2023年11月16日の記事
2023.11.16
卒業生らの研究が国際学術雑誌に掲載されました!~理学療法学科
この度、理学療法学科1期生の中村 潤二さん(本学客員准教授/博士後期課程修了)、4期生辻本 直秀さんの研究が国際学術誌に掲載されました。 お二人の勤める西大和リハビリテーション病院は、本学の学生も実習施設としてもお世話になっており、多くの卒業生が理学療法士として勤務している施設の一つです。今回、卒業生の論文が同時期に同施設から掲載されるというのは快挙です。 中村さんと辻本さんのお二人から論文内容をそれぞれご紹介いただきました。 中村 潤二さん(理学療法学科1期生) 【論文名】 Effects of postural-control training with different sensory reweightings in a patient with body lateropulsion: A single subject design study 脳卒中後には、様々なバランス障害が生じますが、その中の一つであるBody lateropulsion (BL)は、座位や立位、歩行などの際に身体の側方傾斜が生じる障害です。この原因には、前庭脊髄路などの姿勢の制御に関連する神経機構の障害が関連していることが考えられています。しかし、このBLメカニズムもまだ明らかではなく、治療方法についてもほとんど調査されていません。 この研究では、BLを呈した症例の方に、バランス機能やバランス制御に関連する神経機構の評価などを詳細に行ったうえで、視覚情報に頼った状態でのバランス練習や、視覚に頼らずに体性感覚情報に頼った状態でのバランス練習を行った際の影響を比較しました。その結果、この症例では、視覚に頼らず、体性感覚情報に重きを置いた状態での練習の方が、バランス機能の向上がみられました。またバランス制御に関連する神経機構の評価を行った結果、神経機構の変化自体は乏しく、あくまでも代償的なバランス機能の改善であることが示されました。 今回は、一例のみの報告ですが、国際学術誌にBLの治療介入の調査報告が示されたのは、世界初であり、BLの方の理学療法を推進するための貴重な情報になると思われます。 辻本 直秀さん(理学療法学科4期生) 【論文名】 Predictors indicating the continuous need for a knee-ankle-foot orthosis in stroke patients at 1 month after onset 脳卒中発症後に重度の片麻痺を呈した方は、踏ん張ることができずに立つ、歩くことが困難になります。そのような方に立つ、歩くための練習を行う場合、膝や足首の固定性を高め、踏ん張りをサポートする長下肢装具を使用します。この練習効果を考えるうえで、長下肢装具は患者の足の長さや太さに合わせたものを使用することが望ましく、長期的に使用する場合には、本人用の長下肢装具を作製することが推奨されています。 しかし、脳卒中の急性期では、長下肢装具が完成するまでの2週間という非常に短い期間に足の麻痺が改善し、長下肢装具が不要になる患者も存在します。これまで、急性期病院で長下肢装具を作製するか否かの判断は、臨床家の経験に依存する側面が大きく、客観的な判断基準は確立されていませんでした。 私達が行った研究では、以前所属していた急性期病院で実施された装具作製についてのカンファレンス実績から、多種多様なデータを解析し、長下肢装具が必要であった患者の状態を調査し、麻痺側膝関節の自動伸展角度が高い精度で発症1か月後の長下肢装具の必要性を予測し得ることを報告しています。 ▲:写真左より(中村氏、辻本氏) これらの成果が得られたのも、畿央大学在学中から高いレベルの教育を受けることができたことや、学術活動の重要性を教えていただいてきたからこそだと思います。この場を借りて、日頃から支援いただいている畿央大学の皆様に深く感謝申し上げます。 西大和リハビリテーション病院 理学療法士 中村 潤二、辻本 直秀 論文情報 Nakamura J, Nishimae T, Uchisawa H, Okada Y, Shiozaki T, Tanaka H, Ueta K, Fujita D, Tsujimoto N, Ikuno K, Shomoto K. Effects of postural-control training with different sensory reweightings in a patient with body lateropulsion: a single-subject design study. Physiother Theory Pract. 2023. Tsujimoto N, Abe H, Okanuka T, Seki T, Fujimura M, Predictors indicating the continuous need for a knee-ankle-foot orthosis in stroke patients at 1 month after onset. Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases. 2023. 関連記事 修了生が「第21回日本神経理学療法学会学術大会」で奨励賞を受賞!~健康科学研究科 本学教員、大学院生の論文が学術優秀賞に選ばれました~理学療法学科・健康科学研究科 客員研究員の渕上 健さんの総説論文が「Journal of CLINICAL REHABILITATION」に掲載されました〜ニューロリハビリテーション研究センター
2023.11.16
ハンセン病療養所を訪問、当事者家族の声を聴き「医療と人権」を学ぶ~看護医療学科「健康学特論」
看護医療学科では、2015年度より保健師対象科目「健康学特論」において、受講者が岡山県瀬戸内市にある国立療養所長島愛生園に直接赴き、納骨堂に献花し、往時に使用されていた収容施設や監房跡等も見学、そして、現在も入所されている回復者の話に耳を傾けて参りました。今年度は11月4日(土)に37名の学生と2名の教員で訪問することができました。 瀬戸内海に浮かぶ島、長島は1988年まで本州との橋がかかっていませんでした。まるでハンセン病療養所を完全に社会から断絶するようでもありました。次の写真は、架橋されて35周年を迎えた邑久長島大橋です。人々はこの橋を「人間回復の橋」と呼んでいます。私たちはこの「人間回復の橋」をわたり長島へ入りました。 ▲邑久長島大橋 想定よりも早く着けたこともあり、長島愛生園到着後すぐに、愛生会館にて開催していた入所者と職員らによる美術作品などを展示する「第17回長島愛生園総合展示会」を見学させていただきました。学生たちは事前にハンセン病に関する学習を行ってきましたが、作品を通じて、今回のテーマである「今」を垣間見ることができました。 総合展示会に関する報道はYouTubeからもご覧になることができます。 ▲愛生会館 ▲第17回長島愛生園総合展示会の様子 次に、長島愛生園歴史館の見学をしました。次の写真は歴史館の外景です。1930年の開園当初からあった建物で事務本館として長く使用されてきました。現在は歴史館として多くの方々が見学に来ています。 ▲長島愛生園歴史館 解説はハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会の釜井大資事務局長がしてくださいました。 歴史館の見学の後は、園内の見学に移りました。当時の患者専用の収容桟橋、収容後すぐに入れられた回春寮(収容所)と続き、監房跡を見学しました。監房は現在、外の壁だけを見ることができますが、数年経てば、中も見られるようになる予定とのことです。学生たちは、「事前学習では学んでいたけれど、実際に自分の目で見ると当時のことを想像してしまう」と口々に話していました。 ▲患者専用の収容桟橋 ▲回春寮(収容所) ▲監房跡 その後、亡くなっても「社会復帰」が叶わなかった方々が眠る納骨堂と、1996年まで続いた旧優生保護法による強制堕胎の胎児を祀る水子地蔵の前でそれぞれ花を捧げ、手を合わせました。 ▲納骨堂 ▲水子地蔵 最後に、今年開館した研修施設である「むつみ交流館」の研修室にて、田村 朋久主任学芸員からの講話を聴き、長島愛生園を後にしました。 注:ハンセン病を理由とする断種・堕胎手術は、旧優生保護法施行以前にも、法的根拠がなく行われていました。 長島愛生園を訪問した学生の感想 ●長島愛生園の歴史館で展示室を見学して、ハンセン病の歴史や長島愛生園での出来事について年表や実際に使われていた物、分かりやすくまとめた掲示物などが展示してあり、よりハンセン病について理解が深まりました。 ●今まで広島の原爆ドームや阪神淡路大震災後の断層など現存されているものを見てきましたが、長島愛生園ではお風呂や橋だけでなく島全体の手入れが行き届いていない所も全て雰囲気が違っていました。ハンセン病患者の生活様式や今でも社会からの差別・偏見を恐れている姿を目の当たりにしました。 ●当時の状態を保っている建物や物が多く、授業で聞いた知識も相まって当時の暮らしを体で感じることができました。私が印象的だったのは、学校、病院、牧場など公共機関がほぼ園の中にあり、お金も園専用なところから、療養所というよりかは小さな国のように思い、外との断絶をより感じたことです。 ●長島愛生園で見学したとき、当時の建物などや収容桟橋などを目の当たりにして当時のことを想像していました。自分がもしあの場にいたらどのような気持ちになるのか、大切な人との別れはどのように苦しいものか、当時の人の苦しさは想像しても分からないほどの苦しさだったと思うと、とても苦しくなりました。絶対この過ちを犯してはならないと思いました。講義で学んだほかに、やはり現地に行くことの方が学べるものが多く、実際の建物や暮らしなどを説明していただいてとても貴重な経験になりました。 ●歴史館の展示室を見学した際に相撲大会や盆踊りの様子の写真、園内通用票などを見て、実際にこの島でコミュニティが存在し、生活を営んでいたとより実感がわきました。また、収容所において現金や懐中電灯など逃走に活用できる物品を取り上げられたと聞き、当時は橋がなかったことも考えると、もう逃げられないという絶望に包まれると感じました。 ●無知は恐ろしいと改めて痛感しました。国の法律が絶対に正しいと思わず、正しいことを知っていくこと、関心を持つことが偏見や差別をなくしていくと思いました。正しい知識を周りの家族や友人に広げていきたいです。 ●長島愛生園を訪問するまでは、知識を学んでいても今では考えられない扱いをされてきた場所であることから、実際の想像があまりできませんでした。しかし、訪問し、建物や風景を見たときにここで暮らしてきた、差別を受けてきた人たちがこの場所にいたことをようやく実感することができました。ここに収容された人たちの怒り、悔しさ、苦しみ、または楽しさ、嬉しさなど多くの感情がここに存在し、またその感情さえも押し殺して生きてきた、強く強く耐え生きてきた人たちが存在していた、そして今もなお存在していることを絶対に忘れてはならず、2度と過ちを繰り返してはいけないと感じました。 訪問後、本学での講演 長島愛生園訪問の翌週11月11日(土)には、元ハンセン病家族訴訟原告団副団長の黄 光男(ファン・グァンナム)さんに大学にお越しいただき、貴重なお話を伺うことができました。黄 光男さんには2021年から畿央大学にて講演をいただいています。 ハンセン病は当事者のみならずご家族にも甚大な差別があり、黄さんは、ご自身の家族の事例を挙げながら、その差別について切々と語られました。また、ギターを手にされ、ご自身が作詞作曲した「閉じ込められた生命」、「思いよ とどけ」などの弾き語りを披露していただきました。学生たちはその歌、その思いに聴き入っていました。 参加学生の感想 ●ハンセン病患者の家族の思いを生の声で聞くことができ、家族を含めたハンセン病の理解につながりました。また、黄 光男さんが作詞作曲された曲を聞き、そこからもハンセン病患者の家族として、家族への思いを感じることができ、印象的でした。 ●ハンセン病問題は、ハンセン病患者とその家族をどれほど苦しめたのか、今回の講演でよくわかりました。決して許される問題ではなく、今後同じようなことがないように、おかしいことはおかしいと声をあげる勇気をもつことと噂を簡単に信じないことが大切だと思いました。国がハンセン病は恐ろしい病気であることを広め、国民がそれを信じ、ハンセン病患者とその家族を差別していた過去が日本にはあったということをもっと多くの人が知るべきだと思いました。 ●黄 光男さんの歌に入所者の思いや黄さん自身の思いがダイレクトに綴られていて、少し泣きそうになりました。らい予防法は、入所者と同じくらい、もしかすると入所者以上に家族が苦しめられるものだったのではないかと感じました。日本特有の文化である世間体を悪用した仕打ちで、家族がバラバラになった様子を話してくださり、繰り返してはいけないことであると改めて感じました。 ●今までハンセン病にかかってしまった元患者の話を聞くことが多かったため、今回初めて家族の立場である人から話を聞けて新たな視点ができました。特に印象に残った話は、らい予防法から公務員の業務としてハンセン病患者を療養所に送り込むということで、黄 光男さんから家族をバラバラにする人権侵害だと聞き、その当時の人々がこのことをおかしいと思っていない、または思っていたとしても声を挙げれなかった状況を考えるだけで胸が苦しくなりました。幼少期に両親の記憶がないことなど、ハンセン病患者の家族にとっても奪われたものは大きいことを実感しました。 ●家族と離れ離れになった歳が早ければ早いほど、親子関係にひどい影響を及ぼすというのが話を聞いて伝わってきました。 差別と偏見は残された家族にも禍根を残すというのが、話を聞いてよくわかりました。 ●差別は、誰も幸せにしないことを改めて認識することができました。また、差別を行った人は忘れるかもしれないが、受けた人はずっと苦しみ続けてしまうこと、差別を行うのは私たちであり、おかしいと思ったことはおかしいと声を上げる勇気を持つことが必要であるという発言が講義の中で印象的でした。 ●黄 光男さんの話を聞いて、隔離政策によって、失ったものを取り戻すことはできないという悔しい気持ちを感じました。また、家族で過ごす時間を奪われたことで、両親に甘えることもできなかったという話を聞いて、ハンセン病の隔離政策が奪ったものの大きさを感じました。当時の職員は、自分の行動が誤ったものだとは思っておらず、国のハンセン病は感染力が強いから隔離が必要であるという考えに流されていたのだとわかりました。そのように流されないように、おかしいと思ったことは、自分の気持ちを信じて声をあげる勇気をもつことが大切だと学びました。これから、医療者になる者として、おかしいと思ったことは声をあげていきたいし、正しい知識をもてるように学びを深めていきたいと思います。家族がハンセン病だと知られたくないからと遺骨を取りに行かず、今でも納骨堂には多くの遺骨があることを知り、今の私たちにできることは、現在においてもハンセン病に対して誤った考えをもっている人の考えを変えるために、ハンセン病についての正しい知識を広めることであると思いました。 この授業の締めくくりでは、学生たちが9つの班に分かれ、それぞれ真剣にディスカッションを行い、その成果を発表しました。 受講生たちの感想から読み取れるように、本科目の主たる内容である「医療問題と人権」の一端を深く学び、胸に刻むことができました。新型コロナウイルス感染症のパンデミック時においても、疾病を理由とする差別が横行していましたが、私たちはこのようにいまだ社会に残る差別の解消に向けた取り組みにかかわり、人道・人権尊重を主体とした医療従事者養成に寄与していきたいと考えております。 最後に、黄 光男さん、釜井 大資さん、田村 朋久さん、玉田 美紗さん、長島愛生園のみなさまには貴重なお時間をいただきありがとうございました。改めてお礼申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 看護医療学科 准教授 文鐘聲 【関連記事】 ハンセン病療養所で、当事者家族の声から「医療と人権」を学ぶ~看護医療学科「健康学特論」 ハンセン病当事者家族から「疾病と差別」を学ぶ~看護医療学科「健康学特論」 国立療養所長島愛生園でハンセン病回復者の現状を体感する~看護医療学科「健康学特論」 ハンセン病療養所長島愛生園を見学~看護医療学科
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