理学療法学科
2018.09.18
11/25(日)理学療法特別講演会「心疾患併存患者の理学療法におけるリスク管理」を開催します。
畿央大学卒業生向けのリカレント教育(卒後教育)を兼ねて行われている「理学療法特別講演会」。今年は独立行政法人国立病院機構 姫路医療センターの鈴木裕二先生(本学理学療法学科3期生)に、心疾患併存患者の理学療法におけるリスク管理についてお話し頂きます。なお、本講演は受講料1000円にて卒業生以外の医療関係者にも公開させて頂きます。 ▲昨年の様子 日 時 2018(平成30)年11月25日(日)10:30~12:00 (10:00~受付) 会 場 畿央大学 L棟1階 L103講義室 講 演 心疾患併存患者の理学療法におけるリスク管理 講 師 鈴木 裕二 氏 /理学療法学科3期生 独立行政法人国立病院機構 姫路医療センター勤務 受講料 無料(卒業生以外は1000円) 懇親会 (卒業生のみ) 12:30~14:00 講演会終了後、懇親会を予定しています。軽食・ソフトドリンクを用意しています(無料) 申込方法 下記①~⑥を明記の上、E-mail、ハガキ、FAXのいずれかでお申し込みください。受講証の発行は致しません。当日、直接受付にお越しください。 ①氏名(ふりがな) ②卒業年度 ③住所(郵便番号から) ④電話番号 ⑤メールアドレス(お持ちの方) ⑥所属先(団体名、病院名等) 申込締切 2018年11月20日(火)必着 申込先 〒635-0832 奈良県北葛城郡広陵町馬見中4-2-2 畿央大学 広報センター 理学療法特別講演会係 FAX : 0745-54-1600 E-mail:dousoukai@kio.ac.jp (件名に「理学療法特別講演会」と明記) 問合せ先 TEL:0745-54-1603(担当:畿央大学広報センター増田、鈴木、伊藤) ※公共交通機関を利用してご参加ください。
2018.09.14
第4回畿央大学シニア講座「肩こり・腰痛を運動でやわらげる」を開催しました。
平成30年9月12日(水)、畿央大学では地域のシニア世代の方々を対象に、「健康」と「教育」について学びを深めるための「畿央大学シニア講座」を開催しました。恒例となったこの講座は、今回で4回目の開催となります。 今回は「肩こり・腰痛を運動でやわらげる」と題して、昨年に引き続き、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘先生が講師となっていただき、参加者32名の皆さまに最近の知見を学んでいただきました。 まず、講義形式で配布資料を確認しながら「腰痛のメカニズム」や「痛み」について学びました。参加者の皆さんは日々生活する中で、体の痛みと付き合いながら生活をされているためか、講義内容に熱心に耳を傾けておられました。 少し休憩をはさんだ後、実際に参加者の方々と一緒に、腰痛の方でもできる簡単な運動・ストレッチを行いました。また大住先生から、『毎日少しだけでも簡単な運動(ストレッチ)をしていただくことが大切なこと、またストレッチすることで痛くなるのであれば無理をする必要はありません』、とアドバイスもありました。ストレッチする前とした後での身体の反り具合の違いに感動される方や、「体がスッキリした」とご満足頂く参加者の方が多く見受けられました。 講座終了後も、ストレッチの具体的な方法や、また自分自身が腰痛に効果があると思い実践していることは本当に効果があるのか、正しい方法なのか等、熱心に質問されている様子も見られました。 参加者の方からは、「痛みの原因を正しく把握することが大切、ということを認識できた」「今までは腰痛がひどくて運動はやってはいけないと思っていたが、今日お話をお聞きして運動が良いことが分かりました」「軽い運動で改善が期待出来ます」などの声を数多くいただき、第4回シニア講座はご好評のうちに終了しました。 畿央大学では今後も地域社会と連携し、様々な形で地域貢献、社会貢献に取り組んでまいります。 【関連記事】 第3回畿央大学シニア講座 第2回畿央大学シニア講座 第1回畿央大学シニア講座
2018.08.27
脳卒中後に運動ができなくなる仕組みに新たな発見~ニューロリハビリテーション研究センター
麻痺がないのにできない?「失行症」のメカニズム解明に貢献 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター教授 森岡周と同助教 信迫悟志らは、共同研究病院(村田病院,摂南総合病院,共に大阪府)、および明治大学理工学部の嶋田総太郎教授らと共同して、脳卒中後の高次脳機能障害の一つである「失行症(※)」の病態メカニズム解明をめざす研究を実施しました。この研究は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「脳内身体表現の変容機構の理解と制御」の支援を受けて実施されています。 ※失行症:麻痺などの運動障害やその他の認知障害(失語症や失認症)がないにも関わらず、習熟していたはずの行為が遂行できなくなる高次脳機能障害の一つ この度、失行症を有する脳卒中患者では、自分が行った運動とその結果を比較し、誤りに気付き、運動を修正するという脳機能が低下していることを、世界で初めて明らかにしました。 この研究成果は、失行症の病態解明に貢献するだけでなく、失行症からの回復に向けたリハビリテーション技術開発の基礎的知見になるものと期待されます。具体的には、今回の研究で失行症を有する脳卒中患者で低下していることが明らかになった「自分が行った運動とその結果を比較し、間違いがあれば修正するという脳機能」を改善するリハビリテーション技術の開発をめざします。 この研究成果は、Frontiers in Neurology誌 (Distortion of Visuo-Motor Temporal Integration in Apraxia: Evidence From Delayed Visual Feedback Detection Tasks and Voxel-Based Lesion-Symptom Mapping)に掲載されています。 研究概要 失行(Limb-Apraxia)は、麻痺がないにも関わらず、使い慣れたはずの道具を操作したり、普段使用しているコミュニケーション・ジェスチャーを表出したり、他者の動作を模倣することが困難になるという、失語・失認と並ぶ代表的な高次脳機能障害の一つです。 失行の神経学的メカニズムとしては、“道具やジェスチャーを生後から繰り返し使用することで脳内に貯蔵された手続き記憶が障害されたために生じる”とする貯蔵された運動表象障害仮説(Buxbaum、 2017)や“使用したことのない道具であっても創造的に推論することによって使用方法を創発する能力が障害されたために生じる”とする技術的推論能力障害仮説(Osiurak and Badets、 2017)などが有力視されていますが、決定的な解明はなされていません。 しかしながら、運動表象障害仮説であっても技術的推論障害仮説であっても、感覚情報を統合し、意図的な行為を計画する(意図的運動結果の予測情報を形成する)ことに困難があることに共通点があります。実際、失行を有する患者では、運動イメージやインテンショナルバインディングに問題があることが明らかになっていました。また失行には運動結果の予測情報と実際の感覚フィードバックが時空間的に統合することによって生起する運動主体感(運動した際に、“この運動は自らが引き起こした運動である”という主観的意識)が障害されている可能性が示唆されていますが、それを実証した研究は存在しません。 そこで森岡周教授らの研究グループは、様々な感覚情報間(運動情報を含む)の統合を定量的・客観的に測定することで、こうした失行の病態を明確に浮き彫りにできないかと考え、失行を有する左半球脳卒中患者と失行を有さない左半球脳卒中患者との間で、感覚-感覚(視覚-触覚、視覚-固有受容覚)統合機能、感覚-運動(視覚-運動)統合機能が異なるか否かについて調べました。さらに病巣減算分析およびVoxel-based lesion symptom mapping(VLSM)を実施することで、失行と感覚-感覚/感覚-運動統合障害に共通する病巣を解析しました。その結果、失行を有する患者では、感覚-感覚(視覚-触覚、視覚-固有受容覚)統合機能は保たれているものの、感覚-運動(視覚-運動)統合機能に顕著な低下があることが示されました。感覚-運動統合に困難があるものの、感覚-感覚統合は保たれているという本研究結果は、失行には行為の結果を予測することに困難があることを強く示唆しました。また失行の重症度と感覚-運動統合障害の程度には相関関係があることも示されました。そして、失行と感覚-運動統合障害は、共通して左下前頭回と左下頭頂小葉を結ぶ左腹側-背側運動ネットワーク上の病巣に起因することが明らかになりました。 本研究のポイント ■ 失行を有する左半球脳卒中患者には、運動結果の予測情報と感覚フィードバックを統合する機能に低下がある。 ■ 失行の重症度と感覚-運動統合障害には相関関係がある。 ■ 左下前頭回と左下頭頂小葉を主領域とした左腹側-背側運動ネットワークの損傷は、運動結果の予測を障害し、失行と感覚-運動統合障害の発生を導く。 研究内容 本研究には、失行を有する左半球脳卒中患者(失行群)7名、失行と診断されるレベルではないが失行評価においてエラーが認められた左半球脳卒中患者(偽失行群)6名、失行を有さない左半球脳卒中患者(非失行群)9名が参加しました。 感覚-感覚/感覚-運動統合機能の測定には、共同研究者の嶋田総太郎教授(明治大学理工学部)が開発した視覚フィードバック遅延検出課題が使用され、この課題で抽出される遅延検出閾値と遅延検出確率曲線の勾配が統合機能を反映する指標となりました。遅延検出閾値の延長と勾配の低下は、統合機能が低いことを表します。 