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2025.06.06

人工膝関節置換術術後患者における術後QOLに関連する複合的因子を調査~運動器リハビリテーション学分野 瓜谷研究室~

近年、人工膝関節置換術術後患者の術後Quality of Life(QOL)に関連する術前要因として性別、Body Mass Index(BMI)、学歴、膝関節の痛み、合併症の数、心理社会的問題が報告されています。また、システマティックレビューでは女性、合併症が少ない事、高いBMIが人工膝関節置換術術後QOL低下の要因として挙げられていますが、術後QOLへの影響度は弱いことが報告されています。関連が弱い要因でも組み合わさることで、術後QOLへの影響が変化する可能性が考えられますが、これらの関係については十分に明らかになっていませんでした。 畿央大学大学院客員研究員の山藤滉己氏、山野宏章氏(宝塚医療大学)、重藤隼人氏(京都橘大学)、鳥澤幸太郎氏(山内ホスピタル)、高﨑博司氏(埼玉県立大学)、瓜谷大輔教授らは、アメリカの変形性膝関節症データベース(Osteoarthritis Initiative;OAI)を用いて、人工膝関節置換術術後患者を対象に術後QOLに関する研究を行いました。その結果、単独で術後QOLに影響を与える弱い術前因子は、他の関連因子と複合的に組み合わさることで単独因子の影響よりも強くなるという関連性をアソシエーションルール分析で明らかにしました。この研究成果は、PLoS One誌(Exploration of combined factors related to quality of life after knee replacement surgery)に掲載されています。   研究概要 変形性膝関節症は、膝のこわばり・不安定性・疼痛を主訴とする代表的な変性疾患です。60歳以上では、画像上80%以上に変形性変化がみられ、約40%が症状を訴え、約10%が日常生活に支障を来すと報告されています。変形性膝関節症に伴う痛みと機能障害は QOLの低下と強く関連します。痛みや機能を改善する治療として人工膝関節置換術が広く行われ、術後QOLの改善が期待されますが、約30%では術後1年経過しても十分なQOL回復が得られません。 近年、人工膝関節置換術術後患者の術後 QOLを左右する術前要因として、性別、Body Mass Index(BMI)、学歴、膝痛の強さ、合併症の数、心理社会的問題などが報告されています。しかし、これら要因はいずれも単独ではQOLへの影響度が弱いとされ、システマティックレビューでも一貫した結論は得られていません。実際には「単独で弱い要因」同士が複合的に組み合わさることで、術後QOLに強い影響を及ぼす可能性が示唆されますが、その組み合わせや影響度の変化は明らかになっていません。本研究の結果、単独で術後QOLに影響を与える弱い術前因子は、他の関連因子と複合的に組み合わさる事で単独因子の影響よりも強くなるという関連性をアソシエーションルール分析で明らかにしました。   本研究のポイント 人工膝関節置換術術後患者の術後QOLに関わる術前因子の複合的な関連性をアソシエーションルール分析で検討した。 単独因子として、術前の合併症の存在が術後2年の身体的側面のQOLに最も関連する因子として抽出された。 複合的な関連性として、術前の身体的側面のQOLが低値、術前の疼痛高値、術前の身体機能低下、立ち上がり能力低下、高齢は他要因と組み合わさる事で単独因子よりも術後QOLへの影響度が高くなりました。   研究内容 本研究の対象は米国のKOA患者のデータベースであるOAIに登録されている4796人の内、KR術前から術後2年間追跡可能であった44名を解析対象者としました。 使用した評価項目は、性別、年齢、BMI、立ち上がりテスト、人工膝関節置換術が片側・両側の情報、合併症(Charlson Comorbidity Index;CCI)、抑うつ症状(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale;CES-D)、関節症状(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index version LK 3.1;WOMAC)の疼痛、こわばり、身体機能、QOL尺度(Short Form12;SF12)の身体的側面(Physical Component Score;PCS)および精神的側面(Mental Component Score;MCS)を使用しました。 各変数は等頻度区間法で「高値」・「低値」の2群に分類し、アソシエーションルール分析を用いて、術前因子と術後QOLに対する影響度および術前因子が組み合わさると術後QOLに対する影響度が変化するかといった複合的な関連性を検証しました。アソシエーションルール分析では信頼度:ルールの正確性、支持度:ルールの出現率、リフト値:ルールの有用性、の3つの指標に基づいてルールを抽出しました。複合的な関連ルールの抽出は、ルールの正確性の指標である信頼度が80%以上、リフト値1.1以上であることを条件に抽出しました。 アソシエーションルール分析の抽出条件を満たしたルールについては、ルールの条件に該当した群を「該当群」、該当しない群を非該当群として分類し、条件変数の該当群と非該当群の比率が統計学的に有意であるかを判断する為に、Fisherの正確確率検定またはχ²検定を実施しました。複合的ルールでは、単独ルールで設定した抽出条件を満たし、分割表の検定で関連を認めた要因が別の要因と組み合わさる事で単独ルールと比較して信頼度、リフト値が高値を示すのかを検討しました。   単独ルール 抽出されたルールは合併症(1つ以上)、術前 WOMAC身体機能高値、術前 WOMAC疼痛高値、術前PCS低値、術前立ち上がり動作不良、高齢、術前 WOMACこわばり高値がリフト値の降順に抽出されました(表1)。分割表の検定において条件変数の該当群と非該当群の比率に有意差を認めた項目は合併症、術前WOMAC身体機能低下、術前WOMAC疼痛高値、術前PCS低値、立ち上がり能力低下、高齢であった。信頼度とリフト値が最上位かつ分割表の検定結果において有意差を認めたルールは合併症(信頼度100%、リフト値1。38)でした。一方、術後1年と2年MCS低値の単独ルール、術後1年PCS低値の単独ルールは抽出されませんでした。     複合的ルール 後2年PCS低値単独ルールで関連を認めたルールが含まれているルールを(表2)と(表3)に示しています。術前PCS低値、術前WOMAC疼痛高値、術前WOMAC身体機能低下、立ち上がり能力低下、高齢は他要因と組み合わさる事で信頼度・リフト値が単独ルールよりも高値を示しました。これらのルールは分割表の検定において条件変数の該当群と非該当群の比率に有意差を認めました。       本研究の臨床定義および今後の展開 本研究の結果は人工膝関節置換術術後患者の術後QOLを評価する際には、術前の単独因子のみを考慮するだけでなく、影響を与える要因は組み合わせによって影響度が変化することを示唆する結果です。本研究は後ろ向き研究であり、他の関連因子(心理社会的側面の問題や社会的因子)を考慮できていません。今後は、日本人を対象に前向き研究を実施し、他の交絡因子を含めた場合の影響について調査研究を進めていく予定です。   論文情報 Santoh K, Shigetoh H, Yamano H, Torizawa K, Takasaki H, Uritani D. Exploration of combined factors related to quality of life after knee replacement surgery. PLoS One.  2025 May 7;20(5):e0323007. doi: 10. 1371/journal. pone. 0323007.  PMID: 40333812; PMCID: PMC12057852.   問い合わせ先 社会医療法人杏嶺会 一宮西病院 リハビリテーション技術部 畿央大学 大学院 健康科学研究科 客員研究員 山藤 滉己 E-mail:k.santo725725@gmail.com 畿央大学 健康科学部 理学療法学科/大学院 健康科学研究科 教授瓜谷 大輔 E-mail:d.uritani@kio.ac.jp

