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2020.10.22

発達性協調運動障害を有する児の改変された運動主体感~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

予測された感覚フィードバックが実際の感覚フィードバックと時間的に一致する時、その行動は自己によって引き起こされたと経験されます。このように私が自分の行動のイニシエーターでありコントローラーであるという経験のことを運動主体感と呼びます。運動主体感は、ヒトの意欲的な行動に強く関連する重要な経験であり、この経験の重要性は、多くの神経障害・精神障害(脳卒中後病態失認、統合失調症、不安障害、抑うつ、脳性麻痺、自閉症スペクトラム障害)で強調されています。しかしながら、発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder: DCD)を有する児における運動主体感については、明かになっていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らは、中井昭夫 教授(武庫川女子大学)、前田貴記 講師(慶應義塾大学)らと共同で、DCDを有する児の運動主体感について調べる初めての研究を実施しました。 この研究成果は、Research in Developmental Disabilities誌(Altered sense of agency in children with developmental coordination disorder)に掲載されています。   研究概要 DCDとは、協調運動技能の獲得や遂行に著しい低下がみられる神経発達障害の一類型であり、その症状は、字が綺麗に書けない、靴紐が結べないといった微細運動困難から、歩行中に物や人にぶつかる、縄跳びができない、自転車に乗れないといった粗大運動困難、片脚立ちができない、平均台の上を歩けないといったバランス障害まで多岐に渡ります。DCDの頻度は学童期小児の5-6%と非常に多く、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害、学習障害などの他の発達障害とも頻繁に併存することが報告されています。またDCDと診断された児の50-70%が青年期・成人期にも協調運動困難が残存し、頻繁に精神心理的症状(抑うつ症状、不安障害)に発展することも明らかになっています。 DCDのメカニズムとしては、運動学習や運動制御において重要な脳の内部モデルに障害があるのではないかとする内部モデル障害説が有力視されており、それを裏付ける多くの研究報告があります。一方で、内部モデルは「その行動を引き起こしたのは自分だ」という運動主体感の生成に関与していることが分かっています。すなわち内部モデルにおいて、自分の「行動の結果の予測」と「実際の結果」との間の時間誤差が少なくなると、その行動は自分が引き起こしたものだと感じられ、時間誤差が大きくなると、その行動は自分が引き起こしたものではないと感じられます。したがって、 DCDを有する児では、内部モデル障害のために、この運動主体感が変質している可能性がありますが、それを調査した研究は存在しませんでした。 そこで畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らの研究チームは、定型発達児(Typically developing: TD群)とDCDを有する児(DCD群)に参加して頂き、運動主体感の時間窓を調査しました。その結果、TD群とDCD群の両者ともに、運動とその結果との間の時間誤差が大きくなるのに伴って、運動主体感は減少していきました。しかしながら、その時間窓は、TD群よりもDCD群の方が延長していたのです。このことは、DCDを有する児では、行動とその結果の間に大きな時間誤差があったとしても、結果の原因を誤って自己帰属(誤帰属)したことを意味しました。加えて、TD群では、運動主体感の時間窓と微細運動機能との間に相関関係が認められたのに対して、DCD群では、運動主体感の時間窓と抑うつ症状との間に相関関係が認められました。 この研究は、DCDを有する児の運動主体感が変質していることを定量的に明らかにし、その運動主体感の変質と内部モデル障害、および精神心理的症状との間には、双方向性の関係がある可能性を示唆しました。   本研究のポイント ■ DCDを有する児の運動主体感の時間窓は、TD児よりも延長していた。 =DCDを有する児では、行動とその結果の間に大きな時間誤差があったとしても、結果の原因を誤って自己帰属(誤帰属)した。 ■ DCDを有する児の運動主体感の時間窓は、抑うつ症状と相関していた。 =誤った自己帰属(誤帰属)が大きくなるほど、抑うつ症状が重度化していた。 ■ DCDを有する児において、内部モデル障害、精神心理的症状、および運動主体感との間には双方向性の関係があるかもしれない。   研究内容 8~11歳までのDCDを有する児15名とTD児46名が本研究に参加し、Agency attribution task*(Keio method: Maeda et al。 2012、 2013、 2019)を実施してもらいました(図1)。