2025年のすべての新着情報一覧
2025.06.11
中国の理学療法、リハビリテーション事情について~理学療法学科 第15回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」
最前線で活躍する卒業生が講演! 第15回テーマは「中国の理学療法、リハビリテーション事情について」 理学療法学科では一昨年度から「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」を開催しています。 リーダーシップをもった次世代の理学療法士育成を目的にし、臨床現場はもちろん、スポーツ現場や地域リハ、教育機関など幅広い分野の第一線で活躍する卒業生がその魅力や想いを後輩のためだけに語ります。在学生にとっては入学後早期から職業理解を深め、自らのキャリアを考えることやモチベーション向上へとつなげる絶好の機会になります。 他大学に先駆けて理学療法学科を開設した畿央大学にしかできない先進的な取り組みです。 2025年4月11日(金)今年度最初となる第15回は諸橋直紀さん(9期生/台州市直紀健康管理有限会社)を講師に迎え、「中国の理学療法」をテーマに講演いただきました。諸橋さんは理学療法学科を卒業後、急性期病院で理学療法士として勤務。その後中国に渡り、自費リハビリのサービスを開業しました。 諸橋さんからは、理学療法士について日本と中国を比較した説明、海外挑戦したことのご経験を説明いただきました。 様々な数字を基に説明をしていただきましたが、会場をくまなく動き会話のキャッチボールをしながら進めていただくところがとても印象的でした。 入学間もない1回生にとってはわからないことばかりだったかと思いますが、自分なりに考えを伝える姿が見受けられました、在学生にとっても日本だけで海外にも目を向ける機会になったのではないでしょうか? 全体の質疑応答だけでなく終了後に質問に来た学生とも話す様子が見られて、後輩の質問に対して真摯に向き合っていただきました。諸橋さん講演いただきありがとうございました。 諸橋さんから後輩の皆さんへのメッセージ 次世代リーダー育成セミナーにご参加いただきありがとうございました。 今回は中国でリハビリを提供して9年、その9年のうち中国で起業して4年という時間に「学んだこと、失敗したこと」をみなさんと共有させていただきました。なぜなら失敗からしか人は本当に学ぶことはできないと実感していたからです。 最初から最後までお伝えしたことですが、多くの失敗を得ても立ち向かえる人と立ち向かえない人とのは違いは困難の捉え方です。問題はいつも両側面で良いことと悪いことは表裏一体です。なので一喜一憂することはありません。長所は短所であって、短所は長所です。それをいつも忘れずに自分自身のことも患者さんのことも見えると、それは強い武器になります。 そのほか、なぜ自分が今のこの道に進んだのかを理学療法士の厳しい現状を踏まえてお話させていただきました。今回のセミナーでは理学療法士は素敵な職業だという話はなく、そもそも理学療法士になるということに疑問を持ったり、病院や地域で働くということに疑問を持ったり、学生さんが各々自分で「なぜそう考えるのか?なぜそうするのか?」と問いかけることをしてほしくお伝えしました。 私自身も大学生の時は理学療法士になることに疑問を持ち、長期実習の途中まで理学療法士にならないことを考えていた学生です。それでも結果的には理学療法士をめざすようになったのは自分が患者さんをよくできず指導者の先生は簡単に患者さんをよくしてしまう、そんな涙するほど悔しい気持ちを味わったし、患者さんをよくできず患者さんに涙させてしまった申し訳なさもあったからです。これは10年以上も理学療法士をやっててもいまだに鮮明に覚えている光景です。それくらい強烈な体験でした。私はあまりこういう表現は好きではありませんが、理学療法士は確かに多くの人の人生の一部に関われる良い職業です。 理学療法士をめざす学生としてどうすればいいか、悩んでいる人がセミナー後にみなさんのコメントを拝見してたくさんいらっしゃることがわかりました。セミナーでも言いましたが、少なくとも3年頑張って堪えてついていってください。3年続けて何も変わらなければやめてもいい。辛くても3年!です。そうすれば3年後には意外にも笑って話せる出来事かもしれません。辛いと思える環境にいることはすごく良いことです。自分が成長できている環境で、それに打ち勝とうとしているから辛いんです。ぜひその環境を諦めずに頑張ってほしいと思います。 最後にこれは私の座右の銘でもありますが、再度みなさんと共有します。成功すれば金が儲かる、失敗すれば経験が儲かる、何もせんかったら大損や!私は失敗が多いのでたくさんの経験が儲かり、その経験を使ってセミナーをしましたし、その経験を使って会社を安定させました。その経験があるからどんな失敗もどんな未来もそれほど怖いものではありません。むしろ何もせず、どんどん後退していくことの方が恐怖です。ぜひ、みなさんにも小さな一歩でいいから踏み出してほしいと思います(授業で1番前に座ってみるということだけでもいいんです)。 それでは、みなさんにとって有意義な未来を作るのは今一瞬そして今一瞬と刻々と過ぎる時間をどう過ごすかだけです。それではみなさんにとって辛くも楽しい素敵な大学4年間となりますように、心より応援しております。 