2025.06.06

神経リハビリテーション学研究室の学生・教員が World Physiotherapy Congress 2025 で発表 ~ 健康科学研究科

2025年5月29日(木)~31日(土)に東京国際フォーラムで開催されたWorld Physiotherapy Congress 2025に、神経リハビリテーション学研究室(森岡周研究室)から、博士後期課程2年の三枝 信吾、博士後期課程1年の田上 友希が参加し、それぞれ発表をしてきました。   今回の学会は、規模・熱量ともに圧巻で、世界中から理学療法士や研究者が集まり、会場全体に活気が溢れていました。各国の参加者が一堂に会し、それぞれの臨床や研究の実践を語り合う光景に、理学療法という専門分野が持つ広がりと深みを実感しました。 演題名(発表形式)のご紹介 三枝 信吾氏(東海大学文明研究所、森岡周研究室) 演題名:The meaning of independence in walking for patients with subacute stroke: An interpretative phenomenological analysis (Printed Poster) 田上 友希氏(徳島赤十字病院、森岡周研究室) 演題名:Exploratory study of Functional Factors from Multiple Trunk Function Assessments in Early-Stage Stroke patients (Printed Poster)   両名ともにポスターセッションで研究発表を行いました。英語での発表ということもあり、研究内容をうまく伝えられたかどうか自信はありませんが、それでも少しずつでも自分の考えが相手に伝わったと感じられた瞬間は、大きな励みとなりました。   また、今回の学会で自分が取り組んでいる研究や臨床の意味を、改めて問い直す機会を得ました。そして、何よりも、多くの人が支え合い、繋がりながら専門性を深めているという実感を得たことが最大の収穫です。   今後は、自分の実践や研究をより国際的な視点から捉え直し、世界の理学療法の潮流の中で、自分が何を発信できるのかを模索していきたいと感じています。   最後になりますが、この貴重な機会を得るにあたり、日々の研究を支えてくださった神経リハビリテーション学研究室の皆さま、そして発表に向けて親身にご指導くださった森岡 周教授に、心より感謝申し上げます。   畿央大学大学院 健康科学研究科 博士後期課程2年 三枝 信吾 関連記事 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 地域リハビリテーション研究室の学生・教員が World Physiotherapy Congress 2025 で発表 ~ 健康科学研究科 人工膝関節置換術術後患者における術後QOLに関連する複合的因子を調査 ~ 畿央大学運動器リハビリテーション学分野 瓜谷研究室 ~ 第65回日本呼吸器学会学術講演会で『トラベルアワード』を受賞 ~ 健康科学研究科|KIO Smile Blog 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 3rd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 変形性関節症に関する世界最大級の国際会議「OARSI 2025」参加レポート!~健康科学研究科瓜谷研究室 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 2nd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 第40回日本栄養治療学会学術集会でYoung Investigator Award 2025を受賞 ~ 健康科学研究科

2025.06.04

地域リハビリテーション研究室の学生・教員が World Physiotherapy Congress 2025 で発表 ~ 健康科学研究科

2025年5月29日(木)~31日(土)に東京国際フォーラムで開催されたWorld Physiotherapy Congress 2025に、地域リハビリテーション研究室から高取 克彦教授、松本 大輔准教授、そして私 健康科学研究科 博士課程1年の池本 大輝が参加し、それぞれ発表をしてきました。   World Physiotherapy Congressが日本で開催されるのは1999年の横浜以来で、4半世紀ぶりの世界学会でした。日本で開催されることを知ってから、絶対に行きたいと思っていたので、参加することができて貴重な財産となりました。     今回の学会には5,000人以上の参加者、演題応募が3,355件、メインセッション145件、ePoster 700件近く、印刷ポスター1,400件以上と、今まで参加した学会よりも大規模で圧倒される学会でした。 演題名(発表形式)のご紹介 高取 克彦 教授 Impact of having higher-level life function on “youthful mind” in community-dwelling older adults: A cross-lagged and synchronous effects model(Printed Poster)     松本 大輔 准教授(2演題) Association Among Neighborhood Walkability, Social Participation, and Disability Incidence in Community-Dwelling Older Adults: A 3-Year Prospective Cohort of KAGUYA Study(ePoster)→ Outstanding ePoster Award   Association Between Fatigue and Intrinsic Capacity Among People Aged 20 to Over 100 Years Old from the INSPIRE-T Cohort(ePoster:フランスでの研究)     池本 大輝(博士課程1年) Impact of sarcopenia on gait independence in musculoskeletal disorders: A comparison of two diagnostic algorithms(ePoster)     私は、目標の一つであった国際学会に初めて参加して発表することができました。当日は、楽しみな気持ちがありつつも、不安や緊張といった様々な感情を持ちつつ参加しました。特に、発表は人生で最も緊張したといっても過言ではないぐらいに緊張し、朝食がのどを通りませんでした。いざ発表する時には松本准教授、高取教授、瀧口助教、職場の先輩が見守ってくださっていたので、無事発表することができました。   発表を終えて、研究活動を実施していくには自分一人では限界があり、周りの方々に支えられて実施できていることを改めて実感しました。   ePoster形式の発表は、座長により様々なスタイルであり、私のセッションでは5分間にプレゼンテーションと質疑応答が含まれておりました。発表時間がぎりぎりになってしまいましたが、セッション終了後に海外の方からご質問をいただきました。その際にも松本准教授にフォローをしてもらいながらの対応になってしまいましたが、海外の理学療法士にも興味を持っていただき、今後の研究を進めるモチベーションとなりました。   私の関心領域における発表は、今回は、南米の理学療法士に多く、複数の方々に質問をさせていただきました。苦手な英語でしっかりと質問できているかもわからない中、丁寧に回答していただける海外の理学療法士の優しさに感動したと同時に、自分の伝えたい内容を英語で伝えられるようになりたいと強く感じました。   シンポジウムやレクチャーでは、各国で異なる医療・介護システムで理学療法が提供されていることから、日本とは異なる問題点があり、様々な視点から理学療法を考えることができました。これは国際学会ならではの視点だと思います。同じ理学療法士として理学療法を発展していくためには国際学会へ参加し、刺激をもらうことでよりよい研究を行い、臨床実践していくことが重要だと感じました。   また指導教員である松本准教授は、Outstanding ePoster Awardを受賞され、Closing sessionで海外の理学療法士とともに壇上で表彰される姿はとてもかっこよく、素晴らしい先生にご指導いただけていることを再認識しました。私も将来、このような舞台で表彰されるような発表ができるように博士課程での学習と研究に励みたいと思います。       最後に、今回の国際学会参加・発表にあたり、多大なるご指導をいただいた松本准教授をはじめ、地域リハビリテーション研究室の皆さま、そして日々支えてくださっている職場の皆さまに心より感謝申し上げます。   畿央大学大学院 健康科学研究科 博士課程1年 池本 大輝 関連記事 畿央大学 地域リハビリテーション研究室 人工膝関節置換術術後患者における術後QOLに関連する複合的因子を調査 ~ 畿央大学運動器リハビリテーション学分野 瓜谷研究室 ~ 第65回日本呼吸器学会学術講演会で『トラベルアワード』を受賞 ~ 健康科学研究科|KIO Smile Blog 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 3rd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 変形性関節症に関する世界最大級の国際会議「OARSI 2025」参加レポート!~健康科学研究科瓜谷研究室 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 2nd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 第40回日本栄養治療学会学術集会でYoung Investigator Award 2025を受賞 ~ 健康科学研究科

