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2021.05.06

【研究成果発表】姿勢バランスに重要な前庭脊髄路機能の評価の再現性、左右差および立位バランスとの関連性を調査~健康科学研究科

ヒトは多くの場合、姿勢バランスを非自覚的にコントロールしています。前庭脊髄路は非自覚的な姿勢のコントロールを行う上で重要な役割を果たす神経機構の一つです。前庭脊髄路の機能は、経皮的に前庭系を電気刺激することによってH波と言われる脊髄前角細胞の興奮性の変化の程度を計測することで評価されてきていました。しかし、この方法の再現性や左右差、姿勢バランスとの関連については明らかにされていませんでした。畿央大学大学院の中村潤二客員准教授(西大和リハビリテーション病院)、岡田洋平准教授らの研究チームは、ヒトにおける前庭脊髄路の機能評価の再現性や左右差、立位バランスとの関連性を明らかにする研究を行いました。この研究成果はNeuroscience Letters誌(Reliability and laterality of the soleus H-reflex following galvanic vestibular stimulation in healthy individuals)に掲載されています。

 

研究概要

前庭脊髄路は抗重力姿勢を保持する上での抗重力筋の制御に重要な役割を果たすと考えられています。ヒトにおいて非侵襲的に前庭脊髄路興奮性を評価する方法として、ヒラメ筋H反射を誘発する脛骨神経刺激の前に直流前庭電気刺激(galvanic vestibular stimulation (GVS)を条件刺激として与えることによるヒラメ筋H反射の促通率を評価するという神経生理学的方法があります。この方法は、耳後部に電極を貼付し直流電流で経皮的に前庭系を刺激し(GVS)、前庭神経、前庭脊髄路を介して、脊髄の抗重力筋の運動ニューロン群の興奮性の変化を評価していると考えられています。畿央大学大学院の中村潤二客員准教授(西大和リハビリテーション病院)、岡田洋平准教授らの研究チームは、本手法による計測を左右で行った後に、再度左右で計測しました。

その結果、1セッション目と2回目の計測におけるセッション間再現性は十分であり、いずれの計測でも前庭脊髄路興奮性に左右差がないことを示しました。また立位での重心動揺計の計測を行い、前庭感覚への依存度が高くなる条件における立位荷重偏移位置と前庭脊髄路興奮性が関連することを示しました。

 

本研究のポイント

■GVSとヒラメ筋H反射を併用した前庭脊髄路興奮性の計測の再現性は十分だった。

■健常者の前庭脊髄路興奮性の左右差はほとんどみられなかった。

■前庭感覚の依存度が高い立位では、前庭脊髄路興奮性が高い下肢の方へ荷重偏移する。

 

研究内容

15名の健常者が研究に参加し、 GVSを行うことによるヒラメ筋H反射の促通率について検証しました(図1, 2)。計測は無作為の順番で左右それぞれ計測し、休息の後に再度左右それぞれ、合計2セッションの計測を行いました。その結果、1セッション目と2セッション目の左右のGVSにおけるH反射促通の程度のセッション間再現性は十分であり、各セッション共に左右差はないことが示されました(表1)

また、重心動揺計を用いて4条件(開眼位、閉眼位、ラバーマット上での開眼位、ラバーマット上での閉眼位)での立位姿勢を計測した結果、前庭感覚への依存度が高いラバーマット上での閉眼立位における足圧中心の内外側の偏移位置とヒラメ筋H反射促通率の左右比との間に正の相関関係があることが示されました(図3)。

 

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図1. GVSによるH反射の変化の測定

 

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図2. GVSの有無でのH反射の波形の変化

 

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表1.GVSによるH反射の変化の計測結果

 

セッション間の左右の促通率の計測の再現性は十分であり、系統的誤差が生じなかったことを示しました。

 

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図3. 1セッション目のヒラメ筋H反射促通率の左右比とラバーマット上での閉眼立位でのCOPの内外側偏移位置

 

中等度の正の相関がみられ、前庭感覚への依存度の高い立位における荷重偏移と前庭脊髄路興奮性の間には関連がある可能性を示しました。2セッション目のH反射促通率の左右比とは有意な相関なし(r = ―0.19, p=0.51)

 

本研究の意義および今後の展開

本研究成果は、GVSによるヒラメ筋H反射の促通率を評価するという前庭脊髄路興奮性の神経生理学的方法の臨床応用可能性を示唆するものであり、姿勢制御に異常のある方で特に左右差の顕著な症候を呈する方に適用する上で重要な知見であると考えられます。

今後は脳卒中やパーキンソン病、前庭疾患などの対象に前庭脊髄路興奮性の評価を行い、姿勢制御異常の病態と前庭脊髄路機能の関連性について検証し、介入可能性についても模索していきたいと考えています。

 

関連する論文

Okada Y, Shiozaki T, Nakamura J, Azumi Y, Inazato M, Ono M, Kondo H, Sugitani M, Matsugi A.

Influence of the intensity of galvanic vestibular stimulation and cutaneous stimulation on the soleus H-reflex in healthy individuals.

Neuroreport. 2018 Sep 5;29(13):1135-1139.

 

Tanaka H, Nakamura J, Siozaki T, Ueta K, Morioka S, Shomoto K, Okada Y.

Posture influences on vestibulospinal tract excitability.

Exp Brain Res. 2021 Jan 21.

 

論文情報

Nakamura J, Okada Y, Shiozaki T, Tanaka H, Ueta K, Ikuno K, Morioka S, Shomoto K.

Reliability and laterality of the soleus H-reflex following galvanic vestibular stimulation in healthy individuals.

Neuroscience Letters. 2021 June 11.

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