【関連リンク】 理学療法学科 理学療法士としての目覚め~理学療法学科 第10回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」 生活期リハビリテーションにおける理学療法士の役割と働き方~理学療法学科 第9回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」 回復期リハビリテ−ション病棟で勤務する理学療法士の魅力~理学療法学科 第8回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」 急性期病院で勤務する理学療法士の魅力~理学療法学科 第7回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」 「臨床・教育・研究」が揃ったスポーツ理学療法士の魅力~理学療法学科 第5回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」 女性理学療法士が活躍できる場所~理学療法学科 第4回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」 卒業生に学ぶチーム医療のリアル~理学療法学科 第3回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」 大学病院で働くということ~理学療法学科 第2回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」を開催 第1回「やさしさをチカラに変える次世代リーダー育成セミナー」を開催!~理学療法学科
2025.06.11
産婦人科医に学ぶ超音波診断法「助産診断技術学Ⅰ」~ 助産学専攻科
令和7年5月26日(月)に「助産診断技術学Ⅰ(妊娠期診断とケア)」の授業で、産婦人科医師である、健康科学部長の植田政嗣先生から、超音波診断法の理論と実際について教えていただきました。 初めの講義では、授業資料とビデオ教材を用いて、超音波検査の仕組みや、所見からわかる胎児の状態について学びました。 次に、超音波診断装置を使い、装置の使い方やプローブの持ち方、児頭大横径(BPD)・腹囲(AC)・大腿骨長(FL)の測定方法、そして、推定児体重(EFW)と妊娠週数の算出方法を実演しながら教えていただきました。 実際に学生が一人ずつ超音波診断の練習を行いました。植田先生からプローブの持ち方や扱い方について一人ずつ丁寧にご指導いただくことで、10人全員が測定することができました。また、理論だけでは理解しにくかった測定の手技やプローブの持ち方を具体的にイメージでき、非常に実践的な学びとなりました。 測定している学生の様子を全員で見ながら、互いにアドバイスを出し合うことができました。うまく測定できたときは全員で喜び、和やかな雰囲気の中で楽しく学ぶことができました。 超音波検査は、赤ちゃんが成長していく様子を実際に見ることのできる大切な検査です。また、お母さんにとっては、赤ちゃんの存在をより実感し、成長を身近に感じられる大切な時間でもあります。 エコー画像を通して、赤ちゃんの頭や手の位置などをわかりやすく説明することで、お母さんの安心感にもつながり、赤ちゃんとのつながりをより深めることができると感じました。 助産師として、お母さんに安心してもらえる声掛けや、負担のかからない関わりができるよう、これからも知識と技術の向上に日々努めていきたいです! 助産学専攻科 14期生 前迫 もえ 関連記事 児童養護施設「飛鳥学院」を見学! ~助産学専攻科 令和7年度近畿地区助産学生交流会に参加しました!~助産学専攻科 ベビーマッサージとマタニティヨガの講義を受講しました! ~助産学専攻科~| 日本産婦人科医会性教育指導セミナー全国大会に参加しました!~助産学専攻科 2024年度 新生児蘇生法(NCPR)Aコース講習会を受講!~助産学専攻科 学生主体で「マタニティクラス」を開催!~助産学専攻科
2025.06.10
【ピザを共同開発】6/14,15イオン「大和郡山フェア」にて「大和丸なす」を主役にしたピッツァ4大学対抗でのPR販売を実施。
「ピザ=洋風」という固定観念をくつがえす、 3つのこだわりがつまった和風の新感覚ピザを共同開発 イオン大和郡山店「大和郡山フェア」で販売! 奈良県内の管理栄養士養成課程(畿央大学・近畿大学・帝塚山大学・奈良女子大学)の学生で構成された食育ボランティアサークル「ヘルスチーム菜良(なら)」は、大和の伝統野菜「大和丸なす」を主役にしたピッツァを大和郡山市活性化検討会の依頼のもと、イオンリテール株式会社と共同開発。 「4大学対抗ピザバトル」と銘打ち、イオン大和郡山店「大和郡山フェア」期間中の6月14日(土)・15日(日)に各大学の学生が店頭に立ち、優勝をかけて自分たちが開発したピザをPR販売します。また4大学対抗ピザバトル終了後、6月16日(月)より2週間アドバイザーであるサンプーペー様でも販売いたします。 ↓クリックすると、各コンテンツに移動します。 イベント情報 4大学対抗ピザバトルについて 本学開発メニュー イベント情報(4大学対抗ピザバトル) 日時 2025年6月14日(土)・15日(日) ・プレゼン:6月14日(土)16:00~ ・表彰式:6月15日(日)17:00~ 場所 イオン大和郡山店(大和郡山市下三橋町741) イベント情報(サンプーペーでの販売) 日時 2025年6月16日(月)~30日(月)※なくなり次第終了 場所 石窯焼きピッツェリア「サンプーペー」(大和郡山市北大工町12) 4大学対抗ピザバトルについて 大和郡山市三橋地区で戦後まもなくから栽培されている大和の伝統野菜「大和丸なす」は、東京、大阪、京都の料亭などでも用いられる高級食材として好評を得ていますが、地元奈良では販売機会が少なく、知名度アップが課題となっています。