2025.06.03

6-7歳児における運動イメージの使用は未熟:2つの運動イメージ課題からの証拠~ニューロリハビリテーション研究センター

運動イメージ(motor imagery: MI)とは、実際に身体を動かすことなく、頭の中でその運動を想像する動的な認知プロセスです。MIは「運動の計画と実行に関わる行為表象」とされており、意図形成、運動の計画、運動プログラムの構築という点で、実際の身体運動と機能的に同等であると考えられています。このMIの使用は、成人では十分に発達していることが知られていますが、小児における発達過程は十分に明らかにされていませんでした。畿央大学大学院健康科学研究科の信迫悟志 教授らの研究チームは、6〜13歳の定型発達児を対象に、2種類のMI課題(手の左右識別課題と両手結合課題)を用いて、年齢によるMI能力の発達変化を詳細に検討しました。この研究成果は、Human Movement Science誌(The use of motor imagery in 6–7-year-old children is not robust: Evidence from two motor imagery tasks)に掲載されています。   研究概要 本研究では、6〜13歳の定型発達児50名を対象に、子どもたちがどれだけ正確に手のMIを想起できるかを評価するため、2種類のMI課題を実施しました。1つ目は最も代表的なMI課題である手の左右識別(hand laterality recognition: HLR)課題(図1)で、モニター上に提示されるさまざまな角度・向きの手の画像を見て、それが左手か右手かをMIを用いて判断するものです。この課題では、正答率や正反応時間(RT)に加えて、生体力学的制約(身体の動きにくさ)効果や手の姿勢の効果の有無を指標とし、子どもたちのMIの使用の程度を測定しました。2つ目はニッチなMI課題である両手結合(bimanual coupling: BC)課題(図2)で、次の3条件が含まれます。片手条件:利き手でまっすぐな線を繰り返し描く。両手条件:利き手でまっすぐな線を描きながら、他方の手で同時に円を描く。MI条件:利き手でまっすぐな線を描きながら、非利き手で円を描いているのを頭の中でイメージする(実際には動かさない)。BC課題では、利き手で描いた反復直線を計測し、各条件で描かれた線の歪みの程度を楕円化指数(ovalization index: OI)として算出し、特にMI条件のOIから片手条件のOIを減算した値(イメージ干渉効果: Imagery Coupling Effect: ICE)は、MIが適切に想起できていることの定量指標となります。さらに、微細運動技能も測定し、MIとの関連性も検討しました。     本研究のポイント 6〜7歳児では、どちらの課題においてもMI使用の証拠が明確には見られなかった。 HLR課題では、年齢が上がるにつれてRTの短縮と正答率の向上が認められ、MI能力が発達的に向上することが示された。 一方で、BC課題では、6〜13歳の間でICEに明確な年齢差は見られず、年齢とICEとの間の相関関係も示されなかった。 どちらのMI能力も微細運動技能と有意に関連していた。   研究内容 HLR課題 6〜13歳の子ども50名を対象に、HLR課題とBC課題、および微細運動技能検査を実施しました。得られたデータは、年齢群(6–7歳、8–9歳、10–11歳、12–13歳)間の比較および相関分析を通じて、MIの発達的変化と、MIと微細運動技能との関連を検討するために用いられました。6〜7歳児では、生体力学的制約効果(身体で取りやすい姿勢の手画像でRTが短くなる効果)が見られず、MIの使用が不十分である可能性が示されました(図3)。一方、8歳以上の群では生体力学的制約効果が明確に観察され、年齢に伴ってMI能力が向上することが示されました(図3)。また、正答率やRTにおいても、年齢とともに有意な改善が確認されました(図4)。       BC課題 ICE(片手で線を描きながら他方の手の円描きをイメージすることで線が歪む効果)は、8歳以上では見られたものの、6〜7歳児では観察されませんでした(図5)。ただしICEは、全体的に年齢差が小さく、HLR課題ほど明確な発達的変化は観察されませんでした(図6)。     これらの結果から、子どものMIの発達変化を捉える上で、HLR課題の方がBC課題よりも感度が高い可能性が示唆されました。実際、HLR課題によって測定されたMI指標は、年齢の増加に伴って指数関数的に向上していました。一方でBC課題は、実際の運動遂行に加えて、実行機能やワーキングメモリといった高次認知機能も求められる二重課題です。そのため、年齢とともにMI能力が向上する一方で、運動機能や認知機能の発達により干渉効果が弱まることで、両者がトレードオフの関係となり、結果として年齢による変化が見えにくくなっていた可能性があります。 さらに、微細運動技能とHLR課題におけるRT、およびBC課題のMI条件におけるOIとの間に有意な相関が見られ、MI能力と微細運動技能が関連していることも明らかになりました(図7、図8)。     本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、MI能力が6〜7歳児においてはまだ十分に発達しておらず、年齢とともにその能力が向上することを、2種類のMI課題を用いて明らかにしました。特に、HLR課題は、MIの発達的変化を鋭敏に捉えることができる評価手法であり、MI能力の成熟過程を把握するうえで有用であると考えられます。一方で、BC課題もMIと実際の運動や認知機能との統合的な発達を評価できる手法として有用です。特に、干渉効果の変化は、運動制御や実行機能の成熟を反映する指標となり得ます。MI能力単体の評価にはHLR課題が適していますが、BC課題は、より複合的な認知−運動機能の発達過程を捉えるのに適した課題といえます。 また、MI能力は微細運動技能とも関連していることが示されており、MI評価は運動技能の発達指標としても臨床的意義があることが示唆されました。今後、発達性協調運動障害(DCD)や自閉スペクトラム症(ASD)など、神経発達症の子どもたちに対してMI課題を応用することで、運動障害の特性理解や介入効果の評価、さらにはリハビリテーションや運動学習支援への応用が期待されます。   論文情報 Nobusako S, Tsujimoto T, Sakai A, Yokomoto T, Nagakura Y, Sakagami N, Fukunishi T, Takata E, Mouri H, Osumi M, Nakai A, Morioka S. The use of motor imagery in 6–7-year-old children is not robust: Evidence from two motor imagery tasks Hum Mov Sci. 2025;101: 103362.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

