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2025.03.04

求心路遮断性疼痛へのミラーセラピーが脳筋コヒーレンスを増大させる-Proof of concept study-~ニューロリハビリテーション研究センター

不慮のバイク事故などで腕神経叢を損傷してしまうと、上肢の感覚・運動機能が麻痺するだけでなく、激しい痛みが生じることがあります。この痛みは求心路遮断性疼痛と総称されており、これは生活の質に大きな影響を与えます。畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 瀬川 栞 氏、大住 倫弘 准教授の研究グループは、求心路遮断性疼痛を有する腕神経叢引き抜き損傷者を対象に、ミラーセラピー実施中の筋電図・脳波を計測し、ミラーセラピーによって痛みが緩和している時には脳-筋コヒーレンスが増大していることを報告しました。この研究成果は国際学術誌 Frontiers in Human Neuroscience(Case report Exploring cortico-muscular coherence during Mirror visual feedback for deafferentation pain a proof-of-concept study)に掲載されています。

研究概要

不慮のバイク事故などで腕神経叢を損傷してしまい、上肢の感覚・運動麻痺が生じるだけでなく、激しい痛みをともなうことがあります。この痛みは求心路遮断性疼痛と総称されており、これは生活の質に大きな影響を与えます。そして、この求心路遮断性疼痛は脳の誤った活動によって増悪すると考えられています。この誤った脳の活動を是正するためのリハビリテーションツールとして “ミラーセラピー” が有名です。これは健常な手を鏡に映しながら運動をすることで惹起される「あたかも麻痺している手が動いているような」錯覚を利用したもので、脳の活動を正常に戻すようなリハビリテーションツールとして知られています。これまでの研究でも、ミラーセラピーを活用したリハビリテーションによって求心路遮断性疼痛が緩和したという報告はいくつかありますが、その脳のメカニズムは明らかにはなっていません。そこで、畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 瀬川 栞 氏、大住 倫弘 准教授 の研究グループは、求心路遮断性を有する腕神経叢引き抜き損傷者を対象に、ミラーセラピー実施中の筋電図・脳波を計測し、ミラーセラピーによって痛みが緩和している時には感覚運動領域の脳-筋コヒーレンスが増大することを報告しました。つまり、ミラーセラピーによって求心路遮断性疼痛が緩和する背景には、脳の感覚運動領域における活動と麻痺した筋の活動の同期、これが適正化するというメカニズムがあるということです。

 

 

本研究のポイント

  • 求心路遮断性疼痛を有する腕神経叢引き抜き損傷者を対象に、ミラーセラピーを実施中の脳波および筋電図を計測した。
  • ミラーセラピーによって痛みが緩和すると同時に、感覚運動領域の脳-筋コヒーレンスが増大した。

 

研究内容

求心路遮断性疼痛を有する腕神経叢引き抜き損傷者2名にご協力頂き、ミラーセラピーをしている時の脳波および筋電図を計測しました。どちらの症例も不全麻痺ながら感覚・運動麻痺があり、求心路遮断性疼痛を有していました。ミラーセラピー実施中には「あたかも麻痺している手が動いているような感覚」が得られ、その時には不十分ながら痛みは緩和しました。そして、ミラーセラピー実施中に筋が収縮している区間の筋電データおよび脳波データ(32ch)を抽出して、それらの同期性(コヒーレンス)を計算しました。その結果、どちらの腕神経叢引き抜き損傷者ともミラーセラピー実施中には対側感覚運動領域の脳-筋コヒーレンスが増大していました。これらは、「感覚運動領域の適正化が求心路遮断性疼痛を緩和する」ことを示唆する結果となります。ちなみに、脳波-筋コヒーレンスは皮質脊髄路の興奮性を間接的に表す指標として知られており、分かりやすく言うと、これが増大するということは脳からの運動指令が麻痺した筋肉へうまく伝わるようになった状態だと考えられます。

 

本研究の臨床的意義および今後の展開

リハビリテーション現場でも活用されているミラーセラピー、これによる痛みの緩和メカニズム解明の一助になったことは意義があると思います。ただし、今回は症例報告ですので、今後もこのような研究を継続して痛みの緩和をもたらすリハビリテーションのメカニズムを解明していく所存です。

 

論文情報

Segawa S, Osumi M.
Case report Exploring cortico-muscular coherence during Mirror visual feedback for deafferentation pain a proof-of-concept study.
Front Hum Neurosci, 2025.

 

謝辞

西大和リハビリテーション病院 リハビリテーション部 技師長
畿央大学大学院健康科学研究科 客員准教授
生野 公貴

 

問い合わせ先

畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 瀬川 栞
准教授 大住 倫弘
Tel 0745-54-1601
Fax 0745-54-1600
E-mail m.ohsumi@kio.ac.jp

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