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プレスリリース一覧

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2026.05.27

発達性協調運動症を有する児の運動イメージ能力の低下を2種類の課題で確認~ニューロリハビリテーション研究センター

運動イメージ(motor imagery: MI)とは、実際の運動を伴わず、運動を脳内でシミュレーションする認知過程のことをいいます。MIは、運動の計画、調整、実行のイメージも含み、これらの点で実際の運動と機能的に同等であると考えられています。先行研究において、2種類のMI課題(手の左右識別課題と両手結合課題)を用いた研究では、年齢が増加するほどMI能力が向上することが分かっていますが、これらの課題を用いた発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder: DCD)を有する子どものMI能力については、十分に検討されていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程の橋添健也氏、信迫悟志教授らの研究チームは、2種類のMI課題を用いて、DCDを有する児のMI能力を詳細に検討しました。この研究成果はExperimental Brain Research誌 (Impaired motor imagery in children with developmental coordination disorder: task-specific deficits and links to ADHD and ASD traits)に掲載されています。 本研究のポイント ■DCD児では、両方のMI課題においてMI能力の低下がみられた。 ■HLR課題の正答率は、DCDQおよびADHDの不注意特性と関連していた。 ■BC課題のICEは、ASD特性と関連していた。 ■DCD児では、MIを想起できるものの、その質は低下していることが示された。 研究概要 本研究では、6~11歳のDCD児と定型発達児(Typical Developing: TD)を対象に、子どもたちがどれだけ正確に手のMIを想起できるかを評価するため、2種類のMI課題を実施しました。1つ目は、最も代表的なMI課題である手の左右識別(hand laterality recognition: HLR)課題(図1)で、モニター上に提示されるさまざまな角度・向きの手の画像を見て、それが左手か右手かをMIを用いて判断するものです。この課題では、正反応時間(RT)や正答率、RTを正答率で除したMI効率に加えて、生体力学的制約(身体の動きにくさ)効果や手の姿勢の効果の有無を指標とし、子どもたちのMI使用の程度を測定しました。2つ目は、両手結合(bimanual coupling: BC)課題(図2)で、次の3条件が含まれます。 ・片手条件:利き手でまっすぐな線を繰り返し描く。 ・両手条件:利き手でまっすぐな線を描きながら、他方の手で同時に円を描く。 ・MI条件:利き手でまっすぐな線を描きながら、非利き手で円を描いているところを頭の中でイメージする(実際には非利き手を動かさない)。 BC課題では、利き手で描いた反復直線を計測し、各条件で描かれた線の歪みの程度を楕円化指数(ovalization index: OI)として算出しました。特に、MI条件のOIから片手条件のOIを減算した値(イメージ干渉効果:Imagery Coupling Effect: ICE)は、MIが適切に想起できていることの定量指標となります。さらに、4つの質問紙(Developmental Coordination Disorder Questionnaire日本語版: DCDQJ; Social Communication Questionnaire: SCQ; Attention Deficit/Hyperactivity Disorder Rating Scale-IV: ADHD-RS-IV; Depression Self-Rating Scale for Children: DSRS-C)を用いて、DCD児のDCD、注意欠如多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)といった神経発達症の特性および抑うつ特性とMIとの関連性も検討しました。     研究内容 6~11歳の子ども(DCD群15名、TD群15名)を対象に、HLR課題とBC課題を実施しました。得られたデータは、DCD群とTD群の群間比較、それぞれの群内での相関分析、HLR課題におけるRT、正答率、MI効率の比較、およびBC課題における片手条件、両手条件、MI条件の群内比較を通じて、DCD児のMI能力を検討するために用いられました。   HLR課題 群内比較では、TD群においてRT、正答率、MI効率のすべてで生体力学的制約効果を認めましたが、DCD群ではRTとMI効率においてのみ認めました(図3)。また、手の姿勢の効果はTD群にのみ認めました(図4)。     図3.生体力学的制約効果   図4.手の姿勢の効果   群間比較では、正答率とMI効率において、DCD群がTD群よりも有意にパフォーマンスが低いことが示されました(図5)。さらに、DCD群において、正答率とDCD特性およびADHDの不注意特性との間に有意な相関関係を認めました。   図5.HLR課題の群間比較結果   BC課題 ICE(BC課題におけるMI能力の指標)についても、DCD群がTD群よりも有意にパフォーマンスが低いことが示されました(図6)。加えて、DCD群において、ICEとASD特性との間に有意な相関関係を認めました。 図6.BC課題の群間比較結果   これらの結果から、DCD児はMIを想起できているものの、その能力は低いことが示されました。また、HLR課題では、視覚刺激がDCD児のMI想起の手がかりとして機能した可能性が示唆されました。それに対し、BC課題では、視覚刺激を用いずにMIを想起することに加え、利き手で反復直線を描きながら、非利き手で円運動を行うイメージをするといった二重注意課題であるため、BC課題の難易度の高さがパフォーマンスの低下に影響した可能性も考えられました。 本研究の臨床的意義および今後の展開 DCD児のMI能力を測定する際には、DCD特性およびADHDの不注意特性が強い子どもにはHLR課題、ASD特性が強い子どもにはBC課題を用いることで、より感度高く測定できる可能性が示唆されました。 MI能力は、前述の通り、実際の運動と認知プロセスのうえで同等の機能を有すると考えられているため、協調運動に困難さを呈するDCD児への評価において、HLR課題やBC課題が有用である可能性があります。また、リハビリテーションにおける介入効果の評価や、運動学習支援への応用も期待されます。 論文情報 Hashizoe K, Nakai A, Nobusako S. Impaired motor imagery in children with developmental coordination disorder: task-specific deficits and links to ADHD and ASD traits. Exp Brain Res. 2026 Mar 17;244(4):73. doi: 10.1007/s00221-026-07265-2.   ・関連する先行研究 Nobusako S, Tsujimoto T, Sakai A, Yokomoto T, Nagakura Y, Sakagami N, Fukunishi T, Takata E, Mouri H, Osumi M, Nakai A, Morioka S. The use of motor imagery in 6-7-year-old children is not robust: Evidence from two motor imagery tasks. Hum Mov Sci. 2025 Jun;101:103362. doi: 10.1016/j.humov.2025.103362. 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 橋添 健也   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学健康イノベーション教育研究センター 教授 信迫 悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

