2026.07.22 

在外研究員レポート~オルレアン大学における特別講義と学術交流

理学療法学科の森岡 周です。現在、研究活動のためフランスに滞在しています。2026年7月9日(木)、フランスのオルレアン大学を訪問し、理学療法教育・リハビリテーション研究に携わる教員・研究者・大学院生を対象に特別講義を行いました。

 

オルレアン大学キネジテラピー[1]大学校(EUK-CVL)校長のAnnabelle Couillandre先生とは、約10年前に森岡研究室を訪問されたことをきっかけに交流が始まり、その後も学会などを通じて関係を育んできました。2019年にはパリで再会し、今回の訪問は、こうした長年の交流を新たな教育・研究連携へと発展させる機会となりました。

 

講義のテーマは、「畿央大学におけるニューロリハビリテーション研究―臨床的問題、身体経験、そして日仏共同研究プロジェクト」です。はじめに、理学療法士、教育者、研究者としての歩みを紹介した後、畿央大学理学療法学科、大学院、森岡周研究室、ニューロリハビリテーション研究センターにおける教育・研究活動について説明しました。

 

[1] フランス語で理学療法。kinésithérapie(キネジテラピー)

  • 理学療法:la kinésithérapie
  • 理学療法士:un masseur-kinésithérapeute / une masseuse-kinésithérapeute
  • 略称:un kiné / une kiné

臨床の問いから始まるニューロリハビリテーション研究

講義で中心に据えたのは、臨床で生じる問いを科学的に検証し、得られた知見を臨床実践と教育へ還元するという研究姿勢です。

具体的には、脳卒中後の半側空間無視、疼痛、歩行障害、上肢機能、高次脳機能障害、身体性に関する研究を紹介しました。同じ診断名や類似した症状を示す患者であっても、その背景にある原因や回復過程は一様ではありません。そこで、患者をサブタイプに分類し、一人ひとりに適した評価や介入へつなげる研究を進めています。

例えば、半側空間無視については複数の注意機能に基づく分類、脳卒中後疼痛については痛みの質に基づく分類を紹介しました。また、歩行障害については、運動麻痺や感覚障害だけでなく、自己効力感や転倒への不安などが歩行に及ぼす影響について説明しました。

さらに、運動機能や脳機能を定量的に測定するだけでなく、患者が自分の身体をどのように感じ、回復をどのように経験しているのかを理解することの重要性についてもお話ししました。身体所有感や行為主体感、「身体が重い」「思いどおりに動かない」といった身体経験、そして過去・現在・未来を結ぶ「物語的自己」を、リハビリテーションにおける重要な研究対象として捉えています。

日仏共同研究「NARRABODY」

その一環として、JST-CRESTとフランス国立研究機構(ANR)の支援を受けて進めている日仏共同研究、NARRABODYプロジェクトについても紹介しました。

 

このプロジェクトでは、脳卒中後の回復を身体機能の改善だけで捉えるのではなく、身体的自己と人生の物語がともに再構築されていく過程として理解しようとしています。認知神経科学、哲学・現象学、ニューロリハビリテーションの研究者が協働し、脳、身体、行為、自己、生活の関係を統合的に明らかにすることを目指しています。

 

講義の最後には、オルレアン大学との今後の連携に向けて二つの研究・教育構想を提示しました。

一つ目は、日本とフランスにおける神経理学療法教育の比較です。カリキュラムやシラバス、臨床実習、臨床推論、学生評価などを比較し、両国が互いの教育の特徴や強みから学ぶことを目指します。

 

二つ目は、地域で生活する脳卒中経験者を対象とした日仏比較研究です。身体の変化や自己イメージ、家族・社会における役割、復職などに着目し、文化的背景が脳卒中後の生活や自己認識にどのような影響を与えるのかを検討します。

湖畔での交流と今後の展開

講義後は、サッカー・ワールドカップのフランス戦(準々決勝)に伴う市街地の混雑を避け、ロワール川支流の湖畔で教員・研究者の皆さまと交流しました。日仏の理学療法教育、今後の共同研究や学生交流の可能性について意見を交わすとともに、互いの教育・研究環境や文化について、和やかな雰囲気のなかで語り合うことができました。

 

オルレアン大学の教員・研究者の皆さまと、ロワール川支流の湖畔にて

 

▲大学院生 Manel Budoさん(左)と私

 

今後は、10月にオルレアン大学のMatthieu Guemann 准教授を本学ニューロリハビリテーション研究センターへ迎える予定です。さらに、2027年2月からは、同大学大学院生のManel Budoさんを4か月間受け入れ、彼に対する指導や共同研究を行うことを計画しています。

 

今回の訪問は、畿央大学におけるニューロリハビリテーションの教育・研究活動を海外へ発信するとともに、日本とフランスの理学療法教育、臨床実践、研究を結ぶ新たな協働関係を築く貴重な機会となりました。

 

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畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 

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