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2021.05.31
【症例報告】疼痛律動性と身体活動量に焦点を当てた患者教育の効果~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
近年、日内で疼痛強度が変動する疼痛律動性の存在が報告されています。こうした疼痛律動性を把握することは、慢性疼痛への治療戦略を考えるうえで有用であり、様々な疾患で律動性の調査が行われています。しかし、これまでの研究では疼痛律動性を考慮した治療介入に関する報告はされておらず、律動性を考慮することで具体的にどのような効果があるのかは検討されていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程 田中 陽一 氏 と森岡 周 教授 らは、慢性疼痛症例を対象に疼痛律動性、身体活動量の詳細な評価に基づいた患者教育介入を行い、介入後の疼痛律動性、身体活動量に良好な変化が得られたことを報告しました。この研究成果は、World Journal of Clinical Cases誌 (Effectiveness of patient education focusing on circadian pain rhythms: A case report and review of literature)に掲載されています。 研究概要 慢性疼痛への介入では、患者のQOLとADLの向上を目指すべきであり、疼痛管理に重点を置くことが重要である。本研究では、疼痛律動性と日中の身体活動量との関係に基づいて患者教育介入を行った。症例は約8年前から神経障害性疼痛を呈している60歳代の男性であった。日常生活活動の重要性、疼痛律動性、身体活動量について初期評価を行った結果、軽強度活動(light-intensity physical activity:LIPA)を多く行った日の方が、LIPAをあまり行わなかった日よりも日中の痛みが低いことが明らかとなった。そのため、患者教育では、午後に悪化しがちな痛みを軽減する方法を中心に説明し、午後のLIPAを維持するために、重要度評価で重要度が高かった「散歩」を具体的な手段として提示し、症例の行動変容を促した。再評価では、注目していた午後のLIPAが増加し、疼痛律動性にも変化が見られた。複合的評価に基づく患者教育は、疼痛律動性と身体活動に対し肯定的な結果を引き出すことができた。 本研究のポイント ■ 慢性疼痛を有する1症例の疼痛律動性、身体活動量を中心とした複合的評価に基づく患者教育を実施し、介入後の痛みの律動性と身体活動の変化を検討した。 ■ 本症例では、LIPAが痛みの律動性に関与していることを示した。 ■ LIPAに加え、本人が重要と感じている活動(ex. 散歩)を行動変容の具体的手段に活用することの重要性を示した。 研究内容 慢性疼痛を有する1症例を対象に、疼痛律動性と身体活動量の評価と、日常生活の重要度評価を行った。疼痛律動性は1日6時点を7日間評価した。身体活動量は7日間身体活動量計を装着し、装着時間内のMETSを算出した。初期評価の結果、LIPAが日中の疼痛強度に影響を与える可能性を示唆した(図1)。初期評価に基づいて、午後からの疼痛増悪に着目し、午後のLIPAを維持するために、重要度評価で重要度が高かった「散歩」を具体的な手段として提示し行動変容を促した。再評価では、注目していた午後のLIPAが増加し、疼痛律動性にも変化が見られた(図2、3)。 図1:軽強度活動(LIPA)の高い日と低い日における疼痛律動性の比較 LIPAが高い日の方が午後からの疼痛強度が低値を示した 図2:各時間帯における身体活動量の変化 再評価では着目していた午後からのLIPAが増加した(右図) 図3:疼痛律動性の変化 再評価では日内の痛みの最弱点が18時に変化した(右図) 本研究の意義および今後の展開 本研究成果は、慢性疼痛患者への具体的な治療介入のために、疼痛律動性を評価する意義を示したものです。そのため、今後はサンプルサイズを増やし、様々なタイプの律動性、疼痛性質を持った慢性疼痛患者においても治療介入による効果検証を進めていく予定です。 論文情報 Tanaka Y, Sato G, Imai R, Osumi M, Shigetoh H, Fujii R, Morioka S Effectiveness of patient education focusing on circadian pain rhythms: A case report and review of literature World Journal of Clinical Cases. 2021 関連する論文 田中 陽一、 大住 倫弘、 佐藤 剛介、 森岡 周. 日中の活動が慢性疼痛の日内変動に及ぼす影響 ─右腕神経叢損傷後疼痛を有する1症例での検討─. 作業療法 2019; 38: 117-122, 2019 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 田中 陽一(タナカ ヨウイチ) E-mail: kempt_24am@yahoo.co.jp 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 森岡 周(モリオカ シュウ) E-mail: s.morioka@kio.ac.jp Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
2021.05.31
第3回卒後教育研修会「コロナ禍の看護の現状~やさしさをチカラに変える 現場の声から~」を開催しました。
2021年5月23日(日)14時より看護実践研究センター第3回卒後教育研修会「コロナ禍の看護の現状~やさしさをチカラに変える 現場の声から~」を開催しました。 卒後教育研修会は看護医療学科の卒業生に対するリカレント教育として畿桜会総会と同日に開催していますが、昨年度は感染拡大予防の観点により中止となり、今年度は畿桜会総会もWeb総会ということで、本研修会もZoomを使ったオンラインでの開催となりました。 今回は新型コロナウイルス感染症専用病棟で勤務する看護医療学科7期生の乾文乃さんを講師としてお招きし、新型コロナウイルス感染症患者さんのケアに携わっている現状について話していただきました。新型コロナウイルス感染症拡大の第1・2波と第3・4波の違いについて、乾さんの主観であると断ったうえで、重症化スピードの速さ、重症化患者の年齢層のピークが高齢層から壮年期へと移行していること、女性よりも男性の重症化が多いことが説明されました。 また、呼吸状態が急速に重症化するために、日中、夜間を問わずに気管挿管が行われ、その都度、看護師の勤務調整が求められること、感染症ということで看護補助者やリハビリ介入などの他職種の支援を受けにくく、そのため看護師の業務が膨大になっていること、そして、感染予防のために看護師自身の行動を制限せざるを得ず、家族と会うことも躊躇しているという厳しく過酷な状況に看護師が置かれていることが語られました。 一方で、そのような過酷な状況にあっても、患者さんとその家族へのケアに注力していることも語られました。感染予防のために家族は面会を制限されますが、なかには家族が濃厚接触者として自宅待機をせざるをえない場合もあるそうです。だからこそ、家族の気持ちを思い、患者さんの身だしなみを整え、患者さんの身体を傷つけないように細心の注意を払っているとのことでした。そして、家族への病状説明が長くなされていない場合には医師に病状説明を働きかけ、残念にも患者さんがお亡くなりになった場合は、感染予防に気をつけて可能な範囲で家族と最期のお別れができるように配慮しているということでした。 新型コロナウィルス感染症患者さんに対する看護のリアルな話は、参加者の胸に刺さるものでした。と同時に卒業生の活躍を頼もしく感じました。 講演に続いて、林田准教授(看護医療学科/看護実践研究センター)とのディスカッションにより、講演内容をさらに深めていきました。そして、参加者の方々からもチャット機能を使用して、リアルタイムで質問や感想が寄せられ、コロナ禍の看護について共有し、これからの看護に求められているものを一緒に考え、中身の濃い研修会となりました。 今回は初めてのオンライン開催ということで、不行き届きな点もあったかと思いますが、参加者の皆様からは「看護の力をフル稼働しながら頑張っていることを共有できたことは、大変よかった」「煩雑な業務の中でもお一人おひとりと大切に向き合っている様子が伝わり、大変感動した」など概ね良い評価をいただきました。 来年の今頃は新型コロナウィルス感染症も収束して対面での研修会が開催でき、皆様と膝突き合わせてディスカッションができることを期待しております。本研修会は畿桜会総会と同日の午後に開催しますので、どうぞ、来年の予定に入れておいてください。 最後になりますが、貴重なお話をしてくださいました乾さんに感謝申し上げます。 看護実践研究センター 卒後教育部門 山本 林田 【関連記事】 「畿央大学看護実践研究センター開設記念シンポジウム」を開催しました。 第2回看護医療学科卒後教育研修会を開催しました。 看護医療学科開設10年記念講演会・第1回卒後教育研修会を開催しました。
2021.05.31
サーマルグリル錯覚経験は、脳卒中後や脊髄損傷後に生じる痛みの性質と似ている~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
温かいモノと冷たいモノを同時に触ると、本当は熱くないはずなのに、それを「熱い」とか「痛い」と経験することがあり、この経験は “サーマルグリル錯覚” と呼ばれています。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘 准教授、森岡 周 教授らは、東京大学医学部付属病院緩和ケア診療部 住谷昌彦 准教授らと共同で、サーマルグリル錯覚での「痛みの性質」を分析し、その痛みの性質が、脳卒中後や脊髄損傷後に生じる痛みの性質と似ていることを明らかにしました。この研究成果はScand J Pain誌(Pain quality of thermal grill illusion is similar to that of central neuropathic pain rather than peripheral neuropathic pain)に掲載されています。 研究概要 “サーマルグリル錯覚” とは、温かい棒と冷たい棒が交互に並べられているグリルに手を置くと、痛みをともなう灼熱感、ズキズキする痛み、しびれたような痛みが惹起される現象です(図1)。この現象は、脊髄-大脳皮質における中枢神経メカニズムによって生じると説明されていますが、実際に、そのような中枢神経が損傷した患者さんの痛みと類似しているのかは明らかにされていませんでした。 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘 准教授らは、まずは健常者137名を対象に、サーマルグリル錯覚によって生じる痛みの性質を分析し、その痛みの性質が、帯状疱疹後神経痛(PHN)、三叉神経痛(TN)、脊髄損傷後疼痛(SCI)、脳卒中後疼痛(Stroke)における痛みの性質と似ているのか/異なっているのかを調査しました。その結果、サーマルグリル錯覚における痛みの性質は、末梢神経メカニズムに起因するような帯状疱疹後神経痛(PHN)、三叉神経痛(TN)とは類似しておらず、中枢神経メカニズムに起因するような脊髄損傷後疼痛(SCI)、脳卒中後疼痛(Stroke)と類似していることが明らかになりました。この研究は、サーマルグリル錯覚が中枢神経メカニズムによって生じるという説を支持したことになります。 図1:サーマルグリル錯覚を誘発するための実験セット 本研究のポイント ■ 温かい棒と冷たい棒が交互に並べられているグリルの上に手を置くと痛みを感じる(サーマルグリル錯覚) ■ サーマルグリル錯覚における痛みの性質は、中枢神経システムに問題がある脊髄損傷後疼痛(SCI)、脳卒中後疼痛(Stroke)と類似している 研究内容 研究1:健常者137名を対象にして、サーマルグリル錯覚によって生じる痛みの性質を分析しました。 その結果、「焼けるような痛み」のほかにも、「ずきんずきん」、「うずくような」、「しびれるような」などの痛みがサーマルグリル錯覚によって経験されました。 図2:健常者がサーマルグリル錯覚で経験する痛みの種類 研究2:帯状疱疹後神経痛(PHN)131名、三叉神経痛(TN)83名、脊髄損傷後疼痛(SCI)42名、脳卒中後疼痛(Stroke)31名における痛みの性質が、研究1で抽出されたサーマルグリル錯覚によって生じる痛みの性質とどれだけ類似/相違しているのかをMultiple correspondence analysis (MCA) と cross tabulation analysisを組み合わせて分析しました。その結果、サーマルグリル錯覚に特異的な痛みの性質は、脊髄損傷後疼痛(SCI)、脳卒中後疼痛(Stroke)の性質と類似していることが明らかになりました(図3)。 図3:痛みの性質の類似性/相違性 Multiple correspondence analysis (MCA) 本研究の意義および今後の展開 サーマルグリル錯覚の痛みが、脊髄損傷後疼痛あるいは脳卒中後疼痛と類似していることが明らかになったことから、この実験的疼痛を利用して、脊髄損傷後疼痛あるいは脳卒中後疼痛の新規リハビリテーションを考案することが可能であると考えています。加えて、このような実験手続きによって、「脊髄損傷後疼痛・脳卒中後疼痛を有する方がどのような痛みを経験しているのか?」を健常者が疑似的に体験することができるため、リハビリテーション専門家と患者さんの痛みが共有されやすくなると考えています。 論文情報 Osumi M, Sumitani M, Nobusako S, Sato G, Morioka S. Pain quality of thermal grill illusion is similar to that of central neuropathic pain rather than peripheral neuropathic pain. Scand J Pain. 2021 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 准教授 大住倫弘(オオスミ ミチヒロ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: m.ohsumi@kio.ac.jp
2021.05.20
健康栄養学科の学生が考案した「大和丸なすピザ」を6月5日(土)・6日(日)に販売します。
大和郡山産野菜使用「大和丸なすピザ」を ヘルスチーム菜良と岩田研究室、野原研究室が開発 イオン大和郡山店「大和郡山フェア」で試食販売! 大和郡山市、石窯焼きピッツェリア サンプーペー、イオン大和郡山店と奈良県内の管理栄養士養成課程(畿央大学・近畿大学・帝塚山大学・奈良女子大学)の学生で構成された食育ボランティアサークル「ヘルスチーム菜良(なら)」は、大和の伝統野菜「大和丸なす」をはじめとした大和郡山産野菜を使用したピザを各大学が共同開発し、「4大学対抗ピザバトル」と銘打ち、イオン大和郡山店「大和郡山フェア」期間中の6月5日(土)・6日(日)に販売いたします。 また、ピザバトルの対象とはなりませんが「大和丸なす」をテーマに卒業研究に取組んでいる健康栄養学科の岩田恵美子研究室、野原潤子研究室のゼミ生10名が新規開発した1種類も加えた、合計5種類のピザを食べることができます。 日 時 2021年6月5日(土)・6日(日) イオン「大和郡山フェア」 場 所 イオン大和郡山店(大和郡山市下三橋町741) 大和郡山市で古くから栽培されている大和の伝統野菜「大和丸なす」は、東京、大阪、京都の料亭などでも用いられる高級食材として好評を得ていますが、地元奈良では販売機会が少なく、知名度アップが課題となっています。また、大和郡山市では地産地消促進計画に基づき、地産地消の推進を目指して取り組んでいます。これに加え、昨年度からのコロナ禍で県外料亭等での消費が減り、地元での消費が緊急の課題となっています。 本企画は、2017年度から、(株)イオンのイオン大和郡山店で実施される大和郡山フェアにおいて、「大和丸なす」のPRと大和郡山市産野菜の摂取量増加をめざして、継続的に大和の伝統野菜「大和丸なす」をはじめとした大和郡山市産野菜を使用したピザの開発に取り組んでおります。昨年度は商品開発に取り組んでいた中、コロナ禍の為、大和郡山フェアは中止となりました。ピザの商品開発も中断され、幻となりかけていましたが、関係者とweb等での打合せを重ね、満を持して2年がかりで各大学の商品が完成いたしました。 「4大学対抗ピザバトル」では、①大和野菜の良さを活かす ②アイディア、斬新さ③彩り、見た目 ④ネーミング ⑤作成した販促物 の5点について審査員が5~1段階評価をし、優勝ピザを決定いたします。 畿央大学からは、以下の2種類のピザを商品開発いたしました。「大和丸なす」を初めて食べる学生も多く、その大きさと美味しさに驚いていました。この美味しさを最大限に生かすため、「甘み」と「辛み」の異なったアプローチの個性的なピザを完成させました。チーズや野菜との相性も良く自信の2品です。「大和丸なす」をはじめ、大和郡山市産野菜の魅力が詰まった個性的な5種類のピザ、ぜひ一度食べ比べてお好みのピザを見つけてください。 ・畿央大学ヘルスチーム菜良:「パインと彩野菜のポテトソースピッツァ」 ポイント:マッシュしたじゃがいもが入ったホワイトソースベースに生パインの甘みと野菜の彩があざやかです。 ・健康栄養学科 岩田恵美子研究室、野原潤子研究室:「ゴロゴロ野菜の韓国風ピリ辛チキンピッツァ」 (*ピザバトル対象外) ポイント:韓国料理のヤンニョムチキンをモチーフに、コチュジャンソースがきいた少しピリ辛味ですが、大和郡山野菜もゴロゴロ入って、大人から子供まで食べられる辛さと美味しさに仕上がっています。 【問い合わせ先】 畿央大学 健康科学部 健康栄養学科 講師 野原潤子 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1603 E-mail: j.nohara@kio.ac.jp →イオンモール大和郡山
2021.05.11
近隣府県の緊急事態宣言延長に伴う入構不可日について
近隣府県の緊急事態宣言の延長に伴い、下記の授業のない日程については入構を不可といたします。 5月16日(日)、23日(日)、30日(日) ※休業日は電話・メール等でのお問い合わせにも対応いたしかねますので、ご了承ください。
2021.05.10
2020年度「新型コロナウイルス対応学生等支援募金」の報告について
2021.05.06
7/3(土)第1回 痛みのニューロリハビリテーション研究会―THE FIRST TAKE―(WEB)を開催します。
2021.05.06
【研究成果発表】姿勢バランスに重要な前庭脊髄路機能の評価の再現性、左右差および立位バランスとの関連性を調査~健康科学研究科
ヒトは多くの場合、姿勢バランスを非自覚的にコントロールしています。前庭脊髄路は非自覚的な姿勢のコントロールを行う上で重要な役割を果たす神経機構の一つです。前庭脊髄路の機能は、経皮的に前庭系を電気刺激することによってH波と言われる脊髄前角細胞の興奮性の変化の程度を計測することで評価されてきていました。しかし、この方法の再現性や左右差、姿勢バランスとの関連については明らかにされていませんでした。畿央大学大学院の中村潤二客員准教授(西大和リハビリテーション病院)、岡田洋平准教授らの研究チームは、ヒトにおける前庭脊髄路の機能評価の再現性や左右差、立位バランスとの関連性を明らかにする研究を行いました。この研究成果はNeuroscience Letters誌(Reliability and laterality of the soleus H-reflex following galvanic vestibular stimulation in healthy individuals)に掲載されています。 研究概要 前庭脊髄路は抗重力姿勢を保持する上での抗重力筋の制御に重要な役割を果たすと考えられています。ヒトにおいて非侵襲的に前庭脊髄路興奮性を評価する方法として、ヒラメ筋H反射を誘発する脛骨神経刺激の前に直流前庭電気刺激(galvanic vestibular stimulation (GVS)を条件刺激として与えることによるヒラメ筋H反射の促通率を評価するという神経生理学的方法があります。この方法は、耳後部に電極を貼付し直流電流で経皮的に前庭系を刺激し(GVS)、前庭神経、前庭脊髄路を介して、脊髄の抗重力筋の運動ニューロン群の興奮性の変化を評価していると考えられています。畿央大学大学院の中村潤二客員准教授(西大和リハビリテーション病院)、岡田洋平准教授らの研究チームは、本手法による計測を左右で行った後に、再度左右で計測しました。 その結果、1セッション目と2回目の計測におけるセッション間再現性は十分であり、いずれの計測でも前庭脊髄路興奮性に左右差がないことを示しました。また立位での重心動揺計の計測を行い、前庭感覚への依存度が高くなる条件における立位荷重偏移位置と前庭脊髄路興奮性が関連することを示しました。 本研究のポイント ■GVSとヒラメ筋H反射を併用した前庭脊髄路興奮性の計測の再現性は十分だった。 ■健常者の前庭脊髄路興奮性の左右差はほとんどみられなかった。 ■前庭感覚の依存度が高い立位では、前庭脊髄路興奮性が高い下肢の方へ荷重偏移する。 研究内容 15名の健常者が研究に参加し、 GVSを行うことによるヒラメ筋H反射の促通率について検証しました(図1, 2)。計測は無作為の順番で左右それぞれ計測し、休息の後に再度左右それぞれ、合計2セッションの計測を行いました。その結果、1セッション目と2セッション目の左右のGVSにおけるH反射促通の程度のセッション間再現性は十分であり、各セッション共に左右差はないことが示されました(表1)。 また、重心動揺計を用いて4条件(開眼位、閉眼位、ラバーマット上での開眼位、ラバーマット上での閉眼位)での立位姿勢を計測した結果、前庭感覚への依存度が高いラバーマット上での閉眼立位における足圧中心の内外側の偏移位置とヒラメ筋H反射促通率の左右比との間に正の相関関係があることが示されました(図3)。 図1. GVSによるH反射の変化の測定 図2. GVSの有無でのH反射の波形の変化 表1.GVSによるH反射の変化の計測結果 セッション間の左右の促通率の計測の再現性は十分であり、系統的誤差が生じなかったことを示しました。 図3. 1セッション目のヒラメ筋H反射促通率の左右比とラバーマット上での閉眼立位でのCOPの内外側偏移位置 中等度の正の相関がみられ、前庭感覚への依存度の高い立位における荷重偏移と前庭脊髄路興奮性の間には関連がある可能性を示しました。2セッション目のH反射促通率の左右比とは有意な相関なし(r = ―0.19, p=0.51) 本研究の意義および今後の展開 本研究成果は、GVSによるヒラメ筋H反射の促通率を評価するという前庭脊髄路興奮性の神経生理学的方法の臨床応用可能性を示唆するものであり、姿勢制御に異常のある方で特に左右差の顕著な症候を呈する方に適用する上で重要な知見であると考えられます。 今後は脳卒中やパーキンソン病、前庭疾患などの対象に前庭脊髄路興奮性の評価を行い、姿勢制御異常の病態と前庭脊髄路機能の関連性について検証し、介入可能性についても模索していきたいと考えています。 関連する論文 Okada Y, Shiozaki T, Nakamura J, Azumi Y, Inazato M, Ono M, Kondo H, Sugitani M, Matsugi A. Influence of the intensity of galvanic vestibular stimulation and cutaneous stimulation on the soleus H-reflex in healthy individuals. Neuroreport. 2018 Sep 5;29(13):1135-1139. Tanaka H, Nakamura J, Siozaki T, Ueta K, Morioka S, Shomoto K, Okada Y. Posture influences on vestibulospinal tract excitability. Exp Brain Res. 2021 Jan 21. 論文情報 Nakamura J, Okada Y, Shiozaki T, Tanaka H, Ueta K, Ikuno K, Morioka S, Shomoto K. Reliability and laterality of the soleus H-reflex following galvanic vestibular stimulation in healthy individuals. Neuroscience Letters. 2021 June 11.
2021.04.30
令和3年度 畿桜会(同窓会)Web総会のご案内
2021.04.30
畿央大学特別奨学金制度に基づく「2021年度緊急支援特別奨学金」の募集について
本学では、2020年度に新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、家計が急変した学生を対象に特別奨学金の募集を行いました。 また、感染拡大に歯止めがかからない状況を受けて、2021年度においても、引き続き新型コロナウイルス感染症の影響により家計(世帯)収入が減少し、修学の継続が困難になる全学生(ただし休学者を除く)を対象に、「2021年度緊急支援特別奨学金」の募集を実施することとしました。 本奨学金の具体的な募集要項や申請方法についてはKiTssからお知らせしましたので、内容を確認の上要件に該当する方は申請いただくようお願いします。