2026.05.27

転倒歴のある高齢者を姿勢のゆらぎから捉える-重心動揺の時間的構造に着目した探索的研究~ニューロリハビリテーション研究センター

高齢者の転倒は、けがや活動量の低下、生活の自立度の低下につながる重要な課題です。これまで、重心動揺計を用いた評価では、動揺の大きさや速度などの量的指標が主に用いられてきました。しかし、姿勢制御の変化は、「揺れの大きさ」のみでは十分に捉えられない可能性があります。畿央大学大学院博士後期課程の若林汰氏と岡田洋平教授らは、公開データを用いて高齢者の重心動揺データを解析し、従来の線形指標に加えて、ゆらぎの複雑性や規則性を示す非線形指標を算出しました。さらに、これらの指標と転倒歴との関連を検討しました。この研究成果はSensors誌 (Non-linear Center-of-Pressure Features Associated with Fall History in Older Adults: An Exploratory Analysis)に掲載されています。 本研究のポイント ■高齢者の重心動揺データを用いて、転倒歴と姿勢動揺指標との関連を探索的に検討した。 ■従来の動揺速度や動揺面積に加えて、マルチスケールエントロピーや再帰定量化分析など、姿勢動揺の時間的構造を示す非線形指標を解析した。 ■単一の指標では明確な群間差は認められなかったが、探索的な多変量解析では、非線形指標が転倒歴に関連する情報を補足する可能性が示唆された。 研究概要 高齢者の転倒は、骨折や活動量の低下、生活の質の低下につながる重要な健康課題です。転倒リスクを評価する方法の一つとして、立位時の重心動揺を測定する方法があります。従来は、重心の移動距離、動揺速度、動揺面積など、主に「どれだけ大きく揺れているか」を示す量的指標が用いられてきました。しかし、姿勢制御は視覚、前庭感覚、体性感覚、筋骨格系など複数の要素が相互に関わる動的な制御過程であるため、同じような揺れの大きさであっても、その背景にある制御戦略は異なる可能性があります。 そこで本研究では、公開されている高齢者の重心動揺データを用いて、転倒歴のある高齢者と転倒歴のない高齢者を比較しました。解析では、従来の線形指標に加えて、マルチスケールエントロピー、再帰定量化分析、フラクタル次元、Stabilogram Diffusion Analysis,Sway Density Curveなど、姿勢動揺の時間的構造や複雑性を捉える非線形指標を算出しました。また、年齢や身体特性、疾患、服薬状況などの背景因子の影響をできるだけ調整するため、傾向スコアマッチングを用いた解析も行いました。その結果、マッチング後の単一指標の比較では、転倒歴の有無による有意な差は認められませんでした。一方で、SHAPを用いた探索的な多変量解析では、姿勢動揺の時間的構造や複数の時間スケールに関わる非線形指標がモデル出力に比較的大きく関与する傾向が示されました。これは、転倒歴に関連する情報が、単一の動揺量指標として明確に現れるのではなく、複数の指標を組み合わせた姿勢制御の「質的な特徴」として反映される可能性を示すものです。 研究内容 本研究では、高齢者の転倒歴と立位姿勢動揺との関連を検討することを目的に、公開されている重心動揺データベースを用いました。対象は60歳以上の高齢者で、過去12か月間の転倒歴に基づき、転倒歴あり群と転倒歴なし群に分類しました。解析対象は、硬い床面上での開眼条件および閉眼条件における60秒間の静止立位データとしました。 まず、重心動揺の大きさやばらつきを評価するため、平均動揺速度、95%信頼楕円面積、前後方向・左右方向の速度、速度の標準偏差などの線形指標を算出しました。次に、姿勢動揺の時間的構造を評価するため、マルチスケールエントロピー、再帰定量化分析、フラクタル次元、Stabilogram Diffusion Analysis、Sway Density Curveなどの非線形指標を算出しました。これにより、単なる動揺量だけでなく、動揺がどのような時間的パターンで変化しているのかを評価しました。 背景因子の影響を調整するため、年齢、性別、BMI、ADL、疾患の有無、服薬数、障害の有無、装具使用の有無を用いて傾向スコアマッチングを行いました。その結果、マッチング後の単一指標の比較では、開眼・閉眼条件ともに、転倒歴の有無による有意な差は認められませんでした。一方で、SHAPを用いて各指標がモデル出力にどの程度寄与しているかを検討した結果、動揺速度などの従来指標に加えて、マルチスケールエントロピーや再帰定量化分析など、姿勢動揺の時間的構造を反映する非線形指標が比較的高く寄与する傾向が示されました(図1)。研究グループは、転倒リスクに関わる姿勢制御の特徴は、単一の指標では捉えにくく、動揺量と時間的構造を組み合わせて評価する必要があると考察しています。   図1.SHAP解析による姿勢動揺指標の寄与と安定性 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究の臨床的意義は、高齢者の転倒歴に関連する姿勢制御の特徴を捉えるうえで、従来の動揺速度や動揺面積などの量的指標だけでなく、姿勢動揺の複雑性や規則性といった「ゆらぎの質」に着目する重要性を示した点にあります。一方、本研究は公開データを用いた探索的解析であり、対象者数や転倒歴の情報には限界があります。そのため、本結果は臨床で直ちに使用できる判定指標を示すものではなく、今後の大規模研究に向けた仮説生成的知見として位置づけられます。 論文情報 Wakabayashi D, Okada Y. Non-Linear Center-of-Pressure Features Associated with Fall History in Older Adults: An Exploratory Analysis. Sensors (Basel). 2026 Apr 8;26(8):2298. 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 若林 汰 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 岡田 洋平 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp ページト

