2025.12.05
2025年度 研修会 「感染症と人権 〜ハンセン病問題から問い直す〜」を開催しました ~ 畿央大学看護実践研究センター
2025年11月29日(土)、本学看護実践研究センター主催の研修会として、
「感染症と人権 〜ハンセン病問題から問い直す〜」をテーマに講演会を開催しました。
今年度は、看護医療学科学生による長島愛生園の訪問報告と、ハンセン病家族訴訟原告団副団長・黄 光男(ファン・グァンナム)先生によるご講演の二部構成で実施し、学生・「架け橋 長島・奈良を結ぶ会」のみなさまをはじめとする多くの参加がありました。
第1部 学生による長島愛生園訪問報告
今回の講演会に先立ち、看護医療学科の学生たちが国立ハンセン病療養所・長島愛生園を訪問しました。訪問を通して得た学びを、以下の5つのテーマに沿って報告しました。
▶ 長島愛生園を訪問した際のブログはこちら

1 )歴史的背景と社会的偏見の理解
ハンセン病をめぐる隔離政策は、1907年「癩予防ニ関スル件」に始まり、1953年「らい予防法」によって強固な隔離政策が続きました。学生たちは、
「社会の無理解と偏見が、法制度の誤りを後押ししてきた歴史」、「無らい県運動によって強められた差別の連鎖」など、資料館での学びをもとに、時代背景と人権侵害の構造を丁寧に説明しました。
特に、家族まで差別の対象となり、偽名で生きざるを得なかった現実や、島と本土の間に橋を架けることすら許されなかった社会状況は、参加者にも強い印象を残しました。
2 )人権と医療倫理の学び
学生たちは、医療倫理の四原則(自律性・無危害・善行・公正)を用いながら、ハンセン病隔離政策で何が踏みにじられたのかを自分たちの言葉で考察しました。
「国の方針だから」「社会がそうだから」という思考停止が、医療者までも人権侵害に加担してしまった歴史を振り返り、現代の医療者が持つべき“倫理的勇気と、患者の尊厳を守る姿勢”の重要性を強調しました。
語り部の方の実際の言葉からの、「家族から手紙が届かなかった」「帰ってくるなと言われた」といった証言は、学生たちにとって強烈な学びとなりました。
3 )医療・看護・福祉の視点から
現在、長島愛生園の入所者の平均年齢は約89歳、平均在園年数は62.4年(2024年度)です。高齢化・後遺症・社会的孤立という複合的な課題に対し、医療・看護・介護・栄養・リハビリといった多職種が連携しながら支援を行っていることが紹介されました。
学生たちは、「高齢による身体機能の低下」+「ハンセン病の後遺症」という二重の困難に向き合うケアの実際を見学し、“生活を支える看護” “多職種協働”の重要性について深く学んだと語りました。
4 )社会復帰と地域との共生
らい予防法廃止後も、偏見や差別は根強く残り、帰る場所を失った回復者が少なくありませんでした。しかし、人々は芸術・音楽・教育活動などを通して力強く生き抜き、療養所は「苦しみの場」であると同時に「人々が文化を築いた場所」でもあると学生たちは伝えました。
さらに、地域交流活動、語り部活動、世界遺産登録に向けた取り組みなど、“共生社会に向けた歩み”が現在も続いていることも報告されました。
5 )見学後の振り返り
見学前は、ハンセン病について「昔の病気」「可哀想」という印象を持っていた学生も少なくありませんでした。しかし訪問後は、
- 「差別の歴史を生き抜いた人々への尊敬」
- 「医療者としての人権感覚の必要性」
- 「隔離のない社会を次世代へ伝える使命」
など、認識が大きく変化した様子が語られました。
「無関心は差別を生む」という学生の言葉に、参加者の多くが強く頷いていました。

第2部 講演会「ハンセン病家族の想い」
第2部では、ハンセン病家族訴訟原告団 副団長・黄光男先生を講師にお招きし、ご家族として経験された深い苦悩と、訴訟へ踏み出した経緯、社会の無理解や偏見との闘いについてご講演いただきました。

差別されるのは患者本人だけではなく、家族もまた進学・就職・結婚など人生のあらゆる場面で困難を強いられたこと、家族訴訟で初めて国にその責任が認められたこと、そして「過去の歴史を正しく伝えなければ、偏見は形を変えて再び現れる」という力強いメッセージは、参加者の胸を強く打ちました。
学生たちは、自分たちが学んだハンセン病の歴史と、黄先生の生の声がつながることで“差別の痛み”をより深く実感し、「看護者として社会に何ができるのか」を真剣に考える時間となりました。

まとめ:私たちは差別の歴史を「終わらせる世代」になれるか
今回の研修会は、「感染症と人権」という普遍的なテーマを、ハンセン病という具体的な歴史を通して深く学ぶ貴重な機会となりました。
感染症への恐れが差別を生む構図は、現代の感染症、災害、外国人差別など、あらゆる場面に通じます。学生たちの学びと、黄先生のご講演を通じて、
- 「正しい知識を持つこと」
- 「無関心でいないこと」
- 「人の尊厳を守る勇気を持つこと」
の重要性を改めて確認しました。
これからも人権教育を重視し、学生とともに“差別のない社会づくり”に取り組んでいきます。

看護実践研究センター 地域包括ケア部門
看護医療学科 准教授 前田 則子
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