2025.06.03

パーキンソン病患者のベッド動作の自立度低下に関連する要因~ニューロリハビリテーション研究センター

パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)患者は、進行とともにベッド動作(寝返り・起き上がり・寝転がり)の自立度が低下しますが、その関連要因については十分に明らかにされていませんでした。 畿央大学大学院博士後期課程の成田雅氏と岡田洋平教授らは、109名のPD患者を対象に、日中のベッド上動作の自立群/非自立群に分類し、上肢の筋強剛と体軸症状が、すべてのベッド動作の非自立と関連していることを初めて実証しました。また、寝返りの非自立には体幹伸展筋力の低下が関連することも示しました。本研究は、従来明確でなかった各ベッド上動作の自立度低下に関連する要因について包括的に解析し、明らかにした点で新規性があり、ベッド動作の自立度低下を予防、改善するための有効な介入戦略の発展に寄与することが期待されます。この研究成果は、Journal of Movement Disorders誌(Factors associated with the decline ofin daytime bed- mobility independence in patients with Parkinson’s disease: A cross-sectional study)(IF: 2.5)に掲載されています。   本研究のポイント パーキンソン病患者109名を対象に、日中のベッド動作(寝返り・起き上がり・寝転がり)の自立と関連する要因について包括的に検証した結果、上肢の筋強剛と体軸症状が全動作に共通する非自立の要因であることが示されました。 各動作には特異的な要因も存在し、寝返りには体幹伸展筋力が関与し、進行期の起き上がり・寝転がりには認知機能が関与することが示唆されました。 これらの関連要因の理解に基づく介入戦略が、PD患者のベッド動作の自立度低下の予防、改善、介護負担の軽減に寄与することが期待される。 研究概要 パーキンソン病(PD)は、進行に伴ってベッド上での寝返りや起き上がり、寝転がりといった動作が困難になり、自立度が低下していきます。畿央大学大学院の成田雅氏と岡田洋平教授らの研究チームは、日中におけるベッド上動作の自立度に着目し、Hoehn and Yahr stage 2〜4のPD患者109名を対象とした横断的観察研究を実施しました。本研究では、「寝返り」「起き上がり」「寝転がり」の3つの動作について、運動症状(筋強剛、寡動、振戦、体軸症状)、頸部・体幹・股関節筋力、認知機能との関連を包括的に評価しました。 その結果、上肢の筋強剛と体軸症状は、寝返り・起き上がり・寝転がりの全動作に共通して非自立と強く関連する主要因子であることが明らかになりました。さらに寝返りの非自立には体幹伸展筋力の低下も関与していました。Hoehn and Yahr stage 4の患者群に限定した分析では、起き上がりや寝転がりの非自立群において、**Mini-Mental State Examination(簡易認知機能検査)のスコア低値およびTrail Making Test Part A(注意機能検査)**の時間延長がみられ認知機能と注意機能の低下が関連することも示されました。 これらの結果から、上肢の筋強剛や体軸症状に対する介入に加え、個別化した認知機能への支援を含む早期介入が、ベッド動作の自立度維持に寄与する可能性が示唆されました。今後は、これらの関連要因の理解に基づく介入戦略が、PD患者のベッド動作の自立度低下の予防、改善、介護負担の軽減に寄与することが期待されます。   研究内容 本研究は、パーキンソン病(PD)患者における日中のベッド動作の自立度低下に関連する臨床的因子を明らかにすることを目的とした横断的観察研究です。Hoehn and Yahr stage 2〜4のPD患者109名を対象に、寝返り、起き上がり、寝転がりの3つの動作について、左右両方向に3回ずつ実施し、全て自力で完遂できた場合を「自立」、補助(介助やベッド柵利用)を要した場合を「非自立」と判定しました。自立・非自立の判定はビデオ記録に基づき、理学療法士2名が独立に評価し、全例で一致しました。 同時に、運動症状(筋強剛、寡動、振戦、体軸症状)、頸部・体幹・股関節の筋力、認知機能(MMSE、TMT)を評価し、各動作の自立・非自立との関連性を包括的に解析しました。 その結果、すべてのベッド動作において上肢の筋強剛と体軸症状が非自立と有意に関連しており、さらに寝返りでは体幹伸展筋力の低下も関与していることが明らかになりました。     さらに、ロジスティック回帰分析により各動作の非自立を予測する多変量モデルを構築し、寝返り(AUC=0.84)、起き上がり(AUC=0.78)、寝転がり(AUC=0.92)において良好な識別性能が示されました。     また、Hoehn and Yahr stage 4の患者に限定したサブ解析では、起き上がり・寝転がりの非自立群において認知機能が有意に低下しており、Mini-Mental State Examinationスコアの低値およびTrail Making Test Part Aの所要時間延長が、注意・実行機能の低下との関連を示しました。 以上より、PD患者における日中のベッド動作の自立度低下には、上肢の筋強剛や体軸症状に加えて、進行期には注意・認知機能の関与も重要であることが示唆され、今後の有効な介入戦略の構築に向けた科学的基盤となることが期待されます。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、パーキンソン病(PD)患者における日中のベッド上動作の自立度に影響する臨床的因子を、動作ごとに詳細に解析した初の横断的観察研究であり、上肢の姿勢保持および体幹起こしがすべての動作に共通する重要な要因であることを明らかにしました。Hoehn and Yahr stage 4に限定したサブ解析では、起き上がり・寝転がりの両動作においては、認知機能の低下が影響することが示されました。これにより、進行期PDでは姿勢制御機能に加えて認知機能要因が動作自立に大きく影響することが示唆されました。 本研究の臨床的意義としては、患者のベッド上動作の自立の難易度を的確に把握し、動作ごとの課題に基づく介入戦略策定や、自立度低下の予防、改善、介護負担の軽減につなげることが期待されます。 今後は、ベッド上動作の自立に関連する要因を経時的に評価する縦断的調査や、初期・OFF期での動作評価、さらに介入効果の検証にも取り組んでいく予定です。 論文情報 Masaru Narita, Kosuke Sakano, Yuichi Nakashiro, Fumio Moriwaka, Shinsuke Hamada, Yohei Okada Factors associated with the decline in daytime bed mobility independence in patients with Parkinson’s disease: A cross-sectional study Journal of Movement Disorders, 2025   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 成田 雅 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 岡田 洋平 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp

2025.06.03

行為主体感(Sense of Agency)の時間的許容幅は若年成人期に最大となる~ニューロリハビリテーション研究センター

人は自分の行動とその結果を結びつけ、「自分が動かした」「自分が行なった」という感覚――すなわち行為主体感(Sense of Agency: SoA)を日常的に経験しています。このSoAは、実際の動作とその結果の間にどの程度の時間的ズレがあっても「自分の行為の結果」と感じられるかという「時間的許容幅」によって支えられており、この幅が広いほど柔軟で適応的な行動が可能になると考えられます。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授と慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の前田貴記 専任講師らの研究チームは、6歳から83歳までの189名を対象に、このSoAの時間的許容幅が生涯発達の中でどのように変化するかを明らかにしました。その結果、若年成人(20〜25歳)において最も時間的許容幅が広がることが示され、この時期がSoAの発達における重要な転換点である可能性が示唆されました。この研究成果は、Cognitive Development誌(Developmental changes in the time window for the explicit sense of agency experienced across the lifespan)に掲載されています。   本研究のポイント ■若年成人(20〜25歳)では、SoAの時間的許容幅(PSE)が他の年齢群(学齢期児童、青年期、成人、高齢者)よりも有意に長かった。 ■PSEは非線形的な発達パターンを示し、若年成人期にピークを迎える「逆U字型」の軌跡を描くことが示唆された。 ■SoA判断の「明確さ」(傾き)は、高齢者群において若年成人よりも有意に低下しており、加齢に伴う判断精度の低下も確認された。   研究概要 SoAとは「自分がこの行動を起こし、その結果を生んだ」という主観的な感覚を指し、人の自己認識や運動制御において基盤的な役割を果たします。SoAの発生には、行為と結果の時間的・空間的一致や予測とのズレの有無が重要であり、これまでの研究では発達や老化にともなって変化することが示唆されていましたが、SoAの「時間的許容幅(time window)」の生涯発達的な変化を詳細に検討した研究はありませんでした。本研究では、行為と結果の間に導入された時間遅延に対して「自分が動かした」と感じるかどうかを尋ねるエージェンシー判断課題(agency attribution task)を用いて、SoAの時間的許容幅(PSE)を測定し、各年齢群間で比較しました。   研究内容 6歳から83歳までの189名を対象に、SoAの時間的許容幅を測定するためのエージェンシー判断課題(agency attribution task)(図1)を実施しました。この課題では、参加者がビープ音に合わせてボタンを押すと、画面上の四角い図形が一定の遅延時間の後に跳ね上がる視覚刺激が提示され、「自分の操作によって図形が跳ねた」と感じるかを「はい/いいえ」で回答します。遅延時間は0~1000 msまで11段階で設定されており、行為と結果の間に導入された時間的ずれに対する感受性が評価されます。この「自己の行為によって結果が生じた」と感じられる時間の幅(PSE: Point of Subjective Equality)をSoAの時間的許容幅として定量化しました。     その結果、若年成人(20〜25歳)においてPSEが最も長く、他の年齢群と比較して有意に広い時間的許容幅を示したことが明らかになりました(図2)。また年齢とPSEの関係を非線形回帰モデルで解析した結果、SoAの時間的許容幅は加齢に伴って増加したのち再び短縮し、さらに高齢期にかけて再び緩やかに上昇するという逆U字型の発達パターンを描くことが示されました。この結果から、若年成人期がSoAの柔軟性・適応性の発達における転換点である可能性が示唆されました。     本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、SoAの時間的許容幅が発達により変化することを実証的に示した初めての研究であり、特に若年成人期がSoAの柔軟性や適応性の発達において重要な時期である可能性を示しています。この背景には、前頭頭頂ネットワークの神経成熟、自律性の発達、および遂行機能の向上といった要因が関与していると考えられます。今後は、SoAの時間的許容幅と脳の構造的成熟、自律性の発達、実行機能との関係を縦断的に検討し、より包括的な理解を深めていくことが期待されます。また、SoAの障害がみられる発達障害や高齢期の認知症などにおける早期発見・介入指標としての応用可能性も視野に入れた研究展開が望まれます。   論文情報 Nobusako S, Takamura Y, Koge K, Osumi M, Maeda T, Morioka S. Developmental changes in the time window for the explicit sense of agency experienced across the lifespan. Cognitive Development. 2024 October–December 72, 101503.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