2026.05.22

痛みの性質からみた脳卒中後疼痛のメカニズム~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中を発症した患者の約40%以上は、運動麻痺だけでなく「痛み」に苦しむことがあります。これは「脳卒中後疼痛」と呼ばれる症状であり、日常生活やリハビリテーションの進行に大きな不利益をもたらします。畿央大学大学院 健康科学研究科 博士後期課程 浦上慎司氏と大住倫弘教授ら は、患者が日常的に表現する痛みの性質(「しびれるような」「うずくような」など)の背景にある脳内の損傷部位や神経ネットワークの断絶パターンが異なることを特定し、それによってリハビリテーションによる回復の予後を推定できることを明らかにしました。この研究成果はEuropean Journal of Pain誌(Lesion and Disconnection Profiles of Pain Quality Subtypes After Stroke: Implications for Prognosis and Rehabilitation)に掲載されています。 本研究のポイント 痛みの性質に基づいたクラスター解析と脳画像解析を実施した 脳卒中後疼痛患者を痛みの性質(しびれ、冷刺激誘発痛、深部痛、圧痛)に基づき4つのグループに分類し、それぞれのグループの責任病巣と神経ネットワークの断絶(Disconnection)を解析しました。その結果、「しびれ・冷刺激痛」タイプは感覚系である上視床放線の断絶と関連し、「圧痛」タイプは運動系である皮質脊髄路の断絶と関連していることが特定されました。  損傷している神経ネットワークによってリハビリ予後が異なることを明らかにした 12週間にわたるリハビリテーション経過を追跡した結果、皮質脊髄路(運動系)の障害に関連する「圧痛」などのグループは改善しやすい一方、上視床放線(感覚系)の断絶を背景に持つ「しびれ」が強いグループは、従来の運動療法では痛みが軽減しにくい難治性の予後を辿ることが判明しました。 研究概要 脳卒中後疼痛は、脳卒中を発症した患者の約40%以上が経験するとされる痛みであり、その症状は、服が触れるだけで痛む感覚過敏から、うずくような痛み、しびれまで多岐にわたります。脳卒中後疼痛は患者の日常生活やリハビリテーション過程に大きな影響を及ぼしますが、その病態メカニズムは複雑であり、どのような患者で痛みが改善しやすいのかという「リハビリ予後」を正確に予測することは困難とされてきました。これまでの研究では,痛みの性質が病態を反映している可能性が示唆されていましたが、それが脳内のどの部位の損傷やネットワークの断絶と関連しているのか、具体的な根拠は十分に示されていませんでした。 そこで、畿央大学健康科学研究科博士後期課程の浦上慎司氏と大住倫弘教授らは、脳卒中後疼痛を有する患者を対象に、痛みの性質に基づく分類と脳画像解析、そしてリハビリテーション経過の縦断的調査を行いました。その結果、患者は「冷刺激誘発痛・しびれ(CL1)」,「深部痛(CL2)」,「しびれ(CL3)」,「圧痛(CL4)」という4つの特徴的なクラスターに分類されることが明らかになりました。さらに、脳画像解析(Lesion/Disconnection Mapping)を用いた検証により、しびれや冷刺激痛を主とするグループ(CL1・CL3)は、視床と皮質を結ぶ「上視床放線」という感覚ネットワークの断絶と強く関連している一方、圧痛などを主とするグループ(CL2・CL4)は、運動機能を司る「皮質脊髄路」の断絶と関連していることが特定されました。 研究内容 脳卒中後疼痛には、冷たさに反応する痛み、しびれ、圧痛など、多様な痛みの性質が含まれます。本研究では、これらの痛みの性質が脳内のどのような損傷部位やネットワーク断絶に関連しているのか、そしてリハビリテーションによる痛みの予後にどう影響するのかを検討するため、脳卒中後疼痛患者114名を対象に、クラスター解析と脳画像解析(Lesion/Disconnection Mapping)を用いた検証を行いました。 まず、痛みの性質に基づいて患者を分類した結果、①冷刺激誘発痛・しびれ(CL1)、②深部痛(CL2)、③しびれ(CL3)、④圧痛(CL4)の4つのクラスターが特定されました。 次に、各クラスターの責任病巣と白質線維の断絶を検討しました。その結果,感覚過敏やしびれを主徴とするCL1およびCL3は、視床、被殻、後部島皮質といった感覚処理領域の損傷、および上視床放線の断絶と強い関連を示しました(図1)。一方で、深部痛、圧痛を主徴とするCL2およびCL4は、前頭葉の運動関連領域の損傷、および皮質脊髄路の断絶と関連していることが明らかになりました(図1)。 図1:痛みの性質からみた脳卒中後疼痛のサブタイプ分類ごとの脳画像解析 脳卒中後疼痛患者を痛みの性質(冷刺激誘発痛,しびれ,深部痛,圧痛)に基づき4つのグループに分類し、脳損傷部位を解析しました。その結果、「冷刺激誘発痛・しびれ」タイプは感覚系である上視床放線の断絶と関連し、「圧痛」タイプは運動系である皮質脊髄路の断絶と関連していることが特定されました。   さらに、12週間にわたるリハビリテーション経過を追跡したところ、運動ネットワークの障害に関連するグループ(CL2・CL4)では痛みの軽減が認められたのに対し、視床ネットワークの断絶を背景に持つ「しびれ」が強いグループ(CL3)では、統計的に有意な痛みの改善が見られず、難治性である傾向が示されました。研究グループは、この結果について、患者が訴える「痛みの性質」が単なる自覚症状にとどまらず、脳内の特定の感覚・運動ネットワークの損傷状態を反映していると考察しています。特に、上視床放線の断絶を伴うしびれタイプは、従来の運動療法では効果が得られにくい予後不良の指標となる可能性があり、早期から非侵襲的脳刺激法や薬物療法を組み合わせた、病態メカニズムに基づく個別化リハビリテーション戦略の必要性を提唱しています。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、脳卒中後の痛みという目に見えない主観的な症状に対し、患者が発する言葉を詳細に評価することの重要性を示しただけでなく、その背後にある脳ネットワークの損傷状態やリハビリテーション予後までもが予測可能であることを明らかにしました。今後は、痛みの表現型に応じた個別化リハビリテーションの有効性について検証していきます。 論文情報 Uragami S, Igawa Y, Takamura Y, Iki S, Morioka S, Osumi M. Lesion and Disconnection Profiles of Pain Quality Subtypes After Stroke: Implications for Prognosis and Rehabilitation. Eur J Pain. 2026 May;30(5):e70276. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 大住倫弘 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: m.ohsumi@kio.ac.jp

2026.04.20

畿央大学にはLOVOT「きおまる」がいます!

