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2026.06.01

自他弁別閾値付近での運動経験は運動主体感の感度を向上させる-運動主体感の可塑性-~ニューロリハビリテーション研究センター

この運動は自分自身が引き起こしたと感じる意識経験を運動主体感といい、リハビリテーションにおいて大事な感覚とされています。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの林田一輝 客員研究員(宝塚医療大学助教)と同センター長の森岡周 教授らの研究チームは、立教大学の温文 教授との共同研究において、自分の運動かどうかを判断できる境界付近での運動の繰り返し経験によって、運動主体感の感度を向上させることを報告しました。 この研究成果は、Acta psycologica誌(Near the self–other discrimination threshold, experience of goal-oriented movement increases the sensitivity of the sense of agency)に掲載されています。この研究は、CREST(ナラティブ・エンボディメントの機序解明とVR介入技術への応用)の一部として行われています。

研究概要

この運動は自分自身が引き起こしたものだと感じる意識経験を運動主体感といい、身体的な自己感を形成する上で重要な感覚と言われています。そのため運動主体感はリハビリテーションを進める上で大事な意識経験とされていますが、その可塑的変化の可能性についてほとんどわかっていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの林田一輝 客員研究員(宝塚医療大学助教)と同センター長の森岡周 教授らの研究チームは、立教大学の温文 教授との共同研究において、自分の運動かどうかを判断できる境界付近での目標志向運動の繰り返し経験によって、運動主体感の感度を向上させることを実験的に立証しました。対照実験として、自分の運動であることを容易に判断できる条件下での繰り返し経験では、運動主体感の変化は認められませんでした。この研究成果は運動主体感への介入可能性についての発見であり、リハビリテーション領域のみならず、心理学分野における発展性にも貢献しうる可能性を秘めています。

本研究のポイント

■自分の運動かどうかを判断できる境界付近での繰り返し経験によって運動主体感の感度を向上させる可能性がある

研究内容

この運動は自分自身が引き起こしたものだと感じる意識経験を運動主体感といい、身体的自己(embodiment)を形成する上で重要な感覚と言われています。運動主体感はリハビリテーションを進める上で大事な意識経験とされていますが、その可塑的変化の可能性については不明でした。例えば、脳卒中後の感覚運動障害によって感覚運動不一致が生じた結果、運動主体感は低下しますが、その回復プロセスに応じて改善が期待されます。しかしながら、ごく短期間の可塑的変化についてもわかっていませんでした。本研究では、明確に定義された外部目標を持ち、かつ自他弁別許容範囲内の感覚運動不一致の運動経験を行うことは、運動制御への注意を向けさせ、それによって運動主体感に対する感受性を高める可能性を検証しました。

実験は、健常若年者を対象に行われ、自他弁別閾値付近の運動を経験する中程度不一致群とほとんど自己の運動と判断できる運動を経験する低不一致群に分けられました。事前段階、経験段階、事後段階の3段階で構成されました。事前および事後段階では、自己他者弁別課題を行いました(図1左)。この段階では、マウスカーソルの運動に対する視覚フィードバックが自己運動制御レベル100%(他者運動混入0%)から自己運動制御レベル0%(他者運動混入100%)をランダムに提示され、その視覚フィードバックが自己の運動に基づくかどうかを判断する不一致検出課題でした。この課題によって、運動主体感の感受性の定量化および個々の不一致検出閾値を設定することができました。経験段階では目標到達運動課題を行いました(図1右)この段階で中程度不一致群は、自己運動制御が閾値レベル、閾値より10%低いレベルおよび閾値より10%高い3つのレベルを経験しました。低不一致群は、自己運動制御が80%、90%および100%のレベルを経験しました。

図1.実験課題

実験参加者は連続的に五芒星を書くように求められました。この例でモニター上のカーソルは、実験参加者自身のマウス操作に関して「自己運動制御70%」の条件を表しています。各試行の後、「コントロールできていると感じたか」という質問に対して、動きを制御できていると感じた場合は「はい」と答えるよう指示されました。図1右.目標到達運動課題:上下左右にランダムに提示するターゲットにマウスで到達させる課題です。低不一致群は一貫して自己運動制御80-100%レベルでした。中等度不一致群では、例えば不一致検出閾値が50%の場合、自己運動制御が40%、50%、60%レベルで目標到達運動を遂行しました。

実験の結果、中等度不一致群では事前段階に比べて事後段階で運動主体感の感度が向上しました(図2).これまでは不一致の経験は運動主体感を低下させるというのが定説でしたが、本研究はこれに異議を唱える結果となっています。

図2.運動主体感の感受性の変化

自分の運動か判断できる絶妙なラインでの到達運動の繰り返し経験は、自己の運動制御にほどよい注意をもたらし、運動主体感の感受性をむしろ上げたのではないかと考えられます。これはリハビリテーションにおける運動課題の難易度を設定する上で重要なキーワードとなる可能性があります。運動課題をできるかできないかという視点のみならず、その運動が自己のもと判断できるかどうかという視点も合わせて考慮することで運動学習効果やリハビリテーション効果に寄与するかもしれません。

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究成果によって、運動主体感の可塑的変化の可能性について言及することができました。

今回は短時間での変化でしたが、この継続効果などを検証する必要があります。

論文情報

Kazuki Hayashida, Mizuho Mishima, Miho Ohnishi, Daito Iyanaga, Wen Wen, Shu Morioka

Near the self–other discrimination threshold, experience of goal-oriented movement increases the sensitivity of the sense of agency

Acta Psychol (Amst). 2026 May 21;267:107095

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

客員研究員 林田一輝

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

教授 森岡 周

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

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