2026.02.03
脳卒中者が不整地を歩きつづけたときの歩き方の変化~ニューロリハビリテーション研究センター
脳卒中者は、歩行障害を有することで、不整地を含む屋外の地域社会での歩行が困難となる場合があり、結果として社会参加を妨げ、生活の質に不利益をもたらします。さらに、脳卒中者は不整地上で長い距離を歩いた場合に課題を抱える可能性があります。畿央大学大学院博士後期課程の乾 康浩氏と森岡 周教授らは、脳卒中者と健常者が80mの不整地を歩行した際の距離に応じた変化の違いを検証しました。この研究成果はClinical Biomechanics誌(Distance-related changes in gait parameters during uneven-surface walking in people with stroke versus healthy controls: A cross-sectional analysis)に掲載されています。
本研究のポイント
- 健常者と脳卒中者の不整地歩行中の距離に応じた変化の特徴の違いを自作の不整地路を用いて評価しました。
- 脳卒中者は、不整地歩行中に歩行速度、安定性、股関節および膝関節の角度は維持する一方で、健常者とは異なり踵接地の際に前脛骨筋の筋電図振幅が増大せずに足関節背屈角度が低下し、立脚終期には中殿筋の周波数が低下することが明らかとなりました。
研究概要
脳卒中者は、中枢神経系の損傷により歩行障害を有し、不整地を含めた屋外の地域社会での歩行が困難になります。これは、社会参加を妨げ、生活の質の低下にもつながります。また、脳卒中者は不整地上で長い距離を歩いた場合に課題を抱える可能性があります。畿央大学大学院 博士後期課程 乾 康浩氏、森岡 周教授らの研究チームは、自作の予測困難な摂動が生じる不整地路を用いて、脳卒中者が80mの不整地行中の歩行速度、体幹の加速度、麻痺側の関節運動、および下肢筋電図振幅と周波数を計測し、脳卒中者と健常者で歩行距離に応じた変化の特徴の違いを分析しました。その結果、脳卒中者は、不整地歩行中に歩行速度、安定性、股関節および膝関節の角度は維持する一方で、健常者とは異なり踵接地の際に前脛骨筋の筋電図振幅が増大せずに足関節背屈角度が低下し、立脚終期には中殿筋の周波数が低下することを明らかにしました。本研究は、健常者と脳卒中者の不整地歩行中の距離に応じた変化の違いを明らかにした初めての研究です。
研究内容
本研究では、脳卒中者が予測困難な摂動が生じる不整地80mを歩行する際の距離に応じた歩行パラメータ変化を健常者と比較することを目的とし、自作の不整地路(図1)を用いて検証しました。

図1. 不整地路と実験環境
実験で得られたデータから、歩行速度、歩行安定性を評価するための3軸の体幹の加速度のRoot Mean Square、麻痺側下肢の最大関節角度、麻痺側下肢の筋電図振幅と瞬間平均周波数を算出しました。その結果、脳卒中者は、 不整地歩行中に歩行速度、安定性、股関節および膝関節の角度は維持する一方で、健常者とは異なり踵接地時に前脛骨筋の筋電図振幅が増大せずに足関節背屈角度が低下し、立脚終期には中殿筋の周波数低下がみられました(図2)。

図2. 不整地歩行中の脳卒中者と健常者の歩行パラメータの変化の違い
研究グループは、この結果のうち、脳卒中者が不整地歩行中に歩行速度、安定性、股関節および膝関節角度を維持したことは不整地への適応と考えています。一方で、前脛骨筋の筋電図振幅を増大せずに足関節背屈角度が低下したことは皮質脊髄路損傷による神経駆動の低下に起因し、中殿筋の周波数が低下したことは疲労の可能性があると考察しています。
本研究の臨床的意義および今後の展開
本研究成果は、予測困難な摂動が生じる不整地を歩く際の距離に応じた変化について、脳卒中者と健常者の違いを明らかにしており、リハビリテーション専門家が脳卒中者の屋外歩行の適応や疲労を考える際に着目すべき点を示しています。今後は、より長い距離での歩行パラメータの変化や非麻痺側を含めた戦略の特徴を調査する必要があります。
論文情報
Yasuhiro Inui, Naomichi Mizuta, Yuta Terasawa, Tomoya Tanaka, Naruhito Hasui, Kazuki Hayashida, Yuki Nishi, Shu Morioka.
Clinical Biomechanics, Volume 133, 2026, 106747.
問い合わせ先
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
博士後期課程 乾 康浩
教授 森岡 周
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600