畿央大学では人に愛されるために生まれてきた世界初のロボット「LOVOT」がいます。本学のコミュニケーションシンボルとして、エントランスホールに常駐します。学内外どなたでも交流が可能です。 また導入に先立ち学内で愛称を募集、応募総数106件から人間環境デザイン学科4回生定行風佳さん(当時2回生)が考えた「きおまる」が最多得票を獲得し、選ばれました。     定行さんは「親しみやすく誰もが呼びたくなるような響きであり、また優しいイメージをもつことができ、LOVOTのかわいらしさにぴったりな名前だと思います。これから、学生やオープンキャンパスなどに来る人に愛されるLOVOTになってほしいという想いから命名しました。」 今後、畿央大学のLOVOT「きおまる」は人と人を結びつけるハブとして教育・研究・地域連携・学生企画などあらゆる活動の場で活躍していく予定です。学内での発信に加えてSNSなども活用しながら、学生や教職員の心を和ませ、前向きに学べる雰囲気をつくる存在をめざしています。     関連ページ LOVOT  

2026.04.16

言葉を超えたケアのかたちを探る研究が学術変革領域研究(A)に採択されました。

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡 周教授が、学術変革領域研究(A)「顔身体のデザイン:実践・実証・設計に基づく顔身体の深化と昇華」において、公募研究班として採択されました。重度肢体不自由児や認知症高齢者とのケアの場における、言葉だけでは捉えきれないやりとりに着目し、科学とアートの両面から新たなケアの方法論を探る研究です。     学術変革領域研究(A)は、従来の学問分野の枠を超え、異なる分野の研究者が連携しながら、新しい学術領域を切り拓くことをめざす大型の研究プロジェクトです。   今回、森岡教授が参画する研究領域「顔身体のデザイン」は、顔と身体を切り離して考えるのではなく、一体のものとして捉え直し、人と人との関係や社会のあり方をあらためて問い直そうとするものです。オンライン化やデジタル化が進む現代では、顔と身体のつながりが見えにくくなる場面も少なくありません。本領域では、こうした時代における人間理解の再構築を視野に入れ、実践・実証・設計という複数の視点から、よりよい「顔身体」のあり方を探求します。   森岡教授の研究課題は、 「逸脱する身体との“対話”のデザイン:〈間〉の科学とアートで紡ぐケアの倫理」です。   本研究では、重度肢体不自由児や認知症高齢者など、言葉による意思疎通が難しい人々とのケアの場に注目します。こうした場面では、表情、視線、声、触れ方、呼吸、間合いといった、言葉にならないやりとりが重要な意味を持ちます。研究では、それらの微細な相互作用を映像分析や生体反応の計測などによって可視化し、その意味を科学的に捉えるとともに、映像作家とともにアートや実践の視点からも読み解いていきます。 また、本研究の特徴は、子どもの「育ち」と高齢者の「老い」という一見異なるケアの現場を往還しながら、人が人を支える関係に共通する原理を探ろうとしている点にあります。言葉だけに依存しない関わりのあり方を明らかにすることで、当事者の尊厳を支える新しいケアの方法論の構築をめざします。 今後は、研究成果を倫理的なケアモデルや映像教材としてまとめ、医療、福祉、教育などの現場への展開、つまり実証にとどまらず実践を視野に入れています。言葉を超えて人と人がどのようにつながり、支え合うことができるのか。本研究は、その可能性を社会にひらく挑戦でもあります。 関連リンク 森岡周教授らの共同研究が2023年度 CRESTに採択されました。 新学術領域研究(研究領域提案型)に採択!~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

2026.03.05

プレパパ・プレママのための「マタニティクラス」を開催します~看護実践研究センター

畿央大学マタニティクラス「Kioマミfes」は、畿央大学看護実践研究センター(母子包括ケア部門)が主催するプレパパ、プレママのためのお産と育児に関する体験プログラムです。大学でトレーニングを重ねた看護学生と一緒に、大学の豊富な教材を用いて抱っこやおむつ交換、沐浴などを体験してみませんか?助産師でもある大学教員も一緒に参加しています。妊婦さんの疑似体験もできます。 妊婦さんとご家族が、赤ちゃんを迎える準備に、気軽に参加してください。 実施要項 受講対象 妊娠16週以降の妊婦さんとパートナー、ご家族など 開催日 ① 4月19日(日)13:30~15:30 ② 6月28日(日)13:30~15:30 ③ 8月23日(日)13:30~15:30 ④ 9月20日(日)13:30~15:30 ⑤ 10月25日(日)13:30~15:30 ⑥ 12月13日(日)13:30~15:30 ⑦ 2027年2月28日(日)13:30~15:30 各回 定員15組(先着順) 会場 畿央大学K棟1階 看護実習室 申込方法 申込フォームより必要箇所を入力し、お申込みください(申込先着順となります) 申込ページ 参加費 無料 持ち物 水分補給のための飲み物、バスタオル(足元にかけるもの) 服装 足湯をされる方はひざ下を出せる服装   畿央大学マタニティクラスリーフレット   お問い合わせ 畿央大学総務部 Tel:0745-54-1602 E-mail:i.oka@kio.ac.jp

