2024.11.08
ハンセン病療養所を訪問し「医療と人権」を学ぶ~看護医療学科「健康学特論」
畿央大学健康科学部看護医療学科では、2015年度より保健師対象科目「健康学特論」において、受講者とともに岡山県瀬戸内市にある国立療養所 長島愛生園に直接赴き、納骨堂に献花し、往時に使用されていた収容施設や監房跡等も見学、そして、現在も入所されている回復者の話に耳を傾けて参りました。今年度は10月26日(土)に44名の学生と2名の教員で訪問しました。
国立療養所「長島愛生園」見学
瀬戸内海に浮かぶ島、長島は1988年まで本州との橋がかかっておらず、まるでハンセン病療養所を完全に社会から断絶するようでもありました。写真の1枚目は、架橋されて36年を迎えた邑久長島大橋です。人々はこの橋を「人間回復の橋」と呼んでいます。
▼邑久長島大橋
私たちは到着後、2023年4月に園内に開設した「むつみ交流館」という研修施設にて、長島愛生園歴史館主任学芸員の田村朋久さんからハンセン病と長島愛生園に入所する人々に関するお話を聴きました。
▼ むつみ交流館での講演の様子
昼食後はまず、「長島愛生園」歴史館 を見学しました。
▼ 「長島愛生園」歴史館
こちらの建物は、1930年の開園当初からあった建物で事務本館として長く使用されてきました。現在は歴史館として多くの方々が見学に来ています。
▼ 歴史館で田村主任学芸員の解説を聞いている様子
田村主任学芸員の解説の後、歴史館を自由に見て回りました。ちょうど見学の翌日が衆議院議員選挙であったこともあり、今回のブログでは「投票箱」を紹介します。1996年まであった「らい予防法」には、ハンセン病患者が使用・接触した物件の消毒に関する規定がありました。この投票箱には側面に穴があいており、内部の投票用紙を蒸気で消毒したのでした。すでに感染症としてのハンセン病が治癒していても消毒が必要という、「らい予防法」の理不尽さの一端がわかる展示物でした。
▼ 投票箱
その後、園内の見学に移りました。当時の患者専用の収容桟橋、収容後すぐに入れられた回春寮(収容所)、その中の「消毒風呂」、収容所内の病室を見学しました。
▼ 収容桟橋
▼ 回春寮(収容所)
▼ 回春寮内にある消毒風呂
▼収容所内の病室
次に、監房跡を見学しました。
▼ 監房跡
その後、亡くなっても「社会復帰」が叶わなかった方々が眠る納骨堂と、1996年まで続いた旧優生保護法による強制堕胎の胎児を祀る水子地蔵の前でそれぞれ花を捧げ、手を合わせました。
▼ 納骨堂
▼ 水子地蔵
最後に、田村主任学芸員から総括的なお話を聴き、長島愛生園を後にしました。
注:ハンセン病を理由とする断種・堕胎手術は、旧優生保護法施行以前にも、法的根拠がなく行われていました。
長島愛生園を訪問した学生の感想( 抜粋 )
● 私は長島愛生園を訪問したことで、学芸員の方やハンセン病元患者の方からの話を聴くことができ、授業では知ることができなかったハンセン病元患者の苦悩やその人たちの生活について知ることができた。そして、ハンセン病やほかの障がいについても正しい知識を持ち、正しく理解することが偏見をもたなくするうえで、大切だということがわかった。
● 普通に奈良で過ごしているだけでは修学旅行や課外学習で訪れない場所だったので、この授業を通してハンセン病問題について知ることができて本当に良かったです。実際に長島愛生園を訪問して住民が暮らしている場所や資料館、納骨堂を見学し、住民の高齢化とハンセン病問題が風化しかけているということについて実感しました。このような問題は今後一切世界で起きてほしくないのに、国による人権侵害のせいで2世、3世がいないということから広島、長崎のように語り部活動が続けられなくなる。その言葉を聞いて、今私達が語り部の話を聞けて、私達の子どもの世代が聴けないのかもしれないと思うと、2世、3世ではなくても私達がこの問題をしっかりと学んだ世代という立場で後の世代に伝えていかなければならないのだと、改めて私達がこの授業を履修した意義について考えることができました。
● 私は、今回の訪問を通して子供たちの作った詩や作文が印象に残っている。詩や作文には、家族に会いたい、お母さんに会いたいという気持ちを表した内容ばかりであった。当時の間違った政策によって、子供たちが家族や友だちと一緒に過ごせる時間を奪われたと考えるとすごく胸が痛くなった。家族と離れてまで強制隔離する必要があったのか、なぜハンセン病を患っただけでこんなにつらい思いをしなければならないのかなど、詩や作文を読んで、たくさんの疑問が浮かび上がったのと同時に、このようなことは二度と起きてはならないと強く感じた。 また、長島愛生園内の学校では、生き延びるためにハンセン病患者であったという事実を隠し、「ウソ」をつくことも必要であると授業で教えられていたということを知った。これを聞いて「ウソ」をつかないと社会で生きていけないほど、世間ではハンセン病患者に対する差別は根強く残っていたのだと感じた。 これから先、同じような差別や差別によって辛い思いをする人が二度と出てこないようにするためにも、今回の訪問や今までの学びを自分だけでなく、周りの人にも伝えていかなければならないと感じた。
