2024年8月5日の記事

2024.08.05

「認知症の人と家族の交流会 in KIO」を開催!~看護実践研究センター認知症ケア部門

看護実践研究センター認知症ケア部門では、認知症を持つ人とその家族の生活の安定が図られる地域における支援体制の確立、さらに認知症を持つ人自ら認知症に向き合い共存していく生活への支援をめざし、地域住民や介護職、医療職、福祉職と連携活動を進めています。   昨年度、「身近な地域で、認知症本人の思いを知り、住民1人1人ができることから地域づくりを進める取り組み」が認知症基本法にも位置づけられました。その目的に沿って、今年度は、「認知症の人と家族の思いに耳を傾ける」をテーマに3回シリーズで交流会・講演会の開催を計画しました。   2024年7月26日(金)の第1回目は、「認知症の人と家族の交流会」を認知症の人・介護するご家族を中心に、日々の思いや介護等の情報交換、交流を目的に開催いたしました。     今回の交流会は、猛暑の中にもかかわらず、総勢26名(協力機関の関係者含む)の方に集まっていただきました。参加者の6割が60代以降の方で、全体では、30代から80代と幅広い年代の方に参加していただきました。 交流会の様子 全体自己紹介の後、少人数のグループに分かれ、「認知症」や「介護」に対する思いを伝えあいました。その後、①男性介護者、②親(対象とする)介護者、③看取り後、④ボランティア、サポーターの各グループに分かれ、同じ境遇の参加者同士、あるいは関心のあるグループに参加して交流する時間を持ちました。短い時間ではありましたが、すべての参加者が発言し、他者の語りに耳を傾け、貴重な時間はあっという間に経過しました。     交流会の感想 介護はつらいなど暗いイメージだったが、そうではないことを聞けた。 男性介護者の大変な介護(家事や洋服のコーディネート、化粧等身の回りの世話など慣れないことの連続)の事を聞かせてもらえたこと。 (同じ認知症でも個々それぞれで)他の家族の状況とは色々違うこと。 現在はボランティアをしていませんが、(看取った後、その経験を生かして自分にできることがあれば)また出来るかなと思い始めました。 ご自身の体験談を話された方が「長く話してごめんなさい」と言われた時に「ここはそのような場所ですよ」と言われた言葉が心に残りました。そのような場所が増えることが望まれます。 今回は、夫を介護する人、妻を介護する人、親を介護する人、介護を仕事とする人、最愛の方の介護を終えボランティアとして活動する人、経験も立場もそれぞれ異なった方の語りを聴かせていただける交流会になりました。一人ひとりが感じたこと、想いを語る場所の大切さを実感し、また地域の方と専門職の方などの情報交換ができる貴重な場所になることもわかりました。   また今回は、機関の方にご協力を頂きました。皆様のおかげでこのような交流会が開催できたと感謝しております。引き続き皆さんと共に考え、大学としての役割を担える活動を続けていきたいと考えております。   協力頂いた機関(順不同) ・香芝市地域包括支援センター ・葛城市地域包括支援センター ・広陵町地域包括支援センター ・SPSラボ若年認知症サポートセンターきずなや ・奈良県若年性認知症サポートサンタ― ・認知症の人と家族の会奈良県支部 ・まほろば倶楽部   ご協力ありがとうございました。   看護実践研究センター 認知症ケア部門 看護医療学科 助教 伊藤 千春   関連記事 ▼「看護実践研究センター」に関する過去の記事 「障がい児の愛着形成支援」について研修会を開催!~看護実践研究センター プロジェクト研究成果発表会を開催しました!~看護実践研究センター 認知症予防講座「歌って、笑って若返り」を開催しました~看護実践研究センター認知症ケア部門 看護実践研究センター認知症ケア部門主催「高齢者看護・ケアに活かすホリスティック・ナーシング」講演会を開催しました。  

2024.08.05

「死のシミュレーション体験」から学ぶ終末期ケア~看護医療学科「終末期ケア論」vol.5

「終末期ケア論」は、看護医療学科3年次前期に必修科目として開講しています。この授業では、がんで大切な家族を失った遺族の体験を聴く、がん終末期の対象や療養場所やそれぞれの場でのサポートを考えるなど、看護実践の場で終末期ケアを行う医療人として学びを深めることをめざした授業構成になっています。 最終授業:「死にゆく対象の心理過程について」学ぶ   7月30日の最終授業では、「死のシミュレーション体験」を通して、死にゆく対象の心理過程について学びました。「死のシミュレーション体験」は、緩和ケアを志す看護師の養成講座などでも広く取り入れられている学習の一つで、体調の異変に気付き、受診~診断~治療~治療の終了~日常生活の変化~生命徴候の変化~死までの経過からなる「シナリオ」をもとに、節目で自分が大切にしているものを、取捨選択するという流れで進めます。学生は、それぞれが「自然」「人」「物」「活動」の4つのカテゴリーに分けられた「大切なもの」を15枚のカードに書き込んで授業に臨みます。   ▼大切なものを書き込んだカード     今回は、大学生である主人公が体調の変化に気づき、大切なものを一つずつ失っていくという場面からシナリオがスタートしました。   ▼シナリオを聞き、指示に従って大切なものを記したカードを捨てていく様子     シナリオを進めていくと、病名の告知や入院治療の始まりなど、深刻な場面でいくつかの大切なものを捨てることになります。「私はきれいな青空や新緑の景色を、物質的なお金等よりも後に残した」「治療を始めるころには、活動はすべて捨ててなくなっていた」とそれぞれが「終末期に大切にしたいこと」に違いがあることに学生たちは気づきました。学生の一人は、「日ごろの生活で、欠かすことができないスマートフォンだけど一番に捨てた。本当に不安なときは、スマホは不要と気づいた」と言っていました。   また、いよいよ余命が数週間となったときにほとんどの学生の手元に残っていたのは、「家族・友人」の名前を書いたカードでした。   ▼15枚のカードから一枚ずつ悩みながら捨てていく様子       そしてシナリオは、自分の身の廻りのことができなくなり、意識が遠のいていくという段階に差し掛かり、学生たちは大いに悩みました。「家族の名前を書いていたカードを捨てるときに優先順位に悩んだ」「どれも捨てきれず、何とかすべて残すことはできないだろうかともがいた。死にゆく人は体の辛さだけでなく、様々な関係性を断ち切られる辛さを体験していることが、身をもって解った」と体験後に学生は語っています。   ▼シミュレーション体験後、大切なものを亡くしてゆくときの心理について共有     シミュレーションの最後は「大きな息を吸って、大きく吐く・・」 最期の瞬間に一枚のカードを捨てることになっていますが、ここで残っていた1枚は、ほとんどの学生が「母」だったようです。ディスカッションの中では、「『死』を迎えると、無になっているので、母とも自然に別れることができたが、最後に残す人が『母』か『兄弟』か決めることが難しかった」との意見が多く聞かれました。   今回の授業では、死生観についても掘り下げて考える時間を持ちましたが、学生たちは、「普段気づかないで過ごしている、物の価値観や大切なことをあたりまえのことと感じて生活していることにあらためて気が付いた」「死にゆく過程では、多くの喪失を体験し、それらと引き換えに命をつないでいることが理解できた」と振り返っていました。   ▼体験を通して、どのような感情をいだいたかについてレポートにまとめました     全15回の授業を終えて、学生たちは「最期まで誰かに関心を持ち続けてもらうことで精神的な安堵につながる。私たちは何かができなくとも看取りが近い人に関心を向け、そばに居ることやその人が大切なものを理解したうえで、看護する側もそれを大切にする姿勢が必要であることがわかった」と話しています。     日本は多死社会を迎え、私たちは多くの人の死に関わりますが、すべての人に温かい手を差し伸べ、苦痛緩和のための技術を身に着け、死にゆく過程でのQOL向上を目指したケアができる看護師に成長してくれることを教員は願っています。   健康科学部 看護医療学科 准教授  大友 絵利香 准教授 對中 百合 関連記事 ▼「終末期ケア論」に関する過去の記事 外部講師による講義「看取りを体験した遺族に対する看護の課題」~看護医療学科「終末期ケア論」 ホスピス見学実習に行きました!~看護医療学科「終末期ケア論」 vol.2 「臨死期の看護を学ぶ」エンゼルメイクの演習を実施! ~看護医療学科「終末期ケア論」vol.3 緩和ケア病棟の実際―病院インターンシップ実習を経験した上級生とのディスカッション~看護医療学科「終末期ケア論」vol.4   ▼「看護医療学科」に関する過去の記事 外部講師から学ぶ「薬害の実情」と「患者の人権」~看護医療学科「保健医療福祉システム論Ⅰ」 前期の最後は高齢者疑似体験!~看護医療学科「老年看護学援助論Ⅱ」vol.4 「当事者主体で環境改善を目指す!」フィールドワークで学びを深めました~看護医療学科「認知症ケア論」vol.3 外部講師による講義「若年性認知症の理解とその支援の実際」~看護医療学科「認知症ケア論」vol.2 「どこでもシート」の魔力~看護医療学科「老年看護学援助論Ⅱ」vol.3 『実習に活かす高齢者看護技術』高齢者の個別性に合わせた援助を考える~看護医療学科「老年看護学援助論Ⅱ」Vol.2 フレンドリーをめざす「認知症ケア論」のご紹介!~看護医療学科 外部講師による講義『食べたい!』を支えるケア ~看護医療学科「老年看護学援助論Ⅱ」vol.1