SNS
資料
請求
問合せ

ニュース&トピックス

理学療法学科

2021.03.23

理学療法士、関西唯一の6年連続100%!~2021年3月卒業生

  第56回理学療法士国家試験(2021年2月21日実施)の合格発表が3月23日(月)に行われました。関西の私立4年制大学では最も多い15回目の卒業生となる健康科学部理学療法学科では、今春卒業した61名が受験し、全員が合格しました。全国平均は86.4%(新卒のみ)でした。   <理学療法士国家試験合格率の推移> 2016卒 2017卒 2018卒 2019卒 2020卒 2021卒 受験者 62名 67名 72名 64名 76名 61名 合格者 62名 67名 72名 64名 76名 61名 現役合格率 100% 100% 100% 100% 100% 100% 全国平均(新卒) 82.0% 96.3% 87.7% 92.8% 93.2% 86.4%   6年連続の全員合格はもちろん関西の大学で唯一ですが、受験者50名以上の学校で6年連続全員合格となると、全養成校の中で本学のみとなります。   全国の平均(新卒)は昨年よりも7ポイント下がる厳しい結果となりました。試験の難易度や合格率は年により変動しますが、本学の学生は今年もいつも通りのがんばりで、全員合格は6年連続となりました。どのような問題にも対応するためには、試験対策を超える知識が必要です。ましてや今年はコロナ禍の受験となりましたが、動揺することなくやるべきことをしっかりとやり切った結果だと思います。来年にむけても畿央大学生の誇りを持って、一層の努力を期待したいと思います。 理学療法学科 学科長 庄本康治 ※集合写真については撮影直前のみマスクを外し、声を出さないようにして撮影しています。

2021.02.12

他者との目的共有が行為主体感と運動精度を変調する~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

他者との協力動作において、自己と他者の行動が適切に調整されることで作業が円滑に行われます。しかしながら、どのようなメカニズムで他者と相互作用するのかは明らかではありませんでした。近年の理論研究において、"目的共有"が協力動作に重要であることが提案されていますが、その実際は明らかではありませんでした。この可能性を畿央大学大学院博士後期課程 林田一輝 氏と森岡 周 教授 は 行為主体感の観点から実験的に検証しました。この研究成果は、PLOS ONE誌(Goal sharing with others modulates the sense of agency and motor accuracy in social contexts)に掲載されています。   研究概要 人間社会を円滑にするためには、他者との協力動作は不可欠です。しかしながら、どのようなメカニズムで他者と相互作用し運動の精度を向上させているのかは不明でした。近年の予測的共同行為モデルという理論研究において、”目的共有”が自己の生成行為と他者の行為観察に基づく予測プロセスに影響し、協力動作を円滑にする可能性が提案されていますが、その実際は明らかではありませんでした。本研究では、この可能性を行為主体感の観点から検証しました。 行為主体感とは、ある行為やそれに伴う結果を自己に帰属する感覚のことであり、協力動作を含む日常生活の基礎を構成する可能性があるとされています。行為主体感の惹起には、予測プロセスが強く影響することが明らかであり、目的共有が行為主体感を変調する可能性があります。本研究は、目的共有が行為主体感に影響を与え、運動精度を向上させるのかを検証することを目的としました。参加者は2人1組のペアとなった協力群(目標共有)13ペアと独立群(非目標共有)13ペアにランダムに分けられました。実験参加者は、PC画面上を反復して水平移動する円形オブジェクトがターゲットの中心に到達したときにキーを押して、円形オブジェクトを停止することが求められました。そのキー押しから数100ミリ秒後に音が鳴り、参加者はその時間間隔を推定することが求められました。この時間間隔が短く推定される程、行為主体感が増幅していることを示します(binding効果)。参加者は、自己生成行為時と他者行為観察時それぞれの時間間隔を推定しました。協力群はペアで一緒に運動課題の精度を向上するように指示されましたが、独立群はペアがそれぞれ個別に課題を実行しました。本結果は、目的共有が目的非共有と比較して、運動の精度を改善させ、行為主体感を増幅させたことを示しました。   本研究のポイント ■ 目的共有が目的非共有と比較して、運動の精度を改善させ、行為主体感を増幅させる。   研究内容 参加者は2人1組の同性ペアとなり、目的共有する協力群13ペアと目的共有しない独立群13ペアにランダムに分けられました。PCディスプレイ上にblack crossが1秒間提示された後、水平方向に3,294 px/s (画面を1秒間に1.5往復)の速さで反復運動する円形オブジェクトをできるだけ画面中央のターゲットで、キー押しによって止めるように指示されました。オブジェクトの中心と画面中央のターゲットの誤差(px)を算出し、運動精度の指標としました。この値が低い程運動精度が高いことを示しています。「オブジェクトを止める」ためのキー押し後、数100ms後にbeep音が鳴り、参加者は遅延した時間間隔の推定をしました(自己生成行為のbinding効果)。その際、観察しているもう一方の参加者も時間間隔を推定しました(他者行為観察のbinding効果)。この時間間隔が短く推定される程、行為主体感が増幅していることを示します。協力群では先攻のオブジェクトの開始位置はPC画面上でランダムとしました。横方向に反復運動するオブジェクトを先攻はキー押しによって止め、「その止められた位置」から再び縦方向にオブジェクトが動き始めました。そして後攻もオブジェクトを画面中央でキー押しによって止めた。協力群は後攻が止めたオブジェクトの位置をペアの結果として画面に提示されました(図1)。つまり、2名それぞれの参加者の頑張りが1つのチームとしての成績として提示されます。     図1:協力群における実験課題 P=participant(参加者)、つまりP1は参加者の1人で、P2はもう1人の参加者を表す。   一方、独立群は、先攻・後攻ともオブジェクトの開始位置はPC画面上でランダムとし、先攻の結果が後攻に影響しない課題としました(図2)。オブジェクトと画面中央との誤差が0の時を100点(画面中央位置)とし、1試行毎に運動精度の結果を各々提示しました。協力群はペアで協力して運動精度を向上させるよう教示され、独立群はそれぞれが100点を目指すよう求められた。本課題は10block(18試行/block)で構成されました。つまり、相手の成績は自分とは全く関係ないものとして扱われました。   図2:独立群における実験課題 P=participant(参加者)、つまりP1は参加者の1人で、P2はもう1人の参加者を表す。   結果は、独立群と比較して協力群の方が自己生成行為のbinding効果と他者行為観察のbinding効果が増幅していました(二要因分散分析、目的共有(有vs無)×行為(自己生成vs他者観察)にて目的共有に主効果)。さらに協力群の方が運動精度が高いことを示しました(図3)。このことは、目的共有が、運動の精度と行為主体感を増幅させたことを示します。     図3:Binding効果と運動精度   Binding効果が高いほど(値が低くなるほど)行為主体感がつよいことを表す。 協力群では行為主体感が高まっているのが分かる。 平均±標準誤差 黄色プロット: 協力群 青色プロット: 独立群 **p < 0.01,*p < 0.05   本研究の意義および今後の展開 本研究は他者との目的共有が行為主体感を変調させる可能性を示唆しました.協力動作の円滑化のカニズムはまだまだ不明なことが多く、本研究結果は社会的な行為結果の帰属変容プロセス解明の一助になることが期待されます。   関連する論文 Hayashida K, Nishi Y, Masuike A and Morioka S. Intentional Binding Effects in the Experience of Noticing the Regularity of a Perceptual-Motor Task. Brain Sci. 2020 22;10(9):659. Hayashida K, Miyawaki Yu, Nishi Y and Morioka S. Changes of Causal Attribution by a Co-Actor in Situations of Obvious Causality. Front Psychol. 2020 11: 588089.   論文情報 Hayashida K, Nishi Y, Osumi M, Nobusako S and Morioka S. Goal sharing with others modulates the sense of agency and motor accuracy in social contexts. PLoS ONE. 2021 16(2): e0246561.   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 博士後期課程 林田 一輝(ハヤシダ カズキ) センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)   Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2021.02.10

抗重力姿勢時に前庭脊髄路興奮性は増大する~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

ヒトは地球上で重力に抗して座位や立位のような姿勢を保っています。このような抗重力姿勢を保つ上で、前庭脊髄路という神経経路を介した抗重力筋の制御が重要な役割を果たすと考えられています。しかしながら、ヒトにおいて、抗重力姿勢を保つ際に非抗重力姿勢と比較して前庭脊髄路興奮性が増大するかどうかについてこれまで十分に明らかにされていませんでした。畿央大学大学院修士課程の田中宏明氏と岡田洋平准教授は、ヒトにおいて抗重力姿勢時に前庭脊髄路興奮性が増大するかどうかについて、直流前庭電気刺激(Galvanic Vestibular Stimulation: GVS)やH反射という神経生理学的手法を用いて検証しました。この研究成果は、Experimental Brain Research誌(Posture influences on vestibulospinal tract excitability)に掲載されています。   研究概要 前庭脊髄路は抗重力姿勢を保持する上での抗重力筋の制御に重要な役割を果たすと考えられています。しかしながら、ヒトにおいては抗重力姿勢時に前庭脊髄路興奮性が増大するかについては明らかにされていませんでした。ヒトにおいて非侵襲的に前庭脊髄路興奮性を評価する方法として、ヒラメ筋H反射を誘発する脛骨神経刺激の100ms前に直流前庭電気刺激(galvanic vestibular stimulation (GVS))を条件刺激として与えることによるヒラメ筋H反射の促通率を評価するという神経生理学的方法があります。この方法は、耳後部に電極を貼付し直流電流で経皮的に前庭系を刺激し、前庭神経、前庭神経核、前庭脊髄路を介して、脊髄の抗重力筋の運動ニューロン群の興奮性の変化を評価していると考えられています。畿央大学大学院修士課程 田中 宏明 氏 と 岡田 洋平 准教授らの研究チームは、まず実験①において本手法を用いて、抗重力姿勢である座位において、抗重力姿勢ではない腹臥位、背臥位と比較して前庭脊髄路興奮性が高いことを示しました。しかしながら、GVSは乳様突起で電極を貼付し、経皮的に電気刺激する方法であるため、GVSによるH反射の促通が前庭刺激によるものでなく、単なる皮膚刺激によるものである可能性も棄却できていませんでした。そのため、同研究チームは実験②において、背臥位と座位においてGVSと皮膚刺激によるH反射促通の差異について検証し、GVSによるH反射の促通の程度は皮膚刺激による促通の程度よりも大きいことを示しました。   本研究のポイント ■ 座位のGVSによるH反射(最大H波)促通の程度は腹臥位、背臥位より大きかった。 ■ GVSによるH反射(最大H波)促通の程度は皮膚刺激による促通の程度と比較して、背臥位では同程度であったにも関わらず、座位では大きかった。   研究内容 実験①では、14名の健常者が研究に参加しました。対象者は、腹臥位、背臥位、座位の3つの姿勢において両耳後部の乳様突起に電極(右陰極、左陽極)を貼付し、GVSすることによる右ヒラメ筋H反射の変化率について検証しました。その結果、座位におけるGVSによるH反射(最大H波)促通の程度は、腹臥位や背臥位と比較して大きいことが示されました(図1、2、3)。   図1:GVSによるH反射の変化の測定と各姿勢条件   図2:各肢位におけるH反射(最大H波)の波形(GVSあり、GVSなし)(実験1)   図3:GVSによるH反射(最大H波)の姿勢間比較(N = 14)(実験1)   実験②では、実験①の座位におけるGVSによるH反射促通の程度が大きい結果が、GVSによる前庭刺激によるものなのか、単なる皮膚刺激によるものなのかについて明らかにするため、10名の健常者を対象に、背臥位と座位においてGVSと皮膚刺激によるH反射促通の差異について検証しました。GVSは実験①と同様に実施し、皮膚刺激は前庭系を刺激することなく、できる限りGVS時と近い部位を刺激するため、刺激電極を耳介後部と耳垂に貼ってGVS時と同じ方法で直流電流刺激を実施しました。その結果、背臥位、座位ともにGVSだけでなく皮膚刺激によってもH反射(最大H波)が促通されましたが、GVSによるH反射(最大H波)促通の程度は、座位においてのみ皮膚刺激によるH反射(最大H波)促通の程度よりも大きいことが示されました(図4)。     図4:各姿勢におけるGVSおよび皮膚刺激によるH反射(最大H波)の変化率 (実験2)   これらの結果は抗重力姿勢である座位では腹臥位や背臥位と比較して前庭脊髄路が増大することを意味しています。実験②を追加実験として行うことにより、座位におけるGVSによるH反射促通効果の増大は、単なる皮膚刺激によるものではなく、前庭刺激によるものであることが示され、抗重力位である座位において前庭脊髄路興奮性がより増大するという結果の解釈はより強く支持されました。   本研究の意義および今後の展開 本研究は、抗重力姿勢である座位において腹臥位、背臥位よりも前庭脊髄路興奮性が増大することをヒトで初めて明らかにしました。このことは、ヒトにおいて前庭脊髄路が抗重力姿勢の制御に重要であるという従来の説をより支持するものです。今後は、抗重力姿勢において前庭脊髄路興奮静性が増大する神経機序について非侵襲的脳刺激などを用いて検証する必要があります。また、脳卒中やパーキンソン病、前庭疾患などの姿勢制御に異常のある患者を対象にGVSを用いた前庭脊髄路興奮性の評価を行い、臨床において遭遇する姿勢制御の異常と前庭脊髄路機能の関連性について検証し、その病態の理解を深め、介入可能性を模索していきたいと考えています。   関連する論文 Okada Y, Shiozaki T, Nakamura J, Azumi Y, Inazato M, Ono M, Kondo H, Sugitani M, Matsugi A. Influence of the intensity of galvanic vestibular stimulation and cutaneous stimulation on the soleus H-reflex in healthy individuals. Neuroreport. 2018 Sep 5;29(13):1135-1139.   論文情報 Tanaka H, Nakamura J, Siozaki T, Ueta K, Morioka S, Shomoto K, Okada Y. Posture influences on vestibulospinal tract excitability. Exp Brain Res. 2021 Jan 21.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 修士課程 田中宏明 准教授 岡田洋平   Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp  

