2024年5月2日の記事

2024.05.02

外部講師による講義「看取りを体験した遺族に対する看護の課題」~看護医療学科「終末期ケア論」

「終末期ケア論」は、看護医療学科3年前期に必修科目として開講しています。この授業では、人生の終末期を迎えた対象の心理過程や、がん終末期の身体症状とそれに対する緩和ケアについて、また、死が迫った対象とのコミュニケーション、家族や遺族へのケアなど多彩な内容を取り上げています。授業では、実際に家族を看取った遺族から直接講義を受けるというプログラムを組み込んでいます。   令和6年4月30日(火)の授業では、講師として、令和5年11月に実母を自宅で看取られたヤンソン 智也子さんに、これまでの看取り経験やその過程、在宅で家族を介護する中での苦悩や喜び、看護師の関わりについて語っていただきました。     ヤンソン 智也子さんは、奈良県宇陀市大宇陀で民泊施設を営んでおられます。これまで、自身の祖父母・両親・生後2か月の長男の5人を看取った経験をお持ちです。講義の中では、がんと診断された家族が、治療法や療養場所について選択する過程や予期せず長男を新生児突然死症候群で失った時の喪失体験など、多彩な内容を語っていただきました。   そして、昨年11月にこれまで自分の一番の理解者であり、支えてくれたお母さまを亡くされるまでの在宅療養の様子や医療福祉看護連携で、家族が支えられたことについて詳しく教えていただきました。     お母さまは今から12年前に乳がんと診断されましたが、手術を経て治癒され、安堵していた時期に、大腸がんが発見されたということです。大腸がんは多発肺転移を起こし、治療の選択肢は抗がん剤治療だけであることを医師から告知されたそうです。お母さまは、積極的治療を望まれず、生活習慣の改善などを試みてこれまでと変わらない日常を過ごされていましたが、そのお母さんに突然下肢の麻痺が現れ、歩くことができなくなりました。がんが脊椎に転移したために、出現した症状でした。   そこから、家族は在宅療養の道を模索され、介護福祉の専門家や訪問看護師、往診医が力を合わせて、療養環境が整いました。麻痺が出てからそこまでの過程でも、不誠実な対応にも苦悩された経験を話してくれました。また、在宅介護を続ける中で、母を思うあまりに自身が追い詰められ、助けを求めたい気持ちが強くなった経験を語られました。その時に担当していたケアマネージャーが智也子さんの変化を察して、即座に心のケアをしてくれたことに救われたことを振り返られました。   智也子さんは、自分が適切なケアをお母さんに行うために、訪問看護師からケアの技術を習得し、11月の看取りまで後悔の無いように在宅で介護されました。智也子さんの経験の中で、「家族は、先が見えない介護と生活の両立で不安になりがちである」ことや「みじめな姿になった」と悲しむお母さまの姿を目にして「私がママのお世話できることは幸せなこと。私にお世話させて」という気持ちが強くなったことなど、家族が体験した心情を丁寧な言葉で伝えてくださいました。そして、家族の気持ちの揺れを理解して手を差し伸べてくれる専門家がいるだけで、介護している家族が救われることも話されました。   私たちが最も印象的であったのは、訪問看護師のケア態度についての語りでした。「ケアに時間がかかる人やてきぱきとケアする人、器用な人とそうでない人がいましたが、患者を大切に丁寧に気遣いのあるケアをしてくれる看護師さんの存在が一番うれしかった」というものです。そのことは、多くの学生にも響いていたようです。自宅で穏やかな看取りをなさった智也子さんは、「亡くなった後も、母は私たちの中に存在し続けるので、それを支えに日々暮らしている」と悲嘆との向き合いかたについて話されました。   授業終了後には、質疑応答の時間を設けましたが「お母さんが積極的治療を選択されなかったときのご家族の気持ち」「病気のことを幼い2人の娘さんにどのように伝えたのか」など多くの質問が出ていました。学生の中には、自身の喪失体験と重ねて涙する人も見られました。       終末期ケアを展開するときには、患者や家族が大切にしていることに看護師も共感することが必要と言われています。3回生は、後期から臨地実習に臨みます。今回の講義から学んだことを心に刻みケアの対象に丁寧に向き合う、心情を読み取り気遣いをする態度を忘れないでほしいと思います。   看護医療学科 准教授 大友 絵利香、對中 百合   【関連記事】 外部講師による講義「看取りを体験した遺族に対する看護の課題」~看護医療学科「終末期ケア論」|KIO Smile Blog 看護学生と企画した「性教育セミナー」を高校で実施!~看護医療学科「母性看護実習」|KIO Smile Blog 堺市総合防災センターで体験学習をしました~看護医療学科「災害看護II」|KIO Smile Blog ハンセン病療養所を訪問、当事者家族の声を聴き「医療と人権」を学ぶ~看護医療学科「健康学特論」|KIO Smile Blog 外部講師による講義「筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の看護について」~看護医療学科「慢性期看護学援助論Ⅰ」|KIO Smile Blog 「薬害の実情」と「患者の人権」を学ぶ~看護医療学科「保健医療福祉システム論Ⅰ」|KIO Smile Blog 4回生から3回生へ学びの伝達「緩和ケア病棟の実際―病院インターンシップ実習を経験した上級生とのディスカッションー」~看護医療学科「終末期ケア論」|KIO Smile Blog 「臨死期の看護を学ぶ」エンゼルメイクの演習を実施! ~看護医療学科「終末期ケア論」|KIO Smile Blog