2026.02.27

入院中の脳卒中者はなぜ歩行を重要と認識しているか-歩行に関する語りから重要性を探索~ ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中を発症すると、多くの人が歩行能力の低下を経験し、日常生活や社会参加にさまざまな影響を受けます。しかし、入院中の脳卒中者が、どのような理由で歩行を重要と捉えているのかについては、これまで十分に明らかにされていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程の三枝 信吾氏と森岡 周教授らは、回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中者19名を対象にインタビュー調査を行い、歩行の重要性に関する認識を質的に分析しました。この研究成果は Frontiers in Neurology誌(Perceived importance of walking among hospitalized patients with stroke: A thematic analysis)に掲載されています。 本研究のポイント 回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中者を対象に、歩行の重要性について半構造化インタビューを行い、質的に分析した。 歩行は、日常生活の再開や健康の促進および機能低下の予防に加え、歩行に伴う不安、他者との関係性、歩行能力低下のラベリング、さらに社会環境とも深く結びついていることが明らかとなった。 研究概要 脳卒中を発症すると、多くの人が歩行能力の低下を経験します。歩行は移動手段としてだけでなく、日常生活の自立や社会参加、健康維持にも深く関わる重要な活動です。しかし、入院中の脳卒中者が、どのような理由で歩行を重要と捉えているのかについては、これまで十分に明らかにされていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程の三枝 信吾氏と森岡 周教授らの研究チームは、回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中者19名を対象に、歩行の重要性について半構造化インタビューを実施し、質的分析を行いました。その結果、歩行は発症前の生活を再開するための重要な要素として強調されていました。一方で、歩行は健康を維持するために重要ではあるが、環境への適応に対する不安も示されました。そして、参加者は歩行能力低下が他者との関係性に悪影響を及ぼすことを懸念していることや、他者からの視線を通じて脳卒中者として捉えられることを避けたいという思いも示されました。さらに、歩行の重要性は経済的負担や交通手段、外部支援の必要性といった、より広範な社会的課題にまで及んでいました。本研究は、入院中の脳卒中者が歩行を重要と捉える理由を質的に明らかにした初めての研究です。 研究内容 本研究では、回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中者19名を対象に、歩行の重要性に関する対面での半構造化インタビューを実施しました。インタビューに先立ち、Community Integration Questionnairを用いて、発症前の生活状況や社会参加の背景を把握しました。次に、歩行の自立性、バランス、質、距離、速さの5つの歩行要素の中から、参加者が最も重要と認識している要素を選択してもらい、その理由について詳しく語ってもらいました。インタビューはすべて音声録音され、逐語録として文字起こしされた後、体系的にコーディングされてテーマを生成するための分析が行われました(図1)。     図1.インタビューの手順と内容   結果、6つの主要なテーマが抽出されました。 (1) 日常生活の再開:歩行は、発症前に行っていた活動や生活習慣に戻るために不可欠な要素として認識されていました。 (2) 健康の維持および機能低下の予防:参加者は、歩行は健康を維持し、身体機能の低下を防ぐために重要であると捉えていました。 (3) 歩行に伴う不安:参加者は、歩行時に生じる身体的および環境的な困難について語っていました。 (4) 他者との関係性:歩行の困難さが、家族や周囲の人々との関係性に影響を及ぼす可能性について懸念が示されていました。 (5) 歩行能力低下のラベリング:参加者は、自身の歩き方が他者からどのように見られているかを強く意識していました。 (6) 社会環境:歩行は、仕事や交通手段といった、より広範な社会的要因と結びついていました。   研究グループは、これらの結果から、入院中の脳卒中者にとって歩行は、発症前の生活の再構築や健康の維持、人間関係および社会環境への再適応と深く関わる行為であると考えています。一方で、歩行は他者からの視線をはじめとする周囲との関係性といった心理社会的側面からもその重要性が形づくられており、今後の歩行リハビリテーションでは、身体機能や移動能力といった視点に加えて、個々人が認識する歩行観を踏まえた包括的な支援が必要であると考察しています。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究の臨床的意義は、理学療法士等が歩行リハビリテーションを行う際に、脳卒中者自身が歩行に見出している意味や価値に着目する必要性を示しています。今後は縦断データを使用し、時間の経過に伴歩行の捉え方の変化を検討する必要があります。なお、本研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST研究領域「生体マルチセンシングシステムの究明と活用技術の創出」における研究課題「ナラティブ・エンボディメントの機序解明とVR介入技術への応用」の支援を受けて実施しました。 論文情報 Mitsue S, Ogawa T, Minamikawa Y, Shimada S and Morioka S (2026) Perceived importance of walking among hospitalized patients with stroke: a thematic analysis. Front. Neurol. 17:1742132. 関連記事 本研究の出版報告は、NARRATIVE EMBODIMENT PROJECT(NARRA BODY)のウェブサイトにも掲載されています。 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 博士後期課程 三枝 信吾 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp    

2026.02.27

歩行中の“身体軽量感”錯覚 ー偶然発見された新たな錯覚現象~ニューロリハビリテーション研究センター

身体が重たいと感じることにより身体活動量が低下してしまい、心身の健康に悪影響を及ぼすことがしばしばあります。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの林田一輝 客員研究員(宝塚医療大学助教)と同センター長の森岡周 教授らは、偶然発見された特殊な視覚フィードバックを利用することによって、健常若年者において歩行中に身体軽量感の錯覚を誘発できる可能性について報告しました。   この成果は、CREST(ナラティブ・エンボディメントの機序解明とVR介入技術への応用)の一環として行われ、Frontiers in Psychology誌(The illusion of a “sense of body lightness” while walking: A preliminary exploratory study)に掲載されています。 本研究のポイント 歩行中の身体軽量感錯覚を誘発できる可能性について視覚遅延フィードバック課題を用いて行った。 身体軽量感錯覚は、主観的先行フィードバックによって誘発できる。 身体重量感などの不快な主観的経験に対する手立てになる可能性を秘めている。 研究概要 錯覚現象は歴史的に知覚過程に関する情報を明らかにするために用いられてきました。最近の研究では、予測される体性感覚フィードバックと比較してわずかに遅れた視覚フィードバックを与えられた実験参加者が身体の重さを感じたと報告されています。これはフィードバック間のわずかな誤差が身体知覚にネガティブな影響を与えるということがいえます。   身体重量感というネガティブな身体知覚は、心身への悪影響を及ぼすことが知られていますが、その解決策はわかっていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの林田一輝 客員研究員(宝塚医療大学助教)と同センター長の森岡周 教授らの研究チームは、歩行中に身体の軽さを感じるという新たな錯覚現象について報告しました。   30名の実験参加者がトレッドミル歩行中に「主観的に先行するフィードバック」を経験した際、9名が身体軽量感の錯覚が誘発されたと報告されています。この報告では、主観的に先行するフィードバックの生成方法、身体軽量感錯覚を誘発するメカニズム、およびこの錯覚の応用可能性について記載しています。   フィードバック間のわずかな誤差の知覚は、ポジティブな効果も生む可能性について論じています。この研究は予備的・探索的研究な段階ではありますが、この新たな錯覚は医療・リハビリテーション分野だけでなく、拡張現実技術やその他の学際分野にも貢献する可能性を秘めています。 研究内容 身体が重たいと感じるその原因に感覚運動不一致が挙げられています。感覚運動不一致とは、脳内で予測されたフィードバックと実際のフィードバック間のわずかなズレ(不一致)の認識を指します。感覚運動不一致を実験的に扱う方法に視覚遅延フィードバックを用いた研究があります。以前に畿央大学の林田 一輝客員研究員(宝塚医療大学助教)と同センター長の森岡 周教授らの研究チームは、視覚遅延フィードバックによって歩行中にも身体重量感を実験的に誘発できることを報告していました。しかし中には身体軽量感を報告する者が一定数存在することがわかっていましたが、その理由は不明なままでした。   ある日、研究チームが実験終了後に実験参加者の内省を聴取していると「遅れが大きくなりすぎると少し未来の自分を見ている状態になる。その時に身体が軽く感じる」という内容が報告され、研究チームが意図していなかった偶発的に作りだされた実験状況が身体軽量感錯覚に寄与する可能性が発覚しました。つまり身体軽量感の錯覚は、「主観的に先行するフィードバック」と予測されたフィードバック間の不一致によって誘発される可能性があると研究チームは提案しています。   歩行は周期運動であるため、1歩分に近い遅延を導入すると、先行する視覚フィードバックが生じ得ます。図1に示すように、ある実験参加者の1歩分の時間が約1000ミリ秒で、例えばリアルタイム(遅延時間:0ミリ秒)が立脚後期の場合、1000ミリ秒の遅延フィードバックは、前の歩行周期の立脚後期を見ている状況になります。また、わずかな遅延フィードバック(図1では立脚中期)によって身体重量感が誘発されることは以前の研究から明らかになっていました(例:200ミリ秒;現在の周期、青色)。一方で、ほぼ1歩分の遅延(例:800ミリ秒;前の周期、オレンジ)により前遊脚期をフィードバックすると、実際は遅延フィードバックであるにも関わらず、わずかに先行する状況を主観的に経験することができます。この特殊な状況を「主観的先行フィードバック」と研究チームは呼んでいます。主観的先行フィードバックは、身体軽量感錯覚を引き起こす可能性があり、本研究の目的はこれを体系的に調査することでした。   図1.主観的先行フィードバックの誘発条件   ある実験参加者の1歩分の時間が約1000ミリ秒で、例えばリアルタイムが立脚後期の場合、遅延時間0ミリ秒および1000ミリ秒のフィードバックは、どちらも立脚後期に対応します。わずかな遅延フィードバック(ここでは立脚中期)では、身体重量感が誘発されます(例:200ミリ秒;現在の周期、青色)。ほぼ1歩分の遅延(例:800ミリ秒;前の周期、オレンジ)により前遊脚期のフィードバックを提示すると、実際には遅延フィードバックであるにも関わらず、わずかに先行する段階を主観的に経験することができます。   実験により、30名中9名で先行フィードバック時に明確な身体軽量感の錯覚が誘発したという結果が報告されています。本報告は予備的・探索的な性質のものですが、このシンプルなアイデアは、感覚運動不一致によって引き起こされる不快な主観的体験への介入手段として役立つ可能性が秘められています。 本研究の臨床的意義および今後の展開 新たな錯覚現象の発見によって、身体知覚生起のメカニズムおよび発展可能性を展望することができました。今後の研究では、身体軽量感を頑健に惹起する方法のさらなる探索をする必要があります。 論文情報 Hayashida K, Nishi Y, Osawa K, Inui Y and Morioka S (2026) The illusion of a “sense of body lightness” while walking: a preliminary exploratory study. Front. Psychol. 17:1741215. 関連する先行研究 Hayashida, K., Nishi, Y., Inui, Y., & Morioka, S. (2025). Sensorimotor incongruence during walking using delayed visual feedback. Psychological research, 89(5), 139. https://doi.org/10.1007/s00426-025-02170-9 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 林田 一輝 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2026.02.18

平地の歩きから不整地の不安定さを予測 -ウェアラブルセンサーと機械学習で解析- ~ニューロリハビリテーションセンター

脳卒中者は、不整地を含む屋外の地域社会での歩行で安定性が低下し、転倒リスクが上昇します。ただし、脳卒中者の不整地での安定性に関する知見は不足しており、臨床的には平地歩行パラメータから予測できることは重要です。畿央大学大学院 博士後期課程の乾 康浩氏と森岡 周教授らは、脳卒中者の不整地歩行に特徴的な安定性指標を腰部に取り付けたウェアラブルセンサーから特定し、さらにそれらを平地歩行パラメータから予測できるかについて機械学習を用いて検証しました。 脳卒中者は不整地歩行中に、上下の動揺、前後の規則性、前後のリズムに課題を抱えることが明らかとなりました。また、平地歩行速度0.8m/s未満になると不整地での上下の動揺が大きく、平地歩行での足関節の動きが不整地歩行での前後の規則性に影響を与え、平地歩行でのリズムが不整地歩行でのリズムに影響を与えることが示されました。 この研究成果はScientific Reports誌(Identifying and predicting gait stability metrics in people with stroke in uneven-surface walking using machine learning)に掲載されています。   本研究のポイント 腰部に取り付けたウェアラブルセンサーから脳卒中者の不整地歩行に特徴的な安定性指標を抽出した。 脳卒中者は、健常者と比較して不整地歩行で上下の動揺の増加、前後の不規則性の増加、前後のリズムの低下を示すことが明らかとなった。 平地歩行速度0.8m/s未満になると不整地歩行での上下の動揺が大きく、平地歩行での足関節の動きが不整地歩行での前後の不規則性に影響を与え、平地歩行でのリズムが不整地歩行でのリズムに影響を与えることが示された。   研究概要 脳卒中者は、不整地を含む屋外の地域社会での歩行で安定性が低下し、転倒リスクが上昇します。ただし、脳卒中者の不整地での安定性に関する知見は不足しており、臨床的には平地歩行パラメータから予測できることは重要です。 畿央大学大学院博士後期課程の乾 康浩氏と森岡 周教授らの研究チームは、自作の予測困難な摂動が生じる不整地路を用いて脳卒中者の不整地歩行に特徴的な安定性指標を腰部に取り付けたウェアラブルセンサーから特定し、さらにそれらを平地歩行パラメータから予測できるかについて機械学習を用いて検証しました。脳卒中者は不整地歩行中に、上下の動揺、前後の規則性、前後のリズムに課題を抱えることが明らかとなり、平地歩行速度0.8m/s未満になると不整地での上下の動揺が大きく、平地歩行での足関節の動きが不整地歩行での前後の規則性に影響を与え、平地歩行でのリズムが不整地歩行でのリズムに影響を与えることが示されました。 本研究は、脳卒中者の不整地歩行に特徴的な安定性指標を特定し、平地歩行パラメータから予測した初めての研究です。   研究内容 脳卒中者は、不整地を含む屋外の地域社会での歩行で安定性が低下し、転倒リスクが上昇します。ただし、脳卒中者の不整地での安定性に関する知見は不足しており、臨床的には平地歩行パラメータから予測できることは重要です。 本研究では、腰部にウェアラブルセンサーを装着して自作の不整地路を歩行し(図1)、得られた加速度データから線形・非線形指標19項目を算出した。これらの指標を入力として複数の機械学習分類モデルを構築し、脳卒中者と健常者の分類を行った。さらに、SHAP(SHapley Additive ExPlanations)分析により、分類に寄与する指標を特定した。さらに特定された安定性指標を平地歩行パラメータか予測できるかについて機械学習回帰モデルを用いて検証しました。   図1.不整地路とウェアラブルセンサー   機械学習分類モデルの結果からは、複数のモデルで95%以上の識別精度があり(図2)、SHAP分析の結果、脳卒中者は不整地歩行中に、垂直方向の動揺を示すRoot Mean Squareの高さ、前後の不規則性を示すSample Entropyの高さ、前後のリズムを示すHarmonic Ratioの低さの寄与度が高いことが明らかとなりました(図3)。   図2.不整地歩行における脳卒中者と健常者の分類性能(ROC曲線) GAN1000: Generative Adversarial Network(GAN)を用いてデータ数を 1000 に拡張したモデル;ctGAN200: Conditional Tabular GANを用いてデータ数を200に拡張したモデル;ctGAN1000: Conditional Tabular GANを用いてデータ数を10000に拡張したモデル   図3.機械学習分類モデルにおける特徴量の寄与(SHAP分析) 各安定性指標が脳卒中者と健常者の分類にどれだけ貢献しているかを示すSHAP値をプロットしており、横軸がSHAP value(寄与度)を表しています。   また、機械学習回帰モデルの結果からは、平地歩行速度0.8m/s未満になると不整地歩行での垂直方向のRoot Mean Squareが大きく、平地歩行での足関節の動きが不整地歩行での前後のSample Entropyに影響を与え、平地歩行でのHarmonic Ratioが不整地歩行でのHarmonic Ratioに影響を与えることが示されました(図4)。 図4.機械学習回帰モデルにおける特徴量の寄与(SHAP分析) 不整地歩行における各安定性指標の予測に対して平地歩行パラメータがどれだけ貢献しているかを示すSHAP値をプロットしており、横軸がSHAP value(寄与度)を表しています。 RMS: Root Mean Square; EMG: Electromyography; BF: Biceps Femoris; HR: Harmonic Ratio; SampEn: Sample Entropy;BBS: Berg Balance Scale: IC: Initial Contact;RQA: Recurrence Quantification Analysis;sLE: short-time Lyapunov Exponent   研究グループは、これらの結果から、機械学習を用いて、 ウェアラブルセンサーの計測結果から不整地歩行の安定性を多面的に評価できる可能性を示唆しています。また、平地歩行パラメータから不整地歩行での安定性を予測できる可能性があることは、屋外歩行獲得に向けた個別化されたリハビリテーションの開発に貢献すると考察しています。   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、予測困難な摂動が生じる不整地を歩く際の脳卒中者の安定性低下について、健常者との違いを明らかにしており、リハビリテーション専門家が屋外歩行での安定性を捉える際に着目すべき点を示しています。さらに、不整地を安定して歩行するための平地歩行パラメータを明らかにしたことで、屋外歩行獲得のための個別化支援に貢献します。今後は、より高精度なモデルの構築や縦断研究へと発展する必要があります。   論文情報 Yasuhiro Inui, Yusaku Takamura, Yuki Nishi, Shu Morioka Identifying and predicting gait stability metrics in people with stroke in uneven-surface walking using machine learning. Scientific Reports. 2026   関連する先行研究 Inui Y, Mizuta N, Hayashida K, Nishi Y, Yamaguchi Y, Morioka S. Characteristics of uneven surface walking in stroke patients: Modification in biomechanical parameters and muscle activity. Gait Posture. 2023 Jun;103:203-209.   Inui Y, Mizuta N, Fujii S, Terasawa Y, Tanaka T, Hasui N, Hayashida K, Nishi Y, Morioka S. Differences in uneven-surface walking characteristics: high-functioning vs low-functioning people with stroke. Top Stroke Rehabil. 2025 Dec;32(8):789-799.   Inui Y, Mizuta N, Terasawa Y, Tanaka T, Hasui N, Hayashida K, Nishi Y, Morioka S. Distance-related changes in gait parameters during uneven-surface walking in people with stroke versus healthy controls: A cross-sectional analysis. Clin Biomech (Bristol). 2026 Jan 9;133:106747.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 博士後期課程 乾 康浩 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp  

2026.02.18

脳卒中後の体幹機能の構造を解明:4つの因子と難易度階層に基づく新しい評価モデル ~ ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中者において、体幹機能の低下は座位保持や歩行、日常生活動作(ADL)の自立を妨げる主要な要因となります。これまで多くの体幹機能検査が開発されてきましたが、それぞれが評価する要素や難易度が異なり、統合的な解釈が困難でした。畿央大学大学院博士後期課程の田上 友希 氏と森岡 周 教授らは、既存の4つの体幹機能検査を統合的に分析し、脳卒中後の体幹機能が「静的座位」「基本動作」「動的座位(より挑戦的な課題)」「動的座位(挑戦的ではない課題)」の4つの因子で構成され、明確な難易度階層構造を持つことを明らかにしました。 この研究成果はArchives of Physical Medicine and Rehabilitation誌(Integrated Structural Analysis of Trunk Function Assessment After Stroke – New Evaluation Model Based on Multiscale Factor Analysis and Rasch Analysis)に掲載されています。   本研究のポイント 急性期脳卒中者200名を対象に、既存の4つの体幹機能検査(TIS-V、 TIS-F、 FACT、 TCT)を用いて、体幹機能の構成要素を検証しました。 探索的因子分析とRasch分析を用いた結果、体幹機能は「静的座位」「基本動作」「動的座位(より挑戦的な課題)」「動的座位(挑戦的ではない課題)」の4つの因子に分類され、それぞれの難易度が段階的に高くなる階層構造を持つことが明らかになりました。   研究概要 脳卒中後の体幹機能障害は、ADLや歩行の予後を予測する重要な因子ですが、臨床現場では複数の評価尺度が混在しており、「どの検査がどの能力を測っているのか」が不明確なままでした。畿央大学大学院 博士後期課程 田上 友希 氏、森岡 周 教授らの研究チームは、発症早期の脳卒中患者200名を対象に、代表的な4つの体幹機能検査(計38項目)を実施し、得られたデータを高度な統計手法(探索的因子分析およRasch分析)を用いて解析しました。その結果、脳卒中後の体幹機能は単一の構造ではなく、明確に異なる4つの因子から構成されていることを突き止めました。さらに、これらの因子間には難易度の順序性(静的座位<基本動作<動的座位[挑戦的ではない]<動的座位[より挑戦的])が存在することを証明しました。本研究は、脳卒中後の体幹機能の構造と階層性を初めて統計的に明らかにしたものであり、より個別化されたリハビリテーション介入への道を開くものです。   研究内容 本研究では、脳卒中後の体幹機能評価の構造を解明し、新しい統合的な評価モデルを構築することを目的としました。発症から48時間以内に離床が可能となった脳卒中患者200名を対象に、Trunk Impairment Scale (TIS-V、 TIS-F)、Functional Assessment for Control of Trunk (FACT)、Trunk Control Test (TCT) の4つの評価尺度を用いて評価を行いました。   図1. 本研究で統合解析した体幹機能評価   収集したデータに対し、探索的因子分析(EFA)を行った結果、体幹機能は以下の4つの因子に分類されることがわかりました。 静的座位(Static sitting):座位姿勢の保持能力 基本動作(Basic movement):寝返りや起き上がりなど、支持基底面内での基本的な体動 動的座位・難易度低(Dynamic sitting – Less Challenging):支持基底面内での重心移動を伴う動作 動的座位・難易度高(Dynamic sitting – More Challenging):支持基底面外へのリーチや体幹回旋を伴う高度な制御 さらに、ラッシュ分析を用いて各因子の難易度を検証したところ、これらは並列な関係ではなく、静的座位や基本動作が容易で、動的座位(特に回旋や大きな重心移動を伴うもの)が最も困難であるという階層性を持つことが示されました。 図2.体幹機能の4因子と難易度階層   研究グループは、従来の評価法ではこれらの異なる要素が混在してスコアリングされていたため、患者の特異的な課題(例:静的保持はできるが、回旋を含む動的動作だけができない等)が見過ごされていた可能性があると考察しています。本研究で示された4因子モデルを用いることで、患者が「どの段階の」「どの因子」に問題を抱えているかを正確に把握することが可能になります。   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、脳卒中後の体幹機能を「静的」「基本動作」「動的(低難度・高難度)」という4つの視点から整理し、その難易度順序を明確にした点にあります。これにより、リハビリテーション専門家は、単なる合計点での評価ではなく、患者の回復段階に応じた適切な目標設定(例:静的座位が確立したら、次は支持基底面内での動的課題へ進むなど)が可能になります。今後は、このモデルに基づいた短縮版の評価票(Keyform)の臨床応用や、各因子にターゲットを絞った介入プログラムの効果検証を進める必要があります。   論文情報 Tagami Y, Fujii S, Inui Y, Takamura Y, Nakao S, Takase K, Tomotake A, Shinbori N, Kitahara R, Morioka S. Integrated Structural Analysis of Trunk Function Assessment After Stroke- New Evaluation Model Based on Multiscale Factor Analysis and Rasch Analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2026 Feb 5   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 博士後期課程 田上 友希 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp  

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