2021.02.10

ひらめき☆ときめきサイエンス「身体と脳との不思議な関係~身体運動の脳科学~」をオンライン開催しました。

オンラインで学ぶ「脳と運動」の関係性   令和3(2021)年2月6日(土)、『ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~』を実施しました。 「ひらめき☆ときめきサイエンス」は、文部科学省所管の独立行政法人日本学術振興会からの助成を受けて実施されるイベントで、本学ではこれまで小学校高学年の児童を対象に平成21年から毎年実施しており、昨年度に引き続き高校生を対象に開催いたしました。大学は教育研究機関として、国の科学研究費の助成を受けて社会に役立つ様々な研究を行っています。その成果を高校生にも知ってもらい、未来の科学者を育てていくのがこのイベントの目的です。   通算12回目の開催となる今回は新型コロナウイルス感染症拡大の防止のため、対面式での講座ではなく、Zoomを用いて「オンライン」での初開催となりました。     この日のプログラムは「身体と脳との不思議な関係~身体運動の脳科学~」と題し、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志准教授、大住倫弘准教授が講師を務め、脳と運動との密接な関係性を学んでもらいました。   はじめに事務局からZoomの動作確認とこの事業の目的と科研費についての説明、その後信迫先生からも視聴画面の確認や音声の確認を行ったあと、「身体運動の脳科学」と題して脳の構造や簡単な運動を通して“脳科学”の導入を講義してもらいました。     2時間目からは学生スタッフにも登場してもらい、様々な実験機器を使用した実験をLive配信し、画面越しに参加者の皆さんに実験を“疑似体験”していただきました。まず実験1として「映像遅延下運動課題」「両手干渉課題」「運動観察干渉課題」「スプリット・トレッドミル歩行課題」、実験2として「ラバーハンド錯覚課題」「腱振動錯覚課題」「視線計測課題」、最後の実験3は「運動中の脳活動測定」と題し、fNIRS(機能的近赤外分光法)と脳波を使用した運動中の脳活動実験を行いました。1つ1つの実験が終わるごとに画面上で実験の解説を行い、時折専門用語も混ぜつつ、高校生の皆さんにも理解できるように分かりやすく丁寧に説明しました。   ▼Live実験の様子   ▼Live配信の画面(視聴者側)   ▼その他実験の様子   全ての講義が終了した後は参加者にも声を出してもらい、質問タイムのコーナーを設けました。担当教員からは、今後の進路を選択する高校生へ向けて自身の昔話や、高校と大学での学修の違い、また大学生の先輩でもある学生スタッフからも実際の大学での学生生活について話をしてもらいました。     参加者からは「(オンラインではなく)実験などを実際にしてみたかったが、説明もわかりやすく映像での実験も様子がわかりやすかった」「高校生にも理解できるように噛み砕いて教えて下さったので理解しやすかった」等の感想をいただきました。コロナ禍においてほとんどの大学で授業形態の1つとなった“遠隔授業”も、今回の講座を通して高校生のみなさんに体験していただけたのではないでしょうか?   今回の体験を通して参加者の皆さんが科学に対してさらに興味を深めてくれることを願うとともに、次回はぜひ対面でのイベントが開催できるようコロナウイルス感染症が終息していることを祈っています。 ぜひまた畿央大学でのイベントにご参加ください!     【過去のひらめき☆ときめきサイエンス】 2019年「運動と脳との不思議な関係~運動の脳科学~」 2018年「運動中のからだのしくみ」 2017年「運動中の体の不思議を探る~健康をつくる運動と栄養のサイエンス入門~」 2016年「運動中のからだのしくみを発見しよう~健康をたもつ運動と栄養の科学~」 2015年「運動するとからだの中はどうなる?~健康をつくる運動と食事のサイエンス~」 2014年「運動中のからだの不思議を科学する~健康を支える運動と食事を学ぼう~」 2013年「世界から注目される『日本料理』のおいしさをサイエンスするーおだしの文化の調理科学実験ー」 2012年「お母さんの手作り料理の味は一生忘れないってホント?調理科学の不思議体験」 2011年「食から環境を考える」 2010年「食べ物の『おいしさ』と『こく』をサイエンスする」 2009年「食育をサイエンスする」

2021.02.08

経頭蓋直流電気刺激(tDCS)と有酸素運動の組み合わせが鎮痛効果を早める~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

ヒトには、痛みの感受性を低下させる疼痛抑制メカニズムが備わっており、その働きは有酸素運動によって促進されます。この“有酸素運動による鎮痛効果”を得るためには、中等度以上の運動強度(軽いジョギングくらいの運動強度)で10~30分間が必要とされていますが、一部の患者では逆に痛みが増幅してしまうことが指摘されています。そこで、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 佐藤 剛介 客員研究員、森岡 周 教授らは、非侵襲的脳刺激法の一つである経頭蓋直流電気刺激(Transcranial direct current stimulation:tDCS)を有酸素運動と併用すれば、身体の負担を最小限にした鎮痛効果が得られるのではないかと仮説を立て、それを検証しました。この研究成果は、Pain Medicine誌(The effects of transcranial direct current stimulation combined with aerobic exercise on pain thresholds and electroencephalography in healthy adults.)に掲載されています。   研究概要 慢性疼痛は、生活の質や動作能力の低下を引き起こすことが知られており、治療も難しいことから社会的な問題となっています。慢性疼痛の治療には様々な方法があり、その治療法の一つに有酸素運動があります。有酸素運動は、疼痛抑制メカニズムを作動させることにより鎮痛効果を得られる(Sato et al. J Rehabil Med, 2017)ことが知られていますが、中等度の運動強度(軽いジョギングくらいの運動強度)で10~30分間の運動を必要とし、線維筋痛症や慢性疲労を伴う症例では逆に痛みを増強させることが指摘されています。そのため、鎮痛を企図した有酸素運動の適応範囲を拡大する方法を検討していくことは、慢性疼痛の治療にとって重要であります。 近年、非侵襲的脳刺激法の一つであるtDCSが注目されています。tDCSは、頭皮の上から脳に微弱な電流で刺激することにより脳活動を修飾することができる機器であり、一次運動野にtDCSの陽極刺激を行うことで鎮痛効果を得られることが報告されています。さらに、先行研究ではtDCSを単独で使用する場合よりも、他の介入法と併用することでより高い鎮痛効果を得られることが明らかにされています。また、これまでのtDCSによる鎮痛効果を調べた研究では、運動前後での比較に限られており、鎮痛効果の経時的変化を調べた研究はありませんでした。本研究では、健常者を対象に実験的疼痛を用いて、tDCSと有酸素運動の併用による鎮痛効果の時間依存的変化を検証しました。加えて、本研究では鎮痛メカニズムを検証するために、安静時脳波活動を指標として測定しました。   本研究のポイント ■ tDCSと有酸素運動を併用することでより早期かつ大きな鎮痛効果が得られた。 ■ 安静時脳波活動は、後頭領域においてPeak alpha frequency(PAF)の高周波域へのシフトが確認された。   研究内容 健常成人10名が本研究に参加し,以下の3つの条件で運動を実施しました. ① tDCSを単独で行う条件(tDCS条件) ② 偽tDCSと有酸素運動(Aerobic exercise: AE)を併用した条件(Sham tDCS/AE条件) ③ tDCSと有酸素運動を併用した条件(tDCS/AE条件)   tDCSの電極は、陽極を左側の一次運動野、陰極を右側眼窩上部に配置して、2mAで20分間の陽極刺激を行いました。有酸素運動はウォーミングアップの後に20分間実施しました。疼痛閾値は、右側中指の爪で圧痛閾値(Pressure Pain threshold:PPT)を運動開始前と開始から5分毎、運動終了から15分経過時点で測定しました(図1)。   図1:tDCSおよび実験設定と圧痛閾値の測定   図(左)は、電極の位置とtDCS刺激装置を示した。陽極は左側一次運動野、陰極は右側眼窩上部に配置した。図(中)は運動実行中の状況を示す。運動は自転車エルゴメーター上で行い、tDCSによる刺激およびペダリング運動による有酸素運動を行った。図(右)には PPT の測定方法を示した。測定部位は右側中指の爪とし、固定具を用いて圧痛計を垂直に当て測定した。   PPTは、運動開始前と各時点での変化率を求め、PPT変化率の増加は痛みへの感受性が低下していることを示し、鎮痛効果の指標としました。安静時脳波は32チャンネルで測定し、各実験参加者のα帯域でのピークパワーを示す周波数であるPeak alpha frequency(PAF)を前頭領域、中心領域、頭頂領域、後頭領域で算出しました。PAFは、視床―大脳皮質間の神経回路の活動を反映しているとされており、高周波域へシフトしている場合は痛みを感じにくい状態を意味しています。   図2:各時点での圧痛閾値 (PPT)変化率の比較   tDCS条件:tDCSを単独で行う条件 Sham tDCS/AE条件:tDCSと有酸素運動を併用した条件 tDCS/AE条件:偽tDCSと有酸素運動(Aerobic exercise: AE)を併用した条件   図は各時点(5分、10分、15分、20分、運動終了後15分)における圧痛閾値 (PPT)変化率を示す。5-10分後のtDCS/AE条件では、tDCSおよびSham/AE条件と比較して圧痛閾値 (PPT) 変化率が有意に増加した。Sham tDCS/AEおよびtDCS/AE条件の圧痛閾値 (PPT) 変化率は、15~20分でtDCS条件と比較して有意に増加し、tDCS/AE条件はSham tDCS/AE条件よりも有意に高かった。運動終了後15分では、tDCS/AE条件の圧痛閾値 (PPT)変化率はtDCS条件よりも有意に高い状態を維持していた。   結果として、tDCS/AE条件は運動開始5分の時点から他の条件と比較してPPT変化率が有意に増加し、20分経過した時点では83.4%の増加を認めました(*PPTが増加するほど痛みを感じにくくなったことを意味します)。つまり、tDCSを有酸素運動と併用することによって鎮痛効果が早期に認められました。さらに、tDCS/AE条件は、運動終了後15分経過時点でもtDCS条件と比較して有意に高い鎮痛効果を示しました。20分経過時点における他の条件のPPT変化率については、tDCS条件で40.7%、Sham tDCS/AE条件では51.5%となっていました。一方、Sham tDCS/AE条件においては、運動開始より15分と20分経過時点でtDCS条件より有意に高い鎮痛効果を示しました(図2)。   なお、安静時脳波活動については、Sham tDCS/AE条件とtDCS/AE条件において、後頭領域で有意なPAFの高周波域へのシフトが認められました。有酸素運動を行った両条件で有意な変化を認めたことから有酸素運動によるPAFの変化を反映したものと考えられ、tDCS併用による特異的な変化を発見するには至りませんでした。   本研究の意義および今後の展開 本研究は、tDCSと有酸素運動を併用することで、より早期かつ大きな鎮痛効果が得られることを初めて明らかにしました。これは、tDCSによる一次運動野への陽極刺激を併用することで、有酸素運動による鎮痛効果を促進できることを示唆しています。本研究の知見は、有酸素運動により疼痛が増強されてしまうような症例や体力が不十分な症例に対して、tDCSと有酸素運動の併用による介入が有用である可能性を示しています。   関連する論文 Sato G, Osumi M, Morioka S. Effects of wheelchair propulsion on neuropathic pain and resting electroencephalography after spinal cord injury. J Rehabil Med. 2017 Jan 31;49(2):136-143.   論文情報 Sato G, Osumi M, Nobusako S, Morioka S. The effects of transcranial direct current stimulation combined with aerobic exercise on pain thresholds and electroencephalography in healthy adults. Pain Medicine. 2021 in press.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員 佐藤剛介 E-mail: gpamjl@live.jp   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2021.01.27