2025.05.30

2025年度「へき地医療体験実習」実践報告会を開催しました! ~ 看護医療学科

本学独自の実習である「へき地医療体験実習」は、交通や医療などの利便性が十分でない地における住民の生活フィールドに学生が赴き、地域住民の生活に直接触れ、医療(看護)・保健・福祉の実際を理解し、住民の生活と健康観や価値観・健康との関連を考え、住民の生活基盤に立った看護のあり方など看護の本質を考えることを目的としています。 今年度の実習地域は、奈良県の山添村、川上村、宇陀市大宇陀地区、五條市大塔地区の計4地域でした。   ▶▶ 今年度のへき地医療体験実習の様子はこちら 「2025年度 へき地医療体験実習 実践報告会」を開催 2025年5月21日(水)に畿央大学冬木記念ホールにて、「2025年度 へき地医療体験実習 実践報告会」を開催しました。     4月初旬から始まった学内実習での準備期間中、学生たちは他の授業を並行しながら、自分たちで目標や行動計画を立て、地域の医療状況や生活環境を事前に調べ、インタビュー内容の作成や家庭訪問の計画立案、測定会に必要な問診票や結果説明に使用するパンフレットを作成するなど、忙しい毎日を過ごしました。     そして、5月13日(火)~15日(木)に現地で実習を行い、診療所やこども園や学校、社会福祉協議会や保健センターなどの保健福祉機関、住民の働く場、集いの場などを訪問し、支援者や住民の方に支援の実際についてのお話を聞かせていただきました。     地区踏査では地域の環境を観察したり、出会った住民の方のお話から、へき地で暮らす人々の生活の実際を把握し、そこから健康課題を導き出し、健康ニーズに沿ったケアの提供について考えることができました。 また、住民の方への骨密度測定や健康チェックなどの実施を通して、得られたデータからと健康と生活、環境との関連を考察することができました。     山間部であることの生活環境からの健康課題が挙げられましたが、不便さはあっても、豊かな自然と地域の住民同士のつながりや絆などの強みを見つけることができており、「ここで生活し続けたい」という希望を叶えるための看護の在り方について考える貴重な機会となったと信じています。       今回、3回生も先輩である4回生の発表を聞きました。住民の方も毎年学生が実習に来ることを楽しみにしておられます。ぜひ3回生にも来年は今年の発表を踏まえた実習をしてもらいたいと思います。   今回の実習に際し、ご理解ご協力いただきました各地域の関係者の皆様、明日香村の武田先生に感謝いたします。ありがとうございました。   看護医療学科 教授 文 鐘聲        准教授 室谷 牧子        講師 松川 真葵        助教 古井 あゆみ        助手 田中 三代 関連記事 ▼▼ 2025年度看護医療学科「へき地医療体験実習」について ▼▼ 2025年度看護医療学科「へき地医療体験実習」がスタートしました! 2025年度へき地医療体験実習レポート(山添村)~看護医療学科 2025年度へき地医療体験実習レポート(川上村)~ 看護医療学科   ▼▼ 看護医療学科についての関連記事 ▼▼ 認知症マフづくり&交流会を開催しました!~ 看護医療学科「認知症ケア論」 1回生集中講義「認知症ケア論」が開講しました!~看護医療学科 国際看護Ⅰの授業で「海外インターンシップ」発表 ~ 看護医療学科

2025.05.30

人間環境デザイン学科 明日香村国際ワークショップ2025 vol.5~ 成果発表会の日を迎えました!

