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2020.03.19

脳卒中後に自他帰属のエラーが生じることを上肢運動タスクで解明~ニューロリハビリテーション研究センター

私たちが動作の中で得ている感覚は、自分自身の運動により生じた「自己由来感覚」と、他者や外界から生じた「外界由来感覚」に大別できることが知られています。そして、これらの感覚を適切に区別する自他帰属のプロセスは、正確な運動を達成するために不可欠であることが明らかにされています。畿央大学大学院博士後期課程の宮脇裕氏と森岡周教授は、仁寿会石川病院リハビリテーション部の大谷武史室長と共同し、感覚運動障害を有する脳卒中患者が、運動に対する感覚フィードバックを適切に自他帰属できているのかを検証しました。この研究成果は、PLOS ONE誌(Agency judgments in post-stroke patients with sensorimotor deficits)に掲載されています。

研究概要

私たちは、日常生活において常に何らかの感覚刺激を得ながら動作を遂行しています。得られた感覚は、自分自身の運動によって生み出された感覚なのか、または自分が関与していない他者や外界から生じた感覚なのか、脳内で区別されると言われています。この区別は「自他帰属」と呼ばれており、これが上手くいかなくなると、「自分が運動を制御している感じ」である運動主体感が損なわれたり、不必要な感覚に基づいて運動を遂行してしまったりすることが明らかにされています。自他帰属の障害を招く疾患の一つとして脳卒中が疑われていますが、運動麻痺などの感覚運動障害が自他帰属に及ぼす影響は十分に明らかになっていません。

宮脇裕氏(畿央大学大学院博士後期課程、慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)と森岡周教授は、大谷武史室長(仁寿会石川病院リハビリテーション部)と共同し、上肢運動課題を用いて、感覚運動障害を有する脳卒中患者の自他帰属について検証しました。その結果、健常高齢者に比べ脳卒中患者では、他者運動を自分の運動と判断してしまう誤った自他帰属をすることが示されました。また、興味深いことに、この誤帰属は非麻痺肢における運動でも同様に観察されました。

本研究のポイント

・脳卒中患者は、たとえ高次脳機能障害を有していなくとも、感覚フィードバックの誤帰属を起こしうる

・誤帰属は、非麻痺肢の運動でも起こりうる

研究内容

参加者は、モニタ上に水平に表示されたターゲットラインをなぞるように、ペンタブレット上で水平運動を遂行しました(図1)。この際、視覚フィードバックとしてカーソルが表示されました。カーソルの動きに、自分のリアルタイムの運動が反映されている場合(自己運動条件)と、事前に記録した他者運動が反映されている場合(他者運動条件)がありました。参加者は、自分の実際のペン運動とカーソル運動の時空間的な一致性に基づいて、カーソルが自己運動と他者運動のどちらを反映しているか判断することを求められました。

 

 fig.1

 

図1:実験装置

 

結果として、健常高齢者に比べ脳卒中患者では、他者運動条件において有意に誤帰属(他者運動のカーソルを自分の運動と判断)したことが示されました(図2)。また、この誤帰属は非麻痺肢で運動を遂行したときでさえ観察されました(図3)。

 fig.2

 

図2:脳卒中患者と健常高齢者間の比較

 

 fig.3

 

図3:麻痺肢と非麻痺肢間の比較

本研究の意義および今後の展開

正確な運動制御を達成するためには、適切な感覚の自他帰属が不可欠です。脳卒中患者の誤帰属がなぜ起こっているのか、またその影響はどのようなものなのかさらに精査することで、脳卒中リハビリテーションの新たな可能性を今後も探求していく必要があります。

論文情報

Yu Miyawaki, Takeshi Otani, Shu Morioka: Agency judgments in post-stroke patients with sensorimotor deficits. PLoS One, 2020.

問い合わせ先

畿央大学大学院健康科学研究科

博士後期課程 宮脇裕(みやわき ゆう)

E-mail: yu.miyawaki.reha1@gmail.com

Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600

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