また、大和郡山市では地産地消促進計画に基づき、地産地消の推進を、奈良県では特定農業振興ゾーンとして「大和丸なす」の生産地である大和郡山市三橋地区が設定され「新たなレシピ開発による個人消費(大和丸なすファン)の拡大」を目指して取り組んでいます。 本企画は、2017年度から、イオンモール大和郡山で開催される大和郡山フェアにおいて、「大和丸なす」のPRと大和郡山産野菜の摂取量増加をめざし、大和の伝統野菜「大和丸なす」や大和郡山市産野菜を使用したピッツァ開発に取り組んでおり、今回で8回目となります(2020年度はコロナ禍で中止)。4大学対抗ピザバトルでは、独創的かつ個性的、また食育における地産地消をいかに考慮されているかとして、 ①彩り・見た目(SNS映え)の「見栄え」、②新しいアイディア・斬新さ・ネーミングの工夫等の「独創性」、③大和丸なすの素材の良さを生かしているかの「大和丸なす」、④実食による味覚評価の「食味」、⑤ピザのPRの「プレゼン」、⑥「販促物」、の6点について、審査委員が試食等を行った上で採点を行い、優勝ピザを決定いたします。(昨年度の優勝は帝塚山大学) 畿央大学ヘルスチーム菜良考案メニュー 「梅しそ薫る大和丸なすとじゅわっとハラスのピッツァ」 本ピザのコンセプトは「ピザ=洋風」という固定観念をくつがえす、3つのこだわりがつまった和風の新感覚ピザです。優しい梅の甘味と酸味のバランスにこだわった「梅しそソース」、ごろっと揚げることで存在感と美味しさにこだわった「大和丸なす」、脂のうま味で食べ応えとコクにこだわった「ハラス」、この3つのこだわりで和の食材を活かしながら、ピザとしての満足感も大事にしました。「大和丸なす」を初めて食べる学生も多く、その大きさとしっかりとした食感、美味しさに驚いています。このピザは4大学対抗ピザバトル後の6月16日(月)より商品開発のご指導をいただいた石窯焼きピッツェリアサンプーペーでも販売されます。お店で作るイオンでの販売とはまた異なるバージョンのピッツァをお楽しみください。 ポスター レシピ 問い合わせ先 畿央大学 健康科学部 健康栄養学科 野原 潤子 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: j.nohara@kio.ac.jp
2025.06.10
大阪・関西万博【ウーマンズ パビリオン】で、「女性が輝く近未来社会とテクノロジー」をテーマにシンポジウムを開催しました。
大阪・関西万博でシンポジウムを開催! 「女性が輝く近未来社会とテクノロジー」 2025年6月3日(火)大阪・関西万博のカルティエ館 ウーマンズ パビリオン「WAスペース」で、冬木 正紀准教授とマッスル株式会社の北島 知子氏が、大学で開発した人工筋肉や出産・授乳を支援するものなど、未来の暮らしを良くするテクノロジーを紹介しました。 あいにくの雨天にもかかわらず、11:30~と13:30~の2回とも60席が満席となり、スタッフを含め国内外から150名以上の参加者に来場いただきました。 世界中で女性の活躍の場が拡大・多様化するなか、出産や授乳など女性特有の事象をサポートするテクノロジーや取組みは、女性の活躍をさらに促進できるものと考えられています。 畿央大学では、人工筋肉・人工知能等を用いて、女性の活躍を様々な場面でサポートするためのテクノロジーの研究開発に取り組んでいます。冬木准教授の講演では、『女性が輝くテクノロジーと取組』をテーマに、畿央大学で地域に根差した実践活動として開催している「マタニティクラス」や「ベビークラス」、大学院で開発された「エンジェルリング(母乳を出やすくする乳房マッサージマシン)」や「安産促進イス」など、母子保健向上のためのフィランソロピー等について紹介しました。 一方、招待講演者の北島知子さんは、マッスル株式会社の社長付で活躍されている女性です。『女性が輝く今と未来』をテーマに、介護現場での移乗支援ロボット(SASUKE)や機敏さとゆっくりが共存できるロボットなど、マッスル株式会社の事業を活かした現代人の暮らしに役立つ高度な技術力をご紹介いただきました。 最後に、講演者参加者全員で、これからの社会において求められるテクノロジーや取組み、社会の在り方について意見交換をしました。そして、実際に来場者の皆さんに椅子や人工筋肉を体験していただきました。 ▼ 世界初、愛されるために生まれてきたLOVOT(ラボット)も会場へ。学生が命名した「きおまる」は、畿央大学の構内で学生・教職員が自由に交流可能です。 畿央大学は、2026年4月に健康イノベーション学科※ を新たに開設予定です。人生100年時代を見据え、健康ニーズを把握し、そのニーズを満たすテクノロジーを生み出し、それをビジネスとして社会に届けるために、さまざまなヘルステック・ヘルスケア業界と連携していく予定です。世界的な技術を持ったマッスル株式会社とも連携し、新たな健康テクノロジーの創出をめざしていきます。 ※ 設置認可申請中。設置計画は予定であり、内容を変更することがあります。 関連リンク 畿央大学健康イノベーション学科 畿央大学健康工学部(仮称)2026年4月開設予定 日本初の「健康工学部※」開設に向け ”LOVOT”が畿央大学へ! | 畿央大学
2025.06.09
第23回畿央祭実行委員Blogvol.4~学長先生へご挨拶に伺いました!