人間環境デザイン学科では2年次前期配当「フィールドワーク演習」の一環として、2025年5月14日(水)から18日(日)まで、『明日香村国際ワークショップ2025(International Workshop in Asuka 2025)』を開催しました。 ワークショップの活動目的は、畿央大学と台湾の大学生が明日香村での交流活動を通して、旧集落における地域課題の発見と解決方法の模索・提案を行うことです。明日香村の地域活性化へつながることを期待しています。   活動内容は以下の3つです。 岡地区の賑わいづくり(岡の町並み景観に調和する屋台の提案と模型の発表) 岡つどいの館の活用(「岡みんなの格子縁側」の組み立てと設置) 岡地区における行灯の製作と設置 ワークショップ4日目   いよいよ最終日の成果発表会を迎えました。成果発表会では、屋台の提案発表、縁台と行灯のお披露目として、現地設置を行いました。明日香村の森川村長をはじめ、明日香村役場総合政策課のみなさん、そして、明日香村岡地区の住民のみなさんが成果発表会に参加してくださいました。     屋台の提案発表 発表時はとても緊張した面持ちでしたが、村長や住民のみなさま、教員からの質問に堂々と答える姿はとても頼もしかったです。どの班もたった2日間の作業内容とは思えない立派な提案でした。 A班「水のまにまに」     B班「畳屋台」     C班「石溝椅」     D班「水の記憶が地域の場所を照らす」       審査の結果、D班「水の記憶が地域の場所を照らす」の提案が最優秀賞に輝きました。学生の言葉を紹介します。   ~ 提案内容 ~ ワークショップの舞台である明日香村は、かつて地域の暮らしにとって大切な存在だった古い水路が存在していました。しかし、その水路は時代の流れとともに姿を消しました。   そこで私たちは、古い水路の歴史的な痕跡を取り入れ、水路の流れをイメージさせる空間を提案しました。ここでは物販だけでなく、住民や観光客が立ち寄り、交流を楽しむことができます。また、明日香村の岡地区では「光の巡礼」というイベントが開催されています。岡寺での夜のライトアップが人気のイベントです。   提案した屋台では、この光の巡礼で紙灯篭を作ったり、願い事を書いた後、それを水路に浮かべることができます。そうすることで、流れにのせて町を彩る空間の実現が可能となります。そして、流した紙灯篭は最終的に屋台の照明や飾りつけにすることも可能です。   ~ 授賞の言葉 ~ ワークショップに初めて参加し、海外の人たちとうまくコミュニケーションができるのかと緊張していました。しかし、台湾の方々は言語の違いを忘れるほどに親しみを持って接してくれました。私自身も言語の違いを忘れるほどでした。台湾から来たみなさんは日本の文化に興味関心があり、私も多くのことを学びました。最優秀賞を受賞できたのは、一人ひとりが自分のできることに全力で取り組んでいたからだと確信しています。畿央大学のメンバーも台湾のメンバーが一つのチームとして団結したことで得られた賞であり、もし一人でも欠けていたら達成できなかったと思います。このチームで班長になれてとても光栄だと思えるワークショップでした。   D班班長 人間環境デザイン学科 3回生 松井 司     縁台の設置 制作した縁台は、明日香村岡地区にある「岡つどいの館」の横、岡寺参道の入口付近に設置させていただきました。設置に際し、ご協力いただきました岡地区自治会のみなさまに感謝申し上げます。   ~ 代表学生の言葉 ~ 設置場所の正面にあるバス停でバスを待つ人々が、傍に置いてあるベンチをよく利用しているのを見て、新しい居場所作りを試みました。縁台の掲示板は格子状にデザインし、町との調和を目指しました。ベンチは掲示板の構造を補強するように設計されています。屋根は、掲示物を雨や日差しから守る役割を果たしています。   工夫した点は、掲示板の格子の設計です。つどいの館の格子に習って、それに調和する形で設計しています。また、掲示物はどのサイズのポスターでも掲示できるように計算して設計しました。難しかった点は、設置場所の狭さと通行の邪魔にならないように考慮して設計すること、町なみに調和するかを考えることです。   今後は、掲示物を通じて住民同士の交流や、観光客の休憩スペースなど、様々な利用がされることを期待しています。   縁台制作チーム 代表 3回生 櫻井 祐美香、塚崎 陽菜                 行灯の設置 制作した行灯は、岡つどいの館前、ギャラリー辻市前、民家計4件の軒下の計6カ所に設置させていただきました。設置に際し、ご協力いただきました住民のみなさまに感謝申し上げます。   ~ 代表学生の言葉 ~ まず初めに、成功大学から送られた図面を基に試作品を作りました。立体表現Ⅱで学んだ知識を活かし、木材の加工や組み立てに挑戦しました。木材の接合や、布の取り付け、灯りの付け方など、先生からのアドバイスを参考にしながら、一生懸命に検討しました。相欠きやダボ穴など、少しのズレに注意しながら木材を切るのが難しく、1つの行灯を作るのに時間がかかりましたが、皆で協力し合いながら進めることが出来ました。   台湾の学生さんとの交流は初めてで緊張しましたが、たくさんコミュニケーションをとりながら、より良い行灯を作るために試行錯誤を重ねました。3日目には次々と行灯が完成し、全て素晴らしい作品になりました。実際に住民の方に行灯を渡す際には、驚きと喜びの声を頂き、達成感に溢れました。このようなものづくりを通した交流は、非常に良い経験となり、楽しい時間を過ごしました。この経験を今後に活かしていきたいと思います。 行灯制作チーム 代表 人間環境デザイン学科 2回生 辰己 愛梨                       明日香村は、橿原市、桜井市とともに「飛鳥・藤原の宮都」として世界文化遺産の国内推薦候補に選定されています。このワークショップの対象地である岡地区は、まさに中心地です。森川村長からは、「令和8年の世界遺産登録に向け、有意義な提案をしてくれました。」とのお言葉をいただきました。ワークショップの開催と成功に向けて、多方面でご協力いただきました森川村長をはじめ、熊丸副村長、明日香村役場総合政策課の藤裏様、辻本様に心よりお礼申し上げます。   そして、学生たちの学びのフィールドとして明日香村岡という大変貴重な地を提供してくださった岡地区自治会のみなさまに感謝いたします。地域住民のみなさまには、ワークショップの開催を歓迎していただき、サポートいただいたことに、重ねてお礼申し上げます。   このワークショップでの成果が、岡地区の更なる賑わいづくりや地域のみなさまにとってより良い生活の一助となることを願っています。       人間環境デザイン学科 助教 小松 智菜美 関連記事 人間環境デザイン学科 明日香村国際ワークショップ2025 vol.1~事前準備編「岡みんなの格子縁側」の設計と加工 人間環境デザイン学科 明日香村国際ワークショップ2025 vol.2~事前準備とワークショップ初日 人間環境デザイン学科 明日香村国際ワークショップ2025 vol.3~ ワークショップ2日目の様子 人間環境デザイン学科 明日香村国際ワークショップ2025 vol.4~ 完成に向けて試行錯誤取り組んでいます!          

2025.05.30

人間環境デザイン学科 明日香村国際ワークショップ2025 vol.6~ 奈良まち歩きと送別会を開催!

