2026年7月15日の記事

2026.07.15

伝統漆喰壁の補修実践ワークショップがスタートしました ― 香芝市穴虫「旧吉田家住宅」の米蔵壁面 ~ 人間環境デザイン学科

畿央大学では、近世まで遡る歴史的な古民家を、所有者の方のご厚意によりお借りすることになりました。民家は奈良県香芝市穴虫に位置する「旧吉田家住宅」になります。この古民家を建築史研究や古民家保存再生デザインを実践的に学ぶ場として、今後広く活用していく予定です。その最初のプロジェクトとして、日本建築に古くから使われてきた漆喰壁をテーマに、旧吉田家住宅の米蔵を対象に、伝統漆喰壁の補修実践ワークショップを開始しました。   本学の前川先生、吉村先生、吉永先生のコーディネートのもと、講師には、薬師寺国宝東塔の修復工事など多くの文化財建造物の修復を手がけてこられた左官職人の宮奥淳司先生、世界各地で漆喰技術を教えられている中村斗茂栄先生をお迎えし、人間環境デザイン学科の3・4回生の学生が参加しました。学生たちは、普段なかなか見ることのできない壁の内部構造や材料の特徴について、宮奥先生の実演や説明を通して学びました。   土壁の構造を観察する 建物の壁は、普段は表面しか見ることができません。しかし、歴史的建造物の保存修理では、壁の内部がどのような材料で、どのような工法によってつくられているのかを把握することがとても大切です。今回は、壁の層構成や下地の状態を観察し、修復方針を考えるための基礎を学びました。   はじめに、崩れていた壁の下に落ちていた土を集め、観察しました。土や砂にまじって、いくつかの塊のようなものも見られます。学生たちは、「これは壁の材料だろうか」と考えながら、じっくりと状態を確認していきました。       続いて、実際の壁に目を向けました。宮奥先生からは、「どのような層があるのか」「それぞれの厚みはどのくらいか」「内部にはどのような材料が使われているのか」と問いかけがあり、学生たちは壁の状態を一つひとつ丁寧に観察しました。本学教員からも「白壁の中にある毛のようなものは何ですか」と質問がありました。まだ、どのような視点で疑問を持てばよいのか戸惑う学生に対し、宮奥先生は「しっかり観察すること、疑問を持つこと、記録することが大切です。こうして観察した記録は、後に保存修理技師や専門家と修復方針を検討する際の大切な資料になります」と話されました。学生たちは、観察した内容をメモや図として記録し、層の状態や材料の特徴を整理していきました。   小舞が支える土壁のしくみ 壁の内部には、竹を縦横に組んだ「竹小舞」が確認できました。竹小舞は、土を塗り付けるための下地となるもので、伝統的な土壁工法に欠かせない存在です。竹を格子状に組むことで、塗られた土が竹のすき間に入り込み、壁として一体化していきます。   今回の調査では、縦方向が外部側、横方向が内部側となるように竹が編まれている様子を確認しました。また、横方向の竹が落ちている部分や、竹がたわんでいる箇所も見られました。宮奥先生から「なぜ竹はたわんでしまったと思う?」と質問が飛びます。「建物の重みに耐えられなかったんだろう…」学生たちは観察→疑問→記録を続けていきます。こうした変形は、建物の重さや不等沈下など、長い年月の中で建物に加わってきた力を読み解く手がかりになります。       修復方針を考えるために必要な視点 壁の層を確認した結果、表面に近い一層目、二層目は劣化が進んでいる一方で、三層目以降は再利用できる可能性があることが分かりました。このように、現状を正確に把握したうえで、どこを残し、どこを補修し、どこを取り替えるのかを判断し工事方針をまとめていくと、宮奥先生からご説明がありました。壁切り調査を行わなければ、内部の状態や使われている材料、工法の特徴は分かりません。   また、建物の土台となる地覆石と接しておいた方がよいか、竹の向きをどのようにしておくかなど、確認しておくべきポイントについて、宮奥先生が説明されました。竹は、皮の表側を外に向けることで水に触れる時間を遅らせる工夫があるとされ、材料の扱い方にも伝統的な知恵が反映されています。         下地修復 次に本日のメインの作業である、土壁の下地である竹小舞の修復を行いました。柱間の間渡しをまず復旧し、そこに縦材を麻縄で固定していきます。さらに横材を細かい間隔で、縦材に麻縄で固定し、細かな格子状の下地をつくります。       土づくり 最後に次回の荒壁用の土づくりを行いました。まず土に混ざるスサをつくります。スサを土に入れることでひび割れを防止し、強度を高めます。スサは稲藁を押し切りによって刻んでいきます。荒壁のスサは大きめで、長さ10cmくらいです。次にスサを土に混ぜ込んでいきます。最初は鍬でざっくりと混ぜ合わせ、その後土の上にシートを被せ、足で踏み込んで完全に土とスサ混ぜ込んでいきます。こうしてできた土を1~2週間ほど寝かせることで、スサの腐敗と発酵を進め、土の粘性を高めていきます。         未来へ残すために 今回の壁切り調査を通して、文化財建造物の保存修理は、単に古くなった部分を直す作業ではないことを学びました。壁の中に残された材料や工法、変形の跡を丁寧に読み取り、建物が歩んできた時間を尊重しながら、これからも使い続けられる状態へ整えていくことが求められます。   古いものをいかに長く次の世代へ残していくか。その問いに向き合うことは、地域の歴史や文化を未来へつなぐことでもあります。今回のワークショップは、保存修理の専門性と、建築を学ぶことの奥深さを実感する貴重な機会となりそうです。     関連記事 6大学建築合同ゼミ合宿2025が三重県で開催されました!~人間環境デザイン学科 前川ゼミ・吉永ゼミ 【新刊紹介】本学教員が「韓国建築史」について分担執筆!~人間環境デザイン学科前川准教授 京都府主催「第9回Woodyコンテスト」で3回生が「佳作」に!~人間環境デザイン学科 第5回近畿学生住宅大賞で2回生が「企業賞」に!~ 人間環境デザイン学科 築56年の住宅地建替えコンペで「審査員特別賞」に!~人間環境デザイン学科 吉永ゼミ 台湾2大学との国際合同設計演習!「2026年国際木造建築設計プログラム」1日目~人間環境デザイン学科 「プロジェクトゼミA・B成果発表会」を開催しました~人間環境デザイン学科 「小さな建築をつくる」プロジェクトゼミ~人間環境デザイン学科吉永ゼミ 「屋根のある建築作品コンテスト2025」で本学教員が住宅部門「優秀賞」を受賞!~ 人間環境デザイン学科 卒業研究作品展を開催しました ~ 人間環境デザイン学科 2026年度 新入学生研修 学科別レポート ~ 人間環境デザイン学科 人間環境デザイン学科 海外インターンシップ2026 vol.7~かけがえのない思い出を胸に ~ 【プロジェクトゼミ 】奈良県立桜井高等学校の歴史的建築物を実測調査 ~ 人間環境デザイン学科 前川ゼミ|