2025年6月2日(月)に、第23回畿央祭開催に先立って、統括(実行委員長・副実行委員長)が学長先生のもとへご挨拶に伺いました。 実行委員長より、テーマである「緒〜いとぐち〜」に込めた想い、ポスターに描いた想いを伝え、統括から開催に向けての意気込みをお伝えさせていただきました。 ご挨拶の中では、学長先生が藤の花についてお話してくださり、「決まった形にとらわれすぎず、あなたたちらしくやっていってくださいね」と温かいお言葉をいただきました。 また、学長先生から「それぞれの部署ではどんなことに取り組んでいるの?」とご質問をいただき、各部署の統括が順番に、現在の課題やその解決に向けた取り組み、意気込みをお話ししました。 なかなかこのような機会はないのでとても緊張していましたが、学長先生が気さくに話しかけてくださり、激励のお言葉をいただけたことで、畿央祭に対する気持ちが統括一同、より一層高まる機会となりました。 第23回畿央祭は2025年10月25日(土)、26日(日)の2日間開催です!✨ 昨年度より多くの方が来場してくださることを幹部一同楽しみにお待ちしております!畿央祭実行委員が畿央祭に向けて準備を進めていきますので、応援よろしくお願いいたします! 畿央祭副実行委員長 統括学内企画部署 阪口 真美 ▶畿央祭実行委員会に関連するブログ記事はこちら
2025.06.06
人工膝関節置換術術後患者における術後QOLに関連する複合的因子を調査~運動器リハビリテーション学分野 瓜谷研究室~
近年、人工膝関節置換術術後患者の術後Quality of Life(QOL)に関連する術前要因として性別、Body Mass Index(BMI)、学歴、膝関節の痛み、合併症の数、心理社会的問題が報告されています。また、システマティックレビューでは女性、合併症が少ない事、高いBMIが人工膝関節置換術術後QOL低下の要因として挙げられていますが、術後QOLへの影響度は弱いことが報告されています。関連が弱い要因でも組み合わさることで、術後QOLへの影響が変化する可能性が考えられますが、これらの関係については十分に明らかになっていませんでした。 畿央大学大学院客員研究員の山藤滉己氏、山野宏章氏(宝塚医療大学)、重藤隼人氏(京都橘大学)、鳥澤幸太郎氏(山内ホスピタル)、高﨑博司氏(埼玉県立大学)、瓜谷大輔教授らは、アメリカの変形性膝関節症データベース(Osteoarthritis Initiative;OAI)を用いて、人工膝関節置換術術後患者を対象に術後QOLに関する研究を行いました。その結果、単独で術後QOLに影響を与える弱い術前因子は、他の関連因子と複合的に組み合わさることで単独因子の影響よりも強くなるという関連性をアソシエーションルール分析で明らかにしました。この研究成果は、PLoS One誌(Exploration of combined factors related to quality of life after knee replacement surgery)に掲載されています。 研究概要 変形性膝関節症は、膝のこわばり・不安定性・疼痛を主訴とする代表的な変性疾患です。60歳以上では、画像上80%以上に変形性変化がみられ、約40%が症状を訴え、約10%が日常生活に支障を来すと報告されています。変形性膝関節症に伴う痛みと機能障害は QOLの低下と強く関連します。痛みや機能を改善する治療として人工膝関節置換術が広く行われ、術後QOLの改善が期待されますが、約30%では術後1年経過しても十分なQOL回復が得られません。 近年、人工膝関節置換術術後患者の術後 QOLを左右する術前要因として、性別、Body Mass Index(BMI)、学歴、膝痛の強さ、合併症の数、心理社会的問題などが報告されています。しかし、これら要因はいずれも単独ではQOLへの影響度が弱いとされ、システマティックレビューでも一貫した結論は得られていません。実際には「単独で弱い要因」同士が複合的に組み合わさることで、術後QOLに強い影響を及ぼす可能性が示唆されますが、その組み合わせや影響度の変化は明らかになっていません。本研究の結果、単独で術後QOLに影響を与える弱い術前因子は、他の関連因子と複合的に組み合わさる事で単独因子の影響よりも強くなるという関連性をアソシエーションルール分析で明らかにしました。 本研究のポイント 人工膝関節置換術術後患者の術後QOLに関わる術前因子の複合的な関連性をアソシエーションルール分析で検討した。 単独因子として、術前の合併症の存在が術後2年の身体的側面のQOLに最も関連する因子として抽出された。 複合的な関連性として、術前の身体的側面のQOLが低値、術前の疼痛高値、術前の身体機能低下、立ち上がり能力低下、高齢は他要因と組み合わさる事で単独因子よりも術後QOLへの影響度が高くなりました。 研究内容 本研究の対象は米国のKOA患者のデータベースであるOAIに登録されている4796人の内、KR術前から術後2年間追跡可能であった44名を解析対象者としました。 使用した評価項目は、性別、年齢、BMI、立ち上がりテスト、人工膝関節置換術が片側・両側の情報、合併症(Charlson Comorbidity Index;CCI)、抑うつ症状(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale;CES-D)、関節症状(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index version LK 3.1;WOMAC)の疼痛、こわばり、身体機能、QOL尺度(Short Form12;SF12)の身体的側面(Physical Component Score;PCS)および精神的側面(Mental Component Score;MCS)を使用しました。 各変数は等頻度区間法で「高値」・「低値」の2群に分類し、アソシエーションルール分析を用いて、術前因子と術後QOLに対する影響度および術前因子が組み合わさると術後QOLに対する影響度が変化するかといった複合的な関連性を検証しました。アソシエーションルール分析では信頼度:ルールの正確性、支持度:ルールの出現率、リフト値:ルールの有用性、の3つの指標に基づいてルールを抽出しました。複合的な関連ルールの抽出は、ルールの正確性の指標である信頼度が80%以上、リフト値1.1以上であることを条件に抽出しました。 アソシエーションルール分析の抽出条件を満たしたルールについては、ルールの条件に該当した群を「該当群」、該当しない群を非該当群として分類し、条件変数の該当群と非該当群の比率が統計学的に有意であるかを判断する為に、Fisherの正確確率検定またはχ²検定を実施しました。複合的ルールでは、単独ルールで設定した抽出条件を満たし、分割表の検定で関連を認めた要因が別の要因と組み合わさる事で単独ルールと比較して信頼度、リフト値が高値を示すのかを検討しました。 