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理学療法学科

2019.05.27

慢性腰痛者の運動恐怖は、腰の曲げ伸ばし動作を緩慢にさせる~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

慢性腰痛者には“腰を曲げるのが怖い”と訴える方が多く、これは「運動恐怖(Kinesiophobia)」と呼ばれています。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘 准教授、森岡 周 教授および大学院生と研究員らは、東京大学医学部付属病院緩和ケア診療部 住谷昌彦 准教授、甲南女子大学理学療法学科 西上智彦 准教授、壬生 彰 助教らと共同で、地域在住の慢性腰痛者における運動恐怖が、運動にどのような影響を及ぼすのかを明らかにしました。この研究成果はEuropean Spine Journal誌(Kinesiophobia modulates lumbar movements in people with chronic low back pain: a kinematic analysis of lumbar bending and returning movement)に掲載されています。   “運動恐怖”とは、「動かすと痛くなりそうで怖い」あるいは「(再)損傷をしそうで動かすのが怖い」という感情です。この運動恐怖は、慢性腰痛者の日常生活動作を悪くすることが多くの研究で明らかになっていましたが、具体的に、どのような運動異常をもたらすのかは分かっていませんでした。 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘 准教授,森岡 周 教授らの研究グループは、地域在住の慢性腰痛者を対象に「腰の曲げ伸ばし」動作を計測しました(下図1)。その結果、運動恐怖がある慢性腰痛者は、「動き始めに時間がかかる」ことと、「腰の曲げ伸ばし方向を切りかえるのに時間がかかる」ことを明らかにしました。“運動恐怖”は目には見えないものではありますが、それが運動に表出されていることを明らかにしたとともに、運動恐怖をシンプルな運動計測で客観的に捉えられることを明らかにしたこととなります。 本研究のポイント 腰の曲げ伸ばし運動における「運動の開始」と「運動方向の切り返し」は、運動恐怖によって修飾されることを明らかにしました。 研究内容 無線タイプの電子ゴニオメーターを用いて、域在住の慢性腰痛者を対象に「腰の曲げ伸ばし」動作を計測しました(下図1)。具体的には、計測に参加した慢性腰痛者は、「合図の音が鳴ったら、できるだけ大きく・速く腰を曲げて、すぐに元の姿勢に戻って下さい」と指示をされて運動タスクを実施しました。   図1:腰の曲げ伸ばし動作と解析区間   そして、本研究では、腰の曲げ伸ばし運動を以下の4つの相に分けて分析をしました。 Phase 1: 合図音から腰曲げ動作が始まるまで Phase 2: 腰曲げ動作開始から腰曲げの速度が最大になるまで Phase 3: 腰曲げ動作最大速度の時点から腰伸ばし動作の速度が最大になった時点まで Phase 4: 腰伸ばし動作最大速度の時点からもとの姿勢に戻るまで     図2:各動作相における時間を比較した結果   その結果、運動恐怖がある慢性腰痛者においてのみ、Phase 1とPhase 3に時間がかかることが明らかになりました。このことは、運動への“躊躇(initial hesitation)”あるいは“凍結(freezing-like behavior)”のような現象であり、いずれも腰椎を過剰に保護しようとしたゆえにもたらされると考えられています。  本研究の臨床意義および今後の展開 “運動恐怖”は目には見えづらいものではありますが、それを運動計測によって客観的に捉えた点は、非常に臨床的意義があります。今回は地域在住の慢性腰痛者が対象でしたので、過去の研究と比較しても顕著な運動障害は認められませんでしたが、運動開始あるいは運動方向の切り返しは、腰痛が重症化する前にも出現する初期症状であることが考えられます。今後は、これをリハビリテーションによって改善させることができるのかが検証される予定です。  論文情報 Osumi M, Sumitani M, Otake Y, Nishigami T, Mibu A, Nishi Y, Imai R, Sato G, Nagakura Y, Morioka S. Kinesiophobia modulates lumbar movements in people with chronic low back pain: a kinematic analysis of lumbar bending and returning movement. Eur Spine J. 2019 May 21. doi: 10.1007/s00586-019-06010-4. 問合せ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 准教授 大住 倫弘(オオスミ ミチヒロ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: m.ohsumi@kio.ac.jp

2019.04.02

平成31年度入学式を行いました。

2019(平成31)年4月2日(火)、畿央大学健康科学部334名、教育学部203名、健康科学研究科28名(修士課程23名、博士後期課程5名)、教育学研究科修士課程2名、助産学専攻科10名、臨床細胞学別科3名、あわせて580名の新しい畿央生が誕生しました。学部は午前10時、大学院・専攻科・別科は午後3時から入学式を行いました。       冬木記念ホールで開催された学部の入学式では、学科長が新入生を一人ひとり呼名し、冬木正彦学長による入学許可をいただきました。         学長式辞では「建学の精神『徳をのばす、知をみがく、美をつくる』を実践し、充実した大学生活を送ってほしい」と述べられました。 続いてご来賓の山村吉由広陵町長、香芝市の吉田弘明市長、岡﨑亜矢子後援会長よりエールをいただきました。       新入生代表の理学療法学科1回生の大澤一輝さんから宣誓、在学生代表の長あかりさんから歓迎の言葉があり、閉式となりました。       閉式後には、学部長・学科長・1回生の担任の教員紹介、畿央パフォーマンスチーム「KiPT」とアカペラ部「ADVANCE#」による学歌披露・歓迎LIVEパフォーマンスで新入生を歓迎しました。        午後3時からは大学院健康科学研究科・教育学研究科・助産学専攻科および臨床細胞学別科の入学式が行なわれました。入学生全員の名前が読み上げられ、入学を許可された後、それぞれの研究科長・専攻科長・別科長から祝辞をいただき、より高度な学びと研究活動に向けての決意を固める日となりました。         公式Facebookページでは入学式のフォトレポートをご覧になれます。

2019.03.27

平成30年度「広陵町・香芝市×畿央大学 介護予防リーダー養成講座」修了式を行いました。

新たに13名の介護予防リーダー「KEEP」が誕生!     広陵町と香芝市では自主的な健康づくりの活動を行える地域支援の「リーダー」を養成することをめざしており、その一環として、介護予防リーダー養成講座が開講されています。畿央大学では、この取り組みに理学療法学科 高取准教授と松本助教が全面協力し、今年度は広陵町×畿央大学KAGUYAプロジェクト(私立大学戦略的研究基盤形成支援事業)の一環として協働しています。   平成30年度の介護予防リーダー養成講座には、広陵町からは6名、香芝市からは8名が参加され、2月下旬から週2回全11回の講座を受講し、2019年3月26日(火)に最終日を迎えました。最終日には介護予防リーダー認定試験が実施され、受講者の皆さんは緊張の面持ちで受験されました。認定試験は無事に全員合格となり、今年度は満点合格された方もおられました。受講者の皆さんから安堵の笑顔が見られました。合格発表のあとは、引き続き修了式が執り行われました。   ▼ヘルスプロモーションセンター長・理学療法学科高取准教授     修了式では山村吉由広陵町長と吉田弘明香芝市長より受講者一人一人に修了証が手渡され、これからの活躍に対する期待の言葉がかけられました。     広陵町では5期生、香芝市では4期生の介護予防リーダーKEEP(Koryo/Kashiba Elderly Encouragement Project)として活躍していくこととなります。       本事業は自助(自ら元気になろうとする取り組み)と互助(お互いの関係性により元気になる取り組み)により介護予防に繋げていくものです。また、本学のKAGUYAプロジェクトでは介護予防リーダー同士の繋がり、地域住民と介護予防リーダーの繋がり、介護予防リーダーとTASKを中心とした畿央大学の学生とのつながりにより、地域が元気になる効果を研究し、また、その成果を地域に還元していくこととなります。   自治体の事業と本学の研究活動が融合するハイブリッドな取り組みになることをめざしていきます。     【関連リンク】 「広陵町・香芝市×畿央大学 介護予防リーダー養成講座」を開講しました。 「広陵町・香芝市×畿央大学 介護予防リーダー養成講座」説明会が開催されました。 KAGUYAプロジェクト紹介リーフレット 広陵町×畿央大学KAGUYAプロジェクトfacebookページ 畿央大学ヘルスプロモーションセンター

2019.03.25

理学療法士、関西私大で唯一の4年連続100%を達成!~理学療法学科

第54回理学療法士国家試験(2019年2月24日実施)の合格発表が3月25日に行われました。関西の私立4年制大学では最も多い13回目の卒業生となる健康科学部理学療法学科では、今春卒業した64名が受験し、全員が合格しました。全国平均は92.8%(新卒のみ)でした。 ・4年連続の全員合格を達成したのは、関西の私立大学で畿央大学だけ ・受験者50名以上での4年連続全員合格は、全養成校257校の中で畿央大学だけ という快挙です。   試験の合格率(新卒者全国平均)は毎年大きく変動しますが、本学の学生はいつも通りのがんばりで、4年連続となる全員合格をはたしました。どのような問題にも対応するためには、普段からのたゆまぬ努力が大切です。来年にむけても気をゆるめることなく、一層の努力を期待したいと思います。 理学療法学科 学科長 庄本康治  

2019.03.18

平成30年度卒業証書・学位記・修了証書授与式を行いました。

平成30年度卒業証書・学位記・修了証書授与式が3月15日(金)、冬木記念ホールにて挙行され、健康科学部317名(理学療法学科64名・看護医療学科91名・健康栄養学科98名、人間環境デザイン学科64名)、教育学部215名、助産学専攻科8名、大学院26名(健康科学研究科修士課程16名、博士後期課程4名、教育学研究科修士課程6名)の合計566名を送り出しました。         午前10時に開式し、国歌・学歌の斉唱の後、学部学科ごとの代表者に卒業証書・学位記・修了証書が手渡されました。その後、学長表彰が行われ、特に優秀な成績を修めた学生が各学科から1名選ばれ、表彰状と記念品が手渡されました。     冬木正彦学長による式辞では、「卒業してからも、建学の精神である『徳をのばす、知をみがく、美をつくる』を実践し、常に仲間との絆や支えてくださる周囲の皆さんへの感謝の気持ちを忘れず、社会で大いに活躍してください。」という言葉が送られました。 続いて山村吉由広陵町長、岡崎亜矢子後援会長、唄大輔畿桜会長よりご祝辞をいただきました。         その後、学生自治会である畿友会長の大津留黎さんが在学生を代表して送辞を、卒業生を代表して現代教育学科の松岡紗夜さんが答辞を述べました。         卒業生の皆さん、おめでとうございます。 大学公式facebookページに式典のフォトレポートを掲載しておりますので、合わせてご覧ください。 (facebookアカウントをお持ちでない方もご覧になれます)  

2019.03.14

10/19(土)理学療法特別講演会「スポーツを通じた共生社会の実現」を開催します。

畿央大学卒業生向けのリカレント教育(卒後教育)を兼ねて行われている「理学療法特別講演会」。2020東京オリンピック・パラリンピックを前に、今年は広島大学病院スポーツ医科学センターの平田和彦先生から、理学療法士のスポーツへの関わりについて、お話し頂きます。なお、本講演は受講料1000円にて卒業生以外の医療関係者にも公開させて頂きます。    ▲昨年の様子 日 時 2019年10月19日(土)10:30~12:00 (10:00~受付) 会 場 畿央大学P棟2階 P201講義室 講 演 スポーツを通じた共生社会の実現 ~障がい者スポーツへの関わりを通して~ 講 師 平田 和彦 先生 /広島大学病院 スポーツ医科学センター 受講料 1000円(卒業生・在学生は無料) 備考 今年は、懇親会は行いません。卒業生は同窓会サロンにお越しください。 申込方法 下記①~⑥を明記の上、E-mail、ハガキ、FAXのいずれかでお申し込みください。受講証の発行は致しません。当日、直接受付にお越しください。 ①氏名(ふりがな) ②卒業年度 ③住所(郵便番号から) ④電話番号 ⑤メールアドレス(お持ちの方) ⑥所属先(団体名、病院名等) 申込締切 2019年10月15日(火) 申込先 〒635-0832  奈良県北葛城郡広陵町馬見中4-2-2 畿央大学 広報センター 理学療法特別講演会係 FAX : 0745-54-1600 E-mail:dousoukai@kio.ac.jp (件名に「理学療法特別講演会」と明記) 問合せ先 TEL:0745-54-1603(担当:畿央大学広報センター増田、鈴木、伊藤) ※公共交通機関を利用してご参加ください。

2019.03.04

ニューロリハビリテーション研究センター「シンポジウム企画 × プロジェクト研究報告会」を開催しました。

2019年3月2日(土)に、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターによる「シンポジウム企画 × プロジェクト研究報告会」を開催しました。今回は「身体性・社会性システムからニューロリハビリテーションを考える」というテーマで、教員がプロジェクト研究として実施してきたこれまでの研究成果を中心に、以下の内容を報告させて頂きました。   松尾 篤:「社会におけるコミュニケーションの役割」 信迫悟志:「発達性協調運動障害の病態分析から見える必要なニューロリハとは?」 前岡 浩:「痛みと情動とリハビリテーション」 大住倫弘:「疼痛に対するニューロリハの“具体的”な効果」 冷水 誠:「社会心理学的知見から考える運動学習戦略の検証」 岡田洋平:「姿勢、歩行制御の障害を理解するための行動および神経生理学的分析」 森岡 周:「身体意識の視点から神経障害の種々の病態を捉える」     多岐にわたった研究プロジェクトにみえるかもしれませんが、身体性・社会性システムからニューロリハビリテーションを考える取り組みは一貫しており、どちらが疎かになってもニューロリハビリテーションとして成り立たないことが再確認されました。例えば、“痛み”は身体的問題のみならず、情動的問題にもアプローチする必要があり、それは自分を取り巻く社会のかかわりによって大きく左右されることが報告されました。あるいは、“運動学習”は1人で黙々と練習をするだけでなく、激励や技術共有といったコミュニケーションが欠かせないことも報告されました。このように、ニューロリハビリテーションを“身体性”と“社会性”の両面から考えることによって、その解釈が立体的になり、リハビリテーションの奥深さをみることができると考えています。 このような背景も含め、来年度から再スタートする「ニューロリハビリテーションセミナー」では、“人間理解”と“リハビリテーション”を一緒に学ぶ機会にしていこうと考えています。こちらはホームページ・Facebook等で後日お知らせ致しますので、今後ともどうぞ宜しくお願い致します。   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 助教 大住倫弘   関連リンク ●畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター ●畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター Facebook

2019.02.21

脳卒中後の上肢運動機能に関連する運動イメージ能力~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター長の森岡 周教授らの研究グループは、両手協調運動課題(bimanual circle-line coordination task:BCT)を用いて、脳卒中片麻痺患者を対象に、運動イメージ能力、上肢運動機能、そして、日常生活における上肢の使用頻度ならびに動作の質との関係を調べました。一側上肢で直線を描きながら、反対側上肢で円を描くと、それに干渉されてしまい、直線が楕円化するといった現象が確認されています。BCTはそれをもとに開発された課題ですが、本研究では、対象者に非麻痺側上肢で直線を描いてもらいながら、麻痺側上肢で円を描くイメージを求め、その際の楕円化の程度を調べ、その楕円化の程度を運動イメージ能力の定量的指標としました。結果として、中等度〜軽度の上肢運動障害を有している脳卒中患者において、運動イメージ能力は、麻痺側上肢の日常生活における使用頻度を増大させ、その使用の際の動作の質に直接的に関係していることがわかりました。そしてそれら2つの要因を媒介し、上肢運動機能に間接的に関係することがわかりました。この成果は2月18日付けで米国科学誌『Annals of Clinical and Translational Neurology』(Motor‐imagery ability and function of hemiplegic upper limb in stroke patients)に掲載されました。   本研究のポイント ■ bimanual circle-line coordination task(BCT)は、麻痺側上肢の運動イメージ能力を定量的に評価できる手法である。 ■ 脳卒中患者における麻痺側上肢の運動イメージ能力は、日常生活における麻痺側上肢の使用頻度・動作の質に関係し、それらを媒介して上肢運動機能に関係する。   研究内容  本研究ではBCTを用いて、運動イメージ能力を定量的に調べ、運動イメージ能力が片麻痺上肢の運動機能や麻痺肢の使用頻度などに関係するかを明らかにしたものです。 対象は脳卒中片麻痺患者31名でした。BCTにはタブレット型PCを使用し、その課題は(1)unimanual-line(U-L):非麻痺側のみで直線を描く条件、(2)bimanual circle-line(B-CL):非麻痺側で直線を描き麻痺側で円を描く条件、(3)imagery circle-line(I-CL):非麻痺側で直線を描き麻痺側で円を描くイメージを行う3条件(図1)で行い、各々12秒間3セット、ランダムに実施しました。描かれた直線を記録し、その軌跡を1周期ごとに分解し、その歪みを数値化するためにovalization index(OI =[X軸データの標準偏差/Y軸データの標準偏差]×100)を算出しました。     図1: BCT課題の概要 A: 3条件の概要、U-L condition;非麻痺側上肢で直線を描く課題、B-CL condition;非麻痺側上肢で直線を描きつつ麻痺側上肢で円を描く課題、I-CL condition;非麻痺側上肢で直線を描きつつ麻痺側上肢で円を描くイメージを行う課題。B: 代表的なケースの軌跡、向かって左はU-Lの軌跡、右はI-CLの軌跡。I-CLのovalization indexからU-Lのovalization indexを減算した値をImage OI(運動イメージ能力)と定義しました。   運動麻痺の評価にはFugl-Meyer Motor Assessment(FMA)、日常生活での使用頻度にはMotor Activity Log(MAL)のAmount of Use(AOU)、動作の質にはMALのQuality of Movemen(QOM)を用いて評価しました。 OI値は、ULに対してBCLおよびICLで有意な増加を認めました。BCLとICLの間には有意差が見られず、BCLあるいはICLのOI値からULのOI値を減算したImage OI値においても、BCLとICLの間に有意差が見られませんでした。ゆえに、脳卒中片麻痺患者においても、運動イメージ能力を有していることが明らかになりました。 FMAとAOUの値を用いてクラスター分析した結果、2つのクラスター(クラスター1:10名、クラスター2 :21名)に分けられました。このうち、クラスター2のみFMAとAOUあるいはQOMに有意な相関が得られました。 クラスター2のデータを用いて媒介分析を行ったところ、媒介なしの場合ではImage OIとFMAの間に有意な相関が認められましたが、AOUあるいはQOMを媒介させると、それらの間に有意な相関が示されず、Image OIとAOUあるいはQOMの間に有意な相関、そして、AOUあるいはQOMとFMAの間に有意な相関が確認されました(図2)。       図2: 媒介分析の結果 媒介なしの場合ではImage OIとFMAの間に有意な相関をみとめましたが、AOUあるいはQOMを媒介させると有意な相関がみられなくなりました。一方、AOU媒介モデル(A)では、Image OIとAOUの間に有意な相関、AOUとFMAの間に有意な相関を認めました。他方、QOMモデル(B)においてもImage OIとQOMの間に有意な相関、QOMとFMAの間に有意な相関を認めました。AOUあるいはQOMを介したImage OIとFMAの間接効果は、ブーストラップ信頼区間(95%CI)から有意な正の効果を示すことがわかりました。   これらの結果から、脳卒中片麻痺患者において、運動イメージ能力の存在を定量的に確認することができました。一方で、運動イメージ能力は運動麻痺の程度に直接には関係しないものの、麻痺肢の使用頻度や動作の質に関係し、それらを媒介し、運動麻痺の程度に間接的に関係することが明らかになりました。   本研究の臨床意義および今後の展開 本研究結果は、脳卒中後の運動イメージ能力の向上が麻痺肢の使用頻度を増加ならびに動作の質を改善させ、それに基づき運動障害が改善することを示唆するものですが、その関係性を明確なものとするためには、縦断的調査を試みる必要があると考え、現在、それに取り組んでいます。   論文情報 Morioka S, Osumi M, Nishi Y, Ishigaki T, Ishibashi R, Sakauchi T, Takamura Y, Nobusako S. Motor‐imagery ability and function of hemiplegic upper limb in stroke patients Annals of Clinical and Translational Neurology 2019   問合せ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp  

2019.02.19

大学業界初の「親子インタビュー動画」を同時リリースしました。

2019.02.13

「広陵町・香芝市×畿央大学 介護予防リーダー養成講座」を開講しました。

平成31年2月12日(火)10:40より本学にて、包括連携協定を締結している広陵町、香芝市および畿央大学が連携して行う「広陵町・香芝市×畿央大学 介護予防リーダー養成講座」の開講式および第1回目の講座が開催されました。     広陵町としては第5回目、香芝市としては第4回目の取り組みとなり、今年度は広陵町からは6名、香芝市からは9名が参加されます。3月下旬までに本学にて全11回の講座を受講し、講座終了後には介護予防リーダー KEEP(Koryo/Kashiba Elderly Encouragement Project)として認定され、介護予防の担い手として実際に地域の健康づくり(地域イベントやサロン等)に貢献されます。人材育成にとどまらず、活動の機会とフォローアップまでを行うことが本講座の大きな特長です。   畿央大学では、この取り組みに理学療法学科の高取克彦准教授と松本大輔助教が全面協力し、「KAGUYAプロジェクト」(私立大学戦略的研究基盤形成支援事業)の一環として協働していきます。     ▼理学療法学科 高取准教授   開講式では広陵町増田福祉部長と香芝市黒越健康福祉部長のご挨拶があり、これからの広陵町、香芝市の健康づくりのリーダーとして活躍し、地域を元気にする中心となるよう期待の言葉がかけられました。     開講式に続いて第1回目の講義があり、広陵町および香芝市の介護福祉課職員の方から、介護予防の現状と課題について説明がされました。その後、自己紹介とグループワークが行われ、最初は緊張気味の参加者もグループワークを通じて徐々に笑顔が見られ、和やかな雰囲気になりました。     全11回の長丁場ですが、本学も積極的にサポートしていきます。   【関連リンク】 広陵町・香芝市×畿央大学「介護予防リーダー養成講座」説明会が開催されました。 平成30年度開講式の様子 KAGUYAプロジェクト紹介リーフレット 広陵町×畿央大学KAGUYAプロジェクトfacebookページ 畿央大学ヘルスプロモーションセンター

2019.01.15

徒手牽引の鎮痛効果を「信号検出理論」で検証~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

徒手牽引は鎮痛手段の1つとして用いられていますが、その鎮痛効果が“主観的なバイアス”によるものか“徒手牽引そのもの”による効果なのか明らかになっていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程の重藤隼人氏と森岡周教授らは、心理物理学的手法である信号検出理論による実験で、徒手牽引はAδ線維由来の一次痛に対して主観的なバイアスよりも、徒手牽引そのものによって鎮痛効果が引き起こされていることを明らかにしました。この知見は、徒手牽引を介入手段として選択する際の意思決定に役立つ基礎的知見になるものと期待されます。この研究成果は、Pain Medicine誌(Experimental Pain Is Alleviated by Manual Traction Itself Rather than Subjective Bias in the Knee: A Signal Detection Analysis)に掲載されています。   研究概要 徒手牽引は臨床場面で鎮痛を目的とした治療に用いられています。しかし、徒手牽引の鎮痛効果が主観的なバイアスによるものか、徒手牽引によるものかは明らかにされていませんでした。また、徒手牽引に伴う触刺激自体も鎮痛効果を有しているとされていますが。徒手牽引と触刺激の鎮痛効果の違いは明らかになっていませんでした。そこで、疼痛研究分野で応用されつつある「信号検出理論」と呼ばれる心理物理学的手法を用いて、徒手牽引および触刺激のAδ線維由来の一次痛およびC線維由来の二次痛に対する鎮痛効果が、疼痛感受性の低下によるものか、主観的なバイアスによるものかを鑑別し検討しました。その結果、徒手牽引は一次痛に対して鎮痛効果を有し、触刺激は一次痛および二次痛に対して鎮痛効果を有していることがわかりました。そして、徒手牽引の一次痛の鎮痛効果は、主観的なバイアスよりも疼痛感受性の低下によって引き起こされていることが明らかになりました。   本研究のポイント ■ 信号検出理論による解析によって、鎮痛効果を疼痛感受性と主観的なバイアスの影響に鑑別した。 ■ 徒手牽引はAδ線維由来の一次痛に鎮痛効果を有し、触刺激はAδ線維由来の一次痛およびC線維由来の二次痛に鎮痛効果を認めた。 ■ 徒手牽引の一次痛に対する鎮痛効果は、主観的なバイアスよりも疼痛感受性の低下による影響が大きかった。   研究内容 健常成人を対象に、1)徒手牽引×Aδ線維、2)触刺激×Aδ線維、3)徒手牽引×C線維、4)触刺激×C線維、の4条件の実験を実施しました。介入(図1)前後に疼痛強度の選択課題を実施させます。この課題では、「低強度」・「高強度」の2つの刺激強度を設定し、ランダムに「低強度」もしくは「高強度」の電気刺激を被験者に実施し、被験者は電気刺激が「低強度」・「高強度」どちらであったか回答を行いました。 回答は下記の4パターンに分類され、各回答の割合を解析に用いました。 Hit:高強度を高強度と回答 Miss:高強度を低強度と回答 False Alarm:低強度を高強度と回答 Correct Rejection:低強度を低強度と回答 本研究ではHit率(Hitの割合)の低下を鎮痛効果と定義しています。 信号検出理論による解析では、Hit率およびFalse Alarm率を用いて、d`(感度)とC(バイアス)を算出することができ、d`の低下が識別能力の低下(≒疼痛感受性の低下)による鎮痛を示し、Cの低下が主観的なバイアスの増大による鎮痛を示しています。   図1:徒手牽引(A)、触刺激(B) 実験の結果、徒手牽引ではAδ線維でHit率の低下を認め、触刺激ではAδ線維およびC線維でHit率の低下を認めました(図2)。鎮痛効果を認めた徒手牽引のAδ線維のd`(感度)とC(バイアス)に着目すると、C(バイアス)よりもd`(感度)の変化が大きく認められました(図2)。つまり、徒手牽引によるAδ線維由来の痛みの軽減は、主観的なバイアスよりも疼痛感受性の低下によって引き起こされていました。   図2:A.Aδ線維での徒手牽引・触刺激前後のHit率とFalse Alarm率、d`(感度)とC(バイアス). B.C線維での徒手牽引・触刺激前後のHit率とFalse Alarm率、d`(感度)とC(バイアス). *p<0.05. #p<0.10.     本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、徒手牽引はAδ線維由来の痛みに対して有効であり、その鎮痛効果は主観的なバイアスによるものではなく徒手牽引そのものによって引き起こされていることを示唆するものです。徒手牽引による鎮痛効果が、主観的バイアスによるものではないという事実は、臨床的には意義がある基礎研究と考えられます。   論文情報 Sigetoh H, Osumi M, Morioka S. Experimental Pain Is Alleviated by Manual Traction Itself Rather than Subjective Bias in the Knee: A Signal Detection Analysis Pain Medicine 2019  問合せ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 重藤隼人(シゲトウ ハヤト) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2019.01.11

大学院生の研究成果が神経科学分野で権威ある雑誌「Cortex」に掲載されました。

脳卒中後に生じる高次脳機能障害「半側空間無視」 のあらたな評価手法を開発 畿央大学大学院博士後期課程の大松聡子氏、森岡 周教授、国立障害者リハビリテーションセンター神経筋機能研究室の河島則天室長(畿央大学大学院健康科学研究科客員教授)らの研究グループは、脳卒中後に生じる高次脳機能障害の一つである「半側空間無視」症状の新たな評価手法を開発しました。半側空間無視は損傷を受けた脳と反対側の空間の物体やできごとが認識できなくなる不思議な症状で、症状が慢性化すると日常生活に大きな支障を来します。大松氏たちは、視線分析によって半側空間無視症状を簡便かつ定量的に評価できる手法を開発し、その有用性に関する重要な知見を得ました。従来の検査は紙面検査や日常生活の行動観察によるもので、検査に時間を要することや、重症度の高い患者の評価が困難であるなどの限界点がありました。開発手法は、PC画面上に提示された対の左右反転画像を見ているときの視線の分布特性を分析することで無視症状の程度や特徴を捉えるもので、今後、臨床場面での活用が期待されます。 この成果は1月5日付けで、神経科学分野で権威ある英国科学誌『Cortex』に掲載されました。    国立障害者リハビリテーションセンター プレスリリース 畿央大学 プレスリリース 研究概要 半側空間無視は、脳卒中後に生じる高次脳機能障害の一つで、損傷を受けた大脳半球の反対側の空間にある物体や事象を無視してしまう神経症状です。脳卒中後のリハビリテーションでは、紙面検査や行動観察によって無視症状についての評価を行うことが一般的ですが、検査実施に時間を要すること、患者側に集中力や認知的負荷を強いることなどの問題点があり、加えて重症度の高い患者では評価が困難であるなどの限界点があります。空間無視、という言葉に表れるように、この症状は空間上の物体や事象を認識できなくなる症状で、筆記検査や言語での回答を要求するような検査手法では、症状の特性を捉える上で限界があります。 今回発表した論文では、視線分析を用いて直観的かつ定量的に無視症状を捉えるための手法を開発し、その有用性についての検証を行いました。単に様々な画像を注視した際の視線分析を行うのではなく、左右を反転させた対の画像を用い、注視対象の空間配置に応じて視線がどのように推移するかを分析する工夫を施しました(図1)。     【図1 開発手法の概要】 患者さんにコンピュータスクリーン上に提示される画像をただ見るのみ、という課題を行いました(A)。提示される画像は、図Bで示される元画像6種類(B)に、それぞれを左右反転した画像、計12画像でした。分析は、対の左右反転画像の視線データを合わせ、平均したものを視線偏向(°)として用いました(C )。     図中に示すような対の左右反転画像を自由に見ている(Free viewing)ときの私たちの視線は、画面の右空間に注視対象があれば右空間に集中し、画像の左右空間を反転することで注視対象が左に移れば視線もまた、左空間に集中します(図1C、図2:健常群)。一方、半側空間無視をもつ患者群では、右空間に注視対象があるときこそ右に視線が集中するものの、画像を左右反転させ、注視対象が左に移ったとしても対象を探索できず、依然として右空間を注視するような特徴を持ちます(図2:無視群)。私たちはこの特性を利用して、無視症状の特徴を捉えることを試みました。左右反転画像を用いるメリットは、元画像と左右反転画像に含まれる物理的(輝度や色彩など)、認知的要素(意味性や文脈など)を統一した状態で、左右の空間的位置関係のみを反転できる、ということになります。また、画像間の視線分布の違いに表れるように、注視対象の特性(生物or無生物、単数or複数、配列の方向性や意味性)により、無視空間への視線配分に変化を認めました(図2)。つまり、半側空間無視症例が見せる『無視空間』は空間上の固定された範囲で生じるのではなく、画像に含まれる情報や要素に応じて変化することを示唆しています。これらの結果は、左右反転画像を用いた視線分析が、評価の視点だけでなく、リハビリテーション介入を考える上での重要な情報を提供し得るものと考えられます。   【図2 研究結果の概要】 画像ごとの視線分布の結果です。視線のカラーマップ(上:健常群、下:無視群)は赤くなっている箇所が、長く注視されていた部分です。折れ線グラフは、横軸が画像の横軸に対応しており、縦軸は横軸の各左右位置を見ていた時間の割合を示した図です。健常者は画像が反転すると視線も反転して、どちらも類似した箇所を見ていますが、無視群は右に偏った特徴があります。ただし、少女や金魚の画像では、他群と類似した視線分布となっていることが分かります。       【図3 全画像を通じた結果】     本論文で開発した左右反転画像の注視点分析による評価結果は、無視のない群と比較して無視群の視線が有意に右へ偏向しており、かつ通常臨床で使用される行動性無視検査(BIT)結果と有意な相関を示しました。開発手法は所要時間が数分足らずで実施可能で、かつ覚醒レベルの停滞や全般性注意障害、認知機能面の低下を合併しているような、BIT検査の実施が困難な症例にも実施可能です。本論文の対象のうち2名は、BIT検査が実施困難でしたが、開発手法による評価が実施可能でした。今後、臨床場面での無視症状の把握に活用することが期待できます。 論文情報 Ohmatsu S, Takamura Y, Fujii S, Tanaka K, Morioka S, Kawashima N. Visual search pattern during free viewing of horizontally flipped images in patients with unilateral spatial neglect.  Cortex 113: 83-95, 2019 補足情報 研究成果の一部は既に実用化され、株式会社クレアクトより製品販売されています。 https://www.creact.co.jp/item/welfare/attention/usn_attention/attention-top   問合せ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 大松 聡子(オオマツ サトコ) Tel: 04-2995-3100(内線7190) Fax: 04-2995-3132 E-mail: ohmatsu-satoko@rehab.go.jp   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp   国立障害者リハビリテーションセンター 研究所運動機能系障害研究部 神経筋機能障害研究室長 河島 則天(カワシマ ノリタカ) Tel: 04-2995-3100(内線2520) Fax: 04-2995-3132 E-mail: nori@rehab.go.jp

2019.01.10

感覚運動の空間的不一致による異常知覚と運動制御に関わる神経活動~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中や慢性疼痛患者における身体性変容の要因の1つとして、感覚情報の予測と実際に入力される感覚情報との間の不一致(感覚運動の時間的および空間的不一致)が考えられています。健常者においても、感覚運動の“時間的”不一致を生じさせると、四肢の重さの知覚変容、しびれ、奇妙さや嫌悪感の惹起に加えて、運動の正確性も低下することが明らかにされています(Katayama and Morioka et al 2018)。しかしながら、感覚運動の“空間的”不一致による異常知覚と運動制御に関わる神経活動は明らかになっていませんでした。 畿央大学大学院博士後期課程の片山脩氏と森岡周教授らは、健常者を対象に感覚運動の空間的不一致課題を実施し、感覚運動の空間的不一致による異常知覚と運動制御異常には、前補足運動野および帯状皮質運動野におけるベータ波帯域の神経活動性の低下が関わっていることを脳波の三次元画像解析(eLORETA)を用いて明らかにしました。この知見は、脳卒中や慢性疼痛患者の病態解明に貢献し、新たなニューロリハビリテーション技術開発に向けた基礎的知見になるものと期待されます。この研究成果は、Neuroscience Letters誌(Neural activities behind the influence of sensorimotor incongruence on dysesthesia and motor control)に掲載されています。   研究概要 脳卒中、慢性疼痛患者では患肢に対する知覚変容や運動制御の低下が生じます。この要因の1つとして、運動指令に基づいて脳内で生成される感覚情報の予測と、運動により実際に入力される感覚情報との間に生じる不一致(感覚運動の時間的および空間的不一致)が考えられています。実験的に感覚運動の時間的不一致を生じさせると、健常人であっても知覚変容や運動の正確性が低下することが明らかにされていました(Katayama and Morioka et al 2018)。しかしながら、感覚運動の空間的不一致による異常知覚と運動制御に関わる神経活動は明らかになっていませんでした。今回、健常者を対象に実験的に感覚運動の空間的不一致を生じさせ、異常知覚と運動制御に関わる神経活動を検討しました。その結果、感覚運動の空間的不一致により様々な異常知覚が惹起され、その中で奇妙さが有意に強く惹起されました。さらに、運動制御においては運動の正確性が低下することを確認しました。これらの異常知覚と運動制御には、前補足運動野と帯状皮質運動野のベータ波帯域の神経活動性の低下が関わっていることを脳波の三次元画像解析により明らかにしました。   本研究のポイント ■ 感覚運動の空間的不一致により、奇妙さをはじめとした異常知覚が惹起される。 ■ 感覚運動の空間的不一致により、運動の正確性が低下する。 ■ 異常知覚と運動制御に前補足運動野と帯状皮質運動野のベータ波帯域の神経活動性の低下が関わる。   研究内容 健常成人を対象に、片面がホワイトボードでもう片面が鏡となったボードを両上肢の間に設置し両手関節の掌背屈運動を実施させます(図1)。一側の手関節を背屈した際にもう一側を掌屈させる条件(図1D)では、鏡の後ろに隠された手関節の運動方向と、鏡に映る鏡像の運動方向が空間的に不一致した状態となります。この条件設定によって、ヒトの感覚運動ループを実験的に錯乱させることができ、“患肢の知覚変容”という状況を設定することができます。   図1:実験の条件設定 実際の実験では、A:ホワイトボード一致条件、B:ホワイトボード不一致条件、C:鏡一致条件、D:鏡不一致条件(感覚運動の空間的不一致条件)の4条件で手関節の反復運動を被験者に実施してもらいました。運動中の手関節の運動を電子角度計で計測し、身体に対する異常知覚についてアンケートで定性的に評価しました。 実験の結果、感覚運動の空間的不一致条件で、奇妙さが他の条件と比較して強く惹起され、多数の異常知覚が惹起されました(図2)。さらに、手関節における運動の正確性の低下が確認されました。   図2:惹起した異常知覚とその数の比較および運動の正確性の比較   脳波活動は、感覚運動の空間的不一致条件では、前補足運動野と帯状皮質運動野のベータ波帯域の神経活動性の低下を認めました(図3)。   図3:感覚運動の空間的不一致条件の神経活動領域   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、脳卒中や慢性疼痛患者の異常知覚や運動制御の低下に前補足運動野と帯状皮質運動野の神経活動性が関わっていることを示唆するものです。そのため、理学療法や作業療法の際には、感覚運動の空間的不一致を最小限にしながら臨床介入を進めることの重要性を提唱する基礎研究となります。今後は、実際に患肢の知覚変容や運動制御の低下が生じている症例を対象に神経活動性の検証をしていく予定です。   論文情報 Katayama O, Nishi Y, Osumi M, Takamura Y, Kodama T, Morioka S. Neural activities behind the influence of sensorimotor incongruence on dysesthesia and motor control. Neuroscience Letters 2019   問合せ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 片山 脩(カタヤマ オサム) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: b6725634@kio.ac.jp 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp  

2018.12.19

確率共鳴(Stochastic Resonance: SR)現象による視覚-運動統合の向上~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

感覚-運動統合は、運動学習や運動制御において欠かせない脳機能です。発達性協調運動障害や視覚性運動失調、そして失行は、その病態に感覚-運動統合の困難さを有しています。したがって、感覚-運動統合を促進する効果的な介入手段の開発が求められています。確率共鳴(Stochastic Resonance: SR)とは、感覚閾値下の機械的あるいは電気的ノイズを生体に印加すると、感覚入力シグナルが増幅し、運動反応が向上する現象です。SR現象は、健常成人のみならず、健常高齢者、脳卒中後片麻痺、糖尿病性神経障害、パーキンソン病などでも観察されています。しかしながら、SR現象の提供によって、感覚-運動統合が促進されるか否かについては明確になっていませんでした。そこで畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志助教らの研究グループは、SRが視覚-運動統合に与える影響を調査し、SRが若年健常成人の視覚-運動統合を向上することを明らかにしました。このSR現象の提供は、感覚-運動統合障害を有する疾患に対する介入手段として期待されます。この研究成果は、PLOS ONE誌(Stochastic resonance improves visuomotor temporal integration in healthy young adults)に掲載されています。 研究概要 視覚-運動統合の時間的側面、すなわち視覚-運動時間的統合機能は、遅延視覚フィードバック検出課題によって客観的・定量的に測定することができます。一方で、遅延視覚フィードバック下での運動課題は、視覚-運動統合を阻害し、運動に拙劣さを与えることができます(仮想的な視覚-運動統合障害)。 そして感覚閾値下の振動触覚ランダムノイズ刺激は、SR現象を引き起こすことが可能です。 そこで信迫助教らの研究グループは、若年健常成人を対象に、SRが遅延視覚フィードバック検出課題と遅延視覚フィードバック下での運動課題に与える影響を調べました。その結果、SRが遅延視覚フィードバック検出課題で測定される視覚-運動時間的統合機能を向上することを明らかにしました。しかしながら、SRは遅延視覚フィードバック下での運動課題の成績に影響しませんでした。   本研究のポイント SRの提供によって若年健常成人の視覚-運動時間的統合機能が向上した。したがって、SRデバイスは、感覚-運動統合障害を有する疾患の症状改善に効果的で有り得る。しかしながら、SRの提供は、267ミリ秒の遅延視覚フィードバック下での運動に正の効果を与えなかった。したがって、感覚-運動統合障害が重度である場合には、SRは有効でない可能性がある。   研究内容 本研究には、若年健常成人30名が参加しました。SRは手首に取り付けた振動触覚デバイスによる感覚閾値の60%の強度の振動触覚ランダムノイズ刺激によって提供されました。参加者は、SRあり条件とSRなし条件において、遅延視覚フィードバック検出課題と遅延視覚フィードバック下運動課題を実施しました。遅延視覚フィードバック検出課題は、自己運動に対するその視覚フィードバックに33-500ミリ秒までの15遅延条件が設定され、参加者は視覚フィードバックが遅れているか否かについて回答しました。遅延視覚フィードバック検出課題で抽出される検出閾値と検出確率曲線の勾配が、視覚-運動時間的統合機能を反映する定量的指標でした。検出閾値の短縮と勾配の増加は、視覚-運動時間的統合機能が高いことを表します。遅延視覚フィードバック下運動課題における遅延時間は267ミリ秒に設定しました。参加者は267ミリ秒の遅延視覚フィードバック下で、Box and Block Test(BBT)とNine Hole Peg Test(NHPT)の2つの手運動課題を実施しました。BBTにおいては得点が高いほど、NHPTにおいては実施時間が短縮するほど、手運動課題の成績が高いことを表します。SRあり条件・なし条件は、振動触覚デバイスの電源をオンまたはオフにすることにより調整しました。感覚閾値未満の振動触覚ランダムノイズ刺激であったため、参加者はSRについて盲検化されました。     図1. 実験課題 左:遅延視覚フィードバック検出課題 右:遅延視覚フィードバック下での運動課題     図2. 結果 SR(+)、SRあり条件;SR(-)、SRなし条件;**、p<0.01;N.S.、有意差なし 上:視覚-運動時間的統合機能を反映する検出閾値(左)と勾配(右)の比較結果 下:遅延視覚フィードバック下運動課題(左、BBT;右、NHPT)の比較結果 結果、SRあり条件の検出閾値は、SRなし条件と比較して、有意に短縮しました(図2)。このことは、SRの付与が、視覚-運動時間的統合を促進することを意味しました。しかしながら、遅延視覚フィードバック下運動課題の成績には有意差はありませんでした(図2)。SRあり条件における視覚-運動時間的統合の向上効果は、平均検出閾値で約20ミリ秒の短縮でした。したがって、遅延視覚フィードバック下運動課題で設定した267ミリ秒の外乱効果が上回ったものと考えられました。このことは、視覚-運動時間的統合障害が重度な場合には、SRによる効果がない可能性を示唆しました。   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究結果は、SRの提供が感覚-運動統合障害を有する疾患に対して有効である可能性を示唆しました。介入研究を実施することで、SRの有効性を検証する必要があります。   論文情報 Nobusako S, Osumi M, Matsuo A, Fukuchi T, Nakai A, Zama T, Shimada S, Morioka S. Stochastic resonance improves visuomotor temporal integration in healthy young adults. PLoS One 13(12): e0209382.     問合せ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 助教 信迫 悟志(ノブサコ サトシ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

2018.12.19

最適難易度での知覚運動学習中には運動主体感が増幅が明らかに~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

身体性の科学において、この運動を実現しているのは、自分自身であるという主体の意識を運動主体感(sense of agency)と呼びます。この運動主体感は主観の意識であるため定量的評価が難しいと考えられていたものの、近年、intentional binding(IB)課題が開発され、運動主体感を測定する試みがされはじめています。IB課題とは、被験者がキーを押した後、音が鳴るように設定された実験手続きにおいて、キー押し後、音が鳴るまでの時間を主観的に被験者に回答させ、実際の時間とそれの差分をみるものです。先行研究では自らの意志によって随意的にキーを押した場合は、音が鳴るまでの時間を実際よりも短く感じることが明らかになっています。つまり、時間知覚の短縮は「自分がキーを押したから音が鳴った」という運動主体感の強さを反映していると考えられています。この時間短縮をみることで運動主体感の程度をみることができるわけです。畿央大学の森岡 周 教授らの研究グループは、林田一輝さん(博士後期課程)のアイディアをもとに知覚運動学習型のintentional binding課題を新たに開発し、知覚運動学習の程度と運動主体感の関係性を調べました。その結果、知覚運動学習が徐々に進むグループでは運動主体感が増幅することがわかりました。その一方で、知覚運動学習が停滞(天井効果)するグループでは運動主体感が増幅しないことがわかりました。つまり、学習効果と運動主体感の間には密接な関係性があることが示されました。この結果は、知覚運動学習課題における誤差修正過程において、徐々に学習効果が起こっていることを潜在的に捉えている時期においては、運動主体感が高まっていることをあらわしています。この結果は、学習プロセスおいて課題の難易度が重要であることを示唆しています。この研究成果はPeer J誌(Changes in intentional binding effect during a novel perceptual-motor task)に掲載されています。   本研究のポイント ■ 知覚運動学習の進行と運動主体感の程度には関係がある。 ■ 知覚運動学習課題の難易度が運動主体感に影響を与える。   研究内容 大学生を対象に、今回新たに独自に開発した知覚運動学習型intentional binding課題(図1)を用いて実験が行われました。課題は、左右に動く円形の赤い球をPC画面中心のターゲット内にあわすようにタイミング良くキーを押すといった時間的精度を学習させる知覚運動学習課題です。この際、ターゲットと赤い球の間に発生する空間的な誤差値(pixel)を知覚運動パフォーマンス効果の指標としました。一方、キー押し後、ランダムな時間遅延(200、500、700ms)後に音が鳴り、キー押しから音が鳴るまでの時間を被験者に主観的に回答させました(被験者は200、500、700msであることは知りません)。実際の時間と主観的に感じる心理的時間の差をintentional binding効果(ms)とし、運動主体感の指標としました。     図1:知覚運動学習型intentional binding課題   練習課題、コントロール課題(個人の時間感覚の違いを是正する目的)を経て、実験課題が行われました。実験課題は18試行を1セットとし、計10セット行われました。1セットと10セットの誤差値を用いてクラスター分析を行ったところ、2つの説明可能なクラスターに分けることができました。クラスター2はクラスター1と比べ知覚運動学習が有意に起こっていました。10セットを2セット毎の5ブロックに統合して、知覚運動学習の変化を観察したところ、クラスター1は5ブロックを通じてわずかな誤差値の減少にとどまり、ほぼ天井効果を示した(図2水色)のに対して、クラスター2は1ブロック目の誤差値が大きく、その後ブロックを重ねるごとに誤差値が大きく減少することが確認されました(図2オレンジ)。     図2:知覚運動学習型intentional binding課題 一方、intentional binding効果の結果に関しては図3に示しました。時間(縦軸)がマイナスにいけばいくほど、時間短縮をあらわしておりintentional binding効果が増幅した、すなわち運動主体感が高まったことを示しています。クラスター2(図3オレンジ)において2ブロックから徐々にintentional binding効果が高まっていることがわかります(2ブロックと5ブロックの間に有意差)。すなわち、知覚運動学習効果が明確にみられたクラスター2のみ運動主体感が増幅したことが確認されました。一方、クラスター1(図3水色)は著明な変化が見られませんでした。     図3:ブロック毎のintentional binding効果の比較(運動主体感の指標)   本研究の臨床的意義および今後の課題 本研究によって知覚運動学習の進行と運動主体感の程度の間には関係があることがわかりました。運動主体感の増幅には目標設定のみならず、目標が徐々に達成されていくプロセスが重要であることを本研究は示しており、学習者あるいはリハビリテーション対象者に対する知覚運動学習課題において、その難易度の設定・調整が重要であることを本研究は示す結果になりました。今後はこれに関係するメカニズム(例:報酬、注意)を明らかにすることや、実際のリハビリテーション対象者の課題中の時間短縮を記録する必要があります。   論文情報 Morioka S, Hayashida K, Nishi Y, Negi S, Nishi Y, Osumi M, Nobusako S. Changes in intentional binding effect during a novel perceptual-motor task. Peer J 2018   問合せ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授/センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2018.11.28

平成30年度 理学療法特別講演会を開催しました。

平成30年11月25日(日)に畿央大学にて畿桜会(同窓会)主催の「理学療法特別講演会」が開催されました。卒業生、在学生、一般参加の方も含めて約30名の方が参加されました。理学療法特別講演会は、畿桜会が主催し、年に1度、理学療法学科卒業生に向けてリカレント教育(卒業後も幅広い知識を養う)のために行い、受講料1000円にて卒業生以外の医療関係者にも公開しているものです。   今回は畿央大学理学療法学科3期生の鈴木裕二先生をお招きし、「心疾患併存患者の理学療法におけるリスク管理」というテーマでご講演いただきました。     鈴木先生は、循環器疾患のリハビリテーションにおいて、大変ご活躍されている先生です。国立循環器医療センターに入職され、現在は姫路医療センターにご在籍されております。講義の中では、働いておられる病院での心臓リハビリテーションの概要であったり、実際に臨床で経験された症例についてご紹介いただきました。   まず多くの人が、「心臓リハビリテーションとは何か」と疑問を持つことが多いと思います。心臓リハビリテーションとは、体力の回復、再発予防、社会復帰のための取り組みであり、医師、看護師、栄養士、臨床心理士、リハビリテーションセラピストなど多くの職種が関わります。理学療法士は、その中で心疾患の患者さんに適切な運動方法を処方し、指導していく役割があります。講義の中では実際の場面を写真や動画を用いて、非常にわかり易くご説明していただきました。   また心疾患を併存しておられる患者さんに運動療法を実施していくうえで、リスク管理が重要となってきます。講義の中では、運動誘発性の危険な不整脈を持っておられる患者さんや、手術後に循環動態が不安定になった患者さんについてご紹介いただきました。いずれもとても危険な状態の中で、どういう風にリスク管理をしながら理学療法を進めていったらよいのかということを示していただきました。理学療法では全身を診る必要があり、心電図やバイタルを確認しながら、安全に進めていくことが重要であると思いました。       今回の講演で心臓リハビリテーションに対する理解が深まり、心疾患を持っておられる方のリスク管理がとても重要であることを理解しました。いずれも今後の臨床に役に立つもので、非常に有意義な時間を過ごさせていただきました。   講演後は食堂にて懇親会を行いました。鈴木先生や、大学の先生、諸先輩方や後輩と、近況や、職場のことなどを話し合う貴重な時間も過ごしました。     来年度も理学療法特別講演会は行われる予定です。ぜひ、来年度も多くの方のご参加をお待ちしております。   理学療法学科8期生代表幹事 崎田 佳希

2018.11.22

感覚運動の時間的不一致による身体性変容の神経メカニズムが明らかに~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中や脊髄損傷、慢性疼痛患者において、患肢を自己身体の一部と認識できないといった身体性の変容が生じることが報告されています。こうした身体性変容の要因の1つには、運動指令と実際の感覚フィードバックとの間に生じる不一致(感覚運動の不一致)が考えられています。しかしながら、感覚運動の不一致による身体性の変容が、①どれくらいの時間的不一致により生じるのか? あるいは、②その神経メカニズムは? については明らかになっていませんでした。畿央大学大学院 博士後期課程 片山脩と森岡周教授らは、感覚運動の時間的不一致が、150ミリ秒では身体に対する奇妙な感覚のみが惹起され、250ミリ秒以上の不一致では身体の喪失感や重さの知覚変容が生じることを明らかにしました。また、350ミリ秒以上の不一致で運動の正確性が低下することを明らかにしました。さらに、これらの身体性変容と運動制御への影響には、補足運動野と頭頂連合野の神経活動が関わっていることを脳波のネットワーク解析にて明らかにしました。この知見は、脳卒中や脊髄損傷、慢性疼痛患者の病態解明に貢献し、新たなニューロリハビリテーション技術開発に向けた基礎的知見になるものと期待されます。この研究成果は、Frontiers in Behavioral Neuroscience誌(Neural mechanism of altered limb perceptions caused by temporal sensorimotor incongruence)に掲載されています。   本研究のポイント  ■ 感覚運動の時間的不一致は、身体性の変容(「奇妙な感覚」「身体の喪失感」「重さの知覚変容」)を生じさせるだけでなく、運動制御にも悪影響を与える。  ■ 身体性の変容と運動制御への影響には、補足運動野と頭頂連合野の神経活動が関わっている。   研究内容 健常大学生を対象に、映像遅延システム(図1)の中で手首の曲げ伸ばしを反復させます。映像遅延システムでは、被験者の手の鏡像をビデオカメラで捉えて、そのカメラ映像を「映像遅延装置」経由でモニターへ出力させます。出力されたモニター映像を鏡越しに見ることによって自分の手を見ることができるものの、映像遅延装置によって作為的に映像出力が時間的に遅らされるため、被験者は“あれ?自分の手が遅れて見える” “自分の手が思い通りに動いてくれない” “自分の手のように感じない”という状況に陥ることになります。     図1:映像遅延システムを用いた実験 自分で動かした手が時間的に遅れて映し出される細工がされることによって、ヒトの感覚運動ループを錯乱させることができ、“身体性の変容”という状況を仮想的に設定することができます(技術提供:明治大学 理工学部 嶋田総太郎 教授)。 実際の実験では、① 0ミリ秒遅延、② 150ミリ秒遅延、③ 250ミリ秒遅延、④ 350ミリ秒遅延、⑤ 600ミリ秒遅延の5条件で手首の反復運動を被験者に実施してもらいました。運動中の手関節の運動を電気角度計で計測し、身体に対する「奇妙さ」「喪失感」「重さ」についてアンケートで定性的に評価しました。 実験の結果、動かした手の映像を150ミリ秒遅延させて視覚的にフィードバックすると、“自分の手に奇妙な感覚がする”といった変化が生まれました。さらに250ミリ秒以上遅延させると“自分の手のように感じない” “手が重くなった”という身体性の変容が生じました。遅延時間をさらに長くするとそれらの変化が増大することも確認されました(図2)。一方で、手関節の反復運動は、動いている手の映像を350 ミリ秒遅延させると、正確性が低下することが確認されました。これらの結果から、身体性の変容だけでなく運動制御までをも変容させてしまうということが明らかにされました。     図2:感覚運動の時間的不一致による身体性の変容と運動の正確性の乱れ さらに、身体に対する「奇妙さ」においては、150ミリ秒遅延では両側の腹内側前頭前野の神経活動性(図3)、600ミリ秒遅延では左の補足運動野と右の背外側前頭前野および右の右上頭頂小葉の神経活動性が関わっていることが明らかとなりました。「喪失感」および「重さ」においては、左の補足運動野の神経活動性が関わり、運動制御には右の下頭頂小葉の神経活動性が関わることが明らかとなりました。     図3:150ミリ秒遅延条件での「奇妙さ」に関わる神経活動領域     図4:600ミリ秒遅延条件での「運動の正確性」に関わる神経活動領域   本研究の臨床的意義および今後の課題 本研究成果は、脳卒中や脊髄損傷、慢性疼痛患者の身体性変容や運動制御への影響に補足運動野と頭頂連合野の神経活動性が関わっていることを示唆するものです。そのため、感覚運動の不一致を最小限にしながらリハビリテーションを進めることの重要性を提唱する基礎研究となります。今後は、実際に身体性の変容が生じている患者を対象に神経メカニズムの検証を行い、ニューロモデュレーション技術などを用いて、特定された脳領域の神経活動性に修飾を与えるニューロリハビリテーションの効果を検証していく予定です。   論文情報 Katayama O, Tsukamoto T, Osumi M, Kodama T,Morioka S. Neural mechanism of altered limb perceptions caused by temporal sensorimotor incongruence. Front. Behav. Neurosci. Vol 12. 282   問合せ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 片山 脩(カタヤマ オサム) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: b6725634@kio.ac.jp   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授/センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2018.11.19

第28回クリーン&歴史ウォークに協力しました。

2018年11月17日(土)、畿央大学が後援しているイベント『第28回クリーン&歴史ウォーク』が実施されました。クリーン&歴史ウォークは「地域の活性化に貢献するには自らが地域をよく知ることから」という趣旨のもと、年に2回開催されています。   今回の行き先は、エコール・マミ~巣山古墳~馬見丘陵公園の古墳群で約6.6Kmの道程でした。当日は天候にも恵まれ、約30名の方にご参加いただきました。 畿央大学からは、教職員3名、学生ボランティア8名(畿央パフォーマンスチームKiPT、学生ボランティア)が参加し、イベントの運営及びクイズ大会の実施等、幅広くお手伝いをさせていただきました。 まず主催者からイベントの趣旨説明があり、実行委員長の深田將揮先生(現代教育学科 本学ボランティアセンター長)から開会のご挨拶、そしてウォーキング開始前に松本大輔先生(理学療法学科)指導による、入念に腕や太もも、ふくらはぎのストレッチをおこないました。         エコール・マミから清掃活動をしながら20分程歩き、まずは最初の目的地である巣山古墳に到着し、広陵町文化財ガイドの屋田さんから古墳について解説頂きました。巣山古墳は4世紀末頃の前方後円墳で、国の特別史跡に指定されている古墳とのことで、参加された皆さんは解説に聞き入っておられました。       次に馬見丘陵公園の古墳群に向かいました。馬見丘陵公園内のカリヨンの丘から倉塚古墳と一本松古墳を眺めながら、広陵町文化財ガイドの石井さんから解説頂き、古墳の特徴等を学びました。 その後、畿央パフォーマンスチームKiPTによるクイズ大会がおこなわれ、古墳にまつわる問題やエコール・マミや畿央大学に関する問題などが〇×形式で出題されました。正解者には、景品が準備されていることもあり、時おり歓声があがる等、参加者の方々には楽しい時間をお過ごし頂いたかと思います。         12時30分頃にエコール・マミに到着し、怪我人もなく、無事クリーン&歴史ウォークを終了することができました。参加者からは「古墳を生で見たのは初めてで、感動しました!」、「参加して本当に良かった」等の感想を頂戴しました。   天候にも恵まれ、参加者も小学生からご年配の方までご参加頂き、学生ボランティアは参加者との交流を通じて、多くののことを学べたようです。畿央大学は地域に開かれた大学として、これからも地元のイベントに協力していきます。来年の春には第29回目のクリーン&歴史ウォークが開催される予定です。ご参加をお待ちしています。       【クリーン&歴史ウォーク】 主催:クリーン&歴史ウォーク実行委員会 後援:広陵町教育委員会、香芝市教育委員会、独立行政法人都市再生機構西日本支社、畿央大学 講師:広陵町文化財ガイドの会 協力:広陵古文化会、畿央大学学生 協賛:(株)関西都市居住サービス エコール・マミ営業所   ●過去の「クリーン&歴史ウォーク」の記事はこちら