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2022.09.12

【Q&Aを公開しました】畿央大学現代教育研究所主催「学びを結ぶオンラインセミナー」を開催しました。

記事の最後にセミナーでいただいたご質問に対する講師の回答を追加させていただきました。あわせてご参考にしていただければ幸いです。

畿央大学現代教育研究所では、学校現場における教育力向上の一助になる活動の一環として、2013年から研究所研究員による解説と実践を交えたワークショップを重ねてきました。今年度はコロナ禍のため、昨年度に引き続いてオンライン形式で、2022年8月12日(金)に開催いたしました。

 

今年度のセミナーは、テーマ「GIGAスクール時代のICT活用実践」と題して、午前はICT活用に関する講義午後からは道徳科と算数科に分かれて、のべ24(15+9)名の先生方に参加いただきました。

当日の様子をご紹介させていただきます。

「ICT活用に関する講義」

講師:西端 律子(畿央大学教育学部 教授/教育学研究科 教授)

 

 

近年、全国の小中学校ではタブレット端末で「何ができるか」ではなくタブレット端末をもちいて効果的な授業実践を行うため、学年や学校としてどのように取り組むべきかが課題となっています。

その課題について、畿央大学のコロナ前からの先進的な取り組みや西端先生が関わっておられる地域の小学校のICTに関する取り組みが紹介されました。ここ数年間で教育現場のICT化が進み、子どもたちが情報機器を使い慣れていることがよく分かりました。

 

以下、講義の概略を紹介します。

 

情報活用能力の定義

初等教育の根幹で3R’s( =Read, Write, Arithmetic)として示された「よみ」、「かき」、「計算」の能力に、情報化の時代とともに情報活用能力「情報及び情報手段を主体的に選択し、活用していくための個人の基礎的資質 (昭和62年・1987年) 」が追加されました。さらに平成20年(2008年)告示の学習指導要領では情報教育に関する内容の充実が示され、学校現場での児童生徒の学習用、教員の業務用ともにコンピュータの整備が進められました。

平成29年(2017年)告示の学習指導要領で示された「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善につなぐ「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実に欠かせない資質・能力の一つとして示されるようになっています。

ICTの活用と合理的配慮

令和2年(2020年)後半より、多くの自治体で一人1台のコンピュータと普通教室の無線LANが使用できる環境が整備されました。こうした状況において、ICT環境は、従来のコンピュータと同じ目的での使用、他のメディア方法との組合せによる使用、児童・生徒の学習環境としてカスタマイズしての使用と展開してきました。

また、社会や学校における合理的配慮の必要性が増すにつれ、従来の紙の教科書を基本に検索や動画などの機能を追加し、学習者個別にカスタマイズできるデジタル教科書の開発と導入なども実現しています。そこでは、多くの人にとって読みやすいUD(ユニバーサルデザイン)フォント、文字と背景色の反転機能なども可能になっています。

大学での教員養成

学校でのICT環境整備に伴い、教員養成にも情報分野に関わる資質・能力が求められるようになっています。

2021年実施の教員採用試験では、情報分野の筆記試験の実施、ICT実技の試験、プログラミング系の資格を有する受験者への加点などが導入され、2022年度からは「情報通信技術を活用した教育の理論及び方法」 が教員養成課程の免許で必修科目として新設されました。

情報活用能力のさらなる育成に向けて

文部科学省は、学習の基盤となる資質・能力としての情報活用能力の育成体系表例とカリキュラム・マネジメントモデルの活用(令和2年 2020年) において、例えば小学校における、情報の発信、情報の整理のための「知識及び技能」、情報を活用するための「思考力、判断力、表現力等」、情報と情報をつくりだす人を大切にしようとする「学びに向かう力、人間性」等の資質・能力を働かせる児童の姿で情報活用能力を示しています。

大学でも、情報に関わる資質・能力の指導ができる学生の育成に取り組んでいくことになります。

 

小学校現場でも、6年間を通して育てる情報活用能力に関する教育課程表を作成する試みが行われるなど、課題は「ICT環境でなにができる」から「ICT環境をどう活用する」に移っています。

ただ「何かのメディアを使って教える」ということそのものは昭和34年(1959)頃の学校現場へのテレビと教育番組の普及から継続的に発展してきたものでもあります。

映像がテープからディスクに保存できるようになり、カメラがデジタル化されることによりフィルムが無くなり、様々な身近な機器のデジタル化が進んできましたが、私達学校や学校の教員は(ときに戸惑いながらも)対応してきました。

 

私達大学の研究組織が、今後も発展を重ねていくICT環境とその活用について、学校現場の先生方の取り組みに資することができるよう研究と成果の発信を重ねていきたいと考えています。

 

受講された先生方も、現場ですでにICTを活用されている方が多く、講師の西端先生に質問をされたり、受講生同士でもアプリの情報共有をしたりするなど積極的な意見交換がされました。

本セミナーにて見つけた成果を各学校でも実践いただければと思います。

 

午後からは、算数コース、道徳コースに分かれ、具体的な実践づくりとその運用について協議をしました。各コースの活動を紹介します。

 

「算数科における活用」

講師:椎名 美穂子(畿央大学教育学部 教授)

 

実際に小学校算数のデジタル教科書(体験版)を用いて、①第2学年(すきなあそびしらべ)②第4学年(直方体と立方体)課題に取り組みました。

 

数学的活動で重視されている問題発見に焦点を当て、数学的に考えるための算数科における体験的なICT活用の研修を行いました。データの活用と図形の2領域を中心に、Microsoft Excelを用いたデータ処理・グラフ表現から問いを引き出す発問を考え、連続的な図形の変化における導入場面の指導案作成とその共有をしました。また、参加者からは「立体図形」の先進的な教材を通して、立体構造や空間認知につながる問題発見について協議し、数学的な思考のプロセスの重要性を実感していたことがうかがえました。

 

「道徳科における活用」

講師:塩家 崇生(畿央大学 客員研究員/伊丹市立鴻池小学校主幹教諭)

 

 

道徳科における一人一台端末を活用した授業実践が増えてきています。その中でも共有機能を用いた活用が多いことがうかがえます。児童生徒の考えを視覚的に捉えることができるようになったことで、教師はそこで知り得た情報を授業で生かしていくことが求められるようにもなっています。

 

全員で自己紹介を兼ねて、それぞれの地域や学校種別・学年等における実際の道徳の授業のあり方を情報共有することから始まりました。

 

塩家先生の行っている実例を題材にして、端末活用で集められた子供たちの考えをどのように生かし、授業の展開に結びつけていくのかについて参加者で考えました。

 

また、端末活用における効果だけではなく課題にも触れ、それを活用することの意義についても考えるきっかけとなりました。

 

セミナー終了後、ご参加の皆様にはアンケートを通してご意見を頂きました。その中からいくつかを紹介します。

講話と共に、グループワークで具体的な授業づくりを基に他地域の先生方と交流できたことがとても嬉しかったです。「無料」というのもありがたかったです。他の教員も誘ったのですが、お盆前という時期で参加できない方が多かったのが残念でした。大変勉強になる研修会をありがとうございました。

 

少人数での受講となり講師の先生方とのやり取りができたり、発言させて頂く機会が多くあったりと主体的にセミナーに参加させていただくことができました。今回初めて貴校のセミナーに参加させていただきましたが、今後開催される予定でしたら継続的に参加していきたいと思いました。ご準備や運営をありがとうございました。

 

この度は、研修会ありがとうございました。コロナ禍ですので、オンラインでしていただけてとてもありがたかったです。オンラインですることにより、遠隔地であっても参加できますので、今後もこの方法でしていただけるとありがたいです。講師の先生には、出向いていただきありがとうございました。道徳の研修、とてもためになりました。特別支援の先生が多く、普通校の先生にも、もっと参加していただきたいですね。そのためには、現地とオンラインのハイブリットが良いのかもしれません。また、時期ですが、研修前に学校に出勤すると、2年目研修、中堅研修と何人かの先生がおっしゃっていたので、その方たちは申し込みできないなあと思いました。

 

西端先生に、今回の午前中の研修で色々アプリ等も紹介していただきありがとうございました。とても参考になりました。その中で、私は現在重度重複の肢体不自由の生徒を担当していますがいます。ビックマックを使って画面を動かしたり、音を聴いたりするアプリ(花火、金魚を動かす)を使っていますが、なかなか画面が見れないのが現状です。テレビにつなげば良いですが、テレビにも数に限りがあります。また、画面を直接触っているのを観ながらできればと思うのですが、両方の手のひらが上を向いている状態です。何か良い方法があればよろしくお願いいたします。また、特別支援学校の先生を対象とした、研修等も考えていただけるとありがたいです。今回の研修ですが、午前、特に午後の道徳人数が少なかったのは残念でした。特に小学校、中学校の先生方のお話も聞きたかったです。以上色々と書かせていただきましたが、もっと沢山の先生方に畿央大学の先生のお話を聴いていただきたかったです。私は再任用出先が限られていますので。また、来年楽しみにしております。ありがとうございました。

【9/12追加】アンケートでいただいたご質問への回答を公開しました

西端教授への質問と回答

Q:私は現在重度重複の肢体不自由の生徒を担当しています。ビックマックを使って画面を動かしたり、音を聴いたりするアプリ(花火、金魚を動かす)を使っていますが、なかなか画面が見られないのが現状です。テレビにつなげば良いですが、テレビにも数に限りがあります。また、画面を直接触っているのを観ながらできればと思うのですが、両方の手のひらが上を向いている状態です。何か良い方法があればよろしくお願いいたします。