単独ルール 抽出されたルールは合併症(1つ以上)、術前 WOMAC身体機能高値、術前 WOMAC疼痛高値、術前PCS低値、術前立ち上がり動作不良、高齢、術前 WOMACこわばり高値がリフト値の降順に抽出されました(表1)。分割表の検定において条件変数の該当群と非該当群の比率に有意差を認めた項目は合併症、術前WOMAC身体機能低下、術前WOMAC疼痛高値、術前PCS低値、立ち上がり能力低下、高齢であった。信頼度とリフト値が最上位かつ分割表の検定結果において有意差を認めたルールは合併症(信頼度100%、リフト値1。38)でした。一方、術後1年と2年MCS低値の単独ルール、術後1年PCS低値の単独ルールは抽出されませんでした。 複合的ルール 後2年PCS低値単独ルールで関連を認めたルールが含まれているルールを(表2)と(表3)に示しています。術前PCS低値、術前WOMAC疼痛高値、術前WOMAC身体機能低下、立ち上がり能力低下、高齢は他要因と組み合わさる事で信頼度・リフト値が単独ルールよりも高値を示しました。これらのルールは分割表の検定において条件変数の該当群と非該当群の比率に有意差を認めました。 本研究の臨床定義および今後の展開 本研究の結果は人工膝関節置換術術後患者の術後QOLを評価する際には、術前の単独因子のみを考慮するだけでなく、影響を与える要因は組み合わせによって影響度が変化することを示唆する結果です。本研究は後ろ向き研究であり、他の関連因子(心理社会的側面の問題や社会的因子)を考慮できていません。今後は、日本人を対象に前向き研究を実施し、他の交絡因子を含めた場合の影響について調査研究を進めていく予定です。 論文情報 Santoh K, Shigetoh H, Yamano H, Torizawa K, Takasaki H, Uritani D. Exploration of combined factors related to quality of life after knee replacement surgery. PLoS One. 2025 May 7;20(5):e0323007. doi: 10. 1371/journal. pone. 0323007. PMID: 40333812; PMCID: PMC12057852. 問い合わせ先 社会医療法人杏嶺会 一宮西病院 リハビリテーション技術部 畿央大学 大学院 健康科学研究科 客員研究員 山藤 滉己 E-mail:k.santo725725@gmail.com 畿央大学 健康科学部 理学療法学科/大学院 健康科学研究科 教授瓜谷 大輔 E-mail:d.uritani@kio.ac.jp
2025.06.06
神経リハビリテーション学研究室の学生・教員が World Physiotherapy Congress 2025 で発表 ~ 健康科学研究科
2025年5月29日(木)~31日(土)に東京国際フォーラムで開催されたWorld Physiotherapy Congress 2025に、神経リハビリテーション学研究室(森岡周研究室)から、博士後期課程2年の三枝 信吾、博士後期課程1年の田上 友希が参加し、それぞれ発表をしてきました。 今回の学会は、規模・熱量ともに圧巻で、世界中から理学療法士や研究者が集まり、会場全体に活気が溢れていました。各国の参加者が一堂に会し、それぞれの臨床や研究の実践を語り合う光景に、理学療法という専門分野が持つ広がりと深みを実感しました。 演題名(発表形式)のご紹介 三枝 信吾氏(東海大学文明研究所、森岡周研究室) 演題名:The meaning of independence in walking for patients with subacute stroke: An interpretative phenomenological analysis (Printed Poster) 田上 友希氏(徳島赤十字病院、森岡周研究室) 演題名:Exploratory study of Functional Factors from Multiple Trunk Function Assessments in Early-Stage Stroke patients (Printed Poster) 両名ともにポスターセッションで研究発表を行いました。英語での発表ということもあり、研究内容をうまく伝えられたかどうか自信はありませんが、それでも少しずつでも自分の考えが相手に伝わったと感じられた瞬間は、大きな励みとなりました。 また、今回の学会で自分が取り組んでいる研究や臨床の意味を、改めて問い直す機会を得ました。そして、何よりも、多くの人が支え合い、繋がりながら専門性を深めているという実感を得たことが最大の収穫です。 今後は、自分の実践や研究をより国際的な視点から捉え直し、世界の理学療法の潮流の中で、自分が何を発信できるのかを模索していきたいと感じています。 最後になりますが、この貴重な機会を得るにあたり、日々の研究を支えてくださった神経リハビリテーション学研究室の皆さま、そして発表に向けて親身にご指導くださった森岡 周教授に、心より感謝申し上げます。 畿央大学大学院 健康科学研究科 博士後期課程2年 三枝 信吾 関連記事 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 地域リハビリテーション研究室の学生・教員が World Physiotherapy Congress 2025 で発表 ~ 健康科学研究科 人工膝関節置換術術後患者における術後QOLに関連する複合的因子を調査 ~ 畿央大学運動器リハビリテーション学分野 瓜谷研究室 ~ 第65回日本呼吸器学会学術講演会で『トラベルアワード』を受賞 ~ 健康科学研究科|KIO Smile Blog 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 3rd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 変形性関節症に関する世界最大級の国際会議「OARSI 2025」参加レポート!~健康科学研究科瓜谷研究室 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 2nd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 第40回日本栄養治療学会学術集会でYoung Investigator Award 2025を受賞 ~ 健康科学研究科
2025.06.04
地域リハビリテーション研究室の学生・教員が World Physiotherapy Congress 2025 で発表 ~ 健康科学研究科
2025年5月29日(木)~31日(土)に東京国際フォーラムで開催されたWorld Physiotherapy Congress 2025に、地域リハビリテーション研究室から高取 克彦教授、松本 大輔准教授、そして私 健康科学研究科 博士課程1年の池本 大輝が参加し、それぞれ発表をしてきました。 World Physiotherapy Congressが日本で開催されるのは1999年の横浜以来で、4半世紀ぶりの世界学会でした。日本で開催されることを知ってから、絶対に行きたいと思っていたので、参加することができて貴重な財産となりました。 今回の学会には5,000人以上の参加者、演題応募が3,355件、メインセッション145件、ePoster 700件近く、印刷ポスター1,400件以上と、今まで参加した学会よりも大規模で圧倒される学会でした。 演題名(発表形式)のご紹介 高取 克彦 教授 Impact of having higher-level life function on “youthful mind” in community-dwelling older adults: A cross-lagged and synchronous effects model(Printed Poster) 松本 大輔 准教授(2演題) Association Among Neighborhood Walkability, Social Participation, and Disability Incidence in Community-Dwelling Older Adults: A 3-Year Prospective Cohort of KAGUYA Study(ePoster)→ Outstanding ePoster Award Association Between Fatigue and Intrinsic Capacity Among People Aged 20 to Over 100 Years Old from the INSPIRE-T Cohort(ePoster:フランスでの研究) 池本 大輝(博士課程1年) Impact of sarcopenia on gait independence in musculoskeletal disorders: A comparison of two diagnostic algorithms(ePoster) 私は、目標の一つであった国際学会に初めて参加して発表することができました。当日は、楽しみな気持ちがありつつも、不安や緊張といった様々な感情を持ちつつ参加しました。特に、発表は人生で最も緊張したといっても過言ではないぐらいに緊張し、朝食がのどを通りませんでした。いざ発表する時には松本准教授、高取教授、瀧口助教、職場の先輩が見守ってくださっていたので、無事発表することができました。 発表を終えて、研究活動を実施していくには自分一人では限界があり、周りの方々に支えられて実施できていることを改めて実感しました。 ePoster形式の発表は、座長により様々なスタイルであり、私のセッションでは5分間にプレゼンテーションと質疑応答が含まれておりました。発表時間がぎりぎりになってしまいましたが、セッション終了後に海外の方からご質問をいただきました。その際にも松本准教授にフォローをしてもらいながらの対応になってしまいましたが、海外の理学療法士にも興味を持っていただき、今後の研究を進めるモチベーションとなりました。 私の関心領域における発表は、今回は、南米の理学療法士に多く、複数の方々に質問をさせていただきました。苦手な英語でしっかりと質問できているかもわからない中、丁寧に回答していただける海外の理学療法士の優しさに感動したと同時に、自分の伝えたい内容を英語で伝えられるようになりたいと強く感じました。 シンポジウムやレクチャーでは、各国で異なる医療・介護システムで理学療法が提供されていることから、日本とは異なる問題点があり、様々な視点から理学療法を考えることができました。これは国際学会ならではの視点だと思います。同じ理学療法士として理学療法を発展していくためには国際学会へ参加し、刺激をもらうことでよりよい研究を行い、臨床実践していくことが重要だと感じました。 また指導教員である松本准教授は、Outstanding ePoster Awardを受賞され、Closing sessionで海外の理学療法士とともに壇上で表彰される姿はとてもかっこよく、素晴らしい先生にご指導いただけていることを再認識しました。私も将来、このような舞台で表彰されるような発表ができるように博士課程での学習と研究に励みたいと思います。 最後に、今回の国際学会参加・発表にあたり、多大なるご指導をいただいた松本准教授をはじめ、地域リハビリテーション研究室の皆さま、そして日々支えてくださっている職場の皆さまに心より感謝申し上げます。 畿央大学大学院 健康科学研究科 博士課程1年 池本 大輝 関連記事 畿央大学 地域リハビリテーション研究室 人工膝関節置換術術後患者における術後QOLに関連する複合的因子を調査 ~ 畿央大学運動器リハビリテーション学分野 瓜谷研究室 ~ 第65回日本呼吸器学会学術講演会で『トラベルアワード』を受賞 ~ 健康科学研究科|KIO Smile Blog 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 3rd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 変形性関節症に関する世界最大級の国際会議「OARSI 2025」参加レポート!~健康科学研究科瓜谷研究室 日仏国際共同研究CREST-ANR NARRABODY 2nd Meetingが開催されました!~ニューロリハビリテーション研究センター 第40回日本栄養治療学会学術集会でYoung Investigator Award 2025を受賞 ~ 健康科学研究科
2025.06.03
6-7歳児における運動イメージの使用は未熟:2つの運動イメージ課題からの証拠~ニューロリハビリテーション研究センター
運動イメージ(motor imagery: MI)とは、実際に身体を動かすことなく、頭の中でその運動を想像する動的な認知プロセスです。MIは「運動の計画と実行に関わる行為表象」とされており、意図形成、運動の計画、運動プログラムの構築という点で、実際の身体運動と機能的に同等であると考えられています。このMIの使用は、成人では十分に発達していることが知られていますが、小児における発達過程は十分に明らかにされていませんでした。畿央大学大学院健康科学研究科の信迫悟志 教授らの研究チームは、6〜13歳の定型発達児を対象に、2種類のMI課題(手の左右識別課題と両手結合課題)を用いて、年齢によるMI能力の発達変化を詳細に検討しました。この研究成果は、Human Movement Science誌(The use of motor imagery in 6–7-year-old children is not robust: Evidence from two motor imagery tasks)に掲載されています。 研究概要 本研究では、6〜13歳の定型発達児50名を対象に、子どもたちがどれだけ正確に手のMIを想起できるかを評価するため、2種類のMI課題を実施しました。1つ目は最も代表的なMI課題である手の左右識別(hand laterality recognition: HLR)課題(図1)で、モニター上に提示されるさまざまな角度・向きの手の画像を見て、それが左手か右手かをMIを用いて判断するものです。この課題では、正答率や正反応時間(RT)に加えて、生体力学的制約(身体の動きにくさ)効果や手の姿勢の効果の有無を指標とし、子どもたちのMIの使用の程度を測定しました。2つ目はニッチなMI課題である両手結合(bimanual coupling: BC)課題(図2)で、次の3条件が含まれます。片手条件:利き手でまっすぐな線を繰り返し描く。両手条件:利き手でまっすぐな線を描きながら、他方の手で同時に円を描く。MI条件:利き手でまっすぐな線を描きながら、非利き手で円を描いているのを頭の中でイメージする(実際には動かさない)。BC課題では、利き手で描いた反復直線を計測し、各条件で描かれた線の歪みの程度を楕円化指数(ovalization index: OI)として算出し、特にMI条件のOIから片手条件のOIを減算した値(イメージ干渉効果: Imagery Coupling Effect: ICE)は、MIが適切に想起できていることの定量指標となります。さらに、微細運動技能も測定し、MIとの関連性も検討しました。 本研究のポイント 6〜7歳児では、どちらの課題においてもMI使用の証拠が明確には見られなかった。 HLR課題では、年齢が上がるにつれてRTの短縮と正答率の向上が認められ、MI能力が発達的に向上することが示された。 一方で、BC課題では、6〜13歳の間でICEに明確な年齢差は見られず、年齢とICEとの間の相関関係も示されなかった。 どちらのMI能力も微細運動技能と有意に関連していた。 研究内容 HLR課題 6〜13歳の子ども50名を対象に、HLR課題とBC課題、および微細運動技能検査を実施しました。得られたデータは、年齢群(6–7歳、8–9歳、10–11歳、12–13歳)間の比較および相関分析を通じて、MIの発達的変化と、MIと微細運動技能との関連を検討するために用いられました。6〜7歳児では、生体力学的制約効果(身体で取りやすい姿勢の手画像でRTが短くなる効果)が見られず、MIの使用が不十分である可能性が示されました(図3)。一方、8歳以上の群では生体力学的制約効果が明確に観察され、年齢に伴ってMI能力が向上することが示されました(図3)。また、正答率やRTにおいても、年齢とともに有意な改善が確認されました(図4)。 BC課題 ICE(片手で線を描きながら他方の手の円描きをイメージすることで線が歪む効果)は、8歳以上では見られたものの、6〜7歳児では観察されませんでした(図5)。ただしICEは、全体的に年齢差が小さく、HLR課題ほど明確な発達的変化は観察されませんでした(図6)。 これらの結果から、子どものMIの発達変化を捉える上で、HLR課題の方がBC課題よりも感度が高い可能性が示唆されました。実際、HLR課題によって測定されたMI指標は、年齢の増加に伴って指数関数的に向上していました。一方でBC課題は、実際の運動遂行に加えて、実行機能やワーキングメモリといった高次認知機能も求められる二重課題です。そのため、年齢とともにMI能力が向上する一方で、運動機能や認知機能の発達により干渉効果が弱まることで、両者がトレードオフの関係となり、結果として年齢による変化が見えにくくなっていた可能性があります。 さらに、微細運動技能とHLR課題におけるRT、およびBC課題のMI条件におけるOIとの間に有意な相関が見られ、MI能力と微細運動技能が関連していることも明らかになりました(図7、図8)。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、MI能力が6〜7歳児においてはまだ十分に発達しておらず、年齢とともにその能力が向上することを、2種類のMI課題を用いて明らかにしました。特に、HLR課題は、MIの発達的変化を鋭敏に捉えることができる評価手法であり、MI能力の成熟過程を把握するうえで有用であると考えられます。一方で、BC課題もMIと実際の運動や認知機能との統合的な発達を評価できる手法として有用です。特に、干渉効果の変化は、運動制御や実行機能の成熟を反映する指標となり得ます。MI能力単体の評価にはHLR課題が適していますが、BC課題は、より複合的な認知−運動機能の発達過程を捉えるのに適した課題といえます。 また、MI能力は微細運動技能とも関連していることが示されており、MI評価は運動技能の発達指標としても臨床的意義があることが示唆されました。今後、発達性協調運動障害(DCD)や自閉スペクトラム症(ASD)など、神経発達症の子どもたちに対してMI課題を応用することで、運動障害の特性理解や介入効果の評価、さらにはリハビリテーションや運動学習支援への応用が期待されます。 論文情報 Nobusako S, Tsujimoto T, Sakai A, Yokomoto T, Nagakura Y, Sakagami N, Fukunishi T, Takata E, Mouri H, Osumi M, Nakai A, Morioka S. The use of motor imagery in 6–7-year-old children is not robust: Evidence from two motor imagery tasks Hum Mov Sci. 2025;101: 103362. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp
2025.06.03
パーキンソン病患者のベッド動作の自立度低下に関連する要因~ニューロリハビリテーション研究センター
パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)患者は、進行とともにベッド動作(寝返り・起き上がり・寝転がり)の自立度が低下しますが、その関連要因については十分に明らかにされていませんでした。 畿央大学大学院博士後期課程の成田雅氏と岡田洋平教授らは、109名のPD患者を対象に、日中のベッド上動作の自立群/非自立群に分類し、上肢の筋強剛と体軸症状が、すべてのベッド動作の非自立と関連していることを初めて実証しました。また、寝返りの非自立には体幹伸展筋力の低下が関連することも示しました。本研究は、従来明確でなかった各ベッド上動作の自立度低下に関連する要因について包括的に解析し、明らかにした点で新規性があり、ベッド動作の自立度低下を予防、改善するための有効な介入戦略の発展に寄与することが期待されます。この研究成果は、Journal of Movement Disorders誌(Factors associated with the decline ofin daytime bed- mobility independence in patients with Parkinson’s disease: A cross-sectional study)(IF: 2.5)に掲載されています。 本研究のポイント パーキンソン病患者109名を対象に、日中のベッド動作(寝返り・起き上がり・寝転がり)の自立と関連する要因について包括的に検証した結果、上肢の筋強剛と体軸症状が全動作に共通する非自立の要因であることが示されました。 各動作には特異的な要因も存在し、寝返りには体幹伸展筋力が関与し、進行期の起き上がり・寝転がりには認知機能が関与することが示唆されました。 これらの関連要因の理解に基づく介入戦略が、PD患者のベッド動作の自立度低下の予防、改善、介護負担の軽減に寄与することが期待される。 研究概要 パーキンソン病(PD)は、進行に伴ってベッド上での寝返りや起き上がり、寝転がりといった動作が困難になり、自立度が低下していきます。畿央大学大学院の成田雅氏と岡田洋平教授らの研究チームは、日中におけるベッド上動作の自立度に着目し、Hoehn and Yahr stage 2〜4のPD患者109名を対象とした横断的観察研究を実施しました。本研究では、「寝返り」「起き上がり」「寝転がり」の3つの動作について、運動症状(筋強剛、寡動、振戦、体軸症状)、頸部・体幹・股関節筋力、認知機能との関連を包括的に評価しました。 その結果、上肢の筋強剛と体軸症状は、寝返り・起き上がり・寝転がりの全動作に共通して非自立と強く関連する主要因子であることが明らかになりました。さらに寝返りの非自立には体幹伸展筋力の低下も関与していました。Hoehn and Yahr stage 4の患者群に限定した分析では、起き上がりや寝転がりの非自立群において、**Mini-Mental State Examination(簡易認知機能検査)のスコア低値およびTrail Making Test Part A(注意機能検査)**の時間延長がみられ認知機能と注意機能の低下が関連することも示されました。 これらの結果から、上肢の筋強剛や体軸症状に対する介入に加え、個別化した認知機能への支援を含む早期介入が、ベッド動作の自立度維持に寄与する可能性が示唆されました。今後は、これらの関連要因の理解に基づく介入戦略が、PD患者のベッド動作の自立度低下の予防、改善、介護負担の軽減に寄与することが期待されます。 研究内容 本研究は、パーキンソン病(PD)患者における日中のベッド動作の自立度低下に関連する臨床的因子を明らかにすることを目的とした横断的観察研究です。Hoehn and Yahr stage 2〜4のPD患者109名を対象に、寝返り、起き上がり、寝転がりの3つの動作について、左右両方向に3回ずつ実施し、全て自力で完遂できた場合を「自立」、補助(介助やベッド柵利用)を要した場合を「非自立」と判定しました。自立・非自立の判定はビデオ記録に基づき、理学療法士2名が独立に評価し、全例で一致しました。 同時に、運動症状(筋強剛、寡動、振戦、体軸症状)、頸部・体幹・股関節の筋力、認知機能(MMSE、TMT)を評価し、各動作の自立・非自立との関連性を包括的に解析しました。 その結果、すべてのベッド動作において上肢の筋強剛と体軸症状が非自立と有意に関連しており、さらに寝返りでは体幹伸展筋力の低下も関与していることが明らかになりました。 さらに、ロジスティック回帰分析により各動作の非自立を予測する多変量モデルを構築し、寝返り(AUC=0.84)、起き上がり(AUC=0.78)、寝転がり(AUC=0.92)において良好な識別性能が示されました。 また、Hoehn and Yahr stage 4の患者に限定したサブ解析では、起き上がり・寝転がりの非自立群において認知機能が有意に低下しており、Mini-Mental State Examinationスコアの低値およびTrail Making Test Part Aの所要時間延長が、注意・実行機能の低下との関連を示しました。 以上より、PD患者における日中のベッド動作の自立度低下には、上肢の筋強剛や体軸症状に加えて、進行期には注意・認知機能の関与も重要であることが示唆され、今後の有効な介入戦略の構築に向けた科学的基盤となることが期待されます。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、パーキンソン病(PD)患者における日中のベッド上動作の自立度に影響する臨床的因子を、動作ごとに詳細に解析した初の横断的観察研究であり、上肢の姿勢保持および体幹起こしがすべての動作に共通する重要な要因であることを明らかにしました。Hoehn and Yahr stage 4に限定したサブ解析では、起き上がり・寝転がりの両動作においては、認知機能の低下が影響することが示されました。これにより、進行期PDでは姿勢制御機能に加えて認知機能要因が動作自立に大きく影響することが示唆されました。 本研究の臨床的意義としては、患者のベッド上動作の自立の難易度を的確に把握し、動作ごとの課題に基づく介入戦略策定や、自立度低下の予防、改善、介護負担の軽減につなげることが期待されます。 今後は、ベッド上動作の自立に関連する要因を経時的に評価する縦断的調査や、初期・OFF期での動作評価、さらに介入効果の検証にも取り組んでいく予定です。 論文情報 Masaru Narita, Kosuke Sakano, Yuichi Nakashiro, Fumio Moriwaka, Shinsuke Hamada, Yohei Okada Factors associated with the decline in daytime bed mobility independence in patients with Parkinson’s disease: A cross-sectional study Journal of Movement Disorders, 2025 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 成田 雅 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 岡田 洋平 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp