2011.11.25 

第6回アジア南太平洋スポーツ心理学会(ASPASP)出張報告

2011年11月11日から14日にかけて、台湾・台北市のHoward Civil Service International houseにて開催された第6回アジア南太平洋スポーツ心理学会(6th Asian South Pacific Association of Sport Psychology International Congress)に参加してきました。
この学会は、アジア各国のスポーツ心理学の研究者が学術交流をはかることを趣旨とし、4年に1度開催されています。私がこの学会に参加した目的は2つありまして、その一つは、ポスター発表を控えていたことにありますが、もう一つは、会場近くにある国立台湾師範大学に赴き、旧友との研究交流を図ることにありました。

第6回アジア南太平洋スポーツ心理学会1.jpg
上の写真は、学会での一コマです。デシ先生と共に動機づけ研究の第一人者であられるライアン先生(ロチェスター大学)のご講演の様子です。ライアン先生は、教育心理学や臨床心理学、スポーツ心理学など幅広い分野でご活躍されている研究者です。
私のゼミには、先生方の自己決定理論を用いて、リハビリテーションの心理と行動との関連を検討しようとしている学生がいますので、最新の知見を得たく講演に聞き入ることにしました。この写真は、アンダーマイニング現象(内発的に「楽しい!」と思って従事していた活動に対し、外的報酬が付与されると、逆に内発的動機づけが低下してしまう現象)を脳科学的に解説されているものです。提唱者であり且つ共同研究者であられるデシ先生は自伝的に、「大学院生の頃、好奇心旺盛で何事にも興味を抱き探索していた幼児が小学校に入ってから後、急に好奇心や探求心を失わせていくのはなぜだ?と疑問に思い、その原因を教師や親が子どもに与える報酬(賞罰)にあるのではないか?と考えた(Deci & Flaste, 1995)」と記述されています。後、デシ先生らがこの現象を実験的に証明した1970年代は、行動主義の影響が色濃く、どのように社会に受け容れられるようになったのかは知る由もありません。ただ、この現象には、後近代の教育を構想するためのヒントが含まれているのではないかと、かねての私には映っていた時期がありました。

第6回アジア南太平洋スポーツ心理学会2.jpg
これは、発表を終えた直後の写真です。英語を流暢に話せるような自信はありませんでしたので、無事に終わり、ホッとしております。
発表時間は、30分という短いものでしたが、日本以外では、タイやサウジアラビアなどの研究者達から、多くの質問を受けました。
インプット(ヒアリングと思考)の方はうまく機能していたようですが、アウトプット(応答)の方は、英語で丁寧に応じるというよりは、思いも高じ、身振り手振りが炸裂。私はやはり、元スポーツマン(?)でした。大汗をかいてしまい、最後はネクタイやボタンを外していました。

第6回アジア南太平洋スポーツ心理学会4.jpgその日の晩は、旧知の間柄にある国立台湾師範大学の林伯修先生(スポーツ社会学)が私のために一席設けて下さり、氏のご家族とも親交を深めました。台湾の教育システムは従来、アメリカや日本のそれに追随してきた経緯があり、今後もその見通しであるようです。氏は国家の要請で度々来日し、台湾における学校教育の担い手として活躍されています。
なお、国立台湾師範大学は、教員養成校としての歴史と伝統を誇る台湾有数の大学です。かつては、国が学校教科書の執筆の全てをこの師範大学の先生方に委託されたそうです(下の写真は、教科書の編集等を行う国家機関である「国家教育研究院」です)。しかし、今や私大を含む多くの大学で教員養成が可能となり、教科書の執筆に関しても、この師範大が一手に担うということはないのだそうです。台湾の教育界では、「こうした動向が招いた教育上の問題は少なくない」という意見があるのだそうですが、今回の出張では、この点を深く掘り下げて聞くことができなかったことを残念に思います。

最後に、今回の学会出張は、本学の海外研究旅費助成を受けて行われたものです。貴重な経験をさせて頂いたことをここに感謝し、今後の教育・研究・社会活動に活かせてまいりたく思います。この度はご支援を賜り、誠にありがとうございました。

教育学部准教授 辰巳智則

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