人間環境デザイン学科では2年次前期配当「フィールドワーク演習」の一環として、2025年5月14日(水)から18日(日)まで、『明日香村国際ワークショップ2025(International Workshop in Asuka 2025)』を開催しました。 ワークショップの活動目的は、畿央大学と台湾の大学生が明日香村での交流活動を通して、旧集落における地域課題の発見と解決方法の模索・提案を行うことです。明日香村の地域活性化へつながることを期待しています。 ワークショップ5日目 ワークショップ最終日です。この日のプログラムは、奈良市内のまち歩きと送別会の開催です。 まち歩きの様子 まち歩きでは、畿央大学の学生が台湾の学生を案内しました。東大寺や二月堂といった観光名所はもちろん、アニメショップやゲームセンター、カフェ巡りなど、日本のサブカルチャーも堪能してもらうべく、畿央大学の学生がまち歩きをコーディネートしました。               送別会を開催しました! いよいよお別れの時が近づいてきました。ホテル日航奈良で開催された送別会では、参加者全員で過ごす最後の時間を楽しみました。送別会は、畿央大学の参加学生が主体となり企画進行しました。5日間のたくさんの思い出が詰まった動画を作成し、感謝を込めたお手紙やプレゼントを送り合いました。                     畿央大学の学生が、ワークショップに参加するだけでなく、仲間を想う気持ちが精一杯のおもてなしに繋がり行動に移すことができたのは、昨年秋の台湾ワークショップで私たちを歓迎してくださった成功大学のみなさんのおかげです。畿央大学の学生から、「お返しがしたい」「私たちもこのワークショップをコーディネートしたい」という声があり、それが実行できたことも、学生のみなさんの成長につながったことでしょう。 学生代表の言葉をご紹介 5日間のワークショップで、成功大学、高雄大学の学生と縁台、行灯の制作、屋台の提案、まち歩きなど様々な方法で交流を深めました。制作の際には、畿央大学の学生が台湾の学生に部材の組み立て方を教え、日本らしさを感じさせる明日香の町並みに合った縁台や、行灯を制作することができました。また、屋台の提案では、台湾と日本それぞれの考えが交わり、斬新な提案を行うことができました。   今回のワークショップには、2回目以上の参加者が多く、半年ぶり、1年以上ぶりの再会を喜び合い、初日からお土産や手紙を交換するなど、学生同士の交流が積極的にできていたのがとても印象的でした。また、初参加の学生も、同じチームの仲間や友達に引っ張られながら、緊張しつつもコミュニケーションを取ろうとする姿が見受けられました。作業最終日には、各チームが台湾の学生を食事に招待し、日本らしいおもてなしをすることができました。ワークショップ最終日には、奈良市内の観光地を巡り、たくさんの会話を交わしました。送別会では、お互いに手紙やプレゼントを交換し、5日間共に過ごした仲間との別れを惜しんでたくさんの写真を撮りました。   ワークショップを通して、参加した学生全員が一回りも二回りも成長できました。初参加の学生からは「不安だったけど参加してよかった」という声が、2度目の参加者からは「次のワークショップも参加する」と前向きな言葉が多く聞かれました。今回のワークショップで得られた経験や仲間と共に、これからさらに成長していきたいです!   参加学生代表 人間環境デザイン学科 3回生 山本 花梨         冬木学長からのお言葉 冬木学長からは、「動画を見て、ワークショップの成功と充実した時間を過ごしてきたことが良く伝わりました。みなさん一人一人のアイディアと力、発想が存分に発揮されたことが伺え、とても嬉しいです。ワークショップで経験した頭と身体の素晴らしい体験が、これからも続いていくことを期待しています。ワークショップの成功おめでとう!」とのお言葉をいただきました。   東学科長からのお言葉 東学科長は、「台湾のトップレベルの大学である国立成功大学と国立高雄大学が奈良の地にお越しいただいたことを、ホスト校として非常に嬉しく思います。この関係がいつまでも続くように、学生のみなさんが学ぶ環境を整えていきます。」と、今後の交流に対する期待を表明されました。   さらに、学生に向けて、「このワークショップを通して、成長したな、参加して良かったなと思う人は大きな拍手を。」というメッセージに対し、3大学の学生から大きな拍手が響き渡りました。     それぞれの大学で学び、このワークショップに参加していなければ出会うことのなかった仲間を大切に想う気持ちが、このワークショップの成功に繋がりました。共に考え、悩み、喜び、思い出を作ってくださった成功大学、高雄大学の学生さんに感謝いたします。   一昨年より継続して参加してくれた学生さんにとって、4回目のワークショップである今回が最後のワークショップとなりました。みなさんと貴重な学びの時間を共に過ごせたことを大変うれしく思います。     そして、本ワークショップを共に遂行してくださいました、国立高雄大学の陳啓仁先生、陳怡兆先生、陳逸先生、梁凱翔先生、蔡寧先生、国立成功大学の張珩先生、楊詩弘先生にお礼申し上げます。今回のワークショップでは、事前学習として各大学での作業が多い中、学生たちに親身にご指導いただきました。また、ワークショップ期間においても学生への温かいサポートをいただきましたこと、心よりお礼申し上げます。   学生のみなさんにとって、このワークショップでの経験と出会いが今後の活力になりますように。離れた地で頑張る仲間を想い合い、これからも頑張ってください。     人間環境デザイン学科 助教 小松 智菜美 関連記事 人間環境デザイン学科 明日香村国際ワークショップ2025 vol.1~事前準備編「岡みんなの格子縁側」の設計と加工 人間環境デザイン学科 明日香村国際ワークショップ2025 vol.2~事前準備とワークショップ初日 人間環境デザイン学科 明日香村国際ワークショップ2025 vol.3~ ワークショップ2日目の様子 人間環境デザイン学科 明日香村国際ワークショップ2025 vol.4~ 完成に向けて試行錯誤取り組んでいます! 人間環境デザイン学科 明日香村国際ワークショップ2025 vol.5~ 成果発表会の日を迎えました!

2025.05.30

認知症マフづくり&交流会を開催しました!~ 看護医療学科「認知症ケア論」

この度、看護医療学科の室谷准教授が、日本認知症ケア学会2025年度地域活動支援事業に応募し採択され、看護医療学科の学生有志と認知症ケア論履修者に対する認知症教育活動の充実を目的とする活動に取り組むことになりました。 第1回目(5月20日)の活動として、認知症の人にやさしい「認知症マフ」(認知症の人たちの不安や不快感を軽減し、心身の緊張を解きほぐすために、カラフルなニット素材等にさまざまな飾りを縫い付けた筒状の小物)づくりと交流会を開催し、認知症ケア論の履修者12名と地域関係機関職員様、入居施設の利用者様、ボランティア様13名、教員3名の計28名が楽しく集いました。     緊張して始まった交流会でしたが、自己紹介で呼んでもらいたい名前を紹介していくと、いつの間にかみんなが和んでいきました。色鮮やかな好きな毛糸を手にとり、編み物が得意な住民の方や学生から真剣に編み方を教えて頂く姿が見られました。編針を持つと手が覚えていると編み物を始める高齢者の方もいらっしゃって、気が付けば皆さんが夢中になっていました。         地域の専門職の方からは、高齢者の方が得意なことを教えたり、披露したりすることや、大学生と交流しながらできるのがいい機会になるとお声を頂きました。   この交流会を通して感じたことは、地域のご高齢の方々は、得意なことがたくさんあるはずです。しかし、実際に披露をしたり、教えたりする機会が少ないのではと感じました。また、学生は地域の方や専門職の方とひとつのものを作りあげるという場面で、自然に交流ができる貴重な機会になったと感じました。     今回は、認知症マフを完成までは至りませんでした。しかし、誰かのために何かができるきっかけづくりになったと思います。この講義を受講する学生たちは、地域で行っている認知症カフェやイベントに参加するきっかけもできました。学生は専門職の方がどのような活動をしているかを知る機会になり、また地域の方々にとっては大学生を身近に感じて頂く機会になったのではと思います。学生の力は無限大で面白いと実感できる交流会でした。これからも色々なことに挑戦していく皆さんの姿を見ていけるのが、とても楽しみです。いつかこの認知症マフを高齢者施設や病院にお届けできればいいなと考えております。   ご協力頂きました皆さん、本当にありがとうございました。     看護医療学科 助教 伊藤 千春 関連記事 1回生集中講義「認知症ケア論」が開講しました!~看護医療学科 2025年度へき地医療体験実習レポート(川上村)~ 看護医療学科 2025年度へき地医療体験実習レポート(山添村)~ 看護医療学科 国際看護Ⅰの授業で「海外インターンシップ」発表 ~ 看護医療学科  

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