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2017.11.29
大学院教育学研究科2017年度フォーラムを開催しました。
今年度のテーマは「日本におけるインクルーシブ教育の最前線と研究の課題」 2017年11月18日(土)に畿央大学大学院教育学研究科2017年度フォーラム「日本におけるインクルーシブ教育の最前線と研究の課題」が冬木記念ホールで開催されました。司会は本学教授の島恒生先生、国立特別支援教育総合研究所研修事業部長兼上席総括研究員の明官茂先生ですすめられ、畿央大学大学院教育学研究科科長の前平泰志先生の「あいさつ」で始められました。曇り空の中、遠く宮城県仙台市や東京からも含め約100名の方にお集まりいただきました。 【基調講演】 山下直也文部科学省特別支援教育課課長補佐より「日本における特別支援教育の現状と展望」というテーマで「1.特別支援教育について」「2.特別支援教育の現状」「3.特別支援教育に関する動向」を内容とする基調講演がありました。「1.特別支援教育について」では、特別支援教育は、発達障害のある子供も含めて、障害により特別な支援を必要とする子供が在籍する全ての学校において実施されるものである、ということが述べられました。 「2.特別支援教育の現状」では、特別支援学校、特別支援学級、通級による指導についての現状が示されました。とりわけ、通級による指導では、情緒障害、自閉症、注意欠陥多動性障害、学習障害の児童生徒数が著しく増加していることが示されました。「3.特別支援教育に関する動向」では、次期学習指導要領について、そして教員の専門性向上では、特別支援学校教諭等免許状の取得のため、講演会などの取り組みを平成32年度までに集中的に実施することにより、特別支援学校教員の専門性の向上を図る、ということが述べられました。 【提案】 本学教授の渡邉健治先生より「日本におけるインクルーシブ教育の最前線」というテーマで、知的障害の通級指導の対象に向けての愛媛県の動き、神奈川県のインクルーシブ教育の推進として、高等学校に知的障害のある生徒を2017年度より、1校に1学年21人を受け入れたこと、平成39年度までに20校で受け入れを実施することが、また宇都宮市では平成20年度より「特別支援教室」が導入され、現在、全小中学校で実施されていることの意義等について、紹介と提案がなされました。 本学准教授の大久保賢一先生からは、畿央大学大学院教育学研究科や現代教育研究所で取り組んできた研究として「小・中学校における合理的配慮についての実態調査の研究」「小学校におけるダイバーシティ教育についての実態調査の研究」の紹介があり、つづいて大久保研究室で研究している「学校全体で取り組むポジティブな行動支援」についての提案がなされました。 京都教育大学教授の相沢雅文先生から、「特別支援教育の地域支援研究の現状と課題」というテーマで、インクルーシブ教育システム構築モデル事業における、主として域内の教育資源の組合せにより域内のすべての子ども 一人一人の教育的ニーズに応え、各地域におけるインクルーシブ教育システムを構築するという「スクールクラスター」についての取り組みの紹介と提案がなされました。 【指定討論】 奈良県立教育研究所特別支援教育部長の中井和代先生から、奈良県における特別支援教育についての現状と課題についての紹介があり、全国的には、インクルーシブ教育の先駆的な取り組みがいくつかあるが、それを各県で取り組む場合には、どのようにしてすすめるべきか、という指定討論がなされました。 大阪教育大学教授の井坂行男先生からは、「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築のための特別支援教育の推進(報告)」における重要な視点、聴覚障害児におけるインクルーシブ教育についての重点項目、大学院におけるインクルーシブ教育研究活動についての紹介があり、インクルーシブ教育を推進するためには、教員の研修が重要であると思えるが、その点についての考えはどうか、という指定討論がなされました。 【コメンテーター】 東洋大学名誉教授の宮崎英憲先生より、中央教育審議会の初等中等教育分科会の特別委員会で「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築のための特別支援教育の推進(報告)」をまとめましたが、「共生社会の形成」という概念を導入したことの意義について、そして、この報告に基づき全国各地でインクルーシブ教育システム構築のための取り組みが展開されていることが紹介されました。さらに、これからのインクルーシブ教育システムを推進するには、「共生社会の形成」に向けた全国的なムーブメントを巻き起こしていくことが必要である、ということが協調されました。 【情報交換会】 講演やフォーラムでは、十分語りつくせないため、意見交換の場として情報交換会が設けられました。本学准教授の石川裕之先生の進行で始められ、前平泰志教育学研究科長の挨拶、冬木正彦学長の乾杯で会が進められ、和やかな雰囲気の中で終了することができました。 【関連記事】 2017年度 大学院教育学研究科フォーラムのご案内 畿央大学大学院教育学研究科開設フォーラムを開催しました。 「学びを結ぶワークショップⅣ」を開催しました。(畿央大学現代教育研究所) 【参考】 国立特別支援教育総合研究所ホームページ 「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築のための特別支援教育の推進(報告)」(文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会特別委員会)
2017.11.29
2017年度人間環境デザイン学科 卒業研究・作品展のご案内(学外)
2017年度の人間環境デザイン学科 『卒業研究・作品展』は、大和高田さざんかホールで行います。在学生の4年間の集大成となる卒業研究・作品45点が展示される予定です。ご来場を心よりお待ちしております。 ▼昨年の様子 会 場 大和高田さざんかホール 展示ホール奈良県大和高田市本郷町6-36【TEL】0745-53-8200 ※さざんかホールには一般来場者用の駐車場はございません。 お車でお越しの際は、JR高田駅西側の市営の立体駐車場をご利用ください。(有料) 主 催 畿央大学健康科学部人間環境デザイン学科 日 時 2018年3月10日(土)10:00~18:00 2018年3月11日(日)10:00~16:00 備 考 入場無料 ▲画像はクリックで拡大できます。 【関連リンク】 ●人間環境デザイン学科「2016年度卒業研究・作品展」を開催しました。 …昨年のイベントレポート ●人間環境デザイン学科 作品ギャラリー …過去の卒業作品をまとめた特設サイト
2017.11.22
平成29年度在外研究~フィンランドからの現地レポート
本学には教育研究水準の向上および国際交流の進展に資するため、学術の研究・調査等のため外国に在外研究員を派遣する制度があります。平成29年6月1日から平成29年11月30日までの期間、フィンランドのUniversity of Helsinki(ヘルシンキ大学)で看護医療学科の乾富士男准教授が、閉じこもり症候群及びその関連疾患(症状)を明らかにするために、双生児研究法による国際比較により研究を進めています。フィンランドから現地レポートが届きましたので、ご紹介します。 私は6月よりヘルシンキ大学社会科学部社会学科に招へい研究者として滞在しております。 ▼ヘルシンキ大学HPより 社会学と健康科学とどういう関係があるのかと思われる方もあるかもしれませんが、ヨーロッパの大学では医療や健康に関するテーマは社会学の主要テーマの一つです。ヘルシンキ大学はヨーロッパでも最古の大学の一つで、設立は1640年です。現在の場所に移転したのは1828年頃だそうです。街の中心にメインキャンパスがあります。街のシンボルともいえるヘルシンキ大聖堂とその前の元老院広場を取り囲む主要な建物の一つが、ヘルシンキ大学の本館です。その周辺に各学部の建物が点在しています。このことは、大学は街の主要な機能の一つであることを具体的に表していると思います。 私は社会科学部の中でも新しい建物にデスクを提供してもらっています。写真のように窓が大きく角部屋なので非常に明るいです。 こちらでは、学科のセミナー(教員と博士課程の学生対象、こちらのセミナーはディスカッションが中心)に参加しています。社会学にはいろいろな専門分野があるので、内容も多岐にわたっていて大変に興味深いです。 ディスカッションすることで多面的に物事を検討でき、研究にも磨きがかかるものだと改めて感じます。ちなみに、外国人が参加していてもいなくても、使用言語は英語だそうです。 社会科学には社会心理、社会政策、人口統計、社会学、など多岐にわたる分野があります。このセミナーでは健康に関するテーマという点では共通していますが、それぞれ異なったバックグラウンドを持つ専門家が議論するので大変に興味深いです。日本では、健康に関するテーマはどちらかというと医学系が中心ですが、ヨーロッパでは社会科学系での健康の研究も盛んです。今回の滞在を通して、社会科学系の知識を増やす必要性を実感できたことは一つの収穫です。 フィンランドはIT大国で、いろいろな活動がオンラインでできます。携帯電話の通信料も安いですし、WiFiもいたるところでアクセスできます。大学も例外ではなく、ほぼすべての手続き、連絡などがオンライン化されています。学生の試験もオンラインです。好きな時に受けられるようです。 ▼社会学部の建物 さて、生活していて少し感じたことも書いてみたいと思います。6月に来た時に驚いたのは、鳥(ホオジロガン、カナダガン、そして白鳥など)の行動です。 公園などにたくさんいるのですが、人が近づいても逃げません。道の真ん中を我が物顔で群れをなして歩いています。自転車が来ても、犬が来ても逃げません。人が避けて歩かなければいけません。これらの鳥は完全に野生です。誰も餌をあげませんし、鳥も餌をねだりません。この鳥たちは、私と同じように夏の間だけここに滞在しているわけですが、なぜか人を怖がりません。自分たちが危害を加えられないことを知っているのだと思います。ちなみに同じ種類の鳥を他の国でも見ましたが、人が近づくと飛び去りました。写真は白鳥の子どもですが、すぐ近くまで近寄っても逃げません。近くにいる親鳥も知らん顔をしています。このような鳥たちがいることが、この街の様子をよく表していると思います。この街の人たちは、多様性に対して非常に寛容で、他人にあまり干渉しません。それでいて、とても親切です。成熟した大人の都市だと感じています。 最後にここで行っている研究の話をしたいと思います。こちらでは、滞在期間も短いので、既存のデータの解析を中心に、新しいプロジェクトのアイデアを具体化する作業をしています。双生児研究に関して、フィンランドは世界の最先端を行く国の一つです。なので、こちらの研究者とのディスカッションは示唆に富んでいて大変有益です。 最新の研究成果を少し紹介します。日本の双生児の方たちに協力いただいて集めているデータを解析し、性格(自己効力感)と身体症状(疲労感)との遺伝相関を明らかにしました。また、うつ症状も加えて解析したところ、異なる2つの遺伝要因がそれぞれの形質に影響を与えていることが分かりました。このことは、私の主要な研究テーマである、「病は気から」のメカニズムの解明のための一つの手がかりだと考えています。この結果は、11月にマドリッドで行われた国際双生児研究学会で発表し、現在論文にまとめているところです。今後は、このような日本での研究成果をフィンランドなどの他国と比較することにより、病気や症状に関係する遺伝の影響だけでなく環境の影響を明確に解明していければと考えています。 ▼学会でのハンガリーのチームと大阪大学のチームの記念写真(一番左が乾准教授) 最後の写真は、10月末頃のヘルシンキの様子です。少し前までこの芝生の広場はホオジロガンであふれていましたが、どこかに旅立ってしまいました。今はすっかり雪に覆われています(ちなみにこの時期の雪は“普通ではない”そうです。念のため)。私もそろそろと帰国の準備を始めなければいけない時期のようです。 看護医療学科 准教授 乾富士男 【関連記事】 平成29年度 在外研究説明会を開催しました。 平成29年度在外研究~メルボルンからの現地レポート
2017.11.06
平成29年度の科研費採択件数、私立大学で全国8位に(学生数5,000人未満)
学生数5,000人未満の私立大学で採択件数が全国8位(関西1位)にランクイン 文部科学省から科学研究費助成事業(通称「科研費」)の配分結果が公表されました。本学における平成29年度科研費は、新規応募件数49件に対し、新規採択件数20件(新規採択率40.8%)という結果でした。現在継続中の研究課題とあわせて、平成29年度は本学から49件の研究課題が採択されています。在籍者数1)5,000人未満の私立大学2)では全国8位(5,000人以上の大学を含めると全国56位)、関西私立大学で1位(平成28年度に引き続き2年連続)に位置しています。 1) 大学の在籍者数は私立大学協会「大学ポートレート」各大学 学生情報>在籍者数2017年より抜粋 2) 医歯薬学部附属病院をもつ大学を除く 【科研費について】科学研究費助成事業は、人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、あらゆる「学術研究」を格段に発展させる独創的・先駆的な研究に対する助成を行うものです。科研費は国の最大の研究支援であり、大学の研究力を表す指標の一つと言えます。 また、新規応募件数40件以上の大学で、新規採択率40.8%は全国6位、私立大学では全国1位でした。科研費採択結果は本学の研究力の高さを客観的に示しており、高い研究力に裏付けられた質の高い教育が提供されている証明の一つと言えます。 全国私立大学 科研費採択件数ランキング ※医歯薬学部附属病院のある大学を除く 全国56位/在籍者数5,000人未満の私立大学で全国8位 ※黄色マーカーは在籍者数5,000人未満の大学 応募件数40件以上での科研費新規採択率 ※新規採択件数÷新規応募件数 全国6位/私立大学では全国1位 科研費関連の過去記事およびランキング記事 平成29年度科研費交付内定、採択率は50%に 科研費採択件数、学生数5,000人以下の私立大学で関西1位に(平成28年度) 就職率関西4位~AERAムック「就職力で選ぶ大学2018」
2017.11.02
軽く身体に触れることでもたらされる無意識的な二者間姿勢協調と社会的関係性の関係を解明~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
介護者やリハビリテーション専門家がバランス能力の低下した対象者の身体に触れ、 姿勢や動作を介助することの社会心理学的意義を明らかに ヒトが静かに立っている時は、一見動いていないように見えて、実は狭い範囲で揺れながら安定しています。この揺らぎは、相手の身体に軽く触れるだけで互いに同調するという現象が報告されており、”二者間姿勢協調”と呼ばれています。畿央大学大学院健康科学研究科の石垣智也らは、この二者間姿勢協調が「仲の良さ」に影響されているのではないかという仮説を立てて検証しました。参加者は知人や友人、親友など、既に顔見知りにある同性ペアであり、それぞれパートナーへの仲の良さを心理アンケートにて評価しました。立っている時の身体の揺らぎは、重心動揺計を用いて「相手に軽く触れた状態(ライトタッチ)」で計測しました。その結果、ペアになっている2人の仲が良ければ良いほどお互いの身体の揺らぎが似てくるという結果が得られました。 つまり、“二者間姿勢協調”は二者間の良好な親密性と関係していることが明らかになりました。本研究結果は、ヒトとヒトの姿勢協調のメカニズムにおける社会心理学的側面を明らかにしたもので、介護者やリハビリテーション専門家がバランス機能の悪い患者さんの身体に触れることの社会心理学的意義を明らかにしたものとなります。 この研究成果は、Frontiers in Psychology誌(Association between Unintentional Interpersonal Postural Coordination Produced by Interpersonal Light Touch and the Intensity of Social Relationship)に掲載されています。 研究概要 手をつないで歩く、ペアでのダンス、そして介護やリハビリテーション場面における動作介助など、身体接触を介して二者の姿勢や運動が影響し合うことがあります。この際、身体接触から加えられる情報は、接触による力学的要因と感覚的要因に分けられます。加えられる力による姿勢や運動への影響は明らかなことですが、本研究では、後者の感覚的要因、つまり身体接触により生じる触覚情報の影響に着目しています。ヒトの安静立位は一見すると安定しており、運動は生じていないようにみえますが、実際には狭い範囲で常に姿勢は揺ぎながら安定しています。この際、二者が互いに軽い身体接触を行うと、両者の姿勢の揺らぎが無意識的に類似すること(二者間姿勢協調)が知られています。これは、姿勢を制御するために用いている感覚情報に、パートナーの姿勢の揺らぎを反映した触覚情報が取り入れられるために生じると考えられています。一方、社会心理学的な知見によると、運動の二者間協調(模倣や身体同調などとも呼ばれています)は両者の社会心理学的な関係の良さを反映するとともに、良好な関係を形成する“社会的接着剤”として機能していることが知られています。しかし、これまでの研究では、立位姿勢の揺らぎという複雑で無意識的な運動の二者間協調に対して、社会的な関係の良さが影響しているかは明らかになっていませんでした。そこで研究グループは、身体接触による触覚情報から生じる無意識的な二者間姿勢協調と、相互作用する二者の社会的関係性との関係を検討しました。 実験では、既存の社会的関係(知人、友人または親友)にある同性ペアを対象に、それぞれパートナーへの関係性(親密度)を評価しました。その後、閉眼安静立位姿勢にて身体接触を行わない条件(非接触条件)と、接触による力学的影響を最小化するライトタッチという方法(約102g未満の接触力)で軽い身体接触を行う条件(接触条件)の姿勢の揺らぎを二者同時測定し、姿勢の揺らぎの類似性とペアの親密度との関係を分析しました。結果、対象者の自覚なしで接触条件では非接触条件に比べて高い揺らぎの類似性を認め、接触条件で無意識的な二者間姿勢協調を生じていることが確認されました。さらに、この姿勢協調の程度とペアの親密度との関係を分析したところ、左右方向(パートナーが立っている側)における姿勢協調の程度と親密度においては正の関係(親密度が高いほど姿勢の揺らぎが類似する)を示したのに対し、前後方向では負の関係(親密度が低いほど姿勢の揺らぎが類似する)を示しました。 つまり、身体接触による触覚情報から生じる無意識的な二者間姿勢協調は、相互作用する二者の社会的な関係性(親密度)と関係していることが明らかとなりました。 本研究のポイント 軽く身体に触れることで示される無意識的な姿勢の揺らぎの類似性は、相互作用する二者の親密度と関係することを明らかにしました。 研究内容 本研究では、身体接触による触覚情報から生じる無意識的な二者間姿勢協調と、相互作用する二者の社会的な関係性との関係を検討しました。実験は、既存の社会的関係(知人、友人または親友)にある同性ペアを対象に行い、はじめに、それぞれ別室でパートナーとの関係性を問う複数の心理アンケート行い、その結果をもとにパートナーへの親密度を評価しました。その後、安静立位姿勢にて軽い身体接触を行う条件(非接触条件)と、接触による力学的影響を最小化するライトタッチという方法(約102g未満の接触力)で軽い身体接触を行う条件(接触条件)(図1)の姿勢の揺らぎを二者同時測定し、測定後に「相手と自分の姿勢の揺らぎが似ていると感じたか」という問いに対する内省を得ました。 【図1 実験条件】安静閉眼立位でパートナーの側方に位置し、示指でパートナーの示指に軽く接触を行います。※軽く接触する程度はライトタッチ(約102g未満の接触力)の設定で行われています。 結果、対象者の自覚なしに接触条件では非接触条件に比べて高い揺らぎの類似性を認め(図2)、接触条件で無意識的な二者間姿勢協調を生じていることが確認されました。 【図2 姿勢の揺らぎの類似性】左右方向・前後方向の揺らぎともに、接触条件では非接触条件に比べて高い揺らぎの類似性を認めています さらに、この二者間姿勢協調の程度とペアの親密度との関係を、階層線形モデリングという個人とペアのデータ構造を扱う統計手法で分析したところ、左右方向(パートナーが立っている側)における姿勢協調の程度とペアの親密度は正の関係(両者が親密と感じているほど強く協調する)を示し、前後方向では負の関係(両者が親密と感じているほど協調は弱い)を示しました(図3)(図4)。 【図3 接触条件における二者間姿勢協調と親密度との関係】ダイヤが個々の値、丸がペアでの値を示します。いずれの値も左右方向における二者間姿勢協調の程度と親密度において正の関係を示しており、前後方向では負の関係が示されていることを確認できます 【図4 階層線形モデリングの結果】左右・前後ともに接触条件の揺らぎの類似性が、それぞれペアの親密度に対して正の関係、負の関係を示す要因であることを示しています。 この研究結果に対して研究グループは、良好な親密度は、姿勢制御のために用いられる感覚情報として、パートナーの揺らぎを反映した触覚情報を自身の揺らぎの情報よりも優先的に取り入れるように作用するため、二者間姿勢協調と親密度に関係が示されたと考察しています(図5)。また、揺らぎの方向で関係が異なったことについては、側方に二者が近接して位置された立位条件で実験が行われており、左右方向において強くパーソナルスペースに侵入する設定になっていたことが要因ではないかと考察しています。 【図5 本研究結果のモデル図】ペアの親密度がお互いのパートナーからの情報を取り込む程度を調整することを示しており、ペアの親密度が良好であれば合成された情報の多くに、パートナーの姿勢の揺らぎを反映した情報(自身の情報は相対的に減少)が含まれることを意味しています。 本研究の意義および今後の展開 本研究成果は、触覚情報を用いたヒトとヒトの姿勢運動制御の相互作用を理解する基礎的知見のひとつになるものと期待されます。また、この基礎的知見は、介護者やリハビリテーション専門家がバランス能力の低下した対象者の身体に触れ、姿勢や動作を介助することの社会心理学的意義の解釈を示唆しているものとも言えます。本研究により、二者間姿勢協調における社会心理学的側面の一部が明らかとなりましたが、運動学的側面や神経科学的側面の理解は未だ明らかになっていない点が多く、この点に対する更なる基礎研究が望まれます。さらに、今後はこのような二者間協調の視点をもって、療法士と患者などを対象とした臨床場面における研究展開も望まれます。 論文情報 Association between Unintentional Interpersonal Postural Coordination Produced by Interpersonal Light Touch and the Intensity of Social Relationship. Ishigaki T, Imai R, Morioka S. Frontiers in Psychology. 2017 (doi: 10.3389/fpsyg.2017.01993) 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 石垣 智也(イシガキ トモヤ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: p0611006@gmai.com 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel:0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2017.10.31
平成29年度在外研究~メルボルンからの現地レポート
本学には教育研究水準の向上および国際交流の進展に資するため、学術の研究・調査等のため外国に在外研究員を派遣する制度があります。平成29年4月1日から平成30年3月31日までの期間、オーストラリアのThe University of Melbourne(メルボルン大学)で理学療法学科瓜谷准教授が研究活動にあたっています。メルボルンからレポートが届きましたので、ご紹介します。 平成29年4月中旬からオーストラリアのメルボルンにある、The University of Melbourneで客員研究員として活動しはじめて半年が過ぎ、早いもので後半戦に入りました。私が所属しているのはCenter for Health, Exercise and Sports Medicine (CHESM)という研究センターで、変形性膝関節症の理学療法に関する研究で世界を牽引しておられる、Kim Bennell教授の元で研究活動を行っています。 ▼この建物の最上階にCHESMのオフィスがあります。 ▼オフィスからの景色 ▼CHESMのメンバー(の一部)。中央の女性2人が2トップ。左がリーダーのKim Bennell教授、右がRana Hinman教授 世界中を飛び回っているBennell教授ですが、時間を作っていつも懇切丁寧に指導してくださいます。 基本的にはオフィスでの研究活動がメインとなりますが、動作解析装置等を用いたデータ収集のサポートやスカイプを用いたクイーンズランド大学・シドニー大学との月1回の勉強会に参加することもあります。 ▼勉強会 また研究チームの勉強会では、夏休みを利用してこちらを訪れたゼミ生と共に、私の取り組んでいる研究テーマについてのプレゼンもさせていただきました。 ●メルボルン大学で4回生が卒業研究発表+ラボ見学レポートPart1~理学療法学科 ●メルボルン大学で4回生が卒業研究発表+ラボ見学レポートPart2~理学療法学科 滞在中にオーストラリア国内やニュージーランドの学会にも参加しました。 また以前から交流のあったこちらのPhysio(理学療法士)やこちらで知り合ったPhysioとも、クリニックを見学させていただいたり、自宅に招いていただいたり、他大学での勉強会に誘っていただいたりして交流をしています。どなたも国際的に活躍されている方々ばかりで、とても勉強になります。 La Trobe大学の研究者であり、スポーツ理学療法の分野で世界的に活躍しているDr. Christian Burtonが勤務するクリニックを見学させていただきました。 オーストラリアを中心に痛みの臨床・研究・教育で活躍されているPhysiotherapistであるLester Jones。ひょんなことからご自宅でのホームパーティーに誘っていただき、仲良くなりました。写真はRoyal Melbourne Institute of TechnologyのChinese medicineの研究チームでの勉強会です。 あっという間に残り半分を切った感じがしますが、できるだけ多くのことを経験し吸収し、3月までさらに貪欲に過ごしたいと思います。 理学療法学科准教授 メルボルン大学客員研究員 瓜谷 大輔 【関連記事】 ・「足趾握力」に関する論文が国際誌に掲載!~理学療法学科教員 ・卒業生がWCPT-AWP&PTAT CONGRESS 2017で研究成果を発表!~理学療法学科 ・平成29年度 在外研究説明会を開催しました。
2017.10.23
第15回畿央祭・ウェルカムキャンパスを開催しました!
10月21日(土)・22日(日)に実施した第15回畿央祭・ウェルカムキャンパスは、台風21号による悪天候にもかかわらず、地域の皆様をはじめ約5千人の多数の方々にご来場いただきました。 今年のテーマは『虹』。 今年は、台風21号の影響により、2日目(10/22)は、安全のため13時に終了しました。足元の悪いなか、ご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました! 野外ステージ ■開会式 学長のご挨拶、畿央祭実行委員長の開会宣言のあと、実行委員207人と学生が揃って、開会式を行いました! ■吉本お笑いライブ(22日/笑い飯、ジュリエッタ、見取り図) ■バンド、ダンスなど ステージ上では、雨風にも負けず、熱いパフォーマンスが2日間にわたり繰り広げられました。 ■フィナーレ台風21号の影響により13時の終了となりました。予定より早いフィナーレとなりましたが、伝統の畿央祭実行委員有志による「ソーラン節」は健在です。 冬木記念ホール ■バンド演奏など バンド演奏、チアリーディング、ダンスなどで盛り上がりました。 アリーナ ■子ども向け企画 「レインボーランド」 2日間、畿央生と子どもたちがルールを守って、思いっきり遊びました。 模擬店など 模擬店は48店舗。クラス・部活・サークル・ゼミ単位など、いろんなグループで出店しています。 好評につき、売り切れのブースもありました!! ウェルカムキャンパス 例年「畿央祭」と同時に開催している『ウェルカムキャンパス』は、畿央大学の教職員がお送りする、地域のみなさま参加型のイベントです。今年も畿央祭にあわせて開催し、老若男女の皆様に研究成果を体験していただきました!! 10/21(土)・22(日)両日開催■学びのギャラリー <人間環境デザイン学科> ■食育にチャレンジ! <健康栄養学科> ■子どもたちへ「運動の器用さにチャレンジしてみよう!!」<ニューロリハビリテーション研究センター> ■腰痛が気になる方へ「腰痛チェックをしてみよう!」<ニューロリハビリテーション研究センター> ■自然と科学のちょこっと体験 <現代教育学科> (22日(日)は台風の影響で中止とさせていただきました) ■茶室「紐庵(ひもあん)」 <人間環境デザイン学科> ■広げよう、ボランティアのWA!2017 <ボランティアセンター> 10/21(土)開催 ■おいしい講座 <健康栄養学科> ■がんカフェ「きらめき」 <看護医療学科> ■子どもたちの遊びと学びの空間へようこそ! <現代教育学科> 10/22(日)開催 ■子どものための食育 <ヘルスチーム菜良> ■健康チェック <TASK(健康支援学生チーム)> ■味覚測定 <健康栄養学科> ■健康カロリーチェック!! <健康栄養学科> 同窓会サロン(ホームカミングデー) 卒業生の休憩スペースには、190名の卒業生が来場。時折、先生方も立ち寄ってくださり、学生時代を懐かしみました。 ミニオープンキャンパス 21日(土)18組の方にご参加いただきました! 参加者には畿央祭で使える金券が配布され、キャンパス見学もかねて、学園祭にくりだしました! (22日(日)は台風の影響で中止とさせていただきました) 畿央祭にご来場、ご協力いただいた皆様、ありがとうございました! 近日中に、実行委員や学生広報スタッフによる畿央祭ブログも公開予定です。ご期待ください!
2017.10.23
第26回クリーン&歴史ウォークに後援・協力します!
畿央大学の隣にあるエコール・マミを出発点として毎年春秋の2回実施している、地元の旧跡・神社等を散策しながら美化活動を行う“クリーン&歴史ウォーク”が2017(平成29)年11月25日(土)に開催されます。 第26回目となる今回は、三吉石塚古墳~牧野古墳を目指す約5.5Kmのコースを予定しています。健康ウォーキングは理学療法学科松本大輔先生(理学療法士)が指導、学生ボランティアがイベント運営を支援します。みなさん、ぜひご参加ください。 内 容 地域美化活動・健康ウォーク 実 施 日 平成29年11月25日(日) ※小雨決行 (荒天中止) 集 合 (場所)エコール・マミ 南館1F ふるさと広場 (受付)当日9:00~ (出発)9:30 (解散)12:30頃 参加人数 先着100名(予定) 対 象 者 小学生以上(ご家族での参加歓迎!) 参 加 費 無料(飲物進呈) 申込方法 エコール・マミ(電話0745-55-7770)へお電話、または、北館1Fインフォメーションにてお申込みください。 ※当日に集合場所の「ふるさと広場」でも直接、お申込みできます。 主 催 クリーン&歴史ウォーク実行委員会 後 援 畿央大学、広陵町教育委員会、香芝市教育委員会、独立行政法人都市再生機構西日本支社 協 力 畿央大学学生、広陵古文化会 協 賛 ㈱関西都市居住サービス エコール・マミ営業所 ▲クリックで拡大します。
2017.10.17
畿央生が考案した麺メニューが香芝SA・岸和田SAで販売されます~近鉄連携「香芝サービスエリアメニュー開発プロジェクト」
近鉄連携 西名阪自動車道 香芝SA・阪和自動車道 岸和田SAで 畿央生が創作した「麺メニュー」販売スタート! 畿央大学は今年も株式会社近鉄リテーリングと連携して、西名阪道 香芝サービスエリアで提供する「麺メニュー開発」に取り組んでいます。昨年は「丼メニュー開発」に携わり、グランプリ受賞の「大和ポークねばねばアボカ丼」、準グランプリ受賞の「まほろば大和のうるわし豚丼」は香芝SAのフードコートで、特別賞受賞の「1杯で2度美味しい一石二豚丼」、「ヤマトポークのトントン丼」は岸和田SAで提供されました(現在は販売終了)。 そして、今年は「麺メニュー」をテーマとして、2017(平成29)年7月8日(土)に開催された㈱近鉄リテーリングと畿央大学の連携事業「香芝サービスエリアメニュー開発プロジェクト」コンテスト(審査会)でグランプリ・準グランプリ・特別賞を受賞した5つのレシピが商品化されることになり、販売に先立って香芝サービスエリア(以下、SA)で試食会が行われました。 平成29年10月13日(金)授業後に、岸和田SAで販売される特別賞受賞2グループ7名は16時20分から西名阪自動車道香芝SAへ出発し、香芝SAで販売されるグランプリ・準グランプリ受賞3グループ10名は17時50分から同じく香芝SAへ出発しました。(指導教員:中谷友美先生、米田武志先生) 11/1(水)岸和田SA下り線(和歌山方面行)で、販売開始! まずは岸和田SAで販売される特別賞の“大和芋のぶた都旅虜(とろろ)そば”と“ヤマトポークのみそ豆乳醤ラーメン”を美味しくいただきました。岸和田SA田村料理長から変更点の説明や美味しさを引き立たせる方法などをお聞きしました。学生たちは疑問に思う点を積極的に質問し、納得いくメニューが完成しました。 大和芋のぶた都旅虜そば ヤマトポークのみそ豆乳醤ラーメン ▼岸和田SA販売分 ヤマトポークのみそ豆乳醤ピリ辛ラーメン 950円 大和芋のぶた都旅虜そば 850円 ▲画像クリックで、チラシを拡大します。 10/19(木)香芝SAにて、販売開始! 次に香芝SAで販売されるグランプリ賞の“奈良の野菜山”と準グランプリ賞の“柿揚げうどん” と“大和のふるさとうどん”を美味しくいただきました。このプロジェクトの最初からお世話になってきた香芝SA下出料理長から変更点の説明やコストパフォーマンスと美味しさを保つ調理方法をお聞きしました。食材の切り方やいろどりについてお聞きし、教室での学習とは違った現場での調理方法を学び、学生たちは積極的に質問をしていました。 奈良の野菜山 香芝SA上下線で販売開始! 大和のふるさとうどん 香芝SA下り線(天理・名古屋方面行)販売開始! 柿揚げうどん 香芝SA上り線(大阪方面行)販売開始! 試食会も終了し、西名阪香芝SAでは10月19日(木)から、阪和岸和田SAでは11月1日(水)から販売となる予定です。どちらのSAも一般道を通って行くことができます。(一般道からの専用駐車場もあります) 西名阪自動車道大阪行きの上り香芝SAで “奈良の野菜山うどん”と“柿揚げうどん”、名古屋行きの下り香芝SAで”奈良の野菜山”と“大和のふるさとうどん”が販売され、阪和自動車道和歌山行きの下り岸和田SAで “大和芋のぶた都旅虜そば”と“ヤマトポークのみそ豆乳醤ラーメン”が販売されます。みなさんも畿央大学生が考案した麺メニューをぜひお召し上がりください。 ▼奈良の野菜山うどん <香芝SA上り・下り共通> 780円 ▼柿揚げうどん <香芝SA上り:大阪行き、京奈和自動車道 御所南PA> 680円 ▼大和のふるさとうどん <香芝SA下り:名古屋行き> 680円 ▲画像クリックで、チラシを拡大します。 11/17(金)御所南PAにて、販売開始! 京奈和自動車道の御所南パーキングエリアでも、“柿揚げうどん・そば” が販売されることになりました。 うどん・そばの単品680円と、鶏飯付き820円もご賞味いただけます。 【関連記事】 近鉄連携「香芝SAフードコート メニュー開発プロジェクト」 審査会が開催されました! 近鉄連携「香芝SAフードコート メニュー開発プロジェクト」 レシピ検討会を開催! 近鉄連携「香芝SAフードコート 麺メニュー開発プロジェクト」プレゼンテーション会を開催! 近鉄連携「香芝SAフードコート 麺メニュー開発プロジェクト」でサービスエリアを見学! 近鉄連携「香芝SAフードコート 麺メニュー開発プロジェクト」が始動しました! 近鉄連携 西名阪自動車道香芝サービスエリアで畿央生が作った「大和ポークを使った丼メニュー」が発売されます。 近鉄連携 阪和自動車岸和田サービスエリアで畿央生が作った「大和ポークを使った丼メニュー」が発売されます。