第6回畿央大学シニア講座「なぜ腰痛を治すために運動が必要なのか、どのように運動をすればいいのか」をオンライン開催しました。

令和3(2021)年1月23日(土)、畿央大学では地域のシニア世代の方々を対象に、「健康」と「教育」について学びを深めるための「畿央大学シニア講座」を開催いたしました。 今回で6回目の開催となりますが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、例年実施していた対面式での講座を実施することが困難となり、今年は初の試みとしてZoomアプリを用いて「オンライン」での開催となりました。   「なぜ腰痛を治すために運動が必要なのか、どのように運動をすればいいのか」をテーマに、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの大住倫弘准教授が、運動不足になりがちなコロナ禍だからこそ正しく腰痛を理解していただくべく、オンライン参加者22名の皆さまに最新の知見を学んでいただきました。     まず、画面上で資料を見ていただきながら、「腰痛のメカニズム」や「痛み」についての講義を行いました。痛みが出たときや痛みが長引くときにどう対処することが良いのか、自身の腰痛の状態についてどのように把握すれば良いのかなど、参加者の方にもわかるよう専門の知識を丁寧にお伝えしました。     また講義だけではなく、腰痛に効果的なストレッチもレクチャーしました。参加者の皆さまが画面越しにストレッチを実践し、動画の中では大住准教授が実際にストレッチのデモンストレーションをしたり、実践のための時間を取ったりして、ただ動画を視聴していただくだけでなく実際に身体を動かす場を設けて参加者の方を退屈させないような工夫も行いました。   ▼腰痛に効果的な体操をレクチャー     すべての講義が終了した後はZoomアプリのQ&A機能を使い、質疑応答の時間を設けました。「1日にどれくらいストレッチをしたら良いでしょうか」「寝方が悪いのですが、それも腰痛の原因でしょうか」等の多くの質問があり、その一つ一つを大住准教授が口頭で回答していきました。   講座終了後、参加者の方からは、「理論的な説明、具体的に運動の仕方を教えていただき、ありがたかった。」「痛みの原因、骨格と筋肉図での解説でわかりやすかった。」といった内容についての感想や、「大学に行かなくても有意義な講座を受講することができました。今後もオンライン講座を開催していただけると気軽に参加しやすいです。」「自宅からも気軽に参加できるので、今後もオンライン枠を残してほしい。」といった、オンライン講座に対しての好評なご感想・ご要望も数多くいただきました。   オンラインでの初開催となりましたが、このような形での情報発信、地域貢献も大変有効だということを実感することができました。引き続き、畿央大学では今後も社会情勢に寄り添いながら、様々な形で地域貢献ならびに社会貢献に取り組んでまいります。   【関連記事】 第5回畿央大学シニア講座 第4回畿央大学シニア講座 第3回畿央大学シニア講座 第2回畿央大学シニア講座 第1回畿央大学シニア講座

2021.01.08

因果関係が明らかな状況下での他者の存在による因果帰属の変化~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

「責任転嫁」は行為結果の原因が曖昧な状況によって起こる社会的問題であることはよく知られています。しかしながら、因果関係が明らかな状況においても責任転嫁が生じるかどうかは不明でした。この潜在的な責任転嫁の可能性を畿央大学大学院博士後期課程の林田一輝 氏と森岡 周 教授はtemporal bindingという手法を用いて検証しました。この研究成果は、Frontiers in Psychology誌(Changes of Causal Attribution by a Co-Actor in Situations of Obvious Causality)に掲載されています。   研究概要 責任転嫁はよく知られた社会現象であり、医療現場においては人命に関わる問題を引き起こします。これまでの研究では、他者の存在によって結果の原因が曖昧になることで、責任帰属が低下していました。しかしながら、自己と他者の両方が結果の原因であることが「明白」な状況であっても、責任転嫁をもたらすかどうかは不明でした。この潜在的な責任転嫁の可能性を知覚的な因果帰属の指標であるtemporal binding(TB)という手法を用いて検証しました。TB効果が低い場合には、責任転嫁が増加していることを示します。因果帰属に及ぼす他者の存在の影響を調べるために、参加者はALONE条件(参加者のみ)またはTOGETHER条件(参加者と他者)の2つの実験条件を実施しました。これらの条件間では「行動が共有されているかどうか」という点だけが異なっており、両条件とも結果の原因が参加者であることは明白な状況でした。参加者の行為結果に対して責任感を感じさせるために、他者に大きな金銭的損失を与えるHigh harm条件と小さな金銭的損失を与えるLow harm条件、金銭的損失を与えないBaseline条件の設定をし、参加者に罪悪感を惹起させる手続きを行いました。実験の結果、他者に大きな金銭的損失を生じさせてしまう条件(High harm条件をTOGETHER条件で実施した場合)では、TB効果が低い値を示しました。つまり、自分のせいで他者に損害が生じた場面にもかかわらず、「他者の損失は自分のせいではない」という責任転嫁が生じました。本研究では、結果の原因が明らかであっても、他者と行動を共にすることによって知覚的な因果帰属が変化することが示唆されました。このことは、非人道的な状況における責任転嫁のメカニズムを理解する上で重要であると考えられます。   本研究のポイント ■ 因果関係が明らかな状況下でも他者との行為の共有は知覚的な因果帰属を変調させる可能性がある。   研究内容 画面上にクロスが1秒間表示された後、1秒ごとに数字をカウントし、数字が3を表示したら、参加者はキーを押すように指示されました。そのキー押しから少しの時間遅延があり、音が鳴りました。ここの時間遅延は、ランダムに200、500、700msが設定されましたが、参加者は1~1000msまでのランダムな時間遅延であると伝えられていました。   図1:実験タスク   参加者はどれだけの時間遅延であったかを推定し、キーボードを用いてその値を回答しました。この時間遅延が短く感じる程、行為(キー押し)と結果(音)の因果帰属が高いことを示します。音の周波数は300Hz、1000Hz、3000Hzのいずれかであり、それぞれの周波数に金銭的損失額が関連付けられていました。金銭的損失額は、損失なしのBaseline条件、1円損失のLow harm条件、200円損失のHigh harm条件の3つの条件で構成されました。ここで提示される周波数(金銭的損失額)の順序は予測不可能でした。Low harm条件またはHigh harm条件の音が鳴ったとき、参加者は時間遅延を推定した後に、実験者が実際に金額を減らす手順を確認しました。参加者は、他者が元々いくら持っていて、いくらお金が減るかについては知らされていませんでした。参加者は、ALONE条件とTOGETHER条件でそれぞれ81回の試行を行いました。10回の練習試行では、周波数と金銭的損失額の関連づけを十分に理解していることが確認されました。実際には、TOGETHER条件では実験者が使用したキーが反応せず、金銭的損失もありませんでした。これらの事実は、すべての実験終了後に参加者に知らされました。(図1)。   この実験の結果、High harm条件を他者と一緒に実施すると(High harm条件×TOGETHER条件)、推定遅延時間が有意に延長しました(図2)。この推定遅延時間が短いほど、自分がボタンを押したという責任を感じていることを表していることから、High harm条件×TOGETHER条件で推定遅延時間が延長することは、他者の損害を自分のせいではないという責任転嫁が生じていることを表しています。つまり、因果関係が明らかな状況においても責任転嫁が生じたということになります。    図2:ALONE 条件とTOGETHER条件の各金銭的損失条件の関係。推定遅延時間が小さい程、因果帰属(自分がボタンを押して音が鳴るという因果帰属)の増幅を示す。High harm条件において、ALONE条件よりもTOGETHER条件で推定遅延時間の有意な延長を認めた。***p < 0.001,**p < 0.01   本研究の意義および今後の展開 本研究は他者との行為共有が知覚的な因果帰属を変調させる可能性を示唆しました。責任転嫁のメカニズムはまだまだ不明なことが多く、本研究結果は社会的な行為結果の因果帰属変容プロセス解明の一助になることが期待されます。   関連する先行研究 Hayashida K, Nishi Y, Masuike A, Morioka S. Intentional Binding Effects in the Experience of Noticing the Regularity of a Perceptual-Motor Task. Brain Sci. 2020 Sep 22;10(9):659.   論文情報 Hayashida K, Miyawaki Yu, Nishi Y and Morioka S. Changes of Causal Attribution by a Co-Actor in Situations of Obvious Causality.  Front Psychol. 2021   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 林田 一輝(ハヤシダ カズキ)  E-mail: kazuki_aka_linda@yahoo.co.jp   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp  

2020.12.24

慢性腰痛患者の筋活動異常は疼痛関連因子と複合的に絡み合って能力障害を引き起こす~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

慢性腰痛患者の筋活動の特徴として、立位でおじぎの姿勢をした時に、腰の筋肉をリラックスさせることができないことが報告されています。しかしながら、このような慢性腰痛患者に特徴的な筋活動が、痛みへの恐怖心、破局的思考などの疼痛関連因子とどのように組み合わさって能力障害を引き起こしているのかについては十分に明らかになっていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程の 重藤 隼人 氏と森岡 周 教授らは、慢性腰痛症例を対象に筋活動異常と疼痛関連因子の評価を行い、おじぎをした時に腰の筋肉をリラックスできないことが、疼痛関連因子と複合的に組み合わさることで能力障害が起こりやすくなるという関連性をアソシエーションルール分析で明らかにしました。この研究成果は、PLOS ONE誌 (Combined abnormal muscle activity and pain-related factors affect disability in patients with chronic low back pain: An association rule analysis)に掲載されています。   研究概要 慢性腰痛患者の筋活動の特徴として、立位で体幹を屈曲した(おじぎをした)時に、完全屈曲位(おじぎをした状態)を保持した時に腰の筋肉をリラックスさせることができないことが報告されており、これは「屈曲弛緩現象の低下」と呼ばれています。加えて、慢性腰痛患者は、腰の曲げ伸ばしの反復動作時に特定の部位の筋肉のみが活動し、背筋群を全体的にまんべんなく使うことができないことが報告されています。一方で、慢性腰痛患者の痛みや能力障害には、心理的因子や身体知覚異常などの多角的な因子が関連することが報告されています。しかし、慢性腰痛患者に特徴的な筋活動が、疼痛関連因子とどのように組み合わさることが能力障害に影響を及ぼすのかについて十分に明らかになっていませんでした。本研究では、筋活動と疼痛関連因子の評価を行い、アソシエーションルール分析を用いて、筋活動異常と疼痛関連因子の能力障害に対する影響度および筋活動異常と疼痛関連因子が組み合わさることで影響度が変化するかといった複合的な関連性を検証しました。その結果、屈曲弛緩現象の低下が疼痛関連因子と複合的に組み合わさることで能力障害がより起こりやすくなるという複合的な関連性があることを明らかにしました。   本研究のポイント ■ 慢性腰痛患者の筋活動異常と疼痛関連因子の能力障害に対する複合的な関連性をアソシエーションルール分析で検討した。 ■ 単独因子としては、屈曲弛緩比率の低下が最も能力障害に関連する因子として抽出された。 ■ 複合的な関連性としては、屈曲弛緩比率の低下が痛み・心理的因子・身体知覚異常と関連することで、より能力障害に影響する複合的な関連性を示した。   研究内容 慢性腰痛患者を対象に、疼痛関連因子の評価と筋活動の評価を行いました。疼痛関連因子の評価として、疼痛:腰部の疼痛(NRS pain)、痛みの性質(SFMPQ-2)、心理的因子:破局的思考(PCS-4)、不安・抑うつ(HADS)、運動恐怖(TSK-11)、腰部の運動恐怖(NRS fear)、自己効力感(PSEQ-2)、身体知覚異常:FreBAQ、能力障害:RMDQを評価しました。筋活動は表面筋電図を用いて、立位体前屈課題時(図1)の脊柱起立筋の筋活動を測定し、腰の筋肉のリラックス度合いの指標である屈曲弛緩比率:FRR、筋活動部位の偏りの指標である筋活動分布変動性を算出しました。   図1:立位体前屈課題   各変数は等頻度区間法で「高値」・「低値」の2群に分類し、アソシエーションルール分析を用いて、筋活動異常と疼痛関連因子の能力障害に対する影響度および筋活動異常と疼痛関連因子が組み合わさることで能力障害に対する影響度が変化するかといった複合的な関連性を検証しました。アソシエーションルール分析では、Confidence:ルールの正確性、Support:ルールの出現率、Lift値:ルールの有用性、の3つの指標に基づいてルールを抽出しました。複合的な関連ルールの抽出は、ルールの正確性の指標であるConfidenceが80%以上であることを条件に抽出し、階層的クラスター分析を用いて類似したルールにまとめました。 単独の変数では、屈曲弛緩不良のLift値が最も大きく(Lift値:1.64)、最も能力障害に影響する変数として抽出されました。 *全体の中で能力障害の症例が抽出される確率と比べると、FRR低値の症例の中から能力障害の症例が抽出される確率の方が64倍大きいことを示しています。   図2:能力障害に関連するルール 複合的な関連ルールを抽出した結果、「屈曲弛緩不良」ルール、「抑うつ」ルール、「運動恐怖」ルール、「中枢性感作症候群」ルール、「破局的思考」ルールが抽出されました(図2)。特に「屈曲弛緩不良」ルールではLift値が最大で2.18まで増加がみられ、能力障害に対する影響が強くなっていることを示しています。   本研究の意義および今後の展開 本研究成果は、慢性腰痛患者の筋活動異常が疼痛関連因子と関連することで能力障害に強く影響するサブグループが存在することを示唆するものです。そのため、今後はこれらの複合的な関連性が経時的な経過にどのように影響するか検討するとともに、疼痛関連因子を考慮した慢性腰痛患者の筋活動に対するアプローチを提唱する臨床研究を進めていく予定です。   論文情報 Shigetoh H, Nishi Y, Osumi M and Morioka S Combined abnormal muscle activity and pain-related factors affect disability in patients with chronic low back pain: An association rule analysis PLoS One 2020   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科  博士後期課程 重藤隼人  E-mail: hayato.pt1121@gmail.com   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp  

2020.12.22

発達性協調運動障害を有する児は本当に視覚に頼りがちなのか!?~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

飛んでくるボールをキャッチするためには、視覚によってボールの位置と速度を捉えることが重要になります。しかしながらボールを捕捉し返球する際には、ボールの大きさや重さ、性状といったプロパティを手の感覚(体性感覚)で捉えることの方が重要になります。このようにヒトは、現在遂行している運動にとって最も重要な感覚情報を、常に提供され続ける五感の中から取捨選択することによって、運動を成功に導きます。しかしながら、発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder: DCD)を有する児においては、運動を実行する際に、五感の中でも視覚に頼りすぎる傾向があり、その視覚依存傾向が運動の不器用さに繋がっていることが示唆されていました。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らは、中井昭夫 教授(武庫川女子大学)、前田貴記 講師(慶應義塾大学)らと共同で、DCDを有する児の感覚依存特性を定量的に調べる初めての研究を実施しました。この研究成果は、Human Movement Science誌(Increased visual bias in children with developmental coordination disorder: Evidence from a visual-tactile temporal order judgment task)に掲載されています。   研究概要 DCDとは、協調運動技能の獲得や遂行に著しい低下がみられる神経発達障害の一類型であり、その症状は、字が綺麗に書けない、靴紐が結べないといった微細運動困難から、歩行中に物や人にぶつかる、縄跳びができない、自転車に乗れないといった粗大運動困難、片脚立ちができない、平均台の上を歩けないといったバランス障害まで多岐に渡ります。DCDの頻度は学童期小児の5-6%と非常に多く、注意欠陥多動性障害、自閉症スペクトラム障害、学習障害などの他の神経発達障害とも頻繁に併存することが報告されており、近年では脳性麻痺ともリスクファクターを共有する連続体である可能性も指摘されています。またDCDと診断された児の過半数が青年期・成人期にも協調運動困難が残存するとされており、DCDの病態理解と有効なハビリテーション技術の開発は、ニューロリハビリテーション研究における喫緊の課題の一つとされています。 運動を遂行する際には、その運動を成功させるのに最も重要な感覚に優先性をつける必要があります。昼間の明るいところで歩く際には視覚から得られる情報は重要になりますが、暗闇で歩く際には視覚に頼れないので、その分、身体感覚や平衡感覚、あるいは聴覚から得られる情報に重きを置くことになります。以前からDCDを有する児では、運動において視覚情報に頼る傾向があり、この視覚情報への依存度の増加が運動パフォーマンスに悪影響を及ぼしている可能性が示唆されていました。しかしながら、これらはいずれも行動観察に基づく示唆であり、DCDを有する児が本当に他の感覚と比べて視覚に依存する特徴を持っているという確固たる証拠はありませんでした。そこで畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らの研究チームは、定型発達(Typically developing: TD)児とDCDを有する児に参加して頂き、感覚依存特性を定量的に調査しました。その結果、DCDを有する児は、TD児と比較して、視覚依存傾向が有意に強いことが示されました。加えて、感覚依存特性と微細運動スキル(手先の器用さ)との間には相関関係が認められ、これは視覚依存傾向が増加するほど、微細運動スキルが低下することを示しました。   本研究のポイント ■ DCDを有する児は、触覚よりも視覚に依存する傾向を示した。 ■ 触覚よりも視覚に依存する傾向が強いほど、微細運動機能は低下していた。   研究内容 6~11歳までのDCDを有する児19名*と年齢と性別を揃えたTD児19名が本研究に参加し、視覚-触覚時間順序判断課題**を実施してもらいました(図1)。この課題では、視覚刺激(光)と触覚刺激(振動)が様々な時間間隔(刺激開始非同期)で呈示され、子どもたちは視覚と触覚のどちらの感覚刺激が早く呈示されたのかを回答します。例えば、実際には触覚刺激が先に呈示されたのに、「視覚刺激の方が早かった」と回答すれば、それは視覚を優先する傾向が強いというように、感覚依存特性(視覚と触覚のどちらに知覚の偏りがあるか)を定量化する課題です。この課題の成績を解析することで得られる主観的等価点(視覚が早いと回答する割合と触覚が早いと回答する割合が丁度50%となる時間間隔)が感覚依存特性の定量指標となりました。 *視覚障害も触覚障害もない。 **Keio Method: Maeda T. Method and device for diagnosing schizophrenia. International Application No.PCT/JP2016/087182. Japanese Patent No.6560765, 2019.     図1:視覚-触覚時間順序判断課題(Keio method: Maeda et al. 2019) 触覚刺激よりも視覚刺激の方が早く呈示される条件、視覚刺激よりも触覚刺激の方が早く呈示される条件、および視覚刺激と触覚刺激が同期して呈示される条件があり、参加児は視覚刺激と触覚刺激のどちらが先に呈示されたかを回答した。   結果として、DCDを有する児は明らかな視覚依存傾向を示し、TD児ではやや触覚に依存する傾向を示しました(図2)。このことは、TD児では、視覚と触覚がほぼ同時に与えられた際に、「触覚刺激が早かった」と答える割合が多いのに対し、DCDを有する児では、「視覚刺激が早かった」と答える割合が多いことを意味しました。加えて以前の研究(Nobusako et al. Brain Sci, 2020)と一致して、感覚依存特性と微細運動スキルとの間には相関関係が認められ、視覚依存傾向が強くなるほど、微細運動スキルは低下していました。以前より微細運動スキルには、手先の触覚情報が重要とされており、それを反映した結果と考えられました。     図2:DCDを有する児とTD児における感覚依存特性の違い   本研究の意義および今後の展開 本研究は、DCDを有する児では触覚障害がないにも関わらず、触覚よりも視覚に依存しやすい特徴を持っていることを定量的に初めて明らかにし、この視覚依存特性の増加と微細運動スキルの低下には相関関係があることを示しました。このことは視覚よりも他の感覚を優先しなければならないような運動においては、とりわけ運動の不器用さが強調される可能性を示唆しています。 今後は、DCDを有する児で観察された視覚依存特性の原因(なぜ視覚に優先性を置くのか?)、視覚依存特性の利点と欠点の明確化(視覚依存特性はどのようなことにメリットがあり、逆にどのようなことにはデメリットがあるのか?***)、そして感覚依存特性の変化が協調運動技能の獲得や遂行に及ぼす影響について調べるさらなる研究が必要です。 ***今回の研究では、視覚依存特性の増加は微細運動スキルにはマイナスの影響を与えていましたが、他の活動(行動面、認知面)にはポジティブな影響を与えている可能性があります。   関連する論文 Nobusako S, Tsujimoto T, Sakai A, Shuto T, Furukawa E, Osumi M, Nakai A, Maeda T, Morioka S. Manual Dexterity is not Related to Media Viewing but is Related to Perceptual Bias in School-Age Children.  Brain Sciences. 2020 Feb 13;10(2):100.   論文情報 Nobusako S, Osumi M, Furukawa E, Nakai A, Maeda T, Morioka S. Increased visual bias in children with developmental coordination disorder: Evidence from a visual-tactile temporal order judgment task. Human Movement Science. 2021; 75: 102743.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 准教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

2020.12.08

慢性腰痛症例の筋活動と疼痛関連因子の経時的な関連性~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

慢性腰痛患者には、立位で体幹を屈曲した時に、完全屈曲位で背筋群が弛緩する屈曲弛緩現象が減弱・消失することが報告されています。また、完全屈曲位から体幹を伸展させる時に背筋群の筋活動が増強もしくは減弱することも報告されています。これらの慢性腰痛患者に特徴的な筋活動と疼痛関連因子の関連性は十分に明らかになっておらず、特に経時的な変化については、同時に変化するのか、どちらかの要素が先行して変化するのかといった経時的な関連性は検討されていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程の 重藤 隼人 氏と森岡 周 教授 らは、慢性腰痛症例を対象に経時的に筋活動と疼痛関連因子の評価を行い、シングルケースにおけるcross-lag correlation analysisを用いて、筋活動異常の改善と疼痛関連因子の改善が同時に生じることを明らかにしました。この研究成果は、Journal of Pain Research誌 (Temporal Associations Between Pain-Related Factors and Abnormal Muscle Activities in a Patient with Chronic Low Back Pain: A Cross-Lag Correlation Analysis of a Single Case)に掲載されています。   研究概要 慢性腰痛患者の筋活動の特徴として、立位で体幹を屈曲した時に、完全屈曲位を保持した時に背筋群が弛緩する屈曲弛緩現象が減弱・消失することや、完全屈曲位から体幹を伸展させる時に背筋群の筋活動が増強もしくは減弱することが報告されています。また、慢性腰痛患者の痛みや能力障害には心理的因子や身体知覚異常などの多角的な因子が関連することが報告されています。しかし、慢性腰痛患者の筋活動と疼痛関連因子の間の経時的な関連性は明らかにされていませんでした。本研究では、経時的に筋活動と疼痛関連因子の評価を行い、シングルケースにおけるcross-lag correlation analysisを用いて、筋活動と疼痛関連因子の間の経時的な関連性を検証しました。その結果、筋活動異常の改善と疼痛関連因子の改善が同時に生じることを明らかにしました。   本研究のポイント ■ 慢性腰痛を有する1症例の筋活動と疼痛関連因子の経時的な関連性をシングルケースにおけるcross-lag correlation analysisを用いて検討した。 ■ 立位体前屈における屈曲弛緩現象の低下の改善と身体知覚異常の改善が同時期に生じるを示した。 ■ 体幹を伸展する時の筋活動の改善と痛み、心理的因子、能力障害の改善が同時期に生じることを示した。   研究内容 慢性腰痛を有する1症例を対象に、疼痛関連因子の評価と筋活動の評価を経時的に行いました。疼痛評価としてShort-form McGill Pain Questionnaire-2 (SFMPQ-2)、心理的因子の評価としてÖrebro Musculoskeletal Screening Questionnaire-12 (OMSQ-12)、身体知覚異常の評価としてFremantle Back Awareness Questionnaire (FreBAQ)、能力障害の評価としてPatient-Specific Functional Scale (PSFS)を評価しました。筋活動は表面筋電図を用いて、立位体前屈課題時の脊柱起立筋の筋活動を測定し(図1)、屈曲弛緩現象の指標である屈曲弛緩比率:FRR、完全屈曲位(完全屈曲相)での筋活動、伸展させている時(伸展相)の筋活動を算出しました。     図1:立位体前屈課題   経時的に測定した筋活動と疼痛関連因子の経時的な関連性を検討するために、シングルケースにおけるcross-lag correlation analysisを行いました。     図2:筋活動指標と疼痛関連因子の同時期における相関係数 各図形は〇:疼痛、△:能力障害、◇:身体知覚異常、□:心理的因子と筋活動指標との相関係数を示しています。塗りつぶされた図形は有意な相関関係であったことを示しています。   本研究の意義および今後の展開 本研究成果は、慢性腰痛患者の経時的な疼痛関連因子の変化が経時的な筋活動の変化に影響することを示唆するものです。そのため、今後はサンプルサイズを増やしてさらなる経時的な関連性の特徴を検討するとともに、疼痛関連因子を考慮した慢性腰痛患者の筋活動に対するアプローチを提唱する臨床研究を進めていく予定です。   論文情報 Shigetoh H, Nishi Y, Osumi M and Morioka S Temporal Associations Between Pain-Related Factors and Abnormal Muscle Activities in a Patient with Chronic Low Back Pain: A Cross-Lag Correlation Analysis of a Single Case  Journal of Pain Research   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科  博士後期課程 重藤隼人 E-mail: hayato.pt1121@gmail.com   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp  

2020.11.24

道具に対する視線探索における道具の新奇性と行為意図の影響~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

道具使用場面において、道具や対象物の物理的な特徴から使用方法を類推する技術推論作業が重要であることが報告されています。技術推論の程度は、道具の機能部分をどれだけ見るかということで定量化されますが、道具を使用する意図の有無による視線探索の違いは明らかになっていませんでした。畿央大学大学院健康科学研究科修士課程修了生(現:医療法人社団仁生会甲南病院)の玉木義規 氏と森岡 周 教授らは、被験者に馴染みのある道具と馴染みのない道具を提示し、自由観察した時、持ち上げを意図した時、使用を意図した時の視線探索の違いを調査しました。この研究成果は、Frontiers in Psychology 誌(Effects of tool novelty and action demands on gaze searching during tool observation)に掲載されています。   研究概要 技術的推論とは、物理的な特徴から道具の使い方を推論することです。技術的推論の程度は、道具の機能的な部分への累積注視時間によって示されます。本研究では、健常成人に対して、3つの条件(自由観察、持ち上げ意図、使用意図)で馴染みのある道具と馴染みのない道具を提示した時の視線探索を調べました。その結果、使用意図なく自由観察した場合でも使用を意図した場合と同様に道具の機能部分へ視線が偏向することが明らかになりました。この結果から、単に道具を見た場合でも道具使用のための技術推論作業が自動的に出現していることが示唆されました。しかし、自由観察時の技術的推論は使用意図時ほど強くはありませんでした。このような自由観察時と使用意図時における技術的推論の違いは、自動的な技術的推論と意図的な技術的推論の違いを示している可能性があります。   本研究のポイント 持ち上げることを意図した時に比べて、使用を意図した時だけでなく、使用意図を持たずに道具を自由観察した時にも道具の機能部分への累積注視時間が長くなることを示した。また、使用意図時(意図的な技術推論)と自由観察時(自動的な技術推論)における視線探索に異なる特徴があることを示した。   研究内容 右利きの健常成人14名が実験に参加しました。被験者は3つの条件でモニター上に6つの馴染みのある道具と6つの馴染みのない道具がランダムに呈示された際の視線移動をアイトラッカー(Tobii Pro X2-60)を用いて調べられました。条件1は画面を注視するだけの自由観察条件で、条件2は持ち上げるようなパントマイムを行う持ち上げ条件、条件3は使用するようなパントマイムを行う使用条件としました。2つのパントマイム条件では、モニターの前に実際に道具があることを想定して手をモニター手前まで到達させてから、指示に応じたパントマイムを行いました(図1)。   図1:(A)実験プロトコル (B)実験風景   道具の機能的な部分への累積注視時間は、技術的推論の程度の定量的な指標としました。 道具種別(馴染みの有無)と条件についての二元分散分析を行ったところ、累積注視時間は持ち上げ条件と比較して自由観察条件および使用条件で有意に増加しました。また、馴染みのない道具における累積注視時間は、自由観察条件と比較して、持ち上げ条件では有意に減少し、使用条件では有意に増加しました(図2)。   図2(左):注視点の可視化 (A)注視点ヒートマップ (B)累積注視位置のヒストグラム 図2(右):機能部分への累積注視時間   本研究の意義および今後の展開 本研究では、馴染みの度合いの異なる道具観察課題において、使用意図時と自由観察時の視線探索の比較によって技術推論の程度が判別できる可能性を示唆しました。今後、道具使用障害を呈する患者に対して同様の課題を実施し、道具使用障害の病態メカニズムの探求につなげていくことが重要です。   論文情報 Tamaki Y, Nobusako S, Takamura Y, Miyawaki Y, Terada M, and Morioka S Effects of tool novelty and action demands on gaze searching during tool observation. Frontiers in Psychology. 2020; 11: 587270.   問い合わせ先 医療法人社団仁生会 甲南病院 リハビリテーション部 筆頭主任・作業療法士 玉木 義規(タマキ ヨシノリ) E-mail: ot44tama@gmail.com     畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp  

2020.11.20

1/23(土)「畿央大学シニア講座」と「畿央大学公開講座」をオンライン開催します。

今年のテーマはコロナ禍における「腰痛」と「感染症」!     本学では、地域の方々に生涯教育の場を提供することで、地域社会に貢献することを目的とした公開講座と、シニア世代の方を対象に「健康」と「教育」について学びを深めていただくシニア講座を毎年実施しています。今年度は、コロナウイルス感染症の影響に鑑み、直接ではなくオンライン(Zoomウェビナー)で講座を開催することといたしました。インターネットに接続できる環境があれば、パソコン・スマートフォンからご視聴いただくことが可能です。同日の開催になりますので、両講座とも受けていただくことも可能となっています。多くの皆さまのご参加をお待ちしております。   開催日時 2021年1月23日(土) 11:00~12:00 畿央大学シニア講座 13:00~14:00 畿央大学公開講座 開催方法 オンライン(Zoomウェビナー) ※視聴用のURLは後日お知らせします。 定員 各回100名(先着順) ※2020年12月1日(火)から申込を開始します。 参加費 無料 第6回 畿央大学 シニア講座        11:00~12:00 なぜ腰痛を治すために運動が必要なのか、どのような運動をすればいいのか ~運動不足になりがちなコロナ禍だからこそ正しく腰痛を理解しよう~     畿央大学 ニューロリハビリテーション 研究 センター 准教授 大住 倫弘 「腰痛のメカニズム」や「痛み」を正しく理解するところからはじめ、痛みが出たとき、あるいは痛みが長引くときにどう対処することがよいのか一緒に学びましょう。そして、コロナ禍だからこそ家庭内でも簡単にできる運動やストレッチをオンライン上で動きを確認しながら、ご自身でも実際に試してください。 第19回 畿央大学 公開講座 13:00~14:00 「感染症について知ろう」~新型コロナウイルスとこれからの生活~     畿央大学 健康栄養学科 教授 根津 智子 感染症に関する基本的なことを参加者の皆さんに知っていただき、一般的な感染症の考え方や対策を学んでいただきます。そして、新型コロナウイルスの特徴や現状、ウイルスに対する各種対策の意義などを紹介し、これからの生活の中でどのような心掛けをしてくことがよいのか、皆さんと一緒に考えていきます。   申込方法 【以下のいずれかの方法でお申し込みください。12/1(火)~受付開始】 E-mailでお申込みの場合 ① 氏名(フリガナ)、② 年齢、③ 住所、④ 電話番号(FAX番号)、⑤参加を希望する講座をご明記の上、info@kio.ac.jpまでお申し込みください。 ※⑤の参加希望講座は、どちらか一方の講座を希望される場合は「講座名」を、両方を希望される場合は「両方希望」と明記ください。 専用フォームによるお申し込みの場合 申込フォーム(下記QRコード) からお申込みください(メールアドレス必須)。 開催前に参加用URLを申込メールアドレス宛に送信します。   【QRコード】   お申し込み・受講にあたっての注意事項 ・本講座は、Zoom(アプリケーション)を利用したZoomウェビナーです。インターネット環境があればパソコン・スマートフォン・タブレットから受講することが可能です。 ・Zoomアプリは必ず最新版にアップデートの上ご覧ください。 ・受講者は顔や名前が他の受講者に表示されることはありません。 ・講座当日までに、お申し込みいただいたE-mailへ受講のためのURLをお送りします。 ・講座の映像・音声等を許可なくスクリーンショットや写真・動画・音声で記録すること、またそれらを第三者に共有・公開することを固くお断りいたします。 ・講座を受講するために必要なURL・パスワードを第三者に共有・公開することを固くお断りいたします。 ・お預かりした個人情報は、本講座に関わる業務にのみ使用します。また、予め本人の同意を得ることなく第三者に提供することはいたしません。   問い合わせ先 畿央大学教育推進部 公開講座係 E-mail:info@kio.ac.jp  TEL:0745-54-1601 FAX:0745-54-1600   ▼ポスターPDF(画像をクリックすると、PDFデータがご覧いただけます。)     【過去のシニア講座の開催レポート】 第5回畿央大学シニア講座 第4回畿央大学シニア講座 第3回畿央大学シニア講座 第2回畿央大学シニア講座 第1回畿央大学シニア講座   【過去の公開講座の開催レポート】 第18回畿央大学公開講座 第17回畿央大学公開講座 第16回畿央大学公開講座 第15回畿央大学公開講座B・C 第15回畿央大学公開講座A 第14回畿央大学公開講座 第13回畿央大学公開講座 第12回畿央大学公開講座

2020.11.11

痛みが予測通りに回復しない症例の特徴~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

「痛み」という症状は、ひとによって回復度合いにバラつきがあり、症状が悪化する場合もあることが報告されています。畿央大学大学院博士後期課程の重藤 隼人氏と森岡 周教授らは、病院やクリニックに通われている筋骨格系の痛みを有する患者を対象に“痛み回復予測モデル”を作成し、「中枢性感作症候群の改善度」が痛みのリハビリテーション予後を悪くすることを明らかにしました。この研究成果は、Pain Research and Management誌(Central Sensitivity Is Associated with Poor Recovery of Pain: Prediction, Cluster, and Decision Tree Analyses)に掲載されています。   研究概要 中枢性感作は、心理的因子とともに痛みを修飾する1つの因子であることが報告されています。しかし、心理的因子と痛みとの関係に中枢性感作が媒介して関与するかどうかは明らかにされていませんでした。本研究では、痛み回復予測モデルを作成し、痛み回復予測値と実測値に基づいた階層的クラスター分析を用いて、①痛みが悪化するグループ、②痛みが予測よりも回復しないグループ、③痛みが予測よりも回復するグループに分類しました。そして、多重比較および決定木分析を用いて、痛みの回復予測に適合する症例と適合しない症例に影響する要因を検証しました。その結果、痛みが予測通りに回復しないグループの特徴として、「中枢性感作症候群の改善度」が抽出されました。   本研究のポイント ■ 痛み回復予測値と実測値に基づいたクラスター分析から、①痛みが悪化するグループ、②痛みが予測よりも回復しないグループ、③痛みが予測よりも回復するグループに分類されました。 ■ 痛みが予測通りに回復しないグループの特徴として、中枢性感作症候群の改善度が抽出されました。   研究内容 入院・外来受診患者を対象に、中枢性感作の評価としてCentral Sensitization Inventory (CSI-9)、疼痛評価としてShort-form McGill Pain Questionnaire-2 (SFMPQ-2)、認知情動因子としてPain Catastrophizing Scale-4 (PCS-4:破局的思考)、Hospital Anxiety and Depression Scale (HADS不安、抑うつ)を評価しました。1-2カ月後の再評価が可能であった患者の結果を用いて、段階的な統計解析を行いました。   <段階的な解析手順>  1.痛みの改善がみられた対象者を抽出する。 2.痛みの改善がみられた対象者のスコアに基づいて、回帰式を作成する(痛み回復モデル)。   痛みの変化量 = −0.52×痛みの初期スコア − 3.34  3.痛み回復モデルから痛み回復の予測値と実測値を算出する。 4.痛み回復の予測値と実測値に基づいた階層的クラスター分析を実施する(図1) 5.クラスター分析で分類したサブグループについて、各変数の多重比較を行う。 6.各変数の変化量の関連性に着目して、相関分析を行う。 7.痛み回復モデルに適合するグループと適合しないグループの特徴を抽出するために決定木分析を行う。       図1:従属変数をクラスター番号,独立変数を痛み関連因子とした決定木分析 クラスター 1:痛みが悪化するクラスター クラスター 2:痛みが予測より回復しないクラスター クラスター 3:痛みが予測より大きく回復するクラスター   決定木分析の結果、各クラスターに分類に関する予測変数として、中枢性感作症候群初期スコアと中枢性感作症候群スコア変化量が抽出されました。特に、中枢性感作症候群スコア変化量は、全てのクラスター分類に関する予測変数として抽出されました。つまり、痛みが予測通りに回復するかどうかに中枢性感作症候群の変化が関連することが示唆されました。   本研究の意義および今後の展開 本研究成果は、従来の研究で報告されていた初期の認知・情動因子および中枢性感作症候群の状態のみならず、中枢性感作症候群の変化が痛みの回復に影響することを示唆するものです。そのため、今後は中枢性感作症候群をはじめとした、痛み関連因子の変化量と合わせて痛みの変化も検討していくことで、サブタイプ分類を行いサブタイプに応じたハイブリッドアプローチを提唱する臨床研究を進めていく予定です。   論文情報 Shigetoh H, Koga M, Tanaka Y, Morioka S Central Sensitivity Is Associated with Poor Recovery of Pain: Prediction, Cluster, and Decision Tree Analyses Pain Research and Management 2020   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科  博士後期課程 重藤隼人 E-mail: hayato.pt1121@gmail.com   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 教授 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2020.10.22

発達性協調運動障害を有する児の改変された運動主体感~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

予測された感覚フィードバックが実際の感覚フィードバックと時間的に一致する時、その行動は自己によって引き起こされたと経験されます。このように私が自分の行動のイニシエーターでありコントローラーであるという経験のことを運動主体感と呼びます。運動主体感は、ヒトの意欲的な行動に強く関連する重要な経験であり、この経験の重要性は、多くの神経障害・精神障害(脳卒中後病態失認、統合失調症、不安障害、抑うつ、脳性麻痺、自閉症スペクトラム障害)で強調されています。しかしながら、発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder: DCD)を有する児における運動主体感については、明かになっていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らは、中井昭夫 教授(武庫川女子大学)、前田貴記 講師(慶應義塾大学)らと共同で、DCDを有する児の運動主体感について調べる初めての研究を実施しました。 この研究成果は、Research in Developmental Disabilities誌(Altered sense of agency in children with developmental coordination disorder)に掲載されています。   研究概要 DCDとは、協調運動技能の獲得や遂行に著しい低下がみられる神経発達障害の一類型であり、その症状は、字が綺麗に書けない、靴紐が結べないといった微細運動困難から、歩行中に物や人にぶつかる、縄跳びができない、自転車に乗れないといった粗大運動困難、片脚立ちができない、平均台の上を歩けないといったバランス障害まで多岐に渡ります。DCDの頻度は学童期小児の5-6%と非常に多く、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害、学習障害などの他の発達障害とも頻繁に併存することが報告されています。またDCDと診断された児の50-70%が青年期・成人期にも協調運動困難が残存し、頻繁に精神心理的症状(抑うつ症状、不安障害)に発展することも明らかになっています。 DCDのメカニズムとしては、運動学習や運動制御において重要な脳の内部モデルに障害があるのではないかとする内部モデル障害説が有力視されており、それを裏付ける多くの研究報告があります。一方で、内部モデルは「その行動を引き起こしたのは自分だ」という運動主体感の生成に関与していることが分かっています。すなわち内部モデルにおいて、自分の「行動の結果の予測」と「実際の結果」との間の時間誤差が少なくなると、その行動は自分が引き起こしたものだと感じられ、時間誤差が大きくなると、その行動は自分が引き起こしたものではないと感じられます。したがって、 DCDを有する児では、内部モデル障害のために、この運動主体感が変質している可能性がありますが、それを調査した研究は存在しませんでした。 そこで畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らの研究チームは、定型発達児(Typically developing: TD群)とDCDを有する児(DCD群)に参加して頂き、運動主体感の時間窓を調査しました。その結果、TD群とDCD群の両者ともに、運動とその結果との間の時間誤差が大きくなるのに伴って、運動主体感は減少していきました。しかしながら、その時間窓は、TD群よりもDCD群の方が延長していたのです。このことは、DCDを有する児では、行動とその結果の間に大きな時間誤差があったとしても、結果の原因を誤って自己帰属(誤帰属)したことを意味しました。加えて、TD群では、運動主体感の時間窓と微細運動機能との間に相関関係が認められたのに対して、DCD群では、運動主体感の時間窓と抑うつ症状との間に相関関係が認められました。 この研究は、DCDを有する児の運動主体感が変質していることを定量的に明らかにし、その運動主体感の変質と内部モデル障害、および精神心理的症状との間には、双方向性の関係がある可能性を示唆しました。   本研究のポイント ■ DCDを有する児の運動主体感の時間窓は、TD児よりも延長していた。 =DCDを有する児では、行動とその結果の間に大きな時間誤差があったとしても、結果の原因を誤って自己帰属(誤帰属)した。 ■ DCDを有する児の運動主体感の時間窓は、抑うつ症状と相関していた。 =誤った自己帰属(誤帰属)が大きくなるほど、抑うつ症状が重度化していた。 ■ DCDを有する児において、内部モデル障害、精神心理的症状、および運動主体感との間には双方向性の関係があるかもしれない。   研究内容 8~11歳までのDCDを有する児15名とTD児46名が本研究に参加し、Agency attribution task*(Keio method: Maeda et al。 2012、 2013、 2019)を実施してもらいました(図1)。この課題は、参加児のボタン押しによって画面上の■がジャンプするようにプログラムされています。そして、ボタン押しと■ジャンプの間に時間的遅延を挿入することができ、この遅延時間として100、 200、 300、 400、 500、 600、 700、 800、 900、 1000ミリ秒の10条件を設定しました。そして、参加児には“自分が■をジャンプさせた感じがするかどうか”を回答するように求められ、参加児がどのくらいの遅延時間まで運動主体感が維持されるのか(運動主体感の時間窓)を定量化しました。さらに参加児はDCD国際標準評価バッテリー(M-ABC-2)や小児用抑うつ評価(DSRS-C)などの評価も受けました。     図1:Agency attribution task(Keio method: Maeda et al。 2012、 2013、 2019) *Keio Method: Maeda T。 Method and device for diagnosing schizophrenia。 International Application No。PCT/JP2016/087182。 Japanese Patent No。6560765、 2019。   結果として、DCD群の運動主体感の時間窓は、TD群と比較して、有意に延長しました(図2)。このことは、DCDを有する児では、行動とその結果の間に大きな時間誤差があったとしても、結果の原因を誤って自己帰属(誤帰属)したことを意味しました。この結果には2つの理由が考えられました。一つは、以前の研究(Nobusako et al。 Front Neurol、 2018)から、DCDを有する児では、TD児と比較して、内部モデルにおける感覚-運動統合機能が低下しているためであると考えられました。もう一つは、DCDを有する児では、意図した動きと実際の動きが完全に一致しない状況(すなわち運動の失敗)を頻繁に経験するためであると考えられました。   図2:DCDを有する児とTD児における運動主体感の時間窓の違い   加えて、TD児の運動主体感の時間窓と微細運動機能との間には、有意な相関関係がありました。このことは、内部モデルが、学童期児童の運動主体感の生成に比較的大きな貢献をしていることを示した以前の研究(Nobusako et al。 Cogn Dev、 2020)と一致していました。 一方、重要なことに、DCDを有する児における運動主体感の時間窓と抑うつ症状との間には、有意な相関関係があり、このことは誤った自己帰属(誤帰属)が大きくなるほど、抑うつ症状が重度化したことを意味しました(図3)。     図3:DCDを有する児における運動主体感の時間窓と抑うつ症状との相関関係   本研究の意義および今後の展開 本研究は、DCDを有する児では、運動主体感が変質している(時間窓が延長している)ことを定量的に初めて明らかにし、この運動主体感の変質と内部モデル障害、そして精神心理的症状との間には双方向性の関係があることを強く示唆しました。 今後、本研究で提起されたいくつかの限界点を考慮して、DCDを有する児における改変された運動主体感が、運動の不器用さ、そして精神心理的問題の発生に、どのように関与しているのかを調べるさらなる研究が必要です。   関連する先行研究 ■ Nobusako S, Sakai A, Tsujimoto T, Shuto T, Nishi Y, Asano D, Furukawa E, Zama T, Osumi M, Shimada S, Morioka S, Nakai A. Deficits in Visuo-Motor Temporal Integration Impacts Manual Dexterity in Probable Developmental Coordination Disorder. Frontiers in Neurology. 2018 Mar 5; 9: 114. ■ Nobusako S, Tsujimoto T, Sakai A, Shuto T, Hashimoto Y, Furukawa E, Osumi M, Nakai A, Maeda T, Morioka S. The time window for sense of agency in school-age children is different from that in young adults. Cognitive Development. 2020 Apr–Jun; 54: 100891.   論文情報 Nobusako S,Osumi M, Hayashida K, Furukawa E, Nakai A, Maeda T, Morioka S. Altered sense of agency in children with developmental coordination disorder. Research in Developmental Disabilities. 2020; 107: 103794.   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学大学院健康科学研究科 准教授 信迫悟志 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

2020.09.29

ルールへの気づきが行為主体感を増幅させる~ニューロリハビリテーション研究センター

自身の行為を制御している感覚を行為主体感といいます。畿央大学大学院博士後期課程の林田一輝 氏と森岡 周 教授はルールへの気づきが行為主体感を増幅させるのかどうかについて検証しました。この研究成果は、Brain Sciences誌(Intentional Binding Effects in the Experience of Noticing the Regularity of a Perceptual-Motor Task)に掲載されています。   研究概要 運動制御は、予測と結果を比較照合する繰り返しによって精緻になります。このモデルは、行為主体感の生成でも同じことが考えられています。行為主体感とは、自身の行為を制御している感覚のことであり、予測と結果の誤差が小さいと「この行為は自分で起こしたものである」という経験をすることができます。我々は過去の研究で、知覚運動能力が高いと行為主体感が増幅することを報告しました(Morioka et al. 2018)。しかしながら、どのような要素が行為主体感に影響したのかは不明でした。本研究では、運動課題中の気づき経験が行為主体感へ与える影響を調査することを目的としました。参加者は、暗黙的なルールを含む知覚運動課題とintentional binding課題(行為主体感を定量的に測定できる方法)を同時に実行しました。実験終了後にルールに気づいたかどうかを聴取することで「気づきあり群」と「気づき無し群」に分けることができました。実験の結果、「気づき無し群」と比較して「気づきあり群」は、intentional binding効果が徐々に増幅しました.つまり,法則性(ルール)への気づきが行為主体感を増幅させることが明らかになりました。   本研究のポイント ■ 気づき経験が行為主体感に影響する可能性がある.   研究内容 29名の健常人が実験に参加しました。参加者は水平方向に反復運動する円形オブジェクトをキー押しによって画面の中央で止める知覚運動課題を行いました。キーを押すとすぐに円形オブジェクトが止まり、そのキー押しから数100ms遅延して音が鳴りました.参加者は,キーを押してから音が聞こえるまでの時間間隔を推定しました。この時間間隔を短く感じるほど行為主体感が増幅していることを示します(intentional binding効果)。知覚運動課題のルールへの気づき経験を与えるために、円形オブジェクトの移動速度を暗黙的なルールに基づいて変更しました。移動速度は5段階(速度1:7.09度/秒,速度2:14.13度/秒、速度3:21.06度/秒,速度4:27.84度/秒,速度5:34.43度/秒)であり、速度は1秒ごとに速度1から速度5に徐々に変更されました。速度5の後,速度は再び速度1に設定されました。このループは、参加者がキーを押すまで繰り返されました。すべての試行終了後、参加者は暗黙の規則性に気づいたかどうか聴取されました。本実験は1ブロック18試行、全10ブロックで構成され、3つの段階(初期、中期、後期)に分けることで運動課題とbinding効果の時系列的な変化を調査しました(図1)。   図1:知覚運動課題とintentional binding課題(行為主体感を定量的に測定できる方法)   「気づきあり群」17名、「気づき無し群」12名に分けられました。「気づきあり群」における高い知覚順応効果は参加者がルールに気づいていた結果であることを示しています(図2a).さらに、「気づきあり群」は徐々にbinding効果が増幅したのに対して,「気づき無し群」は徐々にbinding効果が減少していました(図2b)。   図2a.知覚運動課題の成績:気づきあり群はタスク数を重ねるほど成績が高まっています 図2b.Binding効果(=行為主体感の数値):気づきあり群はタスク数を重ねるほど行為主体感は高まっていきます*緑バーが低くなるほど行為主体感が高くなっていることを意味します   本研究の意義および今後の展開 本研究は,気づきが行為主体感に影響を及ぼす可能性を示唆しました.本研究結果は行為主体感の変容プロセス解明の一助になることが期待されます.   関連する先行研究 Morioka S, Hayashida K, Nishi Y, Negi S, Nishi Y, Osumi M and Nobusako S. Changes in intentional binding effect during a novel perceptual-motor task. PeerJ 2018, 6, e6066.   論文情報 Hayashida K, Nishi Y, Masuike A and Morioka S. Intentional Binding Effects in the Experience of Noticing the Regularity of a Perceptual-Motor Task. Brain Sci. 2020   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 林田 一輝(ハヤシダ カズキ) E-mail: kazuki_aka_linda@yahoo.co.jp Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600

2020.09.23

利用できる手がかりに応じて変化する運動制御時の自他帰属戦略~ニューロリハビリテーション研究センター

動作の中で得られる感覚を自己帰属したとき(自分で自分の運動を制御していると思えるとき)、我々はその感覚に基づいて運動を制御しようとします。この自己帰属は、内的予測や感覚フィードバックといった感覚運動手がかりや、知識や思考といった認知的手がかりなどに基づいて決定されることが報告されています。畿央大学大学院博士後期課程・日本学術振興会特別研究員の宮脇 裕 氏と森岡 周 教授は,運動制御時にこれらの手がかりがどのような関係性で利用され自他帰属が達成されるのかについて検証しました。この研究成果は、Attention, Perception, & Psychophysics誌(Confusion within feedback control between cognitive and sensorimotor agency cues in self-other attribution)に掲載されています.   研究概要 自他帰属(Self-other Attribution)とは、自己由来感覚と外界由来感覚を区別することを指します。この区別が上手くいかなくなると、「自分で自分の運動を制御している」という運動主体感の変容を招いたり、不必要な感覚に基づいて運動を遂行してしまったりすることが明らかにされています。この自他帰属には、運動の内的予測や感覚フィードバックといった「感覚運動手がかり」や、自分の持つ知識や思考といった「認知的手がかり」が関与することが報告されています。そしてこれらの手がかり間の関係性について、最適手がかり統合(Optimal Cue Integration)と呼ばれる仮説が提唱されています。本仮説によると、脳は状況に応じた手がかりの信頼性を計算し、その信頼性に基づいて自他帰属にどの手がかりを利用するか決定すると考えられています。しかしながら、運動に直接関与しない認知的手がかりが運動制御時の自他帰属に影響しうるのかは依然明らかになっていません。 宮脇 裕 氏(畿央大学大学院博士後期課程,日本学術振興会特別研究員,慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)と森岡 周 教授は、フィードバック制御課題を用いて、自他帰属における認知的手がかりの効果について,感覚運動手がかりの情報量を操作した3つの実験により検証しました。その結果、感覚運動手がかりが十分に利用できる状況では(実験1)、,認知的手がかりは自他帰属に利用されませんでしたが、感覚運動手がかりの情報量が少ない状況では(実験2)、認知的手がかりも自他帰属に利用されることが示されました。そして興味深いことに、感覚運動手がかりが十分利用できないような状況では(実験3)認知的手がかりの効果は認めず、これらの実験から、運動制御では認知的手がかりの効果は特定の状況に限定される可能性が示されました。   本研究のポイント ■ 運動制御時の自他帰属は感覚運動手がかりに基づく。 ■ 運動制御では認知的手がかりは特定の状況においてのみ自他帰属に影響しうる。 ■ 認知的手がかりの効果は利用できる感覚運動手がかりの情報量に依存する可能性がある.   研究内容 参加者(健常大学生)は,モニタ上に表示されたターゲットラインをなぞるようにペンタブレット上で上肢の正弦曲線運動を遂行しました(図1; Asai, 2015)。この際,視覚フィードバックとしてカーソルが表示されました。感覚運動手がかりとして、カーソルの動きには、自分のリアルタイムの運動が反映される条件(自己運動条件)と、事前に記録した運動が反映される条件(フェイク運動条件)がありました。参加者は、自分の実際の運動とカーソル運動の時空間的な一致性に基づき、カーソルが自己運動を反映していると判断できる場合にそのカーソルを操作しターゲットラインをなぞることを求められました。     図1:実験セットアップ    ターゲットラインの前半(Cycle 1と2)では、カーソルの形を動きに対応付け、形に基づき自他帰属させることで形を認知的手がかりとして与えました(図2)。具体的には、前半では●の形のカーソルは自分のリアルタイムの運動(自己運動)を反映し、※のカーソルは事前に記録した運動(フェイク運動)を反映していたため、参加者に形の情報から自他帰属することを求めました。特に、形を基にカーソルを制御する条件を設け、形をプライミングしました。ターゲットラインの後半(Cycle 4と5)まで運動を進めると、この対応関係が変化することがあり、この際に参加者が動きと形どちらの手がかりを用いて自他帰属するかを検証しました。課題中にターゲットラインとペン座標の距離を運動エラーとして測定し、この運動エラーから手がかりの利用度を算出しました。     図2:実験デザイン   実験2と3では、それぞれカーソルを8 Hzと4 Hzで点滅させることで、カーソルの動きの情報量を減少させました。この際,動きの情報量減少により認知的手がかりの効果が変動するかを検証しました。 結果として、実験1の感覚運動手がかり(カーソルの動き)が十分に利用できる状況では、自他帰属において認知的手がかり(カーソルの形)の効果は認めませんでしたが(図3)、実験2の感覚運動手がかりの情報量が少ない状況では、認知的手がかりも自他帰属に利用されるようになりました(図4)。そして実験3の感覚運動手がかりがほとんど利用できない状況では,認知的手がかりの効果は認めませんでした(図5)。     図3:実験1における運動エラー   運動エラーについては、各条件とベースライン条件(視覚フィードバックなし)間の差分を算出しています。また,サイクル3で各条件の運動エラーの値がゼロになるようにロックしています。自己運動条件(青線)とフェイク運動条件(緑線)間の運動エラーにおける差は,参加者が後半にカーソルの動きに基づいて自他帰属を為したことを示します。●条件(実線)と※条件(点線)間の差は、参加者が後半にカーソルの形に基づいて自他帰属を為したことを示します。エラーバーは標準誤差を示します。   図4:実験2における運動エラー   実験2では、カーソルを8 Hzで点滅させることで、実験1に比べて自他帰属に利用できる感覚運動手がかりの情報量を減少させました。   図5:実験3における運動エラー   実験3では、カーソルを4 Hzで点滅させることで、実験2からさらに感覚運動手がかりの情報量を減少させました.   本研究の意義および今後の展開 本研究は、運動制御時の自他帰属が感覚運動手がかりを基になされており、その手がかりを利用できてかつ情報量が少ない状況では認知的手がかりで代償しうるという、健常者における運動制御時の自他帰属戦略を示唆しました。今後は、感覚運動手がかりの利用に問題をきたす可能性がある脳卒中後遺症を有する方々を対象に、その自他帰属戦略について健常者との相違を検証していく予定です。これらの検証による研究の発展は,脳卒中後遺症の病態と運動主体感の関係性を解明する一助となることが期待されます。   関連する先行研究 Asai T. Feedback control of one’s own action: Self-other sensory attribution in motor control. Conscious Cogn. 2015;38:118-129.   論文情報 Miyawaki Y, Morioka S. Confusion within feedback control between cognitive and sensorimotor agency cues in self-other attribution. Atten Percept Psychophys. 2020   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 宮脇 裕(ミヤワキ ユウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: yu.miyawaki.reha1@gmail.com 

2020.07.17

理学療法学科教員および大学院修了生が家庭用低周波治療器「DRIVE-HOME」に開発協力!

本学理学療法学科長・健康科学研究科の庄本康治教授および大学院健康科学研究科博士後期課程修了生で現在は大学院客員研究員を務める生野公貴さん(西大和リハビリテーション病院)が、株式会社デンケンより今月発売された家庭用低周波治療器「DRIVE-HOME」に開発協力しました。     開発に携わったお二人に、機器の特長や臨床・自宅での活用について語っていただきました。   庄本教授(写真左)コメント DRIVE-HOMEは、電気刺激による筋力増強トレーニングを家庭で実施可能に設計したコンパクトな機器です。高齢になると下肢筋の筋力低下が増悪しますが、何らかの疾患、手術後ではさらに顕著になります。自分自身で筋力増強トレーニングを定期的に実施できれば良いのですが、様々な問題で筋力増強トレーニングを実施困難な方が多いのが現状です。そのような方を対象とした我々の研究では、下肢筋に約2ヶ月間DRIVE-HOMEを実施して頂くと、かなりの筋力増強が起こり、結果的に動きやすくなることがわかっています。 機器本体を刺激的な赤色にしてユーザーのやる気を誘発し、機器インターフェースは文字も大きく、操作も簡単です。また、理学療法士などの専門家による指導を定期的に受けることによって、最大の効果を得ることが可能であると考えています。     生野さん(写真右)コメント 脳卒中後に生じる麻痺、骨折後での安静、人工関節手術時の切開による侵襲など様々な要因で著明な筋力の低下が生じてしまいます。この筋力低下によって日常の生活に大きな支障をきたします。その筋力低下に対して、リハビリでは積極的な筋力増強練習を実施しますが、麻痺や骨折後で痛みがあれば十分な負荷をかけることが難しく、よい効果が得られないことをよく経験します。電気刺激療法は麻痺や骨折、人工関節手術後の筋力増強練習により高い効果があることが科学的に証明されています。しかしながら、従来の電気刺激装置は高価なものが多く、かつ管理された医療機器のため患者さんが手軽に扱うことはできず、治療時間は限られたものでした。     DRIVE-HOMEは筋力増強に特化した刺激パターンを搭載しているため、医療現場においても十分実施することが可能です。また小型で携帯性に優れているため、病室などどこでもトレーニングすることが可能です。また、DRIVE-HOMEの強みは、病院で実施した練習をそのまま自宅に退院した後も継続できることです。操作が簡単で、かつ筋肉の萎縮の改善に特化した電気刺激のパターンを搭載しているため、自宅でお手軽に、かつ安全に専門的なトレーニングが実施できます。 DRIVE-HOMEは現状のリハビリ医療における問題点をシンプルに解決しており、より効果的なリハビリを可能にする機器であると期待しています。   ▶理学療法学科 ▶健康科学研究科(修士課程) ▶健康科学研究科(博士後期課程)

2020.07.17

脳卒中患者における運動まひの重症度と歩行速度の関係性~ニューロリハビリテーション研究センター

古くから、脳卒中患者の歩行速度は下肢の運動まひの重症度に依存すると言われています。しかし、個々の症例毎に観察すると、運動まひが軽症であるにもかかわらず、歩行速度が低下している症例が存在しています。畿央大学大学院 博士後期課程 水田 直道氏と 森岡 周 教授らは、運動まひの重症度が軽症であるにもかかわらず、歩行速度が低下している症例の歩行特性について検証しました。この研究成果は、Scientific Reports誌(Walking characteristics including mild motor paralysis and slow walking speed in post-stroke patients)に掲載されています。   研究概要 脳卒中患者の歩行速度は、日常生活能力や生活範囲を担保する重要な要因ですが、下肢の運動まひの重症度に強く影響されています。一方で、運動まひが軽症であっても歩行が遅い症例が存在すると考えられており、運動まひの重症度が歩行速度に関係していないといった乖離している症例が一定数存在していることも臨床上明らかですが、なぜかは分かっていませんでした。博士後期課程の水田 直道氏らは、運動まひの重症度と歩行速度の関係性から、クラスター分析を用いてサブグループを特定し、「運動まひが軽症ながら歩行速度が遅い症例の歩行特性」を明らかにしました。この特徴的なグループにおいては、歩行時における不安定性や下腿筋の同時収縮が高値であることが分かりました(関節を動かす筋と動きのブレーキをかける筋が同時に収縮していて運動効率が悪い状態)。加えて、大脳皮質からの干渉を反映する筋間コヒーレンスが高く、運動まひの重症度からみても過剰な皮質制御が歩行速度を低下させていることが考えられました。   本研究のポイント ■ 脳卒中患者を対象に、下肢の運動まひの重症度と歩行速度は概ね関連するが、この関係性から乖離する症例群が一定数存在することが分かりました。 ■ 運動まひが軽症ながら歩行速度が遅い症例は、歩行時の不安定性や下腿筋の同時収縮、大脳皮質からの過剰な干渉が原因であることが分かりました。   研究内容 介助なく歩行可能な脳卒中患者を対象としました。 対象者は運動まひの重症度評価および快適速度での10m歩行テストを行いました。運動まひの重症度と歩行速度の関係性をもとにクラスター分析を行い、運動まひが軽症ながら歩行速度が遅い症例を抽出しました(図1)。      図1:運動まひの重症度と歩行速度の関係性   運動まひの重症度と歩行速度は正の相関関係を認めましたが、それらの分布を確認すると運動まひの重症度と歩行速度の関係性から乖離している症例が確認されました。そこで階層的クラスター分析を行い、5つのサブグループを抽出しました。 クラスター1 :運動まひは軽症から中等症、歩行速度は低値 クラスター2 :運動まひは重症、歩行速度は低値 クラスター3 :運動まひは重症、歩行速度は中等度 クラスター4 :運動まひは軽症、歩行速度は中等度 クラスター5 :運動まひは軽症、歩行速度は高値    図2:各クラスターにおける体幹加速度と筋活動波形、筋間コヒーレンスの結果   (A)運動まひが軽症から中等症にもかかわらず、歩行速度が低下しているクラスター1は、立脚期(図2のDS1,SS,DS2の区間)の体幹加速度が高値を示し、体幹動揺が大きい状態でした.またクラスター1の前脛骨筋および腓腹筋の筋活動は、歩行周期の各相に応じた筋活動の増減が少なく、同時収縮指数が高いことがわかりました。 (B)beta帯域のコヒーレンスは筋活動の起源が大脳皮質由来であることを示します。コヒーレンスは各クラスターによって大きく異なり、クラスター1が最もコヒーレンスが高いことがわかりました。   本研究の意義および今後の展開 この研究では、運動まひが比較的軽症にもかかわらず、歩行速度が低下している症例の歩行特性について、運動学的ならびに運動力学的に検証しました。結果として、そのような特性を有する症例では、運動機能は比較的残存しているにもかかわらず、体幹の不安定性や下肢筋の同時収縮、過剰な大脳皮質制御によって残存機能がマスクされている可能性が考えられました。今後は、クラスター別に歩行能力の回復へ貢献する要因について調査する予定です。   論文情報 Mizuta N, Hasui N, Nakatani T, Takamura Y, Fujii S, Tsutsumi M, Taguchi J, Morioka S. Walking characteristics including mild motor paralysis and slow walking speed in post-stroke patients. Scientific Reports. 2020   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 水田 直道(ミズタ ナオミチ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 peace.pt1028@gmail.com