 

:ご質問ありがとうございます。
まず、全体の状況、特にご質問の生徒の状況を把握できておりませんので、不適切な部分もあるかもしれませんが、ご容赦いただければ幸いです。

タブレットの画面を見ながら、自分の手で操作したい、ということでよいでしょうか。

掌が上向きということですので、例えば、指の第二関節あたりで接触することは可能でしょうか。扉をノックするときに指を曲げるイメージです。他の指も触ってしまうようであれば、軍手をはめて、該当の指のところのみ穴をあけるという方法もあります。

またペンを挟めるようであれば、逆手(手の甲側にペン先がくる)で持つ方法もありかと思います。

おそらくiPadをお使いなのでは?と思いますが、もし、視線入力装置が学校にあるのであれば、そちらをトライしてみる方法もあるのではないでしょうか。

いろいろなノウハウをお持ちの先生もいらっしゃいますので、機会がありましたら、情報共有の場を提供したいと思います。

今回はご参加ありがとうございました。
重ねて御礼申し上げます。

 

塩家研究員への質問と回答

Q1:道徳の授業で障害者問題についてどのような題材で授業をされていますか。

 

:基本的には、教科書の教材を使って授業をおこなっております。

車いすにのって生活している人物、事故で身体の機能が奪われてしまった実在の人物やパラリンピックに出場されている選手等が教材になっています。教科書会社が、それぞれの教材ごとに関連する内容項目を設定しておりますので、それを基にしてねらいを設定し、授業を展開させています。

 

Q2:重度、重複(胃ろう、気管切開)のものを含む児童、生徒に対しての道徳の授業はどのような内容をするか。

 

:私自身は、重度、重複のものを含む児童に対しての指導経験がありません。ただし、基本的には授業にはねらいがあり、子どもたちの対話を通してどうやって深めていくかが重要だと考えます。環境にもよるかと思いますが、特別支援学級の子供たちのみで授業をおこなうのか、またそうでないのかによっても変わります。

前者なら、教材選びから考えられるかなと思います。特別支援学級の担任の先生が特別支援学級の6年生の児童3名に対して1年生の教材を使って道徳科授業を行っているという話を聞きました。目の前の子どもたちの実態に応じた教材選びと展開を考えることが重要でしょう。

後者なら、インクルーシブ的視点が必要だと考えます。板書、ICT機器の活用、思考ツール、グループ活動等の工夫が必要です。

 

Q3:いじめ等の問題を道徳の授業でどのように取り上げているか。

 

:道徳の教科化には、大津市のいじめ事件が大きく影響を与えています。ただ、道徳科では、「いじめ」を行う行動や言葉について指導する時間ではありません。行動や言動等の奥底にある心の部分(内面的資質)を育成する時間です。

「いじめ」はしない、させない、許さない…これは子どもたちも分かっています。だからこそ、「いじめは絶対しない」という決意表明だけで、本当に豊かな心の育成につながるとは思えません。

教科書会社によって内容は違いますが、いじめを想起させる教材は存在します。そこにはQ1-Aでも述べました内容項目が設定されています。それを基にねらいを設定し授業を展開していきます。

 

Q4:先生の学校で道徳の授業時間を年間どれぐらい取っておられるか、1年生と6年生を特にお聞きしたいです。私自身、道徳は教科化になったものの、コロナ禍になって、なおざりになっているように思えてなりません。

 

:教科化となったことで、年間35時間(1年生は34時間)の道徳科授業【量的確保】と、「考え、議論する」道徳に向けた授業改善【質的転換】が求められています。

道徳科は、各教科や特別活動等の道徳教育の要です。

道徳科は、考える道徳教育。

そして、各教科や特別活動等では、体験による道徳教育です。

学習指導要領解説にも書かれている通り、道徳科の指導は、学校の道徳教育の目標を達成するために行うものであることから、学校においては、校長が道徳教育の方針を明確にし、指導力を発揮して、全教師が協力して道徳教育を展開するため、道徳教育の推進を主に担当する教師(道徳教育推進教師)を中心として、道徳教育の全体計画に基づく道徳科の年間指導計画を作成する必要があります。

私の勤務校では、学校評価で「内容項目を意識して道徳科授業をおこなっているか」という項目があります。

その結果から、学校全体で道徳教育について見直したり、また校内研修をおこなったりしました。

まずは、学校の先生が道徳科授業に対してどのような意識をもっておられるのかの実態調査、そしてそのデータからどうやって改善を図っていくのかを管理職や、教育課程、学校評価担当等と連携を図っていかれるのがよいかと思います。

 

 

畿央大学現代教育研究所では、今後も研究成果を現場の先生方のお役に立てるようなイベントを企画してまいります。

引き続き、よろしくお願いいたします。

 

 

 

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