この課題は、参加児のボタン押しによって画面上の■がジャンプするようにプログラムされています。そして、ボタン押しと■ジャンプの間に時間的遅延を挿入することができ、この遅延時間として100、 200、 300、 400、 500、 600、 700、 800、 900、 1000ミリ秒の10条件を設定しました。そして、参加児には“自分が■をジャンプさせた感じがするかどうか”を回答するように求められ、参加児がどのくらいの遅延時間まで運動主体感が維持されるのか(運動主体感の時間窓)を定量化しました。さらに参加児はDCD国際標準評価バッテリー(M-ABC-2)や小児用抑うつ評価(DSRS-C)などの評価も受けました。     図1:Agency attribution task(Keio method: Maeda et al。 2012、 2013、 2019) *Keio Method: Maeda T。 Method and device for diagnosing schizophrenia。 International Application No。PCT/JP2016/087182。 Japanese Patent No。6560765、 2019。   結果として、DCD群の運動主体感の時間窓は、TD群と比較して、有意に延長しました(図2)。このことは、DCDを有する児では、行動とその結果の間に大きな時間誤差があったとしても、結果の原因を誤って自己帰属(誤帰属)したことを意味しました。この結果には2つの理由が考えられました。一つは、以前の研究(Nobusako et al。 Front Neurol、 2018)から、DCDを有する児では、TD児と比較して、内部モデルにおける感覚-運動統合機能が低下しているためであると考えられました。もう一つは、DCDを有する児では、意図した動きと実際の動きが完全に一致しない状況(すなわち運動の失敗)を頻繁に経験するためであると考えられました。   図2:DCDを有する児とTD児における運動主体感の時間窓の違い   加えて、TD児の運動主体感の時間窓と微細運動機能との間には、有意な相関関係がありました。このことは、内部モデルが、学童期児童の運動主体感の生成に比較的大きな貢献をしていることを示した以前の研究(Nobusako et al。 Cogn Dev、 2020)と一致していました。 一方、重要なことに、DCDを有する児における運動主体感の時間窓と抑うつ症状との間には、有意な相関関係があり、このことは誤った自己帰属(誤帰属)が大きくなるほど、抑うつ症状が重度化したことを意味しました(図3)。     図3:DCDを有する児における運動主体感の時間窓と抑うつ症状との相関関係   本研究の意義および今後の展開 本研究は、DCDを有する児では、運動主体感が変質している(時間窓が延長している)ことを定量的に初めて明らかにし、この運動主体感の変質と内部モデル障害、そして精神心理的症状との間には双方向性の関係があることを強く示唆しました。 今後、本研究で提起されたいくつかの限界点を考慮して、DCDを有する児における改変された運動主体感が、運動の不器用さ、そして精神心理的問題の発生に、どのように関与しているのかを調べるさらなる研究が必要です。   関連する先行研究 ■ Nobusako S, Sakai A, Tsujimoto T, Shuto T, Nishi Y, Asano D, Furukawa E, Zama T, Osumi M, Shimada S, Morioka S, Nakai A. Deficits in Visuo-Motor Temporal Integration Impacts Manual Dexterity in Probable Developmental Coordination Disorder. Frontiers in Neurology. 2018 Mar 5; 9: 114. ■ Nobusako S, Tsujimoto T, Sakai A, Shuto T, Hashimoto Y, Furukawa E, Osumi M, Nakai A, Maeda T, Morioka S. The time window for sense of agency in school-age children is different from that in young adults. Cognitive Development. 2020 Apr–Jun; 54: 100891.   論文情報 Nobusako S,Osumi M, Hayashida K, Furukawa E, Nakai A, Maeda T, Morioka S. Altered sense of agency in children with developmental coordination disorder. Research in Developmental Disabilities. 2020; 107: 103794.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 准教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

2020.10.15

新型コロナウイルス感染者の発生について(10/15更新)

2020年10月14日(水)に、本学の学生1名が、新型コロナウイルス感染症の陽性と判定されましたのでお知らせいたします。感染が確認された方の一刻も早い回復を願っております。感染者及びご家族等の人権尊重と個人情報保護に関して、十分なご理解とご配慮をお願いいたします。 保健所からは、当該学生の登学の状況や当該授業の様子、本学の感染対策などから、現在のところ休講等の措置の必要性はないとのご判断をいただいております。今後も引き続き感染症対策を進め、一人ひとりが感染しない、感染させない行動を徹底するよう、より一層、啓発に努め対策等を講じてまいります。

2020.09.30

課外活動の段階に応じた活動再開について(第2報)

在学生の皆さまへ   本学公認のクラブ・サークル団体は、2020年7月15日(水)より「課外活動の段階的な再開のための基準-STEP1-」に則り、事前に「活動計画書兼誓約書」を提出し、許可を得た団体のみその活動を認めてきました。   コロナウイルス感染症についてはまだ予断を許さない状況ではありますが、奈良県及び近畿地区の新規感染者数が落ち着いてきていること、大学の活動制限のガイドライン対応レベルが「レベル2」に緩和されたことを受けて、10月1日(木)より課外活動の段階的な再開のための基準をSTEP2へ移行することとしました。   STEP2から活動再開を希望する団体については、STEP1と同じく活動再開の許可を得る必要があります。必要な手続きや活動するための条件については、以前KiTssにてお知らせした通りです。更に詳細について、9月28日(月)・29日(火)に実施したクラブ・サークル代表者会議で各代表者にお伝えしました。   活動を許可された団体は、大学から許可を受けた活動内容・感染防止対策に従い、細心の注意を払いながら活動をしてください。 畿央大学 学生支援センター   【関連記事】 飲食店等におけるクラスター発生の防止について(2020.7.31) 課外活動の段階に応じた活動再開について(2020.7.15)

2020.09.29

ルールへの気づきが行為主体感を増幅させる~ニューロリハビリテーション研究センター

自身の行為を制御している感覚を行為主体感といいます。畿央大学大学院博士後期課程の林田一輝 氏と森岡 周 教授はルールへの気づきが行為主体感を増幅させるのかどうかについて検証しました。この研究成果は、Brain Sciences誌(Intentional Binding Effects in the Experience of Noticing the Regularity of a Perceptual-Motor Task)に掲載されています。   研究概要 運動制御は、予測と結果を比較照合する繰り返しによって精緻になります。このモデルは、行為主体感の生成でも同じことが考えられています。行為主体感とは、自身の行為を制御している感覚のことであり、予測と結果の誤差が小さいと「この行為は自分で起こしたものである」という経験をすることができます。我々は過去の研究で、知覚運動能力が高いと行為主体感が増幅することを報告しました(Morioka et al. 2018)。しかしながら、どのような要素が行為主体感に影響したのかは不明でした。本研究では、運動課題中の気づき経験が行為主体感へ与える影響を調査することを目的としました。参加者は、暗黙的なルールを含む知覚運動課題とintentional binding課題(行為主体感を定量的に測定できる方法)を同時に実行しました。実験終了後にルールに気づいたかどうかを聴取することで「気づきあり群」と「気づき無し群」に分けることができました。実験の結果、「気づき無し群」と比較して「気づきあり群」は、intentional binding効果が徐々に増幅しました.つまり,法則性(ルール)への気づきが行為主体感を増幅させることが明らかになりました。   本研究のポイント ■ 気づき経験が行為主体感に影響する可能性がある.   研究内容 29名の健常人が実験に参加しました。参加者は水平方向に反復運動する円形オブジェクトをキー押しによって画面の中央で止める知覚運動課題を行いました。キーを押すとすぐに円形オブジェクトが止まり、そのキー押しから数100ms遅延して音が鳴りました.参加者は,キーを押してから音が聞こえるまでの時間間隔を推定しました。この時間間隔を短く感じるほど行為主体感が増幅していることを示します(intentional binding効果)。知覚運動課題のルールへの気づき経験を与えるために、円形オブジェクトの移動速度を暗黙的なルールに基づいて変更しました。移動速度は5段階(速度1:7.09度/秒,速度2:14.13度/秒、速度3:21.06度/秒,速度4:27.84度/秒,速度5:34.43度/秒)であり、速度は1秒ごとに速度1から速度5に徐々に変更されました。速度5の後,速度は再び速度1に設定されました。このループは、参加者がキーを押すまで繰り返されました。すべての試行終了後、参加者は暗黙の規則性に気づいたかどうか聴取されました。本実験は1ブロック18試行、全10ブロックで構成され、3つの段階(初期、中期、後期)に分けることで運動課題とbinding効果の時系列的な変化を調査しました(図1)。   図1:知覚運動課題とintentional binding課題(行為主体感を定量的に測定できる方法)   「気づきあり群」17名、「気づき無し群」12名に分けられました。「気づきあり群」における高い知覚順応効果は参加者がルールに気づいていた結果であることを示しています(図2a).さらに、「気づきあり群」は徐々にbinding効果が増幅したのに対して,「気づき無し群」は徐々にbinding効果が減少していました(図2b)。   図2a.知覚運動課題の成績:気づきあり群はタスク数を重ねるほど成績が高まっています 図2b.Binding効果(=行為主体感の数値):気づきあり群はタスク数を重ねるほど行為主体感は高まっていきます*緑バーが低くなるほど行為主体感が高くなっていることを意味します   本研究の意義および今後の展開 本研究は,気づきが行為主体感に影響を及ぼす可能性を示唆しました.本研究結果は行為主体感の変容プロセス解明の一助になることが期待されます.   関連する先行研究 Morioka S, Hayashida K, Nishi Y, Negi S, Nishi Y, Osumi M and Nobusako S. Changes in intentional binding effect during a novel perceptual-motor task. PeerJ 2018, 6, e6066.   論文情報 Hayashida K, Nishi Y, Masuike A and Morioka S. Intentional Binding Effects in the Experience of Noticing the Regularity of a Perceptual-Motor Task. Brain Sci. 2020   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 林田 一輝(ハヤシダ カズキ) E-mail: kazuki_aka_linda@yahoo.co.jp Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600

2020.09.23

令和2年度SD研修「感染予防対策による新生活・勤務を共に生き抜く」を実施しました。

令和2(2020)年9月4日(金)、本学事務職員を対象としたSD研修会が開催され、36名が参加しました。SDとはStaff Developmentの略で「事務職員や技術職員の資質向上のための取り組み」を意味しています。   畿央大学では例年9月上旬に職員を対象にした全体研修が行われています。今回のテーマは、「感染予防対策による新生活・勤務を共に生き抜く」です。新型コロナウイルスの影響により遠隔授業がスタートする未曾有の事態に、職員もこれまでの経験がまったく通用しないイレギュラー対応に追われる毎日を送っています。本研修では、業務を離れていったん立ち止まり、上半期を振り返りながら自己開示をし、職員同士でそれを共有することで新たな気付きと相互理解を得る機会にするべく、企画されました。   感染予防対策による新生活・勤務を生き抜くための力をつけることを長期的なねらいとし、以下の3つを具体的な目的に掲げ、ヒューマニスティックな心理療法※のひとつであるゲシュタルト療法の概念を参考に、「今、ここ」での気持ちや感情、思考についての気づきを促し、また、それを言語化することによりあるがままの自己・自らの生きざまに気づいていくということを大切にした研修を計画しました。   ① 個人における安定した心身の健康をめざす=ストレスマネジメント ② 個人の成長や変化につながると言われている気付きの促進 ③ チームワークの形成・強化   ※臨床心理学的な3大流派のひとつ。精神分析(第一勢力)、行動療法(第二勢力)、そしてヒューマニスティック心理療法/人間性心理学(第3の勢力)が挙げられる。   なお本研修は、十分な感染予防対策を講じた上で実施いたしました。     自己開示をキーワードに小グループ(4人1組)になり、今回の新型コロナウイルス感染予防対策による新生活・勤務において、「私生活や仕事における変化」「変化により感じたこと」について、グループワークを行いました。直後にその経験を振り返り、さらにそのグループメンバーと今回のグループワークでの体験を分かち合うというプログラムで進めました。     本研修を企画・運営したプロジェクトメンバーからは、 「他部署の業務における対応の現状を知ることができた。」 「生活環境が違う立場の人の意見を聞くことができた。」 「自分の気持ちを言語化して他者に伝えることで、自分の感じているストレスが明確になった」 「研修を機にこれまでの振り返りをすることができ、気持ちの整理をすることができた。」 「つながりを感じられる良い研修になった。これからも、他のメンバーとも交流を深めていきたい。」 などといった声が挙がりました。   この研修を実施し、これまで自分自身が抱えてきたストレスだけでなく、共有をすることによって職員同士多くの気付きを得られたと共に、前向きな意見が想定よりも多く見られました。これから後期へ進むにおいて、この時期に振り返りを行い、各々が気付きを得られたことはとても貴重な機会となりました。   今回の研修で参加者から出た気づきについては、今後個々にとどめることなく、本学内で改善すべき点を共有し、反映できるよう努めることで、これからも学生の皆さんのより質の高い「学び」を提供していく予定です。