● 授業でハンセン病のことについて学んでいたのですが、実際に人間回復の橋を渡り、島や建物をみた時、ハンセン病患者は差別されこの場所で隔離されていたのだと実感しました。歴史館では当時の生活がよくわかり、1番印象に残っているのは、視覚障害を持つ入所者が中心となりハーモニカバンドを結成し、演奏を行うことで他の入所者へ生きる希望を与えていたことです。入所者はとても前向きに強く生きていたと知ることができました。
● 実際に行われていた現場を見て自分が今まで学んできた以上に壮絶な歴史で、でもそこに暮らしている人はすごく穏やかそうなお顔をしているそのギャップに驚きました。長島愛生園に訪れて、自分の物事の考え方の未熟さが明らかになり、考えを改める良い機会になりました。
元ハンセン病家族訴訟原告団副団長を本学にお招きしました。
長島愛生園訪問の翌週11月2日(土)には、元ハンセン病家族訴訟原告団副団長の黄光男(ファン・グァンナム)さんに大学にお越しいただき、貴重なお話を伺うことができました。
▼ 元ハンセン病家族訴訟原告団副団長の黄光男(ファン・グァンナム)さんの講演
黄光男さんは2021年から畿央大学にて講演をいただいています。
ハンセン病は当事者のみならずご家族にも甚大な差別があり、黄さんは、ご自身の家族の事例を挙げながら、その差別について切々と語られました。また、ギターを手にされ、ご自身が作詞作曲した「閉じ込められた生命」、「思いよ とどけ」などの弾き語りを披露していただきました。学生たちはその歌、その思いに聴き入っていました。
講演会を聞いた学生の感想( 抜粋 )
● 黄光男さんの講義をきき、強制的に長島愛生園に連れていかれただけでなく、家中を消毒され家にもう住めなくされたことが衝撃的に感じ、より残酷だと感じた。また、ハンセン病に感染したことで、家族を離れ離れにされただけでなく、光男さんがとても幼く1番家族形成が重要である期間に家族といられなくなり、家族と再会し一緒に住み始めたときに、家族と住み始めたはずが、他人と住んでいる気持ちになっていたことに、より残酷で毎日が心から本音を話せる人がいない状態での生活にとても不安に感じていたのだろうと思った。
● 外部講師の方の講演を受け、ハンセン病で苦しい思いをした家族について詳しく知ることができた。また、外部講師の方が歌われた「閉じ込められた生命」の歌が心にしみた。今後、ハンセン病のような問題が起こらないように、私たちはハンセン病問題を後世に伝えるなど、努めていかなければならないと強く感じた。この講義を受けて、ハンセン病問題について詳しく知ることができて本当に良かった。
●「閉じ込められた生命」の歌詞がすごく胸に刺さりました。 「同情ではなく、行動できる勇気をもつ」と聞いて、二度と同じような差別が起きないように、私も今まで学んだハンセン病のことを、1人でも多くの人に伝えていきたいと強く思いました。
社会に残る差別の解消に向けて
この授業の締めくくりでは、学生たちが11の班に分かれ、それぞれ真剣にディスカッションを行い、その成果を発表しました。
受講生たちの感想をお読みいただいたように、本科目の主たる内容である「医療問題と人権」の一端を深く学び、胸に刻むことができました。新型コロナウイルス感染症のパンデミック時においても、感染症を理由とする差別が横行していましたが、私たちはこのようにいまだ社会に残る差別の解消に向けた取り組みにかかわり、人道・人権尊重を主体とした医療従事者養成に寄与していきたいと考えております。
また、来たる11月24日(日)の午後には、近隣の大和高田市総合福祉会館(ゆうゆうセンター)において、「第4回 架け橋交流・講演会 ~ハンセン病問題から学ぶ~」が開かれ、ハンセン病療養所入所者、退所者、ご家族の方々がそれぞれお話をされます。本記事をご覧のみなさまで、ハンセン病問題に関心をもたれた方はぜひご参加いただければ幸いです。
最後に、黄光男さん、田村朋久さん、長島愛生園のみなさまには貴重なお時間をいただきありがとうございました。改めてお礼申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
看護医療学科
教授 文 鐘聲
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