2024.04.10 

タイ ドンデーン村での教育調査レポートvol.3~タイ農村部の教育的課題って?

現代教育学科 講師の岡田 良平先生が、2月16日から3月8日にかけて、タイ東北部に位置するコンケン県ムアン郡ドンハン区にあるドンデーン(Don Daeng)村にて農村部における教育についての調査や、コンケン大学でのインターナショナルワークショップなどに参加しました。ブログ第一弾ではドンデーン村の様子、第二弾ではコンケン大学でのワークショップ、そして今回はドンデーン村の学校を調査する中でわかった教育的課題についてです!

ドンデーン村の学校では、幼稚園(3年)、小学校(6年)、中学校(3年)の9年の教育を受けることができます。さて、今回の調査で約20年ぶりに村の学校を調査し、授業の様子も含めてゆっくり見て回ることができました。今回はタイの農村社会の学校の様子をお伝えします。

 

 

まず、最初に子どもたちの笑顔と人懐っこさには心底、感動を覚えます。特にドンデーン村は60年の研究史のおかげもあって、日本人にとても好意的です。特に子どもたちは、「どこに行くの」、「日本語でこれは何ていうの」といつも聞いてきてくれますし、「給食を一緒に食べよう」と誘ってくれます。それは20年前に「オーカダー」と呼ばれ、炎天下の中、汗びっしょりになってサッカーを子どもたちとしていた頃と何も変わりません。

 

しかし、ドンデーン村の学校にも明らかに都市化の波は押し寄せています。自慢だった美しい木造校舎は取り壊され、コンクリート校舎になっていました。当時、薄暗いだけで黒板と机しかなかった教室には、モニターがありwi-fiも通っています。各先生には1人一台のパソコンとプリンターが配備されています。ランチタイムに金銭的な余裕がなく、欠食する子や家に食べに帰る子もなくなり、全員が給食を美味しそうに食べていました。

 

▼伝統的な建築様式のドンデーン村小学校木造校舎(1981年撮影)

 

 

▼1981年のドンデーン村の子どもたち(1981年撮影)

 

 

▼アンケート調査に回答する児童(1983年撮影)

 

 

▼授業の様子(2004年撮影)

 

 

▼美しい伝統的なタイの木造校舎(2004年撮影)

 

 

▼当時の給食は全校児童に行き渡っていませんでした(2004年撮影)

 

 

▼ドンデーン村の学校の新築校舎

 

 

▼現在の給食の様子

 

 

 

そうした学校施設のハードやインフラ面は目に見えて変化していました。しかし、20年前には無かった光景もありました。それはソフト面、いわゆる教育の質的な面です。中学生はみんな授業中にスマホを触っています。しかも、平気でゲームをし、音楽を聴き、動画を見ています。それを先生が注意することもありません。何度もそのような光景を目にし、それは「荒れている」というよりも日常の風景なのでしょう。なぜなら、私がカメラを向けるとスマホを隠し、授業に集中したフリをします。「悪いこと」とはわかっているようです。

 

小学校の教室では子どもがスマホを触っている率は減りますが、それ以上に気になることに気づきました。ほとんどの先生が黒板を書いていないことです。滞在時に複数回、小中学校ともに授業見学に行きましたが、黒板が数日間そのままのものもあれば、書いた形跡がないものもあります。授業参観をしていて、気づいたことは教科書を読むだけ、教科書にあるワークをしているだけという場面がほとんどだったということです。それは、14年間、小学校と中学校で教員をしてきた私にとって、経験値からくる「授業として成立していない」という事実とタイの農村社会の課題を最も突きつけられた瞬間でした。

 

▼スマホで遊びながら授業を受ける子ども

 

 

▼授業として成立していない状況が散見される

 

 

▼モニターの問題を読むだけの授業になっている

 

 

▼机の上にはスマホがあり、授業とは関係ない利用が目立つ

 

 

そして、その光景そのものがドンデーン村の学校の最大の課題でもありました。村の世帯数が増加し、家屋数も大幅に上昇しているのに、児童生徒数が極端に少ないことが明らかになりました。20年前の3分の1にまで減っています。タイでは日本のように学区外への進学に規制を設けていないため、教育にお金をかけられる家庭や村の学校の状況に危機感を感じる家庭は、コンケン市内の学校へ進学しているのです。コンケン市の都市化が拡大し、都市近郊農村に変貌したドンデーン村では、都市部へのアクセスの良さが仇となり、村人からさえも「選ばれない学校」へと舵を切っています。ドンデーン村の学校は「高学歴」「質の高い教育」という「都市化」の最前線に晒され、無惨にもその選択肢から除外されつつあるのです。

 

20年前、村のごく一部の裕福な家庭だけが、コンケン市内の学校に通っていました。しかし、現在では、学校側は校区内に住む就学年齢の子どもがいったい何人、村の学校に通っていないのかさえ把握できていない状況にあります。それほどまでに、「村の学校への進学拒否が一般化」していると言えるでしょう。20年前、私は都市化によって都市部への進学はより強まるだろうと予測しました。それは教育の質そのものがボトムアップされることを前提とした予測でした。しかし、実際には教育の質が二極化され、進学先も都市部と村とに二極化するという結果をもたらしていました。

 

60年前、水野浩一博士(元・京都大学東南アジア研究所 教授)が東北タイの貧村として紹介したドンデーン村は、経済的な豊かさと都市化の波の中で全く違う姿を見せ、子どもたちを翻弄していると言えるでしょう。

 

現代教育学科 講師 岡田良平

 

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