2023.11.29
地域在住ロバスト高齢者における新型コロナウイルス流行下での運動実施と基本チェックリストの下位項目との関連~健康科学研究科
新型コロナウイルスの感染拡大により、身体活動量が減少し、フレイル*の新規発生率が増加しています。フレイル予防には運動習慣などの健康的な生活習慣が重要で、コロナ禍でも同様に運動や社会性の確保、十分な栄養補給が推奨されています。高齢者の運動実施に関する要因は、数多く報告されていますが、コロナ禍のような社会生活が制限された環境下での運動実施の可否に関する要因についてのエビデンスはまだ十分ではありません。
また、わが国では各地方自治体において、要介護状態のリスクが高い高齢者を抽出するために基本チェックリスト**が用いられています。しかし、多くの基本チェックリストを使用した研究では、総該当数によるフレイル判定に用いられており、実際に行政が活用している基本チェックリストの下位項目に着目した報告は少ないのが現状です。
本学大学院健康科学研究科修士課程の中北智士、健康科学研究科の松本大輔准教授、高取克彦教授は、地域在住高齢者を対象にした調査を行いました。その結果、ロバスト高齢者であっても、抑うつ項目(基本チェックリストの下位項目の一つ)に該当する者は、コロナ禍のような社会生活が制限される環境下において運動を実施することが難しいことを明らかにし、その内容を地域理学療法学に発表しました。
*フレイル:健康から障害に至る前段階の状態と位置付けられ、機能予後や要介護度に影響し、早期の死亡リスクを高める。フレイルの段階として、ロバスト(健常)、プレフレイル、フレイルに分けられる。
**基本チェックリスト:二次予防事業対象者の選定のために厚生労働省が作成した。全25項目7つのドメイン(生活機能、運動機能、栄養状態、口腔機能、閉じこもり、認知機能、抑うつ)で構成されている。
研究概要
A市在住の高齢者3,698名を調査し、2018年の基本チェックリストの下位項目と2020年のコロナ禍での運動実施の有無の関連について検討しました。
本研究のポイント
高齢者に対する調査によって、年齢、性別、家族構成、主観的健康感、痛みによる制限、各下位項目を調整しても、抑うつ項目該当者は、該当しない者と比べて、コロナ禍で運動を実施できていない割合が約1.5倍高いことが明らかとなりました。
図1:コロナ禍での運動非実施と抑うつとの関連(オッズ比)
図2:抑うつ者における運動実施・非実施群でのフレイル新規発生率の比較
また、ベースライン時に抑うつ項目該当者であってもコロナ禍で運動実施できている者では、運動実施できていない者に比べてフレイル発生率は有意に少なく(運動実施群14.0% vs 運動非実施群29.4%)、抑うつ該当者でも適切な支援を実施することでフレイルを抑制できる可能性が示唆されました。
本研究の臨床的意義及び今後の展開
本研究は実際に行政が活用している基本チェックリストの下位項目に着目した数少ない研究です。ロバスト高齢者であっても抑うつ傾向にあるものは、コロナ禍のような環境で運動実施することが難しいことが明らかになりました。介護予防に認められている予後予測に基づいた明確な目標設定や支援方法の選定の一助になると考えられます。今後もより地域施策に還元できるような研究に発展させていきたいと思います。
謝辞
研究にご協力いただきました住民の皆様、役場の方々に感謝申し上げます。
論文情報
中北智士,松本大輔,高取克彦. 地域在住ロバスト高齢者における新型コロナウイルス流行下での運動実施と基本チェックリストの下位項目との関連. 地域理学療法学. 公開日2023/11/03.
DOI https://doi.org/10.57351/jjccpt.JJCCPT23002
問合せ先
畿央大学大学院健康科学研究科
修士課程 中北智士
准教授 松本大輔
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: d.matsumoto@kio.ac.jp