2017.10.17
腱振動刺激による運動錯覚の鎮痛メカニズムに新たな発見~ニューロリハビリテーション研究センター
腱振動刺激による運動錯覚の惹起で鎮痛効果と運動機能の改善を確認 畿央大学大学院健康科学研究科博士後期課程の今井亮太らは、橈骨遠位端骨折(ころんで手をついた際におこる骨折で、頻度の高い疾患)術後患者に腱振動刺激による運動錯覚を引き起こすことで痛みの軽減と運動機能の改善が認められたことを確認してきました。(2016 / 2017) 本研究は、この振動刺激による運動錯覚の鎮痛効果に関与する神経活動(脳波研究)を調査したものであり、感覚運動関連領域の興奮と鎮痛との間の関係性を確認したものです。この研究成果は、NeuroReport誌(Effects of illusory kinesthesia by tendon vibratory stimulation on the post-operative neural activities of distal radius fracture patients)に掲載されています。 研究概要 2016年、2017年に今井らは、橈骨遠位端骨折術後患者に対して腱振動刺激による運動錯覚(腱に振動刺激を加えると筋紡錘が興奮し、刺激された筋が伸張しているという情報が脳内へ伝えられることによって「あたかも関節運動が生じているような運動錯覚」が生じる現象)を惹起させることで、痛みの感覚的側面や情動的側面の改善だけではなく、運動機能にも改善が認められたことを報告してます。運動錯覚時には実際に運動するときと同様の脳活動が得られることと、鎮痛には運動関連領域の活動が関与していることが明らかにされていました。しかしながら、この運動錯覚時に認められる感覚運動関連領域の活動が鎮痛効果に関与するかどうかは不明瞭なままでした。 そこで本研究では、橈骨遠位端骨折術後患者に対して腱振動刺激による運動錯覚を惹起させ、脳波を用いて運動錯覚中の感覚運動関連領域と痛みとの関連性を調査しました。その結果、すべての患者が運動錯覚を惹起したわけではありませんでしたが、運動錯覚を惹起した群(9名中6名)は、運動時や運動錯覚時に認められる脳活動が感覚運動関連領域に認められました。 つまり、痛みが強く運動が困難な術後患者でも、運動錯覚を惹起していることが脳活動の側面から示されました。そして、感覚運動関連領域の活動の程度と痛みの変化量(術後7日目~術後1日目)に有意な負の相関関係(脳活動が高いほど痛みの減少量が大きい)が認められました。 これらのことから、術後早期から運動錯覚が惹起可能であり、かつ振動刺激によって感覚運動関連領域が強く興奮する患者においては、痛みに対する介入効果が大きいことを示しました。 本研究のポイント ●術後翌日から腱振動刺激による運動錯覚を惹起させることで、感覚運動関連領域の神経活動が認められた。 ●感覚運動関連領域の活動の程度が鎮痛の効果量に関係している。 研究内容 橈骨遠位端骨折術後から腱に振動刺激を与えながら(図1)、その時の脳活動を脳波計で測定しました。 そして、運動錯覚が惹起した群と惹起しなかった群の脳活動と痛みを比較しました。 図1:腱振動刺激による運動錯覚の課題状況 脳波解析の結果、運動錯覚を惹起した群では感覚運動関連領域の活動が認められましたが、運動錯覚を惹起しなかった群では認められませんでした。(図2) 図2:腱振動刺激時に認められた脳活動(*青色の方が活動の強いことを意味する) 左:動錯覚を惹起した群 右:運動錯覚を惹起しなかった群 安静時痛の変化量と感覚運動関連領域の活動に有意な負の相関関係が認められました。(図3) つまり、感覚運動関連領域の活動が大きいほど、鎮痛の効果量も大きいことが示されました。 図3:左感覚運動領域と右感覚運動領域の活動と安静時痛の変化量 今後の展開 痛みが抑制されたメカニズムが明確になっていないため,今後は神経生理学メカニズムの詳細を明らかにしていきます。 関連する先行研究 Imai R, Osumi M, Morioka S. Influence of illusory kinesthesia by vibratory tendon stimulation on acute pain after surgery for distal radius fractures: A quasi-randomized controlled study. Clin Rehabil. 2016; 30: 594-603. Imai R, Osumi M, Ishigaki T, Morioka S. Effect of illusory kinesthesia on hand function in patients with distal radius fractures: a quasi-randomized controlled study. Clin Rehabil. 2017.31:696-701 論文情報 Imai R, Osumi M, Ishigaki T, Kodama T, Shimada S, Morioka S. Effects of illusory kinesthesia by tendon vibratory stimulation on the postoperative neural activities of distal radius fracture patients. Neuroreport. 2017 Oct 11. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp