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2025.05.27

精神科看護師の心理傾向と共感力の関係を解明 ― 自己批判・反芻・省察・自己への思いやりに着目したクラスター分析

精神科看護においては、患者の苦痛や混乱に寄り添い、関係性を築くための「対人援助能力」が重要視されています。その中でも、他者の感情を自らのことのように感じ取り理解する「情動的共感」は、精神科看護実践に不可欠な能力です。 本学 健康科学部 看護医療学科(大学院健康科学研究科)の紅林佑介准教授は、精神科看護師の内面的傾向が情動的共感にどのように関連するかを明らかにするため、大規模な調査研究を行いました。その結果、自己への態度や思考様式に基づく群分けと、それに伴う情動的共感の違いがあったことが、国際誌である「perspectives in psychiatric care」誌に掲載されました。 研究背景と目的 これまで、自己批判や反芻といった自己に向けた否定的思考は、看護師自身のストレスや抑うつと関連するネガティブな要素とされてきました。しかし一方で、こうした自己への態度が、自己理解や他者理解にどう影響するかについては十分に検討されていませんでした。 本研究では、精神科看護師が持つ「自己への思いやり(自己のいたわり)」「自己批判」、そして「反芻(ネガティブな反復思考)」と「省察(建設的な自己振り返り)」という4つの内面的特徴に着目し、それらが情動的共感とどのように関係するかを検討しました。 研究方法 対象は、全国7か所の精神科病院に勤務する572名の看護師です。次の心理尺度を用いてデータを収集しました: ① セルフ・コンパッション尺度(SCS) 自己への優しさ(思いやり)と自己批判を測定 ② 反芻‐省察尺度(RRQ) ネガティブな思考の繰り返し(反芻)と内省的な思考(省察)を評価 ③ 情動的共感尺度(EES) 他者の感情への温かさや感受性を測定 本研究では、特に「反芻」「省察」「自己への思いやり」「自己批判」の得点に注目し、これらの心理的特性に基づいて看護師を分類するためにクラスター分析を実施しました。 なぜこの4つを用いたか? これらはすべて「自己に向かう態度」や「思考のスタイル」を反映する指標であり、個人の内面的な成熟度や、他者に対する共感力に深く関わると考えられるためです。 特に精神科看護では、自己への適切な態度(例:過度な自己否定を避けつつ、自己理解を深める)が、対人援助能力に大きな影響を与えると考えられています。 主な結果 クラスター分析の結果、次の2つのグループが抽出されました: クラスター1:自己批判・反芻・省察すべてが高い群(自己注目・内省傾向の強い群) クラスター2:これらの傾向が比較的低い群(自己注目の低い群) 次に、この2群間で情動的共感の得点を比較したところ、クラスター1の方が情動的共感の得点が有意に高いことが明らかになりました。 つまり、自己に対して厳しく、繰り返し内省する傾向を持つ看護師ほど、患者の感情に対して敏感かつ温かく反応できる力が高い傾向がみられたのです。   研究の意義 この結果は、従来の「自己批判や反芻=ネガティブ」とする単純な理解に再考を促すものです。 自己への厳しい視点や内面的な葛藤も、それを省察に変換できる力があれば、むしろ対人援助に必要な情動的共感を育む重要な資源となり得ることが示唆されました。 精神科看護教育においては、単に自己批判や反芻を抑制するだけでなく、それらを建設的な内省へと導く支援が、共感的な看護師の育成につながる可能性があります。   研究の限界と今後の展開 本研究は日本の精神科看護師を対象としたため、文化的要素が影響している可能性があります。今後は国際比較研究や、縦断的研究による心理傾向と共感力の発達過程の検証が望まれます。 論文情報 Kurebayashi, Y. The hidden side of self-criticism: A cross-sectional cluster analysis of self-compassion, self-focus, and emotional empathy. Perspectives in Psychiatric Care doi.org/10.1155/ppc/3340560 問い合わせ先 畿央大学 健康科学部看護医療学科 大学院 健康科学研究科 准教授 紅林佑介 〒635-0832 奈良県北葛城郡広陵町馬見中4-2-2 y.kurebayashi@kio.ac.jp

2025.05.26

図画工作科を味わう ―これまで と これから― を開催します。~現代教育研究所主催 学習会

メディアで次期学習指導要領改訂の報道が見られるようになりました。「資質・能力の三つの柱」と各教科等の「見方・考え方」、「主体的・対話的で深い学び」等の基本的な考え方を重視しつつ、それらの共通理解と各学校の状況に応じた実施の一層の推進を示すように読めます。 そこで、図工の授業がどう変わるかを待つ前に、私たちは図画工作科の大切さをどう授業に形づくっていくのか一緒に考えましょう。 実施要項 テーマ 図画工作科を味わう―これまで と これから― 日時 2025年7月20日(日)15:10~16:10(受付14:40) 会場 畿央大学 L棟3階 美術実習室 〒635-0832 奈良県北葛城郡広陵町馬見中4-2-2 ▶アクセス 対象 小学校・特別支援学校教員 定員 30名(参加無料) 申込期間 申込締切:7月18日(金)正午まで 本学フォームはこちら 問い合わせ先 畿央大学 現代教育研究所(受付 総務部) E-mail: soumu@kio.ac.jp 備考 ※お送りいただきました個人情報は、本学習会以外では使用いたしません。 ※定員に達し、受講いただけない場合はご連絡いたします。 ※当日は高校生対象のオープンキャンパスが行われています。会場へは学内案内図をご参照下さい。   イベントチラシ

2025.05.26

【小5~高校生対象】夏の無料体験講座(ひらめき☆ときめきサイエンス)を開催します。

  8月9日(土)に小学5・6年生および中学生、高校生向けの体験講座「ひらめき☆ときめきサイエンス」を開催することとなりました。このプログラムでは、古い絵本に直接触ってもらい、戦争やジェンダー(男の子らしさ・女の子らしさ)を発見することを目的としています。   実施要項 テーマ 昔の絵本でジェンダーの歴史発見! ー戦時期の遊び・ファッションと「男の子らしさ」「女の子らしさ」ー 日時 2024年8月9日(土)11:05~15:55(受付10:45) 会場 畿央大学 L棟3階 〒635-0832 奈良県北葛城郡広陵町馬見中4-2-2 ▶アクセス 講師 畿央大学 教育学部 現代教育学科 准教授 森岡 伸枝 森岡先生のXアカウントでは当日のプログラムなどを発信しています。 Xアカウント 対象 小学5・6年生、中学生、高校生 ※参加者は、保護者の同意が必要 ※小学生は、保護者同伴 定員 15名(参加無料) ※定員超過の場合は抽選制。抽選結果は7月25日(金)までにメールにてご連絡します。 持ち物 筆記用具 申込方法・ 期間 日本学術振興会「ひらめき☆ときめきサイエンス」公式HPもしくは、下記フォームから申込ください。 申込期間:6月上旬~7月21日(月) 本学フォームはこちら   日本学術振興会公式HP 問い合わせ先 畿央大学地域連携センター 「ひらめき☆ときめき」係 E-mail: info@kio.ac.jp 備考 ※本プログラムは「ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI」(独立行政法人日本学術復興会)科研費25HT0140の助成を受け実施するものです。 ※申込みをした後で参加できなくなった場合は、必ず(info@kio.ac.jp)に連絡してください。無断キャンセルはしないでください。 ※ご提供いただいた個人情報は、本イベントでのみ使用いたします。   チラシPDF  

2025.05.19

6/29(日) 人間環境デザイン学科 吉村 理教授が奈良県建築士会主催の講演会にて講師を務めます。

    6/29(日)に奈良県建築士会が主催する「地産地消を具現化するまちと建築を考える~御所プロジェクト~」において、人間環境デザイン学科 吉村 理教授が講師を務めます。 吉村教授は御所市内の古い街並みを活かし、多くの町家群のリノベーションを通して町に賑わいを生み新たな価値を創出させる御所プロジェクトを10年以上に渡り展開してきました。本イベントでは、御所プロジェクトの見学、講演会の二部構成となっており、吉村教授の取組や思いについて知ってもらえる内容となっております。是非お申込みください。   詳細チラシ   申込フォーム     概要と申込方法について 日 時 2025年6月29日(日) ① 10:10~11:30(受付開始9:50~) 街歩き ② 13:30~16:30(受付開始13:30~)講演会 講 師 【講師】健康科学部 人間環境デザイン学科 吉村 理 教授 会 場 ① JR御所駅前 ② 御所市防災交流館 Mimoro(ミモーロ)会議室A・B(3階) 受講料 無料 定 員 ① 20名程度 ② 100名 対象 一般市民、学生、関係団体等 申込 方法 申込フォームより必要事項を入力の上、お申込みください。 申込フォーム 注意事項 可能な限り公共交通機関を利用してご来場ください。 急遽プログラムが変更になる可能性がございます。予めご了承ください。 問合せ 奈良県建築士会 事務局 【Tel】0742-33-4333 【mail】info@nara-kenchikushikai.or.jp   チラシデータ

2025.05.16

脳卒中後疼痛の病態特性-サブタイプ別の包括的分析-~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中では、発症から遅れて感覚障害を伴った痛みや肩を動かした際の痛みが生じる時があります。この症状は、単一の症状のみならず複数の症状が組み合わさり、生活の質に不利益をもたらします。畿央大学健康科学研究科博士後期課程の井川祐樹 氏と大住倫弘 准教授らは、多施設および大阪大学大学院医学系研究科 細見晃一医師らと共同で、簡易的定量的感覚検査、質問紙検査、脳画像解析を実施し、神経障害性疼痛と侵害性疼痛を有する脳卒中患者の臨床症状の特性と異常感覚および痛みに関連した脳損傷部位を明らかにしました。この研究成果はBrain communications誌(Pathological features of post-stroke pain: a comprehensive analysis for subtypes)に掲載されています。   本研究のポイント 脳卒中後疼痛の特徴を、痛みの質問紙、簡易的定量的感覚検査、画像解析で詳細かつ包括的に分析した。 中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)は、体性感覚・痛覚系に関わる脳領域およびネットワークの破綻によって異常感覚を伴うことが関係する。 侵害性疼痛(non-CPSP)の場合は筋骨格系疼痛(関節を動かした際に生じる痛み)の要因が関係する。   研究概要 脳卒中患者では、脳卒中発症直後あるいは発症数カ月後に「触れられると痛い」、「電気が走るような痛みがある」といった感覚障害を伴う神経障害性疼痛の痛みと「動かした時に痛みがある」といった筋骨格系の痛み(侵害性疼痛)の症状を有することがあります。これらの痛みは、臨床上において多くの場合、複数の症状が重なり合って現れるため、適切な治療が困難です。このように、様々なタイプが存在する脳卒中後疼痛の症状は、さまざまな側面の評価(感覚機能評価、画像評価)を詳細かつ包括的に調べる必要があります。これまでにも脳卒中後の痛みに関する研究は行われてきましたが、神経障害性疼痛と侵害性疼痛の違いに注目し、二つの痛みのタイプを対比させ、感覚評価や画像解析などを含めた包括的な調査を行った研究はほとんどありませんでした。そこで、畿央大学大学院健康科学研究科博士課程 井川祐樹 氏、大住倫弘 准教授らの研究グループは、大阪大学大学院医学系研究科 細見晃一医師らの研究グループと共同で、脳卒中後疼痛患者を対象に、サブタイプごとの痛みの病態特性について、痛みの質問紙、簡易的定量的感覚検査、脳画像分析により詳細かつ包括的に調査を行いました。その結果、中枢性脳卒中後疼痛(Central Post-Stroke Pain: CPSP)の患者は、冷覚刺激に対して感覚が鈍いにもかかわらず痛みが誘発されやすく、安静時でも強い痛みが持続するという特徴があり、その症状は脳の皮質および皮質下の損傷部位、連絡線維の破綻に依存していることがわかりました。一方、侵害性疼痛(non-CPSP)の患者は、主に関節を動かしたときに一時的な痛みが生じることが特徴であることが明らかとなりました。   研究内容 本研究では、中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)グループ、非中枢性脳卒中後疼痛(non-CPSP)グループ、痛みなしグループの3群に分け、痛みの質問紙、簡易的定量的感覚検査、脳画像所見をもとに、これらのグループにおける臨床特性を調査しました。 その結果、CPSPグループの患者は、冷覚刺激に対して感覚鈍麻あるいは痛覚過敏を伴い、神経障害性疼痛における誘発・自発痛の項目におけるスコアが高いことが特徴として示されました(図)。さらに、このような冷覚刺激に対する痛みは、体性感覚系、痛覚系に関わる神経経路に隣接した脳皮質下の被殻後部、島皮質、内包レンズ後部などの部位が関係し、それだけでなく帯状回と海馬を結ぶ連絡線維の断絶も関係することが明らかとなりました。一方、non-CPSPグループでは、異常感覚は認めず、関節を動かした際に一時的な痛みがあるのみで、筋骨格系の問題が直接的に関係することが示唆されました。     本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、脳卒中後疼痛におけるサブタイプ別の特徴を指標とした意思決定を促し、適切かつ正確な治療へ繋げられる可能性があります。今後は中枢性脳卒中後疼痛の縦断的な観察をする予定です。   論文情報 Yuki Igawa, Michihiro Osumi, Yusaku Takamura, Hidekazu Uchisawa, Shinya Iki, Takeshi Fuchigami, Shinji Uragami, Yuki Nishi, Nobuhiko Mori, Koichi Hosomi, Shu Morioka Pathological features of post-stroke pain: a comprehensive analysis for subtypes. Brain Communication, 2025.   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 井川 祐樹 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 准教授 大住 倫弘 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: m.ohsumi@kio.ac.jp

2025.05.01

脳卒中患者の不整地歩行の特徴 -高機能者と低機能者による違い-~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中患者は不整地を含む屋外での歩行が困難になりやすく、結果として社会参加を妨げ、生活の質に不利益をもたらします。しかし、脳卒中患者が有する歩行能力によって不整地での歩行戦略に違いがある可能性があります。畿央大学大学院博士後期課程の乾 康浩 氏と森岡 周 教授らは、屋内平地歩行速度0.8m/s未満の低機能脳卒中患者と0.8m/s以上の高機能脳卒中患者の不整地歩行の特徴の違いを検証しました。低機能脳卒中患者は不整地歩行中に、歩行速度が低下するが安定性を維持し、高機能脳卒中患者は遊脚期の膝関節屈曲増大、立脚期の大腿部の共収縮低下を示すことを明らかにしました。この研究成果はTopics in stroke rehabilitation誌(Differences in Uneven-Surface Walking Characteristics: High-Functioning vs Low-Functioning People with Stroke)に掲載されています。   本研究のポイント 屋内平地歩行速度0.8m/s未満の低機能患者と0.8m/s以上の高機能患者の脳卒中患者の不整地歩行の特徴の違いを自作の不整地路を用いて評価した。 低機能患者は不整地で歩行速度が低下するが安定性を維持し、高機能脳卒中患者は遊脚期の膝関節屈曲増大、および立脚期における大腿部の共収縮低下を示すことが明らかとなった。   研究概要 脳卒中患者は、中枢神経系の損傷により歩行障害を有し、不整地を含めた屋外での歩行が困難になります。これは、社会参加を妨げ、生活の質の低下にもつながります。また、脳卒中患者の歩行能力には違いがあり、その能力の違いによって予測困難な摂動が生じる不整地での歩行の戦略が異なる可能性があります。畿央大学大学院 博士後期課程 乾 康浩 氏、森岡 周 教授らの研究チームは、自作の予測困難な摂動が生じる不整地路を用いて、脳卒中患者の不整地歩行中の歩行速度、体幹の加速度、麻痺側の関節運動、および下肢筋共収縮を計測し、平地歩行速度0.8m/s未満の低機能脳卒中患者と0.8m/s以上の高機能脳卒中患者で特徴の違いを分析しました。その結果、低機能脳卒中患者は、 不整地歩行中に歩行速度は低下するものの歩行安定性は維持し、高機能脳卒中患者は遊脚期の膝関節屈曲増大、立脚期の大腿部の共収縮低下を示すことを明らかにしました。本研究は、歩行能力の違いによる脳卒中患者の予測困難な摂動が生じる不整地歩行中の特徴の違いを明らかにした初めての研究です。   研究内容 リハビリテーション専門家にとって、脳卒中患者の歩行能力の違いによる不整地歩行時の戦略の違いを捉えることは必要です。本研究では、予測困難な摂動が生じる不整地での脳卒中患者の歩行戦略の特徴を平地歩行速度0.8m/s未満(低機能脳卒中患者)と0.8m/s以上(高機能脳卒中患者)の2グループで比較することを目的とし、自作の不整地路(図1)を用いて検証しました。     実験で得られたデータから、歩行速度、歩行安定性を評価するための立脚期と遊脚期に分けた3軸の体幹の加速度のRoot Mean Square、麻痺側下肢の最大関節角度、麻痺側下肢の立脚期と遊脚期に分けた共収縮指数を算出しました(図2)。     その結果、平地と比較した不整地での変化として、低機能脳卒中患者では歩行速度は低下するものの安定性は維持し、高機能脳卒中患者では遊脚期の膝関節屈曲増大(図3)、立脚期における大腿部の共収縮指数低下がみられました。     研究グループは、この結果のうち、低機能脳卒中患者の歩行速度低下と歩行安定性の維持に関しては、不整地歩行中の保守的な戦略と考えています。一方で、高機能脳卒中患者の遊脚期膝関節屈曲増大と立脚期における大腿部共収縮指数の低下は適応的な戦略の結果と考察しています。   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、平地での歩行速度が異なる脳卒中患者において、予測困難な摂動が生じる不整地での適応の違いを明らかにしており、リハビリテーション専門家が脳卒中患者の屋外歩行の問題を考える際に着目すべき点を示しています。今後は、非麻痺側を含めた戦略の特徴や縦断的な経過を調査する必要があります。   論文情報 Yasuhiro Inui, Naomichi Mizuta, Shintaro Fujii, Yuta Terasawa, Tomoya Tanaka, Naruhito Hasui, Kazuki Hayashida, Yuki Nishi, Shu Morioka Differences in uneven-surface walking characteristics: high-functioning vs low-functioning people with stroke. Topics in stroke rehabilitation, 2025.   関連する先行研究 Inui Y, Mizuta N, Hayashida K, Nishi Y, Yamaguchi Y, Morioka S. Characteristics of uneven surface walking in stroke patients: Modification in biomechanical parameters and muscle activity. Gait Posture. 2023 Jun;103:203-209.     問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 乾 康浩 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2025.05.01

自立歩行が困難な脳卒中者の歩行回復の特徴 -歩行中の内側広筋の筋内コヒーレンスとの関連-~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中後、下肢の運動麻痺によって体重支持が困難となり、自立歩行の再獲得に大きな影響を与えます。本邦では、そのような状態からの回復を目的に、長下肢装具を用いた歩行トレーニングを推奨しています。畿央大学大学院 博士後期課程 蓮井 成仁氏と森岡 周 教授らを中心とする研究グループは、監視歩行獲得に関連する要因を明らかにしました。さらに、1ヶ月間の歩行トレーニング後に、監視歩行が獲得できた/できなかった群に分けて分析することで、長下肢装具を用いた歩行トレーニングの「適応」と「限界」を明らかにしました。 この研究成果は、Neurological Sciences誌(Association of gait recovery with intramuscular coherence of the Vastus medialis muscle during assisted gait in subacute stroke)に掲載されています。   本研究のポイント 監視歩行が可能となるまでの日数と麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンス値は有意な負の相関関係にありました。 「監視歩行獲得群」は、1ヶ月間の歩行トレーニングによって、運動麻痺の改善と、麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンスと理学療法中の歩数が増える特徴がありました。 「監視歩行未獲得群」は、1ヶ月間の歩行トレーニングによって、運動麻痺の改善が特徴としてありました。   研究概要 脳卒中者に対するリハビリテーションとして、下肢の運動麻痺によって体重支持が困難な者には長下肢装具(KAFO)を用いた歩行トレーニングが推奨されています。しかしながら、回復期病棟を退院する際に、介助なく歩行が可能となる症例とそうではない症例が混在しており、歩行回復に関連する要因はこれまで明らかになっていませんでした。畿央大学大学院 博士後期課程 蓮井 成仁氏と森岡 周 教授らを中心とする研究グループは、監視歩行獲得に関連する要因を調査しました。その結果、歩行トレーニング前における歩行中の麻痺側内側広筋への下降性神経出力の強さと監視歩行が可能となるまでの日数が有意に関係することを明らかにしました。さらに、監視歩行が獲得できた/できなかった症例に分類して、長下肢装具を用いた1ヶ月間の歩行トレーニング効果を確認すると、監視歩行獲得群では運動麻痺や体幹機能、バランス機能の改善と、麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンスと理学療法中の歩数が増えており、介助歩行トレーニングの利得があることが示唆されました。本研究の成果は、監視歩行獲得群への更なるリハビリテーション効果の促進と、監視歩行未獲得群へのリハビリテーション戦略の開発を進めていくために役立つことが期待されます。   研究内容 本研究は、脳卒中患者20名を対象に、身体機能評価に加えて理学療法中の歩数を評価しました。対象者は、KAFOを装着し、後方より理学療法士1名に支えられた条件下(介助歩行)で10m歩行を行いました。その際、筋電図より麻痺側内側広筋および外側ハムストリングの近位部・遠位部から筋内ならびに筋間コヒーレンス(β帯域;下降性神経出力を反映)、下肢屈曲・伸展角度を算出しました。歩行自立度の評価であるFACを用いて、FAC 3(15m監視歩行が可能)に至るまでの日数を歩行回復の指標としました。 監視歩行が可能となるまでの日数(または監視歩行が獲得できなかった対象者は退院までの日数)と麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンス値は有意な負の相関関係にありました。これは、介助歩行開始早期に内側広筋への下降性神経出力が強い症例ほど監視歩行へ到達しやすいことが考えられます。 さらに、監視歩行の獲得の有無に分けて1ヶ月間の介助歩行トレーニングの影響を下記に示します。 監視歩行獲得群:運動麻痺や体幹機能、バランス機能の改善と、麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンスと理学療法中の歩数が増えており、介助歩行トレーニングの利得があることを示しています。 監視歩行未獲得群:運動麻痺のみが改善しましたが、その他の身体機能および歩行中の神経出力の強化、歩行量が停滞しており、介助歩行トレーニングの利得が得られにくいことを示しています。     本研究の臨床的意義および今後の展開 これまでに明らかにされていなかったKAFOを用いた歩行トレーニングによる歩行回復の実態を調査できたことで、症例の応答性に合わせた効果的なリハビリテーションの立案に役立つことが期待されます。今後は、監視歩行獲得群への更なるリハビリテーション効果の促進と、監視歩行未獲得群へのリハビリテーション戦略の開発を進めていく予定です。   論文情報 Naruhito Hasui, Naomichi Mizuta, Ayaka Matsunaga, Yasutaka Higa, Masahiro Sato, Tomoki Nakatani, Junji Taguchi, Shu Morioka Association of gait recovery with intramuscular coherence of the Vastus medialis muscle during assisted gait in subacute stroke. Neurological Sciences, 2025.   問い合わせ先 畿央大学 大学院 健康科学研究科 博士後期課程 蓮井 成人 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2025.04.20

6/15(日)2026入試スタートオープンキャンパス

2025.04.20

6/8(日)2026入試スタートオープンキャンパス

2025.04.15

大阪市西成区における地域在住高齢者の銭湯利用と個人レベルのソーシャル・キャピタルとの関係:介護予防に資する通いの場としての役割の検討~健康科学研究科~

地域在住高齢者の健康に関連する指標としてソーシャル・キャピタル(社会関係資本、以下SCと する)が注目されています。SCは、「人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることができる、『信頼』『規範』『ネットワーク』といった社会組織の特徴」と定義されており、地域在住高齢者の介護予防に資する通いの場においても重要視されています。 しかし、様々な問題から通いの場に参加できない地域在住高齢者も多い現状にあります。そこで本研究は地域に古くから存在し、浴室の家庭化が進む現代までは情報共有の場として社会的機能を担っていたとされる「銭湯」に着目しました。日常的に使用する銭湯が介護予防に資する地域在住高齢者の交流の場の一端を担い、地域在住高齢者における個人レベルのSC強度と関連するかを、本学大学院健康科学研究科客員研究員の仲村渠亮、健康科学研究科の高取克彦教授・松本大輔准教授らは、社会的理由から「銭湯」と繋がりの多い西成区を対象に調査をしました。その結果、日常的に銭湯を多く利用することがSCの構成要素である地域への信頼の高さ、近隣住民との交流の多さと独立して関連していることが明らかとなりました。これらのことから、高齢者サロンなどへの社会参加活動が難しい高齢者に対しては、銭湯が介護予防に資する通いの場となる可能性があることが示唆され、その内容が日本地域理学療法学雑誌に掲載されました。 研究概要 大阪市西成区における高齢者の健康行動と地域資源の活用実態に着目し、特に地域コミュニティの場としての銭湯利用が高齢者の健康維持・増進に関係するSCと関係するかを明らかにすることを目的とした。対面式調査(インタビュー)および定量的調査(体組成測定等)を組み合わせた混合研究法を用いて、銭湯利用者の健康状態、生活行動、社会的交流の特徴を分析した。 研究のポイント 高齢化率・要介護認定率が大阪市内でも最も高い西成区を対象地域として選定。 銭湯利用高齢者を対象に、入浴頻度・利用目的・SC(交流状況等)に関する対面式インタビューを実施。 銭湯は単なる入浴施設としてだけでなく、社会的交流や地域コミュニティ形成の場として機能している実態を確認。 銭湯利用が高齢者の心理的ウェルビーイングや地域参加意識の向上に寄与している可能性を示唆。   本研究の臨床的意義及び今後の展開 地域在住高齢者の健康支援においては、個別的な医療的介入のみならず、日常生活に根差した地域資源の活用が重要な戦略となります。本研究は、銭湯という地域固有の生活資源が、高齢者のSCの維持に寄与しうる可能性を示しました。今後は、他地域への適用可能性の検討や、銭湯をはじめとする地域資源を介した介護予防プログラムの開発、地域包括ケアシステムとの連携強化を視野に入れた実装研究が求められると思います。 謝辞 研究にご協力いただきました対象者の皆様、共同研究者の方々に感謝申し上げます。 論文情報 仲村渠亮,高取克彦,松本大輔:大阪市西成区における地域在住高齢者の銭湯利用と個人レベルのソーシャル・キャピタルとの関係:介護予防に資する通いの場としての役割の検討. 地域理学療法学2024;4(2):79-87.   問合せ先 畿央大学大学院健康科学研究科 客員研究員 仲村渠 亮 教授 高取 克彦 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: k.takatori@kio.ac.jp