2022.07.19
5か国合同でのミニシンポジウム開催 ~ 看護医療学科「 国際看護論Ⅰ」
国際看護論は、2022年度より新カリキュラムの構成のため国際看護論Ⅰ(必修科目)と国際看護論Ⅱ(選択科目)に設定されています。まずは、国際看護論Ⅰのミニシンポジウムの講義について紹介いたします。
このミニシンポジウムは、グルーバル化に対応する看護職の育成のために2019年から世界の看護職や福祉職の方に各国の保健医療福祉の政策や状況についてオンライン講義の形式を導入しています。今回は、ベトナムの方の参加が急遽キャンセルになりましたが、5か国の状況について紹介していただきました。
令和4年7月15日(金)の第5・6・7回「国際看護論」の授業では、オーストラリア(メルボルン)・スウェーデン(ウプサラ市)・台湾(雲林県)・韓国(ソウル市)・日本(奈良:畿央大学)をZoomでつなぎ、『現地の看護職・福祉職の講義を聞き、コロナ禍における先進国と後進国の保健医療福祉の実際と課題を知る』という目的で、『COVID-19は人々にどのような影響をもたらしたのか』という主題に基づき、5人のゲストスピーカーの方に各テーマに沿って紹介していただきました。
オーストラリア(メルボルン)
最初にオーストラリアのMs.Julie.Paul氏による「COVID 19 IMPACT ON AGED CARE DEMENTIA ELDERS IN AUSTRALIA(新型コロナウイルスによるオーストラリアでの認知症高齢者ケアへの影響)」を講義していただきました。
英語でのプレゼンテーションだったため、講義のすべてを理解することができなかったのですが、オーストラリアの現状について学ぶことができました。認知症はオーストラリアで2番目の死因であるということを知りました。日本では、悪性腫瘍や心疾患、老衰などが死因の半分を占めていることや認知症が死因だといわれることが少ないことから、日本とオーストラリアでは認知症の捉え方が少し違うように感じました。
オーストラリアの認知症高齢者の療養所の97%で高齢者やスタッフが新型コロナウイルスに感染する事態が発生し、それまでは当たり前に行われていた他者との関わりを制限する必要になったことを知りました。スライドには、新型コロナウイルス流行前に撮られたであろう高齢者の男性が子どもや友人と笑顔で映っている写真1が載っていました。しかし、新型コロナウイルス流行後の感染対策を行っている状態での写真2では、男性はマスクをしている方とレクリエーションを行っていましたが流行前の笑顔はありませんでした。
このことからも、他者との関わりを制限することで認知症高齢者を感染から守ることはできるものの、制限することで認知機能の低下などの悪影響を及ぼすことを忘れてはいけないということを改めて学ぶことができました。
【英訳】
First, Ms. Julie Paul from Australia gave a lecture on "COVID 19 IMPACT ON AGED CARE DEMENTIA ELDERS IN AUSTRALIA". Since the presentation was in English, I could not understand everything, but I was able to learn about the current situation in Australia. I learned that dementia is the second leading cause of death in Australia. In Japan, malignant tumors, heart disease, and senility account for half of the causes of death, and dementia is rarely said to be the cause of death, so I felt that the way dementia is viewed in Japan and Australia is a little different.
97% of Australia's nursing homes for elderly people with dementia have had seniors and staff infected with COVID-19, forcing them to limit interactions with others that had previously been the norm. I learned that The slide included Photo 1, which was taken before the outbreak of COVID-19, showing an elderly man smiling with his children and friends. However, in Photo 2, where the infection control measures are being taken after the outbreak of COVID-19, the man was having recreation with a person wearing a mask, but there was no smile before the epidemic. From this, it is possible to protect the elderly with dementia from infection by limiting their involvement with others, but we should not forget that limiting has adverse effects such as a decline in cognitive function.
