SNS
資料
請求
問合せ

ニュース&トピックス

2025.06.03

パーキンソン病患者のベッド動作の自立度低下に関連する要因~ニューロリハビリテーション研究センター

パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)患者は、進行とともにベッド動作(寝返り・起き上がり・寝転がり)の自立度が低下しますが、その関連要因については十分に明らかにされていませんでした。
畿央大学大学院博士後期課程の成田雅氏と岡田洋平教授らは、109名のPD患者を対象に、日中のベッド上動作の自立群/非自立群に分類し、上肢の筋強剛と体軸症状が、すべてのベッド動作の非自立と関連していることを初めて実証しました。また、寝返りの非自立には体幹伸展筋力の低下が関連することも示しました。本研究は、従来明確でなかった各ベッド上動作の自立度低下に関連する要因について包括的に解析し、明らかにした点で新規性があり、ベッド動作の自立度低下を予防、改善するための有効な介入戦略の発展に寄与することが期待されます。この研究成果は、Journal of Movement Disorders誌(Factors associated with the decline ofin daytime bed- mobility independence in patients with Parkinson’s disease: A cross-sectional study)(IF: 2.5)に掲載されています。

 

本研究のポイント

  • パーキンソン病患者109名を対象に、日中のベッド動作(寝返り・起き上がり・寝転がり)の自立と関連する要因について包括的に検証した結果、上肢の筋強剛と体軸症状が全動作に共通する非自立の要因であることが示されました。
  • 各動作には特異的な要因も存在し、寝返りには体幹伸展筋力が関与し、進行期の起き上がり・寝転がりには認知機能が関与することが示唆されました。
  • これらの関連要因の理解に基づく介入戦略が、PD患者のベッド動作の自立度低下の予防、改善、介護負担の軽減に寄与することが期待される。

研究概要

パーキンソン病(PD)は、進行に伴ってベッド上での寝返りや起き上がり、寝転がりといった動作が困難になり、自立度が低下していきます。畿央大学大学院の成田雅氏と岡田洋平教授らの研究チームは、日中におけるベッド上動作の自立度に着目し、Hoehn and Yahr stage 2〜4のPD患者109名を対象とした横断的観察研究を実施しました。本研究では、「寝返り」「起き上がり」「寝転がり」の3つの動作について、運動症状(筋強剛、寡動、振戦、体軸症状)、頸部・体幹・股関節筋力、認知機能との関連を包括的に評価しました。
その結果、上肢の筋強剛と体軸症状は、寝返り・起き上がり・寝転がりの全動作に共通して非自立と強く関連する主要因子であることが明らかになりました。さらに寝返りの非自立には体幹伸展筋力の低下も関与していました。Hoehn and Yahr stage 4の患者群に限定した分析では、起き上がりや寝転がりの非自立群において、**Mini-Mental State Examination(簡易認知機能検査)のスコア低値およびTrail Making Test Part A(注意機能検査)**の時間延長がみられ認知機能と注意機能の低下が関連することも示されました。
これらの結果から、上肢の筋強剛や体軸症状に対する介入に加え、個別化した認知機能への支援を含む早期介入が、ベッド動作の自立度維持に寄与する可能性が示唆されました。今後は、これらの関連要因の理解に基づく介入戦略が、PD患者のベッド動作の自立度低下の予防、改善、介護負担の軽減に寄与することが期待されます。

 

研究内容

本研究は、パーキンソン病(PD)患者における日中のベッド動作の自立度低下に関連する臨床的因子を明らかにすることを目的とした横断的観察研究です。Hoehn and Yahr stage 2〜4のPD患者109名を対象に、寝返り、起き上がり、寝転がりの3つの動作について、左右両方向に3回ずつ実施し、全て自力で完遂できた場合を「自立」、補助(介助やベッド柵利用)を要した場合を「非自立」と判定しました。自立・非自立の判定はビデオ記録に基づき、理学療法士2名が独立に評価し、全例で一致しました。
同時に、運動症状(筋強剛、寡動、振戦、体軸症状)、頸部・体幹・股関節の筋力、認知機能(MMSE、TMT)を評価し、各動作の自立・非自立との関連性を包括的に解析しました。
その結果、すべてのベッド動作において上肢の筋強剛と体軸症状が非自立と有意に関連しており、さらに寝返りでは体幹伸展筋力の低下も関与していることが明らかになりました。

 

 

さらに、ロジスティック回帰分析により各動作の非自立を予測する多変量モデルを構築し、寝返り(AUC=0.84)、起き上がり(AUC=0.78)、寝転がり(AUC=0.92)において良好な識別性能が示されました。

 

 

また、Hoehn and Yahr stage 4の患者に限定したサブ解析では、起き上がり・寝転がりの非自立群において認知機能が有意に低下しており、Mini-Mental State Examinationスコアの低値およびTrail Making Test Part Aの所要時間延長が、注意・実行機能の低下との関連を示しました。
以上より、PD患者における日中のベッド動作の自立度低下には、上肢の筋強剛や体軸症状に加えて、進行期には注意・認知機能の関与も重要であることが示唆され、今後の有効な介入戦略の構築に向けた科学的基盤となることが期待されます。

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究は、パーキンソン病(PD)患者における日中のベッド上動作の自立度に影響する臨床的因子を、動作ごとに詳細に解析した初の横断的観察研究であり、上肢の姿勢保持および体幹起こしがすべての動作に共通する重要な要因であることを明らかにしました。Hoehn and Yahr stage 4に限定したサブ解析では、起き上がり・寝転がりの両動作においては、認知機能の低下が影響することが示されました。これにより、進行期PDでは姿勢制御機能に加えて認知機能要因が動作自立に大きく影響することが示唆されました。
本研究の臨床的意義としては、患者のベッド上動作の自立の難易度を的確に把握し、動作ごとの課題に基づく介入戦略策定や、自立度低下の予防、改善、介護負担の軽減につなげることが期待されます。
今後は、ベッド上動作の自立に関連する要因を経時的に評価する縦断的調査や、初期・OFF期での動作評価、さらに介入効果の検証にも取り組んでいく予定です。

論文情報

Masaru Narita, Kosuke Sakano, Yuichi Nakashiro, Fumio Moriwaka, Shinsuke Hamada, Yohei Okada
Factors associated with the decline in daytime bed mobility independence in patients with Parkinson’s disease: A cross-sectional study
Journal of Movement Disorders, 2025

 

問い合わせ先

畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 成田 雅
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
教授 岡田 洋平
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: y.okada@kio.ac.jp

この記事をシェアする