図1。 本研究で使用した3種類の視覚フィードバック遅延検出課題 患者は、触覚刺激・受動運動(固有受容覚刺激)・能動運動に対して、その映像(視覚フィードバック)が同期しているか非同期しているかを回答した。 左図は、触覚刺激に対する視覚フィードバックの遅延を検出する課題。 中央図は、受動運動(他者に動かされる)に対する視覚フィードバックの遅延を検出する課題。 右図は、能動運動(自分で動かす)に対する視覚フィードバックの遅延を検出する課題。 図2。 3種類の視覚フィードバック遅延検出課題の結果 検出確率曲線(赤・黄・青線)が、左方に変位し、勾配(傾き)が強いほど、統合機能が高いことを表す。 左図は、3群(赤線:失行群、黄線:偽失行群、青線:非失行群)の視覚-触覚統合課題の成績。中央図は、3群の視覚-固有受容覚統合課題の成績、右図は3群の視覚-運動統合課題の成績。 感覚-感覚(視覚-触覚、視覚-固有受容覚)統合では、3群に差が認められなかったが、視覚-運動統合において、失行群(赤線)は、偽・非失行群(黄線、青線)と比較して、著明な低下(遅延検出閾値の延長、勾配の低下)を示した。 結果、感覚-運動統合課題においてのみ、失行群は、偽・非失行群と比較して、遅延検出閾値が延長し、勾配は低下しました(図2)。このことは、失行群が、視覚-運動統合機能の歪みを有することを意味し、感覚-感覚統合には違いがなかったことから、失行では自己運動の結果を予測することが障害されている可能性が強く示唆されました。また失行の重症度と視覚-運動統合障害の程度は相関関係にありました(図3)。 図3。 失行の重症度と視覚フィードバック遅延検出課題の成績との関係 視覚フィードバック遅延検出課題で得られる遅延検出閾値が延長するほど、そして検出確率曲線の勾配が低下するほど、統合機能が低いことを表す。 左図は、失行の重症度と3課題の遅延検出閾値との相関関係を表す。視覚-運動統合課題における遅延検出閾値(赤□)が延長するほど、失行の重症度が重度となる相関関係を認めた。 右図は、失行の重症度と3課題の検出確率曲線の勾配との相関関係を表す。視覚-運動統合課題における検出確率曲線の勾配(赤□)が低下するほど、失行の重症度が重度となる相関関係を認めた。 本研究では、さらに病巣減算分析とVLSMを実施することで、失行と感覚-感覚/感覚-運動統合障害に関連する病巣解析を行いました。その結果、失行の発症と感覚-運動統合障害の発生が、左腹側-背側運動ネットワーク上の左下前頭回と左下頭頂小葉の損傷に起因することが示されました(図4)。本研究は、左下前頭回と左下頭頂小葉を主領域とした左腹側-背側運動ネットワークの損傷が、運動結果の予測を妨げ、失行と感覚-運動統合障害を導くことを明らかにしました(図5)。 図4。 病巣減算分析とVoxel-based lesion symptom mapping(VLSM)の結果 病巣減算分析とVLSMの結果は、失行と視覚-運動統合障害が共通して、左下前頭回と左下頭頂小葉を中心とした左腹側の前頭-頭頂ネットワーク上の病巣によって生じることを示した。 図5。 要約図 左腹側の前頭-頭頂ネットワークの損傷は、運動結果の予測を妨げ、失行と視覚-運動統合障害を引き起こす。 本研究の臨床的意義および今後の課題 本研究は、視覚フィードバック遅延検出課題を使用することにより、定量的かつ客観的に、失行の感覚-感覚/感覚-運動統合機能を調べました。そのことにより、失行は感覚-感覚統合機能には問題がないものの、感覚-運動統合機能に問題を生じていることを明確に示しました。そして左大脳半球の腹側の前頭-頭頂ネットワークの損傷が、失行と感覚-運動統合障害の共通した病巣であることを明らかにしました。本研究結果は、失行の病態解明に貢献するだけでなく、運動結果の予測の形成を促し、感覚-運動統合を促進する介入が、失行の改善に寄与する可能性を強く示唆しました。 しかしながら、失行は様々な形態(模倣障害、ジェスチャー障害、道具使用障害、系列動作障害など)と多様な誤反応(錯行為、保続、拙劣、誤使用、省略など)を有する複雑な症候です。今後、今回明らかにした感覚-運動統合障害と関連する失行の形態・誤反応とは何かについての横断的研究、失行と感覚-運動統合障害の回復に関する縦断的研究、そして運動結果の予測の形成を促し、感覚-運動統合を促進し、失行からの改善に導くニューロリハビリテーション開発研究を力強く推進していく必要があります。 なお本研究は、新学術領域研究『脳内身体表現の変容機構の理解と制御』のサポートを受けて実施されました。 論文情報 Nobusako S, Ishibashi R, Takamura Y, Oda E, Tanigashira Y, Kouno M, Tominaga T, Ishibashi Y, Okuno H, Nobusako K, Zama T, Osumi M, Shimada S, and Morioka S. Distortion of Visuo-Motor Temporal Integration in Apraxia: Evidence From Delayed Visual Feedback Detection Tasks and Voxel-Based Lesion-Symptom Mapping. Frontiers in Neurology. 2018. 問合せ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 助教 信迫 悟志(ノブサコ サトシ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授/センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2018.07.30
9月12日(水)「第4回畿央大学シニア講座」を開催します。
畿央大学では、地域のシニア世代の皆さまが「健康」と「教育」について学びを深めるための「畿央大学シニア講座」を開催しています。今回は、大学の施設・設備での体験型の学習も取り入れながら、「腰痛」について最新の知見を学んでいただけます。学びに年齢は関係ありません。この機会に畿央大学で学んでみませんか? ▲昨年度の様子 ●プログラム・募集要項 日時 9月12日(水) 13:00~15:00 (受付12:30~) テーマ 「肩こり・腰痛を運動でやわらげる」 講師:畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 助教 大住倫弘 ・座学での授業を中心に、補足的に体験を交えた形式で進めます(適宜休憩を挟みます)。 ・軽いストレッチを行いますので、動きやすい服装でお越しください。 会場 畿央大学P棟1階 理学療法実習室 対象 シニア世代の方 申込定員 30名(要事前申込、先着順) 受講料 無料 主 催 畿央大学教育推進部、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 申込方法 住所、氏名(ふりがな)、電話番号、年齢、「シニア講座申込み希望」を明記して、 メール、またはFAXでお申し込みください。 【問い合わせ・申込み先】 〒635-0832 奈良県北葛城郡広陵町馬見中4-2-2 畿央大学教育推進部 シニア講座係 電話:0745-54-1601 FAX:0745-54-1600 E-mail:kikaku@kio.ac.jp
2018.07.09
姿勢バランスに重要な役割を果たす前庭脊髄路の評価に用いる直流前庭電気刺激の作用と最適刺激強度を明らかに~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
姿勢バランスに重要な役割を果たす前庭脊髄路の評価に用いる直流前庭電気刺激の作用と最適刺激強度を明らかに ヒトは通常生活の中で立ったり、歩いたりしていますが、多くの場合、姿勢バランスを非自覚的にコントロールしています。非自覚的に姿勢バランスをコントロールする機能は、ヒトが豊かな生活を行う上で基盤となる重要な機能です。非自覚的な姿勢バランスのコントロールは感覚系、筋骨格系、神経系などの働きによって行われています。前庭脊髄路は、非自覚的な姿勢コントロールを行う上で重要な役割を果たす神経機構の一つであり、抗重力筋の制御に特に関与しています。リハビリテーションにおいて姿勢バランスのコントロールに障害のあるヒトを対象とすることが多くありますが前庭脊髄路の機能を評価することができれば、姿勢バランスの障害の機序にせまることが可能となり、有効なリハビリテーション介入の発展に寄与することも期待されます。 前庭脊髄路の機能は、直流前庭電気刺激(Galvanic Vestibular Stimulation: GVS)という経皮的な前庭系の刺激を行うことによる抗重力筋であるヒラメ筋のH波(誘発筋電位の一つ。脊髄運動ニューロンプール興奮性の程度を反映)促通の程度を計測することによって評価されてきていました。しかし、GVSは経皮的に前庭系を刺激するためヒラメ筋のH波の促通が前庭系の刺激によるものなのか、皮膚刺激によるものなのか明らかにされてきていませんでした。また、評価時の対象者の負担を考えるとGVSの刺激強度は小さいことが望ましいですが、評価する上で適切な刺激強度についても明らかにされていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの岡田洋平 准教授らは、塩崎智之 助教(奈良県立医科大学)、中村潤二 氏(畿央大学大学院客員研究員、西大和リハビリテーション病院)、松木明好 教授(四条畷学園大学)らと共同で、GVSによるヒラメ筋のH跛の促通は、皮膚刺激だけでなく前庭系の刺激によって引き起こされること、GVSの刺激強度は3mA以上とすることが望ましいことを明らかにしました。この研究成果は、Neuroreport誌 (Influence of the intensity of galvanic vestibular stimulation and cutaneous stimulation on the soleus H-reflex in healthy individuals)に掲載されています。 研究概要 本研究で用いた前庭脊髄路機能評価に用いたGVSは、左右の耳後部(乳様突起)に電極を貼付し、直流電流を通電することによって、経皮的に前庭系を刺激する神経生理学的手法です。H波を下肢において計測する際、下腿後面のヒラメ筋が計測部位となることが多いです。ヒラメ筋H波は、対象者の脛骨神経を刺激することにより、Ia感覚神経線維が脱分極し、活動電位が脊髄に伝わり、運動神経線維に伝達され誘発されます。本研究で用いた前庭脊髄路の機能評価の方法は、H波を誘発する脛骨神経刺激の100ms前に経皮的前庭刺激であるGVSを与えることにより、前庭脊髄路が駆動され、脊髄運動ニューロンプール興奮性が変化するという考えに基づいて、GVSを条件刺激として与えることによるヒラメ筋H波振幅の変化を計測するものであり、先行研究においても利用されています(Kennedy PM、 2000、 2001; Matsugi A、 2017)。一方で、手背部(橈骨神経支配領域)などの離れた身体部位を刺激することによっても、ヒラメ筋のH波振幅が増加することが報告されています(Zher EP、 2004)。GVSは経皮的に耳後部より前庭系を刺激する方法であるため、GVS後のヒラメ筋H波振幅の変化は、前庭系刺激によるものか皮膚刺激によるものかこれまで明らかでありませんでした。岡田准教授らは、条件刺激としてGVSを与える際と、皮膚刺激を与える際のヒラメ筋H波の振幅の変化の差を比較検証することにより、この点について明らかにすることを着想しました。 また、これまで前庭脊髄路機能評価に用いるGVSの刺激強度は2。5~4mAでしたが、1mA、 2mAのGVSにおいても被験者から痛みや不快感の発生を報告している先行研究(Lenggenhager B、 2008)があります。前庭脊髄路機能評価を行う上で対象者に負担が少なく、評価に適した下限の刺激強度を明らかにすることが望ましいですが、この点についても明らかになっておりませんでした。 岡田准教授らはこれらの点について明らかにするため、1mA、 2mA、 3mAのGVSあるいは3mAの皮膚刺激を与えた際のヒラメ筋H波振幅の変化の差について検証することにより、GVSによるヒラメ筋H波の促通の程度は皮膚刺激による促通の程度よりも大きく、条件刺激としてのGVSの強度については3mAが1mA、 2mAと比較してヒラメ筋H波の促通の程度が大きいことを明らかにしました。今回の研究結果から、GVSによるヒラメ筋H波促通は皮膚刺激のみでなく前庭系刺激によるものでもあること、健常者においては3mA以上の強度のGVSによりH波の促通効果が観察されると結論付けられました。 本研究のポイント GVS後の下腿後面筋のH波の促通の計測は、GVSによって皮膚のみでなく前庭系も刺激し、前庭脊髄路が活動することによって下腿の抗重力筋であるヒラメ筋の脊髄運動ニューロンプールが促通されること、健常者においては3mA以上のGVSを行うことによってヒラメ筋の脊髄運動ニューロンプール興奮性が安定して認められることの2点を明らかにした。 研究内容 神経疾患、前庭疾患の既往歴のない17名の健常成人が本研究に参加し、全員が本研究に伴う副作用が生じることなく、全ての過程を終了しました。本研究において前庭脊髄路機能に用いたGVSは左右乳様突起に電極を貼付し、直流電流を通電しました。GVSでは陰極下の前庭系が脱分極すると考えられています。前庭脊髄路は同側の抗重力筋の制御に関与していると考えられています。そのため、本研究ではヒラメ筋H波の計測と同側の乳様突起を陰極、対側の乳様突起を陽極として、GVSを行いました。 本研究では各対象者に対して1mA、 2、mA、 3mAのGVS、3mAの皮膚刺激を無作為な順序で条件刺激として与え、条件刺激によるヒラメ筋H波振幅および促通の程度の差について検証しました。条件刺激によるヒラメ筋H波促通の程度は、各条件刺激を与えた際のヒラメ筋H波振幅を、条件刺激を与えない際のヒラメ筋H波振幅で除して算出しました。条件刺激によるヒラメ筋H波の促通の程度が1より大きい値を示す際は、条件刺激によってヒラメ筋H波が促通されたことを示し、0~1の値を示す場合は条件刺激によってヒラメ筋H波が抑制されたことを示します。 結果、 1mA、 2mA、 3mAのGVS、3mAの皮膚刺激のいずれの条件刺激を与えた際にも、条件刺激を与えない際と比較してヒラメ筋H波の振幅の値は大きくなりましたが、3mAのGVSを与えた際は3mAの皮膚刺激を与えた際と比較してヒラメ筋H波の振幅および促通の程度が大きくなりました(図1)。この結果は、GVSによるヒラメ筋H波の促通は、皮膚刺激のみでなく前庭系の刺激に伴う変化であることを示しています。もし、GVSにより促通が皮膚刺激によるもののみであるとすれば、3mAの皮膚刺激を与えた際には1mA、2mAのGVSを与えた際より促通されると考えられますが、条件間に差は認められませんでした(図1b、 c)。この結果は、GVSによるヒラメ筋H波の促通が皮膚刺激によるもののみでないことを支持しています。 先述のように、条件刺激を与えた際にいずれの条件においても条件刺激を与えない際と比較してヒラメ筋H波の振幅の値は大きくなりました。しかし、条件刺激によるヒラメ筋H波の促通の程度については、3mAのGVSにおいてのみ他の条件との間に差が認められました(図1c)。この結果は、前庭脊髄路機能評価としてGVS後のヒラメ筋H波促通の程度を評価する際には、3mA以上の刺激強度が適していることを示しています。 図1。 条件刺激の各条件におけるヒラメ筋H波の代表波形(a)と平均振幅(b)の差 a。 3mAのGVSを条件刺激として与えた際、条件刺激を与えない場合と比較してヒラメ筋のH跛振幅が顕著に大きい。 b。 いずれの条件刺激を与えた際も条件刺激を与えない際と比較して、ヒラメ筋H波が大きくなった。3mAのGVSを条件刺激として与えた際、他の刺激条件と比較してヒラメ筋H波振幅が大きかった。1mA GVSと2mA GVSの間には条件刺激後のヒラメ筋H波振幅に差はなかった。 c。 3mAのGVSを与えた際、1mA、 2、mAのGVS、3mAの皮膚刺激と比較して、ヒラメ筋H波促通の程度が大きかった。 GVS: 直流前庭電気刺激(Galvanic Vestibular Stimulation) *p<0。05(one-way repeated measures ANOVA、 post hoc test) 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究結果は、直流前庭電気刺激による下腿後面筋のH波の促通は皮膚刺激によるものだけでなく、前庭刺激に伴う前庭脊髄路の活動を反映したものであること、直流前庭電気刺激は3mA以上で行うことが望ましいことの二点を示唆するものでした。本研究結果は、直流前庭電気刺激後の下腿後面筋のH波促通の計測は、前庭脊髄路機能を反映することを支持するものであり、評価の妥当性を明らかにした初めての研究です。本研結果は、今後症例と健常者の結果を比較する際に重要な基本的な知見となると考えられます。今後は、今回妥当性が確認された評価方法を脳卒中やパーキンソン病、前庭疾患の方など姿勢バランスに異常を認める症例に適用し、検証していく予定です。 関連論文 Matsugi A et al. Effect of gaze-stabilization exercises on vestibular function during postural control. Neuroreport. 2017 May 24;28(8):439-443 論文情報 Okada Y、 Shiozaki T、 Nakamura J、 Azumi Y、 Inazato M、 Ono M、 Kondo H、 Sugitani M、 Matsugi A。 Influence of the intensity of galvanic vestibular stimulation and cutaneous stimulation on the soleus H-reflex in healthy individuals. Neuroreport。 2018 Jun 30。 doi: 10。1097/WNR。0000000000001086 問合せ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 畿央大学健康科学部理学療法学科 准教授 岡田 洋平(オカダ ヨウヘイ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp
2018.06.13
子どもの手運動機能は、視覚と運動を統合する能力に起因する~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
子どもの手運動機能は、視覚と運動を統合する能力に起因する ヒトの運動発達、運動学習を支える脳内システムの一つに、教師あり学習があります。教師あり学習とは、フィードフォワード(運動)情報とフィードバック(感覚)情報を比較し、誤差信号を教師信号として、迅速な運動の修正を可能にします。反復練習により、運動が徐々に上達していく背景には、この教師あり学習が関与しています。 一方で、この教師あり学習の基本形である運動と感覚を比較し統合する能力は、子ども時代に年齢増加に伴って発達変化することが分かっています。すなわち、乳児期⇒幼児期⇒学童期⇒青年期と成長(年齢が増加)するにつれ、感覚-運動統合能力は向上します。しかしながら、子どもが有する運動機能と感覚-運動統合能力との関係は、よく分かっておらず、子どもが有する運動機能が感覚-運動統合能力の予測因子となるか否かは明確になっていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 助教と森岡周 教授らは、嶋田総太郎 教授(明治大学)、中井昭夫 教授(武庫川女子大学)らと共同で、子どもが有する手運動機能は、年齢に関わらず、運動情報と視覚情報を統合する(視覚-運動統合)能力の強力な予測因子であることを明らかにしました。この研究成果は、Frontiers in Psychology誌 (Manual Dexterity Is a Strong Predictor of Visuo-Motor Temporal Integration in Children)に掲載されています。 研究概要 視覚情報と運動情報を時間的に統合する能力(視覚-運動時間的統合能力)とは、自己の運動とその視覚フィードバックが同期しているか否かを認識する能力です。そして、この視覚-運動時間的統合能力は、小児期に年齢増加に伴い、発達変化することが分かっています。具体的には、生後1-5カ月の乳児では、自己運動とその視覚フィードバックとの間に3秒もの誤差を与えても認識できませんが、生後6-11カ月の乳児では2秒もの誤差であれば認識できることが示されています。さらに5歳児では約250ミリ秒の誤差が、8歳児では約110ミリ秒の誤差が、そして成人前には約60ミリ秒の誤差が認識できるとされています(誤差時間については、実験方法によって異なります)。このように、年齢は視覚-運動時間的統合能力の予測因子であることが分かっていました。一方で、この視覚-運動時間的統合能力は、運動機能とも深い関係があることが予想されますが、視覚-運動時間的統合能力と子どもが有する運動機能との関係性は明らかになっていませんでした。そこで信迫助教らの研究グループは、4歳児から15歳児までの手運動機能と視覚-運動時間的統合能力を調査しました。その結果、先行研究と同様に、視覚-運動時間的統合能力は年齢増加に伴って向上することが示されましたが、同時に、手運動機能の向上に伴って視覚-運動時間的統合能力が向上することも示されました。結論として、子どもにおける手運動機能は、年齢に関わらず、視覚-運動時間的統合能力の有意な予測因子であることが示されました。 本研究のポイント 子どもが有する手運動機能(手運動の器用さ)は、年齢とは関係なく、子どもが有する視覚-運動時間的統合能力の強力な予測因子であること、すなわち子どもにおける手運動機能と視覚-運動時間的統合能力との間には、直接的な関係(ダイレクト-リンク)があることを明らかにした。 研究内容 本研究には、医療的状態、発達障害、知的障害の診断を持たない4歳から15歳までの139児が参加しました。そのうち、132児が実験課題を完了しました。手運動機能の測定には、共同研究者の中井昭夫教授(武庫川女子大学)が日本での標準化研究を実施している国際標準評価バッテリーが使用されました。このバッテリーで測定された得点が高いほど、手運動機能が高いことを表します。視覚-運動時間的統合能力の測定には、共同研究者の嶋田総太郎教授(明治大学)が開発した映像遅延検出課題が使用され、この課題で抽出される遅延検出閾値と遅延検出確率曲線の勾配が、視覚-運動時間的統合能力を反映する指標となりました。遅延検出閾値の短縮と勾配の増加は、視覚-運動時間的統合能力が高いことを表します。 図1:年齢と視覚-運動時間的統合能力との関係 A:年齢と遅延検出閾値の関係。年齢が増加するほど、遅延検出閾値は短縮した。B:年齢と勾配との関係。年齢が増加するほど、勾配は増加した。 図2:手運動機能と視覚-運動時間的統合能力との関係A:手運動機能と遅延検出閾値の関係。手運動機能が向上するほど、遅延検出閾値は短縮した。B:手運動機能と勾配との関係。手運動機能が向上するほど、勾配は増加した。 結果、年齢の増加に伴って、遅延検出閾値は短縮し、勾配は増加しました(図1-A・B)。このことは、年齢の増加に伴って、視覚-運動時間的統合能力が向上することを意味しました。一方で、手運動機能の向上に伴って、遅延検出閾値は短縮し、勾配は増加しました(図2-A・B)。このことは、手運動機能の向上に伴って、視覚-運動時間的統合能力が向上することを意味しました。しかしながらこの段階では、(本研究で使用した国際標準評価バッテリーは年齢調整テストであるが、)偶然に高年齢児ほど手運動機能が高かったために、年齢だけでなく、手運動機能と視覚-運動時間的統合能力との間にも相関関係が認められた可能性がありました。そこで、階層的重回帰分析によって、年齢と手運動機能の交互作用を検討しました。その結果、年齢と手運動機能との間には交互作用はありませんでした。したがって、子どもが有する手運動機能(手の器用さ)は、年齢とは独立して、視覚-運動時間的統合能力の強力な予測因子であることが示されました。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究結果は、子どもが有する手運動機能は、年齢と同様に、子どもの視覚-運動時間的統合能力の重要な予測因子であることを示しました。本研究結果と先行研究(Nobusako et al., Front. Neurol. 2018)は、一貫して、運動の器用さと視覚-運動統合との間には重要な関連性があることを示し、子どもの運動の不器用さの改善のために、視覚-運動統合を促進・向上するリハビリテーション技術の必要性を強調しました。 関連論文 Nobusako S, Sakai A, Tsujimoto T, Shuto T, Nishi Y, Asano D, Furukawa E, Zama T, Osumi M, Shimada S, Morioka S, Nakai A. Deficits in Visuo-Motor Temporal Integration Impacts Manual Dexterity in Probable Developmental Coordination Disorder. Front Neurol. 2018 Mar 5;9:114. 論文情報 Nobusako S, Sakai A, Tsujimoto T, Shuto T, Nishi Y, Asano D, Furukawa E, Zama T, Osumi M, Shimada S, Morioka S, Nakai A. Manual Dexterity Is a Strong Predictor of Visuo-Motor Temporal Integration in Children. Front Psychol. 2018 June 12. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2018.00948 問合せ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター畿央大学大学院健康科学研究科助教 信迫 悟志(ノブサコ サトシ)Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp
2018.05.16
第27回クリーン&歴史ウォークが行なわれました。
2018年4月15日(日)、畿央大学が後援しているイベント「第27回クリーン&歴史ウォーク」が実施されました。クリーン&歴史ウォークは「地域の活性化に貢献するには自らが地域をよく知ることから」という趣旨のもと、年に2回開催されています。今回の行き先はエコール・マミ~勘平山1・2号古墳~上牧久渡古墳群で約6Kmの道程です。あいにくの悪天候でしたが、約40名の方にご参加いただきました。 畿央大学からは、教職員2名、学生ボランティア8名(畿央パフォーマンスチームKiPT、学生ボランティア)が参加し、イベントの運営及びクイズ大会の実施等、幅広くお手伝いをさせていただきました。 主催者から本イベントの趣旨説明があり、実行委員長の深田將揮先生(現代教育学科 本学ボランティアセンター長)からの開会の挨拶に引き続き、ウォーキング開始前に松本大輔先生(理学療法学科)の指導の下、足元が悪い中でかつ寒い環境でのウォーキングということもあり、入念に腕や太もも、ふくらはぎのストレッチを行ないました。 エコール・マミから20分程歩き、まずは最初の目的地である勘平山1・2号古墳に到着しました。勘平山古墳は5世紀後半頃の2つの円墳が連なるの古墳で、鉄刀や須恵器などが発掘された古墳とのことです。激しい雨の中ですが、参加された皆さんは広陵町文化財ガイドの方の話を真剣な表情で聞き入っておられました。 次に上牧久渡古墳群に向かいました。雨足が強くなったこともあり、急遽、地域の方のご厚意で上牧久渡古墳群近隣の松里園公民館を利用させて頂くこととなり、そこで上牧町教育委員会 文化財専門員の方から上牧久渡古墳群について解説いただきました。その後、畿央パフォーマンスチームKiPTによるクイズ大会がおこなわれ、古墳にまつわる問題、地域に関する問題、畿央大学に関する問題などが〇×形式で出題されました。正解者には、景品準備されていることもあり、時より歓声があがる等、参加者の方々には楽しい時間をお過ごし頂いたかと思います。 クイズ終了後、雨足が少し落ち着いたので、上牧久渡古墳群を眺めながら古墳についての解説をいただき、帰路につきました。 12時頃にエコール・マミに到着し、怪我人もなく、無事クリーン&歴史ウォークを終了することができました。参加者の皆さんは「天候に恵まれなかったのは残念だが、色々学べて楽しかった!」と笑顔で話してくれました。 あいにくの悪天候で清掃活動はできませんでしたが、学生ボランティアは参加者との交流を通じて、多くのことを学べたようです。畿央大学は地域に開かれた大学として、これからも地元のイベントに協力していきます。今年の秋頃には第28回目のクリーン&歴史ウォークが開催されます。ご参加をお待ちしています。 【クリーン&歴史ウォーク】 主催:クリーン&歴史ウォーク実行委員会 後援:広陵町教育委員会、香芝市教育委員会、上牧町教育委員会、独立行政法人都市再生機構西日本支社、 畿央大学 協力:広陵古文化会、畿央大学学生 協賛:(株)関西都市居住サービス エコール・マミ営業所 ●過去の「クリーン&歴史ウォーク」の記事はこちら
2018.05.10
大学院生の研究成果がHand surgery & Rehabilitation誌に掲載されました~健康科学研究科
運動恐怖と「運動の躊躇」の関係性について新たな発見 術後痛を慢性化させる要因は痛みの強度だけでなく、心理的要因が大きく関与していることは周知のこととなってきています。その中でも、“運動恐怖(=患肢を動かすことへの恐怖心)”は、日常生活動作の悪化や運動障害に起因し、慢性疼痛発症の危険因子とされています。畿央大学大学院健康科学研究科の今井亮太らは、橈骨遠位端骨折後患者を対象に、ビデオカメラ(sampling rate 30Hz)で記録した手指タッピング動作解析(母指と示指の反復開閉運動)によって、運動恐怖を運動学的に定量化することを試みました。その結果、運動への恐怖心が強い症例ほど、運動方向を切り替える時間が長くかかっていることを明らかにし、このような運動学的異常を「運動の躊躇」と定義しました。この研究成果から術後患者が示す恐怖を客観的にセラピストが把握できる可能性が考えられます。この論文は、(Hand surgery & Rehabilitation誌(Relationship between pain and hesitation during movement initiation after distal radius fracture surgery: A preliminary study)に掲載されています。 研究概要 整形外科疾患術後患者の主とする問題は痛みであることが多く、その術後痛の遷延化は日常生活動作(ADL;Activity Daily of Life)を制限します。術後遷延痛の発生率は約50%といわれており、その中でも約10%が重度な痛みを有すると報告されています8)10)。つまり、多くの術後患者が痛みの慢性化を発症する可能性を秘めています。そのため、術後急性期では、炎症症状に伴う痛みを遷延化させず、慢性疼痛の発症を予防することが求められます。また、慢性化させる要因は痛みの強さだけでなく、痛みに対する心理的要因が大きく関与しています。中でも、“運動恐怖”(=患肢を動かすことへの恐怖心)は、患肢の不動化に続くADL障害の悪化、さらなる術後遷延痛をもたらすと考えられます。 そこで、本研究では術後患者が示す心理的要因の運動恐怖を客観的に定量化が可能かどうか試みました。橈骨遠位端骨折術後患者が示す手指の屈伸運動をビデオカメラで撮影し、記録された映像を1枚1枚のフレームに切り分け、速度が0になる時点(最大伸展位・最大屈曲位)のフレーム数を測定しました(Firure。1)。その結果、速度が0になる点、つまり運動を切り替える時間が経時的に改善(短縮)していく様子が観察されました。また、術後5日目より痛みや心理面と有意な相関関係が認められました。我々は、この運動を切り替えるといった現象を「運動の躊躇」と定義しました。 本研究のポイント 術後急性期に示される“運動恐怖”を、動画解析により定量化し運動の躊躇を定義しました。 研究内容 橈骨遠位端骨折術後患者の痛み強度の評価(安静時痛、運動時痛)、心理的評価、関節可動域と手指のタッピング運動との関係性を調査しました。評価期間は術後1日目、3日目、5日目、7日目、2週間後、3週間後、1ヵ月後まで継続的に実施しました。タッピング運動の評価方法は、橈骨遠位端骨折術後患者が示す手指の屈伸運動をビデオカメラで撮影し、記録された映像を1枚1枚のフレームに切り分け、速度が0になる時点(最大伸展位・最大屈曲位)のフレーム数を測定しました。(=運動を切り替える際にかかる時間)(図1) 結果、痛み強度や心理面はフレーム数と術後1日目、3日目と有意な相関関係が示されませんでした。しかし、術後5日目から有意な相関関係が認められました。(図2) 図1:手指タッピング動作の映像 手指の屈伸運動をビデオカメラで撮影し、映像をフレームに切り分け、速度が0になる時点(最大伸展位・最大屈曲位)のフレーム数を測定した。 図2:術後5日目の痛みとフレーム数との相関関係 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究結果から、臨床で簡便に実施可能なタッピング運動から客観的に痛みや痛みの心理面を評価できる可能性を示すことができました。痛みや心理面の紙面評価も重要ですが、紙面評価は主観的でありバイアスが大きく影響します。そのため臨床上、患者示す運動から客観的に定量化し評価することが重要であると考えます。今後は術後急性期から恐怖を著明に示す患者に対する介入研究を実施していく予定です。 論文情報 Imai R, Osumi M, Ishigaki T, Morioka S. Relationship between pain and hesitation during movement initiation after distal radius fracture surgery: A preliminary study. Hand Surg Rehabil. 2018 問合せ先 畿央大学大学院健康科学研究科 客員講師 今井 亮太(イマイ リョウタ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: ryo7891@gmail.com
2018.04.03
平成30年度入学式を行いました。
新たに586名が畿央生に! 2018(平成30)年4月3日(火)、畿央大学健康科学部333名、教育学部222名、健康科学研究科19名(修士課程10名、博士後期課程9名)、教育学研究科修士課程4名、助産学専攻科8名あわせて586名の新しい畿央生が誕生しました。学部は午前10時、大学院と助産学専攻科は午後3時から入学式を行いました。 桜も残る穏やかな天気に恵まれながら、新入生と保護者の笑顔でキャンパスは華やぎました。 冬木記念ホールで開催された健康科学部・教育学部の入学式では、学科長から新入生が一人ひとり呼名され、冬木正彦学長による入学許可をいただきました。 学長式辞では冬木学長が「建学の精神である『徳をのばす、知をみがく、美をつくる』を実践し、自ら学ぶ態度を身につけてほしい」と述べられました。 続いてご来賓の山村吉由広陵町長、香芝市の吉田弘明市長、前垣昇司後援会長からも新入生へのエールの言葉をいただきました。 新入生代表の現代教育学科1回生の竹上はるかさんから宣誓、在学生代表の大津留黎さんから歓迎の言葉があり、閉式となりました。 閉式後には教員の紹介、畿友会およびアカペラ部有志による学歌披露、畿央大学パフォーマンスチームKiPT、アカペラ部ADVANCE#、チアリーディング部TINKERSのコラボレーションによる「ウェルカムショー」で入学生を歓迎しました。 午後3時からは大学院健康科学研究科・教育学研究科および助産学専攻科の入学式が行なわれました。大学院および専攻科の入学生、全員の名前が読み上げられ入学を許可された後、それぞれの研究科長、専攻科長から祝辞をいただきました。より高度な学びと研究活動に向けての決意を固める、緊張した中にも和やかな入学式となりました。 新入生の皆さん、入学おめでとうございます! ●入学式の様子は、大学公式facebookページでもご覧になれます。
2018.03.27
理学療法士、関西私大で唯一の3年連続100%を達成~理学療法学科
第53回理学療法士国家試験(2018年2月25日実施)の合格発表が3月27日に行われました。関西の4年制大学では最も多い12回目の卒業生となる健康科学部理学療法学科では、今春卒業した72名が受験し、全員が合格しました。全国平均は87.7%(新卒のみ)でした。 ・3年連続の全員合格を達成したのは、関西の私立大学で畿央大学だけ ・受験者50名以上での3年連続全員合格は、全養成校257校の中で畿央大学だけ という快挙です。 今回の試験の合格率(新卒者全国平均)は昨年よりも8.6%のダウンという厳しい結果でしたが、本学の学生はいつも通りのがんばりで、3年連続となる全員合格をはたしました。どのような問題にも対応するためには、普段からのたゆまぬ努力が大切です。来年にむけても気をゆるめることなく、一層の努力を期待したいと思います。 理学療法学科 学科長 庄本康治
2018.03.15
平成29年度卒業証書・学位記・修了証書授与式を行いました。
平成29年度卒業証書・学位記・修了証書授与式が3月15日(木)、冬木記念ホールにて挙行され、健康科学部309名(理学療法学科72名・看護医療学科93名・健康栄養学科93名、人間環境デザイン学科51名)、教育学部200名、助産学専攻科9名、大学院23名(健康科学研究科修士課程19名、博士後期課程3名、教育学研究科修士課程1名)の合計541名を送り出しました。 午前10時に開式し、国歌・学歌の斉唱の後、学部学科ごとの代表者に卒業証書・学位記・修了証書が手渡されました。その後、学長表彰が行われ、特に優秀な成績を修めた学生が各学科から1名選ばれ、表彰状と記念品が手渡されました。 冬木正彦学長による式辞では、「卒業してからも、建学の精神である『徳をのばす、知をみがく、美をつくる』を実践し、常に仲間との絆や支えてくださる周囲の皆さんへの感謝の気持ちを忘れず、社会で大いに活躍してください。」という言葉が送られました。 続いて山村吉由広陵町長、前垣昇司後援会長、唄大輔畿桜会長よりご祝辞をいただきました。 その後、学生自治会である畿友会長の松岡紗夜さんが在学生を代表して送辞を、卒業生を代表して現代教育学科の光岡克真さんが答辞を述べました。 大学公式facebookページに式典のフォトレポートを掲載しておりますので、合わせてご覧ください。 (facebookアカウントをお持ちでない方もご覧になれます) ◆卒業式 フォトレポート ◆卒業パーティー フォトレポート
2018.03.14
金子章道健康科学研究科長・健康科学部長の最終講義が行われました。
2018年3月13日(火)、本学にて健康科学研究科長・健康科学部長である金子章道教授の「最終講義」が行われました。 金子教授は2007年に畿央大学に赴任され、11年間にわたり本学で教鞭をとってこられました。学部生、大学院生のご指導、後継の研究者育成にご尽力いただいた功績から、栄誉教授の称号が付与されます。 「網膜研究とともに過ごした50余年 ― 三色説から側抑制まで ― 」と題して行われた最終講義では、学部生、大学院生、卒業生、修了生、教員、職員、金子教授の共同研究者など120名を超える多くの方々が出席され、熱心に聴講しました。 最終講義終了後には金子教授の長年にわたる研究・教育に対するご尽力とご功績に感謝と敬意を込めて、感謝の会を行ないました。 畿央大学関係者一同、金子教授の研究者、教育者としての熱意を受け継ぎ、教育研究活動に邁進してまいります。 ▶畿央大学公式facebookページ(最終講義のフォトレポート)
2018.02.27
第3回畿央大学シニアキャンパスを開催しました。
シニア世代のためのオープンカレッジ~認知症について考えよう~ 平成30年2月23日(金)に第3回目となる畿央大学シニアキャンパスを開催し、約60名の方にご参加いただきました。畿央大学では地元広陵町と連携し、運動教室や体力測定、介護予防、認知症施策などさまざまな健康増進のための人材育成や施策を進めています。その実績もふまえて、文部科学省の補助金である「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」に採択され、健康に強いまちづくりと実践教育・研究をコラボした「KAGUYAプロジェクト」に取り組んでいます。 ▼本学教員・学生および広陵町職員・地域住民による混成チームがイベントを運営 KAGUYA(かぐや)は“Keeping Active across Generations Uniting the Youthand the Aged”の略称で、「若者と高齢者が一丸となり、世代をこえて、住民が元気で活き活きとし続けられるまちづくりをめざす」という想いが込められています。また広陵町の讃岐神社は竹取物語で有名なかぐや姫誕生の地と言われていることから「KAGUYAプロジェクト」という愛称がつけられることになりました。KAGUYAプロジェクトの成果還元の一環として、「畿央大学シニアキャンパス」は開催されています。 ▼KAGUYAプロジェクトWebサイト 今年度は、KAGUYAプロジェクトの進捗報告と愛媛大学医学部 谷向教授による「認知症の人から学ぶ幸せな呆(ほう)け方」を講演いただき、続いて広陵町介護予防リーダーKEEP(Koryo Elderly Encouragement Project)の皆さまによる運動教室と本学看護医療学科教員による認知症カフェ「オレンヂ喫茶」を実施しました。いずれの取り組みにも健康支援学生チームTASKが参加し、地域住民の皆さま、KEEPの皆さまと交流を図りました。 1.平成29年度KAGUYAプロジェクト進捗報告会 プロジェクトリーダーである看護医療学科文准教授より、平成27年度と平成28年度に広陵町在住の壮年期と高齢者を対象として実施したアンケートの調査結果を報告しました。KAGUYAプロジェクトのテーマであるソーシャル・キャピタル(地域のつながり)の重要性も紹介されました。 2.講演:認知症から学ぶ幸せな呆(ほう)け方 愛媛大学医学部 谷向教授から、長年臨床医として認知症の患者様、ご家族と接してこられた経験と研究を踏まえての認知症との関わり方についてお話しをいただきました。 3.介護予防のための運動教室 運動教室では健康支援学生チームTASKも加わり、介護予防リーダーKEEPの皆さまによる介護予防簡単な体操を行ないました。実際に地域で活躍されているだけあり、堂々と、また和気あいあいとした教室になりました。最後は理学療法学科高取准教授が監修した「誤嚥にナラん体操」で締めくくられました。 4.オレンヂ喫茶 参加者全員で「オレンジロバ」作りに挑戦し、個性あるロバが完成しました。和やかな雰囲気のなか参加者の皆さまにもTASKメンバーにも笑顔が溢れていたのが印象的でした。 5.KEEP×TASK勉強会 シニアキャンパス終了後にはKEEPとTASK、広陵町地域包括支援センター、畿央大学教員による勉強会を行いました。当日の学びを共有しながら各リーダーが活動を紹介して、相互理解を深める絶好の機会となりました。 KAGUYAプロジェクトは折り返しの年を迎えました。次年度以降には2回目のアンケート調査を予定しています。シニアキャンパスや様々な取り組みを通じ、成果を地域の皆様や行政へ還元できるよう取り組んでまいります。 KAGUYAプロジェクト紹介リーフレット 広陵町×畿央大学KAGUYAプロジェクトfacebookページ 畿央大学ヘルスプロモーションセンター
2017.12.04
平成29年度 理学療法特別講演会を開催しました。
「地域を支える理学療法士を目指して~今後理学療法士にどのような動きが求められるか~」 2017年11月26日(日)、畿央大学L103教室にて「理学療法特別講演会」が開催され、約70名(うち卒業生35、学部生9)が参加されました。特別講演会は、畿桜会(同窓会)が主催し、理学療法学科卒業生に向けてリカレント教育(卒業後も幅広い知識を養う)のために行い、受講料1000円にて卒業生以外の医療関係者にも公開しています。 当日の様子を、同窓会幹事の藤原さんにレポートいただきます。 今回は、鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻にて教授、また国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センターにて客員研究員をされている牧迫飛雄馬先生に「地域を支える理学療法士を目指して~今後理学療法士にどのような動きが求められるか~」というテーマで、ご講演頂きました。 導入部では、昨今問題となっている膨れ上がる介護費用と保険料の推移から今後の地域財源の問題を訴えられました。その社会保障費の低減には、要支援・要介護者に至る前の虚弱高齢者(=フレイル)である状態の高齢者を対象に、介護が必要となる前に予防していく必要があることを、フレイルの要介護発生率や社会保障費の推移といった数値で具体的に説明してくださいました。 前半では、フレイルの定義や概念についてご自身の研究データをもとに、そのフレイルの状態の高齢者を評価していく指標について説明。後半では、理学療法士が介護予防に対してどのような介入戦略が効果的なのかを、論文や先生が行っておられる健康教室の内容などを折りまぜご講義頂きました。 多くのデータや先生が行っている介入などを具体的に説明してくださり、理学療法士が予防分野でできることはとても多いことがわかり、今後増えていくであろう地域での健康教室での介入などを見直し、効果のあるものにしていこう、と感じました。 講演後には、卒業生や地域で働く現職者の方から、多くの質問があり、活発な意見交換が行われました。多くの卒業生が予防分野に介入し、超高齢社会に対してどうにかしていかないとと考えておられ、動いておられると感じました。 その後、学生食堂で卒業生・学部生の懇親会が開かれました。理学療法学科の先生方も参加してくださり、学生当時の思い出話から、現在の職場でのことなど幅広く話すことができ、懐かしい時間を過ごすことができました。また、さまざまな分野で働いている先輩や後輩、同級生などの話を聞くと、視野も広がり気が引き締まりました。 毎年さまざまなテーマでの講演で視野を広げてくれ、卒業生や先生方とお話できるこの機会は本当にありがたいと思います。来年も、多くの卒業生とお話できることを楽しみに企画していきたいと思います! 畿央大学理学療法学科6期生代表幹事 CIL豊中 重症心身障害児(者)多機能型通所事業所 ボーイズ&ガールズ 藤原 菜津
2017.11.06
平成29年度の科研費採択件数、私立大学で全国8位に(学生数5,000人未満)
学生数5,000人未満の私立大学で採択件数が全国8位(関西1位)にランクイン 文部科学省から科学研究費助成事業(通称「科研費」)の配分結果が公表されました。本学における平成29年度科研費は、新規応募件数49件に対し、新規採択件数20件(新規採択率40.8%)という結果でした。現在継続中の研究課題とあわせて、平成29年度は本学から49件の研究課題が採択されています。在籍者数1)5,000人未満の私立大学2)では全国8位(5,000人以上の大学を含めると全国56位)、関西私立大学で1位(平成28年度に引き続き2年連続)に位置しています。 1) 大学の在籍者数は私立大学協会「大学ポートレート」各大学 学生情報>在籍者数2017年より抜粋 2) 医歯薬学部附属病院をもつ大学を除く 【科研費について】科学研究費助成事業は、人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、あらゆる「学術研究」を格段に発展させる独創的・先駆的な研究に対する助成を行うものです。科研費は国の最大の研究支援であり、大学の研究力を表す指標の一つと言えます。 また、新規応募件数40件以上の大学で、新規採択率40.8%は全国6位、私立大学では全国1位でした。科研費採択結果は本学の研究力の高さを客観的に示しており、高い研究力に裏付けられた質の高い教育が提供されている証明の一つと言えます。 全国私立大学 科研費採択件数ランキング ※医歯薬学部附属病院のある大学を除く 全国56位/在籍者数5,000人未満の私立大学で全国8位 ※黄色マーカーは在籍者数5,000人未満の大学 応募件数40件以上での科研費新規採択率 ※新規採択件数÷新規応募件数 全国6位/私立大学では全国1位 科研費関連の過去記事およびランキング記事 平成29年度科研費交付内定、採択率は50%に 科研費採択件数、学生数5,000人以下の私立大学で関西1位に(平成28年度) 就職率関西4位~AERAムック「就職力で選ぶ大学2018」
2017.11.02
軽く身体に触れることでもたらされる無意識的な二者間姿勢協調と社会的関係性の関係を解明~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
介護者やリハビリテーション専門家がバランス能力の低下した対象者の身体に触れ、 姿勢や動作を介助することの社会心理学的意義を明らかに ヒトが静かに立っている時は、一見動いていないように見えて、実は狭い範囲で揺れながら安定しています。この揺らぎは、相手の身体に軽く触れるだけで互いに同調するという現象が報告されており、”二者間姿勢協調”と呼ばれています。畿央大学大学院健康科学研究科の石垣智也らは、この二者間姿勢協調が「仲の良さ」に影響されているのではないかという仮説を立てて検証しました。参加者は知人や友人、親友など、既に顔見知りにある同性ペアであり、それぞれパートナーへの仲の良さを心理アンケートにて評価しました。立っている時の身体の揺らぎは、重心動揺計を用いて「相手に軽く触れた状態(ライトタッチ)」で計測しました。その結果、ペアになっている2人の仲が良ければ良いほどお互いの身体の揺らぎが似てくるという結果が得られました。 つまり、“二者間姿勢協調”は二者間の良好な親密性と関係していることが明らかになりました。本研究結果は、ヒトとヒトの姿勢協調のメカニズムにおける社会心理学的側面を明らかにしたもので、介護者やリハビリテーション専門家がバランス機能の悪い患者さんの身体に触れることの社会心理学的意義を明らかにしたものとなります。 この研究成果は、Frontiers in Psychology誌(Association between Unintentional Interpersonal Postural Coordination Produced by Interpersonal Light Touch and the Intensity of Social Relationship)に掲載されています。 研究概要 手をつないで歩く、ペアでのダンス、そして介護やリハビリテーション場面における動作介助など、身体接触を介して二者の姿勢や運動が影響し合うことがあります。この際、身体接触から加えられる情報は、接触による力学的要因と感覚的要因に分けられます。加えられる力による姿勢や運動への影響は明らかなことですが、本研究では、後者の感覚的要因、つまり身体接触により生じる触覚情報の影響に着目しています。ヒトの安静立位は一見すると安定しており、運動は生じていないようにみえますが、実際には狭い範囲で常に姿勢は揺ぎながら安定しています。この際、二者が互いに軽い身体接触を行うと、両者の姿勢の揺らぎが無意識的に類似すること(二者間姿勢協調)が知られています。これは、姿勢を制御するために用いている感覚情報に、パートナーの姿勢の揺らぎを反映した触覚情報が取り入れられるために生じると考えられています。一方、社会心理学的な知見によると、運動の二者間協調(模倣や身体同調などとも呼ばれています)は両者の社会心理学的な関係の良さを反映するとともに、良好な関係を形成する“社会的接着剤”として機能していることが知られています。しかし、これまでの研究では、立位姿勢の揺らぎという複雑で無意識的な運動の二者間協調に対して、社会的な関係の良さが影響しているかは明らかになっていませんでした。そこで研究グループは、身体接触による触覚情報から生じる無意識的な二者間姿勢協調と、相互作用する二者の社会的関係性との関係を検討しました。 実験では、既存の社会的関係(知人、友人または親友)にある同性ペアを対象に、それぞれパートナーへの関係性(親密度)を評価しました。その後、閉眼安静立位姿勢にて身体接触を行わない条件(非接触条件)と、接触による力学的影響を最小化するライトタッチという方法(約102g未満の接触力)で軽い身体接触を行う条件(接触条件)の姿勢の揺らぎを二者同時測定し、姿勢の揺らぎの類似性とペアの親密度との関係を分析しました。結果、対象者の自覚なしで接触条件では非接触条件に比べて高い揺らぎの類似性を認め、接触条件で無意識的な二者間姿勢協調を生じていることが確認されました。さらに、この姿勢協調の程度とペアの親密度との関係を分析したところ、左右方向(パートナーが立っている側)における姿勢協調の程度と親密度においては正の関係(親密度が高いほど姿勢の揺らぎが類似する)を示したのに対し、前後方向では負の関係(親密度が低いほど姿勢の揺らぎが類似する)を示しました。 つまり、身体接触による触覚情報から生じる無意識的な二者間姿勢協調は、相互作用する二者の社会的な関係性(親密度)と関係していることが明らかとなりました。 本研究のポイント 軽く身体に触れることで示される無意識的な姿勢の揺らぎの類似性は、相互作用する二者の親密度と関係することを明らかにしました。 研究内容 本研究では、身体接触による触覚情報から生じる無意識的な二者間姿勢協調と、相互作用する二者の社会的な関係性との関係を検討しました。実験は、既存の社会的関係(知人、友人または親友)にある同性ペアを対象に行い、はじめに、それぞれ別室でパートナーとの関係性を問う複数の心理アンケート行い、その結果をもとにパートナーへの親密度を評価しました。その後、安静立位姿勢にて軽い身体接触を行う条件(非接触条件)と、接触による力学的影響を最小化するライトタッチという方法(約102g未満の接触力)で軽い身体接触を行う条件(接触条件)(図1)の姿勢の揺らぎを二者同時測定し、測定後に「相手と自分の姿勢の揺らぎが似ていると感じたか」という問いに対する内省を得ました。 【図1 実験条件】安静閉眼立位でパートナーの側方に位置し、示指でパートナーの示指に軽く接触を行います。※軽く接触する程度はライトタッチ(約102g未満の接触力)の設定で行われています。 結果、対象者の自覚なしに接触条件では非接触条件に比べて高い揺らぎの類似性を認め(図2)、接触条件で無意識的な二者間姿勢協調を生じていることが確認されました。 【図2 姿勢の揺らぎの類似性】左右方向・前後方向の揺らぎともに、接触条件では非接触条件に比べて高い揺らぎの類似性を認めています さらに、この二者間姿勢協調の程度とペアの親密度との関係を、階層線形モデリングという個人とペアのデータ構造を扱う統計手法で分析したところ、左右方向(パートナーが立っている側)における姿勢協調の程度とペアの親密度は正の関係(両者が親密と感じているほど強く協調する)を示し、前後方向では負の関係(両者が親密と感じているほど協調は弱い)を示しました(図3)(図4)。 【図3 接触条件における二者間姿勢協調と親密度との関係】ダイヤが個々の値、丸がペアでの値を示します。いずれの値も左右方向における二者間姿勢協調の程度と親密度において正の関係を示しており、前後方向では負の関係が示されていることを確認できます 【図4 階層線形モデリングの結果】左右・前後ともに接触条件の揺らぎの類似性が、それぞれペアの親密度に対して正の関係、負の関係を示す要因であることを示しています。 この研究結果に対して研究グループは、良好な親密度は、姿勢制御のために用いられる感覚情報として、パートナーの揺らぎを反映した触覚情報を自身の揺らぎの情報よりも優先的に取り入れるように作用するため、二者間姿勢協調と親密度に関係が示されたと考察しています(図5)。また、揺らぎの方向で関係が異なったことについては、側方に二者が近接して位置された立位条件で実験が行われており、左右方向において強くパーソナルスペースに侵入する設定になっていたことが要因ではないかと考察しています。 【図5 本研究結果のモデル図】ペアの親密度がお互いのパートナーからの情報を取り込む程度を調整することを示しており、ペアの親密度が良好であれば合成された情報の多くに、パートナーの姿勢の揺らぎを反映した情報(自身の情報は相対的に減少)が含まれることを意味しています。 本研究の意義および今後の展開 本研究成果は、触覚情報を用いたヒトとヒトの姿勢運動制御の相互作用を理解する基礎的知見のひとつになるものと期待されます。また、この基礎的知見は、介護者やリハビリテーション専門家がバランス能力の低下した対象者の身体に触れ、姿勢や動作を介助することの社会心理学的意義の解釈を示唆しているものとも言えます。本研究により、二者間姿勢協調における社会心理学的側面の一部が明らかとなりましたが、運動学的側面や神経科学的側面の理解は未だ明らかになっていない点が多く、この点に対する更なる基礎研究が望まれます。さらに、今後はこのような二者間協調の視点をもって、療法士と患者などを対象とした臨床場面における研究展開も望まれます。 論文情報 Association between Unintentional Interpersonal Postural Coordination Produced by Interpersonal Light Touch and the Intensity of Social Relationship. Ishigaki T, Imai R, Morioka S. Frontiers in Psychology. 2017 (doi: 10.3389/fpsyg.2017.01993) 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 石垣 智也(イシガキ トモヤ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: p0611006@gmai.com 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel:0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2017.10.31
平成29年度在外研究~メルボルンからの現地レポート
本学には教育研究水準の向上および国際交流の進展に資するため、学術の研究・調査等のため外国に在外研究員を派遣する制度があります。平成29年4月1日から平成30年3月31日までの期間、オーストラリアのThe University of Melbourne(メルボルン大学)で理学療法学科瓜谷准教授が研究活動にあたっています。メルボルンからレポートが届きましたので、ご紹介します。 平成29年4月中旬からオーストラリアのメルボルンにある、The University of Melbourneで客員研究員として活動しはじめて半年が過ぎ、早いもので後半戦に入りました。私が所属しているのはCenter for Health, Exercise and Sports Medicine (CHESM)という研究センターで、変形性膝関節症の理学療法に関する研究で世界を牽引しておられる、Kim Bennell教授の元で研究活動を行っています。 ▼この建物の最上階にCHESMのオフィスがあります。 ▼オフィスからの景色 ▼CHESMのメンバー(の一部)。中央の女性2人が2トップ。左がリーダーのKim Bennell教授、右がRana Hinman教授 世界中を飛び回っているBennell教授ですが、時間を作っていつも懇切丁寧に指導してくださいます。 基本的にはオフィスでの研究活動がメインとなりますが、動作解析装置等を用いたデータ収集のサポートやスカイプを用いたクイーンズランド大学・シドニー大学との月1回の勉強会に参加することもあります。 ▼勉強会 また研究チームの勉強会では、夏休みを利用してこちらを訪れたゼミ生と共に、私の取り組んでいる研究テーマについてのプレゼンもさせていただきました。 ●メルボルン大学で4回生が卒業研究発表+ラボ見学レポートPart1~理学療法学科 ●メルボルン大学で4回生が卒業研究発表+ラボ見学レポートPart2~理学療法学科 滞在中にオーストラリア国内やニュージーランドの学会にも参加しました。 また以前から交流のあったこちらのPhysio(理学療法士)やこちらで知り合ったPhysioとも、クリニックを見学させていただいたり、自宅に招いていただいたり、他大学での勉強会に誘っていただいたりして交流をしています。どなたも国際的に活躍されている方々ばかりで、とても勉強になります。 La Trobe大学の研究者であり、スポーツ理学療法の分野で世界的に活躍しているDr. Christian Burtonが勤務するクリニックを見学させていただきました。 オーストラリアを中心に痛みの臨床・研究・教育で活躍されているPhysiotherapistであるLester Jones。ひょんなことからご自宅でのホームパーティーに誘っていただき、仲良くなりました。写真はRoyal Melbourne Institute of TechnologyのChinese medicineの研究チームでの勉強会です。 あっという間に残り半分を切った感じがしますが、できるだけ多くのことを経験し吸収し、3月までさらに貪欲に過ごしたいと思います。 理学療法学科准教授 メルボルン大学客員研究員 瓜谷 大輔 【関連記事】 ・「足趾握力」に関する論文が国際誌に掲載!~理学療法学科教員 ・卒業生がWCPT-AWP&PTAT CONGRESS 2017で研究成果を発表!~理学療法学科 ・平成29年度 在外研究説明会を開催しました。
2017.10.17
腱振動刺激による運動錯覚の鎮痛メカニズムに新たな発見~ニューロリハビリテーション研究センター
腱振動刺激による運動錯覚の惹起で鎮痛効果と運動機能の改善を確認 畿央大学大学院健康科学研究科博士後期課程の今井亮太らは、橈骨遠位端骨折(ころんで手をついた際におこる骨折で、頻度の高い疾患)術後患者に腱振動刺激による運動錯覚を引き起こすことで痛みの軽減と運動機能の改善が認められたことを確認してきました。(2016 / 2017) 本研究は、この振動刺激による運動錯覚の鎮痛効果に関与する神経活動(脳波研究)を調査したものであり、感覚運動関連領域の興奮と鎮痛との間の関係性を確認したものです。この研究成果は、NeuroReport誌(Effects of illusory kinesthesia by tendon vibratory stimulation on the post-operative neural activities of distal radius fracture patients)に掲載されています。 研究概要 2016年、2017年に今井らは、橈骨遠位端骨折術後患者に対して腱振動刺激による運動錯覚(腱に振動刺激を加えると筋紡錘が興奮し、刺激された筋が伸張しているという情報が脳内へ伝えられることによって「あたかも関節運動が生じているような運動錯覚」が生じる現象)を惹起させることで、痛みの感覚的側面や情動的側面の改善だけではなく、運動機能にも改善が認められたことを報告してます。運動錯覚時には実際に運動するときと同様の脳活動が得られることと、鎮痛には運動関連領域の活動が関与していることが明らかにされていました。しかしながら、この運動錯覚時に認められる感覚運動関連領域の活動が鎮痛効果に関与するかどうかは不明瞭なままでした。 そこで本研究では、橈骨遠位端骨折術後患者に対して腱振動刺激による運動錯覚を惹起させ、脳波を用いて運動錯覚中の感覚運動関連領域と痛みとの関連性を調査しました。その結果、すべての患者が運動錯覚を惹起したわけではありませんでしたが、運動錯覚を惹起した群(9名中6名)は、運動時や運動錯覚時に認められる脳活動が感覚運動関連領域に認められました。 つまり、痛みが強く運動が困難な術後患者でも、運動錯覚を惹起していることが脳活動の側面から示されました。そして、感覚運動関連領域の活動の程度と痛みの変化量(術後7日目~術後1日目)に有意な負の相関関係(脳活動が高いほど痛みの減少量が大きい)が認められました。 これらのことから、術後早期から運動錯覚が惹起可能であり、かつ振動刺激によって感覚運動関連領域が強く興奮する患者においては、痛みに対する介入効果が大きいことを示しました。 本研究のポイント ●術後翌日から腱振動刺激による運動錯覚を惹起させることで、感覚運動関連領域の神経活動が認められた。 ●感覚運動関連領域の活動の程度が鎮痛の効果量に関係している。 研究内容 橈骨遠位端骨折術後から腱に振動刺激を与えながら(図1)、その時の脳活動を脳波計で測定しました。 そして、運動錯覚が惹起した群と惹起しなかった群の脳活動と痛みを比較しました。 図1:腱振動刺激による運動錯覚の課題状況 脳波解析の結果、運動錯覚を惹起した群では感覚運動関連領域の活動が認められましたが、運動錯覚を惹起しなかった群では認められませんでした。(図2) 図2:腱振動刺激時に認められた脳活動(*青色の方が活動の強いことを意味する) 左:動錯覚を惹起した群 右:運動錯覚を惹起しなかった群 安静時痛の変化量と感覚運動関連領域の活動に有意な負の相関関係が認められました。(図3) つまり、感覚運動関連領域の活動が大きいほど、鎮痛の効果量も大きいことが示されました。 図3:左感覚運動領域と右感覚運動領域の活動と安静時痛の変化量 今後の展開 痛みが抑制されたメカニズムが明確になっていないため,今後は神経生理学メカニズムの詳細を明らかにしていきます。 関連する先行研究 Imai R, Osumi M, Morioka S. Influence of illusory kinesthesia by vibratory tendon stimulation on acute pain after surgery for distal radius fractures: A quasi-randomized controlled study. Clin Rehabil. 2016; 30: 594-603. Imai R, Osumi M, Ishigaki T, Morioka S. Effect of illusory kinesthesia on hand function in patients with distal radius fractures: a quasi-randomized controlled study. Clin Rehabil. 2017.31:696-701 論文情報 Imai R, Osumi M, Ishigaki T, Kodama T, Shimada S, Morioka S. Effects of illusory kinesthesia by tendon vibratory stimulation on the postoperative neural activities of distal radius fracture patients. Neuroreport. 2017 Oct 11. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp