「運動準備電位」の波形に異常が認められました。さらに詳細に分析すると、この時には、行動抑制の機能がある前頭領域の過活動と、運動プログラム中枢である補足運動野・帯状皮質の過活動が同時に認められました。これは、いわば、『ブレーキを踏みながらアクセルと強く踏んでいるような状態』で、自らで行動を抑制しながらも、無理をして行動を起こしている状態だと考えられます。おそらく、この脳の活動異常が続くことで、運動の異常パターンが出現するのだと考えられます。 加えて、興味深いことに、この実験では、被験者に「自分がボタンを押そうとおもった瞬間」をLibet paradigmで記録しており、上記のような脳の活動異常は「ボタンを押そうと思った」 という自らの意思が顕在化した後から生じていることが明らかになりました。つまり、運動を意識すればするほど、あるいは痛みを意識すればするほど、脳の活動が異常になりやすいことを示唆しています。 参考:Libet paradigm(YouTube) 本研究のポイント ■ 痛みを怖がりながら身体を動かすと運動のプログラム中枢に活動異常が生じる ■ そのような脳の活動異常は、運動の意思が顕在化された後から生じる 研究内容 以下の図1のような手順で実験を進めました。被験者は、目の前に用意された特殊な時計(2550ミリ秒で1周する時計)をみながら、好きなタイミングでボタンを押すように指示されました。ボタンを押すと痛みをともなう電気刺激が与えられ、これを続けると被験者はボタンを押すことを怖がるようになります。また、ボタンを押した後には、「時計の針がどこの時にボタンを押したいと思ったか?」に対して回答をします。多くの被験者は、実際にボタンを押した時間の0.2 – 0.5秒前の時間を回答しました。 図1:実験手順 このような実験タスクをすると、ボタンを押す直前に「運動準備電位」という図2のような波形が観察されました。この運動準備電位は、運動のプログラムを反映しており、この振幅や潜時に異常が生じるということは、運動プログラム中枢に何らかの異常が生じていることを意味します。実験の結果では、痛い条件での運動準備電位は、痛くない条件での運動準備電位よりも振幅が大きかったです。また、この振幅の異常は、自分でボタンを押そうという意思が顕在化した後(=自分の運動意図に気づいた後)に生じていました。 図2:各条件における運動準備電位 この時間帯でSource解析を進めると、図3のような行動抑制の機能がある前頭領域の過活動と、運動プログラム中枢である補足運動野・帯状皮質の過活動が同時に認められました。 図3:痛みへの恐怖によって運動プログラム中枢に認められた異常な脳活動 本研究の臨床的意義 痛みへの恐怖が運動を悪くする脳メカニズムの一端が明らかになりました。また、これは運動の意思が顕在化された後に生じる脳活動の異常であることから、運動/痛みを過度に顕在化させないようなリハビリテーションの重要性を示唆していると考えます。 論文情報 Osumi M, Sumitani M, Nishi Y, Nobusako S, Dilek B, Morioka S. Fear of movement-related pain disturbs cortical preparatory activity after becoming aware of motor intention. Behav Brain Res. 2021 May 26;411:113379. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 准教授 大住倫弘(オオスミ ミチヒロ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: m.ohsumi@kio.ac.jp
2021.06.04
条件付けられた痛みの恐怖は運動制御を変調させる~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
筋骨格系の障害を持つ患者さんの中には、目標に向かって手を伸ばす動作により繰り返し痛みを感じることで、運動に対する恐怖を感じる方が数多くいます。そのような痛みや運動恐怖は生活の質に大きな不利益をもたらします。畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 西 祐樹と森岡 周 教授らは、東京大学 住谷 昌彦 准教授を中心とする研究グループと共同で、痛みの恐怖条件付けモデルを用いて、痛みに対する予期や恐怖に関連した恐怖によって、到達把握運動の制御が変調することが明らかにしました。この研究成果はScientific Reports誌(Kinematic Changes in Goal-directed Movements in a Fear-conditioning Paradigm)に掲載されています。 研究概要 筋骨格系の障害を持つ患者さんの中には、何かの動作をするたびに繰り返し痛みを経験することで、運動に対して恐怖心を抱くようになります。運動恐怖が生じると、痛みを最小限に抑えるために身体の運動戦略を適応させていきます。例えば、ゆっくり動かすと痛みがマシになるなら、患者さんは肢をゆっくり動かすように適応させていきます。一方で、保護的な運動戦略は、身体の器質的な障害や痛みを助長し、より大きな障害につながることがあります。畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 西 祐樹らの研究チームは、痛みの恐怖条件付けモデルを用いて、目標指向性到達における運動軌跡や筋収縮の変化を調査しました。その結果、運動に伴う痛みに対する予期や恐怖によって、得られた感覚に基づいて運動を調整するフィードバック運動制御が先行して緩慢化し、その後、予測的に運動を遂行するフィードフォワード運動制御が緩慢化することを明らかにしました。また、運動に伴う痛みがなくなると、フィードバック制御が先行して元に戻り、その後、フィードフォワード制御が元に戻りました。加えて、そのフィードフォワードやフィードバック運動制御の変調の背景には主動作・拮抗筋の共収縮が関与していることを明らかにしました。 本研究のポイント ■ 痛みの恐怖条件付けを用いて、到達把握運動の運動軌跡と筋収縮を計測した。 ■ 運動に伴う痛みの予期や恐怖によって、運動が緩慢化し、主動作・拮抗筋の共収縮が増加した。 ■ 運動に伴う痛みがなくなると、運動の緩慢化や共収縮が徐々に元に戻った。 研究内容 到達把握運動における痛みの恐怖条件付けとして、練習段階では痛み刺激は与えられませんが、次の獲得段階では運動に伴って痛みが与えられたり、与えられなかったりしました。その後の消去段階では練習段階と同様に、運動に伴う痛みが与えられませんでした(図1)。 図1.到達把握運動における痛みの恐怖条件付け(© 2021 Yuki Nishi) 被験者は到達把握運動を行い、運動を完了した直後に痛みが与えられる。 運動制御の指標として、到達把握運動をフィードフォワード制御とフィードバック制御に分類し、それぞれに要した時間を算出しました。また、上腕二頭筋と上腕三角筋の筋電図を計測し、時間周波数解析という解析方法を用いて、筋収縮の様相を評価しました。その結果、運動に伴う痛みに対する予期や恐怖によって、得られた感覚に基づいて運動を調整するフィードバック運動制御が先行して緩慢化し、その後、予測的に運動を遂行するフィードフォワード運動制御が緩慢化することを示しました。また、運動に伴う痛みがなくなると、フィードバック制御が先行して元に戻り、その後、フィードフォワード制御が元に戻りました。加えて、そのフィードフォワードやフィードバック運動制御の変調の背景には主動作・拮抗筋の共収縮が関与していることを明らかにしました。これらの結果は、筋骨格系の障害における保護的なフィードフォワードおよびフィードバック運動の異常を説明できる可能性を示唆します。加えて、痛みの慢性化に影響を及ぼす要因を特定するためには、運動制御障害が生じるプロセスを詳しく評価することが重要であるということを示唆しています。 本研究の臨床的意義および今後の展開 筋骨格系の障害における保護的な運動の異常を詳細に説明できる可能性を示唆し、痛みの慢性化に影響を及ぼす要因を特定するために、運動制御障害の獲得過程を評価することの重要性を示しました。今後は筋骨格系の障害による運動制御や筋出力の詳細な分析を行い、その結果に基づいた介入を研究する予定です。 論文情報 Yuki Nishi, Michihiro Osumi, Masahiko Sumitani, Arito Yozu, Shu Morioka Kinematic Changes in Goal-directed Movements in a Fear-conditioning Paradigm Scientific Reports, 2021 関連する論文・記事 Nishi Y, Osumi M, Nobusako S, Takeda K, Morioka S. Avoidance Behavioral Difference in Acquisition and Extinction of Pain-Related Fear. Front Behav Neurosci. 2019 Oct 11;13:236. 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 西 祐樹(ニシ ユウキ) 教授 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp


