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2026.02.03

人工膝関節全置換術後早期には疼痛強度と運動が相互に関連し合う ~ ニューロリハビリテーション研究センター

急性疼痛を経験した後、疼痛、運動恐怖、運動機能は互いに影響し合い、たとえ創傷や外傷といった痛みの原因が治癒した後であっても、これらの要素がネットワークを形成することで疼痛や運動機能低下が慢性化すると考えられています。畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程の古賀 優之氏(川西市立総合医療センター)と森岡 周教授らは、人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)を受けた患者を対象に、術前・術後1週・術後2週の縦断データを用いて、痛、運動恐怖、運動機能の時間的関係を交差遅延効果モデル(Cross Lagged Panel Model:CLPM)により分析しました。その結果、術後1週における運動の狭小化が術後2週の安静時痛強度を予測し、同様に術後1週における安静時痛強度が術後2週の運動の不規則さを予測するという双方向の関係が明らかになりました。本研究成果はEuropean Journal of Pain誌(Temporal relationship between pain/fear and knee movement disorder after total knee arthroplasty)に掲載されています。

本研究のポイント

  • TKA患者を対象に術前、術後1週、術後2週の3時点で、「痛み」や「動かすことへの恐怖心」、「膝関節の動かしにくさ」が測定されました。
  • 解析の結果、術後1週時点における膝の曲がる角度(屈曲角度)が小さいほど、2週時点の安静時の痛みが強くなることや、術後1週時点での安静時の痛みが強いほど、2週時点の膝の動きが不規則でぎこちない(滑らかでない)ものになることが明らかになりました。
  • TKA術後1〜2週という極めて早い段階において、痛みと運動機能がそれぞれ異なる経路で互いに影響し合っていることが科学的に裏付けられました。この「悪循環」を断ち切るためには、術後1週から痛みを適切に管理しつつ、運動機能の改善を図る具体的な介入が不可欠です。

研究概要

人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)は、膝の痛みを軽減し、生活の質を向上させる有効な治療法です。しかし、手術を受けた患者の約20%では、術後も痛みが長引いたり、運動機能の回復が十分に得られなかったりするという課題が残されています。「痛み」「動くことへの恐怖心」「運動機能(膝の動き)」といった要素は互いに関連しており、疼痛が遷延化する要因となります。しかし、術後早期において、「動かないから痛くなるのか」、「痛いから動かなくなるのか」といった時間的な順序や関係性については、十分に明らかにされていませんでした。畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程の古賀 優之氏(川西市立総合医療センター)と森岡 周教授らの研究グループは、TKAを受けた患者を対象に、手術前、術後1週、術後2週の時点で、痛み、動くことへの恐怖心、そして膝の運動機能を縦断的に調査しました。研究では、ベッド上で膝を曲げ伸ばしするシンプルな運動課題を実施し、膝の曲がる角度や動作の速度、動きの滑らかさといった運動の量と質の両面を詳細に分析しました。

 

解析の結果、術後1週時点で膝の曲がる角度が小さい(十分に動かせていない)ほど、術後2週の安静時の痛みが強くなることが予測されました。また、術後1週時点で安静時の痛みが強いほど、術後2週の膝の動きが不規則でぎこちないものになることが示されました。一方で、術後早期における「動くことへの恐怖心」は、術後2週の運動機能には直接影響していませんでした。この結果は、恐怖心が重要であるとされてきた従来の知見を踏まえつつも、術後早期においては「痛み」と「実際の動き」がより強く相互に影響し合っていることを示しています。多くの先行研究が、術後数ヶ月から数年といった長期的な経過に注目してきましたが、本研究は手術直後のわずか1週間の変化が、その後の回復過程に影響を及ぼす可能性を示しました。また、単に動きの速さや大きさだけでなく、「動きの滑らかさ(不規則性)」という目に見えにくい運動の質を数値化して評価に取り入れた点も、これまでにない新しいアプローチです。

これらの知見は、術後早期から痛みに配慮しつつ、適切に膝を動かすことが、その後の痛みの悪化を防ぎ、よりスムーズな動作の獲得につながる可能性を示唆しており、リハビリテーション戦略の改善に貢献することが期待されます。

研究内容

本研究は、術後早期における「疼痛強度」「動くことへの恐怖心」「運動機能(膝の動きの質)」といった要素が、時間の経過とともにどのように影響し合っているのかを明らかにすることを目的に行われました。評価は術前、術後1週、術後2週の3つの時点で行われました。運動機能については、ベッド上で膝を最大限速く大きく曲げ伸ばしする運動課題を動画撮影しました。この映像を解析し、膝が曲がる角度や動かす速度、動きの滑らかさ(ぎこちなさ)といった指標を数値化しました(図1)。また、課題直後に疼痛強度(運動時痛、安静時痛)と運動恐怖がVisual Analog Scaleにて評価されました。

 

図1. 運動学的データの抽出と解析手順

 

下肢にマーカーを貼付して撮影された動画データをトラッキングし、角度変化の時系列データから速度、加速度が算出されました。経過良好例では速度変化で滑らかな曲線を示し、加速度変化でもほぼ乱れがありませんでした。一方、経過不良例では速度変化が不規則になり、加速度変化では細かなノイズが観察されました。

統計的な解析(Cross-Lagged Panel Model:CLPM)の結果、術後1週時点で膝の屈曲角度が小さい(十分に曲げられていない)ほど、術後2週の安静時の痛みが強くなることが予測されました。また術後1週時点での安静時の痛みが強いほど、術後2週の膝の動きが不規則でぎこちないものになることが示されました。一方で、今回の研究の範囲内(術後2週間まで)では、動くことへの恐怖心がその後の運動機能の低下に直接つながるという因果関係は見つかりませんでした(図2)。

 

 

図2. 疼痛、恐怖、運動学的データの時間的関連性

 

交差遅延効果モデル(CLPM)の解析結果から、術後1週の角度が術後2週の安静時痛を予測し、術後1週の安静時痛が術後2週のエントロピー(円滑さ)を予測していることがわかりました。

これらの結果から、手術直後の極めて早い段階において、「動きの制限」と「痛み」が互いを悪化させ合う特有の経路が存在するということが明らかとなりました。この知見は、リハビリテーションにおいて術後1週という「超早期」から、痛みを適切にコントロールしつつ、膝を動かす範囲をしっかりと確保する介入を行う重要性を示唆しています。単に歩けるようになることだけでなく、早期に「質の高いスムーズな動き」を取り戻すことが、痛みの慢性化を防ぐ鍵になるかもしれません。

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究では、術後1週という「超早期」の運動制限がその後の痛みを予測し、逆に痛みが動きの質(不規則性)を悪化させるという具体的な相互作用の経路を特定しました。この知見は、遷延化リスクがある患者の早期特定や標的を絞った早期介入の検討につながるものであると考えられます。今後はより大規模なサンプルを長期間追跡することにより、慢性疼痛へ移行しやすい患者の特徴を明らかにし、「精密なリハビリテーション(Precision Rehabilitation)」戦略の策定につなげていく予定です。

論文情報

Koga M, Fujii S, Nishi Y, Koyama K, Maeda A, Fujikawa K, Morioka S.

Temporal Relationship Among Pain, Fear, and Motor Function After Total Knee Arthroplasty: An Exploratory Study.

Eur J Pain. 2026 Jan;30(1):e70210.

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
博士後期課程 古賀 優之

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