SNS
資料
請求
問合せ

ニュース&トピックス

2025.06.06

人工膝関節置換術術後患者における術後QOLに関連する複合的因子を調査~運動器リハビリテーション学分野 瓜谷研究室~

近年、人工膝関節置換術術後患者の術後Quality of Life(QOL)に関連する術前要因として性別、Body Mass Index(BMI)、学歴、膝関節の痛み、合併症の数、心理社会的問題が報告されています。また、システマティックレビューでは女性、合併症が少ない事、高いBMIが人工膝関節置換術術後QOL低下の要因として挙げられていますが、術後QOLへの影響度は弱いことが報告されています。関連が弱い要因でも組み合わさることで、術後QOLへの影響が変化する可能性が考えられますが、これらの関係については十分に明らかになっていませんでした。
畿央大学大学院客員研究員の山藤滉己氏、山野宏章氏(宝塚医療大学)、重藤隼人氏(京都橘大学)、鳥澤幸太郎氏(山内ホスピタル)、高﨑博司氏(埼玉県立大学)、瓜谷大輔教授らは、アメリカの変形性膝関節症データベース(Osteoarthritis Initiative;OAI)を用いて、人工膝関節置換術術後患者を対象に術後QOLに関する研究を行いました。その結果、単独で術後QOLに影響を与える弱い術前因子は、他の関連因子と複合的に組み合わさることで単独因子の影響よりも強くなるという関連性をアソシエーションルール分析で明らかにしました。この研究成果は、PLoS One誌(Exploration of combined factors related to quality of life after knee replacement surgery)に掲載されています。

 

研究概要

変形性膝関節症は、膝のこわばり・不安定性・疼痛を主訴とする代表的な変性疾患です。60歳以上では、画像上80%以上に変形性変化がみられ、約40%が症状を訴え、約10%が日常生活に支障を来すと報告されています。変形性膝関節症に伴う痛みと機能障害は QOLの低下と強く関連します。痛みや機能を改善する治療として人工膝関節置換術が広く行われ、術後QOLの改善が期待されますが、約30%では術後1年経過しても十分なQOL回復が得られません。
近年、人工膝関節置換術術後患者の術後 QOLを左右する術前要因として、性別、Body Mass Index(BMI)、学歴、膝痛の強さ、合併症の数、心理社会的問題などが報告されています。しかし、これら要因はいずれも単独ではQOLへの影響度が弱いとされ、システマティックレビューでも一貫した結論は得られていません。実際には「単独で弱い要因」同士が複合的に組み合わさることで、術後QOLに強い影響を及ぼす可能性が示唆されますが、その組み合わせや影響度の変化は明らかになっていません。本研究の結果、単独で術後QOLに影響を与える弱い術前因子は、他の関連因子と複合的に組み合わさる事で単独因子の影響よりも強くなるという関連性をアソシエーションルール分析で明らかにしました。

 

本研究のポイント

  • 人工膝関節置換術術後患者の術後QOLに関わる術前因子の複合的な関連性をアソシエーションルール分析で検討した。
  • 単独因子として、術前の合併症の存在が術後2年の身体的側面のQOLに最も関連する因子として抽出された。
  • 複合的な関連性として、術前の身体的側面のQOLが低値、術前の疼痛高値、術前の身体機能低下、立ち上がり能力低下、高齢は他要因と組み合わさる事で単独因子よりも術後QOLへの影響度が高くなりました。

 

研究内容

本研究の対象は米国のKOA患者のデータベースであるOAIに登録されている4796人の内、KR術前から術後2年間追跡可能であった44名を解析対象者としました。
使用した評価項目は、性別、年齢、BMI、立ち上がりテスト、人工膝関節置換術が片側・両側の情報、合併症(Charlson Comorbidity Index;CCI)、抑うつ症状(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale;CES-D)、関節症状(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index version LK 3.1;WOMAC)の疼痛、こわばり、身体機能、QOL尺度(Short Form12;SF12)の身体的側面(Physical Component Score;PCS)および精神的側面(Mental Component Score;MCS)を使用しました。
各変数は等頻度区間法で「高値」・「低値」の2群に分類し、アソシエーションルール分析を用いて、術前因子と術後QOLに対する影響度および術前因子が組み合わさると術後QOLに対する影響度が変化するかといった複合的な関連性を検証しました。アソシエーションルール分析では信頼度:ルールの正確性、支持度:ルールの出現率、リフト値:ルールの有用性、の3つの指標に基づいてルールを抽出しました。複合的な関連ルールの抽出は、ルールの正確性の指標である信頼度が80%以上、リフト値1.1以上であることを条件に抽出しました。
アソシエーションルール分析の抽出条件を満たしたルールについては、ルールの条件に該当した群を「該当群」、該当しない群を非該当群として分類し、条件変数の該当群と非該当群の比率が統計学的に有意であるかを判断する為に、Fisherの正確確率検定またはχ²検定を実施しました。複合的ルールでは、単独ルールで設定した抽出条件を満たし、分割表の検定で関連を認めた要因が別の要因と組み合わさる事で単独ルールと比較して信頼度、リフト値が高値を示すのかを検討しました。

 

単独ルール

抽出されたルールは合併症(1つ以上)、術前 WOMAC身体機能高値、術前 WOMAC疼痛高値、術前PCS低値、術前立ち上がり動作不良、高齢、術前 WOMACこわばり高値がリフト値の降順に抽出されました(表1)。分割表の検定において条件変数の該当群と非該当群の比率に有意差を認めた項目は合併症、術前WOMAC身体機能低下、術前WOMAC疼痛高値、術前PCS低値、立ち上がり能力低下、高齢であった。信頼度とリフト値が最上位かつ分割表の検定結果において有意差を認めたルールは合併症(信頼度100%、リフト値1。38)でした。一方、術後1年と2年MCS低値の単独ルール、術後1年PCS低値の単独ルールは抽出されませんでした。

 

 

複合的ルール

後2年PCS低値単独ルールで関連を認めたルールが含まれているルールを(表2)(表3)に示しています。術前PCS低値、術前WOMAC疼痛高値、術前WOMAC身体機能低下、立ち上がり能力低下、高齢は他要因と組み合わさる事で信頼度・リフト値が単独ルールよりも高値を示しました。これらのルールは分割表の検定において条件変数の該当群と非該当群の比率に有意差を認めました。

 

 

 

本研究の臨床定義および今後の展開

本研究の結果は人工膝関節置換術術後患者の術後QOLを評価する際には、術前の単独因子のみを考慮するだけでなく、影響を与える要因は組み合わせによって影響度が変化することを示唆する結果です。本研究は後ろ向き研究であり、他の関連因子(心理社会的側面の問題や社会的因子)を考慮できていません。今後は、日本人を対象に前向き研究を実施し、他の交絡因子を含めた場合の影響について調査研究を進めていく予定です。

 

論文情報

Santoh K, Shigetoh H, Yamano H, Torizawa K, Takasaki H, Uritani D.

Exploration of combined factors related to quality of life after knee replacement surgery.

PLoS One.  2025 May 7;20(5):e0323007. doi: 10. 1371/journal. pone. 0323007.  PMID: 40333812; PMCID: PMC12057852.

 

問い合わせ先

社会医療法人杏嶺会 一宮西病院 リハビリテーション技術部
畿央大学 大学院 健康科学研究科
客員研究員 山藤 滉己
E-mail:k.santo725725@gmail.com

畿央大学 健康科学部 理学療法学科/大学院 健康科学研究科
教授瓜谷 大輔
E-mail:d.uritani@kio.ac.jp

この記事をシェアする