Chika Yasuoka, 4th year in Department of Nursing
写真1:コロナ禍前の認知症高齢者
写真2:コロナ禍での認知症高齢者のレクリエーション場面とMs.Julie.Paul氏(写真右上)
看護医療学科 4回生 安岡知香
スウェーデン(ウプサラ市)
次に、スウェーデンウプサラ市の長谷川佑子さんに「スウェーデンの認知症ケア-コロナ後に考えるコロナ禍のケア-」を講義していただきました。
認知症ケアにおいては、一人一人の生きる世界を理解し、自己決定を支えることを基盤に「その人にとってかけがえのない生活」を支援するために多職種で協同してより良いケアを提供していることがわかりました。
スウェーデンの医療現場では、多職種でのチームワークを重視しておられました。患者から最も距離の近い「アンダーナース」が主にケアを行い、看護師はチームリーダーとしてアンダーナースの教育や指導にあたっているとおっしゃっていました。また、スウェーデンでは、緊急を要する場合以外には、FIKA(お茶)をしてリラックスすることを大切にしていました。日本では頑張ることが美徳とされていますが、スウェーデンでは頑張ることが患者や他のスタッフに良い影響を与えないため、「リラックス」して仕事に励むスタイルが一般的であり、日本との業務スタイルの差に驚きました。
コロナパンデミック後の現在は、コロナウイルスは命を脅かす病気ではないとされ、コロナパスは使われず、ワクチン接種者は検査をしない現状になっているとおっしゃっていました。そして、国民のほとんどがマスクを着用していない実態に驚きましたが、国民性や価値観の違いを学ぶことができました。
写真3:スウェーデンウプサラ市の長谷川佑子氏
看護医療学科 4回生 清水こゆき
台湾(雲林県)
次に、陳玲類氏・同時通訳 葛芝岑氏から「コロナ禍における台湾の高齢者看護」のプレゼンテーションがありました。
台湾では、2021年8月までに国内での感染拡大は収束したと思われましたが、2022年3月にオミクロン株の感染急拡大が止まらない状況が発生しました。感染者の状況として、 軽症または無症状の感染者が99%で、年代別にみると20代から50代の割合が多いです。死亡率は慢性疾患を持つ感染者で98%と高いことや、年代別でみると75歳以上の死亡率が53.5%と高いです。しかし、65歳以上の高齢者はワクチンの効果がわからないことや、副作用への不安、外出をしないから安全であるという認識から予防接種率は18歳から64歳までの方に比べて低い状況です。
そこで、オードリー・タン氏(台湾のデジタル担当政務委員)の「高齢者を含めてだれ一人取り残さない社会を創る」ことをフレーズに台湾は、介護施設や生活支援が必要な方に抗原定性検査キットの供給が行われました。そして、介護の場では、サービスを利用する高齢者の健康を維持し、サービスの安全確保に向け、利用者の自宅で簡易検査キットの使用方法を伝えたり、利用者に寄り添って予防接種への不安を軽減し、受けやすい状況を工夫したり、利用者同士で季節折々の行事を行うなど一緒に楽しい時間を過ごせるよう環境において消毒・清掃を徹底されていました。また、他にも面会制限があってもLINEなどのツールで常に連絡や交流をできる工夫もされていました。
また、地域での感染防止対策として、マスクの配布や、感染者が自己申告しやすいよう、感染状況調査システムを簡易化し、地域や学校でのワクチン接種ステーションも拡大されました。
これらのことから、台湾ではコロナ感染による重症率を低く抑えられるよう、ワクチンの接種率向上に向けて取り組まれており、感染予防対策への知識を持ってそれぞれが徹底して行動するよう呼びかけることで、安心感や希望を持って過ごすことができるよう一人一人の本来の生活を変えてコロナと共に過ごす新しい生活の創造に向かっていることを学びました。
写真4:台湾の陳玲類氏(写真右側))・同時通訳 葛芝岑氏(写真左側)
看護医療学科 4回生 池宮有紀
韓国(ソウル市)
次に、韓国の윤 재호(ユン ジェホ)氏により「コロナ禍における韓国の保健医療福祉施策」について講義をしていただきました。
韓国の高齢化率は日本と比較すると低い水準ではありますが、上昇傾向にあり、老人医療費が増加していることに加え、少子高齢化が進行している現状がみられます。そこで介護保険制度である老人長期療養保険制度を導入したことを知りました。このことから、国同士が互いに影響を受け合うことで、協力関係やさらに良い医療へとつながるきっかけとなることを学びました。
日本と韓国での医療の違いの特徴として、①健康保険と老人長期療養保険の保険者は一つであることや、②混合診療可能、韓方医療も給付していること、③病床数を自由、療養病院あり、医療人ではなくても病院の開院が可能であることを知りました。そこから、問題として政府の管理が難しいことや病院の競争が激しくなることを学びました。
韓国におけるコロナ禍による人々の生活への影響として、身体活動が減少したことや家で料理をすることが増えたこと、うつ病の急増がみられていることを知りました。日本でもうつ病患者が増えている現状があることからも、コロナ禍による影響は日本と似ていると感じました。韓国での対処としては「軽い散歩」や「家でできる趣味の開発」などが実施されており、国民の心と生活に寄り添った対策をされているように感じました。また、病院ではITの活用が普及されましたが、ITの使用を難しく感じる人が増えているといった課題が挙げられることも学びました。
写真5:韓国の윤 재호(ユン ジェホ)氏
看護医療学科 4回生 道園彩加
日本
最後に日本の現状について山崎先生から講義を受けました。
日本では、2022年度の7月時点で再び、コロナ感染が拡大しており、第7波の到来とも言われている状況で、国民の生活面では緩和や規制の繰り返しでストレスが生じやすい状況であります。医療や看護の面でも、感染状況が完全には落ち着かないことから、引き続き感染対策の徹底により、医療従事者の行動制限や自粛生活を余儀なくされていることや、まだまだ国民のコロナへの認識もそれぞれであることから、コロナ差別や医療者への中傷も少なからずある状況でストレス増大につながりやすいことが考えられます。
また、病院や高齢者ケア施設では面会制限が続き、特に在宅にいる高齢者はステイホームによるサルコペニアやフレイルの進行、認知機能の低下による弊害が懸念されています。病院や施設において、面会制限や人との交流不足を補うため、ITを取り入れる場面も増えてきてはいますが、高齢者は適応しにくいなどの課題点もあります。
このように、コロナによって様々な影響を受けながらも、看護職の仕事が国内でもクローズアップされて社会的地位を確保することにもつながった機会でもあると気づきました。
看護師をめざす私たちも、今後働くうえで、医療従事者に対する偏見や差別がなくなる世の中であってほしいと願いながら、生活者としても、自身や他人がコロナ感染しても怖がられない、置き去りにしない社会で自分らしく生活できるようになってほしいと思いました。
写真6:全員で記念写真
看護医療学科 4回生 池宮有紀
それぞれ5か国の文化や社会状況により、看護や社会支援の提供方法を、日本と比較することで、それぞれの国との違いを知るだけでなく、日本の良い点も学ぶ機会になりました。しかし看護を提供する、ケアをする人への思いはそれぞれ同じであることも知ることができました。他の国々の看護、社会支援について共有できること、できないことを見極め、ローカライズしていくことが、グローバルな視点で物事を考えていることに繋がり、これからの看護には必要な視点であると思いました。
また、コロナ禍ではそれぞれの国でも、今までと同じ生活は行えないことはありましたが、コロナウイルスを理解し、「何事もできない」で終わらせずに他の方法を用いた取り組みをされていました。特に面会が禁止となり、ICTの活用、ビデオレター、電話での会話など色々な工夫をされていました。またICTの技術進歩は、今まで行えなかったことを可能にもしました。この国際看護の授業のように、奈良県にいながら、オーストラリア、スウェーデン、台湾、韓国から講義を受けることができるようになったこともその一つです。遠方の人とコロナウイルスの感染を気にせずコミュニケーションをすることが出来るのです。
しかしICTに適応が困難な人々もおり、そのような人々への課題への対策や、ICT技術の進歩や開発が期待されます。そしてコロナ禍の状況が落ち着き、マスクが不要となり、家族との触れ合いが行えるようになったことで、改めて人とのコミュニケーションには触れ合うコンタクトが必要あることがわかりました。新しい技術を進歩させながら、人との大切なふれあう機会を維持することが必要です。すでにコロナウイルスを理解し、過敏にならず生活できるような社会、Withコロナに社会が変化しつつあります。私たちはこのような変化を国際看護の講義から他の国を通じて知る機会があり、日本においても個人がその変化を理解し、社会に適応していけるように私たちに何ができるのか、考える機会にもなりました。
お忙しい、時差もあるなか、講義してくださいました先生方、オーストラリアのMs.Julie.Paul氏、スウェーデンウプサラ市の長谷川佑子氏、台湾の陳玲類氏・同時通訳 葛芝岑氏、韓国の윤 재호(ユン ジェホ)氏に貴重な講義をいただき感謝いたします。
この後は、国際看護論Ⅱ(看護医療学科 乾准教授)に続きます。
看護医療学科 助教 杉本多加子
教授 山崎 尚美
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