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健康科学専攻(修士課程)
2016.12.09
大学院生の研究成果がJournal of Pain Reserch誌に掲載されました!~健康科学研究科
運動を行おうとする運動の意図と実際の感覚情報との間に不一致が生じると、手足に痛みやしびれといった感覚に加え、奇妙さや嫌悪感といった異常知覚が引き起こされます。畿央大学大学院健康科学研究科博士後期課程の片山脩らは、これらの異常知覚が起こるのは頭頂領域の活動が関係していることを明らかにしました。この研究成果は、Journal of Pain Research誌(Dysesthesia symptoms produced by sensorimotor incongruence in healthy volunteers: an electroencephalogram study)に12月9日に掲載されました。 脊髄損傷や腕神経損傷といった神経に損傷が生じた後に、一般的に治癒すると言われている期間を過ぎても痛みが残存することがあります。この痛みを慢性化させる要因の一つとして、神経に損傷を受けた手足を動かそうとする意図と、実際には動かないという感覚フィードバックとの間に生まれる「不一致」があげられています。過去の研究では、このような不一致を実験的に付加すると、健常者でも「痛みの増強」や「腕の重さ」の異常知覚、あるいは嫌悪感といった情動反応が引き起こされると報告されています。しかしこれまでの研究報告では、「不一致」が生じた時の異常知覚と関係している脳領域は明らかにされていませんでした。そこで研究グループは、異常知覚と関係している脳領域を脳波解析によって検討しました。その結果、「不一致」によって生じる「奇妙さ」と右後頭頭頂領域の脳活動に有意な相関関係があることが認められました。 研究内容の詳細については畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターホームページでご覧いただけます。
2016.11.28
第9回日本運動器疼痛学会で大学院生5名および教員が発表!~健康科学研究科
第9回 日本運動器疼痛学会(東京)で大住倫弘特任助教、今井さん(博士後期課程)、片山さん(博士後期課程)、西勇樹さん(修士課程)、西祐樹さん(修士課程)、私(重藤隼人 修士課程)が発表して参りました。教育研修講演では森岡周教授が「慢性痛の脳内メカニズム」というテーマで、慢性痛の病態を前頭葉・頭頂葉の2点に着目し、研究室のメンバーの研究成果も踏まえてとてもわかりやすく説明していただきました。今回の学会では、特別講演で衆議院議員の野田聖子さんに「一億総活躍のための痛み対策」と題して、我が国における慢性疼痛に対する政治活動についてお話していただきました。講演では野田さん自身の疼痛体験も踏まえながら一億総活躍社会のために日本国民、特に高齢者の痛みを減らして健康寿命の延伸を図っていくことの重要性を述べられていました。日本における政治活動としては慢性疼痛に対する議員連盟が2年前に発足し、慢性疼痛という言葉が「ニッポン一億総活躍プラン」の閣議決定の文章に含まれるところまで活動が進んでおり、法律になるまではまだ時間はかかるものの徐々に政治活動においても慢性疼痛に対する取り組みが進んでいる現状を知りました。講演の最後に野田さんから慢性疼痛の治療・研究に取り組んでいる方々からのエビデンスの強い情報を提供していただきたいというメッセージをいただき、今後の研究活動を通して少しでも貢献したいという思いになりました。 我々の演題名は以下であり、いずれも様々な意見をいただき多くの議論ができたと感じております。 <ポスターセッション> 大住倫弘「運動恐怖が運動実行プロセスを修飾する-運動学的解析を用いて-」 今井亮太「橈骨遠位端骨折術後に腱振動刺激による運動錯覚を惹起させた時の脳活動-脳波を用いた検討-」 西勇樹「疼痛刺激による交感神経活動の時間的変動と内受容感覚との関係について」 <一般演題> 片山脩「感覚-運動の不一致による異常感覚および機能的連関-脳波を用いた検討」 西祐樹「痛み関連回避行動と人格特性の関連性」 重藤隼人「徒手牽引が有する鎮痛効果に関連する因子の検討」 近年は慢性疼痛に対する心理面に着目した講演内容が多い印象がありましたが、今回の学会では整形外科医の方から運動器の疼痛を解剖学や運動学の観点から介入した内容も含まれていたことが印象的でした。解剖学、運動学、神経生理学、心理面や社会的背景など様々な観点から痛みを捉えていく必要性をあらためて感じた学会でした。 研究室の痛み研究メンバーも研究内容は多岐に渡っているので、幅広い観点から研究活動に取り組み、私たちの研究が一人でも多くの方の痛みを解決することにつながり、エビデンスの強い情報を提供できるように、今後も研究室の仲間と協力しながら日々努力していきたいと思います。 畿央大学大学院 健康科学研究科 修士課程 重藤隼人
2016.11.24
大学院生が第40回日本高次脳機能障害学会でポスター発表!~健康科学研究科
平成28年11月11日(金)・12日(土)に長野県松本市のキッセイ文化ホール・松本市総合体育館にて第40回日本高次脳機能障害学会学術集会が開催されました。本学会は高次脳機能障害に関して国内では最も大きな学会であり、医師や作業療法士、言語聴覚士など高次脳機能障害に関わる医療従事者が数多く参加されていました。今学会は「思考のジャンプ」というテーマで行われ、2日間にわたり失行、失認、失語症などに加え、認知症や社会的行動障害など幅広い研究発表がなされていました。また単一症例に関する詳細な症例検討も多く、日々臨床で高次脳機能障害の患者様と向き合っている者として、非常に興味深い知見を得ることができました。 私(藤井 慎太郎 修士課程)は「半側空間無視における反応時間の空間分布特性―注意障害と無視症状の関連性と回復過程における推移の検討―」という演題にて発表させていただきました。この研究は、半側空間無視における注意障害と無視症状の関係性とその回復特性について、タッチパネルPCを用いた選択反応課題にて検討したものであり、現在私が大学院修士課程にて主たる研究内容として実施している内容です。発表には多くの方々にご参加いただくことができ、発表時間以外においても複数の方と討論することができました。また、高次脳機能障害に関して著名な先生方と研究内容について討論させていただき、ご意見をいただけたことは今後研究を続けていく上で貴重な経験となりました。 また今回発表した内容は、半側空間無視に関する研究を実施している5病院による多施設共同研究として実施しており、今学会では共同研究チームにて半側空間無視に対する研究を3演題発表いたしました・日頃からご指導いただいている森岡周教授、河島則天客員教授をはじめ、半側空間無視の研究を実施している共同研究チームの皆様にこの場をお借りして感謝申し上げます。 今後は本研究を国際論文に投稿するなど、より多くの方々へ研究結果を還元していけるように努力していきます。 畿央大学大学院健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室 修士課程2年 藤井 慎太郎
2016.11.22
大学院生が北米神経科学会でポスター発表をしました!~健康科学研究科
2016年11月12日(土)から11月16日(水)に,アメリカのサンディエゴで開催された北米神経科学会(Society for Neuroscience)に参加してきました.サンディエゴは気温が暖かく,湿度は日本と比べて低いので,とても穏やかでした. 本学会は神経科学を専門とする世界各国の研究者が集まる学会です.今回も世界80か国から3万人以上の参加だったようです.学会の雰囲気はとてもカジュアルで,至るところでディスカッションが行われていました.ラットなどの動物を専門とした研究が多いですが,脳卒中のテーマになるとリハビリテーションの分野も多く,世界の理学療法士や作業療法士も参加しており,研究,臨床両側面からのディスカッションが行われていました. 私たちは半側空間無視の演題を3つ並べて発表しました.画像提示時の視線分析による評価の考案という内容を私(大松聡子D3)が,タッチパネルを使用した選択反応課題にて注意障害と半側空間無視を分けて病態把握するという内容を河島則天客員教授が,そして実際に症例に対して行った視覚刺激とtDCSを併用した介入経過内容を高村優作(D1)が報告しました. 3演題並べることで,内容も伝わりやすく,病態把握からの介入アプローチまで示すことでより理解されやすかったのではないかと思いました. その他,研究室からは痛み関連では西祐樹(M2)が,片山修(D1),今井亮太(D2)が,そして失行患者の遠心性コピーに関する内容で森岡周教授が発表してきました. 国際学会では海外にいく,英語での発表やディスカッションなど普段経験できないことで,緊張することも多かったですが,多くのディスカッションを行うことで,今後に向けた建設的意見を頂けたこと,また発表の方法など自分自身を振り返る機会にもなり,充実した日々でした. 畿央大学の研究に対する御支援と,森岡教授をはじめとする多くの方々のご指導,ご協力のもとで,このような素晴らしいな経験ができたこと,心より感謝申し上げます.この経験を糧に,より良き研究成果を公のものにできるよう,さらに日々励んでいきたいと思います. 畿央大学大学院健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室 博士後期課程3年 大松聡子 ※ 修士課程をM,博士課程をDと表記しています.
2016.11.02
第21回日本ペインリハビリテーション学会学術大会で大学院生が優秀賞に選出!
平成28年10月29日(土)・30日(日)に、名古屋国際会議場で第21回日本ペインリハビリテーション学会学術大会が開催されました. 本学会は「慢性痛対策におけるリハビリテーション戦略」というテーマで行われ,痛みに対する評価や治療戦略に関する研究報告のみならず,慢性痛によって日本経済に齎されている莫大な不利益や,慢性痛対策の現状,そしてリハビリテーションの観点からの施策の立案,実現への展開といったシンポジウムもありました.そのためには,医師や看護師といった医療従事者の理解,協力を得る必要があり,また,慢性痛のメカニズムの解明や介入研究を行い,発信していく意義を再認識致しました.他にも,理学療法士によるベンチャー企業の設立や産業理学療法に関する講演もしていただき,スポーツ現場や医療施設での理学療法士の役割しか知らなかった私にとっては,理学療法士の新たな可能性を感じずにはいられませんでした. 畿央大学大学院からも多くの方が口述あるいはポスター発表をされ,発表後も意見交換を行う等実のある学会になったのではないかと思います.また,担当教授である森岡周教授は「ニューロリハビリテーションによる中枢神経系の再構築」という内容でシンポジウムを行い,慢性痛患者の神経科学的な特性や症状,それらに対するニューロリハビリテーションを本学本大学院のこれまでの研究も踏まえながら,難解な分野ですが平易簡明な講演をされていました. 私(西 祐樹)も「痛み関連回避行動と人格特性の関連性-Voluntary movement paradigm-」という演題を発表し,この度、優秀賞を受賞いたしました.初めての口述発表でこのような賞をいただけたのは,偏に森岡周教授をはじめ,大住倫弘特任助教,信迫悟志特任助教,本学本大学院の神経リハビリテーション学研究室の皆様に研究指導をしていただいたお陰であり、深く感謝申し上げます.今後は本研究を国際雑誌に投稿し,この場で再度公表させていただければと思います. 畿央大学健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室 西 祐樹
2016.10.12
アジア理学療法学会(ACPT)に参加、発表!~理学療法学科瓜谷ゼミ
平成28年10月6日(木)~10日(月)にかけて、マレーシアのクアラルンプールで開催されたAsian Confederation of Physical Therapy congress 2016(ACPT congress 2016)に瓜谷ゼミ4回生の5名とゼミのOB、大学院生の方とともに参加し、ポスターセッションにて発表を行ってきました。私たちは神戸市のアパレルメーカー、株式会社Value Planningと共同開発した女性用パンツが下肢のバイオメカニクスに与える影響についてのテーマで発表を行いました。 初めての学会で、緊張や不安もありましたが、果敢に他国の方とのコミュニケーションをはかることができ、大変良い経験になりました。機器展示コーナーでは、多くの機器を体験することができ、臨床へ応用できる内容もたくさんありました。 学会以外の時間には、ツインタワーやチャイナタウン、バツー洞窟などマレーシアの観光名所を巡ることができ、現地の人の優しさや、生活に触れることができました。 今回の学会を通して学んだことや、経験、楽しかった思い出を糧に、今後の研究、国家試験を乗り越えていきたいと思います。最後になりましたが、このような貴重な機会をいただいた瓜谷先生ならびに株式会社Value Planning様、ありがとうございました! 理学療法学科4回生 高田はるな 【関連記事】 卒業研究で女性向けパンツを共同開発!~理学療法学科 瓜谷ゼミ 理学療法学科教員が衣料品メーカーと商品開発の共同研究!
2016.10.04
ニューロリハビリテーションセミナー機能編Bを開催しました。
10月1日(土)・2日(日)にニューロリハビリテーションセミナー機能編Bが畿央大学にて開催されました。多くの方々に参加して頂き感謝致します。 1日目は「共感」「ワーキングメモリ」「道具操作」「歩行」がテーマとして挙げられました。 松尾篤先生による「共感の神経機構」では、共感の概念や構成要素を説明して頂き、ヒトが見つめ合うだけで体動が同期することなどの興味深い研究論文もご紹介して頂きました。 冷水誠先生による「ワーキングメモリの神経機構」では、ワーキングメモリの機能の1つである「衝動を抑える機能」を中心に非常に面白可笑しく解説して頂きました。 信迫悟志先生による「道具操作の神経機構」では、道具操作におけるオンライン制御・オフライン制御・系列化・技術的推論などの神経基盤をそれぞれ丁寧にご説明頂きました。 岡田洋平先生による「歩行の神経機構」では、自動的な歩行に関する神経機構、あるいは大脳皮質が歩行制御に関与しているエビデンスを網羅的に概説して頂きました。喋りかけられると立ち止まる高齢者は転倒しやすいという知見はとても興味深かったです。 1日目夕方のナイトセミナーには畿央大学ニューロリハ研究センター客員教授の樋口貴広先生(首都大学東京人間健康科学研究科 教授)にご登壇して頂き、「注意と歩行」というテーマでご講演頂きました!受講されている方々へのご配慮から動画などを多用して分かりやすくご解説して頂きました。ヒトの注意機能は様々なバイアスの影響を受けることについては臨床現場でも気を付けなければならない事項として大変勉強になりました。有難うございました! 2日目は「ボディイメージ」「運動イメージ」「痛み」「社会性」についての講義でした。 私(大住倫弘)からは「ボディイメージの神経機構」というテーマで、主に頭頂葉、島皮質の機能を中心に解説させて頂き、我々の身体のイメージがどのように形成されるのかを解説しました。 森岡先生による「運動イメージの神経機構」では、運動イメージに関わるニューラルネットワークの解説に始まり、運動イメージの評価法や様々な介入方法,そして多様な疾患における運動イメージの変容について紹介して頂きました。 前岡先生による「痛みの神経機構」では、痛みの多面的な側面、各側面に対応するニューラルネットワーク、評価法、ニューロリハビリテーション介入の成果とエビデンスについて紹介して頂きました。 松尾先生による「社会性の神経機構」では、デフォルトモード・ネットワークの社会性における役割、社会性の基盤である言語・非言語コミュニケーション、ジェスチャー、表情、視線、同調…、そして社会性の発達、文化、道徳観、利他行動など充実のラインナップになっていました。 2日間で多くの情報がご提供できたと思います。時間的制約の関係で講義スピードがやや速かったとは思いますが、配布資料だけでなく原著論文や教材にも手を伸ばして頂ければと思います。2日間どうも有難うございました。 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 特任助教 大住倫弘
2016.10.03
大学院生が16th World Congress on Pain (IASP)で発表しました。
平成28年9月26日(月)から30日(金)にかけて、横浜のパシフィコ横浜で開催された国際疼痛学会The International Association for the Study of Pain®(IASP)のThe 16th World Congress on Pain®に、健康科学研究科の森岡周教授と同研究室に所属するM1田中創,M2西勇樹,西祐樹,重藤隼人,D1片山脩,D2今井亮太,D4佐藤剛介,修了生の田中陽一,安田夏盛,畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの大住倫弘特任助教で参加しポスターセッションにて研究成果の発表を行ってきました。我々の研究グループからは10演題の発表を行いました。 IASPは、疼痛分野における最大規模の学際組織で疼痛分野の研究、臨床治療、教育を行なう世界的な学会です。今回は、世界中から5,000名以上の疼痛専門家が横浜に集まり、実験科学から臨床診断、管理、予防など疼痛のあらゆる分野の最新情報の講演や発表が行われました。学術プログラムではプレナリーセッションのほかに、テーマ別ワークショップとシンポジウム、リフレッシャーコース、ポスターセッションなどが行なわれ、基礎科学から臨床治療まで急性・慢性疼痛について様々な講演や発表が行われました。 ポスターセッションでは60分間の質疑応答の時間が設けられており、我々の発表に対しても多くの方々に興味を示して頂くことができ、質問や今後の研究に繋がる様々な建設的なご意見を頂きました。 私の発表の時間には、修士論文でも引用させて頂いた論文の著者であり、私の行っている研究方法を発案した研究者本人に来て頂くことができました。尊敬する研究者を目の前にこれまで行ってきた自身の研究成果を説明することができました。こうした経験ができることが国際学会に参加することの大きな意義だと身を持って感じることができました。 2日目の夜は研究室で懇親会を開催し、社会人院生が多く日頃ゆっくり話すことができない院生同士で研究や臨床での問題意識の共有などを図ることができました。 今回の学会を通して学んだことを今後の研究活動につなげていきたいと思います。 最後になりましたが、このような貴重な機会を頂いた森岡周教授と畿央大学に参加させて頂いた研究室一同感謝申し上げます。 畿央大学大学院健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室 博士後期課程1年 片山脩 ※修士課程をM、博士後期課程をDと表記しています。
2016.08.15
大学院生の研究結果がNeuroreport誌に掲載されました!
安定している外部対象物(例:壁など)に軽く触れると、立位姿勢が安定化する「ライトタッチ効果」と呼ばれる現象があります。 畿央大学大学院健康科学研究科(理学療法学科4期生)の石垣智也らは、経頭蓋直流電気刺激(transcranial Direct Current Stimulation:tDCS)を用いて左後部頭頂皮質の神経活動を抑制すると、右示指の接触により得られていたライトタッチ効果が減弱することを明らかとしました。これは、接触による立位姿勢の安定化を脳活動の側面から説明する基礎的知見になるものと期待されます。 この研究成果は、Neuroreport誌(Cathodal transcranial direct current stimulation of the posterior parietal cortex reduces steady-state postural stability during the effect of light touch)に掲載されています。 研究概要 不安定な環境下(暗所,狭い床面,高所など)において、軽く壁や手すりに軽く触れるだけで立位姿勢が安定化することは日常生活でも経験されます。このように、力学的作用に依らない程度の力の接触によって、立位姿勢の安定化が得られることをライトタッチ効果といいます。ライトタッチ効果は、リハビリテーションの場面においても杖の使用や手すりへの軽い接触、または、理学療法士が軽い身体的接触により患者の動作介助を行う際などにも用いられます。このライトタッチ効果は、感覚入力から自動的に生じる受動的な要素と、接触点に対して意識的に定位する能動的な要素によって構成されると考えられており、本研究では後者の能動的なものに焦点を当てて行われています。 石垣らは先行研究で能動的なライトタッチ効果に関係する脳活動についての検討を行っており、左感覚運動皮質領域と左後部頭頂皮質領域の脳活動が右示指の接触により得られるライトタッチ効果と関係することを報告しています。このようにライトタッチ効果と関係する脳活動は示されていますが、あくまでも関係性を示すものでありライトタッチ効果を得るために必要な脳活動、つまり因果関係は明らかになっていませんでした。そこで研究グループは、経頭蓋直流電気刺激(transcranial Direct Current Stimulation:以下,tDCS)という脳活動を修飾することできるニューロモデュレーション技術を用いて、左感覚運動皮質と左後部頭頂皮質の脳活動を一時的に抑制させた際のライトタッチ効果について検討を行いました。その結果、左感覚運動皮質に対する抑制刺激ではライトタッチ効果に影響を及ぼさないものの、左後部頭頂皮質に対する抑制刺激ではライトタッチ効果の一部(側方への安定化効果)が減弱化することが示されました。 本研究のポイント tDCSによるニューロモデュレーション技術によって、ライトタッチ効果に直接的に関係する大脳皮質領域を明らかにした。 研究内容 右示指の接触により得られる能動的なライトタッチ効果は ①左感覚運動皮質領域 ②左後部頭頂皮質領域 の脳活動と関係することが先行研究で示されています。本研究ではtDCSを用いて、これら大脳皮質領域の神経活動を一時的に抑制する手続きを加えることで示される姿勢動揺への影響を検討しました。実験では、左感覚運動皮質を刺激する群と左後部頭頂皮質を刺激する群の二群を設定し、それぞれプラセボ刺激(脳活動に影響を及ぼさない刺激)と抑制刺激を加え、その前後の安静立位条件とライトタッチ条件における姿勢動揺を測定しました。その結果、プラセボ刺激と左感覚運動皮質に対する抑制刺激ではライトタッチ効果(安静立位条件に対するライトタッチ条件の姿勢動揺減少率)に対して影響を及ぼさないものの、左後部頭頂皮質に対する抑制刺激ではライトタッチ効果の一部(左右軸における効果)が減弱することが示されました(図1)。 図1:tDCSがライトタッチ効果に及ぼす影響 プラセボ刺激と左感覚運動皮質に対する抑制刺激ではライトタッチ効果に対して影響を及ぼさないものの、左後部頭頂皮質に対する抑制刺激では左右軸のライトタッチ効果が減弱することを示しています。 ※左右軸・前後軸というのは、重心が動揺した方向を示しています。 ※ライトタッチ効果(%)は負の値ほどその効果が大きいことを意味します。 この研究結果に対して研究グループは、接触に対する能動的注意に基づく姿勢定位のための高次感覚情報処理(感覚統合)が対側の後部頭頂皮質で行われており、tDCSによりこの神経活動を抑制させたためライトタッチ効果の一部が減弱したと考察しています。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、ライトタッチ効果の神経メカニズムを説明する基礎的知見のひとつになるものと期待されます。本研究により、能動的なライトタッチ効果の一部に後部頭頂皮質が関与していることが明らかとなりましたが、受動的なライトタッチ効果の神経メカニズムについては未だ明らかになっておらず、この点に対する更なる研究が望まれます。 また、これまでの研究では物に対するライトタッチ効果に関する研究が数多く行われてきましたが、実際の臨床場面(動作介助など)に近い手続きである「対人ライトタッチ効果(ヒト対ヒトで接触を行う)」と呼ばれる方法に関しても近年研究が行われています。今後は、接触によって二者の姿勢制御が相互作用する場面に関する研究も望まれています。 関連する先行研究 Ishigaki T, Ueta K, Imai R, Morioka S. EEG frequency analysis of cortical brain activities induced by effect of light touch. Exp Brain Res 2016 234(6) 1429-1440. 論文情報 Ishigaki T, Imai R, Morioka S. Cathodal transcranial direct current stimulation of the posterior parietal cortex reduces steady-state postural stability during the effect of light touch. Neuroreport. 2016 Aug 5. [Epub ahead of print] 【問い合わせ先】 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 石垣 智也(イシガキ トモヤ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: p0611006@gmail.com 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2016.08.08
卒業生の研究結果がClinical Rehabilitation誌に掲載されました!
畿央大学大学院健康科学研究科修士課程修了生(理学療法学科3期生)の尾川達也(西大和リハビリテーション病院勤務)氏らは、患者にとって価値のある重要な生活目標を評価し、リハビリテーション目標と関連付けながら治療を進めていく「ライフゴール」という概念を用いることが、入院患者の不安の軽減や治療への参加意欲に効果的であることを明らかにしました。 この研究成果は、Clinical Rehabilitation誌(Short-term effects of goal-setting focusing on the life goal concept on subjective well-being and treatment engagement in subacute inpatients: A quasi-randomized controlled trial)に掲載されています。 なお、本研究テーマである「ゴール設定」に関する研究は、リハビリテーションにとって大変意義があると評価され、Clinical Rehabilitation誌の '30th Anniversary Issue'に掲載されています。 ■研究概要 ライフゴール概念は病気の後遺症などによって変化した環境へ適応していくために、患者が重要としている生活目標を評価して、それをリハビリテーションに取り入れるものであり、心理機能や動機づけへの効果が期待されています。しかし、リハビリテーションで実施している目標設定にライフゴール概念を追加した効果は検討されていませんでした。そこで、研究グループは通常のリハビリテーションに目標設定介入を追加しないControl1群、目標設定介入を追加したControl2群、ライフゴール概念に焦点を当てた目標設定介入を追加したLife Goal群の3群を設定し、ライフゴール概念の短期的な効果を調べました。その結果、ライフゴール概念を追加することで不安や治療への参加意欲により効果のあることを明らかにしました。 ■本研究のポイント ライフゴール概念を取り入れた目標設定を実施することで、通常の目標設定よりも治療への参加意欲に効果があった。 ■研究内容 今回、リハビリテーションで実施する目標設定にライフゴール概念を追加した効果を検討するために、以下の3群を設定しました。 【図1 本研究で設定した3群】 目標設定介入: Goal Attainment Scalingを使用し週1回のフィードバックを実施 ライフゴール概念: 患者のライフゴールを評価しリハビリテーション目標との関連付けを実施 4週間の介入の結果、心理面(不安)に関しては、目標設定介入を追加したControl2群とLife Goal群で不安の軽減が認められましたが、Life Goal群の方がより効果量が大きい結果となりました。一方、治療への参加意欲に関してはLife Goal群が他の2群と比較してより高値を示しており、リハビリテーションの目標設定にライフゴール概念を追加することで治療への参加意欲により効果があることを明らかにしました。 【図2 各群の不安と治療への参加意欲の変化】 HADS: Hospital Anxiety and Depression Scale; PRPS: Pittsburgh Rehabilitation Participation Scale **: P<0.01, *: P<0.05 ■本研究の臨床的意義 今回の結果は、リハビリテーションにおけるライフゴール概念の有効性を示す知見のひとつになるものとして期待されます。今後はより長期的な介入効果を明らかにすることが望まれます。
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