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健康科学専攻(修士課程)の新着情報一覧

健康科学専攻(修士課程)の新着情報一覧

2021.06.04

条件付けられた痛みの恐怖は運動制御を変調させる~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

筋骨格系の障害を持つ患者さんの中には、目標に向かって手を伸ばす動作により繰り返し痛みを感じることで、運動に対する恐怖を感じる方が数多くいます。そのような痛みや運動恐怖は生活の質に大きな不利益をもたらします。畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 西 祐樹と森岡 周 教授らは、東京大学 住谷 昌彦 准教授を中心とする研究グループと共同で、痛みの恐怖条件付けモデルを用いて、痛みに対する予期や恐怖に関連した恐怖によって、到達把握運動の制御が変調することが明らかにしました。この研究成果はScientific Reports誌(Kinematic Changes in Goal-directed Movements in a Fear-conditioning Paradigm)に掲載されています。   研究概要 筋骨格系の障害を持つ患者さんの中には、何かの動作をするたびに繰り返し痛みを経験することで、運動に対して恐怖心を抱くようになります。運動恐怖が生じると、痛みを最小限に抑えるために身体の運動戦略を適応させていきます。例えば、ゆっくり動かすと痛みがマシになるなら、患者さんは肢をゆっくり動かすように適応させていきます。一方で、保護的な運動戦略は、身体の器質的な障害や痛みを助長し、より大きな障害につながることがあります。畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 西 祐樹らの研究チームは、痛みの恐怖条件付けモデルを用いて、目標指向性到達における運動軌跡や筋収縮の変化を調査しました。その結果、運動に伴う痛みに対する予期や恐怖によって、得られた感覚に基づいて運動を調整するフィードバック運動制御が先行して緩慢化し、その後、予測的に運動を遂行するフィードフォワード運動制御が緩慢化することを明らかにしました。また、運動に伴う痛みがなくなると、フィードバック制御が先行して元に戻り、その後、フィードフォワード制御が元に戻りました。加えて、そのフィードフォワードやフィードバック運動制御の変調の背景には主動作・拮抗筋の共収縮が関与していることを明らかにしました。   本研究のポイント ■ 痛みの恐怖条件付けを用いて、到達把握運動の運動軌跡と筋収縮を計測した。 ■ 運動に伴う痛みの予期や恐怖によって、運動が緩慢化し、主動作・拮抗筋の共収縮が増加した。 ■ 運動に伴う痛みがなくなると、運動の緩慢化や共収縮が徐々に元に戻った。   研究内容 到達把握運動における痛みの恐怖条件付けとして、練習段階では痛み刺激は与えられませんが、次の獲得段階では運動に伴って痛みが与えられたり、与えられなかったりしました。その後の消去段階では練習段階と同様に、運動に伴う痛みが与えられませんでした(図1)。     図1.到達把握運動における痛みの恐怖条件付け(© 2021 Yuki Nishi) 被験者は到達把握運動を行い、運動を完了した直後に痛みが与えられる。   運動制御の指標として、到達把握運動をフィードフォワード制御とフィードバック制御に分類し、それぞれに要した時間を算出しました。また、上腕二頭筋と上腕三角筋の筋電図を計測し、時間周波数解析という解析方法を用いて、筋収縮の様相を評価しました。その結果、運動に伴う痛みに対する予期や恐怖によって、得られた感覚に基づいて運動を調整するフィードバック運動制御が先行して緩慢化し、その後、予測的に運動を遂行するフィードフォワード運動制御が緩慢化することを示しました。また、運動に伴う痛みがなくなると、フィードバック制御が先行して元に戻り、その後、フィードフォワード制御が元に戻りました。加えて、そのフィードフォワードやフィードバック運動制御の変調の背景には主動作・拮抗筋の共収縮が関与していることを明らかにしました。これらの結果は、筋骨格系の障害における保護的なフィードフォワードおよびフィードバック運動の異常を説明できる可能性を示唆します。加えて、痛みの慢性化に影響を及ぼす要因を特定するためには、運動制御障害が生じるプロセスを詳しく評価することが重要であるということを示唆しています。   本研究の臨床的意義および今後の展開 筋骨格系の障害における保護的な運動の異常を詳細に説明できる可能性を示唆し、痛みの慢性化に影響を及ぼす要因を特定するために、運動制御障害の獲得過程を評価することの重要性を示しました。今後は筋骨格系の障害による運動制御や筋出力の詳細な分析を行い、その結果に基づいた介入を研究する予定です。   論文情報 Yuki Nishi, Michihiro Osumi, Masahiko Sumitani, Arito Yozu, Shu Morioka Kinematic Changes in Goal-directed Movements in a Fear-conditioning Paradigm Scientific Reports, 2021   関連する論文・記事 Nishi Y, Osumi M, Nobusako S, Takeda K, Morioka S. Avoidance Behavioral Difference in Acquisition and Extinction of Pain-Related Fear. Front Behav Neurosci. 2019 Oct 11;13:236.   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 西 祐樹(ニシ ユウキ)   教授 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2021.05.31

【症例報告】疼痛律動性と身体活動量に焦点を当てた患者教育の効果~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

近年、日内で疼痛強度が変動する疼痛律動性の存在が報告されています。こうした疼痛律動性を把握することは、慢性疼痛への治療戦略を考えるうえで有用であり、様々な疾患で律動性の調査が行われています。しかし、これまでの研究では疼痛律動性を考慮した治療介入に関する報告はされておらず、律動性を考慮することで具体的にどのような効果があるのかは検討されていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程 田中 陽一 氏 と森岡 周 教授 らは、慢性疼痛症例を対象に疼痛律動性、身体活動量の詳細な評価に基づいた患者教育介入を行い、介入後の疼痛律動性、身体活動量に良好な変化が得られたことを報告しました。この研究成果は、World Journal of Clinical Cases誌 (Effectiveness of patient education focusing on circadian pain rhythms: A case report and review of literature)に掲載されています。   研究概要 慢性疼痛への介入では、患者のQOLとADLの向上を目指すべきであり、疼痛管理に重点を置くことが重要である。本研究では、疼痛律動性と日中の身体活動量との関係に基づいて患者教育介入を行った。症例は約8年前から神経障害性疼痛を呈している60歳代の男性であった。日常生活活動の重要性、疼痛律動性、身体活動量について初期評価を行った結果、軽強度活動(light-intensity physical activity:LIPA)を多く行った日の方が、LIPAをあまり行わなかった日よりも日中の痛みが低いことが明らかとなった。そのため、患者教育では、午後に悪化しがちな痛みを軽減する方法を中心に説明し、午後のLIPAを維持するために、重要度評価で重要度が高かった「散歩」を具体的な手段として提示し、症例の行動変容を促した。再評価では、注目していた午後のLIPAが増加し、疼痛律動性にも変化が見られた。複合的評価に基づく患者教育は、疼痛律動性と身体活動に対し肯定的な結果を引き出すことができた。   本研究のポイント ■ 慢性疼痛を有する1症例の疼痛律動性、身体活動量を中心とした複合的評価に基づく患者教育を実施し、介入後の痛みの律動性と身体活動の変化を検討した。 ■ 本症例では、LIPAが痛みの律動性に関与していることを示した。 ■ LIPAに加え、本人が重要と感じている活動(ex. 散歩)を行動変容の具体的手段に活用することの重要性を示した。   研究内容 慢性疼痛を有する1症例を対象に、疼痛律動性と身体活動量の評価と、日常生活の重要度評価を行った。疼痛律動性は1日6時点を7日間評価した。身体活動量は7日間身体活動量計を装着し、装着時間内のMETSを算出した。初期評価の結果、LIPAが日中の疼痛強度に影響を与える可能性を示唆した(図1)。初期評価に基づいて、午後からの疼痛増悪に着目し、午後のLIPAを維持するために、重要度評価で重要度が高かった「散歩」を具体的な手段として提示し行動変容を促した。再評価では、注目していた午後のLIPAが増加し、疼痛律動性にも変化が見られた(図2、3)。   図1:軽強度活動(LIPA)の高い日と低い日における疼痛律動性の比較 LIPAが高い日の方が午後からの疼痛強度が低値を示した     図2:各時間帯における身体活動量の変化 再評価では着目していた午後からのLIPAが増加した(右図)   図3:疼痛律動性の変化 再評価では日内の痛みの最弱点が18時に変化した(右図)   本研究の意義および今後の展開 本研究成果は、慢性疼痛患者への具体的な治療介入のために、疼痛律動性を評価する意義を示したものです。そのため、今後はサンプルサイズを増やし、様々なタイプの律動性、疼痛性質を持った慢性疼痛患者においても治療介入による効果検証を進めていく予定です。   論文情報 Tanaka Y, Sato G, Imai R, Osumi M, Shigetoh H, Fujii R, Morioka S Effectiveness of patient education focusing on circadian pain rhythms: A case report and review of literature World Journal of Clinical Cases. 2021   関連する論文 田中 陽一、 大住 倫弘、 佐藤 剛介、 森岡 周. 日中の活動が慢性疼痛の日内変動に及ぼす影響 ─右腕神経叢損傷後疼痛を有する1症例での検討─. 作業療法 2019; 38: 117-122, 2019   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 田中 陽一(タナカ ヨウイチ) E-mail: kempt_24am@yahoo.co.jp   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 森岡 周(モリオカ シュウ) E-mail: s.morioka@kio.ac.jp Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600

2021.05.31

サーマルグリル錯覚経験は、脳卒中後や脊髄損傷後に生じる痛みの性質と似ている~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

温かいモノと冷たいモノを同時に触ると、本当は熱くないはずなのに、それを「熱い」とか「痛い」と経験することがあり、この経験は “サーマルグリル錯覚” と呼ばれています。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘 准教授、森岡 周 教授らは、東京大学医学部付属病院緩和ケア診療部 住谷昌彦 准教授らと共同で、サーマルグリル錯覚での「痛みの性質」を分析し、その痛みの性質が、脳卒中後や脊髄損傷後に生じる痛みの性質と似ていることを明らかにしました。この研究成果はScand J Pain誌(Pain quality of thermal grill illusion is similar to that of central neuropathic pain rather than peripheral neuropathic pain)に掲載されています。   研究概要 “サーマルグリル錯覚” とは、温かい棒と冷たい棒が交互に並べられているグリルに手を置くと、痛みをともなう灼熱感、ズキズキする痛み、しびれたような痛みが惹起される現象です(図1)。この現象は、脊髄-大脳皮質における中枢神経メカニズムによって生じると説明されていますが、実際に、そのような中枢神経が損傷した患者さんの痛みと類似しているのかは明らかにされていませんでした。 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘 准教授らは、まずは健常者137名を対象に、サーマルグリル錯覚によって生じる痛みの性質を分析し、その痛みの性質が、帯状疱疹後神経痛(PHN)、三叉神経痛(TN)、脊髄損傷後疼痛(SCI)、脳卒中後疼痛(Stroke)における痛みの性質と似ているのか/異なっているのかを調査しました。その結果、サーマルグリル錯覚における痛みの性質は、末梢神経メカニズムに起因するような帯状疱疹後神経痛(PHN)、三叉神経痛(TN)とは類似しておらず、中枢神経メカニズムに起因するような脊髄損傷後疼痛(SCI)、脳卒中後疼痛(Stroke)と類似していることが明らかになりました。この研究は、サーマルグリル錯覚が中枢神経メカニズムによって生じるという説を支持したことになります。       図1:サーマルグリル錯覚を誘発するための実験セット   本研究のポイント ■ 温かい棒と冷たい棒が交互に並べられているグリルの上に手を置くと痛みを感じる(サーマルグリル錯覚) ■ サーマルグリル錯覚における痛みの性質は、中枢神経システムに問題がある脊髄損傷後疼痛(SCI)、脳卒中後疼痛(Stroke)と類似している   研究内容 研究1:健常者137名を対象にして、サーマルグリル錯覚によって生じる痛みの性質を分析しました。 その結果、「焼けるような痛み」のほかにも、「ずきんずきん」、「うずくような」、「しびれるような」などの痛みがサーマルグリル錯覚によって経験されました。      図2:健常者がサーマルグリル錯覚で経験する痛みの種類   研究2:帯状疱疹後神経痛(PHN)131名、三叉神経痛(TN)83名、脊髄損傷後疼痛(SCI)42名、脳卒中後疼痛(Stroke)31名における痛みの性質が、研究1で抽出されたサーマルグリル錯覚によって生じる痛みの性質とどれだけ類似/相違しているのかをMultiple correspondence analysis (MCA) と cross tabulation analysisを組み合わせて分析しました。その結果、サーマルグリル錯覚に特異的な痛みの性質は、脊髄損傷後疼痛(SCI)、脳卒中後疼痛(Stroke)の性質と類似していることが明らかになりました(図3)。     図3:痛みの性質の類似性/相違性 Multiple correspondence analysis (MCA)   本研究の意義および今後の展開 サーマルグリル錯覚の痛みが、脊髄損傷後疼痛あるいは脳卒中後疼痛と類似していることが明らかになったことから、この実験的疼痛を利用して、脊髄損傷後疼痛あるいは脳卒中後疼痛の新規リハビリテーションを考案することが可能であると考えています。加えて、このような実験手続きによって、「脊髄損傷後疼痛・脳卒中後疼痛を有する方がどのような痛みを経験しているのか?」を健常者が疑似的に体験することができるため、リハビリテーション専門家と患者さんの痛みが共有されやすくなると考えています。   論文情報 Osumi M, Sumitani M, Nobusako S, Sato G, Morioka S. Pain quality of thermal grill illusion is similar to that of central neuropathic pain rather than peripheral neuropathic pain. Scand J Pain. 2021   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 准教授 大住倫弘(オオスミ ミチヒロ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: m.ohsumi@kio.ac.jp  

2021.05.19

第25回日本ペインリハビリテーション学会学術大会でダブル受賞!!~健康科学研究科

2021年5月15日(土)、16日(日)にWebにて開催されました第25回日本ペインリハビリテーション学会学術大会において、西祐樹さん(博士後期課程)が最優秀賞、林田一輝さん(客員研究員)が優秀賞を受賞しました。今回は、その二人からレポートをいただきました。     第25回日本ペインリハビリテーション学会学術大会において、発表してまいりました。 本学会では、「難治性疼痛の挑戦」というテーマで、痛みの難治化に対する予防と対策についての適応と限界を議論し、解決すべき課題を明らかにしていくという明確なビジョンのもと、特別講演や教育講演、シンポジウムが催されました。登壇された先生方の痛みに対する病態評価に基づいた薬物療法やニューロリハビリテーション、認知行動療法等への介入の視点に感銘を受けるとともに、ポジティブな面ばかりに囚われず、評価・介入の限界点などのネガティブな面を明確化することも、次の臨床につながるのだと再考致しました。 また、一般演題は110演題が登録され、積極的なディスカッションがweb上で繰り広げられました。   私は、「慢性腰痛者における歩行時の体幹運動制御の変調は環境に依存する―非線形解析を用いて―」という演題で発表を行い、最優秀賞を受賞いたしました。カオス解析を用いて日常生活環境における歩行を質的に分析した結果を報告いたしました。数多くの演題の中から最優秀賞に選んでいただけたことは、大変光栄に思います。今後もペインリハビリテーションの発展に貢献できるよう、日々精進致します。また、当研究室の林田一輝さん(客員研究員)も「他者に強制された行為に伴う痛みは行為主体感を減弱させる」という演題で優秀賞を受賞されており、大変うれしく思います。 加えて、初の座長を務めさせていただき、様々なことに気を配りながら、的確な発言が求められ、その大変さを身に染みて感じました。座長ならではの視点で発表を聴講することができ、貴重な経験をさせていただきました。     最後になりましたが、今回の発表にあたりご指導いただきました森岡周教授と、研究室の皆さま、研究データ収集を手伝ってくださった皆様に深く感謝申し上げます。   健康科学研究科博士後期課程 西佑樹     第25回日本ペインリハビリテーション学会学術大会において研究成果を発表してまいりました。私は本学術大会には初めての発表であり、新たに触れる情報が多く新鮮な気持ちで参加することができました。   本大会は平川大会長の下、「難治性疼痛への挑戦」というテーマで開催されました。どの特別公演やシンポジウムも現場へのメッセージ性が強く、臨床にいる私にとってまだまだ勉強不足であることを痛感させられました。 一般演題においては、科学的妥当性が欠けていると質疑応答ですぐさま指摘が入り、web開催でしたが緊張感が保たれている印象を受けました。   私は「他者に強制された行為に伴う痛みは行為主体感を減弱させる」という題で発表し、優秀賞を受賞させていただくことができました。内容を簡単に述べると、運動課題を自分で選択した時と比較して他者に強制された時は、運動に伴う痛みを他者のせいにしてしまうということを実験的に明らかにしました。オンラインのため、どれだけの質問者がいるか把握できず、一つの質問にどれだけの時間をかけて答えるべきかわからない、といったオンラインならではの難しさを感じました。賞をいただくことは初めての事であり非常に嬉しく思います。   発表の準備に際してたくさんの指摘を頂いた森岡周教授ならびに研究室のメンバーには本当に感謝しています。みんなで作り上げた感じがあり、何倍も嬉しく思っております。     また、同研究室の西祐樹(博士後期課程)さんは、「慢性腰痛者における歩行時の体幹運動制御の変調は環境に依存する―非線形解析を用いて 一」という演題で最優秀賞を受賞しました。西さんは私の演題の共同演者でもあり、二冠達成は素晴らしいことだと思います。   本学術大会に参加し、発表準備を含めて非常に貴重な経験をさせていただきました。本研究領域の発展のためにも益々努力していこうと思います。   ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 林田一輝

2021.05.06

7/3(土)第1回 痛みのニューロリハビリテーション研究会―THE FIRST TAKE―(WEB)を開催します。

2021.05.06

【研究成果発表】姿勢バランスに重要な前庭脊髄路機能の評価の再現性、左右差および立位バランスとの関連性を調査~健康科学研究科

ヒトは多くの場合、姿勢バランスを非自覚的にコントロールしています。前庭脊髄路は非自覚的な姿勢のコントロールを行う上で重要な役割を果たす神経機構の一つです。前庭脊髄路の機能は、経皮的に前庭系を電気刺激することによってH波と言われる脊髄前角細胞の興奮性の変化の程度を計測することで評価されてきていました。しかし、この方法の再現性や左右差、姿勢バランスとの関連については明らかにされていませんでした。畿央大学大学院の中村潤二客員准教授(西大和リハビリテーション病院)、岡田洋平准教授らの研究チームは、ヒトにおける前庭脊髄路の機能評価の再現性や左右差、立位バランスとの関連性を明らかにする研究を行いました。この研究成果はNeuroscience Letters誌(Reliability and laterality of the soleus H-reflex following galvanic vestibular stimulation in healthy individuals)に掲載されています。   研究概要 前庭脊髄路は抗重力姿勢を保持する上での抗重力筋の制御に重要な役割を果たすと考えられています。ヒトにおいて非侵襲的に前庭脊髄路興奮性を評価する方法として、ヒラメ筋H反射を誘発する脛骨神経刺激の前に直流前庭電気刺激(galvanic vestibular stimulation (GVS)を条件刺激として与えることによるヒラメ筋H反射の促通率を評価するという神経生理学的方法があります。この方法は、耳後部に電極を貼付し直流電流で経皮的に前庭系を刺激し(GVS)、前庭神経、前庭脊髄路を介して、脊髄の抗重力筋の運動ニューロン群の興奮性の変化を評価していると考えられています。畿央大学大学院の中村潤二客員准教授(西大和リハビリテーション病院)、岡田洋平准教授らの研究チームは、本手法による計測を左右で行った後に、再度左右で計測しました。 その結果、1セッション目と2回目の計測におけるセッション間再現性は十分であり、いずれの計測でも前庭脊髄路興奮性に左右差がないことを示しました。また立位での重心動揺計の計測を行い、前庭感覚への依存度が高くなる条件における立位荷重偏移位置と前庭脊髄路興奮性が関連することを示しました。   本研究のポイント ■GVSとヒラメ筋H反射を併用した前庭脊髄路興奮性の計測の再現性は十分だった。 ■健常者の前庭脊髄路興奮性の左右差はほとんどみられなかった。 ■前庭感覚の依存度が高い立位では、前庭脊髄路興奮性が高い下肢の方へ荷重偏移する。   研究内容 15名の健常者が研究に参加し、 GVSを行うことによるヒラメ筋H反射の促通率について検証しました(図1, 2)。計測は無作為の順番で左右それぞれ計測し、休息の後に再度左右それぞれ、合計2セッションの計測を行いました。その結果、1セッション目と2セッション目の左右のGVSにおけるH反射促通の程度のセッション間再現性は十分であり、各セッション共に左右差はないことが示されました(表1)。 また、重心動揺計を用いて4条件(開眼位、閉眼位、ラバーマット上での開眼位、ラバーマット上での閉眼位)での立位姿勢を計測した結果、前庭感覚への依存度が高いラバーマット上での閉眼立位における足圧中心の内外側の偏移位置とヒラメ筋H反射促通率の左右比との間に正の相関関係があることが示されました(図3)。   図1. GVSによるH反射の変化の測定   図2. GVSの有無でのH反射の波形の変化   表1.GVSによるH反射の変化の計測結果   セッション間の左右の促通率の計測の再現性は十分であり、系統的誤差が生じなかったことを示しました。     図3. 1セッション目のヒラメ筋H反射促通率の左右比とラバーマット上での閉眼立位でのCOPの内外側偏移位置   中等度の正の相関がみられ、前庭感覚への依存度の高い立位における荷重偏移と前庭脊髄路興奮性の間には関連がある可能性を示しました。2セッション目のH反射促通率の左右比とは有意な相関なし(r = ―0.19, p=0.51)   本研究の意義および今後の展開 本研究成果は、GVSによるヒラメ筋H反射の促通率を評価するという前庭脊髄路興奮性の神経生理学的方法の臨床応用可能性を示唆するものであり、姿勢制御に異常のある方で特に左右差の顕著な症候を呈する方に適用する上で重要な知見であると考えられます。 今後は脳卒中やパーキンソン病、前庭疾患などの対象に前庭脊髄路興奮性の評価を行い、姿勢制御異常の病態と前庭脊髄路機能の関連性について検証し、介入可能性についても模索していきたいと考えています。   関連する論文 Okada Y, Shiozaki T, Nakamura J, Azumi Y, Inazato M, Ono M, Kondo H, Sugitani M, Matsugi A. Influence of the intensity of galvanic vestibular stimulation and cutaneous stimulation on the soleus H-reflex in healthy individuals. Neuroreport. 2018 Sep 5;29(13):1135-1139.   Tanaka H, Nakamura J, Siozaki T, Ueta K, Morioka S, Shomoto K, Okada Y. Posture influences on vestibulospinal tract excitability. Exp Brain Res. 2021 Jan 21.   論文情報 Nakamura J, Okada Y, Shiozaki T, Tanaka H, Ueta K, Ikuno K, Morioka S, Shomoto K. Reliability and laterality of the soleus H-reflex following galvanic vestibular stimulation in healthy individuals. Neuroscience Letters. 2021 June 11.

2021.04.28

日本初、後期高齢者のフレイル脱却因子を大規模かつ前向きに調査~理学療法学科

「加齢とともに心身が老い衰えた状態」をあらわすフレイルは、健常高齢者に比較して要介護状態に陥る危険性が高いことが多くの研究で明らかにされています。しかしフレイルは、早く介入して対策を行えば元の健常な状態に戻る可能性「可逆性」を前提とした用語でもあります。 これまでフレイルに関する研究では要介護状態に移行する危険因子に焦点をあてたものが多く、フレイルからの脱却に影響する要因は明らかにされていません。本学理学療法学科の高取克彦教授、松本大輔准教授は、フレイルの危険性や発生率が特に高い後期高齢者を対象にフレイルからの脱却に影響する因子を明らかにすることを目的にした研究を行いました。   研究概要 地域在住の後期高齢者約5,000人を2年間追跡し、フレイルのステージ変化を調査しました。初回調査時にフレイルと判定された方で2年後に健常(ロバスト)またはプレフレイル(フレイルの手前の状態)に改善した方に焦点を当て、フレイルからの脱却に独立して影響した因子と、フレイル脱却者の特性を分析しました。     本研究のポイント ■ 後期高齢者に対する大規模調査によってフレイルからの脱却因子が明らかになった。 ■ フレイルから脱却した人は近隣者との交流が多く、地域に対する信頼が高いなどの特徴を有する事がわかった。   研究内容 データ解析の結果、対象者の基本属性を調整した後、フレイル脱却に影響する独立した因子として「高い主観的健康感」、高齢者サロンでの運動や体操教室への参加など「運動系社会参加活動」が重要であることが分かりました。       またフレイル脱却者の社会生活機能の因子特性を分析した結果において、フレイル脱却者は「近隣住民との交流が強い」「住んでいる地域への信頼が強い」「社会参加活動を行なっている」ことなどが主要な因子であることが分かり、その構成概念は「活動的な地域活動を行うための個人レベルのソーシャルキャピタルの強さ」と解釈されます。     本研究の意義および今後の展開 今回の研究は後期高齢者のフレイルの脱却因子を大規模かつ前向きに調査した初めての研究です。現在、初回調査から4年後までの追跡データがあり、今後はフレイルであっても要介護状態に至らない方の特性などを分析し、フレイルの負の側面だけでなくポジティブなステージ変化(transition)に資する基礎データを示すことで、今後のフレイル予防、介護予防に役立てる研究を継続していきたいと考えています。   論文情報 PLoS One. 2021 Mar 3;16(3):e0247296.doi: 10.1371/journal.pone.0247296. eCollection 2021.  

2021.04.06

大学院生の論文がnature系「Scientific Reports」の神経科学分野のダウンロードTOP100に選出!

  大学院博士後期課程に在籍している水田直道さんが筆頭著者の論文「脳卒中患者における運動まひの重症度と歩行速度の関係性」が、nature系の雑誌「Scientific Reports」の神経科学分野のトップ100(ダウンロード)に選ばれました。2020年に3,000回以上もダウンロードされており、1750以上ある論文のうち80位にランクインしています。水田さんの研究成果が世界中でダウンロードされ、多くのセラピストや研究者に注目されていることになります。     研究の詳細については、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターのプレスリリースをご覧ください。   脳卒中患者における運動まひの重症度と歩行速度の関係性

2021.04.05

令和3年度入学式を行いました。

2021(令和3)年4月2日(金)、畿央大学健康科学部331名、教育学部193名、健康科学研究科35名(修士課程27名、博士後期課程8名)、教育学研究科修士課程4名、助産学専攻科10名、臨床細胞学別科7名、あわせて580名の新しい畿央生が誕生しました。学部は午前10時、大学院・専攻科・別科は午後3時からと2部にわけて入学式を行いました。       昨年度は新型コロナウイルス感染拡大予防のため一同に会しての式典形式を見合わせ、学科にわかれての開催となりました。今年度については冬木記念ホールで式典を開催し、その様子を中継して各会場から視聴・参加しました。     学部の入学式では、冬木正彦学長が学科ごとに新入生への入学許可を行いました。     つづく学長式辞では、”建学の精神である「徳をのばす」「知をみがく」「美をつくる」を大切にしながら充実した4年間を過ごしてほしい”と力強いメッセージがありました。     新入生代表として健康栄養学科1回生見杉遼さんから入学生宣誓、在学生代表として現代教育学科3回生荒井斗子さんから歓迎のことばがあり、閉式となりました。     閉式後は、学科別に入学生ガイダンスが行われました。各会場でも手指消毒、換気などの感染予防策を徹底したうえで、1回生担任紹介や学生生活に関してのオリエンテーションが行われました。     当日はこれ以上ない晴天に恵まれ、あたたかい一日となりました。卒業式でも好評だったフォトスポットや入学式の看板の前で撮影する初々しい新入生の姿が見られました。     ※写真については撮影直前のみマスクを外し、声を出さないようにして撮影しています。   午後3時からは大学院健康科学研究科、教育学研究科、助産学専攻科および臨床細胞学別科の入学式が冬木記念ホールにて行なわれました。入学を許可された後、学長、それぞれの研究科長・専攻科長・別科長から祝辞をいただきました。     新入生の皆様、入学おめでとうございます!皆様のこれからの学生生活が実りのあるものになるよう教職員一同全力でサポートしていきます。  

2021.04.02

小児の運動の不器用さに対する確率共鳴現象の効果~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

学校生活・日常生活やスポーツ活動における様々な運動スキルに不器用さが現れることを特徴とする発達障害として発達性協調運動障害があります。発達性協調運動障害を有する児では、単に運動の不器用さに止まらず、自己肯定感・自尊心の低下や不安障害・抑うつの増加といった心理面への影響も懸念されています。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らは、中井昭夫 教授(武庫川女子大学)、嶋田総太郎 教授(明治大学)、前田貴記 講師(慶應義塾大学)らと共同で、コンパクトな確率共鳴装置を手首に装着することで、発達性協調運動障害を有する児の手先の器用さが改善することを明らかにしました。この研究成果はFrontiers in Neurology誌(Influence of stochastic resonance on manual dexterity in children with developmental coordination disorder: A double-blind interventional study)に掲載されています。   研究概要 発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder:DCD)とは、麻痺はないにも関わらず、協調運動技能の獲得や遂行に著しい低下がみられる神経発達障害の一類型です。その症状は、字が綺麗に書けない、ボタンが留められないといった手の微細運動困難から、歩行中に物や人にぶつかる、上手く走れない、縄跳びができないといった粗大運動困難、片脚立ちができない、平均台の上を歩けないといったバランス障害まで多岐に渡ります。DCDの頻度は学童期小児の5-6%と非常に多く、またDCDと診断された児の過半数が青年期・成人期にも協調運動困難が残存するとされており、DCDに対する有効なハビリテーション技術の開発は、ニューロリハビリテーション研究における喫緊の課題の一つとされています。 一方で、古くから身体への微弱な機械的ランダムノイズ刺激は、感覚および運動機能を改善することが知られています。この改善は、確率共鳴(Stochastic Resonance:SR)現象と呼ばれ、例えば、感知できない程度の機械的ランダムノイズ刺激であっても、触覚感度が改善することやバランス、歩行、手指の運動といった運動機能が改善することなどが報告されています。また、このような改善は健常者だけでなく、脳卒中後片麻痺患者、パーキンソン病患者、脳性麻痺児でも観察されています。しかしながら、DCDを有する児に対するSR現象を用いた介入の報告は極めて少なく、その有効性は明確ではありませんでした。そこで畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らの研究グループは、二重盲検介入研究を行い、SR現象がDCDを有する児の手先の器用さに及ぼす影響を調査しました。その結果、SR装置によってSR現象を付与している際に、DCDを有する児の手先の器用さが有意に向上することが示されました。   本研究のポイント ■ DCDを有する児の手先の器用さに対するSRの影響を調査した。 ■ DCDを有する児の手先の器用さは、SRを付与している際に向上した。 ■ SRによる手先の器用さの改善効果は、SRの提供を止めると消失した。   研究内容 6~11歳までのDCDを有する児30名(平均年齢9.3歳、男児27名、右利き25名)が本研究に参加しました。参加児たちは、はじめにベースラインデータとして、DCDの国際標準評価法であるM-ABC2のテストを受けました。SRは子どもたちの両手首に装着された振動触覚デバイス(SRデバイス)による感覚閾値の60%の強度の振動触覚ランダムノイズ刺激によって提供されました。条件には、SRを提供するSRオン条件と、SRを提供しないSRオフ条件が設けられ、15名はSRオン⇒オフ⇒オン⇒オフの順で、残り15名はSRオフ⇒オン⇒オフ⇒オンの順で、手先の器用さテスト(微細運動機能テスト)を実施しました(図1)。   図1. 実施風景   その結果、手先の器用さテストの成績は、SRオン条件において、ベースラインデータおよびSRオフ条件と比較して、有意に向上しました(図2)。   図2. 結果 **:p<0.001,n.s.:有意差なし   本研究の意義および今後の展開 本研究結果は、SRの提供によってDCDを有する児の手先の器用さが即時的に改善することを示しました。 しかしながら一方で、SRによる改善効果は、その直後のSRオフ条件に持ち越されませんでした。したがって、今後はどのくらい長い時間装置を装着すれば、持ち越し効果が観察されるのか?さらにSR装置を装着している間、どのような運動を行えば、持ち越し効果が観察されるのか?といった持ち越し効果に関する研究が必要です。   関連する論文 ■ Nobusako S, Osumi M, Matsuo A, Fukuchi T, Nakai A, Zama T, Shimada S, Morioka S. Stochastic resonance improves visuomotor temporal integration in healthy young adults. PLoS One. 2018 Dec 14;13(12):e0209382. doi: 10.1371/journal.pone.0209382. ■ Nobusako S, Osumi M, Matsuo A, Furukawa E, Maeda T, Shimada S, Nakai A, Morioka S. Subthreshold Vibrotactile Noise Stimulation Immediately Improves Manual Dexterity in a Child With Developmental Coordination Disorder: A Single-Case Study. Front Neurol. 2019 Jul 2;10:717. doi: 10.3389/fneur.2019.00717.   論文情報 Satoshi Nobusako, Michihiro Osumi, Atsushi Matsuo, Emi Furukawa, Takaki Maeda, Sotaro Shimada, Akio Nakai, Shu Morioka Influence of Stochastic Resonance on Manual Dexterity in Children With Developmental Coordination Disorder: A Double-Blind Interventional Study Frontiers in Neurology. 2021. doi: 10.3389/fneur.2021.626608   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 准教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

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