2020.09.23

利用できる手がかりに応じて変化する運動制御時の自他帰属戦略~ニューロリハビリテーション研究センター

動作の中で得られる感覚を自己帰属したとき(自分で自分の運動を制御していると思えるとき)、我々はその感覚に基づいて運動を制御しようとします。この自己帰属は、内的予測や感覚フィードバックといった感覚運動手がかりや、知識や思考といった認知的手がかりなどに基づいて決定されることが報告されています。畿央大学大学院博士後期課程・日本学術振興会特別研究員の宮脇 裕 氏と森岡 周 教授は,運動制御時にこれらの手がかりがどのような関係性で利用され自他帰属が達成されるのかについて検証しました。この研究成果は、Attention, Perception, & Psychophysics誌(Confusion within feedback control between cognitive and sensorimotor agency cues in self-other attribution)に掲載されています.   研究概要 自他帰属(Self-other Attribution)とは、自己由来感覚と外界由来感覚を区別することを指します。この区別が上手くいかなくなると、「自分で自分の運動を制御している」という運動主体感の変容を招いたり、不必要な感覚に基づいて運動を遂行してしまったりすることが明らかにされています。この自他帰属には、運動の内的予測や感覚フィードバックといった「感覚運動手がかり」や、自分の持つ知識や思考といった「認知的手がかり」が関与することが報告されています。そしてこれらの手がかり間の関係性について、最適手がかり統合(Optimal Cue Integration)と呼ばれる仮説が提唱されています。本仮説によると、脳は状況に応じた手がかりの信頼性を計算し、その信頼性に基づいて自他帰属にどの手がかりを利用するか決定すると考えられています。しかしながら、運動に直接関与しない認知的手がかりが運動制御時の自他帰属に影響しうるのかは依然明らかになっていません。 宮脇 裕 氏(畿央大学大学院博士後期課程,日本学術振興会特別研究員,慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)と森岡 周 教授は、フィードバック制御課題を用いて、自他帰属における認知的手がかりの効果について,感覚運動手がかりの情報量を操作した3つの実験により検証しました。その結果、感覚運動手がかりが十分に利用できる状況では(実験1)、,認知的手がかりは自他帰属に利用されませんでしたが、感覚運動手がかりの情報量が少ない状況では(実験2)、認知的手がかりも自他帰属に利用されることが示されました。そして興味深いことに、感覚運動手がかりが十分利用できないような状況では(実験3)認知的手がかりの効果は認めず、これらの実験から、運動制御では認知的手がかりの効果は特定の状況に限定される可能性が示されました。   本研究のポイント ■ 運動制御時の自他帰属は感覚運動手がかりに基づく。 ■ 運動制御では認知的手がかりは特定の状況においてのみ自他帰属に影響しうる。 ■ 認知的手がかりの効果は利用できる感覚運動手がかりの情報量に依存する可能性がある.   研究内容 参加者(健常大学生)は,モニタ上に表示されたターゲットラインをなぞるようにペンタブレット上で上肢の正弦曲線運動を遂行しました(図1; Asai, 2015)。この際,視覚フィードバックとしてカーソルが表示されました。感覚運動手がかりとして、カーソルの動きには、自分のリアルタイムの運動が反映される条件(自己運動条件)と、事前に記録した運動が反映される条件(フェイク運動条件)がありました。参加者は、自分の実際の運動とカーソル運動の時空間的な一致性に基づき、カーソルが自己運動を反映していると判断できる場合にそのカーソルを操作しターゲットラインをなぞることを求められました。     図1:実験セットアップ    ターゲットラインの前半(Cycle 1と2)では、カーソルの形を動きに対応付け、形に基づき自他帰属させることで形を認知的手がかりとして与えました(図2)。具体的には、前半では●の形のカーソルは自分のリアルタイムの運動(自己運動)を反映し、※のカーソルは事前に記録した運動(フェイク運動)を反映していたため、参加者に形の情報から自他帰属することを求めました。特に、形を基にカーソルを制御する条件を設け、形をプライミングしました。ターゲットラインの後半(Cycle 4と5)まで運動を進めると、この対応関係が変化することがあり、この際に参加者が動きと形どちらの手がかりを用いて自他帰属するかを検証しました。課題中にターゲットラインとペン座標の距離を運動エラーとして測定し、この運動エラーから手がかりの利用度を算出しました。     図2:実験デザイン   実験2と3では、それぞれカーソルを8 Hzと4 Hzで点滅させることで、カーソルの動きの情報量を減少させました。この際,動きの情報量減少により認知的手がかりの効果が変動するかを検証しました。 結果として、実験1の感覚運動手がかり(カーソルの動き)が十分に利用できる状況では、自他帰属において認知的手がかり(カーソルの形)の効果は認めませんでしたが(図3)、実験2の感覚運動手がかりの情報量が少ない状況では、認知的手がかりも自他帰属に利用されるようになりました(図4)。そして実験3の感覚運動手がかりがほとんど利用できない状況では,認知的手がかりの効果は認めませんでした(図5)。     図3:実験1における運動エラー   運動エラーについては、各条件とベースライン条件(視覚フィードバックなし)間の差分を算出しています。また,サイクル3で各条件の運動エラーの値がゼロになるようにロックしています。自己運動条件(青線)とフェイク運動条件(緑線)間の運動エラーにおける差は,参加者が後半にカーソルの動きに基づいて自他帰属を為したことを示します。●条件(実線)と※条件(点線)間の差は、参加者が後半にカーソルの形に基づいて自他帰属を為したことを示します。エラーバーは標準誤差を示します。   図4:実験2における運動エラー   実験2では、カーソルを8 Hzで点滅させることで、実験1に比べて自他帰属に利用できる感覚運動手がかりの情報量を減少させました。   図5:実験3における運動エラー   実験3では、カーソルを4 Hzで点滅させることで、実験2からさらに感覚運動手がかりの情報量を減少させました.   本研究の意義および今後の展開 本研究は、運動制御時の自他帰属が感覚運動手がかりを基になされており、その手がかりを利用できてかつ情報量が少ない状況では認知的手がかりで代償しうるという、健常者における運動制御時の自他帰属戦略を示唆しました。今後は、感覚運動手がかりの利用に問題をきたす可能性がある脳卒中後遺症を有する方々を対象に、その自他帰属戦略について健常者との相違を検証していく予定です。これらの検証による研究の発展は,脳卒中後遺症の病態と運動主体感の関係性を解明する一助となることが期待されます。   関連する先行研究 Asai T. Feedback control of one’s own action: Self-other sensory attribution in motor control. Conscious Cogn. 2015;38:118-129.   論文情報 Miyawaki Y, Morioka S. Confusion within feedback control between cognitive and sensorimotor agency cues in self-other attribution. Atten Percept Psychophys. 2020   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 宮脇 裕(ミヤワキ ユウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: yu.miyawaki.reha1@gmail.com 

2020.09.15

令和2年度 遠隔授業説明会(研修会)を開催しました。

9/9(水)と9/10(木)16:00からKB04講義室にて「遠隔授業説明会」が開催されました。非常勤の先生方を含む教員・職員を対象に、学生支援センター・教育学習基盤センターが共催で企画し、今年度のFD研修会も兼ねる形での開催となり、2日間で約90名の教職員が参加しました。     本学では4月以降、対面での対応が不可欠な授業を除いて遠隔授業を実施してきました。後期の授業は「科目の性質等に応じて対面授業と遠隔授業を併用する新たな授業運営形態(ハイブリット型)をとる」こととなり、本学で活用しているOpenCEAS(授業支援型ラーニングシステム)の使用方法を改めて確認することや、遠隔授業に使えるツールの紹介、その他様々な遠隔授業に関する情報共有を行いました。特に学生の皆さんから寄せられた声に全員が耳を傾け、教員の苦労や工夫、成功例を共有することで、後期からの遠隔授業をより円滑に進めていくことを目的としました。     第1部では、前期末に学生の皆さんにお願いした「遠隔授業アンケート」についての紹介がありました。このアンケートは前期の遠隔授業について振り返りを行い、実態を把握するとともに、後期に向けた改善点や課題を見出すことを目的にしたものです。まず、前平泰志先生(教育学部長兼 教務委員長)より総評があり、その後、学生アンケートの結果を全員で共有しました。このアンケートの回答総数は934件、回答率は42.7%でした。web試験や最終レポート提出と重なる時期の実施であったにもかかわらず、多くの回答を得ることができました。以下はその一部です。     遠隔授業の受講については、「快適とまではいえないが、大きなストレスを感じることはない」が46.8%ともっとも多く、「特にストレスを感じることはなく、快適である」と合わせると6割近い皆さんが概ね順調に学修を進めているようです。一方、残り4割の皆さんは何かしらのストレスを抱えていることになり、今後の課題として真摯に受け止めるべきであると確認しました。     遠隔授業は「課題提示型」「オンデマンド型」「双方向型」の大きく3つに分けられますが、今回のアンケートで最も支持を集めたのは自分のタイミングで自由に視聴できる「オンデマンド型」で、課題提示型と双方向型はほぼ同数という結果になりました。その他、対面授業よりも質問がしづらいと感じた学生が半数にのぼること、フィードバックの有無が満足度に影響していることなどを共有しました。 ご協力いただいた学生の皆さん、本当にありがとうございました。今後の授業実施にあたって、大変参考になるものでした。アンケートのまとめについては学内メールで配信していますので、ご確認ください。     また、福森貢先生(健康科学部 理学療法学科 教授兼 教育学習基盤センター長)よりOpenCEAS機能の新たな改良点についての説明と、Microsoft365やZoomといったツールや便利な機能の紹介がありました。   第2部では、前期に実施された遠隔授業の中で、評価が高かった授業の事例報告がありました。今回紹介されたのは、大久保賢一先生(教育学部 現代教育学科 准教授)が担当されました「特別支援教育入門B」です。授業で実際に使用された音声画像つきのパワーポイント動画を提供いただいて視聴しました。多くの先生が遠隔授業は初めての経験で、前期は試行錯誤の日々でしたが、普段目にしない他の先生の授業は後期に向けて大変参考になったようです。   ▼説明会は録画して、全教職員で後日共有できるように     最後に、参加した教員間で、遠隔授業の経験談や、遠隔授業に関する疑問点などについて様々な意見・情報交換が行われました。予定した時間を超えてご相談される先生方もいらっしゃいました。学生の皆さんの声を真摯に受け止めるとともに、後期の遠隔授業運営にむけて、貴重な意見交換の場となりました。     9月現在、新規感染者数の推移は一時に比べると少し落ち着いているようです。大学としても、少しずつ対面授業を増やしていく予定ですが、感染リスクを無視して楽観視しすぎることはできません。遠隔授業は通常の授業と比較すると失われるものはあると思います。しかし“元に戻るまでの我慢”と悪いところだけに目を向けるのでなく、遠隔授業の新しい可能性を最大限まで高める努力を行い、対面授業とのバランスをとりながらこれからの授業を進める予定です。今後もこのような研修会が開催できればと思います。学生の皆さん、先生方にはご苦労、ご不便をおかけしますが、ご協力をよろしくお願いします。

2020.09.04

公立学校教員採用試験(1次試験)速報〜2021年3月卒業予定者

2021年度公立学校教員採用試験がほとんどの自治体で終了し、今は最終結果を待つのみとなっています。1人でも多くの学生が所期の目標を達成できることを祈りつつ、これからも様々な支援を行っていく予定です。 一人ひとりの夢がかなうように、大学一丸となって最後まで応援していきます。ゴールは近い。頑張れ、畿央生!   教採・公務員対策室   公立学校教員採用試験 都道府県・市別の合格者数(2020年9月4日現在 判明分) 【小学校教諭】現代教育学科 都道府県・市 受験者数  1次合格者数 1次合格率 大阪府 18 17 (1次免除含む) 94.4% 大阪市  14 11 (1次免除含む) 78.6% 堺市 6 3 50.0% 奈良県 37 25 67.6% 京都市 3 1 33.3% 兵庫県 2 1 50.0% 和歌山県 2 1 50.0% 三重県 21 20 95.2% 岡山県 8 7 87.5% 鳥取県 30 29 96.7% 島根県 2 2 100% 山口県 1 1 100% 高知県 63 44 69.8% 愛知県 7 5 71.4% 愛媛県 3 2 66.7% 横浜市 2 2 100% 千葉県 7 7 100%   【養護教諭】現代教育学科 都道府県・市 受験者数  1次合格者数 1次合格率 大阪市  3 1 (1次免除含む) 33.3% 堺市 3 2 66.7% 奈良県 7 6 85.7% 京都市 2 1 50.0% 三重県 6 6 100% 島根県 2 2 100% 高知県 19 6 31.6% 愛媛県 5 5 100%   【特別支援学校教諭】現代教育学科 都道府県・市 受験者数 1次合格者数 1次合格率 大阪府 2 2 (1次免除含む) 100% 奈良県 2 1 50.0% 神戸市 1 1 100% 鳥取県 3 3 100% 高知県 4 3 75.0% 愛知県 1 1 100% 愛媛県 1 1 100% 長野県 2 2 100%     【栄養教諭】健康栄養学科 都道府県・市 受験者数 1次合格者数 1次合格率 大阪府 1 1 100% 大阪市 1 1 100% 京都市 1 1 100% 高知県 3 1 33.3%   【中学校・高校(家庭科)】人間環境デザイン学科 都道府県・市 受験者数 1次合格者数 1次合格率 愛知県 1 1 100% 長野県 1 1 100% 高知県 1 1 100%     注1. 過年度卒業生を含みません(すべて2021年3月卒業見込者)。 注2. 2020年9月4日現在の判明者数です。今後変動する場合があります。

2020.08.18

新型コロナウイルス感染症の影響による国民年金保険料の猶予に係る臨時特例手続き等の案内について

20歳以上の在学生の皆さんへ   日本年金機構より「新型コロナウイルス感染症の影響による国民年金保険料の猶予に係る臨時特例手続き等」について案内がありました。   ■この制度の概要 新型コロナウイルス感染症の影響で経済的困難な状況にある学生の国民年金保険料の納付について、臨時措置として本人申告の所得見込額を用いた簡易な手続きにより、学生特例申請が可能となりました。   制度の詳細については以下のURLからご覧ください。 https://www.nenkin.go.jp/tokusetsu/gakusei.html     【関連記事】 新型コロナウイルス感染拡大に伴う本学の支援策について(8/4更新) 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金のお知らせ(8/6更新)

2020.08.06

10/24(土)・25(日) 第18回畿央祭の中止について

2020年10月24日~25日に開催予定でありました「第18回畿央祭」について、畿央祭実行委員会および畿友会執行委員会(学生自治会)と協議の上、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、開催中止を決定いたしましたのでお知らせいたします。   例年、畿央祭は地域からも数千人の皆さまにお越しいただいております。新型コロナウイルス感染症の収束の見通しが立たない中での開催は、学生をはじめとする本学関係者ならびに来場者の皆さまの健康と安全を守れないと判断いたしました。   畿央祭を楽しみにしてくださっていた皆さまには大変残念なご報告ではございますが、何卒ご理解の程よろしくお願い申し上げます。   畿央